新任教師『次元大介』   作:レイゴン

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#EX20 ティーパーティーと見る!カリオストロの城 後編

 前略、コーラの泡が弾ける音が響く空間で、トリニティのティーパーティーである三人は、次元先生の過去を映すDVDを見ていた。

 

「銭形さんも落下したはずですのに、あの二人がカリオストロ伯爵の元にいるという事は……」

 

「何処かに出口があるということだろう、しかし底が見えないほどの深さだというのに怪我すらないとはね」

 

「え?自由落下なら別にどの高さでも、怪我なんてしなくない?」

 

 ミカの抜けた発言を、何を言ってるんだこいつはとでも言いたげな目線でセイアは見つめつつ、特に反論をすることはしない。

 自由落下で怪我をしないのは、キヴォトスでミカくらいなものだろうと思いつつ、言うのは野暮だと思ったからだ。

 

 そんな中、画面は無数の甲冑が並ぶ暗い部屋の中で、何かを探っているブロンドの髪の女性を映し出している。

 

「あ、さっきの……あの髪色凄く見覚えがあるんだけどな……」

 

 そして、何か資料を盗撮している女性の肩に、甲冑の手が置かれる。

 

「ふじこ、ちゃん……あぁ!峰不二子さんだ!」

 

「おや、その言いぶりだと出会ったことがあるような言い回しだね、ミカ」

 

「うん、あの夜……私の事を助けてくれたの。先生は悪女だとか魔女とか言ってたけど……ルパンさんデレデレじゃんね、魔性ってあぁいう事を指すのかなぁ……」

 

 花嫁の居場所を教える代わりに仕事の邪魔をしない約束をする不二子。

 それに対して邪魔なんてしたこともないと、声色を弾ませながらルパンは答えた。

 

 そして、花嫁は北の塔の頂上にいると答えた不二子の目の前から、ルパンは忽然として消える。

 

「ルパン三世ほどの男だ、デレデレに見えるのも演技かもしれないね」

 

「あんな壁を、何の命綱も無しに……」

 

 城の屋根まで上ったルパンは、風向きを調べ、さらに高い屋根まで向かう。

 途中滑り落ちる時には思わず悲鳴が出たが……それでも、ルパンは、このカリオストロ城の頂上までたどり着く。

 

「あれは……ロケット花火かい?なるほど、あれで紐を飛ばして渡ろうという事だね」

 

「あ、滑り落ちた」

 

「拾いに行こうと……きゃっ、そのまま走って……!」

 

 滑り落ちたロケットを拾いに行こうとするが、そのままルパンの方が転がってしまい、屋根を加速しながら走っていく。

 

「ジャーンプっ!もう一回!」

 

「嘘だろう!?なんであの距離を二回のジャンプで渡れるんだい!?」

 

「あぁ、滑り落ちて……!」

 

 狭い引っ掛かりで指の力のみで全身を支え、片手で鍵縄を投げ……如何にかルパンは花嫁のいる塔へと侵入を果たす。

 

 

 

 暗い部屋の中では、クラリスが月明かりに照らされて、一人月を見上げていた。

 

 明るい満月が、雲に隠され、部屋が完全な闇に包まれる。

 

 俯く彼女の髪を風が靡く。

 

 そんなことが起こるはずがない、何故なら……この部屋は完全に閉ざされているはずだからだ。

 

 それに気が付いたクラリスは、風の通り道を見る。

 そこは普段閉じているはずの天井の窓が開き……垂れ下がる紐が見える。

 

 その下には人影が一つ。

 

『どなた?』

 

『泥棒です』

 

『泥棒さん?』

 

 再び照らし出される月明かりの元に、男が、ルパン三世が踏み込む。

 

『こんばんわ、花嫁さん』

 

『あなたはあの時の方ですね』

 

『忘れ物ですよ』

 

 そういって、ルパンはクラリスの人差し指に指輪を嵌める。

 

 そのロマンチックな光景に三人は言葉を失い、ただ見つめることしかできなかった。

 

 ほんの小さな吐息が漏れる。

 その吐息の主は誰だったのだろうか、画面の中の少女か、それとも画面の前の誰かか……

 

『この為にわざわざ?伯爵に見つかったら殺されるというのに』

 

『な〜に、狙い狙われるのが泥棒の本性です。 仕事が終われば帰ります』

 

 お仕事と口にしたルパンに差し上げられるものはないかと、クラリスは辺りを見渡し、そして先ほど返してもらったばかりの……きっと彼女にとって大切なものであるはずの指輪をルパンに差し出そうとする。

 指輪を引き抜こうとする手をルパンはそっと抑えて、首を横に振る。

 

『私の獲物は、悪い魔法使いが高い塔のてっぺんにしまい込んだ宝物』

 

 唖然とするクラリスから少し離れて、ルパンはボウ・アンド・スクレープ……貴族社会における伝統的なお辞儀をしながら、言い放つ。

 

『どうかこの泥棒めに盗まれてやって下さい』

 

『私を?』

 

『金庫に閉じ込められた宝石達を救い出し、無理やり花嫁にされようとしている女の子は、緑の野に放してあげる』

 

 そう聞くクラリスに頷くルパンは、演技っぽく気取って、それでいて大胆に身振り手振りをしながら、クラリスに説明していく。

 

