新任教師『次元大介』   作:レイゴン

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後編 白兎返却大作戦!!

 コユキの狙いが分かった、Sランクによる超特権階級……それによる学籍の変更。

 しっかしそんなことが出来るのか?

 いくら、最高レベルの物とは言え……たかが一組織でしかないこの船にそんな力があるのか?

 俺がそう疑問を覚えていると、説教を終えたネルが俺たちの方へ歩み寄りながら、口を開く。

 

 

「そんなこと出来るのか? そのSランクってのがどんなもんか知らねぇけどよ。 学籍の変更ってのはそんな簡単なもんじゃねぇぞ?」

 

「…………それは知らない、が……。 ここの船の売り上げは相当ある。それこそ学園は疎か、企業を買収するなんて当たり前に出来てしまうくらいにだ」

 

「学園を買うのならまだしも、生徒一人買うくらい訳ないってことか」

 

 

 そうネルは結論付ける。

 確かに金に物を言わせれば……当然出来る話ではある。

 学園も方法によっちゃ買う事すら出来ちまうからな。

 

 

「……ったく、甘く見てんなあのチビ」

 

「違いねぇな」

 

「……?」

 

 

 ネルのその一言は恐らくC&Cと俺にしか分からない言葉だろう。

 金に物を言わせれば、当然生徒を買うことだって出来る。

 

 ただ、あの女が、セミナー会長 調月リオって女がそれを許すとは思えない。

 リオはいつだって生徒の事を考えて動いていた。

 確かにアリスを消す算段とその覚悟を背負おうとしたことはある、ただそれも他の生徒と学園を思えばだ。

 誰よりも生徒と学園のことを想うリオが、たかが金如きで生徒を売るようなそんな奴には思えねぇ。

 だから、甘く見てるって話だ。

 

 

「よし、じゃあ行くか」

 

「あの、私は──「あ゛ぁ?」ここで大人しくしてます」

 

「悪いな、お前さんが見つかるころにはここを出てると思うからよ」

 

 

 ネルの気迫によって大人しくなった警備の生徒を置いて、俺たちは拠点を後にする。

 

 ここに戻ることももうないだろう。

 尤も仕事ってのはそういうものだ。

 

 プレイラウンジに向かう途中で、アカネが最後の仕事の確認を行う。

 

 

「さてこの後ですが……プレイラウンジに入ったら、我々はバラバラになって捜索。見つけ次第すぐに連絡してください。その後、奇襲をかけて、即座にこの船を抜け出しましょう」

 

「この客船の大きさとあのランク制度を考えれば、恐らくこの船の全ての客がそこにいる可能性がある……要するに怪我させちまう様なのは無しだ」

 

「けっ……めんどくせぇなぁ……。まぁ、仕方ねぇか、カタギは巻き込めねぇしな」

 

 

 相も変わらず自分の得意が出来ずにぼやいてるネルの頭を歩きながら撫でると、顔を真っ赤にしながら手を振り払ってくる。

 

 

「んだよ!? ガキ扱いすんじゃねぇ!! 噛みつかれてぇのか!?」

 

「かっかっ! 悪いな、それよりも人混みは苦手か?」

 

「あぁ!?苦手……でもねぇよ。そういう仕事もないわけじゃねぇからな」

 

「そいつは頼もしいこった」

 

「おう、無音で後頭部ぶん殴ってソッコー帰るぞ」

 

 

 そうして自分の掌に拳を打ち付け、気合を入れたネルを先頭に俺たちはプレイラウンジへと入り込む。

 

 中はラウンジというだけあって休憩用のテーブルや椅子が並べられているが……それよりも目立つのはメダル機などの遊技機の置かれてるスペースだ。

 

 パチンコにスロット……この世界にもあるとはな、大人ならいいがガキまで遊んでるのはどうなんだ……?

