Re:Build ―スラム転生ハンター、旧領域の亡霊と契る 作:ロシュ
そして投稿が一日遅れ申し訳ないです。
書き終えてから、呪術廻戦の映画見に行ったら、書き終わった戦闘描写に納得いかなくなり、また呪術廻戦ネタをぶち込みたくなったので、書き直し時間が掛かりました。
心の中の禪院直哉に「投稿おっそいやつなんか首くくって死んだらええねん」って言われた気がします。人の心とかないんか?
さて改めて、お気に入り登録、評価、閲覧、感想、誤字報告等感謝です。今後もよろしくお願いします。
今回はカナエVSアキラの話になります。次回はそのあとの話です。土日に投下する予定なのらー。
徒党拠点の広いフロアの一角。
廃材をどかして作った即席の訓練場に、子どもたちと大人たちがぐるりと輪を作っていた。
中央には、向かい合う二人――アキラとカナエ。
どちらも強化服を着用しているが、武器は一切なし。
装備の外装には既に無数の傷が刻まれており、これが“仕事用”の戦闘服であることが嫌でもわかる。
「んじゃ、まずは素手勝負っすね。強化服ONだけで、加速剤なしっす」
カナエが腕をぐるぐる回しながら言う。
「おう。段階的に上げていくぜ。こっちも最初は生身+スーツだけ。
様子見ってことで、手加減は……まぁ、お互い死なない程度にな」
「やだこわいっすねぇ。
でも、ま、アキラ少年なら、死にかけても生き残るっすよね?」
にやり、とカナエが笑う。
その軽さとは裏腹に、構えを取った瞬間、空気が変わった。
重心がすっと落ちる。
指先まで研ぎ澄ませた、プロのハンターの構えだ。
アキラも無言で一歩前に出て、両拳を顎の高さに上げる。
格闘技の正統な型ではないが、前世と今世の我流が混ざり合った“実戦用”の構え。
――その様子を、観客席でシェリルがじっと見つめていた。
---
最初に動いたのはカナエだった。
床を軽く蹴る。
まるで重さを感じさせない跳躍で懐に入り、右のジャブ、左のミドルキックを立て続けに放つ。
「っと――」
アキラは上体をわずかに捻り、腕で受けてから下がる。
受け流しとバックステップが一拍もなく繋がる、無駄のない動き。
「おや? 思ったよりもやるっすね」
「そっちこそ、軽い動作で重い攻撃でさすがだな。足…いや全身くまなくきっちり鍛えてるだろ」
二人の足音が、マットの上で乾いたリズムを刻む。
殴って、弾いて、踏み込んで、退いて――
観客の子どもたちは目を丸くしていた。
徒党での喧嘩とは次元が違う。
互いの攻撃が“当たらない”のだ。
ごつ、と前腕同士が噛み合い、短い組み合いになる。
カナエの膝蹴りを、アキラが腰を落としてブロック、そのまま抱きつくようにして体勢を崩そうとする。
「うぉっ、組み技っすか!そんなの通じないっすよ!!」
体をひねって背後に回り込み、そのまま背中に乗るような形になった。
「なんか習ってたんすか?素人じゃあないっすよね?」
「ピアノと習字を少しだけ習ってたぞ!」
「答える気はないってことっすね!!」
背中からかかる重みごと前に倒れ込む。
だがカナエは猫のように受け身を取り、片手で床を叩いて回転、すぐに距離を取る。
一連の動きは滑らかで、観客の何人かは息を呑んだ。
---
「……つっよ」
ぽつり、と誰かの呟き。
その輪の中で、
シェリルだけは別の意味で息を詰めていた。
アキラが踏み込むたびに――
拳を振るうたびに――
シェリルの胸の奥が、じわじわと熱くなる。
(あぁ……やっぱり、アキラは、こうでなくちゃ)
瞳は爛々と輝き、唇はわずかに開いたまま。
片手で胸元を押さえながら、もう片方の手は無意識に膝の上の布をぎゅっと握っている。
頬は紅潮し、ほんの少し、呼吸も速い。
「……シェリル、顔、やばいわね」
「なんでこの状況で興奮してんだ。こっわ、近づかんとこ」
シェリルがアキラを見て興奮してる姿をアリシアやエリオがそれを見て軽く引いていた。