『これみんな、泥棒の仕事なんです』

 

 そう頷くルパンに、クラリスは心の中の言葉を口にする。

 

『私を自由にしてくださるの?』

 

 それにルパンは頷き返す。

 そして、クラリスの事を見ると、彼女は悲しそうな表情を浮かべる。

 決してそんな顔をさせるために言った言葉ではないのにも関わらず。

 彼女の顔に浮かぶのは恐怖と、諦めの顔。

 

 その齢の少女がしていい表情では決してない。

 

 少女は小さく、そして弱々しく声を出す。

 

『ありがとう、とても嬉しいの』

 

 心配するように、そして突き放すように声を強くして言い放つ。

 

『でも貴方は、カリオストロ家の恐ろしさを御存知ないのです』

 

 自分の為に命を賭けて、ここまで来てくれた御仁の身のために、彼女はルパンから目を逸らして小さな声で呟く。

 

『どうか、このまま帰って……』

 

 多くの闇を見てきたであろう少女に、ルパンは小さな溜息を零し……背中を見せて立ち去ろうとする。

 そして、再び言葉を紡ぐ。

 

『あぁ、何と言う事だ。

 その女の子は悪い魔法使いのチカラを信じるのに、泥棒のチカラを信じようとはしなかった。

 

 その子が信じてくれたなら、泥棒は空を飛ぶことだって、湖の水を飲み干すことだって出来るのに……』

 

 悲しく項垂れるルパンは、呻きだすと右手を抑えるように手首を握りしめ、それを前に出すと、ゆっくりとクラリスの前に差し出す。

 

 そして、そこから小さなピンクのバラを咲かせる。

 

『まぁ……』

 

『今はこれが精一杯』

 

 クラリスの手に渡したルパンは、そこから様々な国旗が下げられた紐を伸ばしていく。

 その手品……いや、小さな魔法にクラリスは初めて純粋な笑顔を見せる。

 

 ようやく見ることのできたその幼い笑顔にルパンの顔も微笑む。

 

「素敵……」

 

「それはどちらに向かってだい?」

 

「セイアさん、それは野暮ですよ」

 

「……ふっ、違いないね」

 

 二人が笑い合っていると、突如として部屋の灯りがつく。

 先ほどまで見えていた月明かりが差し込む窓もおりてきた壁で隠され、完全に逃げ道を塞がれる。

 ルパンはクラリスを背後へと行かせて、守りながらあたりを見回す。

 

 柱の裏からあの黒ずくめの暗殺者たちが現れ、あっという間にルパン達を囲む。

 

「いつから見ていたの」

 

「泳がせていた……ということか」

 

「そのまま帰すという訳にはいかないですもんね……あっ、クラリスさん!」

 

 後ろから忍び寄っていた暗殺者によって、背後のクラリスを奪われ、首元に鋭い鉄爪を突き立てられたルパンは、一切怯むことなく、ゆっくりと優雅に歩いてくる男の事を見つめる。

 

「ようやく、対面という訳だね……」

 

「これが大人の会話なんだね、言葉丁寧だけど……嫌味しかないね」

 

「落ちる瞬間まで、伯爵の事を睨み続けましたね……流石先生の相棒」

 

 誰一人として這い出たことのない地獄へと通ずる穴へとルパンを落とした伯爵は、手振りで暗殺者たちを退室させていく。

 

「ふむ、敬礼しながら消えるあたり……あの暗殺者たちはどうやら伯爵の持ち込んだ犬ではないらしい」

 

「どういうこと?」

 

「いや、まだ語るには早いかな」

 

 クラリスと二人っきりになった伯爵は、彼女の元に近づくと乱暴に彼女の顔を掴み、見つめさせる。

 ルパンを殺されたと思ったクラリスは、涙を流しているが、伯爵に掴まれたとたん、力強く彼を睨みつける。

 

「下衆な男ですね……カリオストロ伯爵」

 

「大公家の影として、謀略と暗殺を司り……か。やはりあの暗殺者は元々からカリオストロ公国にいた存在なのだね」

 

「血筋……それで全てが決まってしまう世界もあったんだね」

 

 拒むクラリスに囁く伯爵は、その手に嵌めてある金の指輪を彼女に見せて、さらに言葉を続ける。

 

『ご覧。我が家に伝わる金のヤギと』

 

 伯爵は、乱暴にクラリスの腕を掴み、その手に嵌めてある銀の指輪を見せる。

 

『君の銀のヤギの指輪が1つに重なる時こそ、秘められた先祖の財宝が蘇るのだ』

 

 拒み続けるクラリスに、下衆な笑みを浮かべ、振りほどこうとする腕を握りしめて言い放った途端、先ほど消えたはずの男の声が聞こえる。

 

『あっ、き〜ちゃった聞いちゃった。お宝目当ての結婚式。偽札作りの伯爵の、ゆうことやること全て嘘! 女の子はとっても優しい素敵な子』

 

「流石は天下の大泥棒、窮地に対しての対応力が並みじゃないね」

 

「それに、しっかりとフォローまで……素敵な方です」

 

 伯爵の手を振りほどいたクラリスは、ルパンの言葉に勇気づけられ、再び心に火を灯して会話を続けようとするが、伯爵が乱暴にその指輪を奪おうと引っ張る。

 