 キヴォトスの倫理観のなさには呆れ果てるぜ……。

 

 ランクアップすれば会場の各地に設置されているデカいモニターでお祝いされると……。

 射幸心ってのは恐ろしいもんだ。

 俺はこういうのには興味がねぇが、ハマっちまう奴はトコトンハマるだろう。

 ちらほら学生らしい奴もいるしな。

 

 わざわざそいつらにどうこう言うつもりはないが……。

 

 しばらく歩いているとやけに人が離れている場所を見つける。

 まるで関わりたくないから避けて歩こう、なんて不審者に対しての集団真理みてぇな一角だが……。

 人波を避けながらそこまで歩くとスロットに向かい合った白いタキシード服のようなものを着た桃色髪の少女が居た。

 

 

「にははは!!今日は中々悪くないですね!このまま勝ち逃げしたって……。いや、今日の運ならまだまだ行けるんじゃ……?」

 

 

 あぁ、ターゲットだ。

 電話は、この喧騒の中じゃ聞こえないだろうからな。

 モモトークに連絡を入れて、俺は彼女の隣へと座る。

 

 

「よし、行くぞ行くぞ!!頑張れコユキ、行けるよコユキ!!自分の力を信じて……って、何?おじさん?これから頑張るって時にわざわざ隣に……ハイエナ?」

 

「おじ……そういうつもりじゃねぇんだが……お嬢ちゃんはあれかい? 何か目指して頑張ってるってとこか?」

 

「うん!伝説のSランクを目指してるんです!」

 

 

 隣にいる少女は、随分と可愛らしい笑顔でそう話す。

 やってることは随分とあくどいが……まるで悪人らしからぬ純粋無垢な笑顔を浮かべている。

 

 この顔には見覚えがある。

 

 

「へぇ、Sランクか。そんな眉唾物があるとは思えねぇが……お嬢ちゃんは手に入れたら何をしたいんだ?」

 

「ふふん、気になります?この船の主になって……何のしがらみも無く、好き放題生きるんです!」

 

「何のしがらみもなく……か」

 

 

 あぁ、俺たちと同じようで少し違う。

 致命的な違いが一つな。

 それはてめぇのやってることを理解してるかどうかだ。

 

 こいつの顔はそういうテメェのやってることを何も気にしてないって顔だ。

 

 

「そういえば、貴方の事何処かで見たことがあるような気がするんですよね……? ニュースとかに乗ってました?」

 

「さぁな。クロノスのニュースとか見るのか?」

 

「にははは!ニュースとかつまんないから全然見ないですね!」

 

 

 スロットのリールが回る音と軽快でポップな効果音を背景に、目の前の少女は楽しそうに会話を続けている。

 こういう電子機器のギャンブルってのは余りやらねぇが……楽しいのか?

 

 

「おぉ! おじさんそれ熱いですよ!」

 

「そうなのか?」

 

「にははは!! おじさんほんと何にも知らないんですね!!……ってAランクはもう持ってるの! そっちじゃない!」

 

「お客様……あまり台を叩かないでください、出禁になりますよ」

 

「怒られちゃったな?」

 

「うっ……す、すみません……おじさんのせいだからね!」

 

 何でだよ、と心の中で突っ込みながら、コユキの手持ちを確認する。

 さっきの発言からして、既にAランクまでは所持してるらしいな、既にSの手前までか……。

 

 しばらくコユキと会話をしながら、こいつのマナーの悪さに目を細めていると、胸ポケットから感じた振動で、アイツらが俺のメッセージに気がついたことを知り、携帯を取り出す。

 

 携帯に目を向けると配置に着いたようで俺とコユキの背中を映した写真、それと……。

 

 

『なんで楽しそうに話してんだよ!!!!』

 

 

 と、激怒しているネルからのメッセージが添えられている。

 曲がりなりにも先生をしてる、ならどんな生徒なのか……テメェの目で確かめたかったのが理由なんだが……。

 まるでガキが友達を別の友達に取られちまった時みたいな、そんな雰囲気を文面から感じたが……俺の気にしすぎだろう。

 

 

「お嬢ちゃん、さっきから随分と金を入れてるが、懐は大丈夫なのか?」

 

「にははは!! 全然大丈夫じゃないです……でもまぁ、お金は盗ってくればいいので」

 

「盗るって……お前さん──「おじさん、説教臭いのはつまらないからやめてください」」

 

 

 こいつはどうしようもねぇな。

 

 

「そもそも、何が悪いんです?(・・・・・・・・) 置いてあるものを使ってるだけじゃないですか」

 

 

 あぁ、そうか、こいつはどうしようもないんじゃない。

 テメェのやってることの重さを理解してないと俺はさっきまで思ってたが違う。

 

 こいつが理解してないのは、重さなんかじゃねぇ。

 テメェの技術の凄さを理解できてねぇ。

 

 そしてそのうえで知らねぇんだ、鍵のかかった金庫から盗む楽しさを、そのスリルをな。

 

