新任教師『次元大介』   作:レイゴン

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中編 忍者鉄則其ノ三!

「先生!ツクヨちゃん!遅かったじゃない」

 

「悪い悪い、ちと道に迷ってな。ツクヨに案内してもらってたんだ。 な?」

 

「え? あ、えっと、はい」

 

 

 スタッフルームに着いた俺とツクヨをアル達が迎える。

 ツクヨの名誉の為に道に迷ったことにしたが……アルがニマニマと笑ってる辺り、気付かれてそうだな。

 カッコつけてるのバレてるのが一番恥ずかしいんだがな。

 

 ツクヨも忍術研究部の二人と合流したようで楽しそうに会話を続けている。

 

 彼女たちの事を見ていると隣に来たアルが何か話し始める。

 

 

「イズナ、楽しそうね」

 

「あぁ、同じものを目指す仲間を見つけれたんだからな」

 

「寂しさを覚えてしまうのは、私の度量が狭いからかしら」

 

「人間そんなもんさ」

 

 

 嬉しそうな寂しそうな表情をしたアルが、やけに記憶に残った。

 

 公演30分前となると、随分と人通りも多くなり、本番に向けてスタッフ各位の緊張が俺たちにまで伝わって来る。

 

 

「緊張、してきました……」

 

「えぇ、イズナもドキドキしています!  胸がそれはもうバクバクと!」

 

「全くシャキっとなさい? ここからが本番なんだから」

 

「そうそうアル殿の言う通りだよ~。それにそんな大変そうなことじゃないし、気楽に気楽に」

 

 

 掌に何度も人を書いては飲み込んでいるツクヨに、深呼吸を何度も行っているイズナをアルが落ち着かせて、それに便乗するようにミチルがそう言葉を上げた。

 

 そういえば、ミチルはこの公演のファンだったか。

 そう考えると、この中で一番詳しいのだから納得だ。

 

 

「ミチル、和楽姫ってのはどんなアトラクションなんだ? やけに自信満々だが」

 

「そういえば、先生殿はあまり知らなかったね。和楽姫って言うのは、映画村の一番人気のアトラクション……というよりかは『体験型イベント』でね。

 陰陽部のチセ様がとある名家のお姫様役で、ある日その御家の名声を欲しがった悪党たちに誘拐されちゃうの。 それを、公演を見ている観客……つまり私達全員が主人公になってお姫様を助けるために、映画村のあちこちにある試練を乗り越え、お姫様を救出する……。

 あらすじ自体はよくあるものだけど、自分たちが参加するという臨場感ある体験が売りでね。 お姫様を救い出すために、観客同士で競争していくのも熱くて楽しいし、そういう色んな要素がある、映画村が誇るイベントってわけ」

 

 

 なるほどな、筋書きは理解した。

 ハプニングが起きたとしても、それを内包してイベントと誤魔化しやすい点もよく考えれてやがる。

 尤も滅多なことが起きないように、こうして下準備を欠かさず行ってるんだろうが。

 

 大方あの部長が考えたイベントだろう。

 あぁいうタイプが考えそうなやり方だ。

 と言っても目の前のこいつらのように、それを楽しみにしている人間もいるんだからよくやってるぜ。

 

 

「お姫様を救出だなんて……先生はその辺のプロじゃない?」

 

「けっ、俺よりかは相棒の方が手慣れてるだろ」

 

「なんと! 先生殿はそういう経験が!」

 

「そうです! 主殿は忍者に並ぶほど数多の修羅場を潜り抜けたプロなんです!」

 

 

 こう持て囃されるのは性に合わないからな、イズナに軽くチョップを入れて止めさせる。

 照れ隠しねなんて、言ってきたアルは明日のおやつを抜きにしておこう。

 

 話題を変えるとしよう。

 こういう空気は苦手だ。

 

 そう思って、何か別の話題を出そうとした時、ツクヨが助け船を出してくれる。

 

 

「あ、あの……その……先生、改めてですが、えっと……こういう機会を頂き、ありがとう、ございます」

 

「まだ言ってるのか、理由は知らねぇがミチルが申請書を書けねぇって言うからな、上手くいったらだぜ? まだ礼を言うには早いな。な、ミチル?」

 

「うぐっ……。も、もちろんだよ! 忍者としてカッコいい活躍を見せればいいだけの話! そうでしょ?」

 

「私も、頑張ります……! カッコいい、忍者に、なるために……!」

 

「イズナも負けていられません!」

 

「それが分かってりゃいいんだ。 そういえば、お前さんら忍術研究部って何やってるんだ?」

 

「忍者のことをもっともっとキヴォトス中のみんなに知ってもらうために、動画チャンネルの運営をしてるよ! 忍者は最高にクールでイケてる存在だから、時間ときっかけがあれば、絶対に好きになるはずだからね! 今はまぁ……登録者数も少ない小さなチャンネルだけど……忍者の魅力をいっぱい知ってもらえたら、いつかは……うん、私は絶対に諦めない! 何故なら!?」

 

「えっと、その、『諦めないことが』……!」

 

「『忍者の鉄則だから』、です! 二ンニン!」

 

「……そう、カッコいいじゃない」

 

「ふふん! アル殿も忍者の魅力、気付いたかな?」

 

 

 ミチルはそう胸を張って、答える。

 諦めないことが忍者の鉄則……か。

 そういう奴にアルは弱いからな。

 

 まだどうにも信じ切れてねぇところがあるが……少なくともこいつらの為に仕事を行う、それには充分な理由になる。

 

 

「どちらにせよ、仕事次第だな」

 

「先生殿は手厳しいぃ……あ、そういえば、お手伝いってどんなことするんだろ?」

 

「お手伝いということは、和楽姫の護衛とかでしょうか?」

 

「そっかそっか……あれ?和楽姫のお姫様役ってチセ様じゃん!! これ、上手く行ったらサインとか貰えたり……!?」

 

「なるほど……! 陰陽部の関係者としての、立場を利用し、お宝を手に入れると……! これが忍者、なんですね……流石です!」

 

「たぶん違うと思うぞ、ツクヨ」

 

 

 こいつがチセのファンなのは知ってるが……俗っぽいというべきか。

 まぁ人の好きに茶々入れるのは違うが……。

 仕事をするのなら何だっていいんだがな。

 

 そう心の中でぼやいていると、スタッフの一人が俺たちの方へ歩いてくる。

 

 

「皆様、そろそろ準備の程を。『和楽姫』役がまもなくご到着されます」

 

「そろそろ件の姫様が来るぜ」

 

「え、嘘、待ってまだ心の準備が、えっとえっと……ち、チセ様、その、私ずっと前からファンで……!」

 

 

 ファンガールであるミチルは、あたふたしながら会った時の予行演習を行っている。

 この調子で上手く行くのか不安でしょうがないんだが……。

 思わず溜息をついてしまうが……アルもいるからな、如何にかなると思うが。

 

 そう考えていると、遠くの方から足音が聞こえてくる。

 着いたらしいが、違和感を感じた。

 何故かって、チセは比較的穏やか、マイペースな奴だ。

 その足取りは緩やかなもんだが、聞こえてくる足音はまるで駆け出すようなテンポだ。

 同じマイペースでも、活発で元気な奴の足音だが……。

 そう思って、廊下の方を向くと、視界が黄色で埋め尽くされる。

 それと同時に聞き覚えのある声も耳を打つ。

 

 

「パパーーー!!!」

 

「はっ?!」

 

「せ、先生!!」

 

「主殿ーー!!」

 

 

 急に飛び込んできたその黄色い物体は、俺の顔面にぶつかったと思えば、抱き付いてくる。

 腰に痛みを伴いながら、俺は後ろに倒れてしまう。

 ゴールデンフリース号の時にも会ったが……俺はどうしてこう飛び込まれがちなんだ。

 

 それよりもだ。

 

 

「誰がパパだ!!」

 

 

 俺は顔に着いたそいつの背中を掴んで剥がしながら、そう怒鳴る。

 俺はそう呼ばれるのが訳あって、嫌なんだよ。

 

 

「あ、主殿は……子持ちだったのですか!?」

 

「違う!!俺は独身だ!」

 

「良かった……って、イブキじゃない。どうしてここに?」

 

「大方、ニヤとマコトの考えだろ……アイツら、何も言わずにやりやがったな」

 

「正解~、流石パパ!」

 

「パパって言うんじゃねぇ、何でそう呼びやがる」

 

 

 腰を撫でながら、座り込んで呟くと、イブキがそう答える。

 やっぱりか。

 アイツ何を考えたやがる?

