新任教師『次元大介』   作:レイゴン

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1-4 大人と小娘

「……それでは、アビドス対策委員会の定例会議を始めます。本日は先生にもお越しいただいたので、いつもより真面目な議論が出来ると思うのですが……」

 

「は~い☆」

 

「もちろん」

 

「ほう「何よ(だ)、いつもは不真面目みたいじゃない(みたいなんだな)」」

「うへへ、セリカちゃんいつの間にそんなに先生と急接近したのさ~」

 

「たまたまよ!たまたま!先生もかぶせないで!」

 

 無茶いいやがる……

 セリカを救出した次の日、俺はアビドス対策委員会の定例会議に参加していた。

 挨拶を終えたアヤネはホワイトボードに何か書き始める、

 一番上には今日の議題と思われる、『借金の返済案』という文字が書かれていた。

 

「本日の会議の議題は、私たちにとって最も重要な問題……『学校の負債をどう返済するか』について議論します。ご意見のある方は、挙手を!」

 

 アヤネがそういうとほぼ同時に、セリカが手を挙げた。

 

「はい、はいはい!」

 

「はい、一年の黒見さん。お願いします」

 

「……ねえ、苗字で呼ぶの、やめない?ぎこちないんだけど……」

 

「でも、せっかくの会議だし……」

 

「いいじゃーん、おカタ〜い感じで。それに今日は珍しく、先生もいるんだしさ」

 

「珍しいというか、初めて」

 

「うんうん!委員会って感じがして、いいと思います!」

 

「まあ、先輩たちがそう言うなら……とにかく!」

 

 アヤネからの苗字呼びに慣れない様子だったが、先輩たちが賛成気味なこともあって、納得したようだ。

 ホワイトボードの前に移動して、意見を言い始める。

 なんだかんだで、真面目な良い奴だ、ってことは出す意見もいいものになるはず。

「対策委員会の会計担当として、現在の我が校の財政状況は破綻寸前としか言いようがないわ!このままだと廃校だよ!みんな、分かってるよね?」

 

「うん、まあね〜」

 

 

 ホシノが相槌を打ち、みんなが頷く。

 

「毎月の返済額は利息だけで788万円!私たちも頑張ってはいるけど、正直利息の返済も追いつかない。今までみたいに指名手配犯を捕まえたり、苦情を解決したり、ボランティアするだけじゃ限界があるわ。何かこう、でっかく一発狙わないと!」

 

「でっかく……例えば?」

 

 シロコの質問に、セリカは待ってましたと言わんばかりの反応で鞄の中を漁り、チラシのようなものを取り出して俺らに見せてくる。

 

「これ見て!」

 

「これって……⁉︎」

 

「おい、冗談キツイぞ」

 

 そのチラシにはこう書かれていた『ゲルマニウム麦飯石であなたも一攫千金‼︎』……と。

 まず大体、ゲルマニウム麦飯石ってなんだ?ゲルマニウムなのか?麦飯なのか?結局石か?

 呆れている俺をおいて、セリカの話は進む。

 

「この間街で声をかけられて、説明会に連れて行ってもらったの。運気を上げるゲルマニウムブレスレットを売ってるんだって!これね、身につけるだけで運気が上がるんだって!で、これを周りの三人に売って……先生どうしたの?」

 

「話してるとこ悪いが……」

 

 そういって、立ち上がった俺はセリカの額をデコピンする。

 

「ぃっったぁ!!!???」

 

「お前……さてはバカだろ」

 

「人の額にデコピンしておいて何を!」

 

「はぁ、まず大体、運気が上がるなんていうものがあったとして、なんでそれが量産出来てんだ?そういうのは独占して自分のものにしたがるもんだろうが」

 

「……確かに……え、それじゃあ……」

 

 俺の言葉を聞いたセリカは表情を二転三転しながら、今にも泣きそうな顔で、鞄からブレスレットを二つも取り出し、見せてきた。

 

「ど、どうしよう……私、二個も買っちゃったんだけど⁉︎」

 

 

