新任教師『次元大介』   作:レイゴン

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#EX19 貴女にとって~シャーレ編~

 ついにこの日がやってきた。

 以前、シャーレに取材しに向かった際は、エデン条約の調印式で、酷い目に合いました……

 

 ってか、部の先輩はなんで私に押し付けたんですかね!!

 絶対撃たれかけたの聞いて、私を行かせると決めましたよね!!

 

 あの後アルさんからは丁寧に詫びを入れられましたし……お礼としてなんでも質問に答えると言ってくれたのは嬉しいんですけども……

 

 それでもあの時当てられた殺気を思い出す度に、背筋に寒いものが走る。

 

 仕事とはいつも憂鬱なものなんて先輩が言ってましたけども……

 いや、押し付けた人が言うセリフじゃないですよね?

 

 前回と同じことにならなければいいなと、思いながらシャーレに向かっていると、入口に人影が見える。

 その人影は私に気が付くと、勢いよく走って近づいてくる。

 百鬼夜行で古くから人気の忍者のコスチュームに身を包んだ狐耳の少女が、私に向かって大きな声で挨拶を飛ばす。

 

「ハヤテ殿!お待ちしておりました!」

 

 そうやって声をかけてきたのは、久田イズナさんだった。

 百鬼夜行連合学院に所属しながら、シャーレで門番兼先生の護衛を任されている方。

 噂では、無数の分身を操る殺人術を使うとかなんとか……

 

 

 イズナさん……まさか態々お出迎えを?

 

「はい!主殿から来たら連れてこいと言われてますので!」

 

 ……主殿?

 

 イズナさんが、便利屋やシャーレの先生と共に行動しているのは、周知の事実だが……そんなイズナさんが主なんて呼ぶ人は、私が考える中では一人しかいない。

 イズナさんが、どうぞどうぞと言いながら私の背中を押して、シャーレの一室まで案内する。

 

 シャーレの休憩室と書かれた扉を開けると、中にはモダンなBARが設置されており、カウンターに座る黒いスーツ姿が目に映る。

 

「ようやく会えたな、お前さんか。色んな学園で俺のことを聞いているっつう小猫は」

 

 次元先生……は、初めまして……

 

「……」

 

 先生は無言で隣の椅子を指で叩く。

 どうやら座れとのことらしいが……拒否権はないらしい……

 

 静かに私は、隣に座る。

 

 俯く私の前に白い液体が入ったグラスが差し出される。

 上を向くと、そこにはロボットのバーテンダーが立っている。

 精巧に造られている辺り、ミレニアム製であることは明らかだ。

 

「ミルクだ。飲めなかったか?」

 

 の、飲めます……頂きます……

 

 先生が優しい声色で話しかけてくるが、雰囲気が怖い。

 先輩まさかここまで見越して……ゆ、許せません……!

 

「それでだ。前の仕事の関係でな、俺はあまり探られるのが好みじゃねぇんだ。

 それで、何でこんな事してやがる」

 

 えっと……それは……

 

 私は、何でこんな事をしているかを最初から今に至るまで全て洗いざらい話し始める。

 

 SNSに上がったアルさんと次元先生の共闘に話題を搔っ攫われ、情報雑誌『月刊キヴォトス』の売れ行きが著しく低下。

 

 このままだと非常にマズイため、先生特集を組むことになった。

 

 私がそこまで話すと、先生は酒を一煽りし、口を開く。

 

「なるほどな。要件は分かった……許可取ってねぇことに関しては目を瞑ってやる」

 

 えっと、では、取材のご協力に関しては……

 

「あぁ、好きにしな……なんだ、その目は。まさか俺もやれってのか!?」

 

 私の目を見つめ返す先生が、そう驚いたような声を上げる。

 そんなことを言うつもりはなかったが、目は口程に物を言うなんて言葉の通りになってしまったらしい。

 

「俺にはそういうのは──「いいじゃないですか、主殿! 主殿もやりましょう?」」

 

 私をここまで連れて来てくれたイズナさんが、先生に飛び掛かりながら提案してくれる。

 私としては願ってもない幸運だけど……先生はお忙しいと聞く。

 こんなことをする暇があるのか、疑問ではあるのだが……

 

「はぁ……資料は勝手に読ませてもらったが、マコトやらリオまでやってるのなら、俺がやらねぇのは違うか……取材は最後に回せ、いいな?」

 

 は、はい……!

