Re:Build ―スラム転生ハンター、旧領域の亡霊と契る   作:ロシュ

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えーーーー、っとですね。遅れてすみませんでした。
「そろそろ投稿しないとなー」思うだけで行動しておらず、気が付けば最終更新から3か月経ってました。
本当に申し訳ございません。
この三か月でいろいろありましたが、ひとまず無事です。
あとがきにて説明(言い訳)させていただきます。


なんとかこの盆休みには投稿しようと思っていましたが、結局ギリでした。
本文は1万字を超えていませんが、とりあえず投稿します。


改めて、お待ちいただいた読者の皆様に深い感謝と謝罪を。
そしていままでとこれからも、閲覧、評価、感想、誤字報告していただいた皆様に感謝を。


アキねこ

 徒党の名前が決まった。

 

 もちろん、それだけで何かが劇的に変わるわけではない。

 

 

 今日から急に全員が忠誠心に目覚めるわけでもなければ、昨日まで面倒だった連中が突然まともになるわけでもない。看板を掲げた瞬間に資金繰りが楽になるわけでもなく、都市が祝い金を持ってくるわけでもない。

 強いて言えばお役所様もとい都市側に正式名称を通知したり、申請手続きとか諸々の事務的なことが増えた程度である。

 前世の母国のような申請社会でもないため、きっちりとした申請もあまり必要なかったのだが、ほぼ正式に都市との共同経営が決まった以上、それなりの手続きは必要不可欠だった。最もそのような厄介事はほぼすべてヒカルがやってくれてるのでヒカル様様である。

 

 実際アキラやシェリルたちが行うよりはるかにスムーズに事務仕事が速いため、餅は餅屋なのだ。

 

 

 それに会社名をコロコロ変えたところで何もメリットはない。

 ビックなモーターからWeなカーズに社名を変えて、風評を物色したりすることも必要ないのだし。

 そして事業や徒党の新規立ち上げや名前を変えるだけで都市から支援がもらえる──そんな都合の良い出来事が起こるなら、アキラは毎日でも徒党名を変えていた。

 

 それに会社名を変えるよりも、新規事業の立ち上げや会社を新しく作った方が融資が受けやすかったりする印象があるので、やはり名前を変えるだけの選択肢はあまり意味がない。

 

 

 

 だが、それでも名前は必要だ。

 

 名前もない不透明な事業や徒党などに、誰も仕事を振らないし、共同事業に呼ばれもしない。

 そして仕事が来ないなら当然責任を負うこともない。

 

 背負うとすればせいぜいが、社会弱者というレッテルぐらいだろう。

 弱者が背負うのは負債であり、責任ではない。

 責任を取れる組織にしか許されないのだ。

 

 そして責任を負わされる存在には、信用と仕事と面倒事が集まってくる。

 

 その全てが歓迎できるものではないが、利益だけ欲しいと言って利益だけが寄ってくるほど、この世界は親切ではない。それは前世でも同じなのだから。

 

 

 

 

「で、徒党名が決まった記念すべきタイミングでこれか──」

 

 うんざりとした顔のアキラは端末に表示された報告を眺めていた。

 

 場所は拠点の奥にある小さな会議室。

 

 机の上には、遺物売買店の帳簿、限定的に営業を再開した賭博場の収支報告、都市側から渡された治安協力の資料、仮入団者の名簿などが無秩序に並んでいる。

 

 

「名前が決まった祝いに、もう少し明るい報告が欲しかったな。例えば隠し財産が見付かったとか、敵対勢力が揃って改心したとか。置いておいた仕事が勝手に終わってるとか」

 

「それは報告ではなく願望になるわね」

 

 向かい側に座ったシェリルが、呆れたように返した。

 

 

 

 

 徒党の商売は、騒動の後始末を終えて、ようやく回り始めていた。

 

 賭博場は規模を絞りながらも客足を取り戻し、遺物売買店も再開セールと供給再開の告知が少しずつ効いている。

 

 騒動直後としては上出来だと、誰の目にも分かる程度には人と金が動き始めていた。

 

 だからこそ、内部の綻びは早めに潰す必要がある。

 

 

 

