新任教師『次元大介』   作:レイゴン

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後編 燃えよ忍術研究部

 考え込むミチルを後ろに、俺たちは次の関門へと辿り着く。

 目の前には門とその先にかなりデカい屋敷がある、奥に見えるのは城か?

 その光景に圧倒されていると、元気な声が聞こえてくる。

 

 

「はいはーい! 第四……そして最終関門へようこそ!! ここは罠や仕掛けがいっぱいの『トリックハウス』! この渦巻映画村でも、かなり有名なアトラクションの一つだよ!」

 

「つまり忍者屋敷?」

 

「それはよく分かんない!! とにかく、『第四関門』はこのトリックハウス! 担当は私、勇美カエデ15歳! 趣味はカブトムシ集めだよ!」

 

 

 そう元気よく挨拶をしたのは、修行部最後の一人であるカエデだ。

 さっきの関門でミモリが話してくれたからな、驚きはしないが……。

 カラクリだらけの屋敷か。

 いつぞや、風魔一族と百万石の城を巡っての騒動で通った通路を思い出すな。

 

 

「元気にしてたか、なんて野暮なくらいの声量だなカエデ」

 

「うん!! 先生も元気っぽいね!! そうそう、ちなみにお姫様を誘拐した悪党は、この屋敷の中に逃げ込んだ……らしいよ! 多分!」

 

「多分なのね……」

 

「そして、この関門のルールは簡単! このトリックハウスの中に入って、ゴールに辿り着いたら、OK! でも、中には沢山の試練があるから、一筋縄じゃ行かないよ!」

 

 

 随分と分かりやすい試練で助かるが……これが最後の試練だ。

 それ相当の罠の数があるに違いないだろうし、何よりここはキヴォトスだ。

 いくらアトラクションとは言え、俺にとっては怪我に繋がるものがある可能性は高い。

 今までの試練の難易度から、最終試練という事で、全員に緊張が走る。

 

 ただ一人、妙に息巻いているミチルを除いて。

 

 

「よっし、分かりやすい! トリックハウスでも忍者屋敷でも、何でもかかってこいだよ!」

 

「あ、部長……!?」

 

「部長、事前に攻略方法の相談などは……!」

 

「大丈夫大丈夫、進めば何とかなるよ! 基本的に観光客向けなんだし、そんなに難しいのは無いはず……!」

 

 

 そういって、ミチルは屋敷の入り口に向かって走って行く。

 焦りは分かるが、猪突猛進はこういう仕掛けの多い場所じゃ禁止事項だってのに。

 

 そして、ミチルの進む先に明らかに怪しい少し浮きだった石のタイルが目につく。

 

 罠だあれは。

 

 

「ミチル、止まれ! その足場、罠だ!」

 

「……え?」

 

 

 俺の忠告も遅く、ミチルはその足場を踏み、それと同時に地響きが聞こえる。

 こういう入り口に設置してある罠は大方落とし穴に繋がるものが多い……。

 

 手を掴もうと走り出した俺よりも早く、まるで分かってたかのように彼女に向かって飛び出した影。

 視界の端に移った赤い髪の持ち主は、ただ一人。

 そう……アルのものだ。

 

 地面に空いた大穴に吸い込まれていくミチルの手を取り、最後に俺が目にしたのは、自分が背をつくようにミチルを抱きかかえるアルの姿だった。

 

 

 ──────

 

 ────────────

 

 ───────────────────

 

 

 ────忍術研究部の皆さん。今度の公演はよろしくお願いしますね~♪

 

 

 記憶が流れる。

 

 

 ────では行動を開始する。迅速に進め、邪魔者は処理せよ……行くぞ、『魑魅一座・気まぐれ流』!

 

 

 記憶が流れる。

 

 

 ────あれが忍術研究部? 修行部の部長を突破したのは凄いけど……あんまり聞いたことのないような……?

 

 

 ────あったかなぁ……そんな部活。 それにしても変わった名前だね。

 

 

 記憶が流れる。

 

 今までずっと、私は好きを否定されてきた。

 私が好きになってしまった『忍者』がマイノリティなのは、分かっている。

 そんなこと、ずっとずっと分かっていた。

 でも、好きになってしまったから。

 

 だから、私は忍者をもっとみんなに知ってもらいたい。

 

 だから、この任務は絶対に何があっても失敗できない。

 

 こんな千載一遇、一粒万倍のチャンスは滅多にやってこない。

 ここで一気にイメージアップ、そしてこの部活を正式なものにすれば、もっと堂々と名乗れる……イズナとツクヨの前で、しっかりと胸を張れるようになる。

 

 だから……だから……私は絶対に失敗できない……!

 

 

 視界に白が差し込み……私はそっと目を開ける。

 

 周りは廃墟のような空間で、何か暖かくて柔らかいものが頭の後ろにある。

 

 

「起きたかしら」

 

「……アル殿?」

 

「良かった、貴女が踏んだところがまさかこんな場所に繋がってるだなんてね」

 

 

 寝ぼけ眼を擦ると、正面にアル殿の顔が見える。

 そうだ……私は、罠を作動させちゃって……。

 

 

「ってことは、やっぱりこれ忍者屋敷じゃん! まさかこんな典型的な罠に引っ掛かるなんて……ってこんなことしてる場合じゃない! アル殿、早くここから抜け出さないと!」

 

 

 アル殿の膝枕から跳び起きた私は、急いでみんなと合流するために動こうとするけど、アル殿が座った状態から動かない。

 不思議に思って、アル殿の足元を見ると右足首が赤く腫れている。

 それで気が付いて、上を見上げると、穴が広がっているが、空は見えない。

 

 こんな高さから落ちて、私に傷が一つもないなんて不自然だ。

 それが意味することは一つしかない。

 

 

「もしかして……私を庇って……」

 

「……違うわ、ただ、着地に失敗しちゃっただけよ」

 

「で、でも……私が無傷なのって……」

 

 

 アル殿が目覚めたときに言っていた。

 良かったって……私に怪我がなくてってこと……?

 

 私が、勝手にひとりで走ったせいで。

 

 

「貴女を見捨てようと思えば、出来た。 でも、私にはそんなこと出来ないもの。 だからこれは私の責任、気にしないで」

 

 

 アル殿はそう優しい声をかけてくれる。

 

 その優しさすら、今の私には針のように突き刺さる。

 

 心臓がけたたましく鼓動する。

 

 息が荒く、酸素を必死に取り込んでも、窒息したかのように、苦しい。

 

 私は、アル殿に向かって、四つん這いになって、この考え無しの頭を地面へとつける。

 

 

「…………うぅ、ごめんなさい……! 私のせいだ! 私のせいで……全部台無しに……ごめん、ごめんなさい、アル殿!」

 

「…………はぁ、仕方ないわね」

 

 

 アル殿が優しく抱き留めて、私はその胸の中で泣き続けた。

 情けない、もう17なのにと思いながら……。

 

 アル殿の抱擁の中で、私は泣き続けて……息が落ち着いてきたところで、そっと離れる。

 

 アル殿のまで、私は正座をしたところで、ゆっくりとアル殿が口を開く。

 

 

「落ち着いたかしら?」

 

「申し訳ない……」

 

「気にしないで頂戴。それよりも……台無しにってどういうことかしら?」

 

 

 その言葉でアル殿の雰囲気が一変した。

 さっきまでの優しい声から一変して、叱るようなそんな厳しい声と雰囲気に変わる。

 

 

