新任教師『次元大介』   作:レイゴン

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1-6 無欲か、強欲か

 今日も今日とて仕事の毎日。

 ……と言っても缶詰になるのはごめんだからな。

 

 今日は少し気晴らしにD.U.の街を散策している。

 商店街から少し外れたそこは子ウサギ公園にも近い市場で、軽い軽食やらなんやらと共に様々な食材が売られている。

 あまり贔屓にはしてねぇが、どの店も絶品や美味いと、俺の耳に届くくらいには噂が届いている。

 

「……」

 

 空は今日も青い。

 青空に浮かぶ巨大なヘイロー。

 ここに来た頃には空を見上げるたびに違和感を覚えていたが……人間ってのはどんなもんでも慣れちまうらしいな。

 

 それに慣れちまえば……ここの空は、俺の行った国の何処よりも透き通った綺麗な青をしている。

 

 空を眺めながら、俺は懐から残り僅かになったポール・モールを箱から取り出して咥える。

 火のついてない煙草の葉の香りを楽しんでから、銀色のジッポを取り出し……蓋を開いて火を灯そうとする。

 

 あぁ、しようとしたんだが、その前にバカデカい声と共に俺のジッポを持った腕に手錠がかけられる。

 その手錠の先は、本来なら鎖があるはずなんだが……そこには鞭のような黒く輝くしなやかな縄のようなものがつけられている。

 

「居たぁ!!!」

 

「ちょ、ちょっとレイミさん!?」

 

 強く引っ張られるが……流石に銭形ほどではねぇな。

 きつく伸びる縄は音を鳴らしながら、張り詰められる。

 

「何のつもりだ。尾銭レイミ」

 

 その先には、生活安全局のキリノと警備局と公安局所属のレイミの二人がいる。

 レイミが突然俺にわっぱを掛けたことに驚いているらしい。

 

「先生が一番よく分かっているのではないですか?」

 

「言っとくが……俺ぁ、まだここに来てからは何もしてねぇぞ」

 

「そうですよ、レイミさん!無実の人を捕まえるのは駄目です!」

 

 そう動くと思ったからあの日はそそくさと立ち去ったんだがな。

 以前会った時に俺は、俺の相棒……ルパンのことを泥棒、まぁ少なくとも警官に追われる立場の人間って説明しちまったからな。

 余程馬鹿じゃない限りは、俺も同じような立場の人間だと気づくだろう。

 

「むっ、それは確かに……では、話を変えますが、先生。路上喫煙は禁止されていますよ。煙草を咥え、ライターまで取り出してるのですから、言い逃れはできません」

 

「……けっ、クソ真面目だな」

 

 咥えていた煙草を、箱に戻して俺は両手をあげる。

 

「……吸うか?」

 

「吸うか!!」

 

 これで吸うと言ってたら、叱ってたが。

 俺も仕事中なんだがな……ったく面倒なのに出会っちまった。

 

「ところでこいつはなんだ?只の縄じゃねぇな」

 

「よくぞ、聞いてくれましたね! これはミレニアムサイエンススクールに頼んで作ってもらった特殊合金製の手縄錠です!RPG-7の爆発にも耐えれる特注品です!」

 

 俺とレイミの間を繋ぐ黒い縄に疑問を持った俺はすぐに質問をしたが、それに対して即座に答えてくれる。

 こういう変わった素材を用いて変なもんを作るのは、あいつら(エンジニア部)しか居ねぇと思うが……。

 それにしては、随分とシンプルだ。

 

「タバコ吸うのはやめとくからよ、いったんこいつ外してくれねぇか? おちおち会話も出来ねぇ」

 

「分かりました……それでも私の目が黒いうちは分かっていますね」

 

「分かったよ」

 

 明らかに睨まれながら、手錠を外される。

 カンナといい、あの副局長のコノカだったか?あいつもだが……この世界の警察は勘だけはかなりいい。

 となりゃ、装備かそれとも練度が低いのか。

 

 この世界は色々権利関係がめんどくさそうだからな。

 

 俺はもう少しシンプルなのが好きなんだが……。

 

「で、なんで所属の違うお前さんらが一緒に行動してるんだ?」

 

「はい……本官は今日もパトロールなのですが」

 