 

 良かった、念のためと先生への質問も部員のみんなに聞いといて正解でした!

 最初は怒られるかと思った、先生との緊急面談もどうにか潜り抜けれましたし、そのうえに、先生へのインタビューも出来るなんて……

 私は、ラッキーですね!

 

「それじゃあ、早速会議室まで案内しますね!こちらです!」

 

 そうして私はイズナさんに再度連れられて、上の階へと向かっていった。

 しかしながら……イズナさん、想像以上に距離が近い……

 嫌ではないんですが、子犬のような警戒心のなさを感じてしまう。

 

「ここが会議室です! インタビューのトップバッターはイズナに任されましたので!そのまま任務開始致しましょう!」

 

 そう言って、イズナさんは、既に準備が整っていた会議室の扉を開いて、トコトコと席に着く。

 

 

 

 それでは、早速ですが始めさせていただきます。

 

「はい!お願い致します!ハヤテ殿!」

 

 ずばり、貴女にとって先生とはどんな存在でしょうか?

 

「イズナにとって主殿は、夢を受け止めて肯定してくれる……そんな頼れるカッコいい大人の人です!」

 

 夢……ですか?

 

「はい!イズナは、いつか立派な……いえ、キヴォトス一の忍者になることが夢なんです! もちろん、それがあまり理解されないものであることも……イズナは分かっています」

 

 しかし、今イズナさんは、先生のことを『主殿』と……

 

「少し前に、便利屋の皆さん……そして、主殿と出会うきっかけになった事件がありまして……その時に、便利屋の皆さんに、そして主殿にイズナの夢を応援してくれて……」

 

 恥ずかしそうに、しかし誇らしげにイズナさんは、はにかんでしっぽを揺らす。

 物凄く可愛い子だ……今の表情、記者魂に賭けて、写真に収めるべきだったのに見逃してしまった……

 

「主殿と、アル殿には……返せないほどの恩を頂いてます……イズナが、意思のない道具に成り下がるのを引き留めてくれて、そしてイズナを仲間として認めてくれた。

 

 イズナは、便利屋の皆さんと、そして主殿に出会えて幸せ者です!」

 

 ま、まるで告白かのような言い方ですね……イズナさん……

 

 この子思ったよりも大胆な子だったりするんですかね……?

 

「こ、告白っ!? イ、イズナは……確かに主殿の事を好いていますが……こ、こんなところで言う程、大胆ではないですっ!!

 ですが……主殿は、どんな時でもイズナの夢を笑わないで、応援してくれた御方……

 イズナは、主殿の御傍で……いつもいつまでも、お守りしたいと思っています。

 

 ……はっ、今、イズナ物凄いことを言ってしまったのでは……は、恥ずかしいですぅ~!!」

 

 真っ直ぐに決して揺るがない目つきで、そう言葉にしたと思えば、見る見るうちに顔が赤くなっていき、素早く印を結んだかと思うと、イズナさんの周りから煙が吹き出し、見えなくなってしまう。

 

 そして、煙が晴れるとイズナさんの姿は、どこにも見えなくなってしまった。

 

 ……あ、また撮り逃した。

 私としたことが……二度もミスをするなんて……

 とは言え、盗撮をすれば、間違いなく先生から怒られてしまう……

 

 あんないい表情中々見かけないのに……

 

 しばらく、後悔に苛まれていると、部屋の扉がゆっくりと開かれて、そこから紫髪の少女が顔を覗かせる。

 

「あ、あの……インタビューの会場はここで合ってますでしょうか……?」

 

 はいっ、合ってますよ。

 えっと……伊草ハルカさん、で合ってますか?

