「この鍵……どうしよっか」
木漏れ日のさす道を歩きながら、私は仲間へと聞いた。
その手の中には、先生からリーダーへ、リーダーから自分へと渡されたこの世で最も安全な地帯の鍵が握られている。
「そうですね……リーダーはどう思いますか……? あれ……?り、リーダーは!?」
「あれ?」
「た、確かにリーダー後ろにいたはずなんですが……い、いなくなりました!?」
ヒヨリが振り返って、リーダーへ意見を仰ごうとして気付いた。
もう姉さんが私たちの元に居ないという事に。
ようやくみんな一緒になれたのにあの人は……
「……チッ」
「ミサキ……?」
思わず舌打ちをした私に気が付いた姫が、顔を伺ってくる。
姫にすら言ってないとか、ホントどうかしてる。
私は二人にリーダーが何をしたのかバラすことにした。
「リーダーなら、どっか行ったよ……」
「ど、どっか行ったって、なんですか!?」
「そのまんまの意味だけど? 私に、みんなを頼むって鍵と一緒に……勝手がすぎるよね」
手の中の鍵を握りしめて、思い返す。
──ミサキ、すまないがみんなの事を頼んだ。
──これはミサキ達が持っておくべきだろうから託すぞ。
「り、リーダー……どうして……」
ほんと……酷いよ姉さんは。
「ずるいよサオリ……こんな風に足枷を残すなんて……」
私が自殺しないために、こんなことをしたの……?
二人の命を預からないといけない。
サオリ姉さんが今までしてきたことだけど……
「私には、重すぎる……」
とても抱えきれない。
姫が側に来て、俯く私の肩に手を置いて優しく抱き寄せてくれる。
そして、同じくらい優しい声で囁いてくる。
「……大丈夫、ミサキ」
「……姫」
「サオリには、もう少しだけ時間が必要なんだ。
……己を振り返り、自分を知る時間が。
自分の命題に答えるための時間が……」
──私は、生きていても……いいのか?
──さぁな、自分で見つけるしかねぇよ。
先生と姉さんが交わした短いやり取りを思い出す。
そうだよね……姉さんも、自分一人で考えたいことはあるよね……
姫の言葉を聞いてヒヨリが、姫へと問いかける。
「リーダーは……サオリ姉さんは、帰ってくるんでしょうか?」
誰よりもサオリ姉さんのことを慕っていたヒヨリのことだから、二度と会えないかもしれない事が心配なのだろう。
そんなヒヨリの言葉を聞いて、姫は明るい表情で答える。
「うん……サッちゃんは帰って来るよ」
「今後、私達だけで……生きていかないといけないんですか?」
「うん……いつまでもサッちゃん頼りじゃいけないからね」
だから、と続けて、姫は私の手と一緒にシャーレの鍵を握って話し始める。
「これに簡単に頼っちゃだめ、だと思う。先生は私たちを子供じゃないと言ってくれた。 今のままじゃ、まだ先生に顔向けできないし……何より、それはコンクリートに咲いてる花に失礼だよ」
「…………そうだね」
「……な、なんだかアツコちゃん、アズサちゃんみたいなこと言うんですね」
行く先の見えない道を歩きながら、ヒヨリは姫にそう話す。
確かに、アズサなら同じようなことを言いそうだと、私も少し顔を綻ばせる。
「うん……私達はきっと色んな人から指を指されて生きていくことになると思う……きっと虚しくて悲しい人生かもしれない。それでも……そうだったとしても、抵抗し続けることを止めるべきじゃない」
「アズサがやり遂げているんだし……それも、そうなのかな……」
「そ、そうですね……私達だってスクワッドなんですから」
姫の言葉に続いて私達かそれぞれ言葉を零すと、姫は私たちを優しく抱擁してくれた。
少し震えている。
やっぱり姫も怖いんだ。
それでも、彼女の顔にはその曇りは一切見えない。
それは決して瘦せ我慢でもなく、決意の表れ。
「……最後には、きっとハッピーエンドを迎えられる。だから、一緒に頑張ろう」
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聴聞会を終えた翌日。
あの後、俺は疲れた体を癒すためにそのままぐっすりと死んだように眠った。
ベッドに入らずに、ソファで寝ちまったせいで体が固ぇ上に、起きたら体の上にイズナが乗っかっていたこと以外は大した問題はなかった。
しかし、こいつ……いつの間に俺の懐へ潜り込んでいやがったんだ?