 キリノはそこまで言うと、隣のレイミのことを見る。

 どうやら彼女にとっても想定外のことだったらしい。

 

「休暇のため、私もパトロールを」

 

「……休みの日くらいは休んでたらどうだ?」

 

「休日に何しようと私の勝手ですので」

 

 頭が痛くなるな。

 仕事熱心と褒めるべきか、休める時休んどけと言うべきか……。

 こいつの言ってることは最もだしな。

 人の休みにケチつけんのも話が違ぇか。

 そう考えていると、キリノが俺に向かって話しかけてくる。

 

「そういえば、先日そこの公園で騒ぎを起こしたSRTの生徒達について、『後のことは全てシャーレに任せた』と伺ったのですが……あれから大丈夫でしたか?」

 

「あぁ、クソガキだが、真面目な奴らさ。ま、気性の荒い兎なんざよくいるもんだろ」

 

「おぉ!ヴァルキューレに抵抗するような方々でしたので、もしかしたらと思いましたが、流石先生です! 私も先生のような頼れるカッコいい大人になるために、今日もまた精進します!」

 

 サツが悪党を見本にするもんじゃねぇと思ったが……口に出すのも野暮ってもんだろう。

 もっともレイミの俺のことを見る眼が、さらに強くなってるのは困りもんだがな。

 

「ところで先生。この辺りで最近良くない噂を聞いてるのですが、何かご存知でしょうか」

 

「噂?」

 

「はい、何でも武装した浮浪者集団の方々が歩き回っているとのことで……」

 

 レイミから渡された資料に目を通す。

 機械……カイザーと同じアンドロイド系か。

 布を雑に纏った荒っぽい服装をした定住の地を持たない集団。

 

「その馬の骨がどうしたってんだ?」

 

「それが奴ら、入手元不明の銃火器を持ち歩いているようでして……」

 

「本官がこうしてパトロールをしてるのもそれが原因なのです」

 

 なるほどな……。

 ふと市場の方に顔を向けると、多くの人が行き交っている。

 こいつらもあぁいう市民を守るために今日も仕事しているのだからな。

 

「しかし……浮浪者が強力な銃火器を持っているとなると、まるでヴァルキューレ警察学校の武装が貧弱みたいに見えてしまいそうです……いっそのこと、最新式の装備を支給してもらえませんかね?」

 

「武装が貧弱……か。つまんねぇことを言うな、お前さん」

 

 キリノが不貞腐れながら言った言葉を聞いて俺は思わず、息を零す。

 それを聞いたキリノとレイミは首を傾げて、少し考えたのちにキリノが聞いてくる。

 

「そうでしょうか?SRTの時もそれで公安局と警備局の方はだいぶ苦しめられたと」

 

「そいつは、ただ単に相手の方が使い方が上手かっただけさ。装備の良し悪しじゃ戦いは決まらない。 誰がどう使うのか。俺のマグナムで最新式の子兎共に勝てたんだからな」

 

「それは……そうですね。しかし、楽になることに違いはないと思います」

 

「そいつは否定はしねぇさ。ただ最新式に拘んのは気に食わねぇってだけさ」

 

 最新技術って奴に胡坐をかいて、腕を磨かねぇのは……俺にとっちゃつまらねぇのさ。

 ここもつまらねぇ時代にならなきゃいいんだがな。

 そう考えていると、レイミが補足をしようと声をあげた。

 

「どちらにせよ、今ヴァルキューレは経済難だとの噂を聞きましたので、早急な対応は無理でしょうな」

 

「なら、腕を磨かねぇとな。キリノ」

 

「射撃訓練苦手なんですが……まぁ、そうですね……あ、今度良かったら先生に教えて頂けませんか?」

 

「時間が合えばな」

 

「分かりました!では、本官たちはパトロールに戻ります!」

 

 そうしてキリノたちと俺らは別れることになった。

 その背中が見えなくなるまで見つめてから、俺は懐から咥えて少し湿った煙草を取り出して、そいつに火をつける。

 

「……俺も俺の仕事をしねぇとな」

 

 市場の方はあいつらに任せた俺は、そのままその場を離れて付近の方を探索し始める。

 