 ニヤの作戦にそのまま乗るようなアホじゃねぇのは分かってる。

 ただでさえ、イブキからの呼び方で頭が痛いってのによ……。

 

 イブキに何でそう呼ぶのか聞くと、イブキは楽しそうに話し出す。

 

 

「えっとね、前にクロノススクール?の人がマコト先輩に取材に来たことがあってね」

 

「あぁ、シャーレにも一度来たな……?」

 

「その時に、イブキにとって先生ってどんな人?って言われたからこう言ったの!」

 

 

 ──────

 

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「イブキにとって先生ってどんな人?」

 

 

 はい、是非とも教えていただけると……如何でしょうか?

 

 

「うーん、いつも優しくってイブキとたくさん遊んでくれて……カッコいい大人の人!  それに先生にぎゅーってすると暖かいんだ!」

 

 

 な、なるほど……どうしたものでしょうか。

 先生、まさかこんな小さな子にも手を出してたなんて……。

 

 

「キキッ、つまりお父さんのような存在という事だな」

 

「マコト先輩!」

 

 

 ま、マコトさん!

 マコトさんの取材は先ほど終えたばかりですが……お仕事忙しいでしょうに態々?

 

 

「イブキの事は信頼してるが……一応な。 それで、イブキどうだ?」

 

「うーん……うーん……確かにそうかも! 流石マコト先輩!」

 

「キヒヒヒッ! 当然だとも、しかしそうなると。イブキのお母さん役がいるなぁ?」

 

「それじゃあ、マコト先輩か~。サツキ先輩、イロハ先輩がいいな~!」

 

 

 マコトさんには申し訳ないけども……ここの部分は使えなさそう。

 イブキさんのインタビューを使えないのは悲しいけど、仮に先生の事をお父さんと呼ぶのなら当然母役も必要で、そうなると必然的に先生が万魔殿のものになったように見える。

 エデン条約の控えてる今それは危ないから……。

 

 

「キキッ、今度先生に会うことがあれば、パパと呼んでやれ。分かったな?イブキ」

 

「うん!分かった!」

 

 

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 ────────────   

 

 ──────

 

 

「だから、先生の事をパパって呼んだの!」

 

「なるほどな……」

 

 

 マコトには、今度会ったらお仕置きが必要だな。

 アイツ狙って呼ばせやがって。

 それよりもまずは、このままパパと呼ばせ続けるのはまずいな。

 

 

「イブキ、とりあえずパパって呼ぶのはやめろ」

 

「えっ……先生、イブキのパパになるの嫌?」

 

 

 はぁ……無自覚でやってるんだからタチが悪い。

 傍から聞けば、そのセリフを言われた俺は犯罪者のそれだ。

 

 

「兎も角だ。俺にパパなんてのは性に合わねぇんだ。仕事の場じゃ先生って呼べ」

 

「むー……なら、仕事じゃない時は?」

 

「…………それならいい」

 

「やったー! 先生ありがとー!」

 

 

 強かな奴だこいつも……。

 まぁ妥協案としては良い方か。

 アル、その生暖かい目線を止めろ。

 

 

「うーん……」

 

「どうしたんですか?部長」

 

「いや、元々チセ様がやる予定の『和楽姫』役を交代するんでしょ? 物凄く大事な公演って言ってたのに大丈夫かなって」

 

 

 ミチルがそう呟く。

 言いたいことは分かる。

 主役の変更ってのは何かと問題になるもんだ。

 五ェ門も、歌舞伎で似たようなことを言っていたのを思い出す。

 

 しかしだ……タイミングが悪いな。

 何せ、その本人が目の前にいるんだから。

 

 

「イブキ、お姫様やっちゃダメってこと……? イブキのせいで、色々台無し……?」

 

「そんなことないわ。誰かのせいになるなら、マコト議長のせいになるわよ」

 

「アル先輩……」

 

 

 アルがイブキをそう宥めようとした瞬間、会場の電気が落ちる。

 大方照明トラブルだろう。

 それにしてもタイミングが悪い。

 

 

「電気が……まさか、敵襲……!?」

 

「イズナ念のため警戒しとけ、イブキはいるか?」

 

「う……うぃ……どうして急に、電気消すの……? イブキが悪いことしたから……? 怖いよう、何も見えないよぅ……。 マコト先輩、イロハ先輩……どこぉ……」

 

 

 不味いな……。

 こういうガキの世話ってのは慣れてねぇ。

 イブキは特待生として飛び級した天才児とは言え……その精神年齢はまだ体相応のもんだ。

 それについさっき俺とミチルに何か言われたばっかりだ。

 

 どうしたものかと考えていると、ミチルが暗闇の中でイブキに近づいて、その手を取った。

 暗闇の中で目が見えない状態だったイブキも少しずつ慣れてきたのだろう。

 イブキは、手を取ったミチルの事を見つめる。

 

 

「だ、大丈夫、安心して! これはただのトラブルだから! そうでしょ?先生殿!?」

 

「あぁ、大方器材のトラブルだろう、だから安心しろ」

 

「くすん……トラブル……?」

 

「そうそう! だから、心配しないで。私達も先生殿もアル殿も側にいるから!」

 

 

 やるじゃねぇか、ミチル。

 打算的かもしれねぇが、それでも確かにアイツはイブキの手を取った。

 決して善意だけじゃないかもしれないが、それでもアイツはイブキを安心させるために動いた。

 中々そう簡単にやれることじゃねぇ。

 

 

「パ……先生とアル先輩、あとイズナ先輩は、知ってるけど……おねぇちゃんたちは、誰?」

 

「イズナはイズナで、あちらはツクヨ殿です! そしてこちらが部長のミチル殿! 私たちは三人一組!」

 

 

 忍術研究部の中で唯一イブキと面識のあるイズナが率先して紹介を済ませると、イブキの前でシャーレでも見せた決めポーズを行う。

 暗闇の中でもよく動けるもんだ。

 

 

「その名も忍術研究部!です!」

 

「……ニンジャ?」

 

「あ、えっと、忍者というのはその、例えっていうか……!」

 

「嘘ってこと……?」

 

「え、えっと、そうじゃなくて……!」

 

「嘘じゃない、ですよ……!」

 

 

 さっきまでの威勢は何処に行ったのか、イブキの問いにあたふたし始めるミチルに変わって、ツクヨがそう強く言い放つ。

 デコボコチームだが……存外相性はいいのかもしれねぇな。

 

 

「私たちは、最強の忍者を目指す、忍術研究部……そもそも忍者は、物凄く強いんですよ……!  ですので、怖がらなくて大丈夫、です。えっと……イブキちゃん、ですよね?

 

 何があっても、私達忍術研究部が……忍者が、お姫様であるイブキちゃんを、守りますから! ですよね、部長?」

 

 

 ツクヨのその硬い意思と言葉は、少なくともイブキにとっては大事なものになるだろう。

 何があっても守る……か。

 その言葉の重さを理解して言ったのか、それとも。

 どちらにせよ、ツクヨにとっては三人いれば出来ることだとそう信じたのだろう。

 

 

「ぐすっ……そう、なの……?」

 

「まぁ、急に言われても安心はできないよね……うーん……あ、そうだ」

 

 

 イブキの事を宥めながら、ミチルは頭を悩ませ、何か思いついたように懐を漁ると、そこから幾つかのキーホルダーを出して、イブキに手渡した。

 

 

「鳥モドキの仲間かしら……?」

 

「まさか百鬼夜行にも進出してるとはな……」

 

 

 イブキに渡したそれは、忍者姿のペロロの人形だった。

 ヒフミなら知ってるんだろうが……。

 これで喜ぶのか……?