実際、周囲は一様に引き気味だ。
だが当の本人は、周りの視線など一切目に入っていなかった。
シェリルの恍惚とした眼差しが、ただ一点――戦場の少年だけを追う。
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一方で、やや離れた位置から二人を見ていたシオリは、別の意味で目を細めていた。
(……ここまで強いのですね)
アキラが踏み込むタイミング。
カナエの攻撃に対する“初見”の反応速度。
微細なフェイントに釣られず、視線ではなく腰と肩で動きを読む癖。
どれも、「単なるラッキーボーイ」のものではなかった。
(今までの戦歴もそうですけど……運だけで生き残ってきたのではなく、間違いなく実力で生き延びてきた方ですね。)
アキラの右ストレートを、カナエが首を傾けて避ける。
その直後、カナエのカウンターの膝が脇腹に入る――はずだった。
アキラはほんの一瞬早く、ガードと体重移動を重ねて衝撃を逃がす。
「ぐっ……!」
痛みはある。それでも、崩れない。
一拍おいて、逆に距離を詰め直す。
(“受けてから”対応してるんじゃない。
あらかじめ“来る前提”で体を動かしてる……)
情報処理と予測。
それを支える体の使い方。
シオリは、レイナの護衛兼メイドとして、これまで多くのプロハンターの戦いを見てきた。
カナエ自身もそのひとりだ。そのカナエが楽しそうに笑っている。
「うーん、温いっすよ~アキラ少年。
そんな程度で女の子をリードできると思ってるんすか?」
「あいにくメイド姿でデートに来るシチュには興奮しなくてね!」
「じゃあ私服ならオッケーなんすか!」
「 もちろん!シオリさんよりタイプだぜ!」
軽口を叩き合いながら、衝突のテンポはじわじわと上がっていく。
(……“ギリギリ及第点”どころか。
装備と薬と環境、全部噛み合ったら――)
シオリは内心で評価を一段引き上げた。
(きちんと整えれば、十分“脅威”なり得ます――)
その思考の途中で、アキラがふっと距離を取った。
---
(……そろそろ、次の段階行くか。ギア
息を整えながら、アキラが加速剤を使用する。
カナエの目がきらりと光る。
「お、やっと加速剤を使うんすね。ちょっと飽きてきたところっすよ」
「段階的に上げるって言ってた、ろっ!!」
視界の端で、HUDのインジケータがちらつく。
心拍数上昇。血圧上昇。反応速度予測値+α。
アキラが一歩、前に出た。
その瞬間――
重力の感触が、ほんの少しだけ変わったように見えた。
「……っ!」
シオリの瞳が、わずかに見開かれる。
加速剤は、戦場でこそ意味がある。
だが同時に、後遺症も負荷も無視できない。
(たかが組手でほんとに加速剤を使用するなんて…)
シオリがより警戒度を上げる、加速剤を使うだけで、相性がいいのか攻撃の速度が増しているのだ。
隣でシェリルが、さらにうっとりした声を漏らした。
「……あぁ、やっぱりアキラ、最高……」
その横顔は完全に“惚れた女”のそれで、
周囲はますます距離を取る。
シオリはちらりとシェリルを見やり、内心だけで小さく息を吐いた。
(……彼女は彼女で、厄介ですね。やはりアキラさまをレイナお嬢様に危害を与えないために、何らかの手段を用いて篭絡させようとしても、シェリル様が警戒していますし、ハニートラップは難しそうですね)
だが、今はそれどころではない。
視線を戦場に戻す。
加速剤が効き始めて、まだ三十秒も経っていない。
アキラの世界は、わずかに“細かくなった”。
カナエの肩が揺れる前に腰の沈みが見え、膝が伸び切る前に蹴りの軌道が読める。
――はず、だった。
「っぐ……!」
正面からのワンツーをスリップして、カウンターの右を差し込んだはずが、逆に肋骨側の横へ掌底をねじ込まれる。強化服越しに内臓が揺れ、肺から勝手に息がこぼれた。
(速いのはこっちのはずだろ……!)
