Re:Build ―スラム転生ハンター、旧領域の亡霊と契る   作:ロシュ

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ここらへんでアニメOPのイントロが流れてきます。

閲覧感謝です。
まだ書いてる途中でしたが、既に18000字以上書いてたので、とりあえず1万字近くの書き終えてた文章を投下します。

やっぱり感想いただけるとモチベ上がりますね。「お久しぶりです」「待ってました」まさか僕が言われる立場になるなんて、思っていなかったです。そして、そういわれるとほんと涙が出るくらい嬉しかったです。

なお、ツバキとの接触は残りの8000字を書き終わった後なので、たぶん次の次話になると思います。

 

改めていつも感想、お気に入り登録、評価、誤字報告ありがとうございます。


ティオルだけがいない街

 

 

 

 アキラの徒党で、ティオルたちの指名手配が回り始めていた。

 

 

 もっとも、それは都市の警備ハンターやハンターオフィスへ広く公開されたものではない。アキラの徒党と、その下で働く者たちに向けた内部の手配だ。

 

 

 手配内容として 

 ・ティオルは生け捕りを優先。

 ・発見した者には報酬を出す。

 ・抵抗された場合は、自衛を認める。

 

 簡単にまとめるとそんな感じだ。

 

 

 指名手配の公開範囲の限定化、それに伴う推定動員数の限度だけを考慮すると、ティオルにもまだ逃げ場はあったかもしれない。

 

 

 だがアキラたちは、ティオルの顔と名前だけを流したわけではなかった。

 

 

 シジマの徒党には、ティオルが売った情報を基にオルフランズが襲われ、その余波でシジマの部下にも被害が出たことを伝えた。騒動の際にアキラの徒党を手伝った他の徒党にも、逃亡した裏切り者たちの情報を個別に回している。

 

 

 大々的に公開すれば、オルフランズの不祥事やハンターのアキラに対する不信感にもつながる。そのため公開情報や指名手配に関しては関係者のみに広まることになった。

 

 当然、アキラ達のメンツもあるのだと、スラムに住まう住民や他徒党の関係者たちはその意図を察していた。

 むしろこういったメンツや建前などに関して、いつもはあまり気にも留めず手を出さなかったアキラが、今回はそういった行動に出たという事実こそが、一部の優れた者や他徒党のボスたちにとっては重要だった。

 

 

 もちろんその裏にはアキラの愛人兼参謀のシェリルが動いていることは間違いない。

 

 アキラ達の徒党であるオルフランズは、アキラを建前上のボスと戦力として立ち回り、徒党の実権や運営に関してはシェリルが表に立って行っていた。

 

 

 だからこそ、そのオルフランズの活動で、アキラが率先して前に出て行動する時は決まってナニかがある。そしてアキラが動くほどのコトになっている。

 

 

 いくらスラムの元二大徒党の抗争中でも日和見を気取っていたスラム関係者でも、今回のアキラの行動によって動く以外の選択肢はなかった。

 

 

 実は今回の裏では他にも事情があることは知る人はかなり少ない。

 

 アキラがとうとう自身の徒党に一定の愛着を覚え、徒党の経営などにより関与しだした事。

 アキラたちにちょっかいを出す推定ヴィオラの存在。

 オルフランズとアキラの裏に関与しだした都市職員(ヒカル)の存在や彼女からの指示や説得。

 

 そういった踏み込んだ事情を知る者は少ない。

 だが事情や理由、原因が不明であっても、アキラが徒党のために行動しているという異常事態の中で動き出さない者はあまりいなかった。

 

 

 

 また金のためだけにティオルを追う賞金稼ぎよりも、執念深くティオルや裏切り者たちを追う者のほうが遥かに厄介なのだ。

 

 人は考える葦である。

 

 加えて感情を持つ生物である。

 そしてスラムという環境社会において、感情問題は無視できないモノであり、組織に舐めたようなコトをしたバカがいる事は、一組織が動く理由には十分だった。

 

 

 金を求めて裏切り者たちを追う者、まだ裏切りがバレていない者たちが自身の潔白を示すためにも追いかける。

 そして自分たちの組織をコケにされたカスを懲らしめるために、他の徒党も動き出したのだった。

 

 

 

 ◆

 

 