 

 

「わぁ……!」

 

 

 喜ぶのかよ……。

 

 

「ねぇねぇ、何これ? イブキ、初めて見た!」

 

「どう?カッコいいでしょ? ふふっ、これはね……『忍者ニンペロさん』の主人公、ニンペロさん! 裏世界の偽忍者や悪党たちを追い払う、忍者の中の忍者なのさ!」

 

「あはは、変なの! あ、翼が生えてる。引っ張ってもいい?」

 

「あわわ、そ、それは限定版だから、取り扱いは慎重にね……!」

 

「うぃ!」

 

 

 何はともあれ、落ち着いてくれたらしいが……。

 まさかあれが受けるとはな。

 やっぱガキの感性ってのは分からねぇ。

 

 元気になったイブキは、ミチルと楽しそうにお話を続ける。

 

 

「こほん! とにかく、今日はそのニンペロさんを貸してあげる」

 

「……いいの?」

 

「もちろん、ニンペロさんと私達が揃えば、例えどんな危機がそなたに迫ったとしても大丈夫! 何があってもお姫様の危機には駆けつけてみせよう!」

 

 

 ミチルはそういうと、イブキと目線を合わせてその頭を撫でる。

 立派なお姉さんって感じだな。

 そう思いながら見ていると、イブキが首を傾げながら小指を差し出す。

 

 

「……約束、してくれる?」

 

「もちろん、何があっても絶対助けに行く! 忍者の鉄則、その参!

『忍者とは、一度交わした約束は必ず守るもの』!」

 

「……少し見直したな」

 

「ふふんっ、部長は凄いんですよ、主殿」

 

 

 イブキとミチルが指切りを行っている様子を見ながら、俺はそう呟くと、隣にいるイズナがそう返す。

 イズナはどうにも騙されやすいところがあるが……。

 ただ、確かにイブキに対しての対応は……まぁ、満点だな。

 俺にはあぁいう対応は取れない。

 

 

「おねぇちゃんたちありがとう!」

 

「えへへ……あっ電気が」

 

「復旧したみたいね。それにしても何だったのかしら?」

 

 

 イブキの愛らしい笑顔にツクヨが頬を緩ませていると、電気が普及する。

 すぐ戻ったのは良い事だが……俺のような泥棒であれば、こうやって一瞬の停電で物を盗んだり侵入を行ったりするからな。

 念のため、警戒しといたほうがいいか。

 

 

「お待たせしました、トラブルの対処をしており……それではお姫様役の方、ご準備を! そろそろ開演となります!」

 

「イブキちゃん……いや、イブキ姫、呼ばれたわよ」

 

「行ってらっしゃい、ませ……!」

 

「ファイト!」

 

「うん! 忍者のおねえちゃん達、先生、アル先輩。イブキ、行ってくるね!」

 

 

 笑顔になったイブキは、そう言うと俺たちに手を振りながらスタッフに案内されて行ってしまった。

 何事もなければいいんだが……。

 いや、何かあるような危険な仕事をイブキに任せるなんてあのマコト(イブキバカ)が、許すはずがない。

 それにしても、何なんだ?この胸騒ぎは……。

 

 そう思い視線をずらすと、そこには見た事のある天狗の仮面をつけた集団がいる。

 あれは確か……桜花祭の時に暴れていた不良集団の……。

 

 

「ん?あそこにいっぱいいるのって……あれもスタッフかな?」

 

「様子が違うな、演技って訳でもねぇ……アル、イズナ構えろ」

 

 

 俺の言葉にアルとイズナがそれぞれの得物を構える。

 万が一もあるからな、動いたと同時に仕留めるつもりでことに臨む。

 そうして待っていると、恐らくリーダーなんだろう。

 他とは違い、お多福の仮面をつけた奴が、ミニガンを持って現れる。

 

 

「計画は頭に入れたな? では行動を開始する。迅速に進め、邪魔者は処理せよ……行くぞ、『魑魅一座・気まぐれ流』!」

 

「「ラジャー!」」

 

 

 分隊長枠か、二人のRPGを持った不良共が号令を上げると、一斉に魑魅一座の奴らが雪崩れ込んでくる。

 狙いはなんだ?

 計画とか言ってたな。

 ってことは、バックがいると思うべきか。

 

 

「え、っと……!? 部長、不味いの、では……!?」

 

「な、何なに!? 急にどういうこと!?」

 

「アイツらはスタッフじゃねぇ、敵だ! イズナ、団体の方は任せた! アルは俺と一緒に奥に行ったリーダーらしい奴らの方に向かうぞ! ミチル、ツクヨ、戦闘できるならイズナの援護、出来ねぇなら、スタッフの避難を頼む!」

 

「わ、分かった!行くよみんな!」

 

「主殿!御武運を!」

 

「は、はい! 先生、アルさんお気をつけて!」

 

 

 手早く指示を出して、俺たちは奥の方へと向かった魑魅一座の奴らを追い始める。

 と言っても、それをそのまま許してくれるはずもねぇか。

 

 

「計画に上がってた黒スーツの男と赤髪の女だ! リーダーのところに行かせるな!」

 

「馬鹿正直だな。それじゃ、行かせたら計画が破綻するって言ってるようなもんじゃねぇか」

 

「先生、切り抜けるわよ」

 

「いつも通りだな!」

 

 

 片手でワインレッド・アドマイアーを構えたアルに向かって放たれるRPG弾を撃ち落とし、俺の背後に飛び出した一座の奴をアルが撃ち抜く。

 それなりにアルとは場数を踏んでるからな。

 阿吽の呼吸で、カバーし合うことくらいは出来る。

 

 

「先生、後ろ」

 

「悪いな。アルしゃがめ」

 

 

 俺の背中を狙う魂胆は間違っちゃいねぇが、それは俺一人を相手にするときくらいにしか役に立たねぇよ。

 

 スナイパーライフルの弾が切れたようで、地面に銃口を立てた状態で、懐から取り出したリボルバーで射撃を行いながら、もう片方の手で素早くリロードを行う。

 直立になるが、アルに向かって放たれた弾は、全て俺が撃ち落としているからな。

 

 

「くっそ、なんで止められねぇんだ!」

 

「銃と同じで相性があるのよ、悪いわね。私達最強なの」

 

「アル、ふざけてないで先に進むぞ」

 

「……連れないわね」

 

 

 リボルバーで、何かほざいていた一座を仕留めたアルが付いてくる。

 この程度はまだ修羅場にならねぇか。

 

 そう思いながら走っていると、どうやらゴールに辿り着いたらしい。

 組員の大部分は、イズナ達が抑えてるからな。

 こっちに流れてきたのは少数な分、そこまで苦な道のりではなかったが……。

 

 何かが入った麻袋を持った三人組を見るまでは、そう思えた。

 なるほどな、こいつらの狙いは……イブキか。

 不味いな、連れ去られたらかなり不味い。

 あの魔王さんを怒らせちまったら、百鬼夜行が危ないからな。

 

 

「ちっ、何やってやがるあいつら……」

 

「おい、その袋の中身何か教えてもらおうか?」

 

「はっ、姫様だよ……撃てるのか? 行くぞ、逃げろ!」

 

 

 態々、一列になってイブキが入ったであろう袋を最後尾の奴が背負って、逃げ始める。

 最後尾の奴の足を狙ったっていいが……跳弾でイブキに当たっちまうと不味い。

 

 最悪の展開だ。

 

 

「もう、一体なんだったのさあいつら~……」

 

「主殿!アル殿!お帰りなさい、こっちはイズナ達で完璧に制圧しました! そちらは……」

 

「ごめんなさい、イズナ。しくじっちゃったわ……イブキちゃんが連れ去られた」

 

 

 俺が言うべき言葉をアルが言い放つ。

 敵わねぇな。イブキは何が何でも取り返さなくちゃならねぇが……そのためには……。

 

 

「えっ……ど、どうすれば!? 通報、しないと……! 陰陽部か、百花繚乱に、早く……!」

 

「ま、待った!それは駄目!」

 

 

 錯乱しつつも、動こうとするツクヨを制止したのは、ミチルだった。

 恐らく魂胆は違うんだろうが……俺も概ね賛成だ。

 何故と首を傾げるイズナとツクヨの為にも俺は説明を始める。

 

 

「俺も、ミチルの意見に賛成だ」

 

「主殿まで……主殿が言うのなら分かりましたが……しかし何故?」

 

「イブキは、ゲヘナのトップ、万魔殿のアイドルみたいな存在だ。そいつが攫われたなんて知れてみろ……戦争になるぜ」

 