 そろそろ帰らねぇと……あの怖ーい冷酷な算術使いのユウカに怒られちまうからな。

 シャーレに積もった書類の山を見て卒倒したのは……ククッ、最高に笑えたが、その後数時間説教されながら仕事をしたのは堪えた。

 ガキじゃあるめぇしよ……。

 

 煙草の煙を青空に向かって吐き出しながら、歩いていると気配に気がつく。

 音からして一人、随分と硬い足音だ。

 革靴や生徒たちの履いてるローファーとも違う。

 金属系だな。

 

 俺のことを明らかに尾行しているが……。

 とんでもねぇ敵意だな。

 

 こいつが噂の放浪者か?

 

 そう思った俺は少しからかうことにした。

 急に走り出した俺は、後ろの気配を意識しながら、距離を離していく。

 と言っても尾行を辞められねぇ程度の距離だけどな。

 予想通り、急に走り始めた俺を見た追っ手も、急いで俺の後を追い始める。

 

 そして、十字路に差し掛かったところで直角に曲がり、近くの建物の塀を飛び越えて、その裏に隠れる。

 住居侵入罪だ、とかあのクソ真面目なレイミには言われそうだが……まぁ、ケースバイケースってことだ。

 

 しばらく待っていると、足音と共に声が聞こえる。

 

「はぁ?ど、どこに消えた?確かにここを曲がったはず……」

 

 声からして明らかに子供じゃねぇ。

 

 ……なら、遠慮はなくていいな。

 

 息と気配を殺して、塀を飛び越えた俺は音をわざと立てて、奴の背後へと着地し、後頭部に銃を構える。

 

「俺に何か用かい?」

 

「いつの間に背後にッ──「っと、動くな。お前さんは前を向いていろ」」

 

 四角い機械の頭に触覚があるかは分からねぇが、銃口を当てる。

 赤いハチマキにエスニックな雰囲気のネックレスをつけた茶色い風貌をしている。

 俺ぁそういう中東っぽいのは嫌いなんだがな。

 

「俺からの質問に正直に答えな、変な真似をしたと俺が判断したら……」

 

「判断したら……?」

 

「お前さんの体にほくろが増える。分かったな?」

 

 ガチャガチャと音を立てながら首を忙しなく縦に振る。

 素直なもんだ……。

 

「それで?お前さん、俺に何の用だ?」

 

「そ、それは……」

 

 そいつの手から何か光が反射して、俺の目に入る。

 俺をつけてた不審者の手からその光の元を奪い取ると……『麻酔スプレー』と書かれた缶だった。

 こういった手合いのもんは、ルパンの専門だが……似たようなものがここでも手に入るとはな。

 

「俺を持ち帰ろうとしたわけか。ケッ、趣味が悪いなお前さん」

 

「違う!私はただ私達のアジトへと招こうと」

 

「ほう……それで実力行使って訳か。野蛮な奴だな」

 

 押収した麻酔スプレーはそのまま懐に仕舞いこんで、再び目の前の浮浪者に声をかける。

 

「さて、俺と話したいってことか……ここじゃなんだ。お前さんのアジトに案内してもらおうか?」

 

「え?あ、は、はい!」

 

 銃を仕舞った俺は、浮浪者に前を歩かせてついていく。

 辿り着いたのは廃墟群の一角だった。

 そこがこの放浪者共の塒のようだ。

 

「さて、お前さんの名前を聞かせてもらおうか」

 

「わ、私は、デカルト……この『()有せずとも()かな()せを探す集い』、通称『所確幸(しょかっこう)』を率いるリーダーです」

 

 彼の部屋に入ってから俺は奴に尋ねた。

 デカルト……それと所有せずとも確かな幸せをか……きな臭いな。

 

「お耳に入れたのは初めてでしょうか?」

 

「まぁな」

 

「清貧な人生を追い求める方であれば、一度は聞いたことがあるのではと思ったのですが……なるほど。 やはり予想通りでした」

 

 デカルトはそういうとそのやけに硬そうな眉毛を釣りあげて、俺に向かって指を指しながら罪を告発するかのように声をあげる。

 

「何せ貴方は、毎日のように酒を飲み、買い占め……その上、貴方が来てから廃棄弁当が無くなってしまったのですから」

 

「……何を言ってるんだ?」

 

 廃棄弁当……廃棄弁当……?

