1-1 相棒との記憶
気持ちのいい天気だ。
陽光は暖かく、こうして窓の近くの席でゆっくりと日向ぼっこをしているだけで……眠たくなるもんだ。
一つ、大きく欠伸をしてから俺はそのまま瞳を閉じて、眠りに着こうとする。
ここ最近は書類仕事ばっかりで、面白いことが何一つ起きやしねぇからな。
スリルがねぇのは……先生の仕事からすればいい事かもしれないけど、オレとしては退屈で仕方ない。
意識がまどろんで、夢の中へといざない始める。
まぁ……オレは夢を見ないんだが。
気が付くとオレの身体が揺すられる。
危険な気配がないから、恐らく生徒の誰かだろう。
「ん、先生起きて……先生!起きないと金庫の中身貰う!」
「それは困るな……シロコ」
「寝てる先生が悪い。『寝込みは襲え』でしょ?」
瞼を開けると、銀髪の少女がお出迎えしてくれる。
尤も話してることは物騒なんだけどなぁ。
全く先生の言う事をよく聞くいい子だよこの子は。
「シロコ、どうした? 今日は当番じゃねぇだろ?」
「ん、忘れるところだった。 先生、新しい銀行強盗の計画を練ったの。見てくれない?」
「よし来た、見せてくれ」
シロコから渡された紙の束、それはシラトリ区中央銀行の地図と、綿密に練られた計画書だ。
初めて見たときも思ったが、砂狼シロコ……こいつは天性の泥棒だ。
まぁ、それ言った時はアヤネに殴られちまったけども、あれから俺による手ほどきを受けて、益々腕を上げている。
あんまレディをこっちの道に誘うもんじゃねぇんだけどなぁ、それにまだ子供だしよ。
それでも、思わず欲しくなっちまう。
きっとあの二人もこいつの事を気に入るはずだ。
まぁ相棒は怒りそうだけどな。
ま、オレが説得するからいいとして、シラトリ区中央銀行はキヴォトスの中でも屈指のセキュリティを持った銀行だ。
24時間の監視と赤外線センサー、これは当然として、経営時間終了後は全てのエリアの床に電流とセンサーが張り巡らされる。
こいつが厄介で、監視員が使う特殊なコーティングのされた靴以外の何かが地面に触れた瞬間、ヴァルキューレに警報が入るようになっている。
その上キヴォトスの連中でも気絶するレベルの電流も常時流れてるんだから、厄介な話さ。
通称『電流の牢獄』。
このシステムの前に何人もの泥棒とチンピラが敗北を喫してきた。
「シロコ、お前ここを狙うのか?」
「そう。卒業試験なら妥当でしょ」
「そりゃそうだけどよ……こいつはお前さんにもちと荷が重いんじゃねぇか?」
「むっ、先生。また私のこと舐めてる……」
「シロコ、お前の腕は認めてるけどよ──「先生、私は先生の相棒だよ。ならこれは相応しいと思わない?」……はぁ、分かったよ。オレの根負けだ。ならもうちょい計画を練りな……ほれ、こことか、警備員の行動パターンの把握が疎かになってるぜ?」
オレが指摘をし始めると、シロコは直ぐにメモを取り出して、それを書き留めていく。
真面目な女だ。
ま、そういう頑固で仕事に真面目だから、オレも根負けしちまったんだけどな。
そうして、シロコの計画にお節介を焼いていると、またドアが開かれる。
今日は随分と来訪が多い。
空のような青い髪にピンクのインナーカラー。
白い円環と煌めく青い十字のヘイロー。
連邦生徒会のなかでもその服を着れる人物はただ一人。
「大物のご登場……だな、どうした?仕事なら終わらせたぜ?」
「そういう叱る役割は私じゃなくてリンちゃんの方ですよ、先生」
「じゃあサボりか? リンに怒られちゃうぞ~?」
「生徒と一緒に銀行強盗の計画立ててる先生に言われたくないでーす。リンちゃんにチクってあげましょうか?」
「分かった分かった! それは勘弁してくれよ~■■■。いちごミルクでどうだ?」
「カステラは?──「分かった、百鬼夜行のやつ買ってくるよ」では、それで手を打ちましょう」
連邦生徒会の長……全生徒の代表であり、オレがこのキヴォトスに招かれて、最初に出会った生徒。
超常的な力と処理能力、未来でも見えてるのかってレベルの先読み……それに加えてこの人の心に簡単に入り込んでくる人相、今まで会ってきた奴で、一番相手にしたくない人間だ。
とっつあんは、居なくちゃつまらねぇ相手であって、こいつはオレにしたくない相手ってところだな。
「それで、普段お忙しいはずのアンタが俺に何の用だ?」
「そうでした、実は先生が持ってるシッテムの箱のAIちゃんに用があったんです。砂狼シロコさん、少し先生をお借りしても?」