「せ、戦争!?」

 

「あー……そうね確かにマコト議長の溺愛ぶりなら──「先生の言う通りです。外交問題どころか、マコト先輩の場合百鬼夜行を更地にする可能性すらあります」」

 

「あぁ、だからバレないように……おい、待て……」

 

 

 思わず頷いて、『だからバレないように俺たちの間でサッサと解決してしまおう』と言おうとしたが、聞こえてきたその声も俺にとってはもう聞き馴染んだ声だった。

 万魔殿に行くたびに俺を出迎えてくれる奴の声だからな。

 つまり……かなり不味いわけだ。

 

 臙脂色の長い雲のような厚い髪をした小柄な少女……。

 万魔殿の戦車長、棗イロハがそこに立っていた。

 

 

「イロハ、お前さんいつの間に……」

 

「よりによって、イブキが誘拐、ですか……万魔殿として、見過ごせない一大事ですね」

 

「えっ、万魔殿!? 貴女が!?」

 

「外交問題、待ったなしですか!?」

 

「うぅ、何てことに……」

 

 

 イロハがその手に持ったワルサーP38Kを強く握りしめながら、俺たちの会話の輪に入って来る。

 イブキの溺愛されぶりは知ってたが……相当冠に来てるらしい。

 その怒気に忍術研究部の三人がそれぞれ慌てふためいている。

 

 

「イロハ、逆鱗に触れた結果なのは分かっちゃいるが、今は収めてくれねぇか。うちの三人が使い物にならねぇ」

 

「はぁ……言っておきますが、私は今現在、凄く冷静ですが」

 

 

 怒りすぎて一周回って冷静になるとはよく言ったもんだが……。

 これを言ったら、殴られるどころじゃすまなくなりそうだからな……。

 どうしたもんかと眉をひそめていると、その様子を感じ取ったイロハが大きく溜息をついて、話し始める。

 

 

「……これだから私は反対だったんです、いくらイブキの思い出作りとはいえ……」

 

「マコトがそこまでバカするようなタチには見えねぇ。 何か裏があると思った方がいいだろうな」

 

「だとしたら、イブキをこんな目に合わせたので連れ戻したらぶん殴ってあげます」

 

「おう、それは止めねぇよ……で、だ。 マコトがこれを知ってるにせよ知らないにせよ、気付かれないうちに奪還するって方針には賛成か?」

 

 

 俺はそう言うと、イロハに向かって手を差し出す。

 ここは協力しないかっていう意味を込めたものだが、それを見たイロハは、再び大きなため息をついて俺の手を握りしめる。

 

 

「……まぁ、はい。 百鬼夜行とゲヘナの間で、万が一政治的軋轢や紛争やらを起こすわけにはいきませんから」

 

「よし来た」

 

「マコト議長相手はそれでいいかもしれないけど、ニヤさんの方はどうするのよ先生」

 

 

 アルの疑問は尤もだ。

 つっても、向こうもマコト相手にドンパチやる気はないだろう。

 

 そう思って、俺は部屋を一望する。

 何となくだが、ここに来てから視線を感じていた。

 

 そうして、見て回ると、天井の隅にお札が貼られているのを見つけた。

 あれは、カホがシャーレに貼り付けたもんと同じ奴だ。

 

 ってことは……。

 

 

「この様子も全て見てるんだろ、ニヤ」

 

「どういうこと? 先生殿」

 

 

 俺が言った言葉に疑問を浮かべたミチルに説明しようとした瞬間、外から大きな声が聞こえる。

 屋内の俺たちのところにも聞こえるってことは町全体に向けたアナウンスだろう。

 その声の主は、件のニヤだ。

 

 

『あ~、テステス。皆さ〜ん、聞こえてます~? にゃはは~♪ 皆さん、公演は楽しんでくれてますか〜? 万魔殿の皆さんのご協力もあり、スペシャルバージョンでお送りする今回の公演! 少々予定外の事もありましたが、ご覧の通り「体験型イベント:和楽姫」がスタートしました! さぁさ、こちらをご覧ください!』

 

 

 そういうと、全ての画面がジャックされ、さっき見たばかりの一座の奴らが逃走する場面が映された。

 広範囲の機器を何時でも自由に使えるのは陰陽部の権力が伺える。

 

 

『現在、お姫様を誘拐した悪党が逃走中! さぁ果たして、誘拐されたお姫様を最初に救い出すのは一体誰なのか? 無事救出できた方には、私達陰陽部から特別な商品もプレゼントする予定ですので……百鬼夜行にお越しのゲヘナ生の皆さん、そしていつも映画村を楽しんでくださる百鬼夜行生の皆さん。 どうぞ、奮ってご参加ください♪ 私達はそれとな~く応援してますので、にゃははっ!』

 

 

 気に食わねぇやり方だが……大方計算の内ってところだろう。

 和楽姫の良いところに救われたが……どうにも胡散臭い。

 どちらにせよ、ニヤの手腕に救われたな。

 

 

「悪くない選択ですね……」

 

「えぇ、お陰様で猶予が出来たわ」

 

「あんの陰険部長め──「ミチル、恐らく見られてるぞ」えっ、えっと、そうじゃなくて、さ、流石は陰陽部の部長! これで状況はもっと分かりやすくなった!

 事態が深刻になる前に、私たちの手でイブキさんを救出する!」

 

 

 流石部長というべきか、火付け役としてまとめ役としての才覚はあるらしい。

 彼女の言葉に感化されたイズナ達が決意を口にする。

 

 

「はい、危機とあればそこから救い出すのが、忍びの役目ですので!」

 

「イブキさん、今頃心細くて、泣いてるかもしれません……行きましょう!」

 

「……イブキ、すぐに迎えに行きます」

 

「私達がしくらなければ、こうはならなかったわ。依頼は完璧に果たすのが便利屋のモットーよ」

 

「あぁ、テメェのミスはテメェで拭くもんだ。急ぐとしよう」

 

 

 色々な思惑が動いているこの騒動、どう解決させたものか……。

 いや、今はただイブキを救出することだけを考えて動くとしよう。

 命あっての物種だからな。

 

 会場から飛び出した俺たちは、一座の後を追う。

 先に向かったっていいんだが……何分ここの土地勘はねぇからな。

 変に単独行動をした挙句迷いましたじゃ、話にならねぇ。

 だから馬鹿正直にこの和楽姫のルートを通って走って行く。

 

 

「それにしても、あの魑魅一座、一体何者なのかしら」

 

「『気まぐれ流』と言っていましたね!」

 

「き、『気まぐれ流』ですか……!?」

 

「何だ、ツクヨ知ってるのか?」

 

 

 走っているとふとアルが口にした疑問、敵を知るってのは確かに大事なことだ。

 仕事の標的を知れば自ずと目的が分かるからな。

 

 イズナが出したその言葉に一番反応を示したのは、ツクヨだった。

 

 

「は、はい……『魑魅一座・気まぐれ流』は、魑魅一座の中でも、特に好戦的、と言われていて……。

 

 百鬼夜行の、伝統的なお祭り以外は、認めず……それ以外は全部、禁止しようと、するですとか……。 毎月のように、お祭り商品券を、要求してきたり……。

 陰陽部も、お祭り運営委員会も、自分たちの要求を受けて入れてくれないから……って、如何にかお祭りを、自分たちが好きなように楽しもうと……そのために戦う、お祭り強硬派だ、と聞きました」

 

 

 ……要するにチンピラってことらしいな。

 それにしても、この前の桜花祭の時によく暴れなかったなこいつら。

 名前は忘れたが、あの猫には御し切れないほどの暴れん坊だった可能性はある。

 

 

「そんな奴が、どうしてウチのイブキを……」

 

「交渉材料ってところだろうな」

 

「そういうことね……」

 

「どういうことですか?アル殿」

 

「ツクヨちゃんが言ってくれたことだけれど、自分たちの要求を陰陽部に言ってたらしいじゃない。 でも、陰陽部はそれを受け入れなかった。 だから、イブキちゃんを攫うことで外交問題をチラつかせて、自分たちの要求を通そうとしてるってことじゃないかしら」

 

 

