1-1 Hello.would
銃声が響く。
──人生について考える。
そんな野暮なことするのはこましゃくれたインテリ気取りか哲学者、もしくは人生に飽きた暇人くらいなもんだ。
腹が減りゃァ、美味いもん食って笑う。
それが人間。
今までもこれからも、俺は俺だ。
銃声が響く。
──私の、ミスでした──
──私の選択。そしてそれによって招かれた──
声が響く。
鮮明な後悔の言葉だ。
しみったれたその声を俺は真剣に聞く。
──私の選択、そしてそれによって招かれたこの全ての状況──
──結局、この結果にたどり着いて初めて、あなたの方が正しかったことを悟るだなんて──
声が響く。
俺はその声に懐かしさを感じる。
この声を俺は、一体どこで聞いたのか。
──今更図々しいですが、お願いします──
──先生。──
声が響く。
ボディガードや殺し屋、傭兵、教官、そして泥棒。
色々やってきたが今度は先生ときたか。
俺には向いてねぇよ。
しかし、声は、俺の心情を読むことはなかった。
──ですから……大事なのは経験ではなく、選択。あなたにしかできない選択の数々──
──大人としての、責任と義務。そして、その延長線上にあった、あなたの選択。それが意味する心延えも──
──この捻じれて歪んだ先の終着点とは、また別の結果を……だから、──
──先生、どうか……──
「そこまで頼まれちゃ、仕方ねぇ。引き受けるぜ。その仕事。
だけど、タダ働きってのはごめんだぜ?」
「先生、起きてください。
次元先生......!次元大介先生!」
耳を突く女の声が聞こえ、俺はゆっくりと目を開ける。
……俺は、いつものやつらと一仕事終えて、アジトで盛大に酒を飲んで、酔っぱらって、寝ちまってたのか。
何か長い夢を見ていたような、そんな不明瞭な思考を頭を振って、飛ばしながら、辺りを見回す。
ここは、ビルの高層階か?
近くには白い服装を着て、眼鏡をかけた見るからに気の強そうな女(二十歳は超えてなさそうだな)が一人。
さっきの声はこの少女か。
そして、女の頭上には不思議な紋様が浮かんでいる。なんだそれは?いや本当になんだ?
イマドキの小洒落たファッションってわけでもなさそうだが。
「なぁ、嬢ちゃん。あんた一体誰だ?」
椅子に座って眠っていたらしい俺がこぼした言葉を聞いたのか聞いてないのか分からねぇが、目を少し瞬きしたのちに、返事の代わりに
「……少々待っていてくださいとは言いましたが……お疲れのようですね。なかなか起きないほど熟睡されるとは」
と言った。
呆れたような声で呟いた少女は、少しだけ俺に気遣うような様子を見せてから、こちらに再び目をやる。
「悪いがさっきの質問に答えてくれねぇか?」
「……いえ、私の方こそ失礼しました。」
俺がそう話すと、眼鏡の淵を人差し指で持ち上げ、整えて詫びを入れられる。
そういうつもりで言ったわけじゃないんだがな。
「私は七神リンと申します、学園都市『キヴォトス』の連邦生徒会所属の幹部です。」
七神リンと名乗った少女は、キヴォトスについての説明を始める。
なんでも、ここは数千の学園が集まってできた巨大な学園都市で、この都市の行政を担う中央組織が、連邦生徒会らしい。
「そして、次元先生には、キヴォトスで先生として働いてもらうことになります」
「俺が先生だぁ?軍の教官やらはやったことはあるが」
昔、ヴェスパニア王国って国で王女の護衛ついでにそこの軍の教官紛いなことはやったことはあるが、先生ってのは俺の柄じゃねぇ。
これ、さっき話したような気がするんだがな、クソ、頭の中がぼやけるな……
「それは……すみません。私も次元先生がここに来た経緯を詳しくは知らないのです。全ては連邦生徒会長がお決めになられたことですので」
なるほどな、あくまでもこのリンって嬢ちゃんは中間管理職ってわけか。
その連邦生徒会長に直接聞かねぇといけないわけだ。
「ここから先は場所を移しましょう。道中お話しますので」
「わかったよ」
俺のトレードマークである帽子を深く被りなおしながら、席を立ち、歩いていくリンの後ろについていく。
おい、ルパン、とんでもないヤマを引き受けちまった気がするぜ。
ん?俺はいつこの仕事を受けるなんて決めたんだ?
首を傾げながらゆっくり歩いていた俺に向かって振り向いたリンが声をかける。
「何かありましたか?次元先生」
「……いや、何でもねぇ」
エレベーターに乗り、下の階につく頃には、不思議と何を悩んでいたか忘れていた。
どうやら下についたようだが、なにやら騒がしいな。
「次元先生、つきまし──「ちょっと待って!代行!見つけた、待ってたわよ!連邦生徒会長を呼んできて!」……はぁ」
扉が開くと、ほぼ同時に喧騒の中から一際鼓膜を突くような大きな声が聞こえ、思わず顔を顰め、隣にいたリンは面倒くさいという感情を隠しもせずに溜息をつく。
「………うん?隣の大人の方は?」
リンの隣にいたせいだろう、側にいた俺に気づいた彼女は首を傾げた。
答えようとしたが止まってしまう、何故なら。
俺の眼に映ってしまったからだ。
おおよそ、年端も行かないガキが持つべきじゃない武器に。
あれは、SIG MPXか?