「それは……この騒動、最初から全部私のわがままだった。 ……先生はあぁ言ってくれたけど、本当はツクヨの言う通り、イブキが誘拐された時、すぐに通報するべきだった。 陰陽部とか百花繚乱に連絡してれば、きっともっと早く解決してた……」

 

 

 私の我儘を押し通したせいだ。

 

 硬く握りしめた拳に痛みが走っても、気にならないほど……私の胸に巣食う後悔が、瓦解した自信が、砕けた硝子のように私の心を一瞬で引き裂く、その痛みが何よりも痛い。

 

 

「私も先生も、そんな事最初から気付いてたわよ」

 

「うっ……やっぱり……忍者を広めたいのは本当だよ。 でも……他の生徒達に話したところで、それを笑わずに受け入れてくれるか、凄く怖い……。

 

 だからこの機に、とにかく先に、正式な部活になりたかった。

 推薦状無しに、正式な認可が貰えるかもしれないなんて……こんなチャンス、二度とこないかもしれない。 だから、何とかして成功させたかった。

 

 あんなに綺麗で真っ直ぐな憧れをもったイズナと、何も知らなかったのに巻き込んじゃったツクヨ……私には、あの二人に対する責任がある」

 

 

 何も知らない子を、私はその手を勝手に取って、こんなに振り回した。

 

 だからこそ……。

 

 

「私は、あの二人に胸を張れる、そんな先輩になりたかった。 こんな私でも……部長だから。

 

 最悪の場合……このまま公演が失敗して、チャンスが無くなるだけならまだ良い。

 でも、私が通報を躊躇ったせいで……魑魅一座に誘拐されたあの子は、今も泣いてるかもしれない。 辛い目に、遭ってるかもしれない」

 

 

 また目頭が熱くなる。

 泣いたところで、何にもならないのに、事態は好転するはずがないのに、そう思っても溢れる濁流が、絶え間なく私の目から溢れ出る。

 

 

「もしこれが世間に知られたら、イズナも……ツクヨも……何もしてないのに、後ろ指を指されるかもしれない。 『忍術研究部』に……私に関わってたってだけで。

 私の我儘のせいで、沢山の人に迷惑が掛かってる。

 

 イズナもツクヨも……全部知ったら、きっとガッカリすると思う。全部、私が怖がってたせいで、こんなことに……

 

 私は、もう……」

 

「ミチルさん。一つ聞かせて」

 

「うん……なに、アル殿……」

 

「申請書を出さなかったのは、怖かったからかしら」

 

 

 その質問に、私は頷く。

 ゆっくりと躊躇いながら、私は……理由を話し始める。

 

 

「正式な申請書なんて、出せるわけがない……『忍者って何?』って、『忍術研究部って何?』って、それが普通の反応でしょ! アニメや漫画の話って思われて当然……!」

 

 さっきまで目頭に有った熱が、どんどん体へと巡って燃えるように熱くなる。

 それに呼応するように、心の中の言葉が口を突いて出る。

 

 

「そんな部活の推薦書なんて、誰にも頼めない……! 誰かが認めてくれるなんて、思えなかった……。 下手に何かを言い出したら後ろ指を指されたり、バカにされたりするかもだし……私だけならまだしも、あの二人はッ!」

 

 その瞬間、乾いた音と共に頬に衝撃が走り、遅れて全身の血が冷めていく。

 さっきまで煮えたぎるほどに熱かった体が嘘のように冷たくなり、代わりに私の頬だけが変わらず熱いまま、そして鈍い痛みがゆっくりと伝わる。

 

 思わず、私は手をついて後ろによろめいて、前を向くと、アル殿が手を振り抜いて、私を強く見つめていた。

 

 

「大人しく聞いていれば、何をバカなこと言ってるのよ!」

 

「アル、殿……」

 

「大きな失敗をしてしまった。

 自分が判断を誤ったせいで、多くの人に迷惑をかけてしまった。 このままじゃ自分は疎か、後輩たちも後悔させてしまう」

 

 

 そこまで言うと、挫いたはずの足を気にもしないで、力強く立ち上がり、アル殿は大きく息を吸い込んで、怒りを込めて、言い放つ。

 

 

「それが何なのよっっ!!!!!!」

 

「えっ……」

 

 

 腑抜けた声が私の口から漏れ出た。

 それと同時に、彼女は私の服を掴んで持ち上げる。

 

 

「今でも泣いてるかもしれない子がいるのでしょう!! なのにこんなところでうだうだ悩んで、そもそも貴女がその忍術研究部を建てたのは、もっと多くの人に忍者を知ってもらうためでしょう!!

 

『忍者って何』? アニメや漫画の話? それが普通の反応?

 

 貴女が大好きな忍者は、貴女の夢は……!

 

 そんな言葉で諦めてしまうほど、情けないものなの!?」

 

 

 その言葉に、私は胸の中の靄が晴れていくような感覚がした。

 

 イズナから前に聞いたことがある、自分が仕えている主殿には凄い右腕がいるって。

 

 その人はキヴォトス一のアウトローを目指して、毎日依頼をこなしているって。

 

 自分の前で堂々とその夢を宣言して、イズナの夢を笑わないでくれたって。

 

 それが……目の前にいるこの陸八魔アルなんだ。

 

 それに比べて……私は、なんて情けない……。

 

 

「夢を否定される、それを笑われる怖さを私は否定しないわよ。 イズナだってそうだった」

 

「イズナ……も……?」

 

 

 私がいじけていたのを分かっていたかのように、アル殿が優しい声でそう話す。

 それよりも、その内容を聞いた私はバカみたいに反芻することしかできなかった。

 

 あんなに純粋な憧れを持ったイズナが……?

 

 

「えぇ……私達とイズナが初めて出会ったとき、あの子は言ってたわ。 こんな夢を持っている人なんて今時いないことは知っているって。 あの時の顔……まるで応援されることなんてあり得ないみたいな顔してたわ……」

 

「イズナも同じだったんだ……」

 

「私にも同じような夢があるのよ、だから笑ったりなんかしない。 もちろん貴女の夢もね……私達(便利屋68)はあの子と一緒に居れるかもしれない」

 

 

 そこまで言うと、アルさんは俯いて、まるで悔しそうな声で口を開く。

 私の服を掴む手が僅かに震えている。

 

 

「それでも……私たちは同じ道を歩んであげれない。 あの子は本当に一人だったのよ。 貴女達に出会うまで……ずっと一人だったのよ。 だから、貴女にどんな目的があろうと私は気にしないわ。 でもね、貴女自身が、あの子達の前を歩いて、手を引っ張ってあげれる貴女がその夢を軽く扱うことを……私は絶対に許さない」

 

 

 アル殿は、真っ直ぐな目で私を強く見つめた。

 そっか……イズナが、今もあんなに純粋な憧れを持っていられたのは、イズナの力だけじゃなくて、こんな素敵な強い人と出会えたからなんだ。

 

 

「…………アル殿は、イズナ殿の事が大好きなんだね」

 

「っ!? 私はハードボイルドなアウトローを目指してるのよ、そうじゃ……いや、そうね。 私たちはあの子の友達だもの。 一緒に先生と盃を交わした仲だから」

 

「…………ごめん、アル殿。 私間違ってた。 あの子達の為って言いながら、結局自分の事ばかりだった。 でも一つだけ言わせてほしい」

 

「何かしら……?」

 

「イズナにとって、アル殿達の存在はもっと大きいと思うよ。 アル殿はこんなにカッコいいんですっていつもイズナ言ってたから、その背中は、アル殿が思うよりもずっと大きいはずだよ」

 

