新任教師『次元大介』   作:レイゴン

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1-7 カイザーの火薬庫

 サキの怒号と共に帰還した翌日の昼下がり、俺は再びRABBIT小隊のキャンプへと足を運んでいた。

 

 翌日に決行することは、ミヤコに伝えていたからな。

 思い返せば、ガキ相手はともかくとして女相手には良くねぇ伝え方をしちまってたな。

 

 とは言えだ、石鹸臭いのも良くねぇが……異臭を漂わせるのは特殊部隊なら駄目だろう。

 ましてや、今回の任務はカイザーが相手だからな。

 この街に来て最初の敵だったが……あいつの用意周到さと計画の緻密さは相当なもんだった。

 俺ですら、一杯食わされちまったからな。

 

 あいつの後釜が、同じくらいもしくはそれ以上のキレ者じゃないことを祈るばかりだが……。

 

 そんなことを考えていると、キャンプ地へと到着する。

 

「子兎、準備は出来たか?」

 

「おはようございます」

 

「……。おはよう」

 

 ミヤコは相変わらずの無表情で返事をしてくるのに対して、サキは俺の事を不審者とでも思ってるかのような顔つきで話しかけてくる。

 俺が何かしたってか?

 犯罪者……ではあるが、随分とにらんできやがる。

 

「あ、先生来たんだぁ、おはよう」

 

「………お、おはようございます」

 

「サキってば昨日、念入りに洗ってたから気になってるみたいだねぇ」

 

 キャンプの中からモエとミユが這い出てくる。

 不寝番でもしてたのか?

 どちらにせよ、全員が揃ってるようで何よりだ。

 サキが妙に俺から離れてる理由も分かった事だしな。

 

「軽い作戦会議だ、頭に叩き込め。

 今回向かうのはD.U.地区の南方にある海岸沿いにあるカイザーの倉庫だ。 貨物船の船着場も併用してある分、辺りは平地。塀の中に入っちまえば影はいくらでもあるが……」

 

「……つまり、潜入、目的の奪取、離脱を素早く行いたいということですね」

 

 俺の話そうとしていたことをミヤコに先に言われちまう。

 話が早いのは助かるが、被せるのはいただけねぇな。

 そう思いながら、机の上に地図を広げる。

 

 あの後、アロナと一緒にカイザーの倉庫を軽くハッキングして諸々調べさせてもらった。

 重要な情報はどうやら別の端末に入れてるのか、それとも物理的媒体で管理してるのか、ともかく俺が知りたかった情報は、あいつらのサーバーにはなかった。

 

 だから、正々堂々と盗みに行かせてもらうって訳だ。

 

「建物内の構造だ、潜入は俺一人でやる。お前さんらは侵入者の感知と一帯の監視だけやってくれ」

 

 倉庫……と聞いていたがどちらかと言えば、工場に近いような形状をしている。

 科学技術の発達したキヴォトスなだけあって、倉庫区画と事務所区画、そして工場区画の三つに分かれておりそれぞれに繋がる通路が三角を形成している。

 

 メインの入り口は倉庫側にあり、それ以外に目立った入り口はない。

 今回用があるのは、事務所区画だけだ。

 

「なんだ、私達はお留守番してろってことか?」

 

「発見された時、お前さんらまで守ってる余裕がねぇんだよ」

 

 俺の発言が気に食わなかったのか、サキが噛みついてきたが、ついてこさせるわけにはいかない。

 

 何より、今SRTの立場はどう足掻いても危うい。

 そんな時に大企業とやり合ったなんて報告があれば、復興の目処は完全になくなっちまう。

 俺一人ならまだ、どうとでもなるからな。

 

 じゃあそもそも任務を頼むなって話だが……便利屋にはこういう潜入任務は向いてねぇ。

 かといって俺一人でやるにはちと荷が重すぎる。

 

 だから、周辺警戒の仕事だけ任せたかった訳だ。

 

「子供扱いして……!」

 