「主席行政官。お待ちしておりました」
黒髪、俺よりも背の高く、翼の生えた少女の手にはM1917エンフィールドが。
「連邦生徒会長に会いに来ました。風紀委員長が、今の状況について納得のいく回答を要求されています」
ブロンドの髪をした眼鏡をかけた少女の手には、モーゼルM712がある。
それだけじゃない、それ以外の誰も彼もが何らかの銃火器を所持している。
アメリカだってもうちょいマシな法規制してるぞ、どうなってんだこの都市は。
俺とてガキの頃には銃を持って裏社会に足を踏み入れてたし、戦地を巡っていりゃ少年少女兵と出会うときもある、だけど、さも当たり前かのように持っているこの現実は少し気分が悪くなるってもんだ。
それを隠すように帽子の鍔を下に下げて目元を隠した俺とは反対に、囲まれている当の本人は、
「ああ……面倒な人たちに捕まってしまいましたね」
と、小声ではっきりと愚痴をこぼした。
この様子を見るに、よほど銃を見慣れているようで、周りの少女たちの落ち着きのなさに呆れているようであった。
顔色を見るに何か言いたげであったが、それらをぐっと堪えて、口を開く。
「……連邦生徒会長は今、席におりません。正直に言いますと、行方不明になりました」
突如として出た衝撃発言に場が凍り付く。
「七神リン、だったな。今のは本当か?」
「はい。つまり「サンクトゥムタワー」の最終管理者である生徒会長がいなくなったため、今の連邦生徒会は行政制御権を失った状態です。先ほどまで認証を迂回する方法は存在しませんでした」
少女たちが呆然としている中、俺は別のことを考えていた。
それは困ったな、俺の雇い主さんは神隠し、そのうえ行うべき仕事も行えていなかったってわけか。
「では今は、方法があるということですか、首席行政官?」
「はい。この先生こそが、フィクサーになってくれるはずです」
「ん?!」
急に話を振られた俺は、少し驚きながらリンの方を見る。
「ちょっと待って。そういえばさっきから気になってたけど、この先生はいったいどなた?どうしてここにいるの?」
「キヴォトスではないところから来た方のようですが……先生だったのですね」
「はい。こちらの次元先生は、これからキヴォトスの先生として働く方であり、連邦生徒会長が特別に指名した人物です」
場の視線が俺に集まる。
最近は泥棒稼業で人目につかない仕事ばっかしてたってのに、真逆の仕事をやらねぇといけないわけか。
「行方不明になった連邦生徒会長が指名……? ますますこんがらがってきたじゃないの……」
仕方ねぇ一度頷いた仕事、今更やっぱやめるなんてのはカッコ悪いな。
「……次元大介。さっき言われた通り連邦生徒会長に言われてお前らの先生として赴任した。前職は……いや、これは今はいいな」
視線が完全に俺に向いたタイミングで話す。
よく考えれば、俺の経歴を話したら、警戒されちまうな。
「こ、こんにちは、先生。私はミレニアムサイエンススクールの……い、いや挨拶なんて今はどうでもよくて……!」
「そのうるさい方は気にしなくていいです。続けますと……」
「誰がうるさいって!? わ、私は早瀬ユウカ。覚えておいてください、先生!」
「ユウカか、覚えられたら覚えとくな」
ユウカと名乗る、いの一番にリンに声をかけた少女が俺の言葉に噛みつこうとした瞬間リンが喋り始める。
「……先生は元々、連邦生徒会長が立ち上げた、ある部活の担当顧問としてこちらに来ることになりました」
そういって手元のタブレットを操作して俺に画面を見せる。
そこには『S.C.H.A.L.E』という文字と、その地点を指し示す地図が表示されている。
「シャーレか」
「はい、連邦捜査部『シャーレ』。単なる部活ではなく、一種の超法規的機関。連邦組織のため、キヴォトスに存在するすべての学園の生徒たちを、制限なく加入させることも可能で、各学園の自治区で、制約なしに戦闘活動を行うことも可能です」
「そいつは、ちと俺には荷が重すぎるくらいの権力だな」
「なぜこれだけの権限を持つ機関を、連邦生徒会長が作ったのかは分かりませんが……シャーレの部室はここから約30㎞離れた外郭地区にあります。今はほとんど何もない建物ですが、連邦生徒会長の命令で、そこの地下に「とある物」を持ち込んでいます」
それを肯定するように話したのちに、再び手元の端末を操作し、誰かと通信を行う。
「モモカ。シャーレの部室に直行するヘリが必要なんだけど……」
ホログラムとして現れた彼女とリンの会話に耳を傾ける。
『シャーレの部室? ……ああ、外郭地区の? そこ、今大騒ぎだけど?』
「大騒ぎ……?」
『矯正局を脱出した生徒が騒ぎを起こしたの。そこは今戦場になってるよ』
「……うん?」
『連邦生徒会に恨みを抱いて、地域の不良たちを先頭に、周りを焼け野原にしてるみたいなの。巡航戦車までどっかから手に入れてきたみたいだよ?』
巡航戦車を学生が?