 シェリルが端末を操作すると、空中に複数の資料が投影された。

 

「あのティオルが拠点から消えたわ。昨日の夜から所在を確認できていない。私物も、最低限の装備も持ち出されているみたいね」

 

「逃げたのは確定か」

 

「ええ。少なくとも、何も言わずに散歩へ出たわけではないでしょうね」

 

「荒野が寂しくなったのかもしれないな」

 

 アキラの反応は軽かった。

 

 

 驚きよりも、とうとうやったかという呆れの方が強い。

 

「いつかやると思ってました」

 

 アキラが複合音声のような真似をしてふざけている。が、あまりふざけてばかりいられる状況でもなかった。

 

 

「実は伝えたいことはまだあるの」

 

 シェリルが表示を切り替えた。

 

 ティオルが倉庫の監視映像や人員配置の一部を外部へ流していた痕跡。

 

 外部の人間と接触した記録。

 

 削除された通信履歴の断片。

 

 それらが時系列順に並べられていく。

 

「ティオルと関係が深かった者のうち、二人が同じように姿を消している。それとは別に、新しく役職を与えた者の中から、情報を外部へ売っていた者が三人ほど見付かったわ」

 

「思ったより少ないな。この徒党の規模と質だと、もう少し裏切り者が発覚してもおかしくないが……」

 

「多分バレてないだけで他にもいるでしょうね。で話を戻すけど、情報を売っていた者の一人は倉庫と警備の人員配置を。もう一人は賭博場の売上や商品価格情報の一部。残りの一人は、遺物売買店への臨時搬入情報を流していたようね」

 

「情報の買い手や受取人は全員同じ相手だったか?」

 

「そこまでは分からない。使っていた仲介人も中継先も違うわ。少なくとも、全員がグルで動いていた形跡はないわ」

 

「裏切り者同士の関係はなかった。なのに、同じタイミングで全員バレちゃったと」

 

「ええ」

 

 そこが一番不自然だった。

 

 ティオルの逃亡。

 

 関係者二名の失踪。

 

 新参者による情報漏洩の発覚等。

 

 さらに、その証拠の一部は匿名の通信によってシェリルの端末へ送られてきていた。

 

 

 善意のある第三者からの情報提供としてはあまりにも、不自然だ。

 

 

 そこでアキラの視界に、AR通信によりヒカルからの通信依頼が届く。

 アキラはシェリルとアイコンタクトを取り、ヒカルに応答する。

 

『ヒカルよ。今、時間は大丈夫そう? リーク情報の精査が終わったから、それについての連絡なんだけど』

 

「ああ、大丈夫だ問題ない。今ちょうどその話をしてたとこなんだ」

 

 通信の向こうで、ヒカルが複数の資料を確認している。

 

『こちらでも送られてきた情報を照合したわ。ティオルについては、ほぼ黒ね。倉庫襲撃の前後に、外部へ情報を送った記録があるわ。失踪した二人も、少なくとも逃亡を手助けした可能性が高いわね。もしかすると、同じタイミングで逃げた方が都合が良かったから、ティオルを利用しただけという線もあるけれど』

 

「なるほどね。残りの三人は?」

 

『二人は確定よ。一人はまだ疑いが強いという段階だけど、昨日から行方が分かってないわ。都市の監視カメラを勝手に確認する権限はあたしにはないから、追跡できないってところね。まあ、情報を取り扱っていた人間なら、逆に自分が調べられていると気付いて逃げた可能性もあるわ』

 

「そこまで頭が回る奴ならわざわざバレるようなヘマはしないと思いたいが……とにかく、逃げたのが四人。確保できたのが二人か」

 

『ええ』

 

 アキラは椅子の背にもたれた。

 

「まぁスラムの人間に善性とかモラルとかを求める方が酷か」

 

『その善性とかモラルを徒党の人間に求めてるアキラが言う台詞じゃないわね』

 

「性善説と性悪説があるが、俺は性悪説の方が好きだ。ルール守らないヒトデナシは教育すればなんとか善性に傾いてくれたりするからな」

 

『それじゃ、そのルールをそれでも守らなかったヒトデナシをどうするつもりなのか、聞いてもいい?』

 