 

 伊草ハルカ、便利屋68の平社員。

 錯乱しやすく、その際には大規模爆破テロ並の自爆をするという噂がある方……

 無事に済めばいいのですが……

 

「は、はいっ!ハルカと申します……その、アル様からイズナさんの次に受けてほしいと言われていて……」

 

 でしたら、どうぞ、席にご着席ください。

 

「い、いえ……私なんかが席に座っても……」

 

 お構いなく、立ちっぱなしも大変ですから。

 

「うぇ、で、でしたら……御好意に甘えて……えへへ……」

 

 それでは、よろしくお願いいたします。

 

「は、はい! ハルカ頑張ります……それで、次元先生についてですよね……」

 

 ハルカさんにとっての、先生を教えていただければと思いますね。

 

「えっと、その……パ、パパみたいな人……ですかね」

 

 ぱ、パパですか!?

 

「は、はい……その、いつも私達の朝ごはんとか作ってくれて……頑張った時に頭撫でてくれるんですが……その時の表情が……えへへ……もし私が先生の娘だったら、こんな毎日だったのかなと……ふひっ」

 

 頬を赤らめながらも、ハルカさんは恍惚の表情で笑っている。

 

 何というべきか……少し、大人な顔をしているような……噂で聞いていたものとは違うような?

 所詮噂は噂で、他の学園でも見られましたが、毎日先生と共に過ごしている分、今まで見てきた生徒さんよりも、影響が濃いような気がしますね……

 

「そう、先生のご飯本当に美味しいんです……」

 

 なるほど、味付けに何か秘伝のものでも使っているのでしょうか……?

 

「味……味はもちろんなのですが、その……凄く温かいんです、銃を持った時は、誰よりも怖い顔をするのに、あんなに心温まるものを作れるのが不思議で…… 

 あぁ!!そ、その先生の事を怖いと思ったわけではなくてですね!?」

 

 自分の口を手で押さえながら、慌て始める。

 さっきまでの大人な女性の雰囲気が、嘘かのように噂通りの様子を見せる。

 

「そ、その……アル様は一生御傍でお仕えしたい人ですが……先生は、褒めてもらうように頑張りたくなる……そんな人です……えっとその、記事楽しみにしてます、えへへ」

 

 そういってハルカさんは早々と出て行ってしまった。

 

 思ってたよりも、温厚な方に見えましたが……これも先生の影響なのでしょうか。

 

 そう思いながら、次の人が来るまでの間、静かに集中して取材記録の整理をしていると、後ろから急に何者かに抱き付かれる。

 

「ヤッホー♡ ハヤテちゃん元気にしてた?」

 

 そう声をかけてきたのは、浅黄ムツキさんだった。

 

「くふふ〜♡ 驚いてくれたみたいでよかった〜」

 

 浅黄ムツキ、便利屋68の室長。

 噂によれば、常に笑みを絶やさず、己の快、不快で敵対するかを決める怖い方……らしいのだが、少なくとも何回か話していて、そのような雰囲気は感じない。

 

 驚いた私の顔を見て満足して彼女は、正面の席に座り、私の作業が終わるのを待っているらしい。

 

 すみません、お待たせしました。

 

「大丈夫だよー! それじゃあ、やろっか」

 

 はい、よろしくお願いします。

 

「先生ね〜……やっぱり、イタズラしがいのある人かなっ」

 

 この人、先生にもイタズラしてるんだ……

 あの強面先生に!?

 ムツキさん、心臓に毛でも生えてるのでしょうか……

 

「くふふっ、ハヤテちゃん顔に出てるよ〜? 先生って器の大きい人なんだよ?

 お酒をこっそり麦茶に変えても、ゲンコツ一発で許してくれるし〜、まぁ短気なところはあるんだけどねっ」

 

 そう笑いながら、ムツキさんは言葉を紡ぐ。

 

「いい意味で距離感が近いっていうのかなぁ……ほんと家族みたいな人なんだよね」

 

 優しく微笑む彼女は、さっきまでのイタズラ好きの少女のような表情とは違う母性を感じさせる表情を見せる。

 

「くふふ、それでもね。

 先生ってほんっとに人のこと頼ろうとしないの」

 

 この前の調印式の戦いでは、確か三大学園の皆さんが、先生のために集まったと聞いていますが……

 

「そういう戦力としては頼ってくれるし、私たちも先生のためなら動くけど……そうじゃないの、体調面とかそれ以外にもさ……はぁ、本当にね……まぁ、だからきっと先生のことが好きな生徒って多いと思うんだ。

 

 ……でも、あの人を攻略するのは苦労するよ~?

