新任教師『次元大介』   作:レイゴン

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1-10 兎と悪党

 空へと昇る白い硝煙を纏いながら、一糸乱れぬ隊列を組んでこちらに歩み寄って来るヴァルキューレ警察学校の生徒、そしてその先頭に立つ局長 尾刃カンナの姿。

 

 彼女は敵意を宿した瞳で俺たちの事を見ながら、口を開く。

 

「……野生動物は危機に瀕すると、最も強力な群れに擦り寄るもの。狙い通りだったな」

 

「RABBIT小隊、デカルトの手当をしてくれ」

 

「先生は?」

 

「カンナと話さなくちゃならねぇことがある」

 

 あれの目的はこの辺りの浮浪者とそして、RABBIT小隊達だろう。

 なら俺が話し合いに言った方がまだマシなはずだ。

 

 彼女たちに指示を出した後、俺はカンナ達の方へ正面から歩み寄っていく。

 何故か、隣にミヤコもいるが…………。

 俺の思惑に気が付いてないのか?

 

「おい、お前さんが来るとややこしくなるんだが」

 

「ここは私たちの拠点です。手当ならあの三人で充分ですので、隊長としての仕事をしにいくだけですので」

 

「……真面目なこった」

 

 俺たちがこちらに歩み寄ってきたのを見たカンナは片手をあげて、隊列を止め、自分だけ前に出てくる。

 話し合いに応じてくれるって訳か。

 それにしても随分と多いな、公安局のほぼ全員を引き連れてきたってとこだな。

 

「カンナ、今朝会った時に比べて随分と怖い顔してるが、何の用だ?」

 

「私の顔が怖いのはいつものことですよ。それよりも聞こえてしまいましたが、月雪。貴様の発言に一点間違いがある……ここは市民たちが使うための公園だ。貴様らはそこを不法占拠しているだけにすぎない」

 

「つまり、私たちをここから追い出すために……」

 

 説明をするよりも前に向こうからお出ましとはな、厄介極まりないが……仕方ねぇだろう。

 ミヤコの呟きにカンナは頷くが、どうやら狙いは予想通り、RABBIT小隊達のようだ。

 

「公安局の奴らが来てるが……レイミはどうした」

 

「彼女は副局長と別の任務に当たっています」

 

 あの正義バカを連れてくる訳にはいかないからか、ただでさえ低い士気を下げかねないからな。

 しかしカンナ、お前さんまで腐った訳じゃねぇだろうな……。

 

 カンナの発言を聞いた辺りで、デカルトの手当を終えた他の三人が合流し、横に並ぶ。

 

「局長さん、武力行使も辞さないって感じ?この前の戦いで散々な結果だったの忘れてない?」

 

「風倉、言葉を選べ。聞くところによればお前たち、先日の大雨で装備の大半を失ったそうじゃないか」

 

 カンナがそう口にすると再び彼女が手を上げた。

 その指示と同時に背後の生徒達が一斉に銃を向ける。

 

 随分強硬策を取ってきたが……何を焦ってやがる?

 

「今後ろに見える僅かな装備が今ある全てだろう。買ってはいるだろうが、それが届くまで待つと思うか?」

 

「…………」

 

「公安局は今回、スポンサーの協力を得て火器を確保した」

 

 カイザーとの取引があったのは間違いないな。

 が……あくまでも協力って形か。

 となりゃ、取引の証拠がない限りはどうにもならねぇな。

 

 俺が一歩前に踏み出すと、全ての銃口が俺に集まる。

 ブレちゃいないが……その顔には緊張が走っている。

 

「先生、RABBIT小隊の待遇はシャーレに一任しているのは知っていますが……しかし、これは別件です」

 

「あぁ、俺との仕事でやるような公務じゃねぇな……カイザーコーポレーションからの依頼だろう。その銃もインダストリーからの餞別か?」

 

「…………」

 

 沈黙ってことは、あの桃色狐が行ってたことは本当らしい。

 カンナ……お前さんがそんなことをするような女だとは思ってなかったが……。

 

「カンナ。もしこいつらに手を出すなら、俺が相手になるぜ」

 

「なっ……先生、自分が何を仰ってるのか理解しているのですか?」

 

 それに無言で返した俺の意思を感じ取ったのか、彼女の顔に焦りが見える。

 本気でやり合う気はないのか、それとも俺まで巻き込みたくないのか。

 