「まだ子供だろ」

 

「子供なんかじゃない!」

 

「ガキほどそう喚くんだよ」

 

 まだ守ってもらえるガキの方がいいことはあるだろうに、大人ぶりたい奴ってのはどこ行っても居るもんだな。

 拳を振り上げようとヤキモキした様子のサキをよそ目に、俺は話を続ける。

 

「この建物周辺は、コンテナが多い。 影になる場所もあるだろう。配置に関しちゃ、ミヤコ。お前さんに一任する」

 

「分かりました」

 

「よし、子兎共、地図は頭に叩き込んだな?」

 

 俺がそう聞くと、サキが手を出して少し待ってくれとジェスチャーを行う。

 俺が何をしようとしてるのか察したか、目を忙しなく動かしながら、記憶していく。

 

「……よし、私は大丈夫」

 

「他は、問題なさそうだな」

 

 サキがうなづいてから、ほかの三人の顔を見渡して大丈夫そうなことを確認すると、俺は地図を畳んで、懐から取り出したジッポの炎で燃やしていく。

 

 建物の図面や作戦の書かれた紙は、機密中の機密文書。

 基本は暗記で、覚え終わったら燃やして塵に返しちまうのが1番だ。

 

 燃えていく地図を投げ捨てて、俺は兎達に指で着いてくるように合図する。

 

「実際どうやって移動をするのですか?」

 

「車じゃ足が着いちまう、行きは徒歩。帰りは……下水道だな」

 

「下水か……」

 

 サキが嫌そうな声を出す。

 作戦によっちゃもっと汚ぇことになることなんざある事だろうが……こういうやり方は教わってねぇのか?

 

 SRTといっても、一年坊であることに変わりはねぇか。

 

「嫌ならモエと一緒にお留守番でもいいんだぜ?」

 

侮辱(ナメ)るな、SRTだぞ私は」

 

「へいへい」

 

 相変わらずキレやすい女だ。

 ミヤコの指示によって、モエは後方支援。

 簡単な監視カメラのハッキングにドローンでの援護を行うとの事だった。

 あくまで戦闘はゼロにしたいからな。

 

 念の為の武装はあるが、使わないことに越したことはねぇ。

 

 

 比較的早いうちに訪れたにも関わらず、倉庫にたどり着く頃には、すっかり暗くなってしまった。

 夜に溶け込むのが俺ら泥棒の仕事だからな。

 あとは、アイツらが上手くやってくれりゃいいんだが……心配になるぜ。

 

 船着場は、ところどころクレーンのライトで照らされているくらいで、暗闇が多い。

 その分、徘徊している警備員が装着しているライトが映える。

 

「あー……こちら次元大介。作戦位置に到着。時刻は2200。どうぞ」

 

『こちらキャンプRABBIT。全員の位置はGPSで把握してる。警備のシフトも確認したけど概ね変更はなさそうかな』

 

「了解、じゃサッサと終わらせちまおう」

 

 俺からのハンドシグナルは既にミヤコ達に伝えてある。

 片手をあげたら止まれ、人刺し指を時計回りに回したら急いで前方に走れ。

 俺が下手に指示を出してアイツらのチームワークを崩しちまったら、最悪だからな。

 それに、これは互いに言えることだが……背中を預けられるほどの信頼関係はまだない。

 

 だから、建物の監視と周囲警戒をアイツらに任せたんだ。

 

 万が一の時でも、どうにかなるからな。

 

 

 俺はハンドシグナルで、ミヤコ達に前に進むことを指示し、倉庫の方へと接近していく。

 極力ライトを避け、足音を消しながら、一定の速度で歩き続ける。

 倉庫の入り口には警備員が二名。

 監視カメラも設置してあるか。

 

「どうするんですか……次元大介さん」

 

「……ミヤコ、お前さんらは周囲に展開、物陰に隠れて作戦通り進めろ。俺は屋上から潜入する」

 