 そして、クラリスを柱へと打ち付けてまで奪い取ると、その指輪を見つめる。

 その乱暴な対応に、

 

「酷い!女の子に対して!」

 

『やい伯爵、よく聞け! 本物の指輪は俺が預かってる。 その子に指1本触れてみろ、大事な指輪はこうだ!』

 

 そういうと、指輪から飛び出たヒヨコが爆発する。

 それを見た伯爵は怒り心頭の様子で壊れた指輪を投げ捨て、部屋から出ていく。

 

「ルパン三世、女に弱いって先生は言ってたけど、それでもホント優しい人なんだね」

 

「えぇ、敵視を全て自分に集めてましたね。お上手で……あっ、大量の水が流れ落ちて」

 

 こそ泥をズタズタに引き裂いてやると捨て台詞を吐き捨てた伯爵は、そのまま彼女を置いて部屋から立ち去る。

 電気が消され、再び月明かりのみが差し込む暗い部屋の中で、クラリスは先ほどルパンに渡された小さな花へと歩み寄る。

 

「健気な子だね……」

 

「ホントですね……あれこそ淑女、姫君と呼ぶに相応しい方なのかもしれません。

 少し親近感を覚えてしまいますね……あの立ち振る舞いに育ちの良さは」

 

 ふと、ナギサが漏らした一言に、ミカとセイアは互いの顔を見合わせて、笑いをこぼす。

 

「ナギちゃん?まだ寝るには早いと思うよ?」

 

「ナギサ、君がまさかそんな冗談を言う日が来るなんてね。 それにしては笑いのセンスがないと思うが」

 

「お二人共? ロールケーキをぶち込まれたいのでしたらそう言ってくださいね?」

 

 固まった笑顔を浮かべたまま、二人の前で拳を握りしめてナギサは淡々と言い放つ。

 

 画面は、吊るされた貴族の白骨死体を横目にルパンは地下へと降りていく所を映し出す。

 地獄、ジョドーの言葉を借りるなら生ける者の赴く所ではないと、その言葉がふさわしいほどに、その地下には骸骨が多く散らばっている。

 

「王冠とか被ってるってことは、それなりの地位の人もここに落とされたってことかな」

 

「あぁ、衣装も様々、血に塗られた歴史というのも事実のようだね」

 

「手に銃を……それに額の穴、まさか、自決……」

 

 軍偵の死体を眺めていると、壁の奥から光が見える。

 その光はゆっくりと近づき、埃塗れの銭形が現れる。

 

「盗人の情けは受けないか……本当に真面目な人だね、銭形は」

 

「絶体絶命なのに、気楽といいますか……」

 

「先生もだけどさ、どんな状況でも変わらないってすごく強いよね」

 

 

 

 完全に囚われた地下牢にて、二人はそのまま夜を明かし、カリオストロの城を囲む湖面に朝日が上る。

 

「先生と五ェ門さん二人ともずっと待ってるんだ」

 

「それが信頼できる仲間ってことなんだろう。死ぬはずがないと信じているからさ」

 

「……いい関係ですね、お三方」

 

 蹲るルパンと銭形の元に水路を泳ぎながら何者かが忍び寄ってくる。

 水中仕様のあの暗殺者が三人、ルパンと銭形を囲む。

 

 そして爪を構えた瞬間。

 

「が、骸骨!?」

 

「一瞬で二人を!?あ、逃げて……出入口まで案内させたのですね」

 

 遅いと文句を言うジョドーと部下の元に水路の入り口から指輪をもった暗殺者が顔を覗かせる。

 そして、指輪に手を伸ばしたジョドー。

 その腕を素早くつかみ水路へと引きずり込む。

 それにあっけにとられた部下も、もう一つ水面から伸びた別の腕が素早く足を掴み、引き落とされる。

 

 水中に落ちた二人と代わる形で、ルパンと銭形が水面から出て、出入口を塞ぐ。

 

「地獄の出入り口が棺桶とは、なかなか洒落が効いてるじゃないか」

 

「感心してる場合ですか、セイアさん。 それにしてもこの機械たちは……」

 

 機械の元へと降りて行った二人は、山積みにされてる札束たちを見つけ、調べている。

 そして、その種類の多さに驚愕した。

 

「先生の居た世界って色んなお札があるんだね?」

 

「あぁ、こちらで例えるなら学園ごとに独自の通貨があるといったところか……そしてその全ての通貨が刷られているというわけだ。そしてその偽札は、世界規模の事件の全てに必ず蠢く黒幕だったというわけさ」

 

「そんなものを見て、知ったうえで正義を貫こうとする精神力……だからこそ、ルパン三世の天敵であり続けれる方なのですね」

 

 泥棒と警察の共闘を見届けていると、画面は窓にもたれかかって眠るクラリスを映し出す。

 窓に陽光が差し込む部屋に、足音が聞こえ、クラリスはそっと後ろを振り向く。

 

 そこにいたのは荷物を持った不二子だった。

 

「わ、そんな迷彩服着てたんだ不二子さん……ルパンの恋人だったことも……」

 

「捨てられたではなく、捨てた……か。強い女だね、彼女は」

 