「俺を正義の味方かなんかと勘違いしてねぇか。俺は俺の付きたい方の味方だぜ。飼い犬と一緒にされちゃ困るな」

 

「……引き上げるぞ。先生、貴方には借りがありますので、しかしいつまでもは無理です。

 そうなった時は、例え貴方を敵に回しても私は──「それ以上は野暮だろ」」

 

「察したよ、お前さんの目を見ればな」

 

 俺の発言を聞いたカンナは、部下たちに指示を飛ばして、素早く公園から離れていく。

 勘ってのもバカに出来ねぇもんだな。

 

 

 

 

 

「何だったんだ今のは……」

 

「先生、カイザーコーポレーションの依頼というと」

 

 サキが掌に拳を撃ち当てながら愚痴っている中で、ミヤコが俺に話を聞いてくる。

 公安局の来襲で説明できなかったが、今のカンナの様子を見て、分かったこともある。

 RABBIT小隊のキャンプへと戻り、俺はFOX小隊のニコから聞いたことを踏まえて情報を共有する。

 

「……ってところなんだが、カンナの様子を見たところアイツも手先に過ぎないな」

 

「手先?」

 

 サキが首を傾げて聞いてきた為、それに相槌を返して話を続ける。

 

「あぁ、まずアイツ自身がこの行動が正しいと思っちゃいないことだ。公安局の殆どを使ってる仕事に、副局長と一番熱心な部下を置いていくか? 概ね自分が何をやってるのか分かってるからこそ、正義感の強い奴らを置いてきたんだろう」

 

「じゃあ、カンナ局長自身も納得いかない上で、企業の為に市民を攻撃したってことか?」

 

「仕事……ってところだろうな。余程逆らえねぇ誰かからの命令だろう……そうなると相手は自ずと見えるが……」

 

 俺の脳裏に映る糸目で桃色の髪をした少女。

 アイツが指示したと思っていいが、証拠がねぇ。

 

「もしニコ先輩の言っていたことと、あのカンナ局長の行動理由が一致していた場合……ヴァルキューレ警察学校の行動は私企業とのリベート。それは立派な違法です」

 

「問題はその取引の証拠だ。前に忍び込んだカイザーの倉庫で手に入れたものには、誰と取引してるかの名前が消されてやがった。だから証拠を集めなくちゃいけねぇ」

 

「ヴァルキューレの記録ってことは、多分ローカルサーバーでしょ?外からのハッキングは無理筋だよね」

 

 ミヤコの発言に返事を返しながら、話を進めていくが、モエの予想は概ね当たりだろう。

 俺たちも警察の記録を調べるのにいつも手を焼いていたからな。

 ハッキングが無理なら取れる手も限られてくるが……。

 

「何か、方法は……」

 

「ヴァルキューレに潜入して、取引記録を手に入れるのはどうでしょうか」

 

「ミヤコ、お前正気か?ヴァルキューレの本館……あの要塞、何百人いるか分かったものじゃないぞ」

 

 ミヤコが全員に提案したそれは、奇しくも俺が考えていた事と同じことだった。

 だが、サキがそれにすぐさま反論を返す。

 御尤もな意見だ、ただの烏合の衆ならともかく、武装だけで見ても今は向こうの方が上、そして何より数が多い。

 

「装備差に人数差、確かにそう簡単に埋めれるものではありません……ですが」

 

 そう言うとミヤコは俺に近づき、その頭を下げる。

 それが、隊長としてのテメェの見せる姿って訳か……。

 

「先生、貴方の腕を見込んで私達と共にヴァルキューレに潜入していただけませんか」

 

「俺に正義の味方になれってか?」

 

「そうではありません。ただ、『先を生きる人(先生)』としての貴方に、私たちが思い、信じる正義を。『SRTとしての正義』を実践することを手伝ってほしいんです」

 

 俺は前に泥棒としての側面を見せちまっている。

 だから俺に頼んだのだろう。

 とは言えだ、目の前の少女の覚悟を疑う気はないが……失敗すればタダじゃすまない。

 だから、俺はミヤコに聞かなくちゃならねぇ。

 

「てめぇの言う『SRTとしての正義』ってのはなんだ。そうまでして果たしたいものなのか?」

 

「……キヴォトスの込み入った犯罪行為に対し、真っ先に投入される上位機関。

 このキヴォトスにおける最後の理の番人。それがSRTです。

 私はかつて見た夢の背中を追う為に、私のなりたい明日の為に生きたいのです!

