「ここがヴァルキューレ警察学校か」
捕らえられたRABBIT小隊は、カンナからの取り調べを受けるために一度ヴァルキューレ警察学校へと連行された。
俺としては態々行く必要もなかったが、ヴァルキューレが処遇を決めるのではなく、その上の防衛室の奴らが彼女たちの処遇を決めるとのことだった。
そう聞いた時に、前にセナが言っていたことを思い出し……せっかくならと着いていくことにしたのだった。
──ヴァルキューレの上層部からは良い噂を聞きません。
所詮噂は噂だが、流れてる以上は理由があるはず。
もしかしたら防衛室に務めてる奴の面でも拝めるかもしれないからな。
まさかこうやって正面玄関から警察の拠点に入る日が来るなんてな。
ヴァルキューレ警察学校の拠点は、かなりの高さのあるオフィスビルで、玄関には立派な校章のモニュメントが貼り付けてある。
流石D.U.地区だけじゃなくキヴォトス中の治安を守る組織の本拠地だ。
まぁ、治安が実際に良くなってるかどうかは置いておくが……。
RABBIT小隊の奴らはこの中の取り調べ室で、色々話を聞くことになるらしい。
デモといっても銃を振り回して、ヴァルキューレの生徒に怪我を負わせたんだから仕方ない上に、話によるとクロノススクールの中継ドローンを撃墜したらしいからな。
制圧のためとはいえ、小隊の奴らも怪我を負わせてしまった。
その手当やその他、取り調べの準備などの為にしばらく公安局のオフィスで待機することになった。
「そ、その先生?」
「何だ、アル。ソワソワして」
「その、悪いことをしてないのに、凄く居心地が悪いのだけれど……」
隣に座るアルが小さな声で聴いてきたが……それはそうだろうとしか言えないな。
便利屋は、元々風紀委員から指名手配されていたワルガキだからな。
チラチラと視線を感じるのもそういうことだろう。
だから本来俺一人で行くと言ったんだが、不安だなんだと騒ぎ出して、便利屋達を代表してアルが付いてくることになった。
「なら帰るか?」
「い、嫌よっ、こんな機会滅多にないじゃない」
「檻にぶち込まれることがあるならいくらでもあると思うが──「そういう話じゃないわよ!!」」
軽く肩を叩かれながらも、オフィス内を観察しているとやけにデカい声がオフィス内に響く。
誰かが帰ってきたらしい。
「副局長!何故許可を頂けないのですか!!奴の予告状ですよ!!」
「レイミちゃんの言うことは分かるっすけど、それ以外にもやることがあるんすよ。それにそこトリニティじゃないっすか、他自治区への出動命令は局長でも出せないんすよ?」
「っ……悪党はどうあれとっ捕まえて、牢にぶち込むのが我々の仕事でしょう!?」
アロハシャツを着た銀髪の少女に大きく身振り手振りをして絡んでいるのは、茶髪の長髪を頭の後ろで一つ結びにした黒いコートを着込んだ少女だ。
まぁ容姿はどうだっていい、問題はその発言だ。
「……銭形?」
俺は自然と声を出していた。
その言葉を聞いた2人は、俺たちの方を向く。
「おや?珍しい客人っすね」
「ムッ、誰だ。ここは許可なく立ち入っていい場所じゃないぞ」
当然声も姿形も似ても似つかないが……本質が似ていると言うべきか。
不審者だと思ったのなら、ブレねぇその目も、発言も銭形のとっつぁんに似ている。
「こら、レイミちゃん、客人に失礼っすよ。姉御から話は聞いてます。 シャーレの先生と便利屋の社長さんっすね?」
「あぁ、副局長……でいいか?」
「うるさくしちゃって申し訳ないっすね、公安局副局長のコノカっす。こっちは……」
「警備局兼公安局所属、尾銭レイミであります」
二人が俺たちに対して綺麗な敬礼を見せる。
たまたまにしちゃ、よく似てる。
因縁ってのは怖いもんだ。
「レイミだったか、さっきお前さんが言ってたのはなんだ?予告状とか言ってたが」
「巷を騒がせている泥棒の予告状が、トリニティの美術館に届いたという報せを聞いたのです!」
泥棒の予告状……?
まるでルパンみたいなことをするやつが居るんだな。
まさかアイツが来てるってのか?