 視界の端で、その言葉を聞いたイロハが拳を硬く握りしめた。

 自分の可愛い後輩が、そんなくだらないことの為に危険な目に遭ったことが許せないのだろう。

 怒りに燃えるのはいいことだが、それに支配されちゃいけねぇ。

 

 

「イロハ、落ち着け」

 

「分かってますから……取り返したあと、その不届きものをどう扱おうと構いませんよね」

 

「あぁ、いいぜ」

 

「ふふふっ、そうですか。殺る気が出ました」

 

 

 凄まじい殺気を感じたが、今のうちに念仏でも上げといておこう。

 そう考えながら走っていると、屋根の上の方から声が聞こえてくる。

 

 

「「ちょっと待ったー!!」」

 

「おぉ!見事な着地です!」

 

 

 イズナの声が上がるが、それどころではない。

 どうして、この二人がここにいるのか、そして何で俺たちの道を塞いでいるのか……。

 俺たちの前にいるのは、俺と百鬼夜行を結びつける要因になった奴ら。

 そう、お祭り運営委員会のシズコとフィーナだ。

 

 

「色んな挑戦者が来るとは聞いていましたが、まさか先生とアルさんもいるとは……」

 

「久しぶりじゃねぇか、シズコ、フィーナ。店は平気なのか?」

 

「お久しぶりデス、お頭! お店の方は心配ナッシング! ウミカに任せてマス!」

 

 

 ウミカって奴は知らねぇが、話から察するに同じ委員会の奴なんだろうが……。

 それよりも気になるのは二人して自分の得物である銃をこっちに向けてることだ。

 

 この道、まさかアトラクションのコースで、その障害役としてこいつらが出てきたってことか?

 

 

「私達少し急いでるのだけれど、通してくれないかしら」

 

「うぅ……大恩のあるアルさんの道を塞ぐのは心が痛いデス! かつては一緒に、大魔王ニャン天丸を倒した仲ですが……これも仕事!任侠の道は、非情なのデス!」

 

「話が見えないんだけれど……どうして百夜堂のオーナーが? もしかして魑魅一座の仲間だったの……?」

 

 

 ミチルの言葉は尤もだ。

 だが、それはあり得ねぇな。

 特にシズコは、普段からお祭り運営委員会として魑魅一座と衝突してばかりの日々だ。

 この百鬼夜行の中でも、一番の魑魅一座嫌いが、仲間なわけがない。

 

 と言っても、そこまで知ってる訳がないからか、その言葉を聞いたシズコは目が笑っちゃいない張り詰めた笑顔で、ミチルの事を見るとその口を開く。

 

 

「あぁ、えっと確か……自称忍者を率いる謎の変人集団って噂の……」

 

「だ、誰が変人だって!?」

 

「変わり者が多いのは事実だが、喧嘩両成敗だ。そこまでにしとけ」

 

 

 俺に対して不満げな目つきを向けられるが、その二人でどうしようもない喧嘩をされても困るからな。

 

 俺にヘイトを向かせたところで、小さな声でツクヨが話し始める。

 

 

「百夜堂、聞いたことがあります……マニアックなサービスを、提供し、その対価を請求される、という……」

 

「業界の闇、という奴ですか? イズナは騙されませんよ!」

 

「ちょっとぉ!誤解されるようなこと言わないで!」

 

「そうよ、ツクヨ、イズナ。 行ったことあるけど、そんないかがわしいお店じゃないわ」

 

「アルさん……!」

 

 

 イズナはあの時店に行ったことがなかったな。

 それにしても、ツクヨの噂からして、メイド喫茶としての側面に懐疑的な奴らもちらほらいるらしい。

 俺もあぁ言うのは苦手だからな、分からなくはない。

 

 アルも桜花祭の際に百夜堂には足を運んでいる分、否定してやりたかったんだろう。

 

 

「ただ、ちょっと変わったお店なだけよ……」

 

「アルさん……!?」

 

 

 否定しきれないところはあるらしい。

 ドンマイだ。

 

 

「茶番はそれくらいにしといて──「茶番じゃないんですけど!」 お前さんらは……和楽姫の何か手伝いか?」

 

「そうです! 今回のゲヘナとの交流会の為に協力願いが出まして、このアトラクションにおける『最初の関門』、それこそがこの私! 百夜堂のアイドルでありオーナー! そして看板娘の、河和シズコ!」

 

「そしてフィーナ、デス!お頭ぁ!」

 

 

 こいつらがアトラクションの関門ってことは、いずれ後ろから他の参加者たちも来るかもしれない。

 つまり……俺たちもこの和楽姫の筋書きに沿って追っていかなくちゃいけないってことだ。

 俺らがここでこいつらに事情を説明して通してもらったとすれば、後ろから俺たちの姿を見た奴らが、騒ぐに決まっている。

 そうなれば、外交問題待ったなしだ。

 

 

「どうあれ、俺たちもここを正攻法で突破しなくちゃいけないらしい」

 

「……? そういうことです! そして何を隠そう私がここにいるのは……これが最初の関門、つまり看板みたいなものだからです! 看板娘だけに!」

 

「「「「「「………………」」」」」」

 

 

 シズコが自信満々で言った渾身のギャグ……を聞いた俺たちは、思わず表情を固める。

 日が差してる割には寒いんだが……。

 こういう時ルパンなら何か気の利いたことを……いや、アイツにも荷が重いな。

 

 

「あの……その……何か言っていただけると」

 

「いや……まぁ、なんだ……俺は好きだぜ」

 

「くぅ……! こういうフォローが一番辛い!! えぇい!仕切り直しです! 誘拐されたお姫様を助けにきた皆さん、この私シズコと……!」

 

「フィーナがお相手、いたしマ~~ッス!」

 

 

 問答はここまでらしい。

 二人が銃を構えると、俺たちに向かって走り寄って来る。

 

 アトラクションで銃撃を入れてくるあたり、キヴォトスの治安の悪さを再確認させられるな。

 

 

「よぅし、なら私達でいくよ!」

 

「承知しました、見ていてください!主殿!アル殿!」

 

「は、はい……頑張り、ます……!」

 

 

 イズナが見ていてくれというのであれば、俺たちは何も手出し出来ねぇ。

 こうして腕を組んで、彼女たちの動きを見守る。

 

 フィーナは設置型の重機関銃使い、撃ち始めるまでに若干の遅れが生じる。

 ただ、その隙をショットガン使いである部長のシズコがカバーする。

 よく考えられたコンビネーションだ。

 

 

「部長!準備出来まシタ!!!」

 

「二人とも来るよ!」

 

 

 そして準備が出来たら、こうしてフィーナの重機関銃による弾幕が張られる。

 フィーナの照準はイズナを捉え、その引き金が引かれる。

 

 一番小柄で、すばしっこいイズナを面の攻撃である弾幕で仕留めようとする判断は正解だ。

 間違っちゃいないが……うちのイズナはそう柔じゃない。

 

 

「イズナ流忍法!『空蝉の術』!」

 

 

 弾が当たる瞬間、素早く手印を組んだイズナの姿が一瞬で小さな狐の人形に置き換わり、狐の人形が弾丸の嵐に見舞われる。

 そして肝心のイズナはというと……。

 

 

「あれ、イズナさんは何処デスか!?」

 

「フィーナ、後ろ!──「オーナーさんの相手は私達だよ!」」

 

 

 フィーナの懐に潜り込んだイズナが、両手を地面について銃を蹴り上げる。

 そして、ハンドスプリングの要領で飛び上がったイズナは、そのままフィーナの首元に苦無を突き付ける。

 

 そして、シズコの方もまた、同じショットガン使いのミチルが鍔迫り合いを行い、インファイトを続け、たどたどしくも印を組んだミチルの口から、ほんの僅かに焔が零れる。

 

 それを見たシズコが、手を叩いて声を上げる。

 

 

「はい、そこまで! お疲れ様でしたー!」

 

「……え? もう終わりでいいの?」

 

「アトラクションだからな」

 

「あっ、そっか」

 

 

 あの口から漏れ出た焔、あれを本気で放ったならアトラクションの域を超えてしまう。

 それを察知したから、止めたのだろう。

 流石お祭り運営委員会の部長ってところだ。

 

 

「それにしても、胸が熱くなるようなBattleでした! フィーナ、感動デス! これが噂に聞く『ニンジャ』なのデスね!」

 

「そうね……百夜ノ春ノ桜花祭の時はそれどころじゃなくて気付かなかったけど……これはもしかして集客になるかも……」

 

「おい、これで終わりでいいんだな?」

 

「えっ、あっ、はい! これでここは合格です!」

 

 

 俺が、何か呟いていたシズコに確認を飛ばすと、いつも通りの仮面を被った彼女が合格の印を俺たちに渡す。

 同じようなのをあと数回やらなくちゃいけねぇのは面倒な話だ。

 

 そう考えている視界の端で、ミチルの元にシズコが近寄る。

 

 

「……忍術研究部、だったわよね? 忍者の部活とか、最初は何のことかと思ったけど……うん、良いんじゃない? まぁ頑張ってね」

 

「え……あ、ありがとう」

 

 

 ……まさか、これも狙いなのか?