「セリカちゃん、騙されちゃいましたね。可愛いです☆」

 

 どうやら、とんだ天然ボケだったようだ。少し前の俺の意見を返してくれ。

 

「まったく、セリカちゃんは世間知らずだねえ〜。気を付けておかないと、いつか悪い大人に騙されて、人生取り返しのつかないことになっちゃうかもよー?」

 

「そ、そんなぁ……そんな風には見えなかったのに……せっかくお昼抜いて貯めたお金で買ったのに……」

 

「大丈夫ですよ、セリカちゃん。お昼、一緒に食べましょう?私がご馳走しますから」

 

「ぐすっ……ノノミせんぱぁい……」

 

 その様子を見ながら、アロナに頼んで、詐欺業者の摘発を行う。リンに連絡入れれば、周知に繋がるか?

 銭形のとっつぁんの気分がすこしわかった気がするぜ。ルパン専任以外にもやってただろ確か?

 

「えっと、それでは……黒見さんからの意見はこの辺で……他にご意見のある方……」

 

 そんな光景を見ながら、切り替えて会議を進めようとするアヤネ。

 それに反応してホシノが元気に手を挙げた。

 

「はい!はい!」

 

「えっと、はい。三年の小鳥遊委員長。ちょっと嫌な予感がしますが……」

 

「うむうむ、えっへん!」

 

 その様子からして、普段はかなり悪いこと言ってるのか?

 まぁ、とはいえ、こいつは何だかんだで正義感のある奴だ。

 きっと大丈夫だろう。

 

「我が校の一番の問題。それは全校生徒がここにいる五人だけってことなんだよねー。

 生徒の数イコール学校の力。トリニティやゲヘナみたいに、生徒数を桁違いに増やせれば、毎月のお金でもかなりな金額になるはずだよ」

 

「えっ……そ、そうなんですか?」

 

「あぁ、学費が純粋に増えるからな」

 

 流石ホシノ、やっぱり目の付け所が違うな。

 ただ問題がある。

 

「そういうことー!まずは生徒数を増やさないとね〜、まずはそこからかな~

 増えたら、議員も輩出できて、連邦生徒会での発言権も与えられるしね」

 

「鋭いご指摘ですが……でも一体どうやって……」

 

 そう、一体どうやって。

 その肝心の手段が分からないということだ。

 アビドス高等学校の生徒数が少ない主な理由は、砂嵐による地域の砂漠化、多額の借金。どちらの問題も解決していない以上、入ってくる新入生はかなり少ないだろう。

 しかし、これだけ自信ありげに言っているのだ。それ相応にいい案が……。

 

「簡単だよー。他校のスクールバスを拉致ればオッケー!」

 

「はい⁉︎」

 

「ホシノ!?」

 

 俺と、アヤネの声が同時に部屋に響く。

 

「登校中のスクールバスをジャックして、うちの学校への転入学書類にハンコ押さなきゃバスから出られないようにするのー。うへへ~、これで生徒数がグンと増えること、間違いなーし!」

 

「それ、興味深いね。ターゲットはトリニティ?それともミレニアム?ゲヘナ?」

 

「お、うーん。そうだなぁ~。トリニティ……?いやゲヘナにしよーっと!」

 

 おいこの展開、さっきもやったぞ?

 なんだ??バカしかいねぇのかここは。

 

「拉致恐喝、犯罪者になる気か?それにゲヘナの風紀委員長は、何でも生身で暴力団のアジトを木っ端みじんにしたことがあるらしいぞ。ここがぶっ壊れるのと生徒が増えるのどっちが先だろうな?」

 

「……やっぱなしで……」

 

「やっぱなし、じゃありませんよホシノ先輩……もっと真面目に会議に臨んでいただかないと……」

 

 この馬鹿どものストッパーをし続けているアヤネに思わず同情の意を向ける。

 苦労してきてんだな……

 

「いい考えがある」

 

「……はい、二年の砂狼さん」

 

 お前さん、さっきハイジャックに乗り気だったよな。

 嫌な予感しかしない。

 

