新任教師『次元大介』   作:レイゴン

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中編 セキュリティとデジャブ

『先生大丈夫だったの!?』

 

 いきなりの大声で、俺は電話から耳を離す。

 電話の相手は、アルだ。

 なんでも先ほどの速報を聞いていたらしく、俺の集合地点を知っていた彼女は、心配だったらしい。

 

「俺のことなんだと思ってやがる」

 

『死なないけど、大怪我を平気でする人かしら』

 

「言うようになったなお前さん……」

 

 それなりに時間は経ってるが、それにしちゃ随分と距離が近くなったもんだ。

 昔は一言二言話す度に緊張してたのにな。

 ガキの成長は早ぇもんだ。

 

 バレンタイン、心の距離を近づけるチャンスだったか?

 街にはそんな浮かれた広告だの売り文句が描かれているが、こうやって時間を掛けて縮めた方がいいって話だ。

 

 じゃあ、何でこんなに盛大にやってるかと言えば、金になるからさ。

 だから、こういう浮かれたイベントってのは嫌いなんだよ。

 

「兎も角、俺は問題ねぇよ。そっちは?」

 

『こっちも暴れそうな不良たちはとっちめてるわよ、ハルカはその辺ピカイチなの』

 

「だろうな、アイツのその辺の勘は信頼してる」

 

『ふふっ、それじゃまた後で』

 

 そう微笑みを残して彼女は通話を切った。

 

 好きにはなれねぇ行事だが……まぁ、楽しんでるやつはいる。

 それに水を差すような真似はさせねぇのが、俺の今の仕事だ。

 

「お電話終わりましたか?」

 

「悪いな、セナ」

 

「いえ、先生の話してる顔、随分と穏やかな表情をしてらっしゃったので」

 

 そう言われて、俺は思わず顔を手で触れるが、特に普段と違った表情をしているとは感じなかった。

 俺が気が付かなかっただけかそれとも、セナの見間違いか。

 後者だろうな、きっと。

 

「しかし、思ったよりも平和ですね」

 

「なんだ?負傷者が出なくて寂しいってことか?」

 

 俺がそう隣を歩くセナに対して返すとムッとした表情をする。

 あまり表情の変わらない女だから、あからさまではねぇが、それでもほんの少しだけ不服といった雰囲気を感じた。

 

「先生、私は確かに負傷者を見たくはありますが……それでもこういった催事です。 出ないに越したことはないは無いと思っています」

 

「素直な女だな」

 

「医療従事者たるもの嘘を口にしては行けないと思っています。 そも、私の部活動は、不必要に向かって活動するもの。仕事をすることの無い暇な時間が多い程、世界の平和と呼べますので」

 

 セナは自然に、そしてただ当たり前のことを口にするようにそう言葉にした。

 必要とされない為に、活動を続けるか……。

 

 難しい道のりかもしれねぇが、セナはそれを分かった上で口にしている。

 伊達に委員長を任されてるわけじゃねぇってことだな。

 

「くくっ、違いねぇな」

 

「先生も是非悪事に手を染めないでいただければ、私も暇になるのですがね」

 

「ここじゃしてねぇよ。 それに俺の生き方は俺しか決められねぇ」

 

 今のところはが、枕詞につくが……それは心の中に閉まっておく。

 少なくともこの仕事が終われば、いいもんを盗みに上がるのはありだろう。

 

 こんな世界だ、さぞ綺麗なお宝もあるだろうさ。

 

 そんなことを思いながら、大通りを歩いているとふと俺に視線が向けられる。

 

「あれ?先生?」

 

 俺に声をかけてきた生徒は、青い短髪にメガネを掛けたジャケットを羽織った少女だった。

 言っておくが、俺はそれなりに記憶力はいいほうだ。

 それでも、俺はその少女に見覚えがなかった。

 

「……あ、そういえば顔を合わせるのは初めてだっけ」

 