 その頃、ティオルはスラムの裏路地を必死に走っていた。

 

 荒れた壁に肩をぶつけ、転がっていた廃材を蹴飛ばし、息を切らしながら何度も後ろを振り返る。

 

 追ってくる姿は見えない。

 

 それでも、角を曲がるたびに誰かの視線を感じた。

 

 少し前まで知った顔だった連中が、ティオルを見るなり目を逸らす。馴染みの露店に近付けば、店主は露骨に顔を強張らせた。身を隠すために使っていた空き家には、先回りしたように見張りが立っていた。

 

 誰が自分を探しているのか。

 

 誰がアキラ側へ情報を流すのか。

 

 もう、ティオルには区別が付かなかった。

 信じられるのはただ一人、自身が恋慕する彼女一人であった。

 

 最も、その彼女がアキラ以上に率先して裏切り者たちの追跡に力を入れていることなど、ある程度アキラやシェリルを知っていればわかるものだが。

 愛や恋心という本能と脳が作り出す錯覚により、ティオルの思考は妨げられ、冷静な判断などできない。

 

 恋とは盲目である。

 

 恋に落ちたティオルには、現状を理解することはできなかった。

 

 

 

 

「畜生! アキラのやつ、絶対に許さねえ!」

 

 吐き捨てる声は、怒りと焦りで掠れていた。

 

「何でシジマの連中まで俺を探してんだよ! あの時アキラ側に付いてた奴らまで! 俺が何したっていうんだ!」

 

 

 自分で口にした言葉に、自分自身が答えを返すことはない。

 

 ダレかに情報を売り、その情報を使って襲撃が引き起こされた。

 

 死人も負傷者も当然ながら出た。

 

 

 だがティオルの中では、それらは全て別の話な(関係なかった)のだ。

 

 

 情報を買った連中が勝手に襲っただけ。

 

 襲われた側が弱かっただけ。

 

 自分を捕らえ、雑用へ回し、シェリルから遠ざけたアキラが悪い。

 

『僕は悪くない。だって僕は悪くないんだから』と自身の感情と現状に対し無意識ながらも大嘘憑きを吐いていた。

 もっとも今は『なかったこと』にはできない。

 

 そんなトンチキで、マイナスなことができるならアキラがティオルを見捨てるはずはなかった。

 ただ、そんなことはありえない。

 その素質(マイナス)を持っていれば、ティオルはどんな勝負にも勝つことができないという歪んだ性質も持ってしまう。

 

 土壇場で、アキラの徒党を乗っ取ろうとした際に徒党の女性たちを全員裸エプロンにさせるなどを口走っていれば、かなりの確率でアキラはティオルを保護しただろう。

 

 

 もちろんそんなことはあり得ない。

 

 

 

 どちらにせよ、ティオルは自身の所業から逃げることはできない。

 自責を他責にしつづけ現実から目を背け続ける。

 そう考えなければ、自分が追われる理由を認めることになる。

 

 

「ちくしょう……こうなったらシェリルに会えねえだろうが……! くそ、くそくそくそ!」

 

 怒鳴りながらも、足は止まらない。止まることはできない。

 

 都市の警備が総出で追ってきているわけではない。

 ハンターオフィスに正式な賞金首として登録されたわけでもない。

 

 

 それでも、スラムで逃げ続けるには十分だった。

 

 ティオルが頼れそうな場所を、アキラたちは知っている。

 

 ティオルを憎む理由のある者たちにも、既に話が届いている。

 

 逃げ込める場所は、一つずつ塞がれていた。

 

 誰が本当に自分を売ったのか。

 

 どこまで名前が回っているのか。

 

 なぜこれほど早く、逃げ道が消えていくのか。

 

 ティオルには、もう分からなかった。

 

 ただ一つだけ確かなのは、今さらシェリルの下へ戻れるはずがないということだった。

 

 それでもティオルは、その事実だけは最後まで認めなかった。

 

 

 

 スラムの暗い路地を、行き先も定められないまま走り続けた。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 ティオルの逃走が判明した時点で、アキラたちの方針は既に固まっていた。

 

 外へ逃げた者を追跡し、その下手人たちの生け捕りを優先。

 また抵抗された場合は自衛を許可しているため、名目上は穏便な対応でも実際は武力での鎮圧だった。

 

