伊草ハルカ。
休学中だが、ゲヘナ学園の1年生。
根っからのネガティブ思考と、自分のことを下げすぎるきらいがあるが、仲間を侮辱されたり、それに値する行動をした際には、誰よりも前に出て即座に敵を殲滅する。
コワーイ女だ。
まぁ、とは言え、懐かれると子犬のような忠犬のような……あぁ、そうだ。末っ子を相手取ってる感覚に陥る。
うちにも似たような侍がいるせいだな。
まぁ本人が聞いたらぶった斬ってきそうだが。
話は戻るが、そんな彼女は、幼い頃から虐められていた。
あの自罰的で自虐的な思考はそこで形成されたものなのか。
アルとの出会いのおかげで、マシになっているらしいが、それでも彼女の心に負った傷は広く深い。
どこに行っても、みみっちい事をする野郎は消えねぇもんだと呆れたが……最近は、学園を離れて便利屋に所属しているおかげで、その被害もないらしい。
それが、彼女の過去を調べて纏めた俺から見たハルカって女の姿だ。
なんでわざわざ、こんなことを思い返したかと言うとだ。
目の前で、うちの仲間に手を出そうとしてる不届き者がいるからだ。
俺は気配を消しながら歩き出す。
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今日は、先生とアル様から頼まれた依頼をしてきました。
ゲヘナ学園の自治区にある廃墟を、不法占拠している不良を片付けるという依頼でした。
いつもよりもちょっとだけ大変でしたけど、怪我することもなく無事に終えて、早く帰れると心を弾ませながら帰宅しているところでした。
なのに……なんでよりによって……
私の目の前には、銃を肩に担いで、ニヤニヤと笑っているゲヘナの生徒が2人。
見覚えのある顔……私がまだ、アル様に出会う前に私のことを虐めていた2人だ。
「あれ?何処の生ゴミかと思えばハルカじゃん!久しぶり〜」
「最近見かけなかったからさ〜、ほんとマジ心配してたし」
怖い。
体が竦む。
彼女たちに刻まれた行為の数々を思い出して、縮こまる。
後ろに後退りすると同時に、彼女たちが1歩前に踏み出す。
そうやって壁に追い込まれていく様子は、ハイエナが獲物を追い詰めていく様に似ている。
「連絡くらいしろよ〜、なぁ?」
「ほんとほんと、私たち毎日『遊んでた』仲じゃんね?」
嘘だ。
当時の私は、知らなかったけど、今の私なら分かっている。
アル様にカヨコ課長、ムツキ室長、それに先生と接してきたから、理解している。
本当に人と仲良くしたい人たちの目と声を。
私は知っている。
この人達の目に浮かぶのは、ただの悪意だということも。
「あ、あの……私、急がな──「あ?なんか言ったか?」……ひっ」
「そーだそーだ、久しぶりに遊ぼうぜ」
「いいねいいね〜! また可愛がってあげる」
私が話そうとすると、壁ドンをするように私の頭の横に蹴りを入れて、その大きな音と睨みで黙らせてくる。
体が完全に動かない。
私の怯えた姿に満足したのか、彼女たちは楽しそうに話し合っている。
「久しぶりに
「いいじゃん、ハルカちゃんの
「あっ……はっ……はっ……」
呼吸が定まらない。
目の焦点が揺らいでいく。
怖い、やだ。
「ねぇ?さっきからさ、何怯えてんの?声ウザイんだけど」
「そうそう、こんなのただの遊びじゃんか。辞めてよね、私たちが悪者みたいじゃん」
……誰か、助けて。
私が、そう祈った時、彼女達の肩を大きな手が掴む。
その手は、硬いタコと小さな傷跡がついていて、その持ち主の経歴を雄弁に語っている。
「何をしてやがる」
短く発せられた言葉は、普段聞く私ですら、竦み上がる程の怒気と殺意が籠っている。
2人は、蛇に睨まれた蛙のように動かなくなり、後ろを振り向けず、ただ目を泳がせている。
振り向けば殺されるという圧が、二人を金縛る。
「俺の仲間に何か用か」
「い、いえ……」
「な、なんでも……」
さっきまで私に強く当たっていたのが嘘のように、彼女達の声は小さくたどたどしく答える。