体感時間は確かに伸びている。
なのに、噛み合わない。避けるのが一拍遅い。攻めても一段ずつ“外されている”。
「おっと、今のいい踏み込みだったっすよ」
間合いを外しながら、カナエが笑う。頬に汗は浮いているが、呼吸はまだ軽い。
「でも――」
次の瞬間には、もう目の前にいた。
足払いのフェイントから、腰を切り返しての上段蹴り。アキラは腕で受けるが、骨の芯まで響く衝撃で視界が揺れた。
「はい残念。加速剤込みでその程度っすか?アキラ少年」
軽口。だが、その目は完全に“試す側”だ。
(……クソ、まだ抑えてる顔だな)
加速剤のおかげで、余計なとこまでよく見えるのが腹立たしい。
もう一合。今度はアキラが踏み込む。
加速された脚力で一気に懐へ潜り込み、ガードの上からでもボディを打ち抜くつもりで――
「甘いっす」
重心のズレを見抜かれ、カウンター気味の膝が脇腹に刺さる。
視界の端が白く弾けた。
「ぐっ……!」
鈍い痛みが肋骨をなぞる。強化服がなければ折れていた一撃だ。
周囲の子供たちのざわめきが、ひとつ低くなった。
リングの外からシェリルの声。
アキラは息を吐きながら、無理やり口角を上げる。
「……っせー、見てろ……!」
まだ立てる。まだ殴れる。
だが、心のどこかに「このペースじゃ負ける」という実感が積もっていく。
(加速剤ありでこれかよ。やっぱ殴り合い専門のバケモンには、そう簡単に上は取らせてくれねぇか)
焦りが、喉の奥でじわじわ形を持ち始めた。
◇
輪の外で、シオリが小さく息を呑む。
「……ここまでですね」
短くそう判断して、手を上げかけ――
その瞬間、アキラの視線がシオリを射抜いた。
言葉はない。ただ一瞬だけ、「まだだ」と告げる目。
シオリの手が、ほんのわずか止まる。
「……わかりました」
聞こえないくらいの声で呟き、ゆっくりと手を下ろした。
◇
耳の奥で、アルファの声がくぐもって響く。
『心拍数上昇。血圧高値。加速剤の効果でパフォーマンスは上がってるけど――
このままだと、時間かけるほど不利になるわね』
(わかってるよ……そんなのは)
レイナの顔が脳裏をよぎる。
(レイナが、それでもって立ち上がったのに――
ここで俺が“この辺でいいか”って引くのか?)
否だ。
(今までもそうだ。
蜘蛛だろが蛇だろうが、ギリギリのとこで踏み込んだから生きてきた)
アルファに頼るのが怖い。
依存して、どこかで全部持っていかれるんじゃないかって、ずっと怖かった。
だから、自分の限界をわざと低く見積もって、安全圏に引っ込む。
それを「慎重」と呼んで、誤魔化してきた。
(――でも、今回もそれやったら、絶対あとで後悔するだろうな)
喉の奥で、何かを飲み込む音がした。
プライドとか矜持とか、そういうやつだ。
『アルファ』
心の中で、短く呼ぶ。
『なによ。ちゃんと聞いてるわよ』
『三十秒だ』
『……三十秒?』
『三十秒だけでいい。
全力でサポートしてくれ』
一拍おいて、アルファがくすりと笑う気配を送ってくる。
『ようやくちゃんと頼ってくれたわね。うれしいわ。……で、どこまで許容するの? 賞金首相手の時みたいに“ギリ生存ライン”まで? それとも文字通り、アキラの体にかかる負荷は無視しての全力?』
『悪い、曖昧だった。骨折程度の怪我までなら許容できる』
『あら、物騒。でもそういうの、嫌いじゃないわ』
すぐに、トーンの違う声に変わる。
『了解。骨折を上限に、フルサポートモードに移行するわ。
筋出力補正、バランス制御、反射入力の最適化――