 こいつに取っちゃ、戸棚から食器を取り出すようなごく自然で退屈な日常に過ぎない。

 

 

「…………」

 

「おじさん? どうかしました?」

 

「いいや、何でもねぇさ」

 

「ふぅん……そういえばお名前聞いてなかったですね? 折角ですし! 教えてくださいよ!」

 

 

 ニュースをほとんど見てないってことは、俺の名前も知らないと思いたいが。

 あんな特集を組まれちまったほどだ……SNSではそれなりに知られてると思った方がいいだろう。

 

 なら、ここで幕引きだな。

 

 メッセージ上でC&C達に合図を送る。

 コユキには悪いが、このまま気絶してもらうとしよう。

 

 

「俺か、俺の名前は──『なんとなんと!こちらのアスナ様が、わずか10回目でAランクを獲得!!このままVIP、Sランクに王手をかけてしまうのか!?』……は?」

 

 

 俺に視線を向けさせるために、名前を言おうとした瞬間……盛大なファンファーレと共にアスナの姿が全てのモニターに映し出される。

 

 不味い、あまりにもタイミングが悪すぎる……というか何やってるんだアイツ!?

 

 俺の方に向いていた視線も、あの馬鹿みたいな音量と派手な光量に嫌でも惹きつけられる。

 

 

「えっ!?今のアスナ先輩じゃん!?……ってことは……」

 

 

 コユキの視線がゆっくりと自分の背後を見ると、まさしく襲おうと拳を振り上げて固まっていたネルと目線が合う。

 

 

「ぎゃぁぁぁぁああああ!!! 警備員さん!!! 侵入者! 暴力振ろうとしてる侵入者がいま──「そこまでだ」え、おじ……さん?」

 

 

 懐から抜いたマグナムを俺はコユキの眉間の横に構える。

 コユキの呼んだ警備員も現れるが……呼んだ本人を人質にされちまえば……され、ちまえば……。

 

 警備員が続々と現れ、その流れは止まることがない。

 かれこれ、三分ほどは移動音が聞こえるが……?

 多いにもほどがあるだろ、暇か。

 

 そう思っていると、コユキが顔を動かさず、俺に対して怯えた目をしながら唖然とした表情を見せて、口を開く。

 

 

「おじさん……ど、どうして私に銃口を?」

 

「自己紹介の途中だったな。俺は次元大介……シャーレの先生の方が通じるか。セミナーからの依頼でな。黒崎コユキ、てめぇを確保しに来た」

 

「だ、騙したんですね!? うわぁああん!!! 折角楽しかったのに!!」

 

「お、おい! 貴様! お客様から離れろ!! 仲間がどうなってもいいのか!?」

 

 

 ざっと見ただけでも100人近くの警備員がC&Cを囲んでいる。

 不味いな、ターゲットを押さえたが……こっちも仲間を人質に取られちまった。

 マグナムの銃口を外し、俺は両手を上げる。

 

 

「…………はぁ、仕方ねぇか」

 

「武器を押収し、牢へ連れ込め!!」

 

 

 悲しそうな顔をしたコユキを視界の隅に収めて、俺たちは警備員によって取り押さえられ、船の中に設置されている牢屋に閉じ込められる。

 

 牢屋に入るのも随分と久しぶりだ。

 牢の床に寝そべりながら、どう脱獄したものかと思考を巡らせていると、ネルが愚痴り始める。

 

 

「……あのアスナはズルいだろ、何やってんだアイツ?」

 

「はっはっはっ! あれは笑えたな!」

 

「笑ってる場合か! まぁ、まだ任務が失敗したわけじゃねぇしな」

 

「そうですね、まだアスナ先輩が残ってますし……」

 

 

 ネルとアカネの言う事は尤もだ。

 まだ終わっちゃいないからな。

 だからこうやって笑う余裕もある。

 銃をどう取り返すか、どう脱獄したものか。

 そう考えていると、牢のある部屋の扉が開かれる。

 

 

「にはははは!! 一時はどうなるかと思いましたが……こう檻に入ってる姿を見てしまえば……全ッ然怖くないですね!!」

 

「やっぱり来やがったな。 はっ、先生に銃口向けられてビビってたじゃねぇかよ」

 

「そ、それは……あっ、そういえば、改めて初めまして!黒崎コユキです!」

 

 

