「銭形さん!? ……先生どうするのよ、逃げれるかしら」
「カイザーだけなら囲まれても如何にか出来たが……銭形がいるのなら話は別だ。 一旦捕まるしかねぇな」
両手を上に上げて、俺たちは大人しく降参を選ぶ。
アルにも言ったが、カイザーだけならどうとでもなる。
だが、銭形。アイツは話が違う、アイツの目を見る限りどうやら本気らしいしな。
にしても、銭形がカイザーと組むのは想定外中の想定外も良いところだ。
「では、車はレッカーしつつ、身柄はこちらが確保という形でよろしいですかな。プレジデントさん」
「えぇ、それで構わないとも」
銭形は、隣にいた黒いスーツに杖を持ったアンドロイド。
カイザープレジデントにそう問いかけた。
あれが、カイザーコーポレーションの重鎮、PMC理事をアビドス派遣した黒幕か。
「初めまして、シャーレの先生。私の名はプレジデント。カイザーコーポレーションの代表取締役だ」
「アンタが……それで、殺人ってのはどういうことだ。カイザーPMC理事の事か? おたくの会社から恩赦が来てたからな、飲み込んでるもんだと思ってたが……」
「カイザーPMC理事? ふっふっふ……そんな識別番号の人物は我々カイザーコーポレーションには存在しない。 貴様の罪状はただの民間人を殺しただけに過ぎないのだよ。 銭形殿……いやヴァルキューレに協力する形で我々はここに来ただけだとも」
「……そういうことか」
カイザーコーポレーション、アビドスとの一件で死んだPMC理事の討伐を含めて恩赦を出していた。
ただ……どういう訳か知らねぇが、そもそもPMC理事なんて人物の記録を全て抹消して、俺を民間人を撃ち殺した殺人犯に仕立て上げたらしい。
恐らくこのアビドス砂漠の地下に眠るお宝をスムーズに手に入れるためだろう。
厄介なことをしてくれたもんだ。
ヴァルキューレとカイザーコーポレーションの繋がりは未だ消えていない。
向こうが断るはずもねぇ。
銭形が近づいて、俺達の手に手錠をかける。
「おい、銭形。お前なんだってあんな奴と手を組んだ。らしくねぇ真似しやがって……」
「…………では、本官はこれにて」
「ご苦労、銭形殿。予定の場所に収容してくれ」
「…………」
プレジデントの言葉に、ただ沈黙の敬礼を返すことで返事をして銭形は俺たちを車に乗せて連れ出していく。
車を破壊されなかったのは助かるが……何もかも奪いやがって…………。
銭形は俺たちを監視するためか、車の収容室に入り、俯いて黙り込んでいる。
暫く移動したのち、銭形は前を向いて口を開いた。
「……ここなら問題ないだろう」
「さっきの質問まだ答えてもらってねぇぞ」
「貴様がここでも手を汚していたのには驚いたが……概ね理由は知っている」
「じゃあ、何でとっつあんが手を汚してるんだよ」
「強いて言えば、部下の手を汚させないためだ」
「一応先生なんでな、シャーレとして詳しく聞かせてくれ」
少し考えたのち、銭形はゆっくりと口を開き、そして話始める。
俺たちが兎を捕まえたり、忍術研究部とお姫様を救い出しに行っていた、あの間一体何があったのか。
これは銭形から見たキヴォトスの世界だ。
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「全員敬礼!!」
公安局の全員が、カンナの号令と同時に敬礼を行う。
服の擦れた音すら合った綺麗な敬礼、公安局の風紀の良さが成すものか、それともカンナの指導が成すものなのか。
そのどちらであったとしても彼が行うことに変わりはない。
「既に話は聞いているかと思うが、今日から我々の教官となる銭形警部だ。 銭形警部、挨拶をお願いします」
「うむ、ご紹介に預かりました、ICPOの銭形だ。 つい先日キヴォトスに来たばかりで、土地勘も無いが出来る限りのことを諸君らに叩き込むつもりだ。よろしく頼む」
拍手で締められた挨拶も早々に、カンナが銭形の元へと近寄り話しかける。
「ルパン捜査の任の中、こうしてご指導頂き感謝致します」
「構わん、成り行きだこれも。 それよりも、何だ、頬は大丈夫か?」
「はい、これでも頑丈な方なので」
銭形は頬を掻きながら、心配そうに聞いたがカンナの言葉を聞いて、すぐにほっとしたような表情を取る。
殴り倒した手前、女の顔に傷がつくのを心配していたらしい。
「そうか、ならいい。それで、俺は何をしたらいい」
「そうですね。書類仕事が主ですが……射撃訓練などの地力の方をお願いできれば」
「そうか、それは助かる! そっちさえよかったら現場仕事も振ってくれ」
「は、はい、ありがとうございます!」
歯を見せながら笑いかけてきた銭形に対して、ここまで協力的だと思ってなかったのか驚きながらカンナは敬礼をする。
敬礼を返したのちに銭形は、公安局室の中にいる生徒達を見回しながら、観察している。
そうしていく内に一人の生徒に目が留まった。
「随分と服装が緩い奴もいるんだな」
「あぁ、副局長の事ですか」
「ん?姉御呼んだっすか?」
渋い顔をしながらお茶を飲んでいたアロハシャツの少女、副局長である志真コノカが新聞片手に歩いてくる。
「ほう、副局長なのか」
「そうっすよ。公安局副局長の志真コノカっす。偉そうには見えないって感じっすか?まぁよく言われるっすね」
「いや……細身だが、よく鍛えられた足と腕をしている。それに歩き方に警戒心と何かあった際にすぐに対応できる備えが見られる。それを見れば現場での叩き上げで育った警官なのがよく分かる。 服装には気を配った方がいいが……部外者がとやかく言うのは違うだろう」
「……へぇ、思ったよりも観察眼あるんすね。警部さん」
「俺も現場派だからな」
お互いの顔を見つめながら、二ッと笑うとコノカは銭形に提案する。
「そうっすか……あ、これから訓練があるんすけど、良かったら見に来ますか?」
「俺は構わないが……」
銭形がカンナの事を見る。
仕事の内容としては問題ないが、予定されていたものにいきなり加わっても問題ないか確認を取る意図だったのだろう。
「問題ないですよ」
「よーし、それじゃ早速出発。 おーい、そこのお前たちもどうせヒマだろ~、訓練行くぞ」
「え゛っ!? 今日の訓練は──「はいはい文句言わない副局長命令な。さっさと装備