 不二子のその言葉と態度に、三人は驚き、また一人の女として彼女の強さに惹かれる。

 尤もそれは尊敬ではなく、警戒の色が強いが……

 

 不二子とクラリスの二人が話していると、地下牢へと続く落とし穴から煙が昇る。

 それも、この穴だけではなく、城全体から立ち上っている。

 

「流石、五ェ門なら見落とすことはないね」

 

「わ、偽札とは言え、気前がいいね!私もやりたい!!」

 

「こんな中でも仕事とは……流石ですね銭形さんは」

 

 ようやく水路の扉を開けれたジョドーは、素早く指示を出す。

 そして、衛士隊が地下工房へと到着すると、施設を飲み込むほどの火焔に向けて、消火器を噴射する。

 

「対応としては正解だが……それでは退路はここにあるとあの二人に教えてしまうものじゃないか」

 

 セイアの言葉と同時に、火焔の中からルパンと銭形が飛び出し、衛士長を押しのけて、階段を昇っていく。

 

「礼拝堂の地下に、偽札工房。それにあの地下牢を作るとか不届きにもほどがあるでしょ」

 

「ふふっ、追われてるのに、クラリスさんへのアピールを忘れてないなんて……粋な方ですね?」

 

「オートジャイロ……操作の手つきが慣れている。 あんな遺物すら乗り熟してしまうのかい、ルパン三世は」

 

 追っ手を続々と投げ飛ばした銭形は、そのまま飛んでいくオートジャイロの下部にしがみつき、ルパンの操作するオートジャイロは、クラリスの方へと旋回していく。

 

「クラリス、迷いなく椅子を投げつけるとは、やるね彼女」

 

「ただのか弱い少女じゃないんだ、私気に入ったかも」

 

「手榴弾すら弾いてしまうとは……なるほど、あの天蓋から」

 

 伯爵は、クラリスのいる塔へと辿り着くと素早く指示を出し、別の場所へと向かう。

 クラリスの部屋へと侵入しようとする部下たちを、不二子はUZIで牽制射撃を行い、リロードの間を手榴弾で潰し、クラリスの逃げる間を稼ぐ。

 

 ルパンのいる屋根へと登ったクラリスは、彼に抱きかかえられながら、近づいてくる銭形の操縦するオートジャイロを追っかけている……

 

 その胸を銃弾が貫き、斜面を転がっていく。

 

「ルパンさん!!」

 

「オートジャイロも燃えて、まさか徹甲弾……?」

 

「クラリスちゃんナイスキャッチ……血が、貫通してる……」

 

 ルパンを心配して顔を出そうとする不二子を目掛けて銃弾が発射される。

 それなりの強度があるはずの城の壁を貫くほどの威力。

 それによって胸を貫かれたルパンの状態に、三人の顔が青ざめていく。

 

 伯爵によって、ルパンを殺せと命じられたジョドーは、機関銃の銃口をルパンへと向ける。

 

『やめて、撃ってはダメ。この人を殺すなら私も死にます!──『撃て』』

 

「クラリスさん……本気で死んでも構わないと……」

 

「凄まじい精神力だね……」

 

「強いね……彼女」

 

 銃弾の雨はクラリスを避けてその周りに当たり……そして微動だにしないクラリスを見届けると次第に止む。

 クラリスの精神力を伯爵は評価し、そして彼女に取引を持ち掛ける。

 

「どう見ても嘘でしょ」

 

「我々は、ごく最近悪い大人に騙されたばかりだからね……だが、彼女にとっては難しい天秤なのだよ」

 

 クラリスは、ルパンの命の為に指輪の在処を聞こうとする。

 しかし、ルパンはそれを拒否する。伯爵のこの後の行動を理解しているからこその判断だった。

 

 そこに、不二子がクラリスへとアドバイスを授ける。このままでは二人とも死んでしまうのが目に見えていたからだ。

 

 そしてその言葉の通り、ルパンは襟の裏に指輪を隠していた。

 

「二人とも死ぬくらいなら……不二子さんの裏切り方は、タイミングと間が上手いですね」

 

「全くだ、それにしても私を信じろとは何とも笑えないセリフだ」

 

「クラリスちゃん……っ!?銭形さん!?」

 

 クラリスが、ゆっくりと伯爵の元へ渡ろうと歩いていると、屋根を破壊しながら、銭形が燃えるオートジャイロで突っ込んでくる。

 驚く伯爵たちの隙を突いて、不二子はルパンを担ぎ、オートジャイロの下部を掴んで脱出に成功する。

 

「伯爵!! 最っ低!!」

 

「ミカの言葉に同意するね。下衆が服を着てるかのような淑女への対応だ」

 

「国の秘密を知った者を逃がさぬようにする意図は理解できますが……あとは同じ気持ちです」

 

 クラリスの身を挺した妨害もあり、機関銃の射程から脱出したルパン達を涙ぐみながら、クラリスは見つめている。

 

 燃えるオートジャイロを見つけた次元と五ェ門は、素早く車に乗り込み、後を追っかけていく。

 降下していくオートジャイロは大木に衝突し、大爆破を起こす。

 ルパンは吹っ飛ばされ……その下に車が並走する。

 

「え、五ェ門さん、どうして構えてるの?」

 

