新任教師『次元大介』   作:レイゴン

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Road to Vol.4 恋煩いの狐
前編 恋煩いの狐


「先生はさ、バレンタインデーは誰かにチョコを渡すの?」

 

 今日も今日とて、エベレスト並みのこの仕事という名の山を、切り崩しているとムツキが声をかけてきた。

 

 普段、便利屋達はそれぞれ受けた依頼を熟しているのだが、今日は俺のこの溜まりに溜まった仕事の消化を依頼し、手伝ってもらっている。

 

 とは言え、朝から初めて既に太陽は天頂に達し、時々腹時計が鳴る音が聞こえる始末だ。

 

 ムツキも、集中力が途切れてるのか。

 指先でペンをひたすら縦回転させて、暇を潰している……どういう集中力してんだ?

 

「バレンタイン? あれは2月だったかの行事だろ?随分と時期が違ぇが……」

 

 バレンタイン、確かキリスト教の愛に生きた聖人が死んだ日を偲んで付けられた行事だったか。

 俺がガキの頃は、あまり馴染みがなかったが、日本じゃチョコだなんだを送る日になってたっけな。

 

「先生が居たところと、ここは少し違うかもしれないけどね。 キヴォトスだと、大切な人、隣人、友達にチョコとかプレゼントを渡すイベントって感じかな」

 

 隣の席で、キーボードを叩くカヨコがそう補足をしてくれる。

 

 名前が被ったのは偶然だとして、俗っぽいイベントになってやがるな。

 チョコ……チョコかぁ。

 

「そういう俗っぽいイベントには疎いもんでな。 縁がねぇのさ」

 

「そうなのね……あら?先生これ、貴方への依頼よ」

 

 アルが、俺の隣まで歩いてきたと思えば、紙を一枚見せてくる。

 そこには、初めて見る校章と、名前。

 そして仕事の依頼文が描かれている。

 

「初めて見たな。この校章」

 

「ヴァルキューレ、連邦生徒会直属の学園よ。足の遅い警察って所かしらね」

 

「防衛室長、不知火カヤ……か」

 

 俺は、依頼人の名前を呟き、その下の文を読み進める。

 バレンタイン当日には、D.U.の至る所で大規模なイベントが起こる。

 その警備を頼みたいとのことだった。

 さらに担当者として、その下に二名の生徒の名前が書かれている。

 生活安全局の中務キリノと合歓垣フブキ。

 

 どっちも知らねぇ名前だが……まだ当日までには時間がある。

 なら、調べておいた方が色々楽になるだろう。

 

「まさかサツに頼み事をされる日が来るとはな……しっかし幾らD.U.内だけとは言え、俺とその二人だけで足りるか?」

 

「あら、なら私達も手伝ってあげてもいいのよ?」

 

「いいのか? 折角のバレンタイン、お前さんらこそチョコを渡したり、行事に浮かれたっていいんだぜ?」

 

 アルからの提案に対して、俺はそう返す。

 有難い話だが……こいつらだってまだ子供なんだからな、仕事ばかりしてちゃ退屈だろう。

 

「先生ってば、それ素で言ってんの?」

 

「……」

 

 ムツキがあからさまに不機嫌そうな顔で、机を何度も指で叩いている。

 こいつらの思いに気付いてねぇ訳ではないんだが……。

 ガキ扱いも嫌って訳か。

 

「分かったよ、俺の負けだ。手伝ってくれるか?」

 

「最初っからそういえば言えばいいのに、イズナも誘おっか」

 

「そうだね、イベントも疎らに起きてるみたいだし……うわ、今年もやるんだ『ペットチョコレートコンテスト』」

 

 俺が、降参とばかりに手を上に振って話すと、便利屋達は頷いて了承して、行われるイベントとその会場を調べ始める。

 カヨコの言っていた意味の分からないイベントは置いておくとして、キヴォトスでは本当に多くのイベントが行われるらしい。

 大規模なイベントだけで、五件以上。そこからさらに商店街の店ごとに様々なイベントが開始される。

 

 盗みを働くならこれ以上ないほどに賑わってやがるが……

 そういう目を買われちまったってことかね。

 

「慣れねぇ仕事ばかり立て込んできやがる」

 

「ふふっ、そういうけど先生、顔笑ってるわよ」

 

「退屈しねぇからな」

 

 顔を覗き込んできたアルに俺はそう返し、また仕事を再開するのだった。

 

 結局その日は、エベレスト並みの書類たちをマッターホルン程度に減らし、何とか仕事を終えることが出来た。

 

 

 

 

 そして迎えたバレンタイン当日、俺は依頼文に書いてあった集合場所へと足を運んでいた。

 便利屋達は一足先に別の場所でパトロールを始めている。

 俺も一人で良かったんだがな……

 

 頭を掻きながら、集合場所である、第三商店街の付近までたどり着くと、喧噪が聞こえてくる。

 ちみっこい藍色と灰色のツインテールの少女が、三つ編みにした白い髪の少女に身なりを整えられながら、説教されているのが目につく。

 

「フブキ!もうそろそろ先生が来るんですからしっかり身成りを整えてください!」

 

「そうカッカしないでよ~、先生だって普段はだらしないって週刊キヴォトスにも書いてしさ~」

 

「その記事を書いたのは何処のどいつか、俺にも教えてくれねぇか?」

 

 近づいても気付かない辺り、余程気が抜けていたのか。

 俺が声をかけると、さっきまで忙しなくツインテールの少女のボサついた髪を解いていた白髪の少女の手が止まる。

 

「あ、噂をすれば」

 

「い、いつの間に!?」

 

 白髪の少女は驚きながら飛び上がり、ツインテールの少女の隣でガチガチに固まりながら、敬礼を行う。

 対して、さっきまで世話してもらっていたツインテールの少女は、緩く敬礼を行う。

 その対照的なコンビに少し笑みが漏れる。

 

「ほ、本官は!ヴァ、ヴァルキューレ警察学校!生活安全局の中務キリノです!」

 

「同じく生活安全局の合歓垣フブキ、よろしくね先生~」

 

 多少は調べたが、噂通りの人物だな。

 少し不器用ながらも生真面目な、一年生の中務キリノ。

 同じ一年でマイペースでだらしねぇが、仕事の効率化が上手い合歓垣フブキ。

 

 この二人が今回の仕事で俺の補佐を務めるらしい。

 補佐ってよりかは、現場演習でも兼ねてるのかね。

 

「次元大介だ。今日はよろしく頼む」

 

「はい!噂に名高い先生と共に働けること本官は誇りに思います!」

 

「止めろ止めろキリノ、そういうのは慣れてねぇ。警察が悪党と働くなんざいいことでもねぇぞ」

 

 こいつの生真面目さは、中々慣れるまで時間がかかりそうだ。

 

「それじゃ、早速パトロール開始~」

 

 フブキの気楽な掛け声と共に、俺たちは商店街へと入っていく。

 普段もそれなりに人通りの多い商店街だが、今日は特に活気が増している。

 

「ロゼチョコレートのセットが現在、通常価格から20%割引中です!」

 

「よってらっしゃい!飾りから縫い付け糸、布まで全てチョコで出来た『チョコドレス』、今年も販売してるよ!」

 

「チョコミントは如何ですかー?当店では今、『チョコミントパフェ』をご注文のお客様に何と、パフェをもう一つ無料でご提供中! お友達、恋人、仲間、それから尊敬する方にも、ぜひチョコミントの素晴らしさをお伝えください!」

 

 宣伝内容がどんどん怪しくなっているが、まぁ、活気に溢れていることに違いはない。

 最後のメイドカフェの店長、お前さんただ単にチョコミントを広めたいだけだろ。

 

「皆さんしっかりと楽しそうな顔でイベントに参加されてますね」

 

「そうだねぇ~、このまま平和に進めば楽なんだけどね~」

 

「そう上手く行かねぇのが人生だぜ」

 

 だとしてもだ、この商店街全体が浮かれ上がってる事には変わりない。

 通っていく生徒達も、住民も、どいつもこいつも楽しそうな面で店に入っていく。

 

 しかし、こうやって活気づくと当然問題ごとが起こるのがキヴォトスっていう場所だ。

 俺もいい加減慣れてきたからな。

 

 遠くの方で、何やら店員と揉めている奴らが見える。

 

「なぁ、この幸運のチョコレートってよぉ。食ったら『本気(マジ)で』幸運になるってことだよな?」

 

「え、あ、いえその……幸運のチョコレートというのはあくまで名前と、四葉のクローバーの形状に肖った商品名でして、その『本気(マジ)で』と申されましても……」

 

 赤と黒のヘルメットを被った二人の生徒が、法被を着た犬の店員に突っかかっている。

 あぁ言うしょうもねぇ事をする不良にも慣れてきたころだ。

 赤のヘルメット団員の手には薄い長方形のチケットが見え、それを振りながら話を続けている。

 

「丁度さっき宝くじを買って来ててさ、折角だしこのチョコを食べてからにしようかなってな」

 

「まぁ、最初の番号を見た感じ、どの当選番号にも当たってなかったけど」

 

「ここのチョコレートを食べたら何とかなるかもしれないっしょ?なんせ……『幸運のチョコレート』だもんなぁ!?」

 

 はぁ、心底バカだなこいつらは……

 そのくだらなさに思わずため息を漏らしながら、歩いていくと俺の様子に気が付いたらしく、赤いヘルメット団員が近づいて俺の事を見上げながらガンを飛ばしてくる。

 

「んだ、テメェ……何可哀想なものを見る目で見てんだよ」

 

「その服装……シャーレの先生か? ヴァルキューレのお子ちゃま連れて散歩って奴か」

 

「これも仕事でな、それよりもそんな下らねぇイチャモンをつけて、店員で憂さ晴らししてんじゃねぇよ」

 

 ポケットに手を入れたまま、俺はヘルメット団と対話を試みる。

 折角の祭りだからな、今日くらい街に香る匂いはチョコだけにしたいだろ?

 

「うるさい!バカにしやがって……もう宝くじが外れたことくらい分かってるんだ! でも夢は終わらねぇだろ!?」

 

「そうだそうだ!……あ、そうだ。ならいっそ強盗して奪っちまえば──「させるかよ」」

 

 赤いヘルメット団員が銃を取り出し、それを店員に向けようとした瞬間、そいつの腹に膝蹴りを入れて、そのまま地面にねじ伏せる。

 この頭の回転の速さには困ったもんだ。

 

「そういう思い切りの良さを、バカなこと以外に使え。鬱憤が溜まってるなら傭兵でも何でもしてみろ。少しくらいは金になるだろう?」

 

 ねじ伏せたヘルメット団員のこめかみに銃口を押し当て、動けば撃つというサインを送る。

 

 と言っても、それで動かなくなる程お利口な奴らじゃねぇのは、もうわかってるからな。

 銃が脅しにならねぇのも厄介なもんだ。

 

「おい、ツレから離れろ!」

 

 もう片方の黒ヘルメットが俺に向かって、なんの躊躇いもなく銃口を構える。

 

 が、あまりにも遅い。

 

「失礼致します」

 

 地面を駆ける青い閃光が、黒ヘルメットの首を両足で挟み込み、自重のまま回転して、その頭を地面へと打ち付ける。

 

 プロレスのヘッドシザースだったか?

 

 冷静沈着な声と同時に、見事な投げ技と共にヘルメット団を制圧したのは、白い髪に黒い角。

 そして、青を基調としたクラシックナースの服装に身を包んだ生徒。

 

「久しぶりだな、セナ」

 

「お久しぶりです、次元先生。まさかこんな所でお会いするなんて」

 

 ゲヘナの救急医学部の部長、氷室セナだった。

 

 転倒させた団員と俺が押さえつけている団員の二人を手早く拘束し、遅れて到着した救急医学部の部員達によって搬送される。

 制圧してから搬送まで、僅か30秒。

 ミネ並みの速度になってきたな、強引なところ含めてな。

 

「先生は一体、まさかバレンタインのプレゼントを」

 

「俺がそんな事をする柄に見えるか?」

 

「いえ全く」

 

 こいつ……。

 事実だから何も言わねぇが……。

 

 頭を掻いて、どう説明しようかと思っていると、先ほどの不良共の始末をつけたヴァルキューレの二人を見つけたセナが合点が行ったとような表情で口を開く。

 

「そちらのお二人のお手伝いですか」

 

「あぁ、お前さんは?」

 

「元々救急医学部の活動の一環として、この周辺でのパトロールをしていまして……。 先ほど、死体……いえ、負傷者が出かねないようないざこざがあったと通報を受けて、今に至ります」

 

 パトロールか、ゲヘナじゃ風紀委員だけじゃなく救急医学部までやってるのか。

 真面目な仕事人なもんだなおい。

 

「相変わらずの真面目さだな?セナ」

 

「いえ、別にですよ。何せバレンタインデーは大切な日。 それぞれが胸に秘めた大事な思いを形にする特別な日ですから。 だからこそ、きちんと守らねばなりません」

 

「俺の相棒にお前の爪の垢を飲ませてやりたいぜ」

 

 アイツも、一日五分くらいは、こいつみたく真面目になってもらいたいもんだ。

 ヴァルキューレの二人の方に目を向ければ、地域のガキ共に絡まれて完全に動けなくなっている。

 

 警察ってよりかは、お巡りさんってところか?

 住民に好かれんのも一つの仕事かね。

 

「それに、いつどこで、どんな事件が起きて大量の死た……ではなく、負傷者が発生するか分かりません。 こういったイベント事は部長として、死体の稼ぎ時……いえ、事態が重くなる前に防がねばと」

 

 さっきまでの評価は撤回しておこう。

 仕事が趣味って奴だな。

 治療技術も、それに至るまでの速さも優秀そのものなんだがなぁ……

 ここの医者共は一癖二癖ある奴しかいねぇ。

 

「しかしそうだな。ただでさえ普段から硝煙の臭いが取れねぇキヴォトスだ。何か特別なイベントとなりゃ、問題が多くなるのは……」

 

 俺が、そう言葉を発すると遠方から大きな爆発音が聞こえる。

 音の方向的にショッピングモールのある方角だが……

 

「な、何が起きたんですか!?」

 

「建物が、急に崩れて……!」

 

「皆さん落ち着いてください!」

 

 キリノが住民たちを落ち着かせていると、ニュース速報が流れる。

 

『速報です、D.U.の第三商店街周辺の皆様にお知らせいたします! 「災厄の狐」が出現しました! 第三商店街付近にいらっしゃる方は、直ちに避難を!』

 

 ニュース速報が流れ、そこに出た名前を聞いた瞬間、住民が一斉に騒ぎ出す。

 この調子じゃ、逃げようとして怪我をする場合がある。

 

 普段なら、仕方ねぇで済ますが……先生だからな。

 

「フブキ、キリノ。お前さんらは住民を避難させてやれ」

 

「しょ、承知致しました!皆さん本官に続いて、騒がず落ち着いてこちらへ!」

 

「はい、みんな~。焦らず人に当たらないようにね」

 

 しかし……『災厄の狐』?

 そんな物騒な狐で有名な奴と言えば……。

 確か、ここに来たばかりの頃に出会った……。

 

 

 しばらく時間が経ち、住民の避難が完了したところで、入り口の方から足音が聞こえる。

 盾を持ったヴァルキューレの生徒の首を絞め、引きずりながら現れたその姿は、その二つ名に相応しいまでの殺気を放っている。

 

 美しい黒と鮮血のような紅い髪に、黒と白い花の模様が描かれている和服のような制服。

 そして特徴的な狐の面。

 

 百鬼夜行連合学院の問題児であり、停学中の正真正銘の犯罪者……狐坂ワカモが俺たちの前に立ち塞がる。

 

「ふふふっ……!」

 

 セナがいち早く駆け出し、右手に持ったヴァルキューレの生徒を離させる為にグロッグ17を素早く三連射し、手放させる。

 アイツの得物は確か、ソードオフのグレネードランチャーだった気がするが……別のも持ってる訳か。

 

 そのまま、肉薄し生徒を回収したと思えば、ワカモから距離を取る。

 

「……負傷者の回収、及び離脱を完了。危険要素を確認、大量の負傷者が発生する恐れ有り。救急医学部の部長として、これの鎮圧を開始致します。

 

 これ以上、負傷者を増やさせはしません」

 

「おや……? ヴァルキューレの生徒ではないようですね?」

 

 ワカモは、セナの方を振り向き、苛立ちを隠しきれないように声を震わせる。

 

「あぁ、困りましたね……どうしてこんなにも邪魔者が多いのでしょうか……。私は、ただ……!」

 

 ワカモのセリフがそこで止まる。

 背後にまで歩いてきた俺の気配を察知したからだろう。

 

「久しぶりだな、ワカモ」

 

 あの時と同じように俺は、ワカモの後頭部に銃口を向ける。

 

「先……生……!!」

 

 ワカモの声が上ずる。

 先ほどまでの険悪な雰囲気が搔き消えたと思った、その時駆けてくる足音が二つ。

 

「隙ありぃ!」

 

「……!?」

 

 避難を完了させたフブキがワカモへと飛び掛かると、その両手を掴んで背中に回し、動きを止める。

 そして大声を出す。

 

「キリノ、今!」

 

「は、はいぃ!! さ、災厄の狐さん!御覚悟!」

 

 遅れて来たキリノが、脇のホルスターから、S&W M360を抜くと、それをワカモへと向けて素早く五連射を決める。

 放たれた弾は疎らに飛び、ワカモの全身に散らばるように当たる。

 

「先生!今がチャンス!一気に……あれ?」

 

 フブキが、そう声を出すと同時にワカモが倒れる。

 その拍子抜けした結末に、啞然とする。

 

 あの程度の銃撃ならものともしないと思っていたが……。

 

「……え。た、倒しちゃいました?」

 

「あぁ……こんなんでやられるようなタマじゃねぇと思ってたんだがな……」

 

「マジで!?キリノお手柄じゃん!」

 

 首を絞められていたヴァルキューレの生徒の診察を終えたセナが、ワカモへと近寄り、拘束する。

 災厄の狐……による襲撃は何とも間が抜けた終わりを迎えた。

 

「制圧完了……皆さんお疲れ様でした」

 

「え、えぇぇ……?」

 

 撃ったキリノが一番困惑していたことが、やけに記憶に残っている。

 その後、拘束されたワカモはヴァルキューレの護送車に搬入され、留置所へと護送を開始した。

 

 それを見送りながら、フブキがキリノへと肘で突っついて揶揄い始める。

 先ほどまで真剣な表情をしていたのが、嘘のようだ。

 

「キリノやるじゃん、あの『災厄の狐』を仕留めるなんてさ!まじで行けるとは思ってなかった!」

 

「そ、そうですね……?私もまさか当たるとは……え、本当に当たったんですか?どうして?」

 

「なんだ?まるでてめぇの腕に自信がねぇみたいな言い方をしてるが」

 

 俺が、二人の元に近寄ると、キリノが照れくさそうにしながら口をモゴモゴとし始める。

 余程致命的と見たな。

 

「それがさ、先生。キリノって、銃が本当に下手で……射撃訓練で、人質を避けて犯人を撃つ訓練で、全弾人質に当てたり、至近距離で撃って外すくらいの──「フブキ言わないで!」」

 

「そうか……」

 

 こいつは、どっかのタイミングで射撃訓練の依頼でも飛んできそうな予感がしつつ、俺は帽子を深く被りなおした。

 あの弾は、確かにワカモに命中していた。

 ……が、神秘もそこまで籠ってねぇ上に、それなりに強いはずのワカモがあの程度の射撃で沈むとは到底思えねぇ。

 考え込んでいると、フブキが顔を覗き込んでくる。

 

「……? 先生どうしたの?」

 

「あぁ、俺は前にアイツに出会って対面したことがあるんだがな」

 

「あっ、私も以前ヴァルキューレの資料で見ました、かつてワカモが矯正局を脱獄した時に、その混乱を収拾した立役者が、次元先生だったと」

 

「あれはただの成り行きだ。 ただな……ワカモはあれでくたばるような奴じゃねぇと思ったんだがな」

 

 あの時感じた明らかな脅威。

 あれは、相対した時のヒナやネルと似た強者の風格によく似ているものだった。

 あいつらがリボルバー五発でくたばるようなタマじゃねぇように、ワカモも同じだと思ってたんだがな……。

 

「まぁ、何はともあれ『七囚人』の一人、『災厄の狐』を捕まえれたんだから良かった良かった」

 

「七囚人?」

 

 俺が疑問を口に出すと、フブキが説明をしてくれる。

 何だかんだで面倒見がいいのは好印象だな。

 

「七囚人っていうのは、先生がキヴォトスに来たあの日に矯正局から脱獄した七人の囚人の事。

 

『伝説のスケバン』、『慈愛の怪盗』、『五塵の獼猴』、『災厄の狐』……。

 彼女たちにはそれぞれ通称、まぁ渾名みたいなのがついていてね。

 狐坂ワカモの通称が『災厄の狐』。 アイツが現れるたびに、その場は『爆炎』で焦土と化してしまう……確か、そんな感じの由来から付いた名前」

 

「つまり、あのワカモと同じくらいの犯罪者があと六人も潜んでいるんです」

 

「いやー参った参った、怖い話だね!」

 

 そうフブキは茶化すが、笑える話でもないだろうな。

 しかし、爆炎か……概ね固有名による力だろう。

 先ほどの様子じゃ、それらしき素振りすら見えなかった。

 

 手を抜いていた?

 それとも何か目的があってか。

 

「フブキ、俺の予想だが……脱獄するぜ、ワカモ」

 

「え?いやまさかそんな……あ、ごめん上司からの連絡だ」

 

 そういうと、フブキはスピーカーに無線をつける。

 スピーカーからは、大人びた厳しそうな女性の声が聞こえる。

 

『D.U.地区にいる全ヴァルキューレ生徒に伝える、現時刻をもって逃走中だった指名手配犯「災厄の狐」を逮捕することに成功した! これより矯正局へと移送するため、ヴァルキューレ警察学校の生徒達は、総員東地区へと……』

 

「げ、警備局長じゃん」

 

 総員での護送か。

 となると、その間警備には穴が空く。

 

 他の不良生徒による被害とワカモによる被害なら前者の方がまだマシだとでも考えたか?

 

 捕まっても脱獄する術なんざ、幾らでもあるってのにな。

 

「フブキ、呼び出しです!行きましょう!」

 

「え〜……私たちが捕まえたのに、まだ働くの? しかも矯正局まで行くとか、面倒くさァ……」

 

「おい、2人とも。気を引き締めろよ」

 

 俺は、面倒くさそうに項垂れるフブキと、その手を引っ張るキリノに声をかける。

 

「先生の言う通りですよ、折角ですから最後まできちんとやりましょう」

 

「まぁ、そういうことじゃねぇんだが……ほんの一瞬でも気が弛めば、俺らのようなプロは間違いなくその隙を突く。 牢獄に入れても気を弛めんじゃねぇぞ」

 

「うぇぇ……まぁ、先生がそんなに言うなら分かったけどさぁ……」

 

「では、先生失礼致します!」

 

 大きく溜息を吐いたフブキは、嫌々渋々キリノと共に去っていった。

 

 どうにも嫌な予感がしてならねぇが……まぁ、ここから先はあいつらの仕事だからな。

 

 そう心のどこかで不安に思っていると、セナが声をかけてくる。

 

「先生、もしこの後もパトロールを続けるのであれば、私も同行してもよろしいでしょうか?」

 

「俺は構わねぇが、いいのか?」

 

「はい、これも何かの縁ですので」

 

 そう言って心にしこりを残したまま、俺たちはパトロールを再開するのだった。

 




一件落着と思えば
どうにもこうにもこのバレンタインっていうイベントは、厄介ごとに事欠かないな。
言わんこっちゃねぇ、だから言っただろ。気をつけろってよ。

次回 セキュリティとデジャブ

こいつは反省が必要だな。




もしよろしければ、ここすき、評価、感想お待ちしております

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