 ヒカルの声には、わずかな呆れが混ざっていた。

 

 アキラは改めて投影された資料を見る。

 

 発覚した者たちには、共通点らしい共通点はない。

 

 ティオルは感情と執着で動いていた。

 

 人員配置を売った男は、自分を実際以上に大きく見せたがる人間だった。

 

 賭博場の売上や商品価格情報の一部を漏らした者は、単純に金に困っていたらしい。

 

 搬入情報を売った者は、小さな利益を何度も積み重ねていた。

 

 動機も、接触先も、手口も違う。

 

 それらが一斉に明るみに出た。

 ヒトデナシ共の対応も大事だが、この事態が引き起った原因にも対応しなければならない。

 

「ヒトデナシ共はとりあえず手の空いてるヤツらに追わせておこう。んでだが、この情報提供者についてどう思う? 正直きな臭いんだが」

 

 ヒカルが頷いた。

 

『問題は、誰が、何のためにこの情報を送ったのかよ。徒党を助けたい人間なら、もっと早く知らせることもできたはずだわ。わざわざティオルが逃げた直後に、他の裏切り者までまとめて発覚するよう仕向けてるもの』

 

「まぁ善意だけの行動ではないわね」

 

 シェリルが冷たく言った。

 

「こちらを助けるためではなく、こちらがどう処理するかを見るため。あるいは、徒党内を疑心暗鬼にさせるためでしょう」

 

「多分ヴィオラだろ」

 

 アキラが即答した。

 

 シェリルも、ほぼ同時に頷いた。

 

「恐らくヴィオラね。悪趣味で、おもしろがっている感じもするわ」

 

 通信の向こうで、ヒカルだけが一拍遅れた。

 

『ごめん、ヴィオラって誰なの?』

 

 その言葉と同時に、ヒカルは視界の隅で検索窓を開いた。

 

 都市職員らしく、知らない名前を即座に調べ始めたのだろう。*1

 

 アキラは簡潔に説明した。

 

「イカレ性悪放火魔女だ」

 

『説明が簡潔すぎるわ!』

 

「それは悪かった、ちゃんと説明しようか。ヴィオラってヤツは他人の人間関係と組織に火を付けて、燃え方を見て楽しむ女だ。物理的にも火を付ける。炎上してるのを見て悦に浸る正真正銘の狂人だよ。多分ネットで一番生き生きしてるような腐れ女かもしれん」

 

『説明が増えたら、もっと危険な人になったんだけど』

 

「実際危険だぞ。キバヤシぐらいヤバい人間だ」

 

『一応あたしの上司だから、擁護だけはさせてもらっていい?』

 

「ねぇねぇシェリル見て──この子自分の上司が貶されてるのに否定しないよ──ー人の心とかないんか?」

 

『しばくわよ!?』

 

「だったら画面越しじゃなく、スラムに来てから言ってくれ☆」

 

『ほんと腹立つわね、コイツ……』

 

 アキラとヒカルがくだらない漫才を行っている間にも、ヒカルはヴィオラについての情報を検索し集めていた。短時間ではあるが表向きの情報や断片的な記録や噂が表示され、ヒカルの中でのプロファイリングが行われた。

 

 そしてその調べたヴィオラの情報などから、表向きの経歴には都市からの依頼経験が何度もあり、そのどれもが成功という形で実行されており、凄腕のエージェントであることが伺われた。

 だが、その成功に至るまでの手段には、妙に悪趣味なものが多い。

 敵対する組織へ直接攻撃を仕掛けるのではなく、内部へ不信を植え付ける。

 対立している者同士へ、互いが最も誤解しやすい形で情報を流す。

 

 腕は確かである。

 だが、仕事のやり方からにじみ出る人間性は、確実に関わり合いになりたくない類いのものだった。

 

 ヒカルは検索結果を閉じると、露骨に顔を引きつらせた。

 

『……ねぇ、どうして、こんなヤバい人と関わりがあるの?』

 

「俺の魅力に引き寄せられたのかな。向こうから、こうブ──ーンと寄って来たんだ」

 

『人をそんな虫みたいに言わないであげて、流石に可哀想』

 

「虫どころか害虫だろあんなの。それにこの徒党を客観的に見て見ろよ」

 