 

 そして優先して処理するのはティオルだけではなく、まだ徒党内に潜んでいるであろう裏切り者たちの炙り出しだった。

 

 

 

 皮肉な事にも、推定ヴィオラからもたらされた情報と、裏付けにより裏切り者たちの確保は容易であった。

 

 

 エリオやアリシアに呼び出された裏切り者たちが案内された部屋には、半武装状態のアキラと目の笑っていないシェリルが待ち構えており、自身らが疑われている、あるいはバレてしまったのだとここで初めて理解したらしい。

 

 

 

 その一人が声を荒らげた。

 

「魔が差しただけだ! もう二度とやらない! だからもう一度、チャンスをくれ!!」

 

 また一人は、事態が大きくなると理解していなかった。

 

「少し喋っただけだ。ただ喋っただけでこんな大ごとになるなんて思ってなかったんだ。あんな襲撃に使われるなんて……知らなかった」

 

 

 だが、結果として今回の襲撃を引き起こした直接的あるいは間接的原因の証拠は悠然と示される。

 

 

 

 

 

 詰問中でも、アキラは怒鳴ることも、暴力をふるうこともなかった。

 当然、冗談をこぼすこともなかった。

 

 そんなアキラが、ただ確認するかのように二人へ問い掛けた。

 

 

「もう一度チャンスをよこせって言うが。普通に考えてお前らに、今までと同じ仕事を任せられると思うか?」

 

 返答はない。

 

「情状酌量の余地があるかもしれない。優秀な者であるのならその才を再利用し、首輪を付け組織──徒党──運営に使用するかもしれない」

 

「だが、ここはスラムだ。スラムの徒党だ。メンツや信用、そういった形のない概念的なものが優先される環境だ」

 

「そんな環境で、もう一度同じ仕事を、立場を用意すべきか? 俺はそうは思わない。だから地位も権限も全部没収だ」

 

 一人が顔を上げた。

 

「それだけか? いや、それだけですか?」

 

「そんなわけないだろ」

 

 アキラは平然と続けた。

 

「情報を吐き切るまで外には出さない。受け取った金も、持ってる物も、必要な分は弁済に回して。その後どう使うかは、シェリルたちが決めるさ」

 

「お前が決めろよ! 俺の人生をそこの女に任せるな!! 女子供に決められるなんて俺はそこまで落ちぶれてはいない!!!」

 

「そうだ! お前が決めろよ!! お前がここのトップだろうが!!!」

 

「トップだからこそ仕事を采配しているんだ。細かい調整は、俺よりあいつらの方が上手いからな」

 

「それに立場なんざ、その都度都度で都合のいいように変えるさ」

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 新参幹部二人は幹部職を剥奪され、保有していた権限を全て失った。関係者と仲介役の情報を吐き切るまでは隔離され、その後も関与の度合いに応じて弁済と監視下での労役が課される。

 

 すぐに外へ放り出さなかったのは、情けではない。

 

 持っている情報を回収し、これ以上ほかへ流させず、出した損害を少しでも埋めさせるためだ。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 それで、ひとまず内部整理は終わった。

 

 ティオルは外で追われ続けている。

 

 ヴィオラがどこまで関わっていたのかも、まだ確定していない。

 

 徒党の中に、別の手先が残っている可能性も消えてはいない。

 

 だが、今ここで全ての膿を出し切ろうとすれば、徒党活動そのものが停滞してしまう。

 内部監査も運営において重要だが、やることは他にあるのだ。

 

 

 

 

 

 

 少なくとも、アキラがしばらく拠点を空けても、賭博場と遺物売買店が止まらずに回る程度には整った。

 

 整理を終えた資料から目を離し、アキラは軽く息を吐いた。

 

「……じゃあ今度こそ、本業に戻るか」

 

 シェリルが小さく笑った。

 

「ええ。稼いできてちょうだい、ハンターさん」

 

 するとAR通信越しにアキラをヒカルが呼び止めた。

 

『その前に、不在中の承認先だけ決めておいて。アキラがいないたびに全部止めるわけにはいかないでしょう』

 

「シェリルが全権代理でいいだろ。いつも通り」

 

「基本的にはそうだけど、金額と内容によるわ。規模の大きい話は、ヒカルにも確認を回す形にしましょう」

 