「燃えた上着だけ切り捨てたんですか!?」

 

「初めて見たが……素晴らしい腕前だね」

 

 車にそのまま着地し、逃げていくルパンたちを見つめ、銭形はその足でICPOの元へと出向いた。

 カリオストロ公国の地下にあったあの偽札の証拠を提示し、出動命令を貰うためだ。

 

「世間は伯爵の肩を持っているのですね。いや、情報操作でしょうか……自分だと言わなくてもいいものを……」

 

「銭形さん……やるせないよね」

 

「政治、国家間の牽制……それらに歪まされる正義の二文字……それを背負う銭形すらこの問題からは逃れられないのだね……」

 

 場面は変わり、傷を負ったルパンを次元と五ェ門……そしてあの廃墟を整備していた老人が看病しているシーンを映し出す。

 

「誰にも懐かないのに、ルパンさんには?」

 

「ふむ……」

 

 ルパンの横に眠る老犬が、何かを察知し、ルパンの顔を覗き込む。

 そして静かにルパンは目覚める。

 ゆっくりと目線を犬に合わせると、小さく何かを口にする。

 

「カール?この犬の名前ですよね……? どの記憶と混ざって……」

 

「クラリス様……え、じゃあ」

 

「あぁ、恐らく私たちの考えていることは同じだろう。そして、答えも概ね合っていると思っていい」

 

 クラリスの名前を聞いて、ルパンはゆっくりと記憶が元に戻っていく。

 既にあの敗走から三日が経過している事実を聞いたルパンは、ベッドから出ようとするが、傷が痛み蹲る。

 

「体に穴が空いたんですもの……先生の言う通り、食い物って嘘でしょう?」

 

「先生も同じことしていたが……やれやれ、似た者同士というべきかな」

 

「あ、顔が酷い色に……ホント男ってバカばっかりなんだね」

 

 ミカはらしくない微笑みを浮かべて、その様子を見届ける。

 画面では、あの老人が元庭師だったこと、そしてクラリスと深い関係だったことを話す。

 

「やっぱり、昔カリオストロ城に忍び込んだ時に出会ってたんだ」

 

「だからこそ、あの時無意識で守ろうとしたのかもしれないね、記憶から忘れていたとしてもね」

 

「…………不二子さんニクイ仕事をするね、それに銭形さんも。かっこいいなぁ……」

 

 

 

 カリオストロ公国へと続く道は大渋滞を極めており、そして司祭の車もまたそれに止められていた。

 

「崖崩れねぇ……あれ、その声」

 

「先生だね」

 

「どう見ても先生ですね」

 

「ってことは、あの時のルパンさんの顔は……」

 

 伊達に先生の声を聴いてきたわけではない三人は、すぐにその司祭の車に乗り込んだ老人の正体を見破り……そして、彼らが何をしようとしてるのかを思いつく。

 

 そして同時刻、銭形も山を越えようと車を押して部下たちに指示を出していた。

 カリオストロの城下街には、衛星テレビの中継車が走っていた。

 そしてその車には……見覚えのある顔の女性が……

 

「全員、侵入してるね」

 

「あれが大泥棒達のテクニックというところさ」

 

 そして日があっという間に堕ち……暗いカリオストロ城にて結婚式が始まろうとしていた。

 クラリスは純白のドレスに身を包み、真珠のネックレス、そして銀のティアラを身に着けて、伯爵を待っていた。

 

「綺麗……でも目の焦点が」

 

「恐らく薬か何かでしょう。それにしてもここでも金のヤギですか……カリオストロ家の正当な衣服なのでしょうか」

 

 直剣を構えたカゲたちに連れられて、伯爵とクラリスは聖堂へと向かう。

 聖堂内では、パイプオルガンによる演奏が流れ、柱の陰や天井の影に暗殺者たちが銃を持って監視をしていた。

 

「婚姻の儀は沈黙……だから薬を使ったわけか。考えてるね」

 

「ルパンさん……」

 

 沈黙が続く聖堂内に突如として声が響く。

 

 地の底から響くようなその声は確かにこういった。

 

『異議あり』……と。

 

 鋭い一撃をもって、聖堂の大十字、その土台が真っ二つに切り裂かれる。

 

 風が吹き、ろうそくの灯が消える。

 

「魅せてくれるじゃないか、ルパン」

 

「映像の途切れが合図だったわけね」

 

 伯爵の指示と同時にカゲが一斉にその剣をルパンへと突き刺し、掲げる。

 

 その無残な姿に、薬で意識を奪われていたクラリスの心が浮上していく。

 

「やっぱり、ルパンは司祭に……でも次元先生たちが!」

 

「偽札をばらまくとはね、皮肉が効いてるじゃないか」

 

「ロリコン伯爵……ふふっ、わ、凄い数の花火!」

 

 隙をついて指輪を盗んだルパンはあっという間に囲まれるが、司祭の服の下に隠してあったロケット花火が点火し、会場内を照らし出す。

 

 そしてその隙を逃さない彼らではない。

 

「対戦車ライフルを腰だめで……やはり先生も化け物じゃないか」

 

「いいね!!パーティーの始まりって感じ!!」

 

「銭形さんに不二子さんもノリノリですね」

 