 先生の背負った重荷、絶対に預けてくれないんだもんね」

 

 窓の外を眺めながら、そう言葉を零して、誰よりも大人な顔をした少女は部屋から出て行ってしまった。

 

 つくづく、噂というものは尾ひれがつくものだと認識させられる。

 

 記者として、噂はうまく扱っていきたいものだが……それでも、マイナス面の噂が払拭されたらいいなと、そう思うばかりだ。

 

 そんなことを思っていると、次の人が入ってくる。

 

 モノクロの髪と鋭い赤い目を持った少女、便利屋68の課長 鬼方カヨコさんだ。

 噂では、一睨みで、人を気絶させたり、たった一人で70人の不良を殲滅してのけたとか……

 

「ん、お疲れ様。ハヤテさん」

 

 お疲れ様です、カヨコさん。

 今回はご協力ありがとうございます。

 

「前回はうちの社長が怖がらせちゃったから……お詫びみたいなものだよ」

 

 カヨコさんのそういう義理堅さは、とても好感度が高い。

 便利屋68の中でも1番年上という話だが、こういった対応を見るに、その大人さを感じさせられる。

 

「それで、先生のことについて話せばいいんだっけ……少し恥ずかしいな」

 

 話せる限りの事で構いませんよ、こうして取材を受けて頂けてるだけでありがたいので。

 

「それじゃ、お詫びにならないから……はぁ……先生ね」

 

 自分の髪を指先で弄りながら、カヨコさんは少し遠くを見つめる。

 

「あの人は……ズルい大人だよ」

 

 ズルい……ですか?

 

「そう、人の心に土足で入って来るくせに、自分の事は全く喋らない……」

 

 あ、あの……強い言葉の割には、あまり嫌そうには……

 

「まぁ……ね。先生は決して朴念仁じゃないからさ……むしろ鋭すぎるくらい。 でも、それでも分かってる上で、あの人はそれを見ぬフリしてる……傷つかないようにしてるんだろうねきっと」

 

 軽く溜息を吐きながら、カヨコさんは何かを思い出すように目を閉じる。

 

 物凄く艶かしいと言いますか……部屋の湿度が増してきたような気がする……

 

「まぁ、でもこんなことはみんな言ってたと思うけど……あの人の笑顔に救われた人はきっと沢山いると思うかな。 ふふっ、ホント竜巻みたいな人だよ」

 

 竜巻ですか……?

 

「そう、急に現れたと思えば、とんでもないことやらかして、しがらみも何もかも壊したと思えば、全部巻き上げて、一つにしちゃう。 でも、それで救われてる人もいる……」

 

 ただの災害ではない……と。

 

「うん、悪く言っちゃったけど……でも、あの人は悪党だから。まぁ別にいいよね」

 

 彼女はそうニコリと微笑むと、席を立って出ていく。

 顔が怖いなんて噂もあったけど、あの笑顔……すごく素敵だった。

 あれも、次元先生の影響なのでしょうか?

 

 そして、代わりに入ってきた少女は、その赤い髪を靡かせながら、優雅な足取りで私の目の前に座る。

 

「久しぶりね、ハヤテさん」

 

 ご、ご無沙汰しております、アル社長。

 

 前よりも圧というかオーラが増しているような……

 

 陸八魔アル、便利屋68の社長。

 この騒動の原因の片割れを担っており、大企業であるカイザーPMCの大軍勢を返り討ちにし、その射撃は百発百中、ヘリすら朝飯前で落とす傑物……

 噂によれば、不義を働いた企業には、トップ殺害という報復を常に行っているとか……

 

「その、この前はごめんなさい。つい、熱くなってしまって……」

 

 いえいえ、こうして便利屋の皆様に、イズナさん、そして先生にインタビュー出来ているので……

 