 俺の考えすぎかもしれないが……。

 ニヤの考えている作戦のその片鱗を感じた俺は、先を走る忍術研究部たちを見ながら、後を追う。

 

 走っている道中、再びアナウンスが聞こえる。

 さっきは屋内で気付かなかったが、空を飛んでいる飛行船。

 あそこから声が聞こえてきている。

 

 

『さぁさぁ、誘拐されたお姫様を探して駆けまわる各位……ゲヘナも百鬼夜行も混ざり合って、個性的な面々が沢山ですねぇ♪ その中でも、特に目立っているのはこちら~』

 

 

 モニターに忍術研究部の姿が映し出され、器用に俺とアル、イロハの姿が映らないようになっている。

 これでハッキリした。

 ニヤのやる、忍術研究部の行動を読んでやがるな。

 先読みってよりかは、これは人読みか。

 

 

『「忍術研究部」の、百鬼夜行の生徒ですねぇ~。 まぁ正式な部活ではないので、同好会みたいなものですが♪ 今回もしかしたら、同好会らしからぬ活躍を見せてくれるかもしれませんねぇ? にゃははっ♪ では各位頑張ってくださいな、アデュ~♪』

 

「あの陰陽部の部長さん、中々やるわね」

 

「アルも気が付いたか」

 

「えぇ……でも、これ言わないほうが良いわよね」

 

 

 隣を走るアルが呟いた一言に俺は返事を返し、そのまま頷く。

 恐らく同じ結論に至ったんだろうが……これを忍術研究部の三人に言うのは返って逆効果だ。

 ニヤの奴、一体どこまでが計算の内だ……?

 

 

「あ、主殿……もしかして今イズナ達目立ってます……?」

 

「あぁ、イベントの内容からして中継しないのは不自然だからな、そうせざるを得ないが……緊張でもしてるのか?」

 

「ま、まさか! これを機に忍者を世に知らしめて魅せます!二ンニン! ですよね、部長!」

 

「…………。ん? あ、も、もちろんだよ!」

 

 

 何か考え事をしていたのであろうミチルは生返事をイズナに返す。

 何を考えてるのか、概ね予測は着くが……。

 仕事に支障が出ないのなら俺は見て見ぬふりをしよう。

 

 そうして走っていると、人だかりが出来ている場所を見つける。

 人の賑わいと銃声からして、あそこが第二の関門だろう。

 

 

「くっそ……何だあいつ、強すぎるだろ」

 

「隙がまるでねぇ……」

 

 

 ゲヘナの制服を着た奴がそういって倒れる。

 その先に居たのは、黒髪短髪の赤い装束を身に纏った少女……修行部の部長である春日ツバキだった。

 

 

「ツバキ……ってことは、修行部の奴らも協力してるのか」

 

「ん~……あ、先生。お久しぶり~……ミモリが、お世話になった、ねぇ」

 

 

 眠そうな眼を擦りながら、ツバキが言う。

 確か眠りながらなんでも出来るようになるが、アイツの修行内容だったか?

 地面に撒かれた弾痕に、ツバキの手に持ったスコーピオン。

 厄介な相手だ。

 

 

「ここは、第二関門の『眠り姫』だよ……ふぁぁ……。 ちょっと油断するとぉ……すぐに……やられる、危険な……」

 

「寝やがった……」

 

「よし……今──「はいダメ~……」ぐぁっ!?」

 

 俺たちの横に居た生徒が駆け出す。

 眠りについた隙をついて、ツバキの横を通ろうとしたのだろう。

 しかし、彼女が地面に引かれたラインを超えた瞬間、生徒の腹にツバキの横蹴りが命中し、俺たちの後ろの方へ吹き飛ばされる。

 勢いからして、ダメージはなさそうだが……今のでここの関門の内容は何となく理解できた。

 

 

「えっと……どこまで話したっけ……あぁ、そう……。 お姫様を連れた悪党はこの先を進んだよ……。 ここを通過するための方法──ルールは簡単」

 

「お前さんが寝てる間に、そこのラインを通ればいいんだな?」

 

「大正解~……」

 

「と言ってもこの人数だ、全員は免除できねぇか?」

 

「え~……どうしようかなぁ……う~ん……まぁ、ミモリがお世話になったし~……特別に三人クリア出来たらいいよ~…………ぐぅ」

 

 

 三人か……今ここにいるのは六人。

 丁度半分……ツバキの実力を加味すれば、随分と優しくしてくれたもんだ。

 ミモリには感謝しねぇとな。

 

 

「先生……何ですかあれ、起きてるのか寝てるのか……さっきの方もですが、百鬼夜行の生徒って、あぁいうのばっかりなんですか?」

 

「面白いだろ」

 

 

 イロハにそう言うと、彼女は苦笑いを返す。

 気でも使わせたか?

 

 そうしていると、依然として、寝ているのか起きてるのか分からないツバキの様子を伺っていた百鬼夜行の生徒が駆け出す。

 

 

「ぐぅ……すぅ……」

 

「くそ……どっちだよ……いや、今は寝ているな!」

 

「んぁ……」

 

 

 引き金を引いて、ライン上に弾幕を張ることで、駆けだした生徒を止め、急に発砲された彼女は、ツバキの前で尻餅を付いてしまう。

 

 

「あぁ……そうそう、言い忘れたけど……『ラインを超える瞬間を気付かれたら失格』ね。……だから、そこの君は、失格かな?」

 

「あ、ぁ……うわぁぁぁぁ!!」

 

 

 突然現れたスタッフたちによってその生徒は、何処かに連れ去られてしまった。

 大方振り出しに戻るってところだろうが……。

 尚の事、三人に免除してくれて助かったぜ。

 

 

「さっきの関門とレベル全然違うじゃん!!」

 

「三人でいいんだったら……今回は俺とアルは確定でいいだろう」

 

「え、私も!?」

 

「な、なら!あと一人はイズナにお任せください!」

 

「ぐっ……引くに引けないじゃない!」

 

 

 気配を消すなんざ、散々やってきたからな。

 人選は問題ないと俺はそう確信している。

 

 

「イズナちゃん……いける……?」

 

「もちろんです! イズナには策があります! ふふっ、普段から主殿相手に気配を消す修行を重ねてきた……その成果!とくとご覧あれ!」

 

 

 自ら手を上げたイズナは……言わずもがなだろう。

 アイツは過去に俺とヒナの感知を避けて盗撮を成功させた経験がある上に……今まで何度かこいつには寝てるときに侵入されてきた。

 警戒を解いてるのもあるだろうが……。

 

 そう考えている間に、イズナはツバキに向かって歩き出し、懐から取り出した筒を手に持つ。

 

 

「この忍具『聞き筒』を使用して……その『狸寝入りの術』看破してみせましょう」

 

「頑張って、イズナちゃん……!」

 

「よ、良し!やっちゃえ、イズナ!」

 

 

 再び眼を閉じたツバキを前にイズナは、聞き筒と称したその筒を耳に当てて、彼女の寝息に集中する。

 なるほどな、あぁやって音を聞き分けて、よくよく見計らい……。

 

 

「……今です!! シュバババババ!!!」

 

 

 イズナの健脚で走り抜けると。

 よく考えたもんだ。

 

 攻略に苦戦していたであろう周りの生徒も、イズナがあっさりとクリアしたその姿に驚く。

 

 