まぁいい……イズナに気付かれねぇように俺はソファから抜け出してレポートを纏めていた。
具体的には二つ。
一つは昨日の聴聞会についてだ。
あの聴聞会で、ミカは三つの処罰を受けることになった。
一つ、ティーパーティーとしての権限の剝奪。
あの三つの席が一つ空席となった、本来ならシスターフッドの長であるサクラコや、救護騎士団の団長であるミネがその席に座る事になるはずなんだが……どうやら彼女たちは辞退をしたため、現状はホストであるナギサと、元ホストであるセイアが務めることになった。
二つ、パテル分派代表の降格、ただし次期代表が決まるまでの間、パテル分派長として行動すること。
本来なら空席のままで分派の解体で終わるはずだったが、パテル分派は、調印式でのごたごたの際にクーデターを起こしかけた事件がある。
それを止めたのは間違いなくミカだ。
俺はそれを持ち込んで、分派の解体の停止と、実質的なミカの権限の維持を申し出た。
あのパテル分派を、制御できるのはミカぐらいなものだ。
議長さんもそれを理解したらしい。
そして、三つ、聖園ミカの拘禁を現時刻をもって終了とし、学業への復帰を許可する。ただし、己の立場を常に意識し、学業以外の自粛を求めるものとする。
己の犯した罪に向き合い、反省し、学生生活を送ること。
退学すら危ぶまれたミカのそれを変える事が出来たのは、セイアの申し出によるものだった。
ミカの置かれていた状況、諸悪の根源であったベアトリーチェの存在。
要するに、ミカ自身の判断ではなく、それを利用して捻じ曲げた人物がいた事を証明したわけだ。
当然実行犯としての罪は消えないが……それでも退学処分に比べれば、マシなものだろう。
一つ目の処罰の話になるが、ティーパーティーの空席を埋める者がいない間は、パテル分派長である聖園ミカが、権力を有さずに、ホストを補佐する形で所属するという話があったことを明記しておく。
この辺の根回しをしたのは、ナギサだが……ミカの為なら権力を手放しても構わないと言ったのは強ち間違いじゃなさそうだな……
三人が、並んでまた笑うことが出来る未来を模索していたんだろうな。
ナギサならやるだろうさ。
あと気になるところと言えば……セイアのことだ。
聴聞会が始まる前、アイツは俺に対してこう話した。
──私はもう、予知夢を見ることも夢を渡り歩くこともない。
──其れが、かの悪夢から抜け出すための代償だった。
その後何か話したそうにしていたが……お楽しみはとっておくものだなんて濁して会に集中し始めやがったからな。
あの危機に対して笑うようになった癖は誰に似たんだかってもんだ。
二つ目のレポートは、アリウスについての事だ。
あの後、トリニティによって一度は制圧されたが、現在はその統治権をアリウスへと返し、今はアリウス分校に残った生徒たちによる自治が行われているとの話だ。
俺が無暗に手を出すものでもないと思っているが……いずれは、そいつらの生活環境もよくしてやりたいと考えている。
話によれば、既にティーパーティーから内密にトリニティへの転入などの受け入れを行っているとの話もある。
それでも、あのエデン条約でのテロ行為の爪痕は深く、仕方のないことだがアリウスの名に警戒を示す者が多いのも事実だ。
だから、俺は連邦生徒会に請け合ってそこの改善を進めている。
ベアトリーチェの存在とそいつによって支配と洗脳をされていた事実。
悲劇のヒロインのようなお涙頂戴の展開にはしたくねぇからな。
上手くやっていかねぇといけないもんだ。
スクワッドに関しては、完全にゲヘナとトリニティからの追撃を取り消しにしてもらうようにした。
まだ、アリウスからの追っ手がいる可能性はあるが……それは、彼女たちの背負う罰の一つだろう。
全部消してやることは出来ねぇからな。
この長い一日で起きた出来事の全てを纏めて、それをリンへと送った。
パソコンでの仕事も随分と慣れてきたもんだと、ここに来たばかりの自分を思い返しながら、軽く体をほぐしていると、部屋のドアが勢いよく開かれる。
「先生、今帰ったわよ!」
「アルか、仕事が終わったか」
「えぇ、新しい友達を連れてきたのだけれど良かったかしら?」
アルがわざわざシャーレに連れてくるってのは珍しいな。
同じ闇社会の人間か?
