「こいつで最後だ」
最後の一人のヘルメット団の眉間にマグナムを命中させ、撤退させる。
その日のうちに来るとは予測できなかったのか、無警戒なところを襲撃されたヘルメット団の前哨基地は、ホシノ達含めたメンバーによって壊滅させられた。
もうここは前哨基地として機能することはないだろうな。
「これでしばらくはおとなしくなるはず」
「よーし。みんな、先生、お疲れー。それじゃ、学校に戻ろっかー」
ホシノの号令によってそそくさと他のメンバーは帰る支度をし始めた。
俺もついていくべきなんだが、今回はそういうわけにはいかないんでな。
「よし、お前さんらお疲れさん。先に戻って休んでな」
「?……どうしたの〜、先生。帰らないの?」
「俺は、まだ仕事が残ってるんでな、それを片付けてからだ」
「手伝うよ?」
ホシノが首を傾げながらも手伝おうとするが、まぁ監視が主目的だろうな。
信頼できねぇおっさんを一人にするわけにもいかないってことだろうなぁ。
「なに、そんな大したことはしねぇよ、ちょっと道草食うだけさ」
「え〜まだ、ヘルメット団もいるかもしれないしさ~。おじさん心配だよ~」
「おいおい、俺の腕はさっき見せただろ?心配することでもあんのか?」
「あるよ」
じっとりとしたホシノの視線と共にハッキリとお前はまだ信頼できないと暗に伝えてくる。
どうやら琴線に触れたらしいな、隠すほどのことでもないんだが。
泥棒の技術を見せるのは、ちょっと教育的にどうなんだと思う。
だから避けたいんだが……
はぁ、信頼には代えられねぇか。
「わかったわかった。おじさんの負けだ、言っとくけどよ、あんま面白くねぇぞ?」
「別にいいよ、監視だと思ってよ。言ったじゃん?信頼させてよ?ってさ」
ぐうの音も出ないほどの正論だな。
最近のガキは揃いも揃って頭が回って困るな。
頭の後ろを掻きながら、話始める。
「俺は、少しホシノと野暮用を済ませてくる。他のお前さんらは先に帰って休んでいてくれ。」
「おじさんが見てるから、みんなは休んでねー」
『一応私も通信は繋げてますので、何かあれば報告をお願いします。』
「悪いな、もう少しだけ頼むぜ」
ホシノが残るということで納得したのだろう、残り三人は学校の帰路についた。
またあとでねー、と呑気な声でホシノが手を振りながら見送っている。
そうして、声が届かなくなった辺りで、ホシノは俺の方を向いた。
「それでさ……何する気なの?先生」
鋭く冷たい目線を向けてくる。
まるで剝き出しの刃みたいなそんな目つきだ。
軽く肩をすくめた俺は、口を開く。
「あんま、見せるもんじゃないんだがな。先生になる前によくしてたことをするだけさ」
「……何それ?」
「まぁいい、ついてきな」
そういって、俺が先導して、ホシノに背中を見せながら基地内に戻る。
しばらく歩くと、道の端にアサルトライフル……AK-12が落ちていた。
逃げ出した団員が落としていった銃を拾いあげる。
「それは、さっき倒したヘルメット団の装備?」
「そうだ、ちょっと気になることがあってな」
そういって、アサルトライフルを分解していく。
「やっぱりな」
「どうしたの?」
「射撃機構のところが随分と新しい。新品に近いな。予想通りか……」
「うへー。先生よく気付いたね。見えたの?」
「聴いたが正しいかもな」
感心した振りをしているが、声に驚きは含まれてないように感じる。
どちらかというとそれは、予測していたことがあっていて答え合わせで合っていた。
そんな感じの感情が含まれていたように思う。
バラバラにしたアサルトライフルを元に戻し拾って、立ち上がる。
再び俺を先頭に歩き始める。
「ホシノ。カタカタヘルメット団ってのは懐に余裕のある組織なのか?」
歩けば歩くほど道に捨ててある銃を拾いながら、ホシノに聞く。
「ううん。あれは寄せ集めの集団だよ。不良とか、退学した生徒とかのね。数だけは多い、まともな装備も整備もしない武装集団。……確かに綺麗過ぎるね。下ろし立てみたい。ってことは。」
「あぁ、裏に誰かが着いている。間違いなくな」
「先生、それ全部持って帰るつもりなの?」
俺が更に銃を拾い上げたところでそう聞いてくる。