さあ、今回はちゃんと頼ってちょうだい、アキラ』
『ああ。今回は、本気で頼る』
自分だけでどうにかしようとする小さな意地を、一度だけ脇に置く。
それで勝てるかは分からない。
だが、出し惜しみして半端なまま終わらせる方がよほど滑稽だ。
(ここで覚悟決められなきゃ、また後悔する)
今回は、手段を選ばない。
反則だろうとチートだろうと、アルファを使う。
◇
ふっと、空気が変わる。
構え自体はほとんど変わっていない。
なのに、重心が一本の線に揃った。足から腰、背骨、肩、拳までが、「撃ち出すためだけの軸」に変わる。
カナエの口元が、ニヤリと吊り上がった。
カナエは反射的に加速剤を使用した。
視界がまた伸びた。
そこに映るのは――さっきまでの、どこかチグハグな動きとは別物。
無駄のない踏み込み。
“先”を奪いに来る軌道。
アキラの拳が一直線に飛び――ぎりぎりで、カナエが首をひねってかわした。
頬を風が掠める。
「っはは……!」
思わず笑いが漏れる。背筋にゾワッと快感が走った。
(あきらかに、さっきまでとは“質”が違うっすねぇ!)
円を描くように振り抜かれたアキラの拳。
つられて飛び出す膝蹴り。
カナエは床を蹴り、弾かれたように後退する。
さっきまでならギリギリで躱せていた軌道が、今は“かすったら骨が折れる”ラインに変わっていた。
(質もキレも速度も一段階――いや、二段階は上がってるっすね……まだ、手札あったわけっすか)
◇
「――さぁ、カナエ」
アキラの声は、さっきより低く静かだった。
「ここからだ。本当に“並び立てるかどうか”はよ」
「さいっこうっすねぇ、アキラ少年」
カナエは歯を見せて笑う。
「最初から、そういうの期待してたんすから――
全力で来いっすよ」
二人の足が、同時に地面を蹴った。
アルファが全力で支えるアキラと、
加速剤と格闘センスで応じるカナエ。
訓練のはずの組手は、この瞬間から“本気の殴り合い”へと加速していった。
◆
アキラの足元で床がきしむ。
真正面から踏み込んだ瞬間、その体がふっと沈み込んだ。
次の刹那、カナエの袖を掴んでいた右手が、そのまま肘を支点に下へと引き、左手が胸元の布をひねり上げるように掴み上げる。
(――前世で体育で、柔道くらいはやってんだよ!!)
腰を切り、肩を軸にカナエの体を乗せる。
一本背負い。
重力が反転したみたいに、カナエの視界がぐるりと回転した。
「っとと――」
床に叩きつけられる、はずだった。
だがカナエは、肩に乗った瞬間、握られている腕に全力で逆方向の力を叩きつける。
強引にアキラの指をこじ開け、空中で体勢を捻ると、そのままアキラの背中から距離を取るように高速で跳ね退いた。
バリィッと衣擦れの音が鳴る。
メイド服の胸元の布が裂け、下に着ている強化インナーが黒く露出した。
「いや〜〜ん」
まったくと言っていいほど羞恥心のない声で言って、カナエは自分の胸元をちらっと見下ろす。
「……いや、“いやん”てレベルじゃねぇ裂け方なんだけど」
アキラが思わずツッコむ。
裂けた布地の隙間から、硬質なインナーの素材と、そこに走る補強ラインが見えた。
「大丈夫っす大丈夫っす、インナー無事だしノーカンノーカン。むしろここまでやってくれてうれしいっすよ?」
ケロッと笑いながら、カナエは再び構えを取り直した。
笑ってはいるが、目だけはさっきよりも鋭く光っている。
「そうか、よ!」
◆
アキラの脳内では、別の計算が走っていた。
(俺は物語の主人公じゃねぇ。都合よく覚醒なんかしない。
じゃあ俺に何があんだ?)