「……バカ言わないでちょうだい……そんなの、あ、当たり前よっ。 キヴォトス一のアウトローなんだもの私は」

 

 

 アル殿は私の言葉を聞いて、顔を赤くしてそっぽを向く。

 照れ隠し……これ以上、言うのは野暮だよね。

 

 赤い顔のままのアル殿は、私の服から手を離すと綺麗に皺を広げてくれる。

 

 

「あ、そういえば……アル殿、足は大丈夫?」

 

「そういえば……えぇすっかり良くなったみたいね。 さ、先に進みましょう?」

 

「うん……アル殿ってお姉さんみたいだよね」

 

「そうかしら……ミチルって幾つだったかしら?」

 

「17だよ」

 

「え……私よりも先輩じゃない!?」

 

 

 驚いた声を上げるアル殿に、私も驚く。

 アル殿って、二年生だったんだ……それでこんなに立派なのは凄いな、なんて思いながら先に進もうとした時、私の脳裏に強烈なデジャヴを感じ、歩みが止まる。

 

 突然止まった私に、アル殿が疑問を浮かべた顔で、見てくる。

 

 

「ミチル……先輩、どうしたのかしら?」

 

「ミチルでいいよ? この廊下、それにこの間取りに見覚えが合って」

 

「分かったわ! それで、何処かで見たことがあるの?こんな廃墟よくありそうだけど……」

 

「うん……もしかしたら、ここの壁を押せば……」

 

 

 私の記憶が正しかったら、この何の変哲もない壁のとある場所を叩くと……。

 私が壁を五回ノックすると、叩いた場所の真横が地響きを伴いながら、動き出し、通路が現れる。

 

 

「ミチルよく分かったわね……? これが忍者スキルって奴かしら……」

 

「……やっぱりこれ、『かまぼこ突風伝』……?」

 

「かまぼこ……? あぁ、前にイズナが読んでた漫画ね? 主人公のあのガッツは凄くカッコよかったわ」

 

「え、アル殿知ってるの!? ここをクリアしたら、色々お話しよ! 一先ず……ここは、私に任せて! 全部覚えてるから!」

 

 

 思いがけない発見をしたけど、今は何よりも脱出をしなきゃ、アル殿の手を取って、仕掛けと隠し通路を見分けながら、進んでいく。

 キッチンを触ろうとしたら、軽い爆発が起きたり、茶菓子に手を付けたら出れなくなる客室だったり……ゲヘナの生徒さんも多くいたけど、その子達をどんどん抜いて、あっという間にゴールにたどり着く。

 

 

「「ゴール!!」」

 

「遅かったな、二人とも」

 

 

 ゴールの門の先に、先生が立っているのが目についた。

 

 

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 ──────

 

 

「先生殿……」

 

「あー、二人ともー。 二人とも先に飛び出しちゃうから、困っちゃったよ……とりあえずクリアおめでとー! 報告しに行ってくるねー!」

 

「カエデもカンカンだったぜ? 怪我は……したみたいだが、無事みたいだな」

 

 

 二人の面を見れば、何があったのかは大体察しがついた。

 アルも、ミチルに対してはどうにも冷たい態度を取ってたからな。

 

 それがどうだ、手を繋いでゴールインしてんだ。

 随分と時間が掛かったが……その時間に見合った結果は得られたようだった。

 

 

「部長……!! アル殿……!!」

 

「二人とも……御無事、でしたか……よかった……」

 

「イズナ、ツクヨ……あれ、イロハさんは……?」

 

「アイツも途中まで一緒だったんだが……通路でそれぞれ一人ずつ進む場所が合ってな、そこではぐれちまった。 ゴールがここな以上、いずれ来ると思ってたんだが……二人の方が速かったな」

 

 

 途中までは、ツクヨとイズナが前にミチルに借りたっていう漫画の記憶を元に進んでたんだが、あの狭い壁の間を一人ずつ進んでいく道は、運任せになってしまう。

 こういう運だけの勝負ってのは苦手だ。

 

 イロハは何だかんだで強い奴だ、大丈夫だろう。

 それよりも気になるのは、ミチルの顔つきだ、まるで何かを決意したかのような……。

 

 

「……ツクヨ、イズナ。 私、二人に話さないといけないことがあって……」

 

「……?」

 

「はい、どう、されました?」

 

 

 アルとの面談で、何があったのか。

 男子三日会わざれば刮目せよ、なんて言葉があるが……ガキなんてのはいつだって変われるもんだ。

 

 なら……その邪魔をされちゃ困るな。

 

 三人の様子を余所目に俺は元来た道の方へと進む。

 何やら騒ぎの後、スタッフの生徒達が現れ、隊列を組んでこっちに向かってきている。

 穏便な雰囲気でもねぇ。

 

 何故って?

 

 その先頭に立つ陰陽部、副部長のカホの面がそれを物語っているからだ。

 

 

「先生、そこを通して頂けませんか?」

 

「要件は分からんでもないが……少し待っちゃくれねぇか。 今大事なところなんだ」

 

「その要望は却下致します。 そもそも貴方達にも話を聞きたいところなんですが……それどころではないので」

 

 

 ……ニヤの奴、感づかれたか。

 というか、カホには何も言ってねぇのか?

 部下を信用してないんだが、それともそれすら楽しんでるのか……。

 俺たちの騒ぎに気付いたのか、ミチルたちもこっちに歩いてくる

 

 

「先生殿……? どうしたの……ってカホ」

 

「遅まきながら状況を把握しました。 公演は、現時点をもって中止です。 よりにもよって、交流会でこんな事態が起こるとは思いませんでしたし、どうしてこのタイミングまで誘拐の件についての連絡がなかったのか、お伺いしたいところではありますが……」

 

「うっ、えっと……それは……」

 

「それについては、一旦不問といたします。色々と頑張ってくださったような感じもありますし。 しかしそれもここまでです」

 

「あとはこっちに任せて、手を引けってことだな」

 

 

 俺の言葉にカホは頷いて答える。

 それが筋なのは百も千も承知なんだがな。

 

 生憎、合理で動けるほどこいつらは大人でもない。

 

 

「幸いにも、逃走中の『魑魅一座・気まぐれ流』の現在地は把握できています。 『ニヤニヤ教授』の計画で動いていると、捕縛した一座の一人から聞き出しましたので……ここから先は、陰陽部の管轄です。 百花繚乱も召集済みです」

 

「ニヤニヤ教授……? 聞いたことねぇ名前だな」

 

「おや、ご存じありませんでしたか。『キヴォトス犯罪界のマスター』、『完全犯罪コンサルタント』……先生の知る中だと、『七囚人脱走事件の首謀者』が一番理解できますかね?」

 

 

 七囚人……ワカモを脱走させた犯人か。

 まさか、やり口は大して知らないが……その冠された渾名はどうにも、懐かしいものを思い出す。

 

 犯罪コンサルタント、蜘蛛の糸のように張り巡らされた計画。

 ロンドンに巣食う闇を追いながら戦った、あの世界唯一の顧問探偵『シャーロック・ホームズ』。

 アイツのライバルになったあのガキ……『ジェームズ・モリアーティ』を俺は思い出した。

 

 どこに行っても似たような奴はいるもんだ。

 

 そのニヤニヤなる野郎がどんな奴かは知らねぇが、キヴォトス中の犯罪界のトップだ。

 余程の相手が背後にいると思うべきだろう。

 

 

「それでは──「ちょっと待ちなさい」……アルさん、そこを退いていただけると」

 

「断るわ」

 

「……そ、そうです! まだ、公演が失敗したわけでは……!」

 

「い、イズナからも、お願いします!」

 

 

 立ち去ろうと、俺たちを横切って進もうとしたカホの前に、アルは何の躊躇いもなく、自身の得物を広げて、カホの進行を止める。

 そして、アルに呼応するように、ツクヨとイズナがカホの前に立ち塞がった。

 

 

「あとは、魑魅一座を捕まえるだけなんでしょう……なら……どうか、このまま! ここまで、みんなで、力を合わせてきたんです!」

 

「その心意気は結構ですが……それは本当に、全員の総意なのですか?