「そう……良かった、うちの社員達は粗相してないかしら?」

 

 皆さん良い人達ばかりでした……

 

「ふふっ、アウトローに対する評価としては、減点ね。まぁでも良かったわ……さて、それで次元先生についてよね」

 

 はい……恐らくこのキヴォトスにおいて、一番彼の傍にいるアル社長から見た、次元大介という男の姿について。

 

「そうね……私からすれば、『憧れ』そのものよ。

 ハードボイルドなアウトロー……一目惚れだったわ……」

 

 そう言ってアルさんは、腰から紅いリボルバーを取り出してそれを眺める。

 

 アル社長……それは?

 

「彼から貰ったものよ。S&W M60 “Lady Smith”。あの人と決闘をした時に渡されたの」

 

 アルさんは、我が子に向けるような表情で、シリンダーを撫でながら、言葉を続ける。

 

「でも、あの人と過ごしてきて、あの人の過去を知って……あの人の背中を追っていくうちに……色々思うことも増えてきたわ」

 

 と、言うと……?

 

「あの人の手、見たかしら……凄く傷だらけだったでしょう? それほど多くの痛みと戦いを通して、あの人は人の命を奪って、護ってきた。

 

 憧れている? 愛している?

 

 そんな単純な言葉では表せないわ」

 

 その、アル社長は……先生のことが……

 

「えぇ、恥ずかしがるつもりはないわ。 愛してるわよ……でも、彼に伝えるつもりはないの」

 

 それは何故……?

 その烏滸がましいですが、アル社長であれば先生だって。

 

「ふふっ、ありがとう。でも、私はまだあの人の隣を歩む資格はないわ」

 

 アルさんは、強いまなざしでそう語る。

 

 世間にどう思われていたとしても、自分を貫き通す強さ……

 他の学園の皆さんにも言える事ですが……シャーレの皆さんは特にそれが顕著だと感じる。

 

「記事になるのよね?」

 

 は、はい。次元先生からも許可を頂きましたので……

 

「なら、そうね……あの人はガンマンよ。その意味を理解した人しか隣に並べないわ」

 

 必ずそれは記事に入れさせていただきますね。

 ちなみになのですが……アル社長自身はどうなのでしょうか?

 

「えぇ、あの人を理解したいのなら、必ず考えないといけないことだと思うから、私?

 ふふっ、まだまだ分かり切ってないわ。 でも、全てを知りたいとも思ってないの。

 ……それで、この後はどうするのかしら?」

 

 えっと、先生と、皆さんを交えて質問に答えて頂こうかなと……

 

「なら、みんなを呼んでくるわね」

 

 アルさんがそう言って席を立って、部屋の外に出ようとすると、先に扉が開く。

 

「全員待ってたぜ」

 

 次元先生がドアを開けて、後ろに他の皆さんを引き連れて中に入って来る。

 まるで、中の会話を聞いていたかのような対応の速さ……

 

「あ、あ……あの、せ、先生?もしかして……」

 

「どうした?アル、俺は何も聞いちゃいねぇよ」

 

「わ、分かったわ」

 

 顔を真っ赤にしたアルさんを中心にぞろぞろと席についていく。

 こうしてみるとかなりの大所帯だ。

 

「アルちゃん、そろそろ始めるって。いつまで顔を赤くしてるの~?」

 

「う、うるさいわね!……すぅふぅ……よし、もういいわよ」

 

 えっと、それでは、皆さんに対しての質問が数多く寄せられているので、それに対して答えて頂ければなと思います。

 

「やれやれ……まさか俺がインタビューとはな、有名人になった気分だぜ」

 

 実際に次元先生は、キヴォトスでも人気の有名人ですよ。

 

「慣れねぇな、そいつは……で、サッサと始めちまおう」

 

 そうですね……では、早速一つ目の質問です。

 

『アルさんは、キヴォトスでも珍しい拳銃とスナイパーライフルの使い手ですが……この動画のような動きは出来ますか?』

 

 そうして流される映像には、回転しながら落下し、その間に銃弾を撃ち続ける射手の様子が映し出される。

 

「……無理に決まってるわよ!!」

 

「え~、でもアルちゃん本気出したらいけるでしょ?」

 

「私よりも、この動きはイズナの方が出来るでしょ! 一応ハイヒールなのよ?」

 

 つまりできないという事でしょうか?