 一階のエンジェル24の弁当の事か?

 当番に来た生徒しか使わないから品入れを減らせって言ってから、廃棄が出なくなったとか言ってたような……。

 

「とぼけないでください!貴方がキヴォトスに来てからというもの、明らかに廃棄弁当の量が減ったんですよ!それはもうもやし弁当すら無くなってしまうほどに……」

 

 下らねぇ……。

 まさかこいつそんな下らねぇことの為に俺をつけてたのか?

 

「廃棄が減るのは良い事じゃねぇか。うちにも食べ盛りがいるんでな」

 

「そんなことを言って、貴方は我々の求道を邪魔したいだけなのではないですか?」

 

 俺はこういう宗教系は嫌いなんだよ。

 思わずため息をつくと、目の前の男は俺に向かって説法をし始める。

 

「……私たちは時にこう呼ばれます。『穀潰し』、あるいは『社会の膿』、と……しかし、それはどちらも的を射ていません。 私たちは何もしていないのではなく……

 

 ただ、『無所有』を実践しているだけなんです!!

 

 聞き流す感覚で、部屋の中を見ると、俺の目からしても分かるほどに随分と高級そうな装飾品が並べられているが……。

 こいつダブルスタンダードしてないか?

 俺が物色している間もずっとこいつは話し続けている。

 飽きねぇのか?

 

「──そこで私たちは働かず、所有せずの『無所有』を実践して生活していたのです」

 

「てめぇの説法も説教も勘弁だ。興味がねぇ。結論から先に言え」

 

「なっ、本当に貴方という人は……ここまで不躾だとは思いませんでしたよ。

 結論とすれば、再び廃棄弁当が出るようにして、それを私達『所確幸』に譲ると約束してください!」

 

 呆れて物も言えないってのはこの事か。

 返事するほどの元気もねぇ。

 俺は部屋から出ようとすると、金属同士が打ち付け合う音が聞こえる。

 振り返ると、どうやらそれはデカルトが指をスナップした時の音だった。

 

 それと同時に聞こえる警報音。

 

「無事では逃がさねぇってとこか」

 

「当然です。のこのことここまで連れてきたのも、貴方の首を縦に振らせるため……言っておきますが、私達『所確幸』の武装は、ヴァルキューレを軽く凌駕していますからね!」

 

 そういってデカルトが銃を構えるが……確かにあいつらが使っている銃の次世代機のものだ。

 しかし……相手の兵力が、分からない以上俺一人で相手をするのはちっと厄介だな。

 

 便利屋じゃ、ここの建物の老朽具合じゃ、爆破解体しかねない。

 

「あ、ちょっとどこに電話をするつもりですか!」

 

 懐から取り出した携帯で俺は、すぐ近くにいるあいつらに電話を掛ける。

 着信から2コール目で即座にかかった。

 

『……何の用ですか?私たちは今、食事の準備で忙しいんですが』

 

「至急仕事を頼みたくてな、廃墟で建物を倒壊させずに敵兵力の殲滅。お前さんらなら余裕だろ?」

 

『…………──「金と、焼肉食べ放題付きでどうだ」』

 

 そういうと、電話が切られる。

 

「その様子……ははっ!まさかあの先生を見捨てる生徒がいるとは! こうなっては、絶体絶命、さぁ素直に私の約束を守って……」

 

 そういったところで、俺たちがいる部屋の近くで何か金属音が聞こえる。

 スイッチのような軽いものを押したような音にも聞こえたが……。

 

 デカルトが首を傾げた瞬間、部屋の壁が爆破される。

 速いにも程があるな。

 

「SRTだ!怪我したくないなら大人しくしろ!!」

 

「あぁぁ!!折角集めた私の高い装飾品が!!」

 

 爆炎によって高そうな装飾品が焼け焦げていく。

 さっき無所有だのなんだの講釈垂れてた割には、俗っぽいなこいつ。

 

「悪いな、子兎共」

 

「別に……焼肉に釣られたわけじゃないからな」

 

 サキはそういうが口の端から涎が垂れている。

 まだまだガキだな。

 そう心の中で思って、俺はミヤコの方へと向かう。

 

「足音からして敵は二階とあとこの部屋に続く通路にいる。お前さんがリーダーだろ、どうする」

 

「そうですね……──「待ってくれ。何でミヤコの指示に従わないといけない」」

 

 ミヤコに話しかけていると、そこにサキが待ったをかける。

 顏には明らかに不満の表情。

 同年齢の奴の指示に従うのが嫌って感じか?