 だから、どうか──「分かった」」

 

 再び頭を下げようとしたミヤコを手で制して止める。

 そこまでやられちまったら、俺が大人げない。

 キヴォトスのガキ共は、揃いに揃って頑固者ばかりだ。

 頑固なのは、いわばテメェの中でブレない原点を持ってるってこと。

 

 クソガキだと思ってたが、随分と立派な顔つきになったもんだ。

 

「ミヤコの意志は分かった。他の三人はどうする」

 

「どうするもこうするも……隊長が決めたのなら、それが私たちの答えだ」

 

 サキがそう答えると、他の二人もそれに頷く。

 ミヤコの決意に感化されたか、それとも彼女たちの中で変化があったのか。

 そのどちらなのかもしれないな。

 

「秩序の維持の為、犯罪者を速やかに制圧し……」

 

「可能な限り全火力を瞬く間に投下し……」

 

「……気付かれる前にその場を去る」

 

 サキを始めとして、モエ、ミユがSRTの金言を口にして、前に出した手を重ね、隊長であるミヤコを見る。

 三人の顔を見ながら、ミヤコは考え、そして三人の手の上に自身の手を重ねる。

 

「…………今回の任務は、ヴァルキューレが私企業と結託して、不法行為を行おうとしている。正しく、SRTにしかできない任務です。目標は、ヴァルキューレの違法取引の記録。『クローバー作戦』を開始します!」

 

 そう声をあげ、作戦開始の号令が成された。

 

 さて、俺の方も準備を進めるか。

 

 

 相手は、仮にも連邦生徒会に連ねる組織、今はシャーレの預かりになってる便利屋たちの力は借りれない上に、ぞろぞろと引き連れていくものじゃない。

 だから、あくまでもRABBIT小隊と俺の最少人数で仕事を行う。

 作戦は、俺とミヤコで建て、モエは変わらず拠点で待機、ハッキングでの援護を行ってもらう。

 

 忍び込む時間は念を込めて深夜の零時丁度。

 作戦の便宜上『ポイントE(エコー)』と呼んだヴァルキューレ本館二階の廊下に通じる窓から俺たちは潜入した。

 

「こちらRABBIT1、ポイントEに現着。哨兵の姿は無し、向かい側の廊下に監視カメラらしき多数の機器を確認」

 

『こちらキャンプRABBIT。その監視カメラについてはもうハッキング済み、と言っても30分間しか効かないから任務の時間は30分に設定するよ……コード的にまたヴェリタスの副部長かな。厄介なことするよ』

 

「あー……BOSSRABBIT、目標があるポイントS(シエラ)までの直通路までは確保。さっさと済ませるぞ」

 

 BOSSRABBIT……俺に当てられたナンバーを答えながら、通路を素早く進んでいく。

 ヴェリタスの副部長……チヒロのセキュリティを素早くハッキングしたモエの腕は流石の一言だが、ハッキングされた後のことを考えて、自動で鍵穴を変える仕組みを仕込んでるのはチヒロが上手ってところだ。

 バレンタインのときに、ヴァルキューレのセキュリティに文句垂れてたからな、あれから売り込みに行ったんだろう。

 

「それにしても……仮にもヴァルキューレの本館だろう?監視が誰もいないのはどうなんだ?」

 

『大丈夫だって、画面見てるけど誰もいないよ?』

 

「RABBIT2が言いたいのは、ヴァルキューレに対してだろう?」

 

「あぁ……呆れたもんだ。これだからヴァルキューレには行きたくないんだ」

 

 言いたいことは分かるが、今回の任務からすれば助かるもんだ。

 それにしても、人がいない。

 いくら何でもザルすぎるな。

 

 何の傷害もなく俺たちは、あっという間に目標がある地下三階、ポイントSに到着した。

 そして、内部の地図をあらかじめ手に入れていた俺たちの目の前には、銀行などでも使われているような重厚な金属製の扉がある。

 

「頑丈な扉ですね……犯罪にかかわる証拠なども全てあるでしょうし、当然ではありますが」

 

「それにしても、人がいないな。楽だからいいが……で、なんで開けないんだ?さっさと中に入らないのか?」

 

「それが、この扉電子式なんです」

 

「この分厚さじゃ、ぶち抜けばバレちまうだろうしな。キャンプRABBIT、あとどれくらいほしい」

 