才覚なんてない。
天才でもない。
あるのは、“前世”というちっぽけなアドバンテージだけだ。
(俺はオタクだ。死ぬほど漫画もアニメも見てきた。
――なら、あのシーン、このシーンの動きくらいは、頭ん中でいくらでも再生できる)
できるなら、真似てやればいい。
そのまんまは無理でも、捩じって、組み替えて、“それっぽい”動きくらいは。
足を全力で伸ばし――
それを手で押さえて、デコピンの要領で固定する。
筋肉のテンションを利用し、弾く。
脚ごと、飛ばす。
(“空を裂く蹴り”なんてできるわけない。けど、物理の範囲で似たことくらいはできる!たとえば、嵐脚*1とかな!!)
踏み込みと同時に、強化服のアクチュエータが一気に解放される。
地面が砕け、破片が飛び散る。
カナエが目を細める。
「何の真似っすか……ッ!?」
「俺の好き勝手な“空真似”だよ!」
襲いかかるそれを、カナエは紙一重で弾き、躱し、反撃を差し込んでいく。
アキラは殴りながら、別のイメージも引きずり出す。
(高速戦闘……なら、“投射呪法”*2とかは?……いや、あれは
黒閃*3なんて打てはしない。覇気*4なんてもってのほかだし、よくて波紋*5だろうが、どれも現実には存在しない。
だからこそ、使うのは自分の肉体だけだ。
強化服と、アルファの制御と、“イメージ”で十分だ!!
「フィジカルギフテッドなんざ、持ってねぇけどなぁ!!」
「何言ってるか全然分かんないっすよ!!」
「あーーーそうか?そうだな、そーかもなぁあああああ!!!」
本能のままに殴る。
だが、理性で軌道を組み立てる。
並列思考で“今”と“次の瞬間(コンマ数秒先)”を同時に考え、結果だけを身体に流し込む。
(昔からそうだろ、考えて行動するより、思うがままに行動したほうが上手くいく!!)
いまは銃なんて無粋なモンはない!っぶっちゃけダサいとは思っていないが、今はもちろん抵抗するで、こぶしで!!
ステゴロとは、魂の喝采!!!
「どうしたんすかアキラ少年、自分に酔ってるんすか!」
「こんなクソみてぇな世界で、素面でいられるわけねぇだろ!!
なんだ、カナエはこんな最高の殴り合いの中でも冷めた頭で戦う、
「何言ってんすか、こんな最高に
一瞬言葉を濁し、それからカナエは笑う。
「――そんな時に酔えない奴なんて、この戦いに入る資格ないっすよ!」
「だよなぁ!」
「それに今さら“カナエ”呼び捨てっすか?」
「なんだ嫌か?ガキ相手に呼び捨てにされるのはよ!!」
「まさか!!くそみたいな男に呼ばれるのは死んでも御免っすけど、アキラなら大歓迎っす!」
「最高の女だ! 百点だ!もっと熱を上げてくぞ!!最終ラウンドだ!!」
「どんどん来るっすよぉ!!」
◆
そこからの三十秒は、もはや見物側には“線”でしか見えなかった。
アルファによる補助は、先ほどまでの“危ないところだけ微修正”から、“手足の動きを丸ごと補正する”レベルへと跳ね上がる。
アキラの強化服は、ほぼアルファの拡張肢となって動き続けた。
カナエもまた、全身フル稼働。
強化服の出力限界に指先をひっかけるようなギリギリの制御で受け、流し、殴り返す。
殴撃が、蹴りが、組み付きが、連続して炸裂するたびに、床には新しい亀裂が刻まれていった。
(……まずい。これはもう“組み手”じゃない!)