 懐からシッテムの箱を取り出し、アロナに指示を送る。

 監視カメラのループ再生と……辺りのライトに電力を賄ってるブレーカーを落とさせる。

 予備電源に切り替わるまで、30秒の猶予がある。

 それだけあれば充分だ。

 

『それじゃ、先生行きますよ!よーい、ドン!』

 

 アロナの軽快な声と同時に走り出し、ライトが消える。

 

「なんだ?停電か?」

 

「予備電源があるからしばらくすれば明るくなる」

 

 慣れてるのか、警備員が冷静に話してるのが聞こえる。

 建物に近づいてから、鍵縄を建物の屋上へと投げて引っ掛ける。

 

 残り20秒。

 

 時間もそこまでないからな、引っ掛かったのを確認したら、昇っていく。

 

 残り5秒。

 

 思ったよりも時間がかかったが……とりあえずは問題なし、鍵縄を回収して……事務所区画のある天井まで走って行く。

 

 ライトが点灯すると同時に俺は屋上の排気ダクトから屋内へ潜入する。

 

 生暖かい嫌な臭いと共に暗い道を渡っていく。

 俺はこういう狭いところは嫌いなんだがな……今は背に腹は代えられない。

 

 暗記した地図を元に、音を鳴らさないように這っていき……推定データベースのある管理職の部屋へと難なく着く。

 

 部屋の電気はついておらず、既に退勤したあとのようだ。

 この建物内に寝ることが出来る場所がないことは確認済み。

 夜間はあの警備員だけ動かして職員は帰らせてるらしい。

 

 やり口は悪辣な割にはホワイトな職場だ。

 

「こちら次元大介。目標に到達……そっちはどうだ」

 

『こちらRABBIT1、倉庫区画を監視中、ライトの復旧後、主な変化はありません』

 

『RABBIT2、工場区画を監視中、同じく変化なし』

 

『RABBIT4……事務所区画を監視してるけど……と、特に問題はありません』

 

 三人の声が無線に入る。

 外からは問題なしか……あとは、俺がしくらきゃいいだけの話だ。

 

 ライトを咥えて、両手を自由にした状態で、資料を探っていく。

 武器の販売実績やら、材料の調達ルート、従業員のシフト帳等々、雑多なものが見つかるが、それらは特に興味がない。

 

「お、銃製造の表か……ケッ、やっぱり少なく見積もってたな」

 

 俺の予想通り、提出されてる製造予定の銃の量よりも遥かに多くの数を作ってるようだ。

 態々提出予定のものと実際の親会社に出す用の資料を別で作ってやがる。

 しかし、金儲けの為だけにそんなことをするような奴らじゃないはずだ……それが見つかればいいんだが……。

 

 そうして引き続き、机の中や棚を探っていると、机の裏に何かが張り付いていることに気が付く。

 

 指の引っ掛かりに任せて、それを取り外すと一枚のタブレットだった。

 

 俺の口角が上がるのを感じる、こいつが目当ての宝だ。

 

 そいつに俺はシッテムの箱を繋げる。

 

「アロナ、根こそぎ盗んでくれ」

 

『任されましたー!』

 

 まだ何かないかと同じ場所を探ると……ファイルが見つかる。

 同じ場所に貯めとくのはよくねぇな。

 

「筆者は……カイザープレジデント、諸悪の根源ってとこか……宛名は、カイザージェネラル……理事の後釜か」

 

 内容を纏めると、アビドスでやらかした理事の仕事を引き継ぎ、その業務を進めろとのことだった。

 業務内容も書いてあるな……。

 

 

 

 

 

 

「……『ウトナピシュティムの本船(・・・・・・・・・・・・)』?」

 

 

 

 

 

 

 言いづらい事この上ないその船を見つけろか……そいつが、アビドスで理事が探していたお宝の名前であることは間違いないはずだ。

 態々、カイザーともあろう奴らが船を探してる?