 触れば、電流が流れる可能性すらある。

 と言っても、この様子じゃそれも杞憂かもしれないが、念には念をだ。

 モエですらきついのなら、アロナに頼るのも視野に入れるが……今はこいつらを信じてやろう。

 

『もうちょっと待って、急かさないでよ! というか先生、ぶち抜こうと思えばぶち抜けるの? あとでぶち抜くところ見せて!』

 

「口よりも先に手を動かせ……諸々終わったらな」

 

『やった!やる気出てきたぁ!……はい!クリア!』

 

 妙な約束をしてしまったが、通話越しにも分かるほどやる気をだしたモエによってあっという間に扉のロックが開錠され、俺たちはその中へと入っていく。

 

「……一分半か、早いな」

 

『超火力が掛かってるからね、うひひ……』

 

「はぁ……まぁいい、俺が見張りをする。三人で探してくれ」

 

 あまり見せびらかすものじゃないが、面倒な約束をしてしまったものだと、ぼやきながら俺は、扉の前に立って監視を始める。

 

「うぅ……暗いぃ」

 

「ライトいるか?」

 

「うん……ありがとうサキちゃん」

 

 各々小さな声で話しながら、書類を探している。

 俺たちに取っちゃ、暗闇の方が見えるが、まだまだ修行が足りねぇな。

 

 しばし待つこと五分、無線に連絡が入る。

 

『「クローバー」……「カイザーインダストリー」と公安局との間における、違法な取引の証拠を確保しました』

 

 どうやら無事に見つけたらしい。

 それにしても……本当にあるとはな。嘘だと思いたかったが……。

 これで、ヴァルキューレが矢面に立たされることになるのは、少し歯がゆいが……。

 

「目的のものは手に入れたのなら、さっさと帰るぞ」

 

 部屋の中から出てきた三人から渡された資料を確認して、それをミヤコへ渡す。

 確かに本物だった。

 カイザーインダストリーの印と、ヴァルキューレ警察学校の上層部、警視総監ってところか。そいつらの印が押されている。

 カンナの名前が並べられていない辺り、あくまでも彼女は命令に従ってるだけってわけだ。

 その上で、責任はあいつがとるんだろうな。

 

 やるせねぇ。

 

 内心で歯噛みをしながら、帰路に向かおうとすると、部屋の電気が一斉に付き、一時的に視界が塞がれる。

 

「っ!」

 

「……ここをどこだと思っている」

 

「……その声は」

 

 眼が慣れて、姿が見えてくると、聞こえてきた声に感じた俺の嫌な予感が現実の物へとなっていく。

 背後から掛けられた声に振り向くと、コルトM1911A1通称『コルト・ガバメント』の鋼色の銃口が俺に対して向けられている。

 

「……尾銭レイミ、まさかここに居るとはな」

 

「…………先生、何故貴方が」

 

 なんでこんなとこにいるのか、しかも直前までなんでモエが気が付かなかったのか。

 考えることは多いが……任務優先だな。

 

「RABBIT1!」

 

「は、はいっ」

 

「この後の指揮はてめぇが取れ!ここは俺が引き受ける」

 

 不安そうな表情を浮かべるミヤコに対して、俺は笑いながら言葉を投げかける。

 世話の焼けるやつだよ、お前さんらは。

 

「任せたぞ、子兎共」

 

「……! RABBIT2、4こちらに来てください!BOSSRABBITも、待っていますからね」

 

 素早く、サキとミユに声をかけたミヤコは降りてきた西側通路の扉を開き、そこへ駈け込んでいく。

 背後で走る足音を聞き届けて、俺はレイミに相対する。

 

「先生、まさか……副局長の言う通り、本当に悪を行うとは……見損ないましたよ」

 

「…………」

 

 そうか、こいつには完全に知らされてないんだな。

 レイミの発言を聞いて、俺はそう確信する。

 こいつほどの正義感の持ち主を、そもそも敵に回すのは面倒だろうからな。

 それにしても、あの緩そうな顔をしていた副部長、腹芸が得意なようだ……俺のことをとっくに警戒してたわけか。

 

「お前さんは周りが見れてねぇみたいだな」

 

「言い訳は、わっぱを掛けてから聞かせてもらおう」

 

 こいつが聞かん坊なのを忘れてたぜ……。

 捕まってやることは出来ねぇが……どうしたものか。

 

 前は捕まっちまったが、俺に向かって投げられた手縄錠を避けて、後ろに跳び退く。

 縄を手繰り寄せると同時に飛び出してくるレイミ、その背中に手をついて、跳び箱を跳ぶようにいなす。

 