 肝心な方だけ、先ほどから何も口にされていませんが……どうなのでしょうか、ミチルさん」

 

「……うっ……それ、は……」

 

 

 そのミチルの様子に、カホは大きく溜息をついて、厳しい目つきでハッキリと俺たちに突き付ける。

 

 

「色々問題があるので、外部的にはまだ公演は続いていることになっていますが、ハッキリと申し上げます。 公演は既に失敗です。 その後始末を、正式な部活でもない忍術研究部の皆さんに任せるわけにはいかないのです。 例えシャーレの協力があったとしても変わりません。

 

 もう一度申し上げます。 ここで手を引いてください。

 

 正式な部活になる方法なんて……他にもあるでしょう?」

 

 

 絶対零度よりも冷たい声で、カホはそう告げる。

 正論だ、あまりにも正しい。

 確かに外交問題になりつつある、今回の騒動をどこの馬の骨とも分からない奴らに任せるなんざ、あり得ない。

 こういう時の為に、治安部隊ってのはいるんだからな。

 

 何より、ミチルの顔が完全に折れちまっている。

 俯いていて、よく見えはしないが、姿が物語っている。

 アルと色々あったんだろう、それでも人のトラウマってのはそんな簡単に直るもんじゃない。

 

 

「確かに……カホの、言う通りかもしれない」

 

「ミチル……」

 

「部長……?」

 

 

 全員の視線が、ミチルに集まる。

 アルを始めとした三人の物悲しそうな視線と、やっぱりとでも言いたげな納得した視線のカホ。

 俺たちの視線を受けて、俯いていたミチルの顔が前を向いた時、俺は呆気にとられた。

 

 てっきり折れていたと思っていたが……。

 アルと何を話した?

 

 随分と……そうだな、アウトローな表情になってるじゃないか。

 

 ミチルは、そのままイズナや、ツクヨを守るようにカホに向かって歩き出して、そして口を開いた。

 

 

「私が欲張ったせいで、私のワガママのせいでこんな騒動を起こしてしまった。 私のせいで、今もあの子は……イブキは泣いているかもしれない」

 

「なら、ここは素直に──「だから!」

 

「私のワガママを押し通させてほしい! 私が始めたことだから、その責任は私に拭わせてほしい! ──「部長ばかり背負わないでください!」」

 

 

 そう言い切ったミチルに呼応するように、ツクヨが声を上げる。

 大きな声をあまり上げないツクヨがだ。

 

 

「カホさんが、部長のやり方に苦言を呈するのも、貴方の言い分が正しいことも分かります。 私は……何も知りません、世の中の事も……忍者のことも。 体が大きいだけの……出来ないことだらけの私には、何にも分かりません。 どうして、申請書のことを、私とイズナちゃんに言わないのかも……。 でも今はそんなこと……どうでもいいんです!!

 

 部長、私達、三人で約束したじゃないですか……!! イブキちゃんに……

 

「約、束……」

 

「そうです……怖がらないでって、『何があっても絶対に助けに行く』って! 

 

 忍者の鉄則その参!『忍者とは一度交わした約束は──「必ず守るもの』、です!」

 

 私たちは三人で、『忍術研究部』なんです! イズナちゃんも、私も、部長も……三人で『忍術研究部』なんです!」

 

 

 ツクヨと、イズナはミチルの隣に向かって歩き出し、並び立つ。

 まるで一人じゃないと、言いたいように、言葉ではなく行動で示した。

 

 その姿を見たアルは呟く。

 

 

「全く、羨ましいくらい良い後輩がいるじゃないのお馬鹿さん……」

 

 

 尤も、この光景を見たカホは面白いものではないだろう。

 要するに、その公務を正面から妨害するってことなんだからな。

 

 

「なるほど……つまり、引き下がれない、と……仕方ありませんね。 ならばこちらも、実力行使とさせていただきます」

 

「悪いな、カホ。お前さんは間違っちゃいないぜ。 でもそれだけじゃないんだ、世界はな」

 

 

 カホが手を上げると同時に、スタッフの生徒がアサルトライフルを持って、一斉に駆け出す。

 その姿を見た俺が、懐からマグナムを引き抜くよりも早く、イズナは駆け出し、先頭の生徒を蹴り抜く。

 

 

「出し惜しみはしません、忍者のカッコよさ刮目してください! イズナ流忍法……奥義! 『ぷくぷくの術』!

 

 

 素早く手印を組んだイズナが、そう言いながら、吐息を吹き出すように息を出すと、そこから大量の水が生徒達を洗い流す。

 無からどうやってここまでの水を……激流も目じゃないってレベルだ。

 

 忍術を発動したイズナの隙を狙って、生徒の一人が銃口を構える。

 

 俺が撃ち抜こうとするよりも前に、その生徒の前に立って銃口を握りしめた人物がいる。

 

 

「イズナちゃん、には……指一本触れさせ、ません!」

 

 

 引き金が引かれ、放たれる弾に怯むことなく、銃口を振り回して、軽い掛け声と共に投げられた生徒は他の奴らを巻き添えにして、なぎ倒される。

 体格は俺よりもデケェ……下手したら今まで見てきた生徒の中でも一番デカいであろうツクヨだったが、予想通りのフィジカルの持ち主だったか。

 俺のマグナムと、アルのスナイパーライフルによる援護がありつつも、かなりの数がいるスタッフの生徒を完全に抑えて、互角以上の戦況が展開で来ている。

 

 

「なるほど……これが噂に聞く『先生』の──「それは違うぜ、カホ」」

 

「これは俺の力なんかじゃない、忍者たちの諦めねぇ根性の力だ」

 

 

 そうだろ、ミチル。

 

 数が減るまで少し潜伏していたミチルは、好機と見たか、カホの頭上に跳びあがり、レミントンM870の下に『マスターキー』を備えた異様なショットガンを手に突っ込む。

 

 と言っても、相手は陰陽部の副部長、ただのインテリって訳でもねぇ。

 地面に移る影を見て、ミチルに気が付いたカホは、自分の持つ64式小銃を取り出し、構える。

 

 

「甘いんですよ、ミチルさん。 諦めてください」

 

「……分かってるよ! そんなこと! 捌け!『地獄忍魔刀』!」

 

 

 てっきり装飾だと思っていた、腰に携えた小刀を抜いたミチルは放たれる弾丸を切り伏せてカホへと落下していく。

 

 自分の元に落下してくるのを分かっていたカホは、後ろへと飛び去り、着地の瞬間を狙う。

 

 

「ツクヨー!!」

 

「はい……!」

 

 

 この次の行動は俺にも想像が付かなかったな。

 もし仮に、俺が初見で喰らったら傷を負わされてただろう。

 

 落下のタイミングを合わせて、横になったミチルの足の裏をツクヨが掴み、勢いよく押し出す。

 

 

「カホ、私が諦めるのを……諦めて!!」

 

 