『それが無難ね』

 

「まぁそうか。じゃあそういう感じで任せるわ」

 

 アキラは短く答えた。

 

 内部の火種は、ひとまず踏み消した。

 

 

 

 次に必要なのは、金。

 

 そして、次の戦いで生き残るための装備が必要だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 徒党の整理を進めていた間も、アキラは訓練を止めていなかった。

 

 拠点に設けられた射撃場兼訓練場。

 

 複数の移動標的が、遮蔽物の間を不規則に走っている。

 

 アキラは銃を構え、呼吸を整えた。

 

『それじゃあ始めるわよ』

 

 アルファの声と同時に、標的が一斉に動き出した。

 

 

 戦闘モードに移ったアキラはすぐさま体感時間を圧縮した。

 

 

 

 主観の中で意識と思考の処理を極端に加速させ、相対的に外界の動きを遅く捉える。

 

 

 飛び散った砂やほこりが空中に留まり、排莢された薬莢がゆっくりと回転し、移動標的の重心が傾いていく様子まで、一つ一つ見えるようになる。

 

 

 

 アキラはその先にある応用技術の習得を試みていた。

 

 

 

現実の解像度を、意識的に操作する技術だ。

 

 

 

 人間が認識している世界は、感覚器から入った情報を脳が処理することで形作られている。

 

 そこには僅かな処理時間(ラグ)が存在する。

 

 つまり、人間が認識している「現在」は、厳密には僅かに過去のものなのだ。

 

 加えて、認識の即時性を優先するため、感覚器から入った細かな情報の一部は省略される。足りない部分は経験や予測によって補完され、人間にとって扱いやすい形へ整えられる。

 

 

 言い換えれば、人間が普段見ている世界は、遅延と省略と補完が加えられた映像でもある。*1

 

 

 

 

 

 アキラはそれらとその先にある技術の解説を受け、以前にアルファのサポートによりお試しで脳内処理へ介入を許可した。

 

 通常ならば捨てられる情報まで拾い上げ、高速演算によって処理し、高精度の現実情報としてアキラへ返した。

 

 その結果、アキラの五感は異常なまでに鮮明になる。

 

 通常の知覚よりも遥かに遅延が少なく、より「現在の現実」に近い世界。

 

 

 アルファという補助輪を用いることで体験したその状態を、アキラは自身の技術として落とし込もうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 撃ちだす弾丸と、アキラが今見ている「現在」の景色。

 

 そこから、さらに視覚情報を削る。

 

 

 

 色を落とし──背景を消し──必要のない情報(モノ)を曖昧にする。

 

 銃口──。

 

 予測される弾道──。

 

 着弾させる位置──。

 

 

 

 戦闘に不必要な情報をすべて削り、戦闘に必要なものだけを残し、戦う。

 

 

 

 

 

 そのはずだった。

 

 

 右後方の動体反応。

 

 遮蔽物の陰へ回り込んだ標的。

 

 足場の僅かな崩れ。

 

 風向きの変化。

 

 装備の残弾。

 

 射線へ入りかけた味方役の無人機。

 

 消したはずの情報が、次々と意識へ戻ってくる。

 

 無量空処とは違い完結する情報だが、それでもアキラの脳はどんどん負荷を受けるが、アキラはそれらを無理矢理に押し込めて「現在の現実」に近い世界を目指した。

 

 

 

 

 

 

 再び照準の先だけへ意識を絞り──ー

 

 一発。

 

 二発。

 

 三発。

 

 

 

 正面の標的は、立て続けに撃ち抜きダウンを取る。

 

 だが、その瞬間には右後方から接近していた標的への反応が遅れていたことに気づく。

 

 

 

 警告音が鳴りアキラは反射的に身を翻し、残った標的を撃ち落とした。

 

 

 

 

 

 

 そうして訓練が終了する。

 

 

 

 止まっていたように見えた世界が、急激に本来の速度へ戻った。

 

「……駄目だな。てかくっそ頭痛い……ああっ…………目がっ……! 目がぁぁぁぁあっ!!」*2

 

『痛いのは目じゃなくて頭の方よ。頭大丈夫?』

 

「なんか馬鹿にされてる気がする……」

 

『ハッ』

 

「笑ったね!? その心笑ってるね!?」

 