 背中を押し出したつもりだったが、レイミは壁に激突することなく、素早く切り返し、腰から取り出した警棒を左から振るってくる。

 

 着地を狙われたそれを、地面に着くと同時に足を滑らせて地面に倒れることで防ぐ。

 キヴォトスの技術力を考えれば、当たっただけで拘束されることもあり得るかもしれねぇからな。

 

「今のをっ!?」

 

「おっさん舐めんじゃねぇぞ」

 

 あの切り返しからして、こいつも相当動ける。

 余り時間はないってのによ……。

 撃ってもいいんだが……殺し合う気はねぇからな。

 

「お前さん、副局長から何も聞かなかったのか?」

 

「副局長から?何も!さっき言ったが、貴様と会話する気はない!」

 

「なら……」

 

 レイミが再び掴みにかかろうとした瞬間、俺は地面に発煙弾を投げつけて、煙幕を展開する。

 

「くそっ、逃がすか!!!」

 

「今度また遊んでやるよ」

 

 煙を腕で掻き分けて、俺の事を探しているレイミを余所に俺は、別の階段を上り始めた。

 

 

 ──────

 

 ────────────

 

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 ──この後の指揮はてめぇが取れ!ここは俺が引き受ける。

 

 あの次元先生からの言葉を思い返す。

 問題に対して素早く解決策を上げ、何の躊躇いもなく自身を殿にあげた。

 

 悔しい。

 

 私にはあのレベルの戦略眼と統率力が無い。

 

 思い返せば、先生と初めて戦ったあの時も、大雨による災害の時も、私一人じゃ何もできなかった。

 

 どうやってこの危機を乗り越えれば……。

 

「──ヤコ。ミヤコ!」

 

「すみません。少し考え事をしていました」

 

「らしくないぞ、任されたんだろ隊長」

 

 暗い表情をしてしまっていたのか、サキが私の背中を叩く。

 その衝撃が体を優しく駆け巡ると同時に思い出す。

 

 ──任せたぞ、子兎共。

 

 先生に任されたんだ。

 私は……だから下を向いている場合じゃない。

 

 先生からの言葉を噛みしめて、前を向くと、ミユが私の手をそっと握る。

 

「ミ、ミヤコちゃん……一緒に頑張ろう?」

 

「はい、ありがとうミユ。モエ、オペレーション頼みましたよ」

 

『もちろん、さっきのミスを挽回しなくっちゃだしね』

 

 先生を殿にさせてしまったせいか、モエもやる気のある声をしている。

 全員の士気は十二分。

 それを殺さず生かすのが、今の私の仕事です。

 

『その階段使ってるのバレたっぽい!』

 

「分かりました、では次のフロアで遮蔽物の多い東側に向かって行きましょう」

 

 モエからの通信が聞こえる頃、吹き抜けになっている階段の上下から大量の足音が聞こえる。

 次の階のドアを開いて、閉める前にドアノブを破壊し、挟み撃ちにならないようにしてから私たちは近くの物陰に隠れる。

 

「居たぞ!!ターゲットだ!」

 

「キャンプRABBIT、停電をお願いします」

 

『今やってる!』

 

 運悪く、そのフロアにもヴァルキューレの生徒が居ましたが……元よりそのつもりで来ています。

 モエのハッキングによって、フロアの電気が停電し、暗闇に包まれる。

 まだ目が慣れてないせいで、輪郭はあやふやだが、窓からさす月明りのお陰で、かろうじて向こうの敵が見える。

 

「敵の数は?」

 

『見た感じ20人!後から増える可能性はあるよ』

 

「分かりました、RABBIT4。最後列の生徒を狙撃できますか?」

 

「う、うん……出来るよ」

 

「では合図と同時に射撃、命中を確認してから私とRABBIT2で前進です」

 

 これが最善手ではない……のかもしれない。

 でも、今やれることを私はやるしかない。

 指示を出したミユが暗闇の中にスコープを向ける。

 

 私は向こうに聞こえない程度の声で、合図を送った。

 瞬間、暗闇に閃く火花と相手の足音を掻き消す銃声が響き、どよめきと何かが倒れる音が聞こえる。

 

「制圧開始」

 

「なっ、最後列がやられ──ぐぁっ!!」

 

T(タンゴ)3ダウン!」

 