 元気よく生意気なことを言いながら、部屋に入ってきたコユキだったが、ネルからの一言で一瞬表情が歪む。

 その顔には覚えがある。自分の想定外の裏切りで傷ついた時の顏だ。

 時間と友情は関係ないというが、コユキにとってはそれなりに楽しい時間だったらしい。

 

 

「確かにさっきの冷や汗が嘘のようだな」

 

「にはははは!! だって、檻の中のライオンを怖がる人はいませんよ! あの天下のC&Cが捕まってる様子を見下ろせるだなんて! 今日はいい日だな~」

 

「な? 先生、こいつクソガキだろ」

 

「噂通りだな」

 

 

 高笑いをしながら、コユキは俺たちのことを見下ろしている。

 ネルの言う通り、自分が圧倒的に優位だと分かると分かりやすく調子に乗るタイプだ。

 

 と言えど、実際面倒な状況なのは事実だ。

 サッサと脱獄してしまってもいいが……さっきみたいに数で封殺されちまうと厄介極まりない。

 既にスマートに仕事を終えるというユウカからの約束は、破られちまった様なもんだ……。

 まだ機を狙う段階だな……。

 

 

「そういえば、なんで皆さんは私の事追ってるんです? 脱獄はしましたけど……」

 

「それもあるが、お前さん相当債権使っただろ」

 

「債権……あぁ、まぁそうですね。そりゃゲームしてたら無くなりますし」

 

「コユキさん、もしミレニアムのお金を使い切ってたらどうするつもりだったんですか?」

 

 

 アカネからの質問に彼女は少し考える素振りをしたのちに、あっけらかんとした態度で口を開いた。

 

 

「そうしたら、他の学校から頂きますかね」

 

 

 さも当たり前のように彼女はそう言い放つ。

 予想はしていたが……こいつは確かに問題児だ。

 彼女のその態度と言葉に、あのネルが大きく溜息をつく。

 

 

「……そんなことさせるわけがねぇだろ、まだアスナがいるからな」

 

「にははは! 鉄格子越しに凄まれてもなんも怖くないですよーだ! それにアスナ先輩だって時間の問題ですよ。船にいる以上は出られませんからね!」

 

「ここから出たら絶対にぶん殴ってやるからな……」

 

 

 コユキの高笑いにネルが悪態をついていると、また新たに部屋の扉が開く音が聞こえる。

 その音の方を見ると、件のアスナ……そしてその後ろにぞろぞろと現れる警備員たち。

 

 

「あ、噂をすれば! アスナ先輩久しぶりですね! これで全員揃ったことですし……近場の無人島にでも下ろしてサヨナラってところですかね!」

 

 

 コユキの高笑いが響く中、警備員たちが俺たちの牢を開いたかと思えば、頭を下げる。

 その意図しない状況で、アスナ以外の全員がぽかんと口を開く。

 

 

「皆様……大変失礼いたしました、釈放です」

 

「へ……? な、なんで釈放なんですか!?」

 

「Aランクをお持ちのコユキさんの指示により、皆様をここに収容していましたが……アスナ様の指示が最優先ですので」

 

 

 目を丸くしながら、警備員に縋り付くコユキに対してウザったらしくしながらも、警備員が答える。

 

 確かに今こいつ、アスナ様ってそういったよな……?

 

 

「やっほ~、コユキちゃん久しぶり」

 

 

 アスナが何か手に持った紙をひらひらとさせながら、コユキに話しかける。

 やけに装飾が豪華、金色に輝くその紙にはたった一文字だけ刻印されていた。

 

 

「そ、それってもしかして……」

 

「うん、なんか遊んでたら手に入っちゃった♪」

 

「こちらにいるSランク所有者であるVIPのアスナ様の指示が現在最優先事項となっています……こちら皆様の武装です、戦闘での損害をお支払いしていただければ、何があろうと不問と致します。 この度はご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした。」

 

 

 警備員はそう言うと、俺たちの手に丁重に保管された銃を渡すと、頭を再び下げて出て行く。

 全員の間に絶妙な空気が流れる。

 

 

「ははっ…………」

 

 

 その静寂を掻き消すようにネルが笑い声を零す。

 首を鳴らしながら、彼女は全身を解すと、その口角を大きく上げる。

 

 

「いきなりで何がなんだか分かんねぇけどよ。要するに……金払えば、何したって問題にはならねぇってことだよな?」

 

