「初めまして、先生。私は、キヴォトス連邦生徒会所属、防衛室の不知火カヤと申します」
目の前の女、嫌な予感しかしねぇのは何故だ?
ただのガキにしか見えねぇが……。
「先生……防衛室って何かしら?」
隣にいるアルが俺に耳打ちをする。
連邦生徒会の中の組織の一つにそんな名前があったことを思い出す。
この世界に来て、まだ間もなかった頃に、ちょいとアロナに頼んで色々資料を調べてたからな。
「連邦生徒会の中にある11個の行政委員会の一つ。安全保障やらなんやらを管理してるお偉いさん達だな」
「そ、そんな人がどうしてここに!?」
「んなこと言ってるが、たまに会うリンはそいつらを取り纏めてる統括室のトップだぜ?」
「連邦生徒会長代行ってそんなに偉かったのね……──「コホン」」
耳打ちでの会話が長すぎたか、カヤは咳ばらいをして自分に視線を集める。
初対面で失礼しすぎちまったな。
目の前の女がかなりのお偉いさんだと分かって、ガチガチに緊張しているアルは、少し身なりを整えてから口を開く。
「少し置いてけぼりにしてしまったわね。 初めましてで無礼を働いてしまって、ごめんなさい」
「お気遣いありがとうございます、アル社長。それに私はあくまでも責任者の立場で、指示を出しているだけですので、そこまで偉い立場でもありませんよ」
それもこれもと、続けながら彼女は俺へと詰め寄って、俺の顔を見上げながら口を開く。
「シャーレと、その配下である秘密部隊の皆さんのお陰です」
笑顔を装ってるが……目が笑っちゃいねぇ。
糸目でにこやかな印象を与えてくるが……その奥には俺に対する警戒が見える。
あくまでも表にしたくねぇってところか。
「……あの案を通す時には、お前さんの手も借りたんだったな」
「えぇ、突然主席行政官に言われた時は驚きましたが……今思えば、通してよかったと思っていますよ」
どの口で言ってんだか。
この世界に来てから、随分とマシになったが、カヤの放つそれは俺の苦手な女のそれに随分と似ている。
「しかし、そうですね? あまり民間企業に頼りすぎるというのもシャーレの面子として如何なものでしょうか」
彼女は笑顔のまま口を開いて、俺に向かってそう話す。
随分と度胸のある奴だ。テメェに余程自信があるらしい。
「へぇ、何が言いたい」
「もし、嫌悪を抱かせてしまったのなら申し訳ございません。しかし、貴方にはもっと
その発言にカンナの眉間に深い皺が寄る。文句を言いたいが言えないってところか。
アルに関しちゃ、もう唖然として固まっていやがる。
初対面で随分とぶっこんでくれる。
「なんなら試し撃ちでも如何でしょうか」
「試し撃ち、か。……ククッ」
「せ、先生?まさか。の、乗らないわよね?」
アルが不安そうに俺の肩を揺するが、やるも何も答えは最初っから決まってる。
迷うまでもない。
「おいおい、俺はどんな銃だって百発百中だぜ?」
「銃の名手……でしたっけ?」
「世界一のが抜けてるがな。俺にはお前さんらみたいな小綺麗な銃は似合わねぇよ」
断りの文句を言って、俺はアルの頭に手を置く。
俺の好みは、無骨な銃だからな。
「それは残念ですね」
「手が借りてぇのなら何時でも言いな。俺に出来るのは精々引き金を引くくらいだが、先生だからな」
「そうですか……では、1つ依頼をしても?」
残念そうな表情を作った後に、すぐさま切り替えて俺に対して依頼の形を取ってくる。
分かってたのに聞いてきたのか。
これだから女ってのは嫌いなんだ。
「先生は、SRT特殊学園については、何処まで把握してるでしょうか?」
「連邦生徒会長の名の下に何時何処でも駆けつけることが出来る治安維持組織……ってところだな」
「なるほど、どうやら主席行政官から大方は聞いているようですね」
そうしてカヤが話始めたのは、SRTの特異性。
俺が想像しているよりも入学への選別が厳しく、その分装備も最新のものが取り揃えられているという事だ。
「そして、その結果の一つとして、SRT特殊学園の三年生部隊──通称『FOX小隊』は以前、キヴォトスの長年の悩みの種だった『災厄の狐』、狐坂ワカモの逮捕を成功させたのです」
「あのワカモを捕まえたのか!?」
「あれを正面から……とんでもないことじゃない」
俺とアルは、つい最近間近であのワカモと対峙しているからアイツの強さを理解している。
俺に関しては、殺す気ではなかった分の手加減はあったと思うが、アイツはキヴォトスの中でも指折りの実力者。