「ん、分かった。先生が居なくても仕事が出来なくちゃ、一人前には成れないから」
「ふふっ、頑張ってくださいね」
アンタが泥棒の応援してどうすんだって思うが、あくまでも生徒の味方って訳か。
考えてることがイマイチ読めねぇ。
こいつは時折、こうやってフラッと来てはオレにお願い事をして、またどこかに行っちまう。
オレがカワイ子ちゃんに弱いってのをよく分かってやがる。
溜息を吐きつつ、オレは別室へと向かっていく。
平和ってのは退屈だが……まぁ、悪い気はしない。
オレも随分とスリル以外の味に慣れちまったもんだ……相棒に笑われちまうな。
それでも、ガキ達がこうやって幸せに過ごせる日々が続けばいい。
そんな甘いことをオレは感じていた。
あの瞬間まで、ずっと……。
それは雨が降る憂鬱な日だった。
体に出来たヒビに冷たい雨水が沁み、痛みが走る。
黒いドレスに身を包んだ銀髪の少女がオレに向かって銃口を構える。
随分と大きくなって、成長したが、それでもオレがその顔を忘れるわけがない。
「シロコか……? 見ないうちに別嬪になったな」
「…………」
「シロコ、お前に何が──「先生、危ない!!!」っ!」
誰かがオレを突き飛ばす。
地面を転がり、飛ばされた方を見ると■■■がオレを突き飛ばし、その体に無数の銃弾が打ち付けられる瞬間を目の当たりにした。
日常が。
軌跡が。
当たり前が壊れていく音が聞こえた。
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これは、既に終わった物語。
0よりも前。
プロローグよりもさらに前。
既に終わり、そして始まる前の物語。
Vol.Final-1
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熱い日差しが降り注ぐ。
乾いた風が肌に砂を吹き付けてくる。
俺が今いるのは、アビドスの辺境……そうアビドス砂漠だ。
車を走らせてここまで来たが、目的はお宝探しだ。
アル達には内緒で来ているが、この広い砂漠を何の手がかりも無しに探すのは自殺行為に等しい。
俺はそこまでバカでもねぇしな。
そこで俺は秘密兵器を取り出す。
以前、エンジニア部のウタハから貰った『簡易式神秘測定くん四号』。
この筒に映った物の神秘をザックリと測れるもんだ。
具体的に話すなら神秘の有無とその量を光やモヤのような視覚的表現として見ることが出来る。
下手な数値を出された所で、基準を知らねぇ俺からしたら、こういう抽象的なもので見れた方が助かるからな。
ウタハの優しさが伺える代物だ。
そして、この砂漠で俺が探し出そうとしているものは、カイザーインダストリーが今も尚探している代物。
この世界の遥か昔に生み出され、今はこのアビドス砂漠の何処かにあるっていう超兵器『ウトナピシュティムの本船』。
恐らく神秘を多量に含んでるんだろうからな、こいつで見つけられるだろうってことでここまで来たわけだ。
車の屋根に腰掛けて、俺は筒から外の景色を眺める。
ベージュの砂漠がただただ広がるだけだが……ピピッと機械音声が鳴ったかと思えば、その砂に広がるように黒い煌めきが見えだした。
まるで何処か一点から広がっていくような、俺が今いるこの場所は砂漠の端に位置するが、奥に進めば進むほどその色はどんどん濃くなっている。
「ビンゴ、大当たりだな」
運転席に滑り込み、エンジンを駆ける。
アクセルを吹かせて、車を一気に加速させる。
アル達を連れてこなかった理由は、幾つかあるが大きな理由が一つある。
この案件にはカイザーインダストリーが絡んでいる。
アル達便利屋は、シャーレの預かりになってる以上、万が一この仕事の中でカイザーと相手することになると色々面倒になる。
俺一人ならどうとでも出来る。
アルが知ったら悲しみそうだが……まぁこれはこれ、それはそれだ。
こうして一人で運転をするのも久しぶりだ。
何せ、普段は便利屋の誰かを一緒に乗せて運転してるからな。
そうじゃない場合は、当番の生徒を乗せたりな。
お陰様でシケモクを置いておくことすら出来ねぇ。
俺のライフワークバランスがボロボロだぜ。
片目に簡易測定以下略の道具をつけて運転してるが、半透明の黒い煌めきがどんどん濃くなってくる。
それなりに距離が空いているはずだろ?