 聖堂内に侵入した銭形は素早く部下たちに指示を出し、自身も十手を用いて戦闘をしながら、テレビ放送している彼女へと身振りで、土台の中にあった階段を指さしている。

 

「まさか……銭形さん、そういうこと?」

 

「くっ、あっはっはっは!!銭形、最高だね!」

 

 素早く飛び降りた不二子を連れて、銭形は地下へと続く階段を下りていく。

 上層部も見ていたが……宇宙中継のため、妨害すらできない。

 地下の偽札工房へと辿り着いた銭形は、わざとらしい演技を始める。

 

『おっ! なんだここは? まるで造幣局ではないか。 あそこにあるのは……ありゃ日本の札、これは偽札だぁ!』

 

『大変な発見です』

 

『見てくれぇ、世界中の偽札だ。ルパンを追ってて、とんでもないものを見つけてしまった。どうしよう?』

 

 困った顔で両手いっぱいの偽札を抱えた銭形はカメラに向かって演技を続けた。

 

「例え、上層部から何と言われようとも、自分の正義を貫き通し続ける。銭形って男はそういう人間らしい。全くカッコいいじゃないか」

 

 笑顔でセイアは、そう口にする。

 元のわんぱくだったころのセイアが垣間見えるその表情に、ナギサとミカはお互いの顔を見合わせて、微笑む。

 

「にしても演技は酷いけどね?」

 

「おいおい、ミカ。クーデターを起こした君の演技力には誰だって負けるさ」

 

「セイアちゃん……あとでお話しよっか。拳で」

 

 過去の悔恨も、いずれは笑い話になる。

 少なくともセイアからそうした方が、ミカもきっと楽になると思い、話したが……そのせいでまたひと悶着生まれるのはまた別の話だ。

 

 

 

 場面は変わり、ルパンはクラリスを抱きかかえて、水路へとつながる風車塔へと辿り着いていた。

 その後を追って、五ェ門と次元もそこに着く。

 

 ルパンから殿を頼まれた次元は、煙草を咥え、笑いながら了承する。

 そしてルパンが城外へと出る準備をしているとクラリスは、次元と五ェ門の元へと駆け出す。

 

「二人ともデレてますね」

 

「……ま、でもクラリスちゃんと比べられたらね。私もじゃじゃ馬娘なんて言われるわけだ」

 

 クラリスから貰ったティアラを帽子の上に被り、五ェ門へと声をかける。

 対戦車ライフルをぶっ放し、迫りくる追っ手を弾き、塔の下へと降りて着地と同時に斬鉄剣を振るう。

 

「嘘、マグナムすら弾くあの鎧を切ったの!?」

 

『今宵の斬鉄剣は、一味違うぞ』

 

 場面は切り替わり、伯爵が船へと乗り込んでいる時、ルパン達はあの時計塔へと辿り着いていた。

 そして、そこを超えようとした時に目にする。

 向かい合った二匹のヤギが塔を支える紋章に。

 

 二つの指輪を向かい合わせて、くっつけると繋ぎ目にゴート文字が現れる。

 

『”光と影を…”すり減っててよく読めないなぁ』

 

『”光と影を結び時告ぐる、高きヤギの日に向かいし眼に我を収めよ”』

 

「クラリスちゃん……これで謎が解けたね」

 

 現れた伯爵の船による銃撃を躱し、二人は塔の機関部へと潜り込む。

 伯爵たちもその後を追う。

 

「レーザーが、クラリスさん。流石ですね……しかし」

 

「あぁ、銃すら溶かすとはね、これで逃げることしか出来なくなってしまった」

 

 クラリスの援護もあり、物陰に隠れたルパンは追い詰められる中、クラリスに声をかける。

 

『怖いか?』

 

 それに、クラリスは短くハッキリと答える。

 

『いいえ』と。

 

 それを聞いたルパンは、口角を上げ、上等と笑い、クラリスを抱えて歯車まで走り出し、それを使って上へと昇っていく。

 

「あっ、潰れ……。ひっ……!」

 

「ミカ、もう大丈夫だよ」

 

 その断末魔に耳を塞ぐミカを優しく宥める。

 その間、ルパンは歯車の一部を分解し、伯爵の部下が現れたドアを塞ぐ。

 

 安心したのもつかの間、別の機構を使って上へと昇ってきた伯爵の一撃を避ける。

 

「ただのボンボンかと思っていたが、伯爵も中々の身体能力じゃないか」

 

「あんな足元の不安定な場所でよく戦えますね……」

 

「ルパンさん!!……マズイよね、クラリスちゃん伯爵から逃げて!」

 

 機関部を巧みに使い、あっという間にクラリスの元へと向かった伯爵は、不気味に笑いながらクラリスの後を追う。

 

 そしてクラリスが逃げ込んだ先は、時計塔の針の上だった。

 鋼鉄製の針と、その横には上へと続く石製の段差がある。

 

 地平線すら見えるほどの高さ、そして吹き荒れる風、行き場のない崖っぷちで、伯爵から逃げるために、クラリスは、短針の方へと逃げていく。

 

「下衆な笑い……。サーベルが……!」

 

「ルパンさんナイスタイミング!……謎はそういう事だったんですね、あの段差もそこに向かうための……」

 