シオリだけが、その流れを正確に理解し、冷や汗を流していた。
二人の笑顔は、もはや普通のハンターが向けるそれではない。
歯をむき出しにして笑うその顔は、狂気と歓喜が半々で混ざっていた。
限界は、あっけなく訪れる。
カナエの拳が、アキラの左腕をまともに捉えた。
強化服越しに、鈍い音が響く。
ボキリ。
「っ……!」
アキラの左腕が、だらりと下がった。
骨が、綺麗にいった感触が伝わる。
だが彼は、その瞬間、右拳に全出力を叩き込んでいた。
「おらぁッ!!」
カナエの胸元へ、真正面からの渾身のストレート。
強化インナーを貫通することはないが、その上から胸骨を叩く。
メリッ、と嫌な感触が二人の間に走った。
「っ、ぐ……!」
カナエの呼吸が一瞬止まる。
肺に空気が入らず、視界が暗くなりかける。
すぐさま腰の薬を掴んで飲み込み、簡易回復薬を流し込んだ。
ひび割れた胸骨をなだめる程度には効果がある。
だが、その一瞬の隙を、アキラも逃さない。
右腕を振り切った反動をそのまま利用して、次の攻撃へ――と動こうとした瞬間、カナエの手刀がアキラの胸元めがけて襲いかかった。
アルファが強制介入し、強化服の駆動を無理やり捻じ曲げる。
アキラの体は、常人なら即座に意識を飛ばしてもおかしくないほどのGを受けて、それでもなんとか致命傷だけは避けた。
しかし、強化服の胸部装甲には深い裂け目が走る。
「っ……!」
肺のあたりをえぐるような衝撃。
吐き気を無理やり飲み込み、アキラはまだ前に出ようと足に力を込めた。
(ここで止まったら、さっきの覚悟が全部嘘になる)
床を粉砕するように踏み込み、上段回し蹴りへと移ろうとする。
対してカナエは、迎え撃つように拳を握りしめ、その足ごとぶち抜くつもりでカウンターを準備した――
そこで。
「――両者、そこまでです!」
二人の間に、シオリが割り込んだ。
その腕にも負傷した跡。
加速剤と回復薬、そして自前の強化服を総動員して、二人の軌道の間に滑り込み、互いの打撃を受け流したのだ。
シオリの胸が大きく上下していた。
「はぁ……っ、ここまでです。これ以上は、死人が出ます」
その言葉に、二人は同時に動きを止めた。
◆
静寂が、訓練場を満たす。
遅れて、ざわざわと子供たちの声が戻ってきた。
「アキラ、かっこいい……って、あっ、大丈夫アキラ?!」
ずっと惚けていたシェリルがようやく我に返り、左腕をぶら下げ、胸部装甲の裂けたアキラに駆け寄る。
「……ああ、大丈夫……いや、全然痛ぇわ……」
「そりゃそうですよ!」
シオリが呆れたようにため息をつく。
「カナエ、やりすぎです」
「いやぁ〜、ちょっと魔が差したっすね。……それに、想像以上に“できる男”だったんで、興奮してたっす」
肩を竦めて笑うが、その目にはまだ闘志の残り火がくすぶっていた。
なおアキラも、全力で行く前にアルファへ(死ぬ前には強制停止しろ)と伝えていた。
自分で自分にブレーキをかける気はなかったが、他者にだけは預けていたということだ。
いつもの冷静なアキラなら、そんな危ない賭けは滅多にしない。
つまり、今日のアキラは、本気で冷静さを捨てていた。
「いやー、しかしアキラ少年のせいで服がビリビリっすよ。
このメイド服の強化服、けっこう高いんすよ?」
カナエはにっと笑い、破れた強化インナーの胸元を指で下げる。
布地がわずかにずれ――
谷間が、ほんの一瞬だけアキラの視界に入った。
「……っ!?」
「いや~破れちゃったっすねぇ。まぁ見せても別に減るもんじゃないっすけど?」
「ははは、あー強化服のことはすいませんでした」
アキラが空気を換えようと必死に取り繕う。
「いやいいっすよ。ぶっちゃけこれも上からの支給品なんで。
“お嬢様の護衛任務中に破損しましたぁ”って言えば、ちゃんと新しいの支給されるっす」