純粋な数でどうにか出来るような相手でもねぇし、ましてやアイツが油断したとも思えない。
あの子兎共も、まだまだ詰めが甘いが……初めて会った頃の風紀委員会じゃ相手にならねぇくらいには強いのは認めてる。
「責任の所在で揉めてるかと思ってたが、ワカモを仕留めれるくらいの奴らが野放しになるのを怖がる奴が多かったってとこか」
「はい、私も何とかしようとしたのですが、最先端の装備故に、投入のタイミングや扱いも難しく……。それに拍車をかけるように、その『FOX小隊』が動きを見せたのです。 自分たちの存続が脅かされているのではないかと思ったのでしょう」
そういってカヤは一枚の記事を見せる。
その記事には、俺も見覚えがある。
名前こそ出なかったがサンクトゥムタワーの一部が燃やされた不審火の事件だ。
キヴォトスの技術力で名前すら上がらねぇことに違和感を覚えていたが、当時の俺は別の依頼でそれどころじゃなかったからな。
「『FOX小隊』による襲撃がありました。 SRT特殊学園の閉鎖を進めようとしていたメンバーを攻撃し、逃走。結果として、サンクトゥムタワーの一部施設が全焼。連邦生徒会のメンバー数人が怪我を負い、入院する者も……」
「なるほどな……それで、俺に何をしてほしいってんだ?」
「長くなってしまいましたね。リン行政官もまた、SRT特殊学園による話合いを様々な方向性で広げようとしましたが、今回の『RABBIT小隊』の事件により……このままでは彼女たちの学籍データが抹消され、どこの学園にも属せないようになってしまいます」
彼女はそういうと、二歩離れて、俺の事を見つめながらそう告げる。
あくまでも対等かそれより上のつもりってところか。
「彼女たちもまたSRT特殊学園の過酷な入学試験を通過した、正真正銘の紛れもないエリートたち。 それがこのまま無為に
「……そいつが依頼か」
アイツらがこのまま野垂れ死ぬのは俺としても心が痛むってもんだ。
しかしなぁ……あの資料を読む限り、そいつが出来るかどうかはかなり難しい。
何よりも、俺とアイツらは犬猿だからな。
「……期待はするな」
「ふふっ、出来ないとは言わないんですね」
「そりゃ──「プロだからよ、そうでしょう?」……まぁ、そういうこった」
アルに言われちまったが、本当に出来ねぇ事以外は断ることはしないからな。
報酬もあるしな。
「では、お願いいたしますね? そう、それに合わせて……『RABBIT小隊の処分』については、先生に一任いたします」
「原則はどうした?お前さんらが決めるんだろ?」
「えぇ、ですので、その結果が『貴方に任せる』ということです。まぁ、ぶっちゃけって言えば、原則なんて知ったことではありませんね!」
コホンと咳をしたが……そういう冗談をつく様な奴には見えなかったが……。
まぁ、いいだろう。
何か企みがあるんだろうが、乗ってやろうじゃねぇか。
「流石に今のは忘れて頂けると……では、彼女たちのことをよろしくお願いしますね?」
彼女の言葉を背に俺たちはオフィスを後にした。
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二人の背がオフィスから立ち去ったと同時に、桃色髪の少女の表情がスッと消えていく。
それと同時に、オフィスの空気が徐々に凍り付いていく。
「カンナ」
「は、はいっ」
「あの二人から決して目を離さないように」
糸目から薄く見える翠色の眼がカンナを貫き、冷たい声で命じる。
何処までも人を見下し、自身よりも遥か下の人間に対するような声で、淡々と言葉を並べていく。
「それは……監視しろということでしょうか」
「えぇ。貴方も感じたでしょう?」
「それはそうですが……」
「ならこれ以上の言葉は不要かと思いますが……?」
そういってカヤはカンナの肩に手を置いて、報告は直ぐにしてくださいと声をかけて少女は、そそくさとオフィスから出ていく。
彼女が出ていくと同時に、オフィスの空気が戻っていく。
「…………」
何も言えない黙殺されたカンナが、ただ一人。
湯気すら見えなくなり、冷たくなっていくコーヒーをただ見つめる。
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ヴァルキューレのロビーに着くと、RABBIT小隊の全員が何やら談義を行っていた。
ドアが開いた音に即座に気が付いたのか。
俺たちの方を即座に振りむき、会話を止めて、睨みつけてくる。
「
「っ…………」