 

「そいつはただSRT特殊学園を閉鎖させた、あの連邦生徒会の指示で隊長をやらされていただけだ。今はもう誰が指揮を執ったっていいはずだろ」

 

 それには一理あるが……隊長ってのにはある程度素質がいる。

 それを見抜いての判断だろうに……まぁ気持ちは分からなくはないがな。

 

「…………みんなは、どう思いますか?」

 

『どうでもいい~、それよりも早く終わらせて焼肉行きたいし』

 

「あの、えっと……私は……」

 

 ミヤコは少し考えたのちに、他の二人に意見を聴く。

 こうやってすぐさま判断と指示を出せるのも、相当の訓練を必要とするもんだ。

 イオリもその辺が苦手だったのを思い出す。

 

「そうですか……では、今回の隊長は任せます。指揮をお願いします、RABBIT2」

 

「ふん。まぁ所詮ただの浮浪者相手……これくらいは朝飯前だ」

 

「時間帯的には昼飯前だがな──「黙ってろ!」」

 

 つい口を出してしまったが、あの余裕面……先が思いやられるな。

 何やらブツブツと話しているが……援護はしてやらねぇとな。

 

「あの、サキちゃん……あ、いや、RABBIT2、私はどうしたらいい?」

 

「え?あー、えっと……ちょ、ちょっと待った。こういう屋内戦での狙撃手の位置は……確かノートのここに……」

 

 見てられねぇが……失敗も一つの経験か。

 

「おい、指示は早くやれ。敵地のど真ん中なの忘れてねぇか?」

 

「う、うるさい!」

 

「RABBIT2、もう扉のところまで来てます!」

 

 焦らせちまうのは悪いと思っているが、時間ってのは有限だ。

 扉に入ってこようとする所確幸のメンバーを蹴って押しのけ、俺は先に部屋の外に出ていく。

 

 

 

 ──────

 

 ────────────

 

 ───────────────────

 

 

 

 次元先生が部屋から出ていったあと、部屋に残された三人は沈黙に包まれる。

 

「はぁ、よし……私とミヤコで次元先生を追いながら正面の殲滅、ミユは、とりあえず高台に行って二階の狙撃手を撃て」

 

「……分かりました、では行きましょう。合図は?」

 

「えっと……掛け声を出すからそれでいこう」

 

 拙いながらも指示を出し、ミヤコとサキは扉の横に張り付く。

 

「私が右、ミヤコは左を見ろ……行くぞ、3、2……今」

 

 二人が飛び出すと同時に背中合わせに通路を確認する。

 先に先生が飛び出していたお陰か、既に何人かの浮浪者がやられている。

 

「このまま二人で進軍しよう」

 

 ミヤコは頷き、サキの後を追って進んでいく。

 しかし、恐ろしいほどに銃声が聞こえない。

 

「まさか先生が一人でやったのか?いくらなんでも荒唐無稽がすぎるか」

 

「奇襲の可能性も捨てきれませんが……」

 

「ははっ、敵も恐れを成して逃げたってことだな!」

 

 サキがそう笑った瞬間、小枝を踏み折った時のような音が鳴る。

 嫌な予感が二人の間を走った瞬間、浮遊感と共に天井へと体が浮かび上がる。

 

「な、んだ!?」

 

「……これは、捕縛用の罠?」

 

 二人は地面に仕掛けられていた罠に引っ掛かり、天井からぶら下がる形で、ネットに捕獲されてしまう。

 その音が聞こえたのか、近くの物陰からぞろぞろと浮浪者たちが現れ、二人を囲んでいく。

 

「さっきのスーツの男はデタラメに強かったから、隠れておいて正解だったな」

 

「ほんと、まさか野生動物用の罠に引っ掛かるなんてツイてる」

 