「傍から見たら潰れかけた徒党を立て直して、賭博場と遺物売買店を再開して、他の連中と揉めて、都市まで話が入っていく。その上、内部には裏切り者までいるんだ。火種もある。薪もある。油まである。しかも、放っておいても勝手に燃え広がりそうなそんな状況だぞ? もう役満だろ、いやほんと怖いな。正直俺でもちょっかいかけたいわ」

 

「まぁつまりだ。ヴィオラから見れば、俺たちは暗闇の中で景気よく燃えてる焚き火みたいなもんなんだろ。なんなら松ぼっくりみたいな優秀な着火剤もセットだ、よく燃えるってね*2*3

 

 アキラは、うんざりしたように息を吐いた。

 

「そりゃ光に釣られて寄ってくる。蛾みたいにブンブン周りを飛びながら、もっと燃えろって火の粉を撒いて、足りなきゃ自分で油まで注ぐ。むしろ勝手に爆弾も投下しそうだな。うんこ爆撃機は帰れください」

 

 さらにアキラがため息をこぼす。

 

「俺たちが順調だからじゃない。問題を抱えながら、それでも何とか前に進んでるからだ。少し突けば派手に燃えそうで、それでも簡単には潰れない。あいつにとっては、そのくらいが一番面白いんだよ。適度に刺激のある見世物なんだろうな」

 

 すぐに壊れるものでは、長く楽しめない。

 

 何をしても揺らがないものでは、火を付ける意味がない。

 

 燃える余地があり、それでいて燃え尽きず、何度でも予想外の反応を返す。

 

 今のアキラとシェリルの徒党は、ヴィオラにとって格好の観察対象なのだろう。

 

『……本当に悪趣味ね』

 

「ああ。あいつなら絶対やる。花京院の魂を賭けてもいい」

 

 

『誰なのよ、それ?』

 

 アキラのボケをシェリルが華麗にスルーし、またもヒカルが置いていかれる。

 

「ただし、ヴィオラが直接これらの裏切りを指示したとは限らないわ。元から存在した裏切り者を見付けて、同じタイミングでこちらに知らせただけかもしれない」

 

『それでも十分悪質だわ』

 

「ああ」

 

 アキラは頷いた。

 

「一人ずつ処理させず、まとめて突き付けた。誰が裏切り者か分からないと思わせて、徒党内で互いを疑わせたいんだろう」

 

 その時、アキラの通信端末に別の通信が入った。

 

 相手はエリオだった。

 

『アキラさん、今いいっすか』

 

「何だ」

 

『ティオルが逃げたって話、もう下の連中にまで広がってます。それだけじゃなくて、新しく役職をもらった奴が情報を売ってたとか、倉庫の中にも裏切り者がいるとか……。誰が流してるのか分かりませんけど、広まるのが妙に早いっす』

 

「……やっぱりな」

 

 アキラは深く息を吐いた。

 

「隠す気がないどころか、最初から噂にするところまで込みか。多分サクラもいるだろ」

 

 シェリルが目を細める。

 

「ええ。徒党内に、ヴィオラの息が掛かった者がいる可能性も高いわね。少なくとも、彼女に情報を渡している者か、彼女の指示で噂を流す者がいるのは確か」

 

『どうします? 全員集めますか?』

 

「いや。今集めたら、余計な憶測も仕事も増える。優秀な噓発見器もないんだし、あぶり出し自体面倒だ」

 

 アキラは少し考えてから答えた。

 

「エリオ、逃げた連中の名前と顔をまとめろ。ティオルを含めて四人。徒党内で指名手配する」

 

『指名手配、っすか』

 

「ああ。見付けても勝手に仕掛けるな。居場所を報告させろ。捕まえられる状況なら生け捕りを優先。抵抗してきた場合は、自分の命を優先していいって周知させてくれ」

 

 エリオが一瞬黙る。

 

『……殺しても構わないってことですか』

 

「抵抗して殺しに来るならな。逃げてるだけなら、無理に殺す必要はない」

 

 アキラ個人としては、ティオルたちが逃げたこと自体には、それほど腹を立てていなかった。

 