 

「うぐっ……ま、まぁやろうと思えば出来なくはないかもだけど……」

 

 アルさんは、指先同士を合わせて、なにやらモジモジしながら、チラリと先生の方を見てから言葉を零す。

 

「その、私の知ってるリボルバー使いなら、そういう弾をばら撒く撃ち方は嫌いだと思うの……だから出来たとしてもしないわ」

 

 あ~……なるほど……

 

「くふふ~、ささっ、次の質問いこっか」

 

 そうですね……では次の質問です!

 

『シャーレの皆さんに質問です。もし自分に神秘が発現したらどういう名前にしますか?』

 

「この中だと、ハルカとムツキの二人だよね?」

 

「わ、私にですか!?……私なんかに神秘なんて……」

 

「え~、ハルカちゃんも、絶対発現するって~……ちなみに~私が発現したら……そうだなぁ~……やっぱり『爆発』かなぁ~?」

 

 くふふと、慌てふためくハルカを抱きしめながら、ムツキさんはそう話す。

 ハルカさんもすぐに落ち着きを取り戻し、何か考えている様子だ。

 

「な、なら私もそうだといいです……そ、その私なんかが室長と同じなんて烏滸がましいですが!?」

 

「くふふ、いいんだよ~。一緒の神秘宿せるなんて素敵じゃん!」

 

 その二人の掛け合いに微笑ましい気持ちになる。

 便利屋の皆さんは、シャーレに入る前からずっと一緒だったと聴く。

 やはりその繋がりは強固なものなのだろう。

 そのまま、次の質問に移ることにしよう。

 

『次元先生に質問です。この前街中を歩いているのを見かけたのですが……どうしてそんなに怖い顔なんですか?』

 

「ぶふっ!!」

 

「……くっくく……」

 

 その質問を聞いた瞬間、全員が笑いを堪えるように下を俯いて震えだす。

 

「ハヤテ、その質問を言ってきたのはお前さんの仲間か?」

 

 えっと……その……黙秘権を……

 

「まぁいい、そいつは年季ってもんだ。ガキに好かれる仕事はしてねぇんでな」

 

「先生なのに?」

 

「それは、今の仕事だろうが……本業は別だ」

 

 答えになってない気はするが……まぁ、治せるものでもないですし……

 しかし、うちの先輩は本当に命知らずだ……

 

『次元先生は、卓越した射撃技術と実戦経験があると聞いております、今まで対峙した相手で一番手強かった相手は誰でしょうか?』

 

「キヴォトスに来てからの話だな?」

 

 はい、先生ほどの猛者の目から見た強者たちを話して頂ければと。

 

「……単純な殺し合いって話なら、ネルだな。美甘ネル……アイツとは二度とマトモな戦闘はごめんだな」

 

「あれ?風紀委員長ちゃんじゃないの?」

 

「アイツも嫌だが……弾が当たるだけマシだ」

 

 ネルさん相当早いですもんね……

 

 リトル・タイラント 美甘ネル……キヴォトス最速の女と言われてる彼女……銃が当たらないのは確かにしんどいのだろう。

 

「当たらねぇ上に当たったところで諦めねぇ……やりづらい事この上ねぇな」

 

「強そうって話ならさ。アビドスのホシノはどうなの?」

 

「戦うことは、ねぇだろうが……アイツとは絶対に戦いたくねぇな」

 

 次元先生は、帽子を深く被り直し、そう話す。

 これ以上深掘るのはやめておいた方がいい気がする。

 

 そういう雰囲気が全身から出ている。

 

『もし、次元先生がキヴォトスでコンビを組むなら誰を選びますか?』

 

 誰ですか!?この爆弾質問を入れたのは!?