 よりにもよって野生動物用の罠に引っ掛かったと聞いたサキの顔が赤く染まっていく。

 銃口を向けられて、身動きの出来ないまま、地面に下ろされ、武装解除され、両手を上げさせられて、無抵抗を強いられる。

 

「クソ……よりにもよってこんな素人に」

 

『ま、サキが隊長って時点でこうなると思ってたけどね。理論は完璧でも実技はダメダメ』

 

「うるさい!モエだって、実技の演習は失敗ばかりだっただろ!──「そこ静かにしろ!」」

 

 無線上でモエと口喧嘩を始めたサキに浮浪者の一人が銃口を突き付けて、注意される。

 

「それで、どうする?この二人を人質にすれば、リーダーの言っていた交渉も上手く行くんじゃないか?」

 

「ううむ……そうだな。一先ずこのままじゃ五月蠅いし、眠らせてから運ぶか」

 

「……っ」

 

 自分のミスのせいで、失敗の二文字が頭によぎり、怒りで真っ赤になっていたサキの顔が青く染まっていく。

 

 何故、どうして、何が。

 

 教範通りに行ったはずなのに、現実が上手く行かない。

 その事実をどうしてと反芻し続けながらも、浮浪者は着実に自分たちの事を眠らせようと道具を漁っている。

 

「この前、拾ってきた麻酔スプレーでいいか」

 

「…………ちくしょう!」

 

 向けてくるスプレー缶の反射光に目を焼かれたのか、それとも自分の至らなさへの悔しさ故か、サキが目を閉じると同時に銃声が響く。

 

「サキ、てめぇの弱点はその過剰な自信と油断だな。致命的だぜ」

 

 その声を聴いて、目を開けると大の字に倒れて気絶している浮浪者の姿が見える。

 

「で、でたぁ!!さっきのアイツだ!逃げろ!!」

 

「み、みなさん!何処に行くのですか?!まだ敵は──「何もしたくないのに戦えるわけないだろ!」」

 

「もうこんな生活嫌!帰る!」

 

 銃を捨て置いて、浮浪者たちが逃げていく。

 それを見ていたデカルトの声が聞こえるが、どうやら切り捨てられたらしい。

 自分たちの背後から聞こえる足音に目を向けると、そこには次元先生が立っていた。

 

 

 ────────────────────   

 

 ────────────   

 

 ──────

 

 

 

「次元先生……」

 

「上の奴らはミユが制圧しちまったからこっちに来たが……丁度良かったな」

 

「そうですか……上はミユが。助かりました……そちらは怪我などはありませんか?」

 

 逃げていく浮浪者を眺めながら座り込んでいるサキに手を差し出す。

 彼女の手を取って立たせていると、ミヤコが俺に対して聞いてくる。

 俺の事を心配するなんてな。

 

「この程度じゃ怪我なんてしねぇよ」

 

「そうでしたか……任務中に怪我させてしまい、よりにもよってそれが貴方だったとしたら、連邦生徒会から、何て言われるか分かったものではないので」

 

「ケッ、素直な女だな。まぁいい、デカルトのところに戻るぞ。聞きたいことが出来た」

 

 俺が軽く声をかけると、二人はミユにも連絡を飛ばしてさっきまで居た部屋へと戻る。

 その道中、モエによってサキが弄られ続けてたが……まぁそれは別の話だ。

 

 デカルトの元に戻ると、彼が項垂れている。

 

「次元大介、貴方さえ……貴方さえいなければ!」

 

「はっ、そんなつまらねぇ性格してっから。バチが当たるんだぜ」

 

 俺に顔を向けて吠えるデカルトに対して、そそくさと切り捨てた。

 そして、俺はこいつに対して……いや、この集団に対して抱いていた疑問をぶつける。

 

「デカルト、お前さん。この銃をどこで拾った」

 

「何のことでしょうか?」

 

「とぼけんな、お前さんらみたいな金のねぇ奴が持つにしては随分と高価な銃だ」

 

 デカルトの前に俺は他の浮浪者が使っていたアサルトライフル……XM7を捨てる。

 最新モデルなのも確かだが、それ以上にまだ数が少ない。

 こんな奴らが買えるほどの金もあるはずもない。

 

「言い直してやる。何処から盗んだ」

 