 逃げたいなら逃げればいい。

 

 関わりたくないなら、どこか遠くで勝手に生きればいい。

 

 

 

 ただし、組織の情報を売り、損害を与えた上で逃げた者を放置することはできない。

 

 

 アキラが許すかどうかは、既に問題ではなかった。

 

 徒党の代表者が裏切りを黙認した。

 

 裏切って逃げても何もされない。

 

 そう見られれば、外部からも内部からも軽く扱われる。

 

 

 アキラが面倒だという理由で見逃せば、その面倒は、後になって何倍にも膨れ上がる。

 

 

「俺個人としては、もう戻ってこないならそれでいいんだけどな」

 

 アキラが面倒そうに言った。

 

「でも、徒党としてはそうもいかない。裏切って情報を売って逃げた奴を放置したら、次から同じことをする奴が増える。なので、見付けたら捕まえる。誰かに雇われてこちらへ攻撃してきたら潰す。その方針で周知してくれ」

 

『分かりました』

 

「それと、報奨金も出す。大金じゃなくていい。徒党の人間が小遣い欲しさに単独で追い掛ける額にはするな。あくまで情報提供に対する報酬だ」

 

『了解、すぐに取り掛かる!』

 

 エリオとの通信が切れた。

 

 代わりに、ヒカルが難しい顔をして口を開く。

 

『逃げた人間への対応は、それでいいと思うわ。ただ……』

 

「まだ何かあるか?」

 

『今回見付かった者だけで、全てだとは考えない方がいいわ』

 

 その指摘は当然だった。

 

『これだけ同時に発覚したことで、残っている裏切り者は警戒するはずよ。証拠を消す者もいるでしょうし、しばらく活動を止める者もいるでしょうね。ヴィオラという人物が情報を握っているなら、わざと全員分を出していない可能性もあるわ』

 

「小出しにして、こっちがどう動くか楽しむために?」

 

『ええ』

 

「やりそうね」

 

 シェリルの声が少し低くなる。

 

『だから、権限の見直しと監査を進める必要があるわ。特に倉庫、売上、人員配置に触れられる者は──』

 

「ああ、それはやる」

 

 アキラはヒカルの説明を遮らずに聞き、素直に頷いた。

 

「でも、そこまで神経質にならなくてもいいんじゃないか?」

 

『……どういう意味?』

 

「俺とシェリル、それに都市側の監視まで出し抜いて、この徒党を乗っ取れるような奴がいるなら、そいつに運営を任せてもいいんじゃないか?」

 

 会議室が静かになった。

 

 通信の向こうでも、ヒカルが固まっている。

 

 シェリルは何も言わず、アキラを見ていた。

 

『……今、何て言ったの?』

 

「だから、俺たち全員を出し抜けるほど優秀な奴が内部にいるなら、俺が上に居続けるより、そいつに運営させた方が徒党のためになるかもしれないだろ」

 

『何を言ってるのよ!?』

 

 ヒカルの声が裏返った。

 

 普段の落ち着いた態度が綺麗に消えていた。

『自分より組織の扱いが上手い人間に、仕事を任せること自体はおかしくないわ! でも、裏切って組織を奪おうとする人間に、そのまま明け渡すのは全く別の話でしょう!』

 

「そうか?」

 

『そうよ! 帳簿に詳しい者へ金の管理を任せたり、人を扱うのが上手い者へ現場を預けたりするのと、騙して権限を奪った者に従うのは違うわ!』

 

 ヒカルは一度息を吸い、さらに声を強めた。

 

『あなたたちを出し抜けることと、この徒党を正しく運営できることも別よ! 人を騙すのが上手いからといって、資金の管理や人員の配置、都市との交渉まで上手くできるとは限らないでしょう!』

 

「いや、俺はハンターが本業だし。そもそも組織運営の専門家でもないぞ」

 

『知ってるわよ! そういえばそうだったわね! でもだからって、自分の徒党を拾った石みたいに譲ろうとしないでちょうだい!』

 

「拾った石よりは大事にしてるぞ」

 

『揚げ足を取らない!』

 

 ヒカルが本気で怒っている。

 

 アキラは助けを求めるようにシェリルを見た。

 