「そ、それなら……よかった」
アキラは内心、盛大に冷や汗をかいていた。
自分の強化服以上の性能で、かつあのデザインのカスタム品――想像するだけで請求額を見たくない。
「それに、アキラ少年の強化服もボロボロっすよ。骨も折れてるし。
どっちかって言えば、アキラ少年の方が悲惨じゃないっすか? どうします、補填でもしてあげるっすよ? これでもメイド業とハンター業でそこそこ稼いでるんで、よっぽど高いもんじゃなきゃ買ってあげるっす」
「そんな、貢がれ趣味はないんだが?」
「これは“いい戦いくれた”アキラ少年へのお礼っすよ。
あ、もしかして“体でお礼”したほうがいいっすか?」
「は?」
「メイド服の胸元ビリビリに破くし、胸んとこ殴ってくるし、インナー越しでも視線感じてたっすよ? 私は全然いいっすよ? むしろアキラ少年なら大歓迎っす」
にやり、と笑って一歩近づいた、そのときだった。
アキラの前に、すっと影が差し込んだ。
シェリルが、無言で抱きついてきたのだ。
ぐいっと腕を回し、アキラの胸に顔を押し付ける。
その表情は笑っている。だが目だけは、全く笑っていなかった。
「……アキラ?」
「ア、イヤナンデモナイデス」
即答だった。
尻に敷かれているという表現が、これ以上なく似合う光景。
カナエはそれを見て、ケラケラと笑いながら肩をすくめた。
だがカナエはシェリルがいるのを承知で、あえてアキラの耳に口を寄せる。
「……アキラ少年。
――“次も全力でお願いするっす”」
吐息がかかる距離。
「お、おう。次も全力でやるよ*6」
カナエは満足そうに笑う。*7
「……アキラぁ?」
背後に冷気を感じるとそこにはシェリルがいた。
アキラは無意識に背筋を伸ばした。
「し、シェリル、違うぞ!? 今のは――」
「大丈夫ですよ?アキラは、そんな軽い男じゃありませんからねぇ?」
だがそういいつつも、その表情は殺意を孕んだ笑顔だった。
そしてカナエは軽い調子で言った。
「アキラ少年。
強化服の件、うちの伝手で“めっちゃ良い業者”紹介するっす。
場所、後で教えるっすから――そのまま一緒に行くっすか?」
「いや、だから貢がれ趣味はねぇって」
「ふふ♪ まぁ、いいっすけど!」
その背中は妙に軽やかで――
誰が見ても、完全に“企んでいる女のそれ”だった。
ボツシーン
アキラ「上アゲてけよカナエ!俺とオマエ!!最後の殺し合いだ!!!」
カナエ「最高速度でブチ抜いてあげるっすよ!!」
読了感謝です。
相変わらずシェリルの嫉妬とかが重いですが、ただの趣味です。
自分の恋人が、目の前で口説かれてたらそりゃこうなるよなって(n回目)
そして原作以上にカナエとの戦闘シーンを書いた気がしますが、全部映画を見に行った私が悪いんです。マジでカナエとアキラのステゴロ勝負回の前に、ステゴロ満載の呪術廻戦見たらこうなりました。楽しかったです(反省の色なし)
また今回ただの組手なのに、最高にハイになってアキラは骨折と強化服損傷、カナエも胸骨にヒビが入り強化服も強化インナーも損傷してます。バカだよこいつら。
この段階ではカナエもアキラも強化服の性能は低めなんでこうなりました。
余談
あらためてたっぷりさんも含め、ほかの方のリビルド作品みてたら、「あーーーーーそういう解釈か!!すげーーーー!!」となりますね。もともとアタマ空っぽにしてSSを読む読み専だったのもあって、想像力が豊じゃないんですよね。
それに私が書きたいのはオタクみたいな語録と勢いの作品(見切り発車)なので、凝った設定は時間かかるんですよね。元もとこの作品も半年くらい設定を考えてから投稿してるので…
なので他作品を読んでもいくら時間をかけてもこの発想はできないと感じ、ほかの作品を日々リスペクトです。
そしてリビルド作品SS流行れ。
では、書き終わったのでジムに行ってきます。