なんでもハルカと一緒にシャーレを案内してるらしいから少し遅れるとの話だった。
「それで?どんな奴なんだ?」
「えぇ、なんでも少し前までとんでもなく酷い雇い主の下で働いていたらしいのだけれど……良い人に助けられて、今は自分の為に働こうとしてるらしいのよ」
「…………」
いや、俺の気のせいのはずなんだが……つい最近まで似たような話を体験したんだがな。
案外、キヴォトスでも日常的なことなのか?
「それで、同じ仕事を請け負ったのだけれど、聞いて頂戴?そこの雇い主が支払いを踏み倒してきたのよ!」
「あぁ……まさか、ハルカが案内してるってのは」
「えぇ、ハルカがその子の目の前で雇い主を撃っちゃって、その流れで仲良くなったらしいのよ」
雇い主を撃ったことに動揺を示さない辺り、こいつも成長したと思うが……
まぁ、大方ブラックマーケットの連中だからな、どうなろうと知ったことではねぇが……
「そのあと、私達と合流して帰ってきたのだけれど、その子中々のアウトローよ、先生にも会ってほしいのだけれど」
「お前さんが見込んだ奴だ。俺も気になってきたが……名前は何て言うんだ?」
「あぁ、そうね……名前は確か──「アル様、連れてきました」……あぁ、ハルカありがとう、先生この子よ」
ドアを開けて、ハルカがうやうやしくアルへと報告してから部屋の中に入って来る。
嫌な予感ってのは当たるもんだな。
ハルカの後ろから現れたのは、長い黒髪に、黒いキャップと白いコートを着崩して羽織った長身の女性。
「錠前サオリさんよ!」
元気にサオリのことを紹介するアルと対比して、俺とサオリは気まずい空気が流れる。
「まさか、先生のことだったとは……」
「随分と早い再会になったな……サオリ」
「あ、あれ?もしかしてお知り合いだったかしら……?」
白目を剥いて慌て始めるアルをみて、軽く笑いながら俺は席を立ってサオリをもてなす準備を始める。
全く……運命ってのはどう転がって来るもんだか分からねぇもんだ。
過去の罪を背負いながらでも、軌跡を刻み続けていく。
こんな小さな奇跡も、それだけで笑えるんだからな。
俺は一杯の珈琲をサオリに差し出しながら、そう思った。
失墜した正義
折れない信念
意義と意味をブレぬ軸として
次章 兎と悪党
これにて、本当にエデン条約編完結です。
今回は遊技機初出の演出を入れたり、人生初の曇らせを書いたり、色々挑戦してみましたがいかがでしたかね?
兎編は、本当にノープランなので、またしばらくお時間いただきます……
どうしようか悩みどころさんなので……
以前告知した次の#EXで行う予定の『貴女にとってーシャーレ編ー』で幣キヴォトスのアル社長に対しての質問を、現在活動報告の『ハヤテちゃんからの伝言』で募集しております、10月6日までの募集となっていますので皆さま良ければ……
さてさて、EXで他にやる予定なのは、第三回目の見るシリーズと短編集の方の募集で頂いたリクエストの中でこちらでやりたいと思っていたものをいくつかやる予定でいます。
では、最後にもしよろしければここすき、感想、評価お待ちしております。
今の話のタイトルが分かりにくいとの意見を得て変更するか否か
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例:殺し屋の矜持
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例:1-10
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例:1-10 殺し屋の矜持