「ん。銀行を襲うの」

 

「はいっ!?」

 

 アヤネがまた驚いた声を上げる。

 

「確実かつ簡単。ターゲットも選定済み。市街地にある第一中央銀行。金庫の位置、警備員の動線、現金輸送車の走行ルートは事前に把握しておいたから」

 

「さっきから一生懸命に書いてたのはそれですか!?」

 

「5分で1億は稼げる。はい、覆面も準備しておいた」

 

 そういってカラフルなニット帽を加工して作られた覆面を机の上に出す。

 

「いつの間にこんなものまで……」

 

「うわー、これ、シロコちゃんの手作りー?」

 

「これ見てください☆レスラーみたいです!」

 

「いやぁ~、いいねぇ。人生一発でキメないと。ねぇ、セリカちゃん?」

 

 先輩たちがはしゃぎ始めている横で俺は、シロコが作った作戦の紙を読んでいた。

 

「そんなわけあるかー!!!却下!却下ー!」

 

「先生もそうですよね?!犯罪はいけません!」

 

「シロコ、これはお前が書いたんだな?」

 

「先生?」

 

 アヤネが俺に対して同意を求めてくるがそれ以上に、この計画書の出来に感心していた。

 

「ん、そうだよ、どう?」

 

「よく出来てるな。学生が作ったとは思えねぇ。よく調べたものだ」

 

「先生……!」

 

「先生!?」

 

 シロコとアヤネが反応する。

 

「ただ、監視カメラの位置と、屋外の確認が甘い。これじゃあ逃げ出せたとこですぐに捕まっちまうな。変装とかも出来ねぇのならその分ルートで時間を稼ぐしかねぇ…………とは言えだ、よく出来ていると思うぞ」

 

 そういって、シロコの頭を撫でる。

 ルパンのやつが見たら喜びそうなほどの原石がここにいたとはな。

 まぁ、先生としちゃあ、落第の評価だけどな。

 

「ん、分かった。すぐに、銀行強盗マニュアルを進化させる」

 

「先生!なんで止めないんですか!!先生も乗り気なんですか!?」

 

「まさか、狙うならもっとデカいヤマだし、それに、一度やったら。一生逃げ続けなければならなくなるぞ、ましてや、使い道が借金の返済なら足がついちまう」

 

「そんな……」

 

「気に病むな。お前さんのそれは、いずれ役に立つだろうよ」

 

「……うん!」

 

「内容が銀行強盗じゃなければ、綺麗なワンシーンなんだけどねぇ~」

 

 ホシノの声で、元の会議の雰囲気に戻っていく。

 

「はぁ、みなさん……もうちょっとまともな提案をしていただかないと……」

 

 アヤネのため息がさっきよりも深くなる。

 

「あのー!はい!次は私が!」

 

「……はい。二年の十六夜ノノミさん。犯罪と詐欺はなしでご意見をお願いします……」

 

「はい!犯罪でもマルチ商法でもない、とってもクリーンかつ確実な方法があります!」

 

 ほう、ホンワカした抜けた雰囲気のノノミだが、どうやら頭がキレるのか?

 あげたハードルを下げるのは難しいが行けるのか?

 

「アイドルです!スクールアイドル!」

 

「あっはっはっはっは!!!」

 

「先生!なんで笑うんですか!!」

 

 あまりにも突拍子もない提案につい笑ってしまい、悪い悪いと謝りながら話を続けさせる。

 

「そうです!アニメで見たんですけど、学校を復興する定番の方法はアイドルです!私たち全員がアイドルデビューすれば……」

 

「却下」

 

 ホシノが鋭い声で止めさせた。

 

「あら、これもダメなんですか?」

 

「なんで?ホシノ先輩なら特定のマニアに大ウケしそうなのに」

 

 どうやらセリカは割と乗り気なようだった。

 しかし、こいつらがか、今まで出てきた中では一番マシなものだったが。

 見た目は確かにいいが、アイドルってやつらは俺はそんな得意じゃねぇからなぁ。

 