 便利屋の皆さんが横目で先生の事をじっとり見ている。

 

「……そうだな。だとすれば……」

 

 そして、数秒間の沈黙の後、先生の口がゆっくりと開く。

 

「アルだな」

 

「わ、私!?」

 

「アル殿なら納得です!」

 

 イズナさんが大きく頷く。

 他の皆さんも、さっきまでの湿度の伴った視線が嘘のように納得してると言わんばかりに頷いている。

 

「そうだねぇ……アルちゃんならお似合いでしょ」

 

「社長だしね」

 

「二人とも!? その……先生はどうして?」

 

「俺は女って奴が嫌いだが……仕事熱心な奴は別だ。 少なくともてめぇの中に芯があるブレねぇ奴なら、コンビを組んでも構わねぇとは思ってるさ」

 

 一度帽子を預けたこともあるしな、ととんでもない発言を飛ばして先生はそう言葉を締めた。

 先生のトレードマークを預かったことがあるのに……隣を歩む資格がないって言ってたのか……

 

「先生?アルちゃん固まって使い物にならなくなったんだけど~?」

 

「アル様ぁ!!」

 

 ムツキさんの言葉を聞いて、アルさんの事を見ると顔を真っ赤にして石のように動かなくなってしまっている。

 

 次元先生……やはり罪な人……

 

「はっ、まだガキだな……で、質問はまだあるのか?」

 

 え、えっと最後の質問が……

 

『次元大介先生、貴方は自身の事を悪党だと、仰っておりますが……では、貴方にとって正義とは、貴方にとっての悪とはなんですか?』

 

「今までとは違うな」

 

 は、はい……何でもお偉いさんからの質問だそうで……これだけは必ず聞いて来いと……

 

「……まぁ、分かったぜ。 正義と悪か……世界はそんな白黒はっきりしたもんでもねぇが……テメェの中にある信念を貫き通す、それはどっちにも言えることだ。

 俺の一番記憶にある刑事はよ、地獄の果てまで追ってくるような仕事熱心な野郎でな。

 

 あぁいう熱い正義感のあるやつがこういうのを語るべきだと思うぜ。

 俺のような一介のガンマンには、難しい話ってなもんだ」

 

 つまり、善悪にはそこまで違いがないと……そう言う事でしょうか?

 

「さぁな、解釈はてめぇでしな」

 

 私自身も、この質問に見え隠れする人を試そうとする気配は気に食わないため、これ以上追及することはなかった。

 

 そして、私の取材記録もこれで終わりだ。

 取材用の機材の電源を落とす。

 

「これで質問は以上になります!今回はありがとうございました!」

 

「おう、次からは、やる前に俺に一声かけろって上の奴らに言っておけ」

 

「は、はいっ……ご迷惑おかけしました……」

 

 そういうと、先生は席を立って、手を伸ばして立ち上がらせてくれる。

 やっぱり優しい人だ。

 

「アルちゃーん、ハヤテちゃん帰るってさ」

 

「…………はっ、起きてるわよ! ハヤテさんお疲れ様、貴方の記事楽しみにしてるわね!」

 

「はい!皆さんからいただいた取材の記録、決して無駄にならないようにします!」

 

 そうして、皆さんに見送られて、私はシャーレを後にする。

 皆さんいい人ばかりでした……

 

 クロノススクールに戻ると、私はすぐに今までの記録を元に記事を書き始める。

 

 皆さんの思いの籠った生きた言葉を決して殺さないように…………

 

 題名『貴女にとって』

 

 その見出しで作られた月刊キヴォトスは、過去最高の販売数を記録することになるのだが…………

 

 それは、まだ少し先のお話。

 

 現場からは以上になります。

 





祝100話
この長い旅路を皆様と共に祝えることを心より感謝いたします……
さてさて、この後の流れですが……
何と二回目のコラボを挟みまして、見るシリーズを行い、そして兎編に繋がる物語を書こうかなと、そうイベントシナリオです。
どのシナリオになるかは既に決定していますので、お楽しみにしていただければ……

今の話のタイトルが分かりにくいとの意見を得て変更するか否か

  • 例:殺し屋の矜持
  • 例:1-10
  • 例:1-10 殺し屋の矜持
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