「ひっ……!」

 

「よし、コユキィ……十秒数えてやる、頑張って逃げろよ?」

 

「うぇ、えっとあの──「10ゥ……ほら早く、すぐ終わっちまったらつまんねぇからなぁ!?」 ひぃ!!!」

 

 

 ゆっくりとネルがカウントダウンを行うと、コユキは慌てながら、部屋から出ていく。

 さっきまでの生意気な態度が嘘かのように、情けない声を上げて走って行くのが聞こえる。

 

 

「結局こうなるんだな」

 

「あはは……何というか、私達らしいですね」

 

「3……2……1……0!!  よっしゃ、ぶっ殺す!!!」

 

「あはは!リーダー楽しそう!」

 

 

 

 今までずっと我慢し続けていたのもあるだろう、ネルは心の底から楽しそうな声を上げて、コユキの後を追いかけ始めた。

 その様子を呆れながらカリンとアカネが後を追い、自分が何をしでかしたのか理解できていなさそうなアスナも、楽しそうにその鬼ごっこに参加していった。

 

 行き当たりばったりにも程があるだろう、しかしそれで上手く行ってるのだから不思議な話だ。

 

「はぁ……」

 

 思わずため息をついた俺は、無線を入れて彼女たちに一つだけ指示を送った。

 

 その後、俺もネルの後を追っているが……流石最速なだけあって、恐らくコユキが適当に雇ったであろう船員の生徒が既に何人か道端に倒れている。

 

 しばらく走っていると、ネルとコユキの鬼ごっこが見える。

 ネルの奴……神秘使えばサッサと捕まえられるものを、わざと封印して楽しんでやがるな?

 

 

「ぎゃぁぁぁぁああああ!!! もうなんでこうなるの!?!? ってかあり得なくない!? 私いくら掛けたと思ってるのさ! なのに、Sランク取ったって!? 嘘でしょ!!」

 

「アスナの運の良さは聞いていたが、まぁそんなもんだろ」

 

「くっそぉぉぉ!!! 理不尽だぁぁぁぁああ!!!」

 

「おい、コユキ? 喋ってる場合か!? 追いついちまうぞ!!!」

 

「嫌ぁぁぁぁああああ!!!」

 

「あははは!!! 良いじゃねぇか! ほらほら! もっと喚け! 泣け! 叫び散らせ!!」

 

 涙ながらに走り続けるコユキに対して、楽しそうにサディスティックな笑顔で銃を乱射するネル。

 コユキは、弾丸の雨を必死に避けながらも、道すがらの警備員にお金を握らせて、少しでもネルの時間稼ぎをしようとするが、お金を握らせた瞬間に、突然精度が上がったかのように、警備員の身体にネルの弾丸が命中し、一瞬で気絶させてしまう。

 

 えげつないな……。

 完全に狩りを楽しむ捕食者って面してやがる。

 

 今日を通してずっと我慢させてきたから仕方ないと言えば仕方ないのだが……。

 

 

「はぁっ、はぁ、はぁっ……!」

 

 

 コユキが目に見えて疲弊し始めている。

 かれこれ、30分は走り続けているからな。

 よくやってる方だ。

 下手に姿を隠せないようにアイツが曲がるであろう場所に対して、マグナムを撃ち、動きを止めてるにも関わらず……。

 

 さっき、俺はC&C全員に対してコユキの進行方向を制御し囲い込めるように指示を飛ばした。

 俺のマグナムだけじゃ不安な上に、この船の中で鬼ごっこし続けるのは、合理的じゃねぇからな。

 

 だから、小規模な爆破を用いたり、アスナに先回りするように頼んだり、狙撃でルートを直接潰したりして、コユキを船のサンデッキへと追い込んでいった。

 

 当然彼女も気が付いてるだろうが……。

 

 

「よぅし……! 終点だなぁ、コユキ?」

 

 

 既に包囲出来るように先んじて回り込んでもらっていたアカネたちが、コユキの前に立ち塞がり、後ろからは俺とネルがサンデッキに出るための出入り口を封鎖した。

 

 これでようやくコユキの首根っこを摑まえることが出来る。

 既に太陽は沈みかけ、水平線の向こうへと沈んでいく……そんな美しい風景が一望できるサンデッキで、コユキは大声で笑い始める。

 

 