「俺はな、ガンマンなんだ。相棒がいるし浮気なんてしねぇが。まだ生きている銃を見捨てていくのは気分が悪い」
「……へぇ、意外と甘いんだね先生」
「けっ、だから見せたくなかったんだよ」
「そう?まぁいいや、おじさんも手伝うよ~」
少しは信頼されたってことか。
俺の真似をして銃を拾う。
銃を拾いながら部屋の中を少し探索する。
せめて武器の購入が記された紙でもあればよかったんだが……
「先生、何か見つけたの?」
「あぁ。」
俺の手には一枚の紙がある。
襲撃の影響で破れたものだが、そこには、何者かからヘルメット団に対して依頼として資金の援助をしていることを確定づける資料だ。
「肝心の誰がってところが破れて見れないのが残念だな」
「うん……」
「ショックか?」
「いや、それでもやるべきことは変わらないから」
「強いな、お前さん」
やるか、やらないか。結局それがしっかりとわかってるやつは強い。
少なくともこの時の俺はホシノのことをそう評した。
「もうこれ以上漁っても時間を食うだけだな。帰るか」
「うん、分かったよ」
そういって二人で帰り道に歩を進めた。
「みなさん、お帰りなさい。お疲れ様でした」
帰ってきた俺たちは、いつもの教室に戻ってきていた。
「おつかれ〜。うへ〜、おじさん疲れちゃったよ」
「ホシノ先輩たち、銃いっぱい持って帰ってきたね?」
「そうなんだよ〜。先生がさ、この子たちを見捨てていけないって聞かなくってさぁ~」
概ねその通りだから何も反論ができないのが痛いところだな。
意外だなんだと話しているが聞こえていないふりをしようと思う。
「ホシノ、それで条件のことだが覚えているか?」
「あぁそうだったね」
「ホシノ先輩っ!?本当に話すの!?」
「私は構いません。先生は信頼してもいい方だと思いますから」
「ア、アヤネちゃん!? いいの!?」
「私もいいと思う。協力してくれる大人は他にいない」
「私も賛成です。ヘルメット団の問題が解決したのは、紛れもなく先生のおかげですから」
アヤネ、シロコ、ノノミの三人は俺を関わらせてもいい、つまりはアビドスの借金について話してもいいと判断したらしいが、セリカはまだ折り合いがつけられてないようだ。
「確かに先生がパパっと解決してくれるような問題じゃないかもしれないけどさ。でも、この問題に耳を傾けてくれる大人は、先生くらいしかいないじゃーん?悩みを打ち明けてみたら、何か解決法が見つかるかもよー?それとも何か他にいい方法があるのかなー、セリカちゃん?」
「うぅ……!でっ、でも! これまでの問題はずっと私たちだけでどうにかしてきたじゃん! 他の大人たちは誰も気に留めずに見向きもしなかったでしょ!? 今更首を突っ込まれるなんて、私は嫌!」
その言葉は確かに、尤だ。
感情だけに目を向ければの話だがな。理論的に諭そうとしたホシノの言葉を聞いて、歯噛みしながらも、セリカは俺に向けて反抗的な視線を俺に向けて、啖呵を切って教室から飛び出していく。
「セリカちゃん⁉︎」
「私、様子を見てきます」
「若ぇなぁ……」
セリカを追いかけて、ノノミが出ていき、俺のボヤキが気まずい雰囲気の教室内に染み込む。
数分が経った頃、ホシノが口を開く。
「えっと、そもそも先生はどこまで知っているの?」
「お前さんらが、9億の借金を背負っているってことだな。これはあってるな?」
「はい。正確には9億6235万、ですね」
「10億じゃねぇか」
逆サバ読んでんじゃねぇと少しだけため息をついてしまう。
「これが返済できないと、学校は銀行の手に渡り、廃校手続きを取らざるを得なくなります。ですが、実際に返済できる可能性は0%に近く……ほとんどの生徒は諦めて、この学校と街を捨てて去ってしまいました……」
「そして、私たちだけが残った」
「なるほどな……」
その状態になってもなお諦めずに今まで努力し続けた。
狂気とすら言っていいほどの精神力に、驚かざるを得ない。
「学校が廃校の危機に追いやられたのも、生徒がいなくなったのも、街がゴーストタウンになりつつあるのも、全てこの借金のせいです」
「それの原因が、数十年前の砂嵐か」
「はい。この地域では以前から頻繁に砂嵐が起きていたのですが、その時の砂嵐は想像を絶する規模のものでした」