「す、すごい! あれが、忍者って奴なのか!?」

 

「あの眠り姫の試練を……!?」

 

「ん……あ、おめでとう~、あと二人だねぇ……」

 

「流石イズナ!凄いよ!」

 

「イズナちゃん、さすがです……!」

 

 

 イズナの立派な姿を見せてもらった。

 これは、主殿なんて呼ばれている俺も、それにふさわしい姿を見せねぇとな。

 

 これでも泥棒家業をしてきたからな。

 

 

「ぐぅ……すぅ……」

 

「…………」

 

 

 ツバキが寝たことを確認すると、俺はそのまま歩き始める。

 足音を消して、散歩をするような自然体で歩き続け……。

 

 

「は……? 何もんだあの大人!?」

 

「え……眠り姫がスルー!?」

 

 

 自然にツバキの横を通り、俺はイズナの元に辿り着く。

 ルパンほどの速度は出せねぇが……時間を気にしないでいいのなら、これくらいは出来る。

 アイツの場合、走りながらこれを行うんだからな。

 

 

「流石主殿です!」

 

「うぅん……あれ、いつの間に……先生おめでとー……」

 

「あとは、お前だけだな、アル」

 

「ぷ、プレッシャーじゃない!!」

 

 

 トリを任されることになったアルは周囲の視線もあるだろうが、緊張しながら俺に向かって声を荒げる。

 そんな彼女に向かって俺は正面を向きながら彼女の名前を呼ぶ。

 

 

「アル」

 

「な、何よ!」

 

「お前さんを信用してるぜ」

 

 

 その言葉を聞いた彼女は目を見開いて、深く考え込む様子を見せる。

 俺がアルを選んだ理由は、ただ単にさっき何もしてなかったからって訳じゃない。

 

 アイツはキヴォトスにおいて誰よりも俺の背中を見ている奴だ。

 だから、アイツなら出来るんじゃねぇかって、俺はそう期待をしてしまっている。

 

 大きく息を吸い、吐いた彼女はゆっくりと歩み出し、堂々とした足取りでツバキに近づいていく。

 ヒールを履いているにも関わらず、その足音はほとんど聞こえない。

 

 ツバキの真横を通る瞬間、一瞬ツバキの身体がピクリと動く。

 

 反射によるものだろうか。

 一発本番による荒もあるだろう、それを加味してもアルの気配を消す技術は俺から見ての中々の精度だが……それでも一瞬感づきかけるツバキも相当なもんだ。

 

 それでも……今回はここで止まってる訳にはいかないからな。

 

 

「き、緊張した……」

 

「あ、アル殿~……!! ご立派でした!!!」

 

「ふっ、ふふっ、そうかしら? まぁ当然よね!」

 

「まだまだ練習はいるけどな」

 

 

 俺たちの元に辿り着いたアルにイズナが涙目で飛びつく。

 たかが一つ突破しただけなのに騒がしい奴だ。

 

 アルとイズナの騒ぎで、ツバキが目を覚ます。

 

 

「あちゃぁー……クリアだねぇ……おめでとう、正式にって訳ではないけど……合格~」

 

「やったぁ!! イズナにアル殿、先生殿も凄いよ!!」

 

「次のアトラクションは、まっすぐ進んで右の方だよ~……。 ところで、みんなが放送で言ってた『忍術研究部』?」

 

 

 他の三人もラインを越えて先に進もうとすると、ツバキが声をかけてくる。

 その質問に、少し怯えるような仕草を見せながらミチルが答えた。

 

 

「そ、そうだけど……どうかした?」

 

「そっか。忍者って、すごいね」

 

 

 屈託のない純粋な賞賛を、ツバキは彼女たちに掛ける。

 俺とアルは違うが、それでも先陣を切った上で成功させたイズナを賞賛したかったのだろう。

 

 その笑顔がまるで想定外だったかのように、ミチルとツクヨは驚いて声も出せず、代わりにイズナが胸を張りながら声を上げる。

 ここにいる全員に向かって言い放つように。

 

 

「はい! 忍者はすごいんです!!」

 

「ふふっ、そうだね……頑張って、私はここから応援してるよ」

 

 

 同じくらい純粋なイズナの声に、頬を綻ばせたツバキはそういって、再び自分の仕事に戻った。

 その背中に見送られながら、俺たちは前へ進む。

 

 その道中、ツクヨがミチルに話しかける。

 

 

「部長、その……」

 

「うん。さっきのお祭り運営委員会もそうだけど、こうして他の生徒からちゃんと褒めてもらったのは、初めて……かも」

 

「当然です! 忍者はすごいものなので! ですよね、アル殿!」

 

「えぇ、とってもアウトローよ」

 

 

 アルの言葉に満面の笑みを返したイズナは、アルの言葉を他の二人に話し始める。

 一見してアウトローっていう評価がどういうものなのか、分かりにくいかもしれないからな。

 それにしても……これも恐らくニヤの想定通りだと思うと、素直には喜べねぇな。

 

 アイツの事を考えたからだろうか?

 三度空の上から声が聞こえる。

 

 

『さぁさぁ、白熱の追撃戦ですが~……? 現在最も頭角を現しているのは、私の予想通り「忍術研究部」! あの眠り姫の試練を最速クリアしました! これが噂の「忍者」の力なのでしょうか~? もちろんあの「シャーレ」の先生と「便利屋68」の社長が手助けしているので、その辺は込々で考えた方が良いかもしれませんが♪ まぁ、みんなが楽しんでこそのお祭りですからねぇ。 これくらいのルール違反は目を瞑るとしましょうか♪ ではでは、引き続き張り切っていきましょ~♪』

 

 

 相変わらず用意周到というべきか、随分と先を見てやがる。

 

 ニヤの狙いは、恐らくこいつらに自信を付けさせるってことなんだろう。

 それに加えて、三つの部活からの推薦書を書くキッカケ作りってところか?

 当然、その三つ全部をお膳立てする気はねぇんだろうが、この百鬼夜行の生徒の中に爪痕を遺させたいってところだろう。

 

 今のところ、その思惑通りなのが気に食わねぇな。

 何を目的にそんなことをしてるんだ?

 あぁいうタイプは損得で動くもんだと思ってたんだがな。

 

 こうして走っている中で、忍術研究部の三人のことを指さしながら噂話をしている生徒たちを見かける。

 

 

「ねぇねぇあれ、『眠り姫』の関門を最速通過した人たちじゃない?」

 

「じゃぁ、あれが忍術研究部? 修行部の部長を突破したのは凄いけど……あんまり聞いたことのないような……?」

 

「あったかなぁ……そんな部活。 それにしても変わった名前だね」

 

 

 その言葉に一番に反応をしたのは、俺の予想通りミチルだった。

 

 

「変わった……名前……!?」

 

「ミチル、悪意はねぇよ。お前さんが怒ってどうする」

 

「分かってるけど……」

 

「そ、それでも噂を、されると……プレッシャー、感じますね……」

 

「あら、良い事じゃない。 自分の名前を売り出すチャンスが向こうから来たのよ」

 

「アル殿の言う通りです! ここで、忍者の魅力を伝えましょう! ね、部長!」

 

 

 イズナはそんな綺麗な笑顔で、ミチルへと話しかける。

 その言葉にミチルは深く考え込む。

 イズナよりも長く忍者を好きでい続け、そしてその分否定されてきたのだろう。

 だからこそ、こいつは不安なんだろうな。

 

 ったく、世話が焼ける。

 

 俺がミチルに声をかけようとすると、それよりも先にミチルに話しかけた人物がいた。

 

 

「ミチルさん、顔に出てるわよ」

 

「えっ、あっ……アル殿見られちゃったね」

 

「いいのよ、私も社長だから分かるわよ。 そういう時はただ前を向きなさい」

 

「そ、そうだね! 今は一刻も早く魑魅一座を捕まえなくちゃ!」

 

 

 アルが、ミチルをそう励ます。

 年齢の違いはあれど、同じ長としての責任は理解できるのだろうな。

 なら……俺が出る幕はねぇ。

 俺がどうこう言うよりもずっとミチルの隣に入れるだろうからな。

 

 走りながら彼女たちの様子を見ていると、見覚えのある姿が道を塞いでいる。

 

 