「…………」

 

「言えねぇか。ならこいつらと、あとここにある装飾品を戦利品としてもらってくぜ?」

 

「ま、待ってくれ!それは私の所有物だぞ!──「無所有は何処行ったんだよ」……ぐっ」

 

 いるかいらないかで言えば、趣味じゃねぇからいらないが……こいつにとって宝物であることに変わりないはずだ。

 人ってのはより大切なものの為にもう片方を犠牲に出来る生き物だ。

 

「カイザーインダストリー……そこの倉庫から盗んだものです」

 

「……カイザーか」

 

 あの機械頭の顔を思い出す。

 俺とはそれなりの因縁のある企業だが……普通武器ってのは生産量を決められてるはず、にも拘らず盗まれてニュースにもなってねぇってことはだ……答えは一つだな。

 

「……カイザーのやつ、規定以上に生産してるな?」

 

 態々、報告を改竄してまで銃を生産してるのか。

 アイツらの事だ、銃以外もしてそうだが……問題は何のためにだ?

 解析も終わってることだろうから、死んだPMC理事のデータを読むのもありだな。

 アイツらが暗躍している以上、ろくでもないことが起こっているのは間違いないしな……。

 

「いつも怖いですが、さらに怖い顔になってますよ」

 

 ミヤコの声で、俺は思考の海から上がり、目の前のことに集中し始める。

 

「デカルト、俺からもう特に用はねぇ。ヴァルキューレには何も言わねぇからよ」

 

「くぅ……」

 

 情けない声をあげたデカルトを置いて、俺たちは廃墟を後にした。

 実働隊の三人を連れて、キャンプ地へと戻った俺は、モエを含めて、頼みたいことを話し始める。

 

「まずは、今回の依頼お疲れ様」

 

「サキは散々醜態を晒したけどね~」

 

「うるさい!……現実ってのはいつもこうだ……」

 

「リーダーってのは素質がいるんだ。今回のでお前さんも分かったろ……まぁそれ以前のミスだがな」

 

 そう冷静に話すと、サキが顔を真っ赤にして拳を振り上げてくる。

 短気にもほどがあるな。

 訓練してると思うんだが……まぁ今はいい。

 

「それで、話したいこととは?」

 

「特殊作戦とかには慣れてるだろうお前さんらに依頼をしたくてな。デカルトの話で分かったことだが……カイザーコーポレーションが動いている」

 

「それがどうかしたの?普通に企業としてなんじゃない」

 

 モエが御尤もなことを話してくる。

 それはその通りなんだが、俺はかつてカイザーがアビドスでやろうとしていた事とその手法について説明する。

 

「アイツらは利益もだが、必ず目的が合って動くタイプの組織だ……それもデカい物の為にな」

 

「つまり、その証拠になりえるものを探しに行くと?」

 

「そういうことだ。俺一人でやってもいいが……お前さんらも入用だろ?」

 

「悪事に手を貸す道理はありませんが……これも一つの正義ですね」

 

 そういって、ミヤコは納得してくれたらしい。

 他の三人も気が進んでいるようではないが、食べ放題の四文字の前には無力だった。

 

「倉庫の辺りを調べる必要がある。調べ終わったらまた連絡するが……その前にだ」

 

「なんでしょうか……?」

 

 こいつらに今日会ってからずっと思っていたことを俺は口にした。

 

「作戦前には臭い落としとけ。金なら今はあるだろ」

 

っ!!さ、最低っ! こいつ!!!死ね!!!

 

 サキから雷よりもデカい大声と共に、当たらねぇ銃を乱射されながら、シャーレに帰るのだった。

 




 まさかまた、この企業と関わることになるとはな。
 俺としては、二度と御免だと思ってたが、現実ってのはままならねぇもんだ。
 侵入した火薬庫に火をつけるつもりはねぇが、なんだこの言いずらい名前の……船か?

次回 カイザーの火薬庫

こいつは面白くなってきやがった




更新遅れてしまい申し訳ないのですな……。
忙殺されております……それでも完結はしたいと思ってますので、今後も応援していただけると有難いです!



評価、ここすき、感想お待ちしております

今の話のタイトルが分かりにくいとの意見を得て変更するか否か

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