 しかし、シェリルは静かな笑みを浮かべたまま告げた。

 

「ヒカルの言うとおりよ」

 

「シェリルまで?」

 

「ええ。アキラが要らないと言っても、私は渡さないわ。アキラから奪おうとする者がいるなら、その前に私が潰す」

 

「……俺が言うのも何だけど、もう少し穏当な選択肢はないのか?」

 

「ないわね」

 

 即答だった。

 

 ヒカルも通信越しに深く頷いている。

 

『全くないわ』

 

「息ぴったりだな、お前ら」

 

『アキラが無責任なことを言うからよ!』

 

 アキラは椅子の背にもたれたまま、少しだけ天井を仰いだ。

 

「分かった。悪かった。徒党は明け渡さない。裏切り者にも警戒する。監査も権限整理もする。それでいいか?」

 

『最初からそうしてよ』

 

 ヒカルが疲れた声を出す。

 

 アキラとしては、半分ほど冗談のつもりだった。

 

 

 残りの半分は本気だった。

 

 

 

 

 組織の頂点に立つ者が、必ずしも一番優秀な経営者である必要はない。

 

 自分より適任の人間がいるなら、権限を渡し、仕事を任せる。前世でも、大きな会社では創業者や所有者とは別の人間が経営を担うことがあった。いわゆるCEOという存在だ。

 

 だから、徒党の繁栄を優先するなら、自分より優れた人間に運営を任せること自体は、決しておかしな考えではないはずだ。 

 

 実際アキラは事務仕事などを自身より事務能力のあるヒカルに仕事を回している。

 

 

 

 

 ただし、それは自分たちが選び、監督し、必要なら解任できる相手に限る。

 

 仲間を欺き、組織を内側から奪おうとする者にまで経営権を譲る必要はない。

 

 

 どうやらアキラは、能力のある者に運営を任せるという考えと、能力のある簒奪者に組織を明け渡すという考えを、少し雑に一緒にしていたらしい。

 

 前世でも、そのような説明不足の発言をして、上司や同僚から同じような顔をされていた気がした。

 

 

 その思考の根底には、いまだ根深い前世の自分への劣等感や、自分より能力の高い優秀なものに従うべきという価値観がこびりついていた。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 アキラは姿勢を戻し、改めて資料を見た。

 

「逃亡者は徒党内で指名手配。残っている連中は権限と担当を見直す。噂を流している奴も探す。ただし、全員を疑って徒党の仕事を止めるようなことはしない」

 

「ええ」

 

「ヴィオラについては?」

 

 シェリルに問われ、アキラは少し考えた。

 

「今は放置」

 

『放置するの?』

 

「証拠がない。問い詰めても笑って誤魔化す。下手に反応すると、喜ぶだけだ」

 

「同感ね」

 

 シェリルも頷く。

 

「こちらが疑心暗鬼になって動けなくなることが、彼女の狙いでしょう。なら、粛々と処理して、予定どおり商売を続けるのが一番よ」

 

「そういうこと」

 

 アキラは資料を閉じた。

 

 部屋の外から、誰かが荷物を運ぶ音が聞こえる。

 

 エリオが人員へ指示を出す声。

 

 賭博場の再開準備を進める者たちの声。

 

 遺物売買店へ届いた品を検品する音。

 

 新しい名前を得た徒党が、まだぎこちないながらも動き始めている。

 

 裏切り者が出た。

 

 逃亡者も出た。

 

 恐らく、まだ内部には何人か残っている。

 

 それでも、全てを止めるわけにはいかない。

 

「面倒だな──いろいろと」

 

 アキラは本心から呟いた。

 

「でもまあ、仕方ないか」

 

 名前を付けた以上、その名前が舐められたままなのは都合が悪い。

 

 自分がどう思うかとは関係なく。

 

 徒党の代表として、必要なことはしなければならない。

 

 その程度には、アキラも自分の立場を理解していた。

 

 

 

『本当に理解してるの?』

 

 ヒカルが疑わしそうに問い掛ける。

 

「え、あ、うん。してるヨ」

 

『今の間は何よ』

 

「気のせいだ」

 