 タダの船って訳じゃないことは間違いない。

 

『先生!データ全てコピー終わりました!』

 

「毎回悪いな、アロナ」

 

『ふふん、調印式では先生を守り切れない大失態をしたので、名誉挽回です!』

 

「そうか、それで内容はどうだった?」

 

 あの事をまだ気にしてたとはな、俺としてはアルファ隊共々守ってくれた時点で花丸なんだが……。

 わざわざぶり返すのも野暮な話か。

 そう思い、話を振ると、少しの沈黙の後、アロナが話し出す。

 

『中にあったのは、再開発事業の計画書でした』

 

「再開発?何処のだ」

 

『子ウサギタウンです』

 

 子ウサギタウン……ってことはRABBIT小隊のキャンプがある子ウサギ公園もじゃねぇか!

 その後アロナにデータを見させてもらったが……再開発の計画自体に問題はなさそうだった。

 

「その為に浮浪者を追い出そうとか……あいつらに武器を盗まれてるようじゃ駄目だろ」

 

 そう思わず呟くと同時に何かが引っかかる。

 この倉庫自体警備員くらいしか目立ったセキュリティがないが……あのデカルトたちが正面からここを襲うような真似をするか?

 先ず出来るわけがない。

 

 

 買うという行為自体があり得ないのは分かっている……つまり、わざと盗ませた(・・・・・・・)

 

 

 もし仮にそれが合っていたとして、何故……?

 

 

 再開発の邪魔になる勢力に武器を渡してどうなる。

 

 

 この浮浪者たちを退去させるのは誰だ?

 

 

 カイザー自らの手でやるわけがない。

 

 

 つまり、その第三者に自分たちの武器を買わせるつもり……。

 

 

 それこそ荒唐無稽だな。

 だが、カイザーならやりかねない。

 

 

「アロナ、そのカイザーと手を組んでる奴が誰かは分かるか?」

 

『申し訳ないです……そこが完全にdeleteされていて……復元可能期間も超過しているみたいです』

 

 つまりは、そこまで隠さないといけないほどの相手って訳か。

 

 まさか連邦生徒会か?

 

 いや、七神リンほどの女がそんな事をするわけがねぇ。

 会話する機会はそんなに多くねぇが、あの女がそんなつまらねぇ取引に乗るような小物じゃねぇことは理解している。

 

 こればっかりは今考えても仕方ねぇな。

 

「こちら次元大介。目標を奪取、これより退却を開始する」

 

『RABBIT1、了解』

 

『RABBIT2、了解』

 

『RABBIT4、了か……え、嘘』

 

 それぞれが返事をし始め、ミユの番になった時、彼女が声を漏らす。

 

『RABBIT4、どうしましたか』

 

『あの、えっと……遠くの方から何かこっちに来てる……しかも結構な人だかり』

 

「……識別できそうなものはあるか?」

 

 俺が何処かでしくじった覚えはない。

 子兎共が裏切った……のならそもそも話すこともないだろうし、あいつらはそういうのを嫌がりそうな手だ。

 という事は、向こうの計画と被ったか?

 

『カイザーPMC……です!』

 

「……面倒なことになったな」

 

 急いだほうがよさそうだ。

 元の状態にまで戻してから、俺は再びダクトの中へと入っていく。

 本来なら別の出口から出ようと思っていたが……この状態では鉢合わせになる可能性が高い。

 

「兎共、お前さんらは先に帰んな」

 

『貴方はどうするつもりですか』

 

「はっ、何とでもなるさ」

 

 そう答えて俺は通話を切り、ダクトを登っていく。

 ただ帰るだけだからな……大した問題はない。

 来た道を戻り、屋上へと辿り着く。

 

「こっちに来ることはないだろうが……」

 

 生憎まだやらなくちゃいけねぇことが多くてな、ここで捕まるわけにはいかねぇのよ。

 監視カメラのループはまだ続いてる……警備員も今は正面からくるPMC共に釘付けのはずだ。

 問題はこの高さだな。

 鍵縄じゃ、証拠が残っちまう。

 飛び降りるくらいしかないが……

 