 俺の様子に気が付いた彼女は、羽織っているジャケットの腕に付いているマークを見せる。

 黄色いVのマークそしてその下に描かれている『VERitAs』の文字。

 

「あのハッカー集団の仲間か」

 

「一応、あの戦いでサポートしてたんだけど……メインはC&Cの方だったし仕方ないか。 ヴェリタスの副部長をしている『各務チヒロ』っていうのよろしく」

 

「エリドゥか、懐かしいな」

 

 髪をかき上げながら、チヒロは頭を下げる。

 思い出すと、あの時ヒマリが『チーちゃん』なんて呼んでたやつがいたが……この女のことだったのか。

 

 ヴェリタスのやつらは基本的に引きこもりのハッカーが多かったが、チヒロは随分と活動的に見える。

 

「引きこもりばかりだと思ってたが、ヴェリタスも営業するんだな?」

 

「まぁね、この力をいいことに使いたいからさ。さっきまでセキュリティチェックとかをしてたの……先生は、ゲヘナの子を連れて、バレンタインデーだし、まさかそういうこと?」

 

「こいつは、救急医学部のセナ。ヴァルキューレの依頼でな、パトロールしてんのさ」

 

「残念ながら、そういうことではないです」

 

 残念ながらってなんだ、表情を一切変えずにボケるもんだからツッコミが遅れてしまう。

 ゲヘナの奴らはどいつもこいつも天然ボケが多い気がするが……気のせいか?

 

「まぁ、先生に限ってそんなことはないか」

 

「えぇ、死体確保のついでです」

 

「し、死体?確保……? え、先生ってそういう趣味でも」

 

「負傷者の確認な。俺にそういうシュミはねぇよ」

 

 セナが淡々と話す言葉に、チヒロが固まる。

 流石に勘違いされちゃ敵わねぇからな。

 

「そっか、先生ってこういうイベントには無頓着だと思ってたけど違うんだね」

 

「浮かれた行事は得意じゃねぇが……楽しんでるガキが悲しむのは俺も不本意だからな。 お前さんも、同じだろ?」

 

「……まぁ、ね」

 

 照れくさそうに彼女は、そう頬を掻き何かを考え込んでいる。

 しばらく考えていた彼女は、セナと俺の顔を交互に見てから、口を開く。

 

「ここで会ったのも何かの縁だし、方向が同じだったらさ、一緒に行ってもいい?」

 

「巡回はこんな感じだが大丈夫か?」

 

「……うん、次の依頼場所と方向同じだし、いいかな」

 

 地図を見せて話をすると、方向が同じようで、セナも特に反対する様子もない。

 こうして、このパトロールに一人仲間が増えた。

 

 

 ──────

 

 ────────────

 

 ────────────────────

 

 

 時間は少し戻り……。

 

 揺れる護送車の中で、フブキが大きな口を開いてあくびをする。

 

「……いやぁ、護送は退屈だねぇ」

 

 そう隣で緊張した面持ちをした同僚に声をかける。

 自分に話しかけられていると気付いた彼女は、それに対して、キビキビと注意し始める。

 

「フブキ、そんなにだらけてたら警備局長に怒られますよ!」

 

「まぁまぁ、それを言ったらキリノだって固くなりすぎだよ。まぁ、相手が相手だし仕方ないけどねぇ……」

 

「分かってるのなら、もう少し──「でも心配しすぎだよ」」

 

 フブキはキリノの鼻の頭を突っついて、おどけたように笑う。

 ガチガチになっているキリノは、鼻の頭を突っつかれて、怒り出すがそれでも先程よりかは幾分かマシになっている。

 

「心配もしますよ……だって相手はあの『災厄の狐』さんですよ!? 七囚人の中でも一番凶悪で、犯罪履歴も並大抵では、ヘイロー以外の全てを破壊してきた正真正銘の悪、そのうえ、たった一人で多くの問題児たちを扇動して、シャーレ占拠だって彼女の仕業だってきいてますし……」