「ふ、ふふっ!にはははは!! つ、着いた! 先輩達、それに先生! 追い詰めたつもりかもしれませんが、皆さんの負けです!!」

 

「はぁ? 何言ってんだお前」

 

「リーダーがけたけた笑いながら、甚振る様に追いかけ回したせいで……──「おい、カリン! どういうことだ!」」

 

 

 

 カリンの言い分は酷いが、確かにこの状況で諦めねぇのは、普通に見れば頭がおかしいように思えてしまうのは仕方がない。

 

 尤も同じ状況に立たされた時……俺たちなら、同じように笑うだろうな。

 

 ピンチの時に笑えるのは、強い奴の証だ。

 

 

「先輩方が、ここに追い込んできたのは分かってました! その上で乗ったんです、何故ならここには……この『一人用脱出ドローン』を用意してたからです! ざーんねんでしたー!! バーカバーカ先輩方のバーカ! このまま大海原に出ることを想定してませんでしたね? それでは! バイバーイ!!」

 

 

 そう言うと、コユキはドローンを起動し、それに掴まるとデッキの柵から蹴って海上へと飛び出す。

 

 心は強い奴だと思うが……それは悪手にも程があるだろう。

 

 コユキの取った手に思わず、唖然としてしまった俺たちを余所にコユキはあかんべーっとこちらを煽り続けている。

 

 

「カリン、合わせろ」

 

「分かった、どこを狙えばいい」

 

「ドローンの右奥のプロペラを狙えるか?」

 

「余裕だ、いつでもいける」

 

 

 カリンが自身の得物である『ホークアイ』を構えると同時に、俺もマグナムを取り出す。

 合図を送ると同時に、彼女は引き金を引く。

 放たれた13.9mm弾は、精確にドローンの四つあるプロペラの内の一つを吹き飛ばし、体勢を崩す。

 

 

「……へ?」

 

 

 コユキのとぼけた声と同時に、マグナムの引き金を引き、ドローンが爆発するようにバッテリーとモニターを撃ち抜く。

 

「嘘……うきゃぁぁぁああああ!!??」

 

 僅かに傾いた状態でドローンは爆発を引き起こし、俺の狙い通り、コユキはサンデッキへと吹き飛ばされ、俺たちの前に転がる。

 

 

「どうしてこうなることを予想できなかったんでしょうか……」

 

「私と先生が、あんなゆっくり動くものに対して外すわけがない」

 

「こんなバカの為に、散々振り回されたと思うと……なんかすげぇ気が抜けたぜ……」

 

 

 C&Cの三人がコユキの取った愚策に厳しいことを言い放った。

 肝心のコユキは、着地の際に顔面から着いたせいで、ものの見事に気絶している。

 

 何はともあれ……これで任務完了な訳だ。

 何とも締まらねぇオチだが……。

 

 

「コユキは拘束して、俺が監視しよう。 お前さんらは……まぁ船が港に着くまでの間、着替えたり遊んだりしてな。アスナ、まだチケットは持ってるだろ?」

 

「うん! これもしかして凄いものだったりするの?」

 

「知らずに当てたのかよ……まぁ大体なんでも出来るらしいからな、一部屋取ったら自由行動だ」

 

「そうか……せっかくだし、楽しませてもらうとしようか」

 

 

 ネルから借りた鎖と縄を用いて、港に着くまでの間、俺は気絶したコユキの様子を見ている。

 折角だからな、この船の一番いい部屋を借りさせてもらったが……そこらのホテルのスイートルームなんざ目じゃないほどの内装をしている。

 

 

「うぅぅっ……ここは……はっ、確か吹き飛ばされて……あれ体動かない!?」

 

「お目覚めか」

 

「先生! 鎖ってことは……はぁ、また捕まっちゃったんですね……」

 

 

 目覚めたコユキは、自分に置かれた状況を把握すると諦めたように溜息をつく。

 悲しそうな顔をしているが……捕まったもんは仕方がないだろう。

 

 

「納得いかないって顔してるな」

 

「そりゃそうですよ……どうしてですか、私そんな悪いことしました?」

 

「人のもんを盗むってのは悪い事だぜ」

 

「盗むって……私はただそこにあるものを──「コユキ、よく聞け。泥棒様からの言葉だ」」

 

 

 俺が遮るように言ったその一言に、コユキは首を傾げて、口をゆっくりと開く。

 

 

「先生って、泥棒だったんですか?」

 