 その行動に驚きながらもカホは引き金を引く。

 再び弾を切り伏せながら、ミチルはスライディングを行い……ショットガンをカホのお腹に押し当てた状態で停止する。

 

 

「勝負ありだな」

 

「……一つ聞かせてください、ツクヨさん」

 

「は、はい!」

 

「……どうしてそこまでするのですか?ミチルさんも、正式な部活になる方法は、幾らでもあるでしょう?」

 

 

 カホは自分の銃を捨てて、ツクヨへと問い質す。

 態々、公務執行妨害で縄につくかもしれないリスクを踏んでも、なんでこの方法を取ったのか。

 それが彼女にとっては疑問だったんだろう。

 

 この問いに対して、ツクヨは直ぐに答えを出した。

 

 

「それは、簡単です……。 私は、部長が決めた事に、ついていきたいだけですから……例え部長が、何を、考えていたとしても。」

 

「イズナも同じくです」

 

「二人共……」

 

 

 二人の言葉に、ミチルは少し涙を零す。

 立派な後輩を持っているな、アイツは。

 

 

「私たちは、それを信頼しますし、蔑ろにはしたくありません。 何故なら……さっきも言った通り、私たちは『忍術研究部』なので……! それに何となくわかってるんです。

 

 軽薄で、欲張りで、見栄っ張りで……その上、どうしようもなく、いつも行き当たりばったりで……!

 でもそれはいいんです。 だって、それに負けないくらい、忍者が大好きで、私たちの為にって、いつも頑張ってくれてる部長だから……。

 

 だから……。

 

 大好きで、尊敬しているんです!! だから、部長が信じる道を、行きます! 公演を成功させて、正式な部活に、なりたいんです!」

 

 

 全く、本当に立派な後輩だぜ、あいつらは。

 どうしようもないところも含めて、それでも大好きだから、自分の居場所を作ってくれた先輩についていくと決めたから……か。

 

 

「イブキ殿との約束も! イズナ達の願いも! どれも譲れません! 必ずや叶えてみせます!」

 

「はい! それが忍者ですから!……ですよね、部長?」

 

「ツクヨ、イズナ……二人共ぉ……うん!」

 

 

 その様子を見ていたアルが、母親が手のかかる娘たちを見守るかのような表情で見つめていた。

 それを言えば、アルは否定するだろうが……似合うな。

 ツクヨの答えを聞いたカホは、納得したようなそんな顔で、ゆっくりと頷いた。

 

 そんな少しだけ穏やかな雰囲気が流れる中、それを破るように遠くからエンジンの音が聞こえる。

 そして、ゴールの真横の壁が爆破されて、そこから万魔殿のエンブレムが貼られた戦車が飛び出してくる。

 

 呆気にとられる間もなく、ハッチが開き、そこからカエデとイロハが顔を覗かせた。

 

 

「派手な登場シーンだな、お前さんら」

 

「えぇ、先生好みでしょう?」

 

 

 イロハは、ゲヘナ生らしい笑みを見せながらそう答える。

 確かに俺好みではあるが……トリックハウスの修繕費はそれなりに嵩みそうだ。

 大方、マコト持ちになるだろうから、別にいいがな。

 

 

「迷子になってたから連れてきたよ! いやぁ、それにしてもなんか知らない間に戦車が準備されててさ、ビックリしたよ」

 

「あのトリックハウスを彷徨う中で気が付きました……どうして馬鹿正直に、自分の足で走っていたのか……と。 改めて、イブキを助けに行きます。 まさか折れてませんよね?」

 

「あ、あのちょっと待ってください、イロハさん。これの修繕費は──「マコト先輩にツケてください」」

 

 

 イロハの登場と破壊されたトリックハウスの様相に、ショックを受けているカホをイロハはバッサリと切り捨てて、再び戦車の中に入る。

 何というべきか……カホが可哀想に思えるな、まぁ仕事柄仕方ないもんだろう。

 

 

「イズナ、ツクヨ……アル殿も、先生……行こう!!」

 

「さっきまで泣いてた子が、全く……アウトローになったわね」

 

「全くだな、さっさと乗り込め!」

 

 

 トリックハウスの対応を押し付けられたカホを置いて、俺たちはイロハの戦車に乗り込んで進んでいく。

 

 

「ティーガーⅠか。 にしても随分とハイテクな内装だな」

 

「外装と武装はそうですね。 元傭兵である先生からして如何でしょうか? 私の自慢である万魔殿の奥の手『超無敵鉄甲虎丸』は」

 

「その名前つけたの誰だ……?──「マコト先輩です」あいつ、ネーミングセンスはねぇんだな……。 速度も装甲も悪くねぇ、相手にはしたくねぇな」

 

「戦車に素手で挑もうとしてることには、ツッコんだ方がいいですか?」

 

「イロハさん、先生はそういう人よ」

 

 

 夏の砂浜で、ヘリを十数台撃ち落とした女に言われたくはねぇが……俺がこの虎丸と戦うのなら、『.357Kaiser弾』は必要になるだろう。

 キヴォトスに最初に来た時にも戦車とはやり合ったが、どこぞのチンピラが持っていた戦車と違って、こいつは学園のトップが持ってる戦車だ、あの時ほど楽に勝てるような相手じゃねぇだろう。

 

 

「それで、ミチル。アルと何があったんだ?」

 

「えっ、えっとそれは……──「女同士の秘密よ」」

 

「ケッ、言うようになったな、アル」

 

 

 移動中、ミチルにあの変わりように対して聞こうとしたが、それをアルに阻止される。

 アルの奴め、随分と口が上手くなったもんだ。

 これ以上追及すれば、俺が野暮ってもんだ。

 

 そうして、虎丸の中で揺すられていると、戦車の中からも聞こえるほどの爆発音が聞こえる。

 

 

「何があった!!」

 

「先生……魑魅一座が、向かった先の橋が、爆破されました……!」

 

「おおおっ! イズナ、先生の活躍の中で見た事あります! 追撃戦の王道ですね!」

 

「イズナ、お前もDVDとやらを見たのか……車ならともかく戦車か……速度をつけるだけじゃ無理だな」

 

 

 ツクヨの報告にイズナが嬉しそうに言ったが、それは今は置いておこう。

 車で爆破された橋を飛ぶくらいは何度もしてきたが、今回は戦車だ。

 こいつを浮かせるとなれば……。

 

 あれしかないな。

 

 

「イロハ」

 

「えぇ、恐らく同じことを思いついてるでしょう」

 

「え? 先生、何をするつもりなのかしら?」

 

「運転は私がやります、先生は砲身の旋回と射撃をお願いします」

 

「先生殿、イロハ殿……まさか!!」

 

「そのまさかだ、真後ろに放った砲弾の爆風でこいつを浮かせる」

 

「な、ななな、何ですってーーー!!! ──「アル、お前さんの神秘使うからお前もこっちに来い」」

 

 

 ミチルとアルが抱き合いながら、仲良く悲鳴を上げたが、念には念をだ、アルの神秘を使ってより勢いを増させる。

 引き剥がしたアルを連れて、射撃の準備を行っていく。

 最新式の戦車を扱うのは初めてだが、使い方自体は大方同じだ。

 

 アルに弾丸を渡して神秘を込めてもらい、それを砲身へ装填する。

 砲身の旋回は……ハンドルもあるが、180度旋回のボタンがあるとはな、何でもかんでも便利にするのは嫌いだが、今回ばかりは助かるな。

 

 なにせ、イロハがアクセルベタ踏みで突っ込んでるもんでな、こっちも急がなくちゃなんねぇ。

 