 

「まぁ、あの時は、連邦生徒会も委員長の失踪でバタバタしてたんだしさ。しょうがないよ」

 

 それでも、キリノは心配そうに唸り声をあげる。

 納得いっていないといった様子だった。

 心配しすぎなのも事実だが、それは裏を返せば囚われになっている彼女に対して、一切油断していないということになる。

 

「あの綺麗な仮面やら服を剥ぐのは流石に躊躇したけど、武器やら悪さできそうな道具は全部没収したし、それに手錠に足錠。閉じ込めてる部屋だって見張りがついてるし……生活安全局だけじゃなくって警備局の奴らだってあんなにいるんだよ?」

 

「うーん……それでも先生の言葉がどうにも気になってしまいます」

 

「一瞬の隙だっけね、まぁそんなに気になるなら見に行く?」

 

 フブキがそう言って席を立った瞬間、爆発音と急ブレーキがかかり、床に転倒しかかる。

 床に頭を打ちつけそうになった瞬間、キリノがフブキの頭を咄嗟に受け止めて、爆発のした方を見つめる。

 

「先生に連絡した方が良いよね」

 

「そうですね、急いで掛けましょう……!」

 

 

 

 ────────────────────   

 

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 ──────

 

 

 セナとチヒロを連れて歩き出そうとした瞬間、遠くの方から爆炎が上がり、その衝撃波で帽子が吹き飛ばされそうになる。

 

「今のは……爆発?どこかのパイプでも逝ったのかな」

 

「いえ、あれは人災ですね……今風に乗って流れてきた神秘には覚えがあります」

 

「セナさん、神秘の感じ分けができるんですか?! しかも、個人レベルまで……」

 

「普段は無理ですが、先程感じたものを忘れるわけが無いので……」

 

 セナとチヒロがなにやら話しているが、どうやらセナは感づいたらしい。

 あの爆発の原因に。

 

 そう考えていると、懐の端末が震える。

 仕事先の連絡、このタイミングってことは……。

 

『先生ごめん!逃げられた!』

 

「だから言っただろ、気を抜くなってよ。何があった」

 

『それが……護送中の車両が爆破されて、そのタイミングで何か色んな奴らが襲ってきて、ヴァルキューレの装甲車やら装備やらが奪われて……!』

 

 不良共がヴァルキューレを襲ったのか。

 元々計画されてたもの……とは思いにくいが……。

 それにしちゃ随分と準備がいいな。

 となると、誰かがワカモを手助けしてるのか……?

 

 俺がそう考えこんでいたが、フブキが話始めたことで意識を戻す。

 

『先生、ごめんなさい!でも助けてほしいの!このままじゃ』

 

「仕方ねぇな、ガキ共の為か……──『始末書どころか、私の休暇が削られかねない!!』」

 

 こいつは平常運転だなおい。

 まぁ、フブキの休暇はどうでもいいが、下手に暴れられると色々困る。

 カタギにまで被害が出りゃ、笑えねぇからな。

 

「ワカモはどっちに向かった?」

 

『爆破地点から西方面!』

 

「さっきの風は東から……ってことは」

 

 咄嗟にメールを便利屋達に飛ばして、俺は身構える。

 まだ核心には至らねぇが、確実に一つ言えることがある。

 

「フブキ、そっちに便利屋を向かわせた。不良共はお前らでどうにかしろ」

 

『分かったけど、先生は?』

 

「俺は、どうやらダンスの誘いをされててな」

 

 ビルを渡る紅蓮の焔が、俺たちの前に着地し、熱風と共に大きくはじけ飛び、中から現れたのは……災厄の名を冠した子狐だ。

 

 そう、確実に一つ言えることがある。

 それなりに離れていたのにわざわざこっちに来たんだからな。

 

「ワカモ、テメェの狙いは俺か」

 

「……決して、決して逃しはしません……次元大介、先生!」

 