「アロナの強化があると言えど……だな」

 

『お困りのおじさん、手を貸してあげようか?』

 

 どうしたものかと思っていると無線から声が聞こえる。

 モエの声だ。

 

「キャンプRABBIT、どうした」

 

『この高さは流石の先生でも厳しいでしょ?だから……掴まりなよ』

 

 上を見上げると、ドローンがそこに飛んでいる。

 ドローンにはよく見ると取っ手のようなものがあった。

 

「クックッ、タダでいいのか?」

 

『まさか、今度、シャーレにあるっていう火薬庫見せてよ』

 

 ちゃっかりしてやがる。

 まぁ、女なんざ大体そういうもんだ。

 その上、俺が断れねぇことを分かった上で吹っ掛けてんだからな。

 

「分かった、条件を受け入れよう」

 

『ニヒッ、交渉成立だね♪』

 

 近付いてきたドローンの取っ手に掴まって、俺は屋上の淵に足をかけて、飛び出す。

 ドローン自体の浮力じゃ俺の体重を支え切れないのか、徐々に高度は落ちていくが……直接飛び降りるよりかはうんと良い。

 

 

 

 

『はーい、RABBIT航空ご利用いただきありがとうございま〜す。まもなく到着だよ』

 

 

 どうにかバレずにコンテナの近くに着くと、そこには他のRABBIT小隊たちが待っていた。

 まさかまだ残っていたとはな。

 

「お前さんらまだ残ってたのか?」

 

「いえ、本当なら帰るつもりだったのですが……」

 

 目線が横を向く。

 俺がそっちの方へ顔を出すと……PMCの軍勢が来ており、中々脱出しづらい状態になっている。

 確かにこのまま歩いて帰ろうとすれば、バレる可能性が高い。

 

「妥当な判断だな……」

 

「このまま、待つってのはどうだ?」

 

「日が昇れば、ここの従業員が来る、より脱出はキツイな」

 

 どうしたものかと、考えながらあたりを見渡すと俺はとあるものを見つける。

 これなら、いけるか?

 

「次元大介さん、どうしたんですか?」

 

「こいつ使えねぇか?」

 

 俺は捨てられているドラム缶に手を置く。

 表面はぼろいが、硬さと広さはそれなりにある。

 

「まさか……それを被れと?」

 

「他に方法はあるか?」

 

「……確かに昔、本で読んだことがある、段ボールやドラム缶を使って幾多の潜入任務を成功させた、『蛇』のコードネームを持った工作員の話を……」

 

「正気ですか?RABBIT2」

 

 サキが肯定的な意見を出すと、それにミヤコが呆れ顔で見つめる。

 まぁそういう対応をするのも無理はないが……他に対応策がねぇってことも分かってるはずだ。

 

「ミヤコちゃん……あの、ほかに手段もないしさ……」

 

「そうですね、この人の指示に従うのは癪ですが……」

 

「言い忘れたが、ドラム缶は二つしかねぇ。どうする」

 

 ここにいるのは四人……つまりペアを組まなくちゃいけねぇ訳なんだが……。

 俺がそういうと、ミヤコがドン引いた顔で睨んでくる。

 俺にそういう趣味はねぇのがまだ伝わらないらしい。

 

「……では、私はミユと行きますので」

 

「は!?私が先生と!?」

 

「サ、サキちゃん声大きいよ……」

 

 ワナワナと顔を赤くしながら震えていたサキだったが、諦めがついたのか、俺の方へと歩いてくる。

 俺だって出来る事なら願い下げだ。

 

「仕方ない……サッサと行くぞ先生」

 

「では、それぞれドラム缶に入っていきましょう」

 

 ドラム缶の中は暗く、足元と周囲の音を確認しながら少しずつ進んでいく。

 

『マップはこっちで見てるから指示に従って歩いてね』

 