「あぁ、ここに来る前はな。 コユキ、お前さんはアスナのあの豪運をどう思った」

 

「アスナ先輩の? うっ、思い出させないでくださいよ……どうって、凄いなって思いますよ、チートじゃないですかあんなの」

 

「ズルだったか? コユキ、俺にとっちゃな。お前さんのパスワードを解いちまうそれも同じくらい凄いって思ってる」

 

「あんなの別に誰だって──「いいや、誰にでもは出来ねぇよ」」

 

 

 不貞腐れながらコユキが言いかけたその言葉を俺は否定する。

 お前のその才能は、並大抵のものじゃない。

 人からすれば口から手が出るほどに欲する力だ。

 

 

「コユキ、お前さんは脱走するたびにネルたちに追いかけ回されてるそうだな」

 

「そうですよ? それさっきの話に関係あります?」

 

「ミレニアムは完全実力主義だって聞くが、デジタルのもんならそこの頂点であるはずのリオが対処するのが一番合理的なはずだ。なのに毎回テメェの相手はC&C。何故か分かるか?」

 

「何故って……そりゃ私が弱いから」

 

「それも間違っちゃいない。だけどなそれ以上に……こと暗号解読に於いて、てめぇの右に出るものは誰一人としていないからだよ」

 

 

 きっとこいつにとっては当たり前すぎて気が付かなかったことを突き付ける。

 これで図に乗るのかもしれない、そこに関しては博打を打つことになるが……。

 

 

「コユキ、お前さんのその力は、特別なもんだ。 まだ理解出来ねぇかもしれないが、その力は良い事にも悪い事にも使える。 牢の中でよく考えな、お前さんの力が必要になる時が必ず来るからよ」

 

「私の力……でも、先生、泥棒なんですよね? なんでそんなことを言うんですか」

 

「泥棒だからだよ」

 

 

 こいつにはまだ未来がある。

 それにな、自分の手でこっちに堕ちたわけじゃねぇのなら、自分の行先を選ぶ機会、そして……。

 てめぇの力を理解させる機会があったっていいもんだろう。

 

 夕陽に照らされながら、考えるコユキを見守りながら、船は港へと向かっていった。

 

 

 

 

 これが、今回の任務の顛末だ。

 

 極力金は掛からないように気を付けたが……。

 まぁそれなりの請求がユウカに飛んだようで、胃腸薬を飲む羽目になったそうだ。

 ネルのようなタイプを縛り付けておくと大抵は反動で酷くなるもんだ。

 

 事の原因であるコユキは、正六面体の全面ガラスで出来た電子機器すらない部屋の中で、大人しくしているらしい。

 食事の持ち運びもその他管理に必要な手続きの全てを、完全にアナログでやってるぐらいの徹底ぶりだ。

 

 理解していなかったとは言え、被害総額とあのままSランクを取られていた場合のことを考えれば、妥当な処分だろう。

 

 そういえば、C&C達には任務で使用したバニースーツがそのまま支給されたようで、アスナがモモトークに他の三人と一緒にスーツに着替えて任務に向かった姿の写真を送ってきた。

 俺にどう反応しろというんだ?

 

 

 

 人にはどうやっても得手不得手ってのが存在する。

 俺のようなガンマンは、銃を撃つことくらいしか能がないように。

 C&Cの番狂わせが、無意識で最善の行動をするように。

 

 

 セミナーのトラブルメーカーが、自分の出来ることを理解して、どう生きるかを選ぶことが出来るように、そう祈っている。

 

 

 

 





白兎返却大作戦!!
~完~




まず、皆様に一点ご報告と二点謝罪をしなければならないことがありまして……。

ご報告としましては、ありがたいことになんとこの小説のお気に入り件数が4000の大台を超えることが出来ました、何時も皆様に読んでいただき、誠に感謝しております!

その上での謝罪なのですが……アンケート頂いたイベントシナリオの内、イワン・クパーラとネバーランドで捕まえてをやらないことにいたしました……楽しみにしていただいた皆様申し訳ございません……。

そして、晄輪大祭は、Vol.final後に行う予定になりました、ご了承ください……。

改めて、何時も皆様の暖かなご声援と応援のお陰で間もなく一周年を迎えつつあるこの頃、どうぞ最後までお楽しみください!

感想、ここすき、評価お待ちしております

今の話のタイトルが分かりにくいとの意見を得て変更するか否か

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