 

「橋まで残り100m!」

 

「アル、合わせろ」

 

「残り50m!」

 

「うぅ……分かったわよ!覚悟決めたわ!」

 

「……今!」

 

 

 発射ボタンを押すと同時に、爆風が車体を押し上げ、さらに時間差でアルの神秘が発動。

 

 大爆発と共に、勢いよく虎丸が宙に浮く感覚が全身に走る。

 

 そして、途方もない数秒を乗り越え、着地の衝撃が再び俺たちの全身に襲いかかる。

 

 

「だ、大丈夫か……お前ら……」

 

「い、イズナ、もうヘロヘロです……」

 

「せ、戦車、初めて乗ったのですが……あんなに怖い物、だったんですね」

 

「うぇ……もう疲れた……」

 

 

 イズナとツクヨ、それにカエデは完全にグロッキーらしい。

 俺もそれなりの修羅場を乗り越えてきたが、それでもかなり身体に負担がかかった。

 それでもこうして動けるのはアロナ様々だ。

 

 

「先生……イブキのこと、どうか……」

 

「ごめんなさい、先生……ちょっと私も少し休むわ……ミチル、託したわよ」

 

 

 ぐったりしているイロハとアルを安静にさせてから、ふらつきながらもなんとか立ったミチルと共に戦車の外へと出て、あいつらが逃げ込んだであろう、城の最上部を目指して走り出す。

 

 

「行こう、先生殿。約束を、果たすために……!」

 

 

 ゴールまであと少しだ。

 

 古風な城の中を進んでいくと、声が聞こえる。

 あの声は魑魅一座のリーダーの奴だな。

 

 

「陰陽部の部長……!! 映像投影だと!!」

 

『にゃははは! さぁさぁ、公演もついに大詰め。最後の最後に笑うのは、一体誰なのでしょう~?』

 

「それは、俺たちだ」

 

「はぁ……はぁ……ふぅ……。 お姫様、返してもらうよ……!」

 

 

 だんだん腹が立ってきたな。ニヤの奴、これが終わったら問い詰めてやる……。

 

 最上階に辿り着いた俺とミチルは、夕陽に照らされながら、息を整えて、並び立つ。

 ミチルの奴、緊張でもしてるのか?

 

 

「ミチル」

 

「な、なに先生殿、もしかして何か妙案とかある?」

 

「今回の主役はテメェだ、譲るぜ」

 

「えっ……!?」

 

 

 ミチルはぽかんと口を開くが、何を驚いてるんだかな。

 イブキと約束したのはお前さんだろうに。

 だから、俺はここから動かねぇよ。

 

 その意思を感じ取ったのか、ミチルは銃と小刀を取り出して、一歩踏みしめて、魑魅一座に近づく。

 

 

「ええいっ、それ以上近づくな!」

 

 

 そういうと、部下に命じて、イブキを連れて、城の廻縁へと歩きだし、高欄を蹴り破って、そこにイブキを近づける。

 

 

「この姫を、投げ落とされたくなかったらな……!」

 

『おおっと、白熱してまいりました~! 筋書き通りなんでしょうが、あの発言はOKなのでしょうか~?』

 

「あぁもう!筋書きだとかなんだとか、うるさいぞ陰陽部!」

 

「外野がうるさいのは、嫌われるぜ、ニヤ」

 

『先生までー……シクシク。仕方ないので、後はこの緊張感を味わってもらいましょう!』

 

 

 気が抜けるというべきか……ニヤの奴、とことん苦手だアイツは……。

 

 それよりも、ミチルの方が問題だ。

 イズナをあぁも人質にされてしまえば動きづらいもんだろう。

 

 銃と刀を持つ手に力が籠って、震え始めるのが見える。

 

 余りにも重い責任と、勢いではどうにもならない状況を、目の前に何も出来なくなっちまうのは……若さゆえだ。

 でもな、お前さんのした約束の前に比べりゃ……どうってことないだろ?

 

 

「あれ……忍者のおねえちゃん?」

 

「あ、イブキ……!」

 

「やっぱり忍者のおねえちゃんだ! イブキ、ちゃんとおとなしくしてたよ!」

 

 

 目が覚めたイブキは、可愛らしい爛漫な笑顔でミチルに向かって手を振る。

 それに驚いたミチルは、呆気にとられながら口を開く。

 

 

「え……全然泣いてない」

 

「え?なんで?」

 

「え、あの、いや、誘拐されたんだし、凄く怖かったんじゃないかなーって……」

 

「全然そんなこと無いよ! だって──」

 

 

 そう言って、イブキは懐から貸してもらった『ニンペロさんの人形』を取り出して、それを見えやすいように掲げる。

 

 

『何があっても絶対に助けに行くって』、約束してくれたから!」

 

「はっはっはっ! ミチル、あれよりも重いものなんかこの世にあるか?」

 

「……そうだね、何一つとしてないよ! イブキ、そこで待っててね、今忍者が助けるから!」

 

 

 そう言って、決意を固めたミチルが、また一歩前に歩いていく。

 ゆっくり力強い足取りで、まっすぐ進む。

 

 その姿を見たリーダーが焦った口調で声を荒げる。

 

 

「と、止まれ!下手に動いたら、この子の安全は保障しないぞ!? う、嘘じゃないからな!? それ以上来たら、本当に……!!」

 

 

 そんな言葉で、ミチルが……忍者が止まるわけがないだろう。

 脅しなんて効くわけがない。

 

 ただ、ここで全員の想定が崩れる。

 

 城はその標高上、どうしても風が強くなる。

 つまり……風に吹かれたイブキが、その足を滑らせてしまう。

 

 

「イブキ……!!」

 

 

 ミチルの声と共に、俺も走り出す。

 このままじゃどうやっても間に合わねぇ。

 

 そんな中で、ミチルは自分が落ちることもいとわずに走り続け、そして拙くも印を結ぶ。

 

 

「ミチル流……忍法!!『爆炎大ジャンプの術』!!」

 

 

 そう叫んだミチルは、口を膨らませると、跳び上がり、宙返りをしながら、頭が下になったタイミングで、その口から花火を吹き出し、花火による爆破の反動で加速しながら大きく吹き飛ぶ。

 

 

「捕まえた!!!」

 

 

 爆破に煽られながら、俺も遅れて飛び出し、イブキを抱きしめて捕まえたミチルの足を片手で掴み、もう片方の手で床を掴んで、引き上げようとする。

 

 

「あははっ! イブキ捕まっちゃったー!」

 

「うん! もう大丈夫、後は先生殿に引き上げてもらえば……」

 

 

 イブキの元気な声を聴きながら、腕に力を入れると、木製の床から嫌な音が聞こえる。

 まるで軋むような……。

 

「……え゛」

 

 まさか、さっきの爆発か?