 その後ろには、不良共を引き連れている。

 やれやれ、女難の相には事欠かねぇな。

 

「チヒロ、セナ。悪いがアシスト頼んだぜ」

 

「仕事がまだあるからね、パパッと済ませよう」

 

「死体確保のチャンスですね。頑張ります」

 

 セナたちは、銃を持って不良たちの方へと駆け出して行った。

 さっきの俺の発言で、彼女たちも俺がこいつの相手をすると察していたらしい。

 流石三年生、話が早い。

 

「邪魔な女狐共が居なくなって助かります、先生♡」

 

「俺が目的だろう?まっすぐ向かって来られりゃ、あからさますぎて、誰でも分かるもんだ」

 

「ふふっ、ふふふふっ!あぁ、なんて嬉しい……このワカモ、あなた様を捕まえに参りました」

 

 ワカモは、銃剣を地面に突き刺し、俺に向かってカーテシーを行う。

 丁寧な口調だが……誘拐か。

 まさか俺が攫われる側とはな。

 

「へぇ、断るつったらどうする」

 

「……この私から逃げれるとでも?」

 

「生きてるなら可能性は無限だろ」

 

「では、そのお体に、可能性は微塵もないという事をたっぷりと教えて差し上げますね♡」

 

 地面に突き刺さった銃を抜き、照準を俺に向ける。

 

 実力行使って訳か。

 その方が話が早いには、早いんだがな……。

 

 またアロナに無理させちまうな。

 

 右手で持っていた銃を弓を引くように後ろに引きトリガーから指を離す。

 あの構え……撃つ気がねぇな。

 

「シッ……!」

 

 素早く息を吐くと同時に、素早く距離を詰め、俺の脚に向かって突きを放つ。

 殺す気がねぇのは分かっていたが、足を奪えばいいってのはイカれてやがるな。

 

 横に飛びながら、マグナムを抜き、引き金を引く。

 飛んでいく弾は、そのままワカモの方へと真っ直ぐ突き進むが、その肉体に当たるよりも前に彼女の銃である九九式短小銃によって阻まれる。

 

 銃自体に神秘を込めて強度を上げてるってところか。

 ネル程速くねぇのは助かるが……下手な弾丸よりも速いのは流石だな。

 

 再び銃剣を構えて、鋭い突きを放つ。

 点の攻撃は避け慣れてるが……こいつ徐々に速度上がってきてねぇか?

 

 避け続けるのも、精一杯だな!

 

「私の突きを止めましたか」

 

「やられっぱなしは性に合わねぇんでな!」

 

 引き寄せると同時に、彼女の胴体に向けて蹴りを放つ。

 当然のように腕で受け止められ、俺は大きく飛び退き、銃の間合いを取る。

 

「流石あなた様、こんな小手調べでは避けられてしまいますね、では……」

 

 距離を取られたのを確認したワカモは、膝立ちで構え、その全身から血のような赤黒い神秘を吹き出し始める。

 

 深く息を吸い込んで俺をじっと見つめるワカモ。

 明らかに今から大技を使うって雰囲気が満載だな。

 

「お邪魔が入ってしまうよりも前に、さっさと頂いてしまいますね♡」

 

 空間にまで可視化できるほど濃密に溢れていた神秘が、全て銃に籠ったと思えば、その引き金を引いた。

 

 初撃は見易い。

 タイミングを合わせて体を翻して横に逸れる。

 

 その直後、背後に爆炎が柱となって吹き上がった。

 

 アルみてぇな……いや、あいつのは爆発が主体だったが、ワカモのは……。

 

 意識が背後の炎に割かれかけるが、あいつはまだ構えている。

 そして、一斉に弾を連射し始める。

 

 あの銃の装弾数は5発。

 ボルトアクション式だから、連射はできねぇはずだが……一発打つとほぼ同時に排莢を行うことで、あの速度の連射を実現しているのか。

 

