新任教師『次元大介』   作:レイゴン

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#EX18 共に歩みたい貴方と奏でるジャズ

 深夜。

 

 時計は既に3時を指しており、街すらも寝静まったそんな時間。

 

 俺は、シャーレの休憩室に作ってもらったBARで酒を飲んでいた。

 

 酒を売ってるところを見つけてからは、様々な酒を買って並べている。

 本当なら店で飲みたいところなんだがな。

 普段使いならここで充分ってなもんだ。

 

 リオが意見を聞きたいからと送ってくれたロボットをバーテンダー代わりにして、俺は毎晩ここで呑んでいる。

 ユウカからの禁酒令?

 

 美味い酒が飲めない人生なんざ味気なさ過ぎるだろ?

 

 ロボットに注いでもらったバーボンを胃に流し込みながら、俺は相棒を見つめる。

 

 こいつと飲む酒はやっぱ美味ぇな。

 

 そう笑っていると、部屋のドアが開かれる。

 

 こんな時間に?

 

 警戒してドアの先を見ていると、そこからゆっくりと現れたのは、紅の長髪と角を生やした俺のキヴォトスでのパートナー、陸八魔アルだった。

 

「アル?」

 

 そして一目見て気付く。

 アルの様子がおかしい事に。

 普段の明るい様子が、嘘のように静まって俯きながら、俺の方へと一歩一歩ゆっくり歩み寄る。

 

 まさか、催眠術にでも掛かったかと疑うよりも早く、アルは俺の懐へと入り込み、そして胸の中に飛び込んでくる。

 足を着いて座ってたお陰で倒れることはなかったが……

 

 アルはそのまま俺のことを抱き締めてくる。

 年相応……いやちょっと幼いくらいの甘え方だな。

 

「おい、アル一体どうした?」

 

「……あの日のことを夢に見たのよ」

 

 

 ──────

 

 ────────────

 

 ────────────────────

 

 目を開けると、私は戦場の真っ只中にいた。

 焼け付いた大地に瓦礫の山。

 人の悲鳴と、銃声。

 

 私はただその何も無い平地を歩き続ける。

 

「ここは……」

 

 ニュースで見たことがある光景。

 

 ここは……エデン条約の調印式をした場所?

 

 なんで私はこんな夢を……

 

 私は歩く。

 

 流れる血に怯えながら、ただ真っ直ぐに。

 

 そして、この場所の終点に辿り着く。

 

「先生と……誰?」

 

 先生を囲む黒いモヤが見えた。

 

 そして、その黒いモヤは先生に向けて銃を構えている。

 

「え、嘘……まって、やだ、やめて」

 

 先生が脇腹を抱えて脂汗を浮かべている。

 白いシャツが赤く滲んでいることから、既に撃たれたあとだったことが分かる。

 

 それでも黒いモヤは銃口を下げていない。

 

 つまり、このモヤの狙いは、先生の命。

 

 銃を探そうにも、何処にも私の銃は見当たらない。

 肌身離さず持ち歩いているはずの先生から貰ったリボルバーすら無い。

 

 そうして慌てふためいてる私の思考を掻き消すように銃声が響く。

 

「……あ、……あぁ……ぁぁあぁああああ!!」

 

 飛び散る鮮血と宙を舞う黒い帽子。

 倒れた恩師を貫く無数の弾丸。

 

 叫びすら出せず、目に焼き付くその光景。

 

 喉から溢れ出す慟哭を、曇天の空に上げ……

 

 私は勢いよくベッドから飛び起きる。

 

「はっ……はっ……ゆ、夢だったの?」

 

 身体の震えが止まらない。

 酷い悪夢だったわね……

 

 寝れそうにない身体を起こして、ベッドの横に大切に置いてあるリボルバーを取って、私は部屋を出る。

 誰も起きていないのは分かっている。

 

 それでも、もしかしたらまだ彼は起きているかもしれない。

 そんな気がしたから。

 あの人が生きているという証拠がないと、この不安で苛まれる身体が落ち着くことがないのは分かりきったことだったから。

 

 そっとエレベーターに乗り込んで、休憩室がある階層まで向かう。

 

 休憩室に備え付けてあるBARの明かりが点っている。

 

 夢の中の光景がフラッシュバックする。

 大丈夫、あれは夢なのだから、彼がそんな簡単に死ぬはずがない。

 わかっているはずなのに、怖くてたまらない。

 

 扉を開くと、そこにはグラスを傾けてウィスキーを飲んでいる先生の姿が見える。

 

「アル?」

 

 私の身体は勝手に前へと進む。

 先生の返事に言葉を返すことはなく、ゆっくりと本当にそこに居ることを確かめるように。

 

 その身体に飛び付く。

 

 温かい、しっかり生きてる……

 あれはただの悪い夢だった。

 

「おい、アル一体どうした?」

 

「……あの日のことを夢に見たのよ」

 

 先生の命を感じながら、私は先生の質問に答える。

 

 その答えに先生は、ただ黙って私の頭を撫でて答えてくれる。

 その優しくて大きな手に撫でられて、高鳴る心臓が落ち着いていく。

 

 落ち着いた私は、離れて先生の隣の席に座る。

 

 わ、我ながら恥ずかしいことをしてしまったんじゃないかしら。

 

「ようやく落ち着いたか?アル」

 

「ご、ごめんなさい……惨めなところを見せたわね」

 

「はっ、笑わねぇよ」

 

 カランと氷をグラスの中に入れて、烏龍茶を入れたものを私に差し出す。

 ほんと、この人には敵わないわね。

 

「……その邪魔しちゃったわね」

 

「気にすんな、こいつと飲む酒も美味いが……」

 

 そう言って先生は、自分の魂であるマグナムを見つめたあと、それをしまったと思えば私の方を見る。

 

「お前さんと飲む酒も悪くねぇ」

 

「っ!!」

 

 え、今、プ、プロポーズされたのかしら!?