『大丈夫そうね。で、正面の三体に対する射撃精度は上がってるわね』

 

「ただ、その代わりに側面への反応が落ちてるんだよな」

 

『ええ。それと急に冷静にならないで? 風邪引きそうになるわ』

 

「うわぁ……AIが風邪になるとは……たまげたなあ」

 

 ふざけあう二人。

 

 だがアキラ自身が気づいた欠点やできなかった事を、アルファは否定しなかった。

 

 

 

 

 

 アキラが目指し欲していたのは、視界から色すら消し、必要な情報だけを極端な精度で拾い上げる集中状態だった。

 

 

 

 体感時間の圧縮に、認識する情報の選別を重ねまくる。

 

 成功すれば、一瞬の撃ち合いの中で、銃口、弾道、着弾点、発砲の時機だけを拾い、それ以外を全て切り捨てられる。

 

 

 

 完全な殺戮機械とまではいかなくとも、一時的に超人の真似事ができる。

 

 アキラが欲しかったのは、そのような技術だった。

 

 

 

 

 

 だが、そうは問屋が卸さない。(うまくいかない)

 

 集中できないわけではなかった。

 

 思考を、視点を、意識を、ただ一つの対象へ合わせる認識のチャンネル切り替えはできている。

 

 

 

 条件さえ噛み合えば、アキラは一つのことへ過剰なほど深く入り込むこともできた。

 

 周囲の声が聞こえなくなる程であったり、時間の経過すら忘れる程の集中力を生み出すことはできるのだ。

 

 

 

 だが、自然に一点へ吸い込まれることと、必要な時に自分の意思でチャンネルを切り替え、その状態を必要な時間だけ維持することは別だった。

 

 

 

 特に戦場では、周囲で新しい変化が絶えず発生する。

 

 僅かな音。

 

 視界の端を横切る影。

 

 敵の射線。

 

 味方の移動。

 

 それらが刺激となるたび、アキラの注意は別方向へ引かれる。

 

 

 

 

 

 白黒の世界へチャンネルを合わせることはできる。

 

 だが、別の情報が入るたびにチャンネルが揺れ、周囲を認識する側へ勝手に戻ろうとする。

 

 問題は、切り替えられないことではない。

 

切り替えたチャンネルを、そのまま維持することが難しいのだ。

 

 

 

 前方へ照準を合わせながら、頭のどこかで退路を探す。

 

 敵の動きを追いながら、味方の位置を確認する。

 

 

 

 自分の目から見える景色とは別に、少し離れた場所から戦場全体を見下ろすような像を組み立てる。

 

 それらを無理に止めると、アキラの強みまで一緒に消えてしまう。

 

 そして、その傾向は前世から染み付いたものでもあった。

 

 前世の職業(看護師)では、目の前にある一つの情報だけを見ていればよかったわけではない。

 

 

 一人の状態を確認しながら、呼吸、脈拍、意識、表情、投薬、機器の数値を並行して見る。

 

 同時に、周囲の人間の動きや、別の場所で起きている変化にも注意を残しておく。

 

 なんならそこに同僚間の人間関係や、女性社会故の区別と分別。

 

 AさんはBさんが嫌いで、この二人で夜勤を組ませたくないから代わりに夜勤に入ったり

 

 お局の機嫌取りや、そもそも看護師と看護助手の軋轢や、そして別の病棟とのいざこざなど。

 

 

 

 本来であれば見るべきものは患者であるのに、なぜか同僚や職場の雰囲気を伺う始末。

 

 

 

 周りに存在する一つの異常に気付いたとしても、それだけへ意識を奪われれば、別の異常を見落としてします世界だったのだ。

 

 

 

 閑話休題(自分語りを止めますね)

 

 

 

 複数の情報へ優先順位を付けながら、状況に応じて注意を切り替える。

 

 そのような多角的な見方と、多重課題を処理する癖が、アキラには深く染み付いていた。

 

 それは戦況に合わせて意図的に一点集中へ入り、その状態を安定して維持し続けることには向いていないことにもつながる。

 

 

 

 

 

「う──ん、俺には向いてなさそうだな」

 

『完全な一点集中を維持するのは、そうね。私の支援があれば、強制的に安定させることもできるけれど……』

 