「うへ~、こんな貧相な体が好きとか言っちゃう輩なんて、人間としてダメっしょー。ないわー、ないない」

 

「決めポーズも考えておいたのに……水着少女団のクリスティーナで~す♧」

 

「ぶっわっはっはっはっはっ!!!」

 

「もう……先生笑いすぎです!」

 

 辛辣なコメントをするホシノの横で、くるりと回っていわゆる可愛い決めポーズとやらを披露するノノミとあまりにも酷いネーミングセンスのチーム名に思わず笑ってしまい、恥ずかしそうにしているノノミからチョップを喰らう。

 

「あのう……議論がなかなか進まないんですけど、そろそろ結論を……」

 

「それは先生に任せちゃおうー。先生、これまで出た意見で、やるならどれがいい?」

 

「あ~……ああ?俺が決めるのか?」

 

「えっ!?この中から選ぶんですか!?もう少しまともな意見を出してからの方がいいのでは!?」

 

「大丈夫だよ〜。きっと先生が選んだものなら間違いないって」

 

「ちょ、ちょっと待ってください!なんでそう言い切れるんですか!?︎」

 

「まさか、アイドルになれなんて言わないわよね?」

 

「なんだ?乗り気じゃなかったのか?」

 

「いやよ!名前だっさいし!『で~す♧』とか!!」

 

「徹夜で考えたのに〜……先生?アイドルで☆お願いします♧」

 

 笑ったときに出た涙を指でぬぐいながら、考える。

 シロコ、無言で覆面をつけて圧をかけるな。

 今まで出てきたなかで一番マシなのがまさかアイドルだとはな。

 

 とはいえ、こいつらを俺のような犯罪者にするつもりは毛頭ない。

 となると……

 

「仕方ねぇ、プロデューサーになってやろうじゃねぇか」

 

「えぇっ!?本気ですか!?」

 

「よし、決まりー!それじゃあ出発だー!」

 

「仕方ないだろ?犯罪者にするわけにもいかねぇしな」

 

「それは、その通りなんですが……」

 

「きゃあ〜☆楽しそうです!」

 

「ほ、ほんとうに?これでいいのかしら?」

 

「いいんじゃなーい?」

 

「い……」

 

 ホシノたちがにぎやかにしていると、アヤネがなにやらぽつりと声を零した。

 あ、これは、まずいな。

 

「い……?」

 

「いいわけないじゃないですかぁ!!!!!」

 

 セリカの返しで誘爆したのか、ドッカンと大声を出しながらテーブルをひっくり返す。

 昭和かよと思いながら、飛ばされたテーブルを掴み、元に戻す。

 

「出たー!アヤネちゃんのちゃぶ台返しー!」

 

「……ん、いつもの」

 

「きゃあ、アヤネちゃんが怒りました!非常事態です!」

 

「うへ〜、キレのある返しができる子に育ってくれて、ママとパパは嬉しいよ〜」

 

「誰がママですか!」

 

 心の中でパパと呼ぶんじゃねぇと突っ込みを入れながら、アヤネの怒りのボルテージは下がらない。

 

「いつもふざけてばっかり!マルチ商法とか銀行強盗とか、そんなことばっかり言って!」

 

 待て、いつもこうなのか?

 そりゃキレるもんか。

 セリカとシロコが身に覚えがあるかのように項垂れる。

 

「今日という今日は許しません!!!」

 

 そのあと俺らがみっちりとお説教を食らったのは言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ〜、悪かったってば、アヤネちゃーん。ラーメン奢ってあげるからさ、怒らないで、ねっ?」

 

「怒ってません……」

 

 それは怒っている奴がする言葉だぞ、アヤネ。

 怒髪天を衝いていたアヤネを宥めた俺たちは柴関ラーメンに来ていた。

 ふくれっ面のまま、ラーメンをすするアヤネをノノミとホシノが甲斐甲斐しくお世話していた。

 

「はい、お口拭いて。はい、よくできましたねー☆」

 

「赤ちゃんじゃありませんからっ」

 