机の上に広げた地図に対して、砂漠化が行われている場所を囲うようにマーカーをつける。
「学区のいたる所が砂に埋もれ、砂嵐が去ってからも砂が溜まり続けてしまい。その自然災害を克服するために、我が校は多額の資金を投入せざるを得ませんでした」
「しかしこのような片田舎の学校に、巨額の融資をしてくれる銀行はなかなか見つからず……」
「結局、悪徳金融業者に頼るしかなかった」
シロコが、アヤネの言葉を引き継ぎ、地図の一か所を恨めしそうに何度も指で叩く。
「カイザーローン……大手中の大手だな」
カイザーローン、いや、カイザーコーポレーションというべきか。
PMC、銀行経営、リゾート開発、兵器の販売など、様々な分野に手を伸ばしている。
その大企業の系列会社が、カイザーローンだったか。
経営方針は"儲かればそれでいい"……典型的な悪徳会社。
悪い付き合いも多いようだが、ガキ相手にムキになってる時点でろくでもねぇのは事実だな。
「最初のうちは、すぐに返済できる算段だったと思います。しかし砂嵐はその後も、毎年更に巨大な規模で発生し……学校の努力も虚しく、学区の状況は手が付けられないほどの悪化の一途を辿りました」
マーカーで何度も何度も塗り潰すように、アヤネは線を引く。
「そしてついに、アビドスの半分以上が砂に呑まれて砂漠と化し、借金はみるみる膨れ上がっていったのです……」
そうして残ったのは、広大な土地をほとんど塗り潰し、微かに空間を残した歪な地図だった。
僅かな空白でさえ、インクで滲んで、今にも空白を塗りつぶしてしまいそうだった。
「私たちの力だけでは、毎月の利息を返済するので精一杯で……弾薬も補給品も、底をついてしまっています」
「調べるどころか、話を聞いてくれたのは、先生、あなたが初めて。セリカがあそこまで神経質になってるのは、これまで誰もこの問題にまともに向き合わなかったから」
「……まあ、そういうつまらない話だよ」
つまらない、か。
確かに今まで色んなつまらない話を聞いてきたが、これは格別に笑えねぇな。
「で、先生のおかげでヘルメット団っていう厄介な問題が解決したから、これからは借金返済に全力投球できるようになったってわけー」
「……ありがとう、先生。話を聞いてくれて。もう大丈夫。先生は十分力になってくれた。これ以上迷惑をかけられない」
シロコはそう言った。
信用信頼、そんな話ではなく、俺に対して助けを求めない。
そういう言葉だ。
これがこいつらの心の闇だってことがようやく理解できた。
大人は力を貸さないものだ、大人はみんな見て見ぬふりをしてくるものだ、大人は誰も助けてくれないと本気でそう思っている。
それこそ、心の底から。
人間不信だなんて陳腐な言葉で表すことができない。
諦めに近い心理状況。
「ガキが何、マセたことを言ってやがる。アヤネお前の依頼文には、ヘルメット団のみを撃退しろなんてとは書いていなかったな?『私たちの力になってほしい』それが今回の依頼だ」
「そ、それって」
ホシノのオッドアイの瞳が少し揺れたのが見えた。
──敵意と警戒、そして微かな期待。
俺はメンタリストみたいな詐欺師でもなけりゃ予言者でもない、だからその心の全てを理解することはできない。
「依頼はしっかり最後まで、それが俺の流儀だ。」
そういって俺は手を差し出す。
その手をホシノはにへ、と笑って握り返す。
これで、ここのメンバー全員と握手を交わせた。
そして何より、自分の意思で俺の手を掴んでくれた。
「やっぱり、先生って優しい人なんだねー。こんな面倒なことに自分から首を突っ込もうなんてさ」
「優しくはねぇよ、ただ見捨てて明日の飯が美味いかってだけだ」
「ん。それを優しいっていうんだと思う」
俺は、シロコの額にデコピンをした。
次回。ようこそ!柴関ラーメンへ!
その前の構想を考えたいので短いですがこれくらいで……
皆さんのおかげで、あっという間にお気に入り件数300越え……
まだ投稿し始めて二日しかたってないのに平均評価も8.5と、これも皆様の応援あってのものです。誤字報告も大変助かっております。
過去最高に創作欲が出てるのでまた近いうちに次のお話を投稿出来たらなと思っています。
ここすき、感想、評価等々お待ちしております。