あれから大人のカードは使っちゃいないが……。
「その泥棒の名前は知ってるのか?」
「名前は不明です……しかし、その通り名はキヴォトスの中でも特に有名なものです。 七囚人の一人『慈愛の怪盗』。予告状を送り、その通りに美術品を盗んでいく大泥棒ですよ」
あいつではないな。
ルパンが名乗る名にしちゃ随分と品がありすぎる。
しかしそうか、この世界にも似たような奴がいるとはな。
「レイミちゃんは、その慈愛の怪盗を捕まえるのに執念を燃やしてるんすよね。恋でもしちゃったんすか?」
「副局長違います!私はただ──「(そいつの)才能を正しい事に活かしたい」そう!その通りで、なっ、何故知ってる!?」
俺は自然と、レイミの言葉に合わせて、言葉を口にしていた。
被っていたのは偶然だったが、俺の思っていたことと同じ言葉を声にした事に俺は思わず口角が上がる。
「お前さんによく似た警部が言ってたんだよ」
「私によく似た警部……ですか?」
「先生その人って……」
「酒飲んで酔っ払った時に口走ってたのを思い出しちまっただけだ。他人の空似さ、 悪いな引き止めて」
他人の空似を押し付けちまうのは、本意じゃねぇ。
だからこれ以上は関わらねぇとレイミ達に詫びをいれてから、軽くその場を去ろうとする。
「お待ちください、シャーレの先生。その方の話を聞いてもよろしいでしょうか」
「……他人を語るのは趣味じゃねぇ」
「しかし、私の警察としての魂が必ず聞けと私に囁くのです。どうか、どうかお聞かせ頂けませんか」
こういうタイプは、こうなるとテコでも動かねぇ。
俺が話す時まで、絶対に食いついて来やがる。
その暑苦しい視線に根負けした俺は渋々話す事にした。
「はぁ、俺の相棒をしつこく追い続ける仕事熱心な男さ。 そいつの名前を聞けば何処であろうと天下御免で駆け付けてきやがる……お前さんのその慈愛の怪盗やらに熱心な姿がどうにもあいつと被る」
「天下御免で……そうか、その手が!」
「レイミちゃんダメっすよ、そんなことしたら謹慎ものっす」
手を叩いて、知見を得たと言わんばかりの表情をしていたが、隣にいたコノカが即座に止めに入る。
この世界もその辺の権利だ国際だなんだは面倒な気配がしてならねぇが……銭形なら無視してでもテメェの正義を貫くんだろうな。
そう考えりゃ、こいつはまだその辺常識があるというべきか、ブレーキが効いてる。
「そろそろ準備出来たろ、俺らは行くが……レイミだったか。まぁ頑張れよ」
「ありがとうございます!」
これ以上長居して、俺が本来捕まえられる側の人間だって気付かれる前にその場を離れることにした。
つい、俺の相棒が警察に追われるって話しちまったからな。
勘の良さは銭形と違うと助かるんだがな。
「先生、珍しいわね?そそくさと逃げちゃうなんて──「逃げてねぇ」」
「ただどうにもな、あぁいうタイプは苦手なだけだ」
「ふぅん、天下のガンマンも仕事熱心な正義漢には弱いのね」
「お前さん躊躇なくなったよな? あとアイツの場合、まだそこまででもねぇよ……今のところはな」
アルにデコピンをしてから俺たちは取り調べ室の方へと向かった。
どうやら既に始まっているようで、複数の部屋で同時に取り調べが行われていた。
「シャーレの先生ですね、お待ちしておりました」
「今はどんな感じだ?」
「現在はデモ行動に対しての真意の聞き出し、それと並行してヴァルキューレ警察学校への編入資格があるかどうかの調査を行っています」
それぞれの取り調べ室を繋ぐ廊下のところまで辿り着くと、ヴァルキューレの生徒が出迎えてくれる。
始めてるのならせめて声をかけてほしかったんだがな……?
