新任教師『次元大介』   作:レイゴン

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Vol.4 兎と悪党
1-1 ルーキーへの教育は先生の仕事


「ったく。上手く行くといいんだが……」

 

 そうぼやいた俺に銃口が突きつけられる。

 突き付けてきたのは白いヘルメットに兎の耳がつけられた制服姿の女。

 

「……黙れ」

 

「へいへい」

 

 その女の顔は煤と泥に塗れており、とても平時の姿には見えない。

 

 ここは、D.U.地区にある子ウサギ公園。

 さらに言えば、その敷地内に不当に建てられているテントの中だ。

 

 布に印刷された兎のイラストと『RABBIT』の文字を見ながら、俺は少し前を思い出す。

 

 

 

 時間は少し戻り、今朝のシャーレ。

 

 先日のワカモを起因とするバレンタインの事件の後始末を行っていた俺は、エベレスト越えの書類の山を登頂していた。

 終わりが見えねぇ仕事ってのは、体力以上にメンタルに来る。

 

 ちなみにだが、あの後ワカモは姿を消し、またキヴォトスの闇の中に消えていってしまった。

 お縄に着いた方がヴァルキューレの胃には優しいだろうが……まぁ、問題を起こすこともないだろう。

 そもそも俺はワカモ側の人間だからな。

 

「アル、お前さんいつまでニヤけてやがる。手を動かせ手を」

 

「ふふっ、仕方ないでしょう?ようやく戻ってきたんだもの」

 

 アルがずっと撫でているのは、ワカモによって切断された彼女の愛銃であるワインレッド・アドマイアー、俺がキヴォトスに来てから贔屓にしている奴に持っていって修復してもらったもんだ。

 傷跡一つなく完全に修理されて、その上色々整備もしてもらったみたいだ。

 アルとしても愛銃が元に戻って嬉しいようで、今朝届いてからずっとあぁやって頬ずりを続けている。

 

「はぁ……ユウカアイツ暇だったか? ……このペースじゃ、部屋が埋もれちまうんじゃねぇのか?」

 

「それは先生がパソコンをほとんど使わないで紙に拘るからじゃない」

 

「俺はそういうハイテクなもんは信用してねぇんだよ」

 

 そういう機密のデータを狙って盗ってる同業の女をよく知ってるからな。

 どうしようもねぇもの以外は紙の方が安全なんだよ。

 と、思っているがこの紙の山を見ているとそうも言いきれなくなってきたな。

 

 溜息を付いて肩の凝りをほぐしていると、シャーレ備え付けの電話が鳴る。

 

「はぁ、こちらシャーレ。要件は?」

 

『開口一番ため息とは……気が抜けてるのでは無いでしょうか先生』

 

「リンか。久しぶりだな」

 

 電話越しに説教をかましてきたのは、現在連邦生徒会長代行を務めてる七神リンだった。

 俺がここに来たばかりの頃や、アビドスの件では世話になったが、それ以外だと声を聴くのは久しぶりだった。

 仕事の関係で、メールでのやり取りは時折行ってはいるがな。

 

「それで、お前さんが態々通話をしてくるなら、それなりの事案だろ。俺に何を頼みたいんだ?」

 

『話が早いですね……先生はSRT特殊学園についてご存知でしょうか』

 

「SRT……あれか、エデン条約の調印式の朝、お前さんが言ってた……閉鎖された学園だったな?」

 

 つい最近、世界から見放され、神にすら忘れ去られた学園があったこともあり、妙に名前が頭の中にこびりついていた。

 そういえば、アリウス分校に関しては、パテルとサンクトゥスの代理代表が任せろと言って……あれから特に連絡もねぇが、大丈夫なのか?