 サキのRABBIT-26式機関銃と私のRABBIT-31式短機関銃から吹き出る火花が彼女の顔を照らし、最後列の確認を行おうと後ろを向いた最前列のヴァルキューレの生徒達に命中する。

 

「確認しました、RABBIT2は次の遮蔽物まで前進!それ以外の隊員は五秒間現在地でRABBIT2のカバー」

 

「「了解!」」

 

「……3……2……1。RABBIT2、F(フォックストロット)投下!」

 

 Fは私たちRABBIT小隊の中での暗号であり、Flashbangの頭文字だ。

 そのまま言ってしまえば、バレて対処を取られてしまう。

 だから、暗号で言ったそれは、初見なら絶対に刺さる。

 

 暗闇を埋め尽くす白光が、ヴァルキューレの生徒の視界を奪い、私たちの弾丸が瞬く間に彼女たちに命中する。

 

「RABBIT4、5時の方向にスナイパーです!」

 

「あ、了解……ごめん、その前にリロードする、終わったと同時に当てるから!」

 

「了解です、RABBIT2、援護射撃を!」

 

「任せろ!」

 

 リロードを素早く終えたミユがスナイパーを仕留め、私たちは前進を続ける。

 制圧を済ませた私の耳にフロアを響かせる足音が聞こえる。

 

「キャンプRABBIT、ここの室温感知装置をハッキングできますか?」

 

『出来るけど……あぁ、そういうこと?何度にしよっか?』

 

「そうですね……では、ここは派手に摂氏1,000℃で行きましょう」

 

『くひひ!了解!』

 

 モエに通信を行うとすぐに警報が鳴り響き、スプリンクラーが作動して、水が降る音に紛れて、次々と防火壁が降りていく音が聞こえる。

 これで増援はないはず……。

 

「これで、安全に進めますね」

 

「良く足音が聞こえたな?」

 

「そうですかね……?サキは聞こえませんでしたか?」

 

 首を横に振るサキを横目に私たちは屋上まで駆け上がっていく。

 

 屋上へと駆けあがった私達は、モエに頼んで航空支援を待つ状態になった。

 

「……どれくらいで来ますか?」

 

『後五分くらいかな。イレギュラーがあってポイントが変わっちゃったからさ。ごめん』

 

「それまでに先生来るかな……」

 

 ミユが言った言葉は私が懸念している事そのものだった。

 バリケードを設置する方が、安全であることに違いはないのですが……先生を置いていっては行けません。

 

「途中仕掛けた爆弾でやられてないといいんだがな」

 

「先生は、私たちが公園に仕掛けた地雷を見抜いています。恐らくそれはあり得ません」

 

 先生のあの戦闘能力の高さは、一体どこから来てるのでしょうか。

 この前脱がした時に見えた素肌に刻まれた無数の傷跡。

 先生の雰囲気からして殺し屋だという噂は本当なのかもしれません。

 

 そう考えながら、待っていると、モエが口を開く。

 

『来ないヘリ、追い詰められた屋上、仲間を待つ主人公たち……くひひ、先週見たゾンビ映画みたい』

 

「なぁ……一応聞くが、それどうなった?」

 

『え?ゾンビ化した仲間が現れて、そいつのせいでヘリが墜落して全滅』

 

「聞いた私がバカだったな!!」

 

「で、でも、ここにゾンビなんていないから……」

 

 縁起の悪い会話をしている三人をどう咎めたものかと思っていると、物音が耳に入る。

 それと同時に聞き覚えのある低い女性の声も。

 

「…………またしても貴様らか」

 

「ひ、ゾ、ゾンビ!?」

 

「ゾンビ?……せめて、公安局長と呼べ」

 

 その声の主は外壁から飛び出し、私たちの目の前に着地して銃を構える。

 

「カンナ局長……」

 

「今、外壁から飛び出てなかったか?」

 

「あぁ、そこをよじ登ってきた」

 

 信じられない、この建物は15階建ての大型建築物。

 一階からではないかもしれないにしても、とても人の手でよじ登れるようなものではないはず。

 つまりこの人は……名前負けしないほどに強い。

 

「貴様ら一歩も動くな。話はあとで──「いや、今聞いてもらおう」っ!誰だ」

 

 扉が開かれるとほぼ同時に飛び出した銃弾が、カンナ局長の手に持った銃に当たり、地面を滑る彼女の愛銃が扉から出てきた足によって動きを止める。

 

「次元、先生……」

 