「せ、先生……変なところ触ったらぶっ飛ばすからな」

 

「ガキの体には興味ねぇよ」

 

 時折人の声が聞こえるが……特筆すべきような会話をしてなかった。

 流石、カイザーというべきか、仕事中は私語を禁止されているようだ。

 大きく迂回しながらも、俺たちは倉庫のある港地帯を抜けることに成功した。

 

「ここまでくればいいだろ」

 

「よ、ようやく外の空気を吸える……」

 

 港地帯を抜けて、俺たちは人気のない森の中で、ドラム缶を脱ぎ捨てた。

 流石に俺のような大人と一緒となればそれなりに狭くなるもんだ。

 ドラム缶の中に籠ってた熱気が外に出ることにより、涼しい風が肺の中へと入っていく。

 

「そちらも無事に着きましたか……ふぅ……」

 

「昨日折角銭湯に行ったってのに、また汗だくになっちまった」

 

「そうだね……またお金払わないと……あっ」

 

 どうやら向こうもそれなりに扱ったようで、よく見ると額に汗粒が見える。

 三人が話していると、ミユが何かに気が付いたような声を出す。

 それに気が付いたミヤコが彼女に問いかける。

 

「ミユどうしたんですか?」

 

「そ、そのさ……これお風呂にできないかな?」

 

「以前、百鬼夜行連合学院で見たことがあります」

 

「五右衛門風呂か」

 

 うちの十三代目のご先祖様、初代石川五右衛門の処刑方法から名付けられた風呂の名前だったな。

 アイツにとっちゃ複雑な気分のものだっただろうが、まさかこの都市にもあったとはな。

 

『おぉいいね!私早速準備しておくね?』

 

「はい、お願いします。モエ」

 

 金ってのは無尽蔵にあるものでもねぇしな。

 節約できるのであれば節約した方が良いに決まってる。

 

「持って帰るの手伝おうか?」

 

「いえ、結構です」

 

「そうか……じゃあ後は帰れるな?」

 

「はい。焼肉の件も含めて後日」

 

 短く簡潔にミヤコに拒否され、ドラム缶を抱えて歩いて行ってしまった。

 昨日の今日だったからな……約束を破るわけにはいかねぇし、近いうちに飯に誘うとしよう。

 三人でドラム缶を持っていく姿を見送りながら……俺はシャーレへと帰ることにした。

 

 あの暗い事務所の中で見つけた情報……『ウトナピシュティムの本船』……。

 いい加減、PMC理事のメモリーに手をつけなくちゃいけねぇな。

 あのメモリーには理事の今までの記録の全てが残されている。

 アロナを以てしてかなりの時間が掛かるとされるほどのデータ量だ。

 

 色々忙しかったからおざなりにしちまってたが、本腰を入れなくちゃいけなさそうだな。

 

 あのカイザーコーポレーションが探すほどのお宝か。

 

 ……この世界で盗むべきお宝が、見つかったな。

 さて、面白くなってきやがった。

 

 

 

 




カイザーの目論見の一部を見つけることが出来たが
肝心の誰なのかが未だに分からねぇ
どうやったって、後手の仕事ってのは辛いもんだ

次回 デクノボー

雨が降りそうだ。





お待たせいたしました……ようやく少しだけ一段落したので更新を再開できます。
と言ってももうそろそろ年末、今年は皆様のお陰様でとても良い一年になりました。
ということで、現在アンケートを行っております。もしかしたら本編にも絡むかもしれないEXEX枠のお話でございます。
次元が過去戦ってきた強敵と戦うことになる生徒達の様子を描くお話か
とある夜の夢のなかで邂逅した相棒同士のお話か
是非気になった方に票を入れていただければなと思います。

では、ここすき、感想、評価等々お待ちしております

今の話のタイトルが分かりにくいとの意見を得て変更するか否か

  • 例:殺し屋の矜持
  • 例:1-10
  • 例:1-10 殺し屋の矜持
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