 いや、あれがなくちゃ、イブキを助けられなかったからな、責める気はないが……。

 

 そう思うもつかの間、掴んでいた床の部分が崩れる。

 

 夕焼けに照らされながら、俺たちは宙へと堕ちていく。

 

 

「うぎゃあああっ!!?? お、落ちる落ちる落ちる!!」

 

 

 俺は、大きな声であいつらに助けを求めた。

 二人の事だ、とっくに回復してるだろ。

 

 

「アル、イズナぁああ!!!」

 

「先生!!!」

 

「主殿!! お待たせいたしました!! これぞ、百八式・影分身の術の応用編!! 名付けて『イズナ橋の術』!!」

 

 

 落ちていく俺の腕を、紐のように繋がった大量のイズナとその先に繋がったアルが掴む。

 流石、俺の仲間だ。

 

 

「ツクヨ殿ー! 間に合いました!! お願いします!!」

 

「うん、分かったよ!」

 

 

 そう言うと、一気に引き上げられ、俺たちは無事に元居た場所に辿り着く。

 流石に冷や汗を掻いたな。

 

 床に座る俺に背中合わせながら、大きく息を吐きだしたミチルが座り込む。

 

 

「し、死ぬかと思ったあぁぁぁぁあ……!! あ、イブキ大丈夫!?」

 

「うん! 忍者のおねえちゃんたち、助けてくれてありがとう!!」

 

「……良かった」

 

 

 イブキに笑顔でお礼を言われたミチルは、恥ずかしそうにでも誇らしげに笑った。

 その様子を眺めながら、ツクヨもイブキに話しかける。

 

 

「はい、約束、しましたから……忍者の鉄則、です!」

 

「忍術研究部の大勝利ですね! 二ンニン!」

 

 

 イブキがそう笑顔で締めた中で、アルの姿が見えねぇと思ったら、この機に乗じて逃げ出そうとしていた魑魅一座に向けて銃を構えて、制圧していた。

 

 

「……どこに行く気かしら? 貴女達に次の機会なんて無いわよ」

 

「えぇ、アルさんの言う通りです。 イブキを巻き込んだ罪は重いですよ」

 

 

 後から追いかけてきたイロハに挟まれて……まぁ、こっちも如何にか一段落ってところだな。

 

 

 

 こうして、大騒ぎになった今回の騒動。

 

 表向きには、公演の一環として処理された。

 

 

 俺は、シャーレの執務室で、後回しにしていた仕事を熟しながら、振り返る。

 

 まずは、マコトについてだ。

 

 これはさっき来たイロハからのメッセージに書かれていたことだが……マコトは、イブキが巻き込まれるのは知らなかったらしい。

 しかし先生が付いていくことを予め知らされていたマコトはニヤと共に、今回の騒動を見ていたらしく、その理由も『ニヤの言う秘密兵器の活躍をこの目で確かめたかったから』だそうだ。

 

 ニヤの言う秘密兵器……つまり、忍術研究部の事だろう。

 俺とアルの援護があったとは言え、陰陽部の部隊をたった三人で制圧させた実力は確かに驚異的だ。

 まさか、あいつらの実力をテストしていたのか?

 

 マコトの話に戻るが……。

 メッセージにはあたふたと包帯を持って走り回るイブキと、顔面がたんこぶだらけになったマコト、そして握りこぶしを見せるイロハが映った写真が同封されていた。

 

 妥当だな。

 

 また、そのイブキの服には、黒いニンペロの人形が繋がっている。

 忍術研究部とイブキとのつながりを示す、そんなものだろう。

 

 そして主役だった忍術研究部についてだが……。

 

 

 

「先生殿!!ちょっと匿って!!」

 

「助けてください……!先生!!」

 

「ピンチなんです!!」

 

「俺に拒否権はねぇのか」

 

「えっ……見殺しに……」

 

「冗談だ。話は聞いてるぜ?」

 

 

 俺とアルが仕事をしているところに、忍術研究部の三人が現れる。

 なんだか、イズナが他の二人を紹介しに来た時を思い出すな。

 

 

「あれだろ、今回の騒動の修繕費を請求されたんだったな。なんだ?カホに追われてるのか?」

 

「そう!! 請求額が八桁!! せめてさぁ、戦車が壊した方は万魔殿のと折半だと思わない!?」

 

「はっはっはっ! お前さんらは騒ぎに事欠かねぇな」

 

「それ褒めてないでしょ!!」

 

「先生? イズナもいるんだし、言ったらどうなの?」

 

 

 向かい側の席で仕事をしていたアルに俺は話しかけられる。

 そうだな、丁度全員揃ってることだし……何より、金が入り用らしいしな。

 

 俺はミチルとツクヨにそれぞれ一枚の紙を渡す。

 

 

「先生殿……これは?」

 

「うちの秘密部隊……まぁ、便利屋とイズナが入ってる組織の加入届だ。うちには何かと依頼が舞い込んできてな。それを優先的に受けてほしいって訳だが……金が要るんだろ? どうだ?」

 

 

 イズナを任せてもいいと、俺はミチルたちの事を信用した。

 だからこそ、アルと話し合ってこいつらにこの紙を渡すことを決めた。

 断ったっていい、それでも俺たちはミチルとツクヨを信用したことに変わりはない。

 

 その紙をじっと見ていたミチルは、申し訳なさそうな顔で俺の事を見つめる。

 

 

「その……私が入っていいのかな……あんなに迷惑かけたのに……」

 

 

 その言葉を聞いた俺とアルは、顔を見合わせて大きな声で笑い始める。

 

 呆気にとられたミチルは、だんだんと恥ずかしそうに顔を赤らめながら、声を少しだけ荒げる。

 

 

「ちょ、ちょっとそんなに笑わなくていいじゃん!!」

 

「あぁ……笑ったなぁ、気にするなよ。終わったことは全て笑いごとだぜ。大きく笑い飛ばしていけよ」

 

「そうよ、全員怪我せずに終わったじゃない?」

 

「でも、みっともないところも、沢山見せちゃったし……」

 

「ガキの世話はしたかねぇが……今のお前は違うだろ? 部長さんよ」

 

 

 俺がそう言うと、恥ずかしそうにミチルは頭を掻きながら、少し俯いた後、前を向く。

 どうやら部活のことについて、一つ決めたらしいな。

 

 

「そう、それについてなんだけどさ……あの日帰ってから、イズナとツクヨと、相談したの。 正式な部活にするには、まだ勇気が足りないっていうか……あぁ言ったのに、アル殿から背中押してもらったのに……」

 

「気にしないで、ミチルがそう決めたのなら何も言わないわよ」

 

「……うん! ありがとう、アル殿」

 

「聞くまでもないけど……イズナと、ツクヨはいいのかしら?」

 

「もちろんです! 部長がそう決めたのならイズナは何も気にしません!」

 

「私も、イズナちゃんと……同じです、あの日と答えは変わりません……!」

 

 

 アルが、イズナとツクヨに問いかけるも、二人は直ぐに答えを出す。

 何の迷いもなく……か。

 

 

「ふふっ、流石ね」

 

「ほんと、私には勿体ないくらいの後輩たちだよ」

 

「……それで、俺たちとしては何の問題もねぇが。どうする、ミチル、ツクヨ」

 

 

 俺は二人に問いかける。

 

 二人は顔を見合わせると、目配せをして、大きく頷く。

 そして俺の方を向く。

 

 

「先生殿の御用命あらば、このミチル、力を振ってみせよう!」

 

「つ、つまり……アルさんも先生も、これから、よろしくお願い、します!」

 

 

 こうして……シャーレに新たな仲間を迎えて、この話は幕を閉じた。

 

 

 

 

 と、そう言いたかったが、この話はここでは終わらない。

 

 

 あの後、俺は再び渦巻映画村に呼び出された。

 一人で、そして時間帯は夜だ。

 

 その呼び出し主の名前は……。

 

 

「ニヤ。俺もお前さんに会いたかったところなんだ」

 

「ひゅぅぅ~♪ 何とも熱い言葉ですねぇ……にゃははは!」

 

 

 渦巻映画村から少し外れた道を歩いていると、気配を感じ、そういうと、いつの間にか隣に現れた少女が話し出す。

 

 陰陽部、部長の天地ニヤ。

 