 アルファの姿が、アキラの正面へ現れる。

 

『アキラは、不要な情報を全て捨てるより、複数の情報を残したまま重要度を付ける方が得意みたいね』

 

 アルファが、訓練結果を示す表示へ視線を向けた。

 

『一つのチャンネルだけを極端に鮮明にすると、ほかの処理を停止したことを危険だと判断して、何度も広域認識のチャンネルへ戻っている。そんな感じかしら』

 

「意識して切り替えても、染み付いた思考や癖の方へ勝手に戻ってるってことか」

 

『その表現で問題ないわ』

 

「超人の紛い事をしたかったけど、俺の超人(連邦生徒会長)はこんなのじゃないってことか。カヤ*3の気持ちもわか……いややっぱわかんねぇや」

 

 

 

 アルファから『また変な事を……それとカヤ? 新しい女の名前かしら? ただ私の知る限りそんな人との接点はないはず』と訝しむ視線を一切無視し、アキラは訓練結果などを確認した。

 

 

 正面への命中率は大きく上がっていた。

 

 

 

 それだけではない。

 

 標的を認識してから動き出すまでの時間。

 

 初動の速さ。

 

 照準から発砲へ移る動作の滑らかさ。

 

 一連の戦闘行動は、通常の体感時間圧縮時よりも明確に向上している。

 

 

 

 代わりに、複数方向からの接近に対する反応は、僅かに遅れていた。

 

 その差は、訓練のスコアにもはっきりと表れている。

 

 僅かな遅れが、実際の戦闘において致命的な隙になることは確定的だ。

 

 

 自身のスキルを磨くはずが、スキル起用を間違えて弱体化しているのだ。

 

「俺に向いてないことを伸ばしてもなぁ……練習は無駄だったか?」

 

『いいえ。視覚情報の優先順位を整理する技術としては有効よ。ただし、全ての情報を取捨選別して、一つのチャンネルだけに固定する必要はないわ』

 

 アルファが指を動かす。

 

 アキラのスマートコンタクトに、射撃場の立体図が重なった。

 

 

 

 

 旧領域接続情報端末が拾った周囲の反応。

 

 強化服カトリーナAnJの姿勢制御と各種センサー。

 

 銃器の照準補助。

 

 それぞれの情報が、重要度に応じて層を分けて表示される。

 

 

『優先度の低い情報や認知については、低く荒い精度のまま残しておきましょう。ただ危険度が上がるような場所だけ、アキラの意識と演算リソースを集中させればいいの』

 

 アルファは、さらに幾つもの表示を重ねながら続ける。

 

『一つのチャンネルだけを開いて、それ以外を閉じるのではないわ。複数のチャンネルを開いたまま、必要に応じて使う帯域を増減させる。完全に切り捨てるのではなく、低い優先度で待機させておく感じね』

 

「バックグラウンド処理って感じか」

 

『そういうこと』

 

 視界の中心では、標的の輪郭と予測射線だけが鮮明になる。

 

 その外側には、色の薄い戦場図が残っている。

 

 さらに外側には、アキラの視界へ直接入っていない反応が、簡素な記号として表示されていた。

 

 アキラはその景色を見ながら、もう一度銃を構えた。

 

 

 

 

 

 今度は、全ての情報(モノ)を消そうとはしなかった。

 

 

 正面の標的へ意識を寄せる。

 

 同時に、右後方の反応はボヤっと輪郭だけを残す。

 

 

 頭上を横切る無人機は、射線へ入る可能性だけを捉え。

 

 足場と退路は、異常が発生した時だけ意識に浮上させる。

 

 

 

 そうして射撃を開始し、まず正面の敵を打ち抜く。

 

 右後方の反応が危険域へ入った瞬間、処理の重点を移す。

 

 続けて、上方の標的へ銃口を向け引き金を引く。

 

 

 前回より、一発ごとの射撃精度は僅かに落ちていた。

 

 それでも、全標的への対応は早く、被弾判定も出ず完全勝利S判定だった。*4

 

 

 

 

『ふふ、やっぱりこっちの方が、アキラには合っていそうね』

 

「褒めてるのか?」

 

『ええ。少なくとも、前だけ向いて横から撃たれるよりはね』

 

「それはそうだな」

 

 

 