まぁそこはいい。
「それで、今のところはどうなんだ?」
「それに関してはこちらを読んでいただいた方が早いかと」
そういって手渡された資料には、今までの取り調べ記録が書き出されている。
もう印刷を終えているとはな、キヴォトスの技術は中々のもんだ。
「サキとモエ、ミユの記録か」
「リーダーである月雪ミヤコの取り調べはこれからです──「そうか、なら俺がやろう」え、いいのですか?」
「興味が出てな」
アイツのいう正義ってのを聞けるチャンスかもしれねぇ。
三人の記録を読みながら、俺はミヤコが勾留されている部屋へと向かう。
「こちらです。カンナ局長からの許可は出ました……御付きの方は外でお待ちください」
電子と物理の二重鍵か。
しっかりしてるもんだ。
部屋に入ると、両手首を机に繋がった鎖で封じられ、硬そうな金属製の椅子に座らされたミヤコが静かに座っていた。
『取調記録:977-R-4
担当者:シャーレ 次元大介先生
容疑者:SRT特殊学園 一年生 月雪ミヤコ
取り調べを開始してください』
部屋に入り、俺がミヤコの対面に座ると、合成音声によるアナウンスが流れる。
要するに、記録を取ってるから、担当者も変な事を言うなよってことだろうさ。
「……あの時の」
「よう、また会ったな」
「ここにいるという事は、貴方が取り調べの担当者ということですね……よりによって、貴方が……」
ミヤコはそういって、冷たい目線を俺に向かって投げかけてくる。
随分と嫌われちまったらしい。
「何のつもりかは知りませんが……少なくとも貴方のような悪党の言葉で変わるような事はありませんよ」
「クックッ、あぁ、それでいいさ」
「何ですか、それは……」
俺の言葉に面を喰らったのか呆れたような表情を取った彼女を見て、少しは緩んだかと思い、質問を始めることにした。
「RABBIT1のお前さんに聞きたい、どうして態々武力を使ってまで抵抗しようとした」
「抵抗を続ける限り、SRTの名は無くなることはありません。閉校が撤回されるその日まで私たちは戦い続けます」
「反省の余地無しか。 ヴァルキューレに編入出来るって聞いたが、それじゃ不満って訳か」
「ヴァルキューレに不満があるわけではありません……ただSRTから去ることが嫌なのです」
そこまでしてSRTに執着してるのか。
アビドスのように、学校が無くなるってのはこの世界じゃ確かに重い。
ただ、あいつらにはその先がなかった。
学校が無くなれば、完全に身分を失い、浮浪者へとなる。
それに比べれば、言ってしまえば、まだこいつらはヴァルキューレでの生活がある。
その先がある、それにも関わらず、こいつらはそれを拒否し続けている。
サキは、ヴァルキューレが甘いから。
モエは、SRTの持つ火力と兵器に心を奪われているから。
ミユは、誰かに忘れられたくないから。
「なら、ミヤコ。お前さんはどうしてSRTにこだわる。それが悪いって訳じゃねぇが……あんなキャンプ暮らしをしてまで続ける理由はなんだ」
「貴方のような悪党に分かるとは思えませんが……SRTには、そこにしかない『正義』があるからです」
正義か。
俺に向かって、吐き捨てるような言い方で語り始めたが、その正義の二文字を口にした時のミヤコの顔は真っ直ぐでブレない力強いものに見えた。
「へぇ……ならご教授いただこうか? お前さんの言う正義ってのはなんだ」
「…………分かりました。恐らく各学園を渡ってきた貴方なら、幾度か正義について耳にしてきたと思います」
「あぁ、トリニティの正義実現委員会なんざ、いい例だろ」
ツルギやハスミ、それにコハル。
一癖二癖ある奴らだが……正義実現の言葉に相応しい行動を続けていると俺は思っている。
「えぇ、そしてここヴァルキューレもまた、生徒達は自らの行動が『正義』だと信じているかと思います」
まるで、真の正義を知らないとでも言いたげな、そんな口ぶりをミヤコは取った。
「『正義』とは、理にかなった正しい道理のこと。私にとって、彼女たちの正義は『本当の正義』ではないと考えています。 正しい道理、それは真理に基づくものです。であるならば、相手や状況によって変わるものではありません」
ミヤコの発言を聞いた時、俺はふとここに来る前に聞いた発言を思い出していた。
──レイミちゃんの言うことは分かるっすけど、それ以外にもやることがあるんすよ。
──それにそこトリニティじゃないっすか、他自治区への出動命令は局長でも出せないんすよ?