 また怒った。

 

「……なんでもいいけどさ。なんでまたウチに来たの?」

 

「怒りつかれたアヤネに聞いたら、何か食べたいって言ってな。少なくとも俺はここより美味い飯屋をこのあたりじゃ知らないからな。だから来た」

 

「ふーん、なるほどね」

 

「アヤネ、チャーシューもっと食べる?」

 

「……いただきまふ」

 

 もぐもぐとラーメンを食べているアヤネの口にチャーシューを差し出しているシロコをよそ目に、セリカの疑問に答える。

 

「…あ、あのう…!」

 

「セリカ、客のようだぜ?」

 

「言われなくっても」

 

 セリカが、新しく来た客の対応に向かっていった。

 紫髪の少女の様子を見た俺は何かの予感を感じ、ラーメンを啜る手を止めて、聞き耳を立てた。

 

「いらっしゃいませ!何名様ですか?」

 

「……こ、ここで一番安いメニューって、お、おいくらですか?」

 

「一番安いメニュー……?でしたら、580円の柴関ラーメンです。看板メニューなので、美味しいですよ!」

 

 金欠ってところか?

 俺もガキの頃は、お金がなくて縁日の射的の景品を取りそこなったっけな。

 

 そんなことを思っていると、少女はお辞儀をしたのち、店から出ていく。

 そしてしばらくしてすぐにさっきの少女含めた四人の少女達が入店してきた。

 

「くふふ〜っ、やっと見つかった。600円以下のメニュー!」

 

 灰色の髪で大きな鞄を持った少女。

 

「ふふふ、言ったでしょう?何事にも解決策はあるのよ、全部想定内だわ」

 

 濃いピンクの髪色でワインレッドのコートを羽織った少女。

 

「そ、そうだったのですね……さすが社長……!何でもご存じですね」

 

 先ほどの少女。

 

「はぁ……」

 

 パーカーのような服を着た赤い瞳の白黒色の髪の少女。

 

 どこかの資料で見たような気がするんだが……忘れちまったな。

 

「四名様ですか?お席にご案内しますね」

 

「んーん、どうせ一杯しか頼まないし大丈夫だよ」

 

「一杯だけ……?でも、どうせならごゆっくりお席にどうぞ。今は暇な時間なので、空いてる席も多いですし」

 

「おー、親切な店員さんだね! ありがとう、それじゃあお言葉に甘えて」

 

 セリカに案内されて四人組の少女が俺から見て斜め後ろの席に座る。

 白黒の髪と、濃いピンクの髪の奴の頭に生えてるのは角か?鬼ってよりかは悪魔よりのそれだな。

 

「あ、ワガママのついでに、箸は四膳でよろしく。優しいバイトちゃん」

 

「えっ? 四膳ですか? ま、まさか一杯を四人で分け合うつもり?」

 

「ご、ご、ごめんなさいっ。貧乏ですみません!! お金がなくてすみません!!」

 

 聞いてて不安になるレベルのネガティブ思考だな。

 生まれつきか、まぁ、ある意味の個性ってやつか?

 

「あ、い、いや……! その、別にそう謝らなくても……」

 

「いいえ!お金がないのは首がないのも同じ!生きる資格なんてないんです!虫けらにも劣る存在なのです!虫けら以下ですみません……!」

 

「はあ……ちょっと声デカいよ、ハルカ。周りに迷惑……」

 

 くっくっく、こりゃ筋金レベルだな。

 ハルカと呼ばれていた少女以外は、特にそんな様子もない辺り、あの子だけこんな思考回路してるみたいだな。何があったらそうなるのか、先生の立場だからか、いらない気すら回してしまいそうだ。

 

 

「そんな!お金がないのは罪じゃないよ!胸を張って!」

 

「へ?……はい!?」

 

 そうだな、お前らも借金で金がなく苦しんでいる。

 共感ってのは大事なもんだ。こういうコミュニケーションなら尚のことな。

 

「お金は天下の回りもの、ってね。そもそもまだ学生だし!