「説教かますところ悪いが……こいつらの話を聞いてやってくれ」

 

 黒い帽子を抑えながら、マグナムを構えた先生がそこに立っていた。

 

 

 ────────────────────   

 

 ────────────   

 

 ──────

 

 

 途中、屋上に向かうヴァルキューレの部隊を片付けながら来たせいで少し遅れちまったが……。

 どうやら、クライマックスには間に合ったらしいな。

 

「先生まで、なぜこの犯罪者の肩を持つのですか!!」

 

「それは、貴方も犯罪者だからでしょう。カンナ局長」

 

「何を、言ってる」

 

 狼狽えるカンナにミヤコは、懐からカイザーインダストリーとの取引が書かれた資料の入った帳簿を取り出し、それを見せつける。

 

「今日の日中に行われた実力行使での地上げ行為。それは、カイザーインダストリー……いえ、カイザーコーポレーションのグループ企業であるカイザーコンストラクションとの違法リベートが行われていた為に行った。そうですね?」

 

「何故、それを……」

 

「今朝は証拠がなかったからな。それによ、あの沈黙は俺には少し音がデカすぎたぜ。やましいことをしてるってな」

 

 歯を見せながら食いしばり、目線を下に下げるカンナにミヤコは、淡々と言葉を続ける。

 

「この資料にはヴァルキューレ上層部の印も押されています。 キヴォトスの治安を担当するヴァルキューレ警察学校が、私企業との取引において犯罪行為に手を染めた決定的な証拠です。 そしてその実行犯である公安局の局長である貴方が、それを知らなかったはずがありません。 先生はこうも言っていました。貴方はただの手先に過ぎない。逆らうことのできない誰かからの命令だったと」

 

「っ……!」

 

「カンナ局長!一体誰からこのようなことをしろと命じられたんですか!貴方自身がやるせないと、そう思っているから副局長や正義感の強い人を置いて自分一人でその罪を背負おうとしたんじゃないんですか!ヴァルキューレの正義とはその程度のものだったの──「うるさい!!!」

 

 ミヤコの声を掻き消すように、カンナが怒号を発する。

 彼女の手袋が破けてしまうほどに強く破れ、その手から赤い雫が地面へと滴り落ちる。

 

「言いたい放題だな……貴様らは。 そうだ、私は確かに命令されて仕事を行った。

 

 だがな、それは社会の原理だ。それが世界だ! 

 

 貴様らには特権がある、連邦生徒会長の名の下に正義を論じる余裕がある。

 その間、私たちが何をしていたか知ってるのか?

 汚い現場で、どれだけ妥協に濡れながら公務を処理していた事か!」

 

 無力な自分に対して向けた怨みを叫び、彼女は流れる血を振りまきながら、コンクリートで出来た地面を踏み砕くほどに、怒りを露わにした彼女は目を見開きながら、声を荒げる。

 

「これがこの世界の現実だ!

 

 手を汚さずに、正義を掲げ続けることなど出来ない!!」

 

 その怒髪に呼応するかのように俺の懐から一枚のカードが浮かびあがり、その怒声を掻き消すほどの声が夜空に響いた。

 

「貴様、それでも警察かぁぁああ!!」

 

 カードが光ったと思えば、そこから出てきた白い光が、カンナの頬を殴り飛ばす。

 その久しぶりに聞く俺らの天敵の声に、俺の顔が引き攣っていく。

 使うつもりも微塵もなかった、そもそも取り出してすらいないのに、アイツは……。

 

 茶色のトレンチコートを羽織り、同じ色の帽子を身に着けたアイツは……勝手にこっちに来やがった。

 

「っ、誰だ……お前は」

 

「俺は、ICPOルパン専任捜査官の銭形だ」

 

「ルパン?……確かブラックマーケットで銀行強盗をした覆面水着団のリーダーだったか?」

 

 俺のせいで、ここにもルパンの名前が広まってるのを忘れていたな……。

 それよりもまさか……勝手に使われたのか?