コノカ、彼女の言っていたことは間違っちゃいない。
余計な戦闘といざこざ、それらを無くすためには通さなくちゃいけない筋ってもんがある。
当然それに納得できない奴がいるのも、当たり前のことだ。
「キヴォトスにおける各所の治安組織は、様々な利害関係の中にあります。その結果、『正義』というものを自分たち独自に歪め続けてきました」
「ただ、SRTは違った。連邦生徒会長の権限の元、全ての自治区への介入を可能とした」
「はい……それにより、自らが信じる正義を実行していました。時と場所を選ばず、相手が誰であっても同じ基準で、一つの正義を追及する組織……そんなSRT特殊学園に憧れたのです」
こいつの思う正義には何処か既視感があった。
テメェの思った正義を貫き続けるその姿、まさか一日に二度お目にかかるとはな……。
ただ、こいつには一個だけ気になる点があった。
といっても、それは当然の良識だがな。
「お前さんの気持ちはよく分かった。その上で聞こう、お前さんの正義ってのはSRTでなくちゃ果たせねぇのか。 組織に縛られてなくちゃ出来ねぇものなのか?」
「それは………………」
何かを口走ろうとして彼女は止まってしまう。
我ながら意地悪な質問だ。
当然、責任や必要な後始末が死ぬほどついて回るだろう。
ただ、それで止まっちまうほどの正義なのか。
少なくとも俺は今日、ヴァルキューレでその『本当の正義』の素養をもった奴を見つけたからな。
「今は答えを出さなくてもいいぜ、いずれ聞かせてくれ」
「貴方と会うことはもう無いでしょう」
「そういって再会したろ。世界ってのは意外と狭いんだぜ、嬢ちゃん」
俯いた彼女を置いて、俺は部屋から出ていく。
聞きたいことは聞けたしな。
後の判断やらなんやらは、こいつらの仕事だ。
オフィスに戻ると、カンナとアルがコーヒー片手に何やら話をしていた。
そっと足音を消しながら、二人の方へ忍び寄っていく。
「なるほど、先生はその様な経歴で……」
「そうよ、でも今は特に問題は起こしてないのだし」
「アル、勝手に個人情報を話すのは頂けねぇな」
何やら俺の事を話していたらしいアルの頭に手を置いて、俺は話しかける。
驚いたようで少し跳ねたが……まぁ、多少の罰だ。
「だ、だって局長さんが先生の事をずっと睨んでたんだもの」
「あのな、シャーレってくくりはあるが、俺らは本来手を組むようなもんじゃねぇんだよ。アウトローなら分かるだろうが」
「ぐっ……それはそうね……」
「先生もそのくらいで……アルさんの話は興味深かったですから」
カンナは俺たちを宥めようと、仲裁をし始める。
しかし、その間俺に対しての目線は、初対面の頃から変わっちゃいない。
出来る奴だよこいつは。
「ところで、先生お疲れ様でした。お陰様で手間が省けました」
「成り行きだ、それよりもあいつらはどうなんだ?お前さんらが処罰を決めるのか?」
「本来なら、一定期間の拘禁の後、再度ヴァルキューレへの編入を薦める手はずだったのですが……事件の被害や、連邦生徒会からの要望も強いので、そちらで処罰が下されるでしょう」
重い処罰になるかと思います、と口にしたカンナは目を伏せながらコーヒーを口にした。
規模が規模だから仕方ないとはいえ……その調子じゃ、どの学園にも編入出来ない状態になりかねないな。
あの様子じゃ折れることもないだろうしな。
「ガキの居場所を奪うのは不本意なんだが、SRTを宙ぶらりんにしておくわけにもいかねぇしな」
「えぇ……私としては奴らの要求を呑むようで気に入らないのですが……連邦生徒会の決定ですので、『超法規的権限』を持つシャーレでも難しいかと」
「ガキの面倒を見るのは願い下げなんだがなぁ」
どうしたものかと、オフィスの天井を見上げながら、悩んでいると俺たちに声をかけてきた人物が現れる。
「良ければそのお話、私も混ぜて頂けないでしょうか」
桃色の髪と純白の制服……そう、連邦生徒会の奴らが身に着けた制服を着こなした小柄な少女が俺たちの前に現れた。
「あ、貴女は……」
「?……お偉いさんかしら」
「どうも、初めまして先生」
丁寧にお辞儀をした彼女は、アルの顔を見たのちに、俺へと視線を向けて挨拶をする。
「私は、キヴォトス連邦生徒会所属、防衛室の不知火カヤと申します」
その面に、微笑を浮かべた少女。
俺はその少女に、キヴォトスに来て初めてと言ってもいいほどに、確かな警戒を感じた。
こいつは、とんでもねぇ悪女だ。
連邦生徒会ってのは、良い性格した女しかいねぇのか?
腹の探り合いってのは苦手なんだが……
その辺はアルには荷が重いか
次回 桃色の竜灯
試し撃ちは御免だな
はい、お久しぶりのオリキャラです。
尾銭レイミちゃん、身長160cm 胸部装甲はDくらいのナイスプロモーションですが……いかんせん性格が超ド真面目。 今はまだ縛られている彼女ですが……その道の先には……。
現在のヴァルキューレメンバーにより次元ちゃんの警戒度は。
カンナ:超警戒
コノカ:見た目は友好的ですが中身が超警戒
レイミ:疑念
警察としての直観によるものですが……こんな感じだったりしますな。
では、最後にもしよろしければここすき、感想、評価お待ちしております。
今の話のタイトルが分かりにくいとの意見を得て変更するか否か
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例:殺し屋の矜持
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