「そいつがシャーレの一員だって、分かってやってんだよな?」
「シャーレ……?」
「ま、まさか、先生?」
シャーレの名前を聞いた2人が振り返ると、そこに立っていたのは、深く中折れ帽を被り、黒いスーツを身にまとった私達の先生だった。
「なんで、アンタがこんなゴミを……ひっ」
「俺のパートナーをゴミ呼ばわりとは、随分偉いじゃねぇか」
見えないほどの速度でマグナムを抜いた先生は、口を開いた片方の眉間にその銃口を向ける。
「……よ、よりによって先生が、こんなゴミの何処がいいってんだ!」
向けられてない片方が、その状況に怒り、先生へ銃を向ける。
その瞬間、私の中で何かがプツリと切れる。
「せっ、先生に、銃を向けるな!!!」
気がついた時には、私は手に持ったショットガンの銃底で彼女の後頭部を殴り、怯んだ隙に、その背中に散弾を放つ。
「はーっ、はーっ……先生!殺しますか!?」
倒れて気絶した片方を仰向けに転がして、口に銃口を捩じ込んでから、私は先生の方を向く。
そして気付いた。
先生が、笑っていることに。
「いや、もう充分だ。おい、お前さんこいつを連れて、さっさと失せな」
「はっ、はひ……!」
まだ意識がある方に、先生はそう声をかけて、背中を押すと、金縛りが解けたかのようにいそいそと、倒れている方を起こして、逃げていく。
「二度とハルカに近寄んじゃねぇぞ」
「わ、分かりました!!」
その背中に、先生は声をかけてから、私の方を向く。
な、なにかしてしまったのかもしれない。
怒られると思った私は、深々と頭を下げていた。
「ご、ごめんな──「よくやった、かっこいいぜ、ハルカ」……え?」
私の頭を優しく先生が撫でる。
「ぶっ放すんなら、最初っからやれば良かったじゃねぇか、どうしてしなかった?」
私は俯いたまま、先生の声を聞く。
どうして、最初から実力行使に出なかったのか……
「そ、その……別に先生に危害を与えようとしていた訳では無いので……そ、それに私もシャーレの一員なので……私なんかのせいで、シャーレの名前が傷ついたらと思うと……」
先生の撫でる手が止まる。
また何か悪い事を言ってしまったのかと怯えていると、先生が大きな声で笑い始める。
「えっ……えっ……?」
「くっ、あっはっはっはっは!! ハルカ、お前さんは優しいやつだな。ただ気にすんじゃねぇ。
仲間の為に撃って、傷付く名前なんざ最初っから要らねぇよ」
先生は優しく私の頭を撫でてから、歩き始める。
私もその後に着いていく。
先生は変わらず優しい。
あんなに傷だらけで、血の香りを匂わせる人なのに。
硝煙と煙草の匂いを漂わせているのに。
なんでこんなに落ち着くのでしょうか。
「ハルカ、今度からはテメェのためにぶっ放してやれ」
「……はい!」
それは先生だからなのかもしれない。
先生、先生……
まだまだ至らないグズで無能な私ですが、それでも先生の為なら私は何処までもやれます。
先生、私なんかのために怒ってくれてありがとうございます。
だから、この命尽き果てるまで、私は……皆さんの為に、先生の為に尽くし続けます。
先生、どうか、私を傍に置いてください。
笑いながら歩く先生の背中を見ながら、私は静かに祈った。
n番煎じのこのシチュ、無限に味がするから好きなんですよね
ハルカは、子犬みたいな可愛さもありつつ、いざとなった時の狂犬具合も最高に可愛いと思うんですよね
便利屋68業務日誌の最新話とか最高でしたし、あの目はなんなんだ??
今の話のタイトルが分かりにくいとの意見を得て変更するか否か
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例:殺し屋の矜持
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例:1-10
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例:1-10 殺し屋の矜持