 

『先生もそこはご存知でしたか……「SRT特殊学園」、「Special Response Team」。すなわち特別対応チームの名を冠した、キヴォトスにおける法執行機関、その最高学府だった(・・・)学園です』

 

「だった?」

 

『はい、通常ヴァルキューレ警察学校が連邦生徒会の管轄なのですが……。

 SRT特殊学園は、連邦生徒会長直属の学園組織として創設され、会長の名の下に最新兵器や装備を持ってあらゆる自治区への介入が可能なのです』

 

 要するに国際警察……銭形が所属してるICPOみたいなもんか。

 まぁ、銭形に関しては、ルパンの在るところ天下御免で何処にでも来やがるから、合ってねぇようなもんだが……。

 

 しかし、今ので凡その理由が分かった。

 

「その肝心の責任者である連邦生徒会長が居ねぇから、閉鎖しちまったってことか」

 

『はい、シャーレの管轄にする案もありましたが──「俺ぁガキの面倒は見ねぇぞ」まぁ、そうだと思いましたので……』

 

 よく分かってるじゃねぇか。

 俺としても、見ず知らずのガキに手間をかけれるほどのお人好しでもねぇからな。

 シャーレの秘密部隊だって、俺と今はアルが認めた奴しか入れねぇ。

 要するに背中を預けれる奴しか無理って訳だ。

 他の仕事は……まぁ仕事だからな。

 

「それで、そのSRTがなんだってんだ?」

 

『はい……それが、現在元SRT特殊学園の生徒達が子ウサギ公園で閉鎖反対のデモを行ってまして……』

 

「ヴァルキューレはどうした……って言いたいが、お前さんの事だ。手を打って駄目だったか」

 

『お察しの通りです……警備局は壊滅。対テロ業務特化の公安局も壊滅寸前……申し訳ないのですが、先生と皆さんのお力を借りれないでしょうか』

 

 この前のワカモ相手にも苦戦してた辺り、ヴァルキューレ自身がその実力に不安な組織に思えるが……。

 対テロ……SATあたりか。

 あの辺の部隊でも敵にならねぇレベルの戦力差があるのは驚いたな。

 

「構わねぇが……敵の部隊数は?対テロ組織がやられかけてるってことは相当だろ」

 

『……小隊規模です』

 

「は?」

 

『一小隊にやられました』

 

 久しぶりに笑えねぇ冗談だなそいつは。

 

 

 

 話を聞いていたアルから、全員に連絡が入り、俺たちは子ウサギ公園へと向かった。

 

 子ウサギ公園では、犬の耳が生えた金髪の女が忙しそうに指示を飛ばしており、広場を囲む森の中からは銃声と砲声がけたたましく聞こえる。

 

「ブラボー?ブラボー!応答しろ!」

 

 戦況は、概ね劣勢か。

 

 クロノスの奴らがやけに騒いでいる横を通り過ぎて、指揮をしている女の隣に立つ。

 

「クソ……残りの人員も……生活安全局のバカ共は使えないし……」

 

「装備の差よりも練度の差ってやつだな、クククッ」

 

「っ! 誰だ!? ここは民間人の立ち、入りを……。 貴様は一体……」

 

 驚かせちまったようで、急に振り向いた彼女は、俺を一目見るなり眉間に皺を寄せて、俺のことを睨みつける。

 ひでぇ話だ、まるで殺人鬼でも見たかのような目付きをしてる。

 だから、俺は帽子のつばをつまんで被り直しながら、答える。

 どっかの小僧の決め台詞をパクってな。

 

「次元大介……ガンマンさ」

 

「次元、大介……シャーレの先生?」

 

 ガンマンよりも先生としての名が広まってるってのはどうにもむず痒いな。

 

 普通にしてれば美人なのだろうに、その顔は猟犬さながらで俺に警戒心を解こうとしない。

 躾の出来た良い奴だ。

 名乗っただけで、俺が本物と信じずに疑いの目を持ち続けているのは、良い警察の証拠だ。

 

「……ほらよ、これで証明になるだろ?」

 

「それはシャーレの紋章……まさか『防衛室』の代わりにシャーレを? ……こ、これは大変失礼致しました」

 

「気にすんな、お前さんの鼻は正しいよ」

 