 それでも、小銭をかき集めて食べに来てくれたんでしょ?

 そういうのが大事なんだよ!もう少し待っててね。すぐ持ってくるから!」

 

 ほんと、詐欺に騙されるのだけ見ないふりすりゃあ、ありゃいい女だよ。

 

 大将の方に走るセリカに声をかけようとすると。

 

「先生、大丈夫。任せてくれない?」

 

 生徒にそういわれたんじゃ、下がるしかねぇな。

 それに、俺が何言おうとしたか、察せられてる始末だしな。

 それならと、ラーメンを食べ進めながら、四人の方を見るとテーブル席で話し合っていた。

 

「ねぇ、何か妙な勘違いをされてるみたいだけど?」

 

「まあ、私たちもいつもはそんなに貧乏ってわけじゃないんだけどね。強いて言えば、金遣いの荒いアルちゃんのせいだし」

 

「『アルちゃん』じゃなくて社長でしょ? ムツキ室長、肩書はちゃんと付けてよ」

 

「ん? だってもう仕事終わった後じゃん? ところで、社長のクセに社員にラーメン一杯奢れないなんて」

 

「…………。」

 

「今日の襲撃任務に投入する人員を雇うために、ほぼ全財産使っちゃったし……」

 

「ふふふ。でもこうして実際ラーメンは口にできるわけでしょ? それぐらい想定、内……よ……」

 

 俺としたことが、ついつい見すぎてたみたいだ。

 アルと呼ばれていた少女が俺の方へ視線を向けて、通路を挟んで俺と見つめ合う。

 少し気まずく感じ、軽く会釈だけして口から垂れさがっていた麺を飲み込み、視線を外す。

 それで終わりのはずなのに、一向に俺の背後に視線が向き続けられる。

 なんだ?俺が何かしたってか?

 

「たったの一杯分じゃん。せめて四杯分のお金は確保しておこうよ……」

 

「ぶっちゃけ、忘れたんでしょ? ねぇねぇ、アルちゃん。夕飯代取っておくの、忘れたんでしょ~?」

 

「……か」

 

「あれ?……おーい、アルちゃん?どーしたのー?聞こえてるー?無視はひどいと思うんだけどー?」

 

「はあ。ま、リスクは減らせたほうがいいし。今回のターゲットは、ヘルメット団みたいなザコみたいには扱えないってことには同意する。でも全財産をはたいて人を雇わなきゃいけないほど、アビドスは危険な連中なの?」

 

「…………かっこ」

 

「社長?どうしたの?」

 

 四人組の声が消え、他の三人もアルの様子に気が付いたらしい。

 なんの反応も返さず、銅像のように固まった視線の先にいた俺の存在を見つけるのと、この小騒動の原因の少女が声を出すのは同時だった。

 

「カッコ良すぎだわ……!!」

 

 そういって駆け出した少女を止めることはできなかった。

 

「ねぇ!そこの貴方!その、お仕事は何をしている方かしら!?もしかして、特殊部隊のボスだったり、闇の世界を渡り歩いていたり、それとも信念のためなら悪すら利用して何かしてたとか!!!!」

 

「え、あ、ちょっと急になんなんですか!先生に何のようで、って力つよ!?」

 

 アルは俺の方にたどり着くや否やそんなことを言い始め、食事を済ませたアヤネがそれを引き剝がそうと奮力しているが、押しても引いても動かないようで、相当な意思の力で俺の側にいたいようだ。

 おおよそ、初対面の人間に対してやっていい距離の詰め方じゃないと思うんだが、俺の常識が違うのか?