 不穏な空気を纏った彼女は、変わらないにやけ面を俺に向ける。

 

 

「いやはや、シャーレのご協力もあって、無事に交流会も終わりましたわ。お力添え、感謝しますよ~♪」

 

「はっ……無事に……か。 全部仕組んだテメェに言われても、皮肉にしか聞こえねぇな」

 

「おや、探り合い何ていらないと、随分とまぁ直球ですねぇ……ちなみに証拠は?」

 

 

 手に持った扇で俺の顎を上げながら、ニヤは俺の懐へと近づく。

 俺の腰に携えたマグナムに伸びる手を掴んで、止めながら、俺は懐から札を取り出し、それをマグナムに伸びた手に掴ませる。

 

 

「どういう仕組みかは知らねぇが、お前さんはこれで俺たちと魑魅一座の行動を見ていた。 それがあのスタッフルームにもあった上に、あのイブキを攫ったときの魑魅一座の計画……あれは事前に警備の位置と俺とアルの情報を知ってなくちゃ出来ねぇ代物だ」

 

 

 魑魅一座の一人が御丁寧に教えてくれたからな。

 

 

 ──計画に上がってた黒スーツの男と赤髪の女だ!

 

 

 これは、俺たちが予めあそこにいると知らなきゃ分からねぇ情報だ。

 それを知っているのは、依頼を受けるときに陰陽部の部室に居たメンバーだけ。

 

 

「魑魅一座に俺とアルの情報を流した上で、計画を丸々立てれるほどの頭のキレる人物……お前さんくらいだろ」

 

「カホを疑わず真っ先に私に……人望がありませんねぇ……シクシク」

 

「ありゃそういう企みは出来ねぇ真面目ちゃんだろう。それとも後輩を身代わりに差し出したいってことか?」

 

「……にゃはは。そう言われると弱いですねぇ。 流石先生、バッチリ花丸、ご名答~♪」

 

 

 ニヤはそう言うと俺の手に持っていた札を持つと、それを紙吹雪へと変え、空へ舞わせる。

 様子からして、悪びれてねぇなこいつ。

 

 

「先生は、『六神通』って知っとります?」

 

「俺はそういうオカルティックなものには興味がねぇんだ」

 

「そうですか……まぁ、さっきの札を介して予想通り、先生たちの動きも全部何もかも見てましたわ」

 

「そうか、それよりも随分とハッキリと答えるんだな」

 

「まぁ、隠すこともその必要もありませんからねぇ。 そもそも私は、ただ『シャーレ』の力をこの目で見たかっただけです」

 

 

 そういうと、彼女は俺の周りを回りながら、変わらない声色でそう話す。

 ただ、言ってる内容は、さっきと打って変わって真面目になっている。

 これが、本来の天地ニヤって女なんだろうな。

 

 とことんてめぇの要領の良さと賢さに自惚れてやがる。

 

 

「忍術研究部……でしたっけ? まぁ、傍目から見ている分には、面白そうな子達でしたが……にゃはは、そう怒らないでくださいよ。 それにしてもあんな子達を連れて、本当にお姫様を救い出せるなんて……。 あの連れていた赤髪の子、陸八魔アルさん、あの子も中々ですねぇ。噂通りの噂以上でした、流石はシャーレの先生、感激しましたわ」

 

「…………」

 

「にゃはは、どんなお気持ちですか? 全ての犯人が判明して、嫌なお気持ちですか? それとも、散々人を振り回しておいて、嗤っている場合か……とか?」

 

 

 そこまで言ったニヤに対して、俺は溜息をつきながら、口を開く。

 

 

「ニヤ」

 

「はいはい?」

 

「お前さん、悪役ぶるんじゃねぇよ」

 

「へ?」

 

「お前さんのあの計画、あれミチルの自尊心の回復も狙ってただろ」

 

「え、えっとそれは……」

 

 

 今のでハッキリしたが、こいつは正真正銘人の心を読める。

 ただし、それはミモリみてぇに感情をベースにしたもんじゃなく、あくまでも文字として読めるってところか?

 そうじゃねぇなら、俺が抱いている的外れな感情を言葉にするはずがない。

 

 ただ、文字として読めるなら、あの時のミチルが抱いていた焦りやその自信のなさは読めていたのだろう。

 だから、マコトに態々紹介しつつも、こうして他の部活と絡ませるような計画を立てた。

 

 

「それを恥ずかしがってんだか知らねぇが、悪ぶって……俺を怒らせたかったか?」

 

「いやぁ……あの、形式上、その様式美として今の私『ザ・黒幕』みたいなムーブをしたんですけど」

 

「あぁ、あまりにも王道すぎるもんだからな、逆に嘘っぽいぜ」

 

「そ、そんなぁ……」

 

「それよりもだ、お前さん『ニヤニヤ教授』の名前を騙っただろ」

 

 

 俺が、こいつに感じていた感情は二つ。

 

 悪役ぶっていることに対する呆れ。

 そして、悪党の名を騙ったことに対する心配だ。

 

 俺たちの世界じゃ、人の名前を騙るのはご法度。

 

 偽物のルパン……は過去に一度であったことがあるが、そいつも死んだ。

 仮に俺の名を騙る偽物が現れたら、俺もそいつの命を狙う。

 

 

「俺たち悪党はネームバリューってのが大事でな……お前さんは他人の名前を騙った上に、そいつに失敗の二文字の泥の塗った」

 

「つ、つまり……」

 

「お前さん、夜道には気を付けろよ。俺なら全力で殺しに行く」

 

「あの、ちなみに……先生が助けてくれたりとか……」

 

「てめぇのケツはてめぇで拭きな」

 

 

 そう言うと俺は、ニヤに背中を見せて歩き始めようとする。

 しかしそれもすぐ出来なくなる。

 ニヤが俺に泣きついてきたからだ。

 

 

「せ、先生ぇ……!」

 

 

 嘘くさいというか、ある程度分かってたことだろうにな。

 

 ……しばらく仕事もねぇし、それに忍術研究部の借金もあるからな。

 

 

 こうして少しの間、ニヤのボディーガードをすることになったが……特に何事も無く、また普段の日常に戻るのだった。

 

 

 これで、今度こそ、本当に、めでたしめでたし。

 

 

 




燃えよ忍術研究部

~完~


御こぼれ話として、ニヤの神秘について、彼女の固有名は『天狗』。
世にも珍しい、鍛えなければ効果を発揮しない力で、彼女は六神通の内、どこへでも自由に行き来する『神足通』。一切の事柄を見通せる『天眼通』。あらゆる遠くの音、声を聞き分ける『天耳通』。 そして他人の心を読む『他心通』を扱えます。
そして、その神秘を札に込めることで、他人でも一部使えたりできるのですな。




また、このお話で、なんと投稿一周年を迎えることになりました!!

多方面にご迷惑をおかけしながらも、ここまで続けてこれたのはひとえに普段から読んでくださる皆様の応援あってのことです。
何せ三日坊主の見切り発車で始めたこの物語が、ここまで続くとは一年前思いもしませんでした。
いつも、感想、評価、ここすきなどしてくださり、誠にありがとうございます!
そろそろ処女作だのと言い訳できない世知らずではございますが、最後まで共に次元先生の行く末を見届けて頂ければ幸いです!

次回はいよいよ、最終編、オリチャーも入れながら、この物語にピリオドを打つつもりで頑張ります!

それでは、ここすき、感想、評価、お待ちしております!

今の話のタイトルが分かりにくいとの意見を得て変更するか否か

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