 俺がそう声をかけると、その意図に気が付いたようで体が少し硬直する。

 ここに来て大分たつからな、もう消えてたと思ってたが……まだ血の臭いがするらしい。

 

 血生臭い仕事は避けてるつもりなんだがな……。

 

「それで、お前さんが現場指揮を任されてるっつう──「はい、責任者を担当しています。ヴァルキューレ警察学校の公安局長、カンナです」」

 

 敬礼を行うカンナは、そう元気よく話すが……どうにも疲れが取れてねぇ様に見える。

 局長といっても中間管理職……やれやれ、組織のお偉いさんってのは大変なもんだ。

 

「それで?こっちは小隊ってのしか聞いてねぇが……相手は?」

 

「相手は、元SRT所属のRABBIT小隊。

 構成メンバーは、ポイントマンである空井サキ。 後方支援の風倉モエ。 狙撃手、霞沢ミユ……そしてリーダーである月雪ミヤコの四名です。

 当初は数で制圧しようと思ったのですが……SRTの火力がデタラメで……。

 士気は底を突き……人員も……」

 

 そういったところで、俺とカンナが話している所に駆けてくる二人の人影が見える。

 全身真っ白な快活な少女と、気だるげな藍色の少女が俺とカンナに敬礼を行う。

 

「お待たせしました!生活安全局のキリノです! もう今すぐ出動しても良いですか!?」

 

「いやいや、もう終わってる感じじゃない?これ私たちの出番じゃないでしょ」

 

「はぁ……この『生活安全局(このバカ共)』だけです」

 

 大きく溜息をつきながら、カンナはそう二人を紹介した。

 この前、あのワカモを一度は捕まえたあの生活安全局の二人、キリノとフブキだった。

 

 溜息をついている辺り、今回の作戦には余程のことがない限りは、使いたくない人員だったらしい。

 正確に言えば使えないの方が正しいが……。

 

「あ、先生!奇遇ですね!この前はお世話になりました!」

 

「おう、相変わらず元気だな」

 

「こんな現場まで来るなんて、先生も腕を買われてるねぇ」

 

「それはお前さんもな」

 

 軽口を叩き合っていると、カンナが鋭い目つきで彼女たちを睨みつけ、私語を一瞬で黙らせてしまう。

 仕事一筋ってか?熱心なこった。

 

「ヴァルキューレ側からはそいつらってことか……」

 

 さてどうしたもんか……。

 火力は、どうやら向こうが上と見てるらしいが……。

 

「先生が居れば百人力です!さぁ早速!──「待て、貴様らが行ったところで零をかけるだけだ」」

 

「たかが人一人増えたところでどうにかなるほどのものでもあるまい……自分の腕前くらい、分かってるものだと思ったがな」

 

 そのカンナの一言は、俺に対しての挑発のように聞こえた。

 敵は四人、火薬は充分って訳だ。

 

「……しかし、その意欲は買おう。しかし気合だけではどうにもならない」

 

「もう少し人となりが気になるところだな……」

 

「?……彼女たちの事ですか?」

 

 俺が呟いた独り言が聞こえたようで、生活安全局の二人に説教をしていたカンナが俺の方に近寄って来る。

 耳まで良いと来たか……こいつを相手(と追いかけっこ)にするのは面倒そうだ。

 

「あぁ、先生なんてもんをしてるんでな。態々兵器を使ってまでデモをする意図が分からねぇ」

 

「彼女たちは本来、SRTの閉校と共にヴァルキューレの警備局に転向する予定だったのですが……何があったのか、急にこうして公園を占拠。『閉校を取り消せ』とデモを始めたという経緯です」

 

「肝心の何がは分からねぇが……まぁいい。向こうがその気なら乗ってやるよ」

 

 こういう小細工は俺の専売特許じゃねぇが……。

 

 キリノたちと仲良く話していた便利屋とイズナに俺は、とあるものを投げ渡して、森の方へと進む。

 

「そうだな……10分したら入ってこい。じゃ」

 

「先生!?何を……一人では危ないですよ!?」

 