 

 考えるのは止そう、何せあの銭形だからな。

 俺の相棒と同じで、何をしでかしてもおかしくない。

 

「話は聞かせてもらった。『上官からの命令は絶対』それは間違っちゃいない」

 

「なら!──「だけどな、それで自分の魂を汚すのは最もやっちゃいけないことだ」……自分の魂?」

 

「お前も刑事なら必ず抱いてたはずだ。自分の熱い正義を信じて悪と戦う、刑事(デカ)魂を」

 

「きゅ、急に何を……自分の信念だけに従っていたら、私は全てを……全てを失ってしまう!」

 

 尻餅を付く形で、銭形を見上げていたカンナは、俯きながらそう言葉を発する。

 それを聞いた銭形は彼女の服を掴み、持ち上げ自分の目を見させた。

 

「それは、自分の魂を売ったとしてもか。お前は奴隷になるために刑事(デカ)を目指したのか」

 

「っ……私には、私には守るべき部下がいる。だから例え手を汚したとしても……!

 こんな中途半端な立ち位置で!私には何もできない!!」

 

「なら、その手から目を背けるな」

 

 彼女の目から一筋の透明な雫が流れ、地面へと零れ落ちる。

 

 今の発言でハッキリしたな。

 カンナは、公安局を人質に取られている。

 厳しい局長として振舞っているが、それでも長としてテメェの部下を守るためにその指示に従っていたのだろう。

 

 だからこそ、同じように部下を持ったことのある銭形は怒ってるのだろうな。

 

「俺もな、いつも失敗ばかりでルパンを逃がしてしまう。そのせいで上からは大目玉を喰らうことはザラだ。だけどな、それでも突き通すべき意思が人にはあるんだよ」

 

「それが……正義だと?」

 

「相手が誰であろうと……悪党にはワッパを掛ける。それが俺の生き様『刑事(デカ)魂』だ。公安局のカンナだったな。お前は、『何のために』『誰のために』働いてきた」

 

 そう銭形が問いただした時、プロペラが回る音が俺たちの耳に届く。

 どうやらタイムリミットのようだ。

 

「次元大介。ここは俺が引き受ける、後ろのお嬢さん達を連れてサッサと行け」

 

「……恩はどっかで返すぜ、銭形」

 

「しばらくはここに滞在するだろうからな。気にするな。その(先生の)仕事が終われば、貴様も牢にぶち込んでやる」

 

 俺たちの上空で滞空するヘリコプターからハーネスが降下し、それを装着していると、ミヤコがカンナの前へと歩み出る。

 

「カンナ局長。私も部隊を率いる隊長として貴女の選択肢を否定はしません。 ですが、その判断の根っこを誰かのせいにしては、いつか冷めてしまうと思います。 それが私達と貴方の違いです……では、失礼します」

 

 そういってお辞儀をすると、ハーネスが引き上げられて、俺たちはヘリの中へと入っていく。

 観念したかのように、少し憑き物が取れたかのような表情を浮かべたカンナを最後に、俺たちは子ウサギ公園へと帰還を果たした。

 

 そのヘリの中で、ミヤコ達が俺に質問をしてきた。

 

「先生、先ほどの銭形と名乗った彼は一体?」

 

「銭形幸一。泥棒をやっていた俺と相棒であるルパン三世をしつこく追っている敏腕警部。俺らの天敵だ」

 

 月の浮かぶ夜空をヘリの窓から見ながら、俺は考える。

 

 ──しばらくはここに滞在するだろう。

 

 あのベアトリーチェとの戦いでは、俺はルパンと五ェ門、そしてどういう訳か不二子も来たが、あいつらは直ぐに消えちまった。

 だから、銭形もそうだと思っていたが……。

 アイツはそんな冗談を真面目な顔で言うような男じゃない。

 

 この悪寒が、ただの俺の気のせいなら、天敵がこの都市に現れたせいならいいのだが……。

 

 今日の月は、俺にとっては、何処か不気味に感じた。

 

 




一段落、そう言いたいところだが
自体は何も進展しちゃいない、あくまでも食い止めただけ
後手からの仕事ってのは辛いもんだ

次回 エピローグ

その尻尾必ず掴んでやるよ






大変お待たせ致しました。
先週は、卒業制作の発表をしていたもので……。
ぶるあかふぇす、土曜日に現地に出向いてましたが最高でしたねぇ!
もう今から来年が楽しみでしょうがないのです

さて、色々ストーリーについて気になる方もいらっしゃるかと思いますが……あえて秘匿させていただきましょう。
プロローグが終われば、EXの後、Vol.finalに向けてのイベクエを行います!
良ければ投票していただけますと幸いです!

評価、ここすき、感想お待ちしております!

今の話のタイトルが分かりにくいとの意見を得て変更するか否か

  • 例:殺し屋の矜持
  • 例:1-10
  • 例:1-10 殺し屋の矜持
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