「ルパン三世が殺すと口にするなんてね……でも彼なら間違いなく殺すと言ったら殺すだろうね」

 

 時計の針の上で、伯爵とルパンの取引が始まる。

 風が吹き荒ぶ。

 

 ルパンはゆっくりと長針の先へと向かい、途中針の真ん中にある意匠に指輪を置く。

 

 伯爵は何か考えながら、クラリスの腕を掴み、ルパンの方へ歩く。

 

 ルパンが、クラリスを中に入れろと命令した瞬間。

 

「ルパンさん、避けて!!」

 

 サーベルを持つ伯爵の指が火を噴き、鉄爪がルパンへと飛ぶ。

 

 間一髪で躱したものの、針の上から落ち、時計塔の壁にしがみつく。

 

「抜け目がない……伯爵もただものでないね」

 

「トドメを刺すつもりで……クラリスさん!?」

 

 ルパンへともう片方の指を向けた瞬間、クラリスがその腕を掴み、何の迷いなく飛び降りる。

 伯爵は、サーベルを即座に壁に突き刺し、落下することを防ぐが、その体は完全に宙に出ている。

 

 クラリスは、伯爵の腕を掴み、共に落ちようとするが、その頭を伯爵は力強く踏みつける。

 

「伯爵と共に死ぬつもりで……あっ!?」

 

 そして、強く蹴り、クラリスを離す。

 

「ルパン!!」

 

「ルパンさん、間に合って!!」

 

 空中で、何とかクラリスをキャッチしたルパンは、その頭を抱きかかえて着水する。

 

 そして、伯爵はそれを見届ける事すらせずに、段差を上って時告ぐる山羊の元へと向かう。

 

「伯爵……最低ですね」

 

「欲望に憑りつかれた男だ……そういう男の末路はいつも決まっている」

 

「セイアちゃん……?」

 

 下卑た笑いを漏らしながら、伯爵は山羊の目に指輪を嵌める。

 すると、顔全体が沈み、隠されていた機構が作動し始める。

 

 高速で回路が動き始め……

 時計塔全体が揺れる。

 

 そう、本来あり得ないほどの速度で、時計の針が動き……それらは頂点に向かって針を進める。

 

「ミカ、結末を察しただろう。見たくなければ目を背くことを勧めるよ」

 

「んーん、大丈夫。私も悪党だもの」

 

「ミカさんは悪党ではないですよ」

 

 高速で動く針に巻き込まれ……カリオストロ伯爵は苦悶の声を上げて……

 

 蟲が潰れるような音と共にその命は潰された。

 

 そして、その音すら掻き消すように時計塔の鐘が響き渡る。

 

 鐘の音に、城内で戦っていた一同の視線が塔へと向かう。

 

 地響きと共に、時計塔が崩れ去っていく。

 

 そして、塞き止められていた水が、流れ出す。

 

 時計塔の裏には、水門が隠されていたのだ。

 長い時間と共に隠されていた歴史が、カリオストロ公国の闇を流していく。

 

『これでカリオストロも終わりだ……斬れ』

 

『無益な殺生はせぬ』

 

「ジョドー、あの五ェ門と互角に渡り合っていたとは……そしてこの潔さ、敵ながら天晴だ」

 

 日が再びカリオストロを照らし出す。

 今までとは違う、新たなカリオストロを。

 

 

 

「あの水路、こんな風になってたんだ……凄い……昔の街?」

 

 湖の底に秘められていたカリオストロ家の秘宝……それは、古代ローマの街だった。

 そのどれもが、水によって美しい姿のまま残っていた。

 

「カリオストロ家の秘密、それは古代の人との約束だったわけか」

 

『まさに人類の宝ってやつさ。お~れのポケットには大きすぎらぁ』

 

 クラリスを連れて、街を歩き、そしてルパンは緑の野へと連れていく。

 

 彼らの頭上を、飛行機が飛び、そこから無数の落下傘部隊が下りていった。

 

「これも銭形の手柄ってわけだね」

 

「あんな映像を中継されちゃったらね」

 

 カリオストロの城へと降りていく落下傘を見つめつつ、二人の間にしんみりとした空気が流れる。

 そして、クラリスはそっともう行ってしまうのかと口にする。

 

 それに肯定を返すルパンに、クラリスは持ちかけた。

 

『私も連れてって』と。

 

 ルパンに詰め寄って、真剣な眼差しを彼に向ける。

 

『泥棒はまだ出来ないけど、きっと覚えます。

 

 私…私…お願い! 一緒に行きたい!』

 

 ルパンに抱き付き、クラリスは初めて彼へ、お願いをする。

 心から縛られていた彼女が、ようやく本当にしたいことを口にする。

 

「クラリスちゃん……」

 

「ルパンも本当は連れていきたいだろう」

 

「でも、先生なら、そして相棒である彼なら……」

 

 ルパンは、口を震えさせ、悩み、そして抱き返そうとする腕を必死に抑えて、彼女の肩を掴んでそっと離す。

 

『……バカなこと言うんじゃないよ、また闇の中に戻りたいのか?