 カンナの声が後ろから聞こえるが、振り向くことなく手を振って聞き流す。

 

 特殊部隊か……勘を取り戻すには丁度いい。

 

 

 ──────

 

 ────────────

 

 ───────────────────

 

『こちら……RABBIT4、推定敵性存在を補足……ど、どうしますか?』

 

『RABBIT1、数とポイントは?』

 

『えっと……ポイントB-1の森林地帯。数は一人です』

 

「B-1……ってことは私が一番近いな……こちらRABBIT2現場に向かう──『あっ、RABBIT2少し待ってくださ』」

 

 私は現場へと走っていく。

 私達とほとんど年も変わらないくせにリーダー気取りでうるさいRABBIT1(ミヤコ)の無線を切り、装備を片手に対象へと近づく。

 

 何だ?ただの一般人か……?

 ヘイローすらない……。

 規則によれば、戦地で見かけた一般人は対話、場合によっては拘束のち、詰問しろとのことだった。

 

 私は草むらから出て、彼の方へと向かい声をかける。

 

「おい、そこのお前。黒い帽子を被ったお前だ。ここで何をしている」

 

「ちょいと仕事でな、その服装……SRT特殊学園の生徒か」

 

 私たちの事を知ってる上に、仕事……こいつもしかして、ヴァルキューレからの回し者か!!

 

 咄嗟に銃を構えると、目の前の男は目元を帽子で隠しながら笑い始める。

 何だこいつ……銃を向けられて笑ってる?

 

「おい、何が可笑しい」

 

「気を悪くしたか、そいつは悪かったな」

 

 この男の他にも敵がいるかもしれない……なら、あまり銃を撃つのは得策じゃない……。

 

「おっ、おい!近づくな」

 

 気が付くと彼は、私の方へとゆっくり近づいていた。

 私が銃口を突き付けて、警告を出すと、彼は口角を上げてこういった。

 

「危なくねぇものを突き出されたところで、怖がると思うか?」

 

 目の前の男は平然と当たり前のように、声を出す。

 私の銃が怖くないのか?

 

 銃口を向けられているにも関わらず、一歩ずつ確実に距離を詰めて……ふと彼は止まる。

 

 そして私が構える銃の側面をちらりと見て、鼻で笑う。

 

「はっ、安全装置(セイフティ)が掛かってるぞ新米(ルーキー)

 

「誰が新米(ルーキー)だって?私は……私はSRT特殊学園の生徒だぞ!!」

 

 私が……そんな初歩的ミスをするはずがない!

 しかし、彼は私の言葉を聞くと呆れたような声を出す。

 その仕草が、声が私の心を猜疑心で蝕んでいく。

 ない……あり得ない。

 私がそんなミスをするはずがない……。

 

 でも……もし本当だったら……。

 

 そう思ってしまった私は、そっと視線を彼から外して安全装置の方へ移す。

 その瞬間、私の視界の端に黒い影が通る。

 自分のミスに気が付き、しまったと思うよりも速く……。

 私の体に鈍い衝撃が走り、天地が返される。

 

「まずは一匹」

 

 薄れていく意識の中で私が認識できたのは、そのたった一言だった。

 




怒りっぽい兎にビビりな兎、快楽主義の兎に真面目ッ子兎……。
キャラが濃いのはいつも通りだが……損な役回りをさせられるもんだ。
サッサと終わらせて……あれ?何か一人足りなくねぇか?

次回 悪い狼と四匹の兎

もう一人どこに行った?






新章開幕、さてさてどう転ぶことやら……
色々伏線の準備をしつつ、速めに投稿できるように頑張りますな
実はあと四人で、評価投票者数が300を行くのでまた企画を準備する予定です
ここまで歩んでこれてるのも皆様のおかげでございます……!

では、最後にもしよろしければここすき、感想、評価お待ちしております。

今の話のタイトルが分かりにくいとの意見を得て変更するか否か

  • 例:殺し屋の矜持
  • 例:1-10
  • 例:1-10 殺し屋の矜持
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