どんだけの神秘を持ってるんだ、その本船って奴はよ……。
「これはウタハに頼んで改良を頼まないといけねぇかもしれねぇな。ん……?」
そうして走らせながらぼやいていると、道具から見える視界に変化が現れる。
黒の中を走る橙色の津波のような巨大と言わざるを得ないほどの神秘。
それが砂漠を走り……いや、これは泳いでいる?
視界の意識を現実の砂漠を見ている方に移すと、前方500m先の方に砂を巻き上げながら移動している何かが見える。
神秘の動きからして一個体のはずだが……まるで何かの大規模な群れの大移動を見ているようなそんな錯覚に陥る。
あんなにデカい存在は早々いねぇからな。
神秘の動きに異変が起きる。
止まったかと思えば、地中深くに潜り込んでいく。
そして、俺の方に向かって突き進んで……気付かれたなこれは!
「退屈しねぇな、この世界は!!」
アクセルを離し、すぐさまクラッチを踏み、セカンド、サードと切り替える。
そしてハンドルを切って、180度回りながら、オーバートップへと切り替え、アクセルを踏み込むと同時にロープを引いて、オーバーチャージャーを作動させる。
爆発的な加速と共に全身に強烈なGが掛かる。
急いで距離を稼いでいくと、真後ろから派手な音と共に大量の砂が打ち上がる。
そして見えるあの橙色の神秘の正体を。
「機械……なのか?」
サイドミラーを覗き込み、俺は思わず言葉を失う。
超巨大な大蛇のような姿をした全身を淡いオレンジ色に発光させたロボット。
ただそのロボットの頭上には巨大なヘイローが浮かびあがっている。
何時だったか、ヒマリが言っていた言葉を俺は思い出していた。
────『神秘』、それはこのキヴォトスにある普遍的なエネルギーの総称です。
────ここにある物体や人物、その誰しもの体内に備わっており、それらが規定値を越えると『ヘイロー』と呼ばれる器官が出現します。
つまり、ヒマリの言葉を信じるなら、あの巨大なロボットは巨大な神秘の塊ってわけだ。
あのロボットが俺の事を見つめている。
機械の顔色なんざあるはずがねぇが、まるで野生の動物を怒らせちまったかのような、そんな最悪な気配を感じる。
大きく上を向いたかと思えば、地響きかのような低い遠吠えを発し、その体の側面から大量のミサイルを発射してくる。
完全に敵だと思われてるな。
ミサイルの着弾地点を予測しながら、ハンドルを切って走らせていく。
「この程度なら避けることくらい余裕だ、っての……」
ビナーの口に光が集まっていく。
その巨大な高熱エネルギーの塊を見て、俺は言葉を再び失う。
冗談じゃねぇ、あんなもの喰らったら怪我どころか……抵抗しようにもマグナムじゃ火力不足なのは目に見えてる。
これなら対物ライフルくらいは担いでくるんだったな!
あのバカみたいなエネルギーが放たれるよりも前に速度をさらに上げていき、ハンドルを切って蛇行運転を続ける。
あれだけのエネルギーを放とうとしてるんだ、自由に出来るわけがねぇと思いたいが……。
そう思うも束の間、地面に向かって、ロボットがビームを放ち、真っ直ぐ首を振り上げて、熱線による一閃を砂漠に刻み込む。
蛇行中に放ってくれたもんだから、回避できたが……砂の地面に残る炎と僅かに煌めく硝子化した砂粒が、あの一撃の威力を物語っている。
どうやら追ってくる様子はないが……。
一つ確信を得た。
カイザーが用意していたあの軍隊と兵器の数々は、あの化け物に対して用意したもんだ。
ただ、あの化け物が生きてるってことは……通用しなかったって訳だ。
これは、俺一人じゃどうにもならねぇな。
どうしたもんか……。
そう考えていると、ふと端末に連絡が入る。
「アロナ、誰からだ?」
『えっと、ミレニアムのヒマリさんからですね』
「ヒマリ……か」
確か超常現象捜査部の部長もしていたはずだったな……。
あのロボットはどう考えたって、それに該当するだろう。
なら……少し聞いてみるとするか。
戦略的撤退のち、次は反撃の時間だ。
砂漠の大蛇、その上機械製。
これだからハイテクは苦手なんだ。
アロナ、お前を悪く言いたいわけではなくてな?
次回 砂漠の主
いちごミルクで手を打ってくれねぇか?
最終編、早速オリチャーってマジですか?
マジなんですなこれが。
では、感想、ここすき、評価、よろしくお願いいたします!
今の話のタイトルが分かりにくいとの意見を得て変更するか否か
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例:殺し屋の矜持
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例:1-10
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例:1-10 殺し屋の矜持