おぉ怖い怖い。
俺の声を聴くや否や、顔を顰めて俺の事を見てる。
「シャーレの……何のようだ」
「二度と会うことはないと思ったのにね」
「ひぃっ……!?」
ミヤコの後に次いで、他の三人もそれぞれ反応を示す。
特にミユに関してはミヤコの背中に隠れて、怯えている。
「随分な嫌われようね?」
「まぁな。だがよ、アルも大概だろ。あのちびっ子から怯えられてんのはお前さんだぜ?」
「えっ、な、なんですって!?」
何を疑問に思うのか分からねぇな。
不意打ちで昏倒してきた相手に怯えねぇわけが無いだろ。
まぁそれにしちゃ随分なビビりようだが……。
「それで……一体何の用ですか?」
「お前さんらの裁決が決まってな」
俺の言葉を聞いて、RABBIT小隊の奴らはそれぞれ反応を見せる。
モエは、口にくわえていた飴を嚙み砕いて、ミユはさらに怯え目を回し、サキは俺に対しての睨みが更に強くなる。
「釈放……って言いたいところなんだがな」
「やっぱ、地下労働とか人体実験の検体にされるってこと?」
「俺をなんだと思ってんだ。お前さんらこれからどうするんだ?」
このまま野放しにしたっていいんだが、また弾を撃たれちゃ困るしな。
だからそのための意思確認だ。
「どうするって言ってもな」
「まぁ、あの子ウサギ公園に戻ってキャンプじゃない? 装備もあそこに全部置いてるじゃん」
「そうですね……あそこにいる限りはデモの続行も出来ますし……」
デモを止めるという選択肢はないらしい。
こいつは依頼の達成も難しそうだな……。
まぁ、あんな怪しい女の依頼を受ける気はそもそもなかったからな。
なんせ、受けるとは一言も言ってねぇからな。
「そうか。それで、飯はどうするんだ?金も要るだろ」
「野宿による訓練も我々SRT特殊学園で行ってきました。ので問題ありません」
ミヤコは俺に対してそう強気に発言を行う。
問題ない……か。
「そうかい……なら俺からは特にねぇな。お前さんらは全員釈放だ」
「そうなのですか?」
「問題ないんだろ? 俺と上からは以上だ」
「そうですか……改めてにはなりますが、私たちは貴方の事を信頼していません。こうして温情をかけてもらったとしても、それが変わることはありません。貴方と私たちは敵です」
ミヤコはそう言い放つと俺らに背を向けて立ち去っていく。
そしてその後を追うように、他の三人も……。
「あっ、ミヤコちゃんまって……」
「今度会ったら絶対にその腹に一撃くれてやるからな」
「くひひ、痛そうだったもんね。私も先生にバラされたドローンのお返し、絶対にするから」
そう捨て台詞のような警告を吐いて、ミヤコの後を追っていった。
その後ろ姿を見ていると、隣のアルが俺に向かって話しかけてくる。
「なんなのあの子達……先生本当に良かったのかしら」
「まぁ、今は大丈夫だろうな。それでも、いずれは限界が来る」
「……? どういうことかしら」
「そのうち分かるさ。俺もあいつらも……人なんだからな」
俺は不機嫌そうだったアルに答えて、ヴァルキューレの本部を後にする。
善人だろうが悪人だろうが、生きてるなら腹は減る。
そいつを忘れちゃいけねぇからな。
「ま、あの環境じゃ……三日だな」
「?……そうだ、先生。今日は朝から頑張ったのだからみんなでご飯にしましょ」
「そうだな。せっかくだステーキでも食うか」
その言葉に目を輝かせるアル。
現金な奴だが……ステーキの誘惑には敵わねぇだろうな。
何にしようかとブツブツ呟いているアルを放っておいて、今度こそ俺らはヴァルキューレから立ち去った。
その背後に視線を感じたが……気のせいだと俺は気にも留めなかった。
いつぞやも言ったが、生きていくってのは、食うことだ
それを忘れちまったら、人は生きていけねぇ
我慢は美徳じゃねぇからな
次回 高跳の兎は美食に死す
タダより高いものはねぇよ
まだ道化ではなかった頃のカヤちゃん。
では、最後にもしよろしければ感想、ここすき、評価お待ちしております。
今の話のタイトルが分かりにくいとの意見を得て変更するか否か
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例:殺し屋の矜持
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例:1-10
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例:1-10 殺し屋の矜持