 

 やっとお日様の下に出られたんじゃないか。

 なっ……お前さんの人生はこれから始まるんだぜ。

 

 俺のように、薄汚れちゃいけないんだよ』

 

 ルパンは、クラリスの顔が見えると、そっと優しい表情で彼女を諭す。

 その言葉に三人はただ頷く。

 自分の知っている先生ならきっと同じことを言ってくれると信じていたから。

 

 彼が誰よりも信頼しているルパンなら同じことを言ってくれると分かっていたから。

 

『あっ、そうだ。困ったことがあったらね、いつでも言いな。

 おじさんは地球の裏側からだってす~ぐ飛んで来てやるからな』

 

 クラリスは、そう言ってくれる彼を見つめると、唇を差し出す。

 その意味を分かった上で、彼は彼女の額に口づけを落とす。

 

「そうだよね……そうするしかないもん」

 

「クラリスには待ってくれてる人がいるのだからね」

 

「粋な方ですね……」

 

 クラリスの元に走って来る老犬カールと庭師のお爺さん、そして笑顔のクラリスを涙ぐむような表情で見届ける。

 そして、黙って後ろを向いて去ろうとするが……お爺さんが手を振ったことでクラリスが気づく。

 

 ルパンは、短く別れを告げ、車に乗り込んだ。

 

 そして、彼女の姿が見えなくなるその時まで手を振り続ける。

 

 見えなくなると、クラリス達の後ろから銭形が走って、言葉を零す。

 

『クソォ! 一足遅かったか。ルパンめ、まんまと盗みおって!』

 

『いいえ、あの方は何も盗らなかったわ。私のために戦って下さったんです』

 

 銭形に対して、クラリスは静かに真剣に喋る。

 しかし、銭形は毅然とした態度で否定の言葉を告げた。

 

『いや、奴はとんでもないものを盗んでいきました』

 

 その言葉にクラリスの表情に疑問が浮かぶ。

 銭形は、クラリスの顔を見つめ続けながら、答えを言った。

 

『あなたの心です』

 

『…………はい!』

 

 その言葉に唖然とし、そして意味を噛み締め、笑顔を浮かべてクラリスは返事を返した。

 それを見届けた銭形は、敬礼を返して、ルパンを追いかけ始める。

 

『なんと気持ちのいい連中だろう』

 

『私、ずっと昔からあの方を知っていたような気がするの。

 ルパン。きっと…きっとまた会えるわ』

 

 車を走らせる中で、ルパンは思い悩むような後悔の表情を浮かべていた。

 それを見かねた次元がそっと声をかける。

 

「先生ったら、優しいですね」

 

「でも、きっとそれはルパンさんにとってもクラリスちゃんにとっても良い道じゃなかったと思うよ」

 

「あぁ、彼らは悪党だからね。でも善悪、そんな物差しじゃ測れない人たちだよ」

 

 不二子が、ルパンに自身の獲物である偽札の原盤を見せると、颯爽と去っていく。

 それに声をかけるが、背後から聞こえてきたサイレンの音が、聞こえ振り向くとそこには銭形たちが見える。

 

『い~けねえ、またとっつぁんだ』

 

『ルパン、今度こそ逃さんぞ!』

 

 ルパン一味と銭形が次の街に向かって追いかけっこを続ける様子を映し……映像は幕を閉じる。

 

「素晴らしいお話だったね」

 

 セイアは、暗くなった画面に向けてそう呟いた。

 

「えぇ……ロマンチックで、そして勇気に溢れるお話でした……あら、ミカさんどうしたんですか?」

 

 短く満足したように息を吐くナギサは、少し悩んだ表情をしたミカを見つけ、声をかける。

 

「ナギちゃん……あのあとクラリスちゃんはどうなったのかなって、順当にいけば次の国王だけど……政治って大変じゃん?クラリスちゃんもまた闇に飲まれちゃうんじゃないかなって」

 

「ミカさん……」

 

「ミカ、きっと大丈夫さ」

 

 心配そうな声を上げ、不安な顔つきをしたミカに、優しく寄り添うナギサとセイア。

 そして、セイアは大丈夫と声を掛け、続きを語る。

 

「ルパン三世が言ってたじゃないか。 困ったことがあれば、地球の裏側からだってすぐ飛んで来てやるからって」

 

「そうだね……先生の相棒なら、きっと大事な約束を違えるようなことはしないよね」

 

 映像だとしても、その後の彼女を心配してしまうほどに優しいミカに微笑みを浮かべて、ナギサとセイアは、まだ椅子に座るミカに手を伸ばす。

 

「さて、この映像どうしたものか」

 

「私たちが管理しても良いですが……」

 

「それならさ……ダビングだけして、原本は先生のところに送るってのはどう?」

 

 ミカが二人の手を取って、そう提案する。

 それに二人は頷きを返し、作業を始める。

 

 この複製された映像は、淑女とはどういうものなのかという教育映像としてトリニティに受け継がれるのだが……

 

 それはまた別のお話。

 

 

 





これにてカリオストロの城完結

次回から、カルバノグの兎に繋がる章を書こうかなと思っております……ではでは。



年に一度、想い人に、隣人に贈物を送る日

元はといや聖人の享日が由来だった気がしたが、ここじゃ違うらしい

ま、そんなときでも俺の仕事は変わんねぇんだが……あ?七囚人の目撃情報?

次章 Road to Vol.4 恋煩いの狐
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