 

「アヤネ、もういい。悪意は感じねぇ」

 

「っ……分かりました……」

 

 渋々引いてくれたアヤネはそのまま席に着く。

 肝心の押されていた本人はというと。

 

「……!!その帽子の下から見える鋭い眼光!!体に優しく響くような低い声!!ま、まさかこんなにもハードボイルドでアウトローの化身みたいな人が存在するなんて……」

 

 目をキラキラと輝かせながらこちらを見てくる。

 しかし、そういわれるのは悪い気はしねぇなと、アビドスの面々を見ると、どうやら納得いく節があるらしくなにやら談義を行っていた。

 

「……先生、確かに渋いね」

 

「ハードボイルド……情緒や感情を抑えた人を指す言葉でしたっけ☆」

 

「うん、どっちかっていうと暴力的とか非情的ってニュアンスだけどねぇ、ガンマンとか自称してるしアウトローっぽいのは分かるけど、でもそういう意味だとちょっと違うかも?」

 

「でも、先生はそんな悪い大人には見えません……人相は少し悪いですが……」

 

 アヤネ、聞こえているぞ。

 

「ガンマン!?それが貴方のお仕事なのね!!」

 

「アルちゃんアルちゃん。その辺にしときなって。おじさん、困ってるよ」

 

「はっ、私としたことが、ごめんなさい!つい興奮しちゃって……」

 

 見かねた灰色髪の少女が、声をかけると、アルは正気を取り戻したようで気まずそうに頭を下げた。

 頭が軽いってのは一種の長の大事なところだと俺は思う。

 そのうえで、さっきまでの言動含め悪意はないんだなと、そう感じさせる。

 

「いや、気にするな。あと二つ訂正させてくれ」

 

「何かしら?」

 

「まず、俺はおじさんじゃなくて、先生だ」

 

 まぁ、手っ取り早いからこう説明したが、それは仕事(・・)じゃない。

 

「ガンマンってのは仕事じゃねぇ、生き方(・・・)だ」

 

 その言葉を聞いたアルは白目をむいた状態で口をあんぐりと開けて固まった。

 

「アルちゃん……?し、死んでる……!」

 

「……はっ!生きてるわよ!!えっとそれで、先生だったかしら。私はハードボイルドなアウトローを目指しているんだけど」

 

 彼女たちの席に特大の……一杯の中に多量のラーメンがこれでもかと入った特大の一杯が運ばれ、それが大将とセリカの気遣いによるもので、それを嬉しそうに食べている様子を眺め、食べ終えた彼女は、アヤネに改めて謝罪し、俺とカウンター席で話をしていた。

 

「そうだな、俺はただ、色んな仕事を転々としていくうちにこうなったからな。そうだな、何かアドバイスできそうなことは、お前さんも銃持ってるんだろ?」

 

「えぇ!スナイパーライフルを使ってるわ!」

 

「なら、そいつを使い込んでやりな」

 

 そういってカウンターにマグナムを置く。

 

「それは……?」

 

「俺の相棒だよ。かれこれ54年の付き合いだからな」

 

「54っ!?そんなに使って、どうして……?というか、先生一体おいくつなの??」

 

「さぁな、30から先は数え忘れたよ」

 

 俺の歳なんざ、どーだっていい。

 肝心なのは、どうして新しい銃にしないのか、というところだ。

 

「銃には相性ってのがあるんだ。女と同じでな。

 俺はこいつから離れられないし、こいつも俺から離れられない。

 じゃじゃ馬だけどよ、愛してんのさ。だからお前さんもその銃を大事にしてやんな。お仲間さんに関しては……態々言うことはねぇな」

 

「えぇ、みんな私にとって最高の仲間だもの!ありがとう先生!」

 

「気にするな、まぁ、お前さんはまだ若い。沢山悩め、この道はろくでもねぇからな」

 

「わかったわ、先生。肝に銘じるわ」

 

 この先の未来。

 この子の笑顔が少しでも無くならないそんな世の中になればなと。

 

 甘くなった俺はそう思い耽た。

 




ようやく登場、便利屋68。
言いたかったこのセリフ。
次回、VS便利屋68

お気にいり700突破ありがとうございます。
そろそろ下げた頭に埋まりそうなほど感謝しています!
皆様のご支援のおかげで、一晩でここまで書き進められました。
いつも応援ありがとうございます!

最後に、ここすき、感想、評価等々お待ちしております。

今の話のタイトルが分かりにくいとの意見を得て変更するか否か

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