 原理上、一点へ意識を集める技術は使える。

 

 白黒の世界へ認識のチャンネルを切り替え、瞬間的に精度を高めることも可能だった。

 

 狙撃。

 

 一対一の撃ち合い。

 

 僅かな隙へ攻撃を通す瞬間。

 

 使用する状況と時間を限定すれば、十分に有効な技術になる。

 

 

 

 

 だが、周囲を切り捨て、必要な一点だけへ全てを注ぎ込んだ状態を維持し続ける戦い方は、このアキラには向いていなかった。

 

 代わりに、広域の情報を粗いまま並列で保持し、危険度が増した場所だけを一時的に高解像度へ切り替える。

 

 自分の視界だけに頼らず、少し離れた場所から戦場全体を見下ろすように、位置関係を頭の中で組み立てる。

 

 旧領域接続から得た簡易的な周辺情報を加え、装備の演算と表示によって処理の負担を分散する。

 

 

 

 

 一つのチャンネルへ固定するのではない。

 

 複数のチャンネルを保持しながら、必要なものへ必要なだけ処理を割り振る。

 

 それが、今のアキラの戦い方だった。

 

 そして、その戦い方にも幾つもの弱点がある。

 

 拾う情報が増えるほど、処理の負担も増える。

 

 装備の性能が足りなければ、表示の遅れや誤差が、そのまま判断の遅れへ繋がる。

 

 旧領域接続が不安定になれば、それまで見えていた範囲が急激に狭まる。

 

 情報を受け取れても、アキラ自身の処理能力が限界を迎えれば意味がない。

 

 アルファの支援が切れた時に備えるなら、なおさら自前の装備と技術を底上げしなければならなかった。

 

 

 

 

 

 なら結局、やることは変わらない。

 

 

 遺跡へ向かい、遺物を入手し、モンスターを討伐し、金を手に入れる。

 

 

 その金で武器と装備を更新し、より危険で、より稼げる場所へ行く。

 

 

 

 強くなるために稼ぎ、稼ぐために強くなる。

 

 

 アキラは訓練記録を閉じた。

 

「……やっぱり必要なのは金さ! 金さえありゃ何でも手に入るからな! デカい家! いい車!! うまい酒!!!」*5

 

『品性は金買えませんよ、アキラ』

 

「それはそう。──で、まとまって稼げる案はないか?」

 

 そのアキラの申し出にアルファは、少しだけ意味ありげに笑った。

 

 

『私にいい考えがあるわ』*6

 

「なんか駄目そうな予感がする──」

 

 

 

 

*1
リビルドワールド原作やWikiから参照。相手より頭回して、早く動いて行動する。ぶっちゃけふわっと解釈

*2
某ジブリのムスカ大佐のセリフ。一説にはムスカの年齢は28歳であり、筆者と1歳しか変わらないことに戦慄しながら書いていた。

*3
ブルーアーカイブのキャラ。連邦生徒会という組織の幹部。失踪した超人の連邦生徒会長に脳を焼かれている(と解釈してる)。何かとバカにされているが、第2部の再登場で個人的に株があがった。

*4
艦これの戦闘評価。7段階ある。現在夏イベのE2の輸送ゲージを叩き割った後。

*5
H×Hのレオリオのセリフ。新刊を買ったはいいが、友人の家に置いてきてしまい結局1ページも読んでない。

*6
『戦え! 超ロボット生命体トランスフォーマー』のセリフ。なぜか失敗フラグとしてスラングで使われる。




読了感謝です。
ハンターハンターのミームを入れた理由は、投稿を休んでた時に読んでた他のSS。「あなたへのレクイエムです」様の『地雷系彼女(マイ・フェア・レディ)』の影響が強く出てます。ただG・I編が原作の中で一番好きなのでG・I編の描写がもう少しあればよかったなぁと思いました(評価10つけてます)

あとは最近だと「キャンディマン」様の『夜食に薔薇の毒はいかが?』とか「おいかぜ」様の『ネフェルピトーに執着されるだけ』とかも読んでます。

なお、ハンターハンターより幽遊白書の方が好きなんですが、幽白のSSって全然ないんですよね…

余談
僕だけがいない街もまだ未履修のアニメの一つです。
最近はアニメを見る時間はあるのに、SSばかり読んでます。
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