 いや、先生のことを考えれば、そんな事をするような人じゃないのはわかっている。

 でも、そんな事言われたのは、初めてで、顔がニヤけてしまう。

 

 さっきまで不安で仕方なかったはずなのに……

 

「わ、私も貴方だと過ごす時間は悪くないと思っているわ……」

 

「そいつは奇遇だな……」

 

 先生はそっと私に対してグラスを差し出してくる。

 

 私はそれを見て、少しはにかんで……

 

 カランと氷を揺らしながらグラスを合わせる。

 

「……アル。お前さんにとってハードボイルドってのはなんだ?」

 

 しばらく二人で飲んでいると、先生がそう質問を投げかけてくる。

 私にとってのハードボイルド。

 

「……そうね、最初は、ただかっこよくある事だったわ。スマートにクールに依頼をこなすこと……」

 

 ワルでカッコいいそんな存在に憧れていた。

 もちろん今もその原点を見失ったつもりは毛頭ない。

 だって私の原点なのだから……

 

「でも、そうね……貴方と出会って、貴方の過去を知って……私も少しは影響を受けてるのかしら」

 

 先生が過去に会ってきた事件、死に別れた人達、先生にとってかけがえのない仲間。

 その全てを知ったわけではないけれども、闇の中にいてそれでも眩しく輝く貴方の生き様を見て、私も影響を受けてしまっている。

 

 私は懐から、リボルバーを取り出してそれを見つめる。

 

『ディアー・パートナー』

 先生から貰ったリボルバーに私は名付けた。

 あれから私の色に染め直したりしたけれど、パーツは何も変えていない。

 

 そんな彼から貰った私にとって二つ目の宝物を眺めて、私は再び先生のことを見る。

 

「誰にも失望させず、誰も惨めになんてさせない。そして誰も泣かせなんてしない……それが私にとってのハードボイルドよ」

 

 まぁ私も泣きたくなんてないからなのだけれどね。

 そんな風に先生に向かって微笑む。

 

「…………」

 

「な、何か言って欲しいのだけれど?」

 

 先生はそれを唖然とした顔で受け止めて、黙ってしまう。

 私何か変なこと言ったかしら?

 

「悪かったな……やっぱり、お前さんはいい女だよ」

 

「ふふっ……私も貴方みたいな人は好きよ」

 

「はっ、もう少し歳食ってから言うんだな」

 

 そう言って先生は耳を赤くしながら、酒を煽る。

 まさか先生にそんな反応をしてもらえるなんて、私も案外捨てたもんじゃないってことかしら?

 

「ふふっ、私も少しは……先生に近づけたかしら」

 

「……渋さは足りねぇが、そうだな」

 

 先生は、そこまで言ってお酒を喉に流し込んで、前を見つめながら話し出す。

 

「お前さんは、もうとっくに俺を超えてるぜ」

 

「えっ……えっ!?」

 

 そういうと、先生は席を立って、扉に向かって歩き出す。

 唖然とする私を置いて、振り向くことすらなく。

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい先生!それってどういう──「それはお前さん自身で気づくもんだろ」……」

 

「アル、お前さんは、ガキじゃねぇだろ?」

 

 そう言って先生は、部屋から出て行ってしまった。

 私が……先生を超えてるところ……?

 

 自分の長所なんて自分で気付くのは難しいのは、知ってるつもりだけれども……

 少なくとも、先生が私のことを認めてくれているってことなのかしら。

 

 あの先生が……あの次元大介が……

 

「ふふっ……」

 

 ここに来る前は、あんなに不安で怖かったのに、先生と話したらそれがあっという間に晴れて、こんなにも温かい気持ちになって……

 

「やっぱり、私……先生のことが好きなのね」

 

 この胸を騒がせる心臓の音と胸を締め付けるような感覚。

 私の体全身を駆け巡るときめき……

 

 私だってバカじゃない。

 

 このときめきが彼に対しての恋だってことは理解してる……

 それでも……

 

 私は、テーブルの上に置いたリボルバーを撫でながら、胸の内にある言葉を自然と零していた。

 

「隣にいてほしいけど、近すぎると落ち着かない。

 私のものになってほしいけど、独り占め出来たらきっとガッカリする。

 彼の全てを知りたいけど、謎めいていてほしい

 

 ほんと何なのかしら……」

 

 私は、出て行った彼の面影を見つめて、フッと笑みをこぼしてからリボルバーを仕舞う。

 きっとこれは今すぐに出るようなものでもない。

 

 これからの長い人生、大人になるまでに見つけるべき答えなのでしょうね。

 

 だから、それまで……この気持ちは心の奥に秘めておくことにするわ。

 

 いつか、大人になったら一緒にお酒を飲みながら伝えてみせるから。





川崎クリエさん、リクエストありがとうございました!

次元大介という男と陸八魔アルという女が相性がいい理由って魂に流れてる音楽がジャズだからだと思うんですよね。
アルちゃんの絆ダイアローグもジャズですし、初代次元大介である小林清志さんも次元大介のことを江戸っ子でジャズにも似ていると仰ってましたしね

だから、便利屋たち四人は全員音楽で表すと決めていたのですな。

さてさて、皆様のおかげでこの小説も総UAが50万を超え、総合評価が8000を超えることが出来ました。

次回は記念すべき100話。
貴女にとってシリーズ最終章~シャーレ編~でお会いいたしましょう。

今の話のタイトルが分かりにくいとの意見を得て変更するか否か

  • 例:殺し屋の矜持
  • 例:1-10
  • 例:1-10 殺し屋の矜持
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