本当にどうなってるんだ、この都市は。
ここに来てから何度目かのため息をつきながら、会話を聞くことに戻る。
『それで、どうやら連邦生徒会所有のシャーレの建物を占拠しようとしてるらしいの。まるでそこに何か大事なものがあるみたいな動きだけど?』
「……」
『まぁでも、とっくにめちゃくちゃな場所なんだから、別に大した事な……あっ、先輩、お昼ごはんのデリバリー来たから、また連絡するね!』
そういって一方的にぶつりと通信を終了させられたリンの顔には青筋が浮かび、今にも爆発しそうな様子である。
普段ならあぁいう不機嫌になった女には話しかけないのが吉なんだが、今後のことを考えるなら、話しかけるのが正解なのだろうな。
「大丈夫か、リン。」
「……だ、大丈夫です。……少々問題が発生しましたが、大したことではありません」
そうして、何かに気付いたように。
何か妙案を思いついたかのように。
非常に悪い顔をしたリンは、先ほどまでの面々、つまりは早瀬ユウカたちをじっとりと見つめた。
あの表情には覚えがある。不二子がバカな相棒に対して提案するときの顔だ。
「……?」
「な、何? どうして私たちを見つめてるの?」
「ちょうどここに各学園を代表する、立派で暇そうな方々がいるので、私は心強いです」
「……えっ?」
「キヴォトスの正常化のために、暇を持て余した皆さんの力が今、切実に必要です。行きましょう」
「ちょ、ちょっと待って!? どこに行くのよ!?」
言い切るやいなや、素早く歩き出すリンと、それを追いかけるユウカたち。
「これが、最初の仕事ってわけか」
そうして、生徒たちとの自己紹介を済ませながら30kmの距離を徒歩で移動し、シャーレの部室付近へと到着していた。
「な、なにこれ!?」
そう叫んだ、ユウカの声は爆音と共に搔き消される。
銃声に硝煙の臭い、俺のよく知る戦場が目の前に広がる。
「どうして私たちが不良たちと戦わなきゃいけないの!」
そう愚痴を零すユウカを見て俺は口を開く。
「それならどうする、ここで退くか?」
「……そうは言ってないです!」
文句を言いはするが、その動きに迷いはないし、真摯さが欠ける様子もない。
典型的なお人好しというやつなんだろうな。
そう思い、少し頬を緩めた瞬間に、彼女の不満をあざ笑うかのように、一発の弾丸が、ユウカの胸に当たり、吹き飛ばされる。
地面に横たわるユウカを見て、俺はすぐに駆け寄り、安全な地帯で肩を揺さぶる。
「おい!大丈夫か!」
「痛っっったいわね!あいつら違法JHP弾使ってるじゃない!!!」
「は?おい、ホローポイント弾を喰らってなんで」
「伏せてください、ユウカ。それに、ホローポイント弾は違法指定されてはいません」
「うちの学校ではこれから違法になるの! 傷跡が残るでしょ!」
「先生には、説明し忘れてましたね」
曰く、頭の上にあるヘイローとやらのおかげで通常の兵器程度では死なないほどに頑丈になっているのだとか。
どうなっているんだ、この都市は。
「そうか、ならいいんだ。」
「あ、先生もしかして今、心配してくれたんですか?」
「うるせぇ」
ニマニマしているユウカから、目を逸らしながら、腰に携えている相棒に手をかける。
困ったな、ということはこいつらにはマグナムじゃ、殺れないってことになるのか。
「リン、一つ聞くが、頭にこいつの弾をぶち込んだらどうなる。」
「そうですね、頭であれば死にはしませんが、当たり所によっては気絶する程度でしょうか」
「そうか、なら祈るしかねぇな」
「先生、聞きそびれましたが、その銃は……?」
「こいつか?こいつは……俺の古くからの相棒だよ」
遮蔽から上半身を出し、素早く照準を合わせ、最も近い不良生徒の6人の頭目掛けて銃弾を放つ。
連続で放たれた弾丸は、吸い込まれるようにそれぞれ不良生徒達の眉間に吸い込まれ、直撃していく。
どさりと倒れる音と共に銃声が鳴り止む。
「せ、先生あなたは、一体前に何を……」
「あとでな、それよりも、おいでなすったぞ」
建物の奥の方からエンジン音が響いてくる。
件の巡航戦車がこちらに向かってくる。
エンジン音で紛れているが、他の仲間も複数いるだろう。
「俺の腕は見せた、次はお前らの番だ。頼りにしてるぞ」
第一話いかがだったでしょうか……?
まだまだエミュが至らないところがあるかと思いますが、精進していく次第です。
Q.次元って女性苦手だけど大丈夫なの?
A.推しが大変そうになってるのってよくない?