 横に走りながらそれを避けるが、避けた先で次々と火柱が上がる。

 

 あんな弾を常に撃てるなら、そりゃ災厄の狐なんて言う物騒な二つ名が着くわけだ。

 

「流石七囚人ってとこか?」

 

「お褒め頂きありがとうございますっ♡」

 

 炎に意識を取られて、接近していたワカモにギリギリまで気づけなかった。

 

 取り外された銃剣を握り締めて、それを振り下ろしてくる。

 

「今のはヒヤリとしたな」

 

「ふふっ、思っていた通りの強さをして嬉しいです」

 

 マグナムで受け止めたが、火花が散って、徐々に押されていく。

 こいつ見た目以上にパワーがあるな……。

 

 思ってた通り、つまり俺が避けることも受け止めることも、こうやって押されてるのも想定内ってことか。

 

「はっ……」

 

「おや、何か面白いことでも?」

 

「まぁな、お前さんに吠え面をかかせるのが楽しみになった! 」

 

 力を抜き、一瞬距離が離れる。

 当然近付いてくるが……その一瞬があれば俺には充分。

 近間で撃つように体に銃を寄せて、引き金を引く。

 

「っ、この一瞬で……」

 

 銃剣の側面で弾を受け止めて、距離を離す。

 

「ですが、それでは私には届きません……それに、私はされるよりもする方が好みですので!」

 

 剣を持ち直して俺に向かって再び肉薄するワカモ。

 

 正面からは防がれるか……なら。

 

 再び銃を構えて、ワカモを真っ直ぐ見つめ……。

 

 引き金を引く。

 

「言ったでしょう、弾は効かないと!」

 

 銃剣の側面に当てて、俺の弾を後方へ弾き飛ばす。

 お前ならそうすると思ったぜ。

 

 銃口をずらして再び、引き金を引く。

 

「どこに向かって弾を飛ばし──がはッ?!」

 

 突然、ワカモが前のめりに倒れる。

 

「いっ、一体何が……」

 

「さっき弾を弾き飛ばしただろ、そいつを再利用させてもらった」

 

 正確に言えば、背後に飛んだ弾に向かって弾丸を放った。

 跳弾したそいつは、角度をつけて、ワカモの背中に命中したって訳だ。

 

 いつかの異世界で、あの暗殺者の女に使って以来久しぶりに使うことになったが……まだ落ちちゃいねぇな、こっちの腕も。

 

「弾1発ごときで、私の──が止まるはずが……」

 

「よく聞こえなかったが、攻撃を意識してる時に不意打ちしたんだ。体が言うこと効かねぇのも無理はないだろ、大人しくしときな 」

 

 銃口を向けたまま、俺はワカモに告げる。

 その後駆けつけてきたヴァルキューレによって、ワカモは再びお縄に着いた。

 

「先生!大丈夫だったかしら!?」

 

「アルか、見ての通り傷一つねぇよ」

 

「ほんと、急にメール来たときはびっくりしたわよ……ワカモは俺が抑えるから、ヴァルキューレを手伝えって」

 

 一緒に駆けつけてきた便利屋たち、特にアルに俺は問い詰められる。

 怪我も何も負ってねぇってのに過保護な女だ。

 そこまで信用ねぇのか?

 

「それにしても、災厄の狐に目を付けられるなんて……何をしたの?先生」

 

「身に覚えはねぇよ」

 

「…………」

 

 連行されていくワカモを見ながら、俺はカヨコからの質問に答える。

 ワカモはふと立ち止まり俺たちの方を見つめる。

 仮面で何を考えてるのか分からねぇが、ただ、俺じゃなくアルのことを強く睨んでいたようなそんな気がした。

 

「ようやく終わった……」

 

「死体……いえ、負傷者の確保も十分にできましたね」

 

「セナさんにチヒロさんも協力感謝致します!」

 