「今日は同窓会か何かか?」

 

「お久しぶりですね、先生。 皆さんもよくいらっしゃいました」

 

「ツバキが居たからな、そりゃお前さんもいるか……ミモリ」

 

 

 お祭り運営委員会だって、店の都合の為に一人欠けていたが、それでも過半数はこっちに出ていた。

 それなら、修行部も一人じゃないことは推し量れるもんだ。

 

 

「カエデはどうした?」

 

「カエデちゃんはこの先の『第四関門』の担当です。そしてここは、『第三関門』です。 『読心術師』ことこの私、『水羽ミモリ』が皆さんのお相手を致します!」

 

「お前さんの読心って確か──「なんと!貴女が噂の! イズナ聞いたことがあります! ただでさえ不思議な人が多い修行部ですが、その中に『相手の心を読むことが出来る』方がいると! 会えて光栄です、ミモリ殿!」」

 

 

 イズナにセリフを重ねられたが、ミモリの読心はあくまでも、その驚異的な観察眼に裏打ちされた洞察によるものだ。

 しかし、ミモリには一度俺の心を……いや、正確に言えば俺の根底を見破られている。

 あの時には気付かなかったが、人の固有名を当てるのは相当な精度だ。

 

 

「あの……まぁ、そういう役柄として採用されたと言いますか、あくまでも役と言いますか! と、とにかく! 第三関門は、これまでの中でも最難関! 皆さんに越えられますか!! …………あの、すみません、出来れば乗っていただけると嬉しいです……」

 

「なるほど、流石は観光業の百鬼夜行。そういう演技も観光の一環、と」

 

 イロハの一言で、さらに顔を赤くしたミモリが恥ずかしそうに体をくゆらせる。

 生真面目な奴だ、慣れない演技なんだろうが、それでも堂に入っている辺り練習したことが伺えた。

 

 頬をビシっと叩き、気合を入れなおしたミモリが堂々と宣言を行う。

 

 

「お覚悟の程を! 皆さんの考えを読み取って見せます!」

 

「つまり、お前さんに考えてることを当てられなければ合格ってところか?」

 

「はい! 私でも読めないのであれば、合格と致しましょう!」

 

「ふっ、そんなポーカーフェイス。アウトローなら当然マスターしてるわ!」

 

 

 そう自信満々にいったアルの元にミモリが駆け寄り、その顔を覗き込む。

 

 ポーカーフェイスを維持していたアルだったが、ミモリが口を開く。

 

 

「なるほど、アルさんは先生に良いところを見せたいんですね!」

 

「なっ、な、なな! なんでわかったのかしら!」

 

「そして、イズナちゃんも、同じく先生に良いところを見せて、褒めてほしいと」

 

「ゑッ、イズナ顔に出てましたか!?」

 

 一瞬で二人が見破られ、心の内をバラされた二人は顔を赤くしながら、俯いている。

 

 あっさりとやられたな。

 

 

「ツクヨちゃんは、頑張ってお友達の役に立ちたい、と……」

 

「凄い、当たりです……!」

 

「そしてミチルちゃんは…………」

 

「えっ、きゅ、急に!?」

 

 

 ミチルの前に来たミモリは、よく彼女の顔を観察し……落ち着いた声で答えを出す。

 あの間は、答えるかどうかを悩んでいたかのような間だったな。

 

 

「沢山悩んでいるようですね……複雑な心境の中で、進むべきかどうかについて、が一番の悩みですか」

 

「うっ……そ、そうだよ……」

 

 

 気まずそうな声でミチルがそう答える。

 その様子を見てどう突破したものかと考えていると、イロハが俺の袖を引っ張ってくる。

 

 

「どうした、イロハ」

 

「あの人の読心ってつまるところ、顔色を読むのが物凄く上手……みたいな話ですよね」

 

「あぁ、そうなんだがな……アイツには一度俺の心の底を見抜かれちまってる。舐めてかかるもんでもないぜ」

 

「心の底……固有名ですか。 なるほど、ただの特技で片付けるには余るほどの才ですね」

 

 

 アルと一緒に頭を抱えながら、どう突破するか作戦会議を立てている忍術研究部たちを、見守りながら俺とイロハは会話を続ける。

 

 俺は占いや、そういうオカルト的なもんは信じねぇタチだが……ミモリのあれには、どうにも信じたくなる何かがある。

 

 作戦会議に進展があったのか、ツクヨが立ち上がった。

 どうやら動きがありそうだ。

 

 

「イズナちゃん、アルさん、部長……! 私、いい方法を、思いついたかも、です……!」

 

「ほんとかしら!」

 

「部長から借りた漫画で、主人公たちが、読心術を使う忍法術師と、戦ったときの作戦……! そう、その名も『ぼーっとする作戦』です!」

 

 

 ルパンが思いつきそうな作戦だな……。

 アイツもIQがカギになった対天才用金庫を、相手にした時に同じようなことをしてたな。

 尤もあの時は、逆にIQを上げて攻略したんだが……。

 

 

「何も考えなければ、心を読まれることも、ありません……! みんなで、ぼーっと、しましょう……!」

 

「なるほど、確かに試す価値はあるわね……ぼーっ……」

 

「了解です! では……ぼーっ……」

 

「え、あ、うーん……まぁやってみよっか! ぼーっ……」

 

「これ私達もしないといけない流れですか?」

 

「まぁ、俺たちはいいだろ」

 

 

 なんとも言い難い間の抜けた面を晒して、ミモリの前に立って四人を俺たちは、少しは離れて眺めている。

 

 ミモリもその様子に少し微笑んだ後、真剣に彼女たちの心を読み始めた。

 

 あんなんで上手く行くのか……?

 

 しばらくの間、凄まじい読み合いが繰り広げられている。

 いや、よく言ったつもりだったが、傍から見れば随分と……間抜けだ。

 こんなこと言ってしまったらあいつらは悲しむだろうが。

 

 

「この茶番、どれだけ待っていれば……」

 

「そろそろ動きがありそうだぜ」

 

「うーむ……ダメですね、完全に読み取れません!」

 

 

 ミモリがそう声をあげて、どこから取り出したか分からない白旗を振った。

 その姿を見た四人は、間抜けな面から笑顔へと徐々に変わって行き、大きく飛び跳ねながら、手を合わせる。

 

 

「やったわね、ツクヨ!!」

 

「流石、ツクヨ殿です!!」

 

「そ、そうですかね……え、えへへ……!」

 

「よ、よし、これでここは突破だね!」

 

 

 ガッツポーズをしたミチルは、焦ったように走り出そうとして、その手をミモリに捕らえられる。

 ミモリが、ミチルだけに伝えようとしてることなんだろう……。

 

 

「お前らよくやったな」

 

「ツクヨ殿は凄いんです!!」

 

 

 他の三人の視線を俺に集めるように動きながら、俺はミチルとミモリの会話に耳を向ける。

 聞くもんでもないんだろうが……先生なもんでな。

 

 

「ミチルちゃん」

 

「え、あ、私……? 何かな?」

 

「出会ったばかりの私が言うのも、どうかなとは思うのですが……。

 ミチルちゃんの優しさは素敵ですが……ミチルちゃんが思ってるより、みんな強いと思いますよ」

 

「え……それは、どういう……?」

 

「これ以上は……私からは答えられません」

 

 

 ミモリからの言葉に、疑問符を浮かべながら、その言葉を何度も反芻しているミチルは、俺たちの後を追ってくる。

 ミモリの言う通り、その言葉の意味は、自分で気が付かなくちゃいけないもんだ。

 

 その幸運がこいつの元に来ることを、俺は待つことしか出来ねぇ。

 

 その考え込むミチルの顔が、やけに目に焼き付いた。

 




試練を突破していく一同の元に
襲い掛かる最終試練
涙と熱い魂を
そして、約束をあの夕焼け空に乗せて


次回 燃えよ忍術研究部







ノルマを目指して書いてたら何故か二万字になりました……。
拙作の現状最高文字数になりましたが、読み応えがあったのなら嬉しいですな!

評価、ここすき、感想お待ちしております!

今の話のタイトルが分かりにくいとの意見を得て変更するか否か

  • 例:殺し屋の矜持
  • 例:1-10
  • 例:1-10 殺し屋の矜持
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