『アキラ?』

 ヒカルが真剣な顔でアキラを見つめ、アキラもその意図を理解する。

 

「分かったって。ちゃんとやるよ」

 アキラはふざけることなく返事を返す。

 その返答には諦めも見えたためか、シェリルが小さく笑った。

 

「ええ。期待しているわ、首領(ボス)?」

 

「その呼び方、やっぱりやめない?」

 

「駄目よ」

 

 アキラは再び天井を仰いだ。

 

 徒党に名前が付いた。

 

 責任者の立場も、どうやら正式に逃げられなくなったらしい。

 

 

 通信越しのヒカルは、急に始まった甘い空気に引いていた。

 

『……えっと、その、話を戻してもいいですか』

 

 

 引きつったその声が、妙に面白い。

 

 

 アルファはいつもの笑みを浮かべていた。

 

 だが、その笑みの裏に何を隠しているのかは、誰にも分からないままだった。

 

 

 

 

 

 

*1
わからないことはすぐ調べる社会人としての常識

*2
コンニチワ

*3
ゆるキャン△ 松ぼっくり マッチ1本で火が付く。実際やってみましたが、湿ってて結局固形着火剤とハンディファンで火起こししました。




相変わらず話が進んでいなくてすいません。

いまのところ、徒党命名後のシーン、ツバキハラへ行くまでのシーン、ツバキとの接触のシーン、そのあとのごたごた。
その他書きたいシーンや場面が3~6シーン程、採用するか悩んでる他数シーンやお色気シーン、某前契約者との接触などの簡単な下書きは終わってるんです。
それらの下書きだけで6万字以上あり、肉付けや細かい描写や口調、オタクの口調やミームなどを書き足す作業が残ってるんです・・・終わらねぇ!!
 

なんならティオル戦の細かい描写と、その時のツバキのシーンとか、カツヤたちとの接触やシーンもまだ下書きの下書き状態ですし、プロットは頭にあるけど、その先がまだ書けてないんですよね。

 

正直ティオルくん原作と違って、ヤツバヤシクリニックでTウィルス撃たれて、適応せずにこの世からさよならコースにして、ティオル編カットしようかなとも考えたり…。
ただティオル編削っても他に書きたいシーンがあるから、結局その倍は書くんですよね。

例えば偽アキラ編で偽アキラがどう取り繕っても本物アキラみたいなわけのわからない言動やネットミームを言わないから秒で偽者だとバレるシーンとかも書きたいんですよね。
ただアキラと親しくない人は偽アキラと本物アキラの区別がつかないから結局アキラが逃走中する羽目になりそうですけど。

 

誰か「アキラはそんなまともな事言わない。」
誰か「本物のアキラならここでふざけるわ」
偽物アキラ(´・ω・`)
本物アキラ(´・ω・`)



ところで、いつもPCで書いてて、自分なりにPCで読みやすいようにしていますが、スマホで見ると読みづらかったりするんですよね。主に改行とか段落とか。

どうやったらいい感じになるんでしょうかね()

 





ここからは言い訳や、更新が止まっていた3か月の話です。
本作とは一切関係ないので、活動報告みたいなものと思ってください。
興味のない方は飛ばしてください。





この3か月間ですが、前話の前書きにあったように自律神経失調症+適応障害?を拗らせていました。
とりあえず、無事退職し、9月に再就職が決まり、再就職まで体調を整えつつ療養してました。
かなり身バレしそうな内容だったので、詳細な時系列は端折ってます。

それまでに更新するタイミングはあったのですが、なにぶんやる気が起きず…って感じでした。

この療養(更新停止)中に、沖縄へ家族と旅行したり、スタァライトの展示会行ったり、友人らとのキャンプ、サーフィンなどでリフレッシュもできました。
そして自律神経失調症などがひどくなり始めた5月から8月までろくな運動もしておらず
現在は体調を考慮しつつ、2日に一回ジムに行ってリハビリをしている最中です。
身体機能が全体的に低下し、簡単な作業で息切れや発汗などがあるため、なんとか治療中って感じです。


9月からまた忙しくなり、更新も止まる可能性がありますが、なんとか8月中にはあと3話くらい投稿したいと考えております。


以上報告と言い訳でした。
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