 不良たちを抑えてくれていた二人に、キリノが敬礼を行う。

 負傷した不良たちの搬送の手伝いをしていたフブキも遅れてきたところで、チヒロが不満げに声を出す。

 

「ねぇ、そういえば向かってきた不良たち、ヴァルキューレの装備持ってなかった?」

 

「そういえばそうだね、これヴァルキューレの校章描かれてるよ」

 

 そう言ってムツキが俺に向かって不良共が使ってたアサルトライフルを投げ渡してくる。

 確かに、この校章といい、この整備具合はそれなりに金がなくちゃ出来ねぇ代物だ。

 

「これ、あなた達の物でしょ?どうしてそれをあっち側が使ってるわけ?」

 

「そ、それが実は、襲撃時に武器を奪われてしまいまして……」

 

「ユーザー認証とか、オートロックあるでしょ?ヴァルキューレの武器は貴重なのにそんな簡単に……セキュリティ大丈夫なの?」

 

 チヒロは、セキュリティ関係の仕事をしてるんだったか。

 銃をよく見ると、本来セーフティーがある部分にパネルが設置してあり、そこで数字を打ち込むことで使用することが出来るようになっているらしい。

 

「それがその……」

 

「普通のパスワードがあるんだけど、確か警備局長の誕生日だったかな? でも良く忘れるからって、パスワードを書いたメモ帳がいつも警備車両の目立つところに……」

 

「…………。 何てセキュリティ意識の低さ……! はぁ、これは私が出向いて色々した方が……」

 

 まさかのメモを貼っておくとかいう始末だとはな。

 それが金庫の番号なら盗みやすいことこの上ない。

 つまらなさ過ぎて、盗む気すら起きねぇが……。

 

 そのあまりにもひどいセキュリティ意識に、チヒロは俯きながら、立ち昇る怒りのままに深くため息を吐く。

 

「まぁまぁ!最初はヒヤッとしたけどさ、結局『災厄の狐』はまた捕まえられたんだし。終わり良ければ全て良しってことで!」

 

 そういうのには疎い俺だが、それでも番号をメモにしたり、ましてや目立つところに置いたりなんてしない。

 

 それなりに護衛していたようだが襲われている始末……。

 こいつは近いうちにヴァルキューレで一仕事しないといけないかもしれねぇな。

 

「ちょっとフブキ、流石にもう少し真面目に捉えた方が……──「それにしても、なんで彼女は先生を狙ったんだろうね?」」

 

「言っておくが身に覚えはねぇぞ」

 

「先生って、そうやって恨み沢山買ってそうだよね」

 

 ムツキにデコピンをかまして、少し黙らせておきながら、俺はワカモのことを考えていた。

 あの声色、どこか覚えのある感情だったが……

 

「元々連邦生徒会のことが嫌いで暴れてたらしいし、シャーレも同じ感じで嫌いなんじゃないかな」

 

「…………」

 

「納得いかないって感じね?」

 

 隣に来たアルが声をかけてくる。

 

「まぁな、憶測で話すべきじゃねぇが……まだ嫌な予感がするな」

 

「そうね……何かあったらまた連絡して頂戴?」

 

「あぁ…………」

 

 虚ろな返事を返してしまった俺の脳裏に刻まれていているのは、最後のあのワカモの様子だった。

 

 俺とは違う、もっとドス黒くて、嫌な雰囲気のした感情。

 怨嗟に近い感情をあの仮面の先から感じ取れた。

 

 そして、それを俺ではなくアルに向かって……。

 

 シャーレへの嫌悪……か。

 

 このまま終わるわけがねぇ、そんな予感と共に俺は立ち去っていくヴァルキューレ立ちを見送るのだった。

 




ようやく一難去ったと思ったが……あの視線、どうにも訳アリに見える。
全くこういう女がらみのトラブルは俺の役柄じゃねぇと思うんだがな。

次回 チョコよりも甘い甘い真実 

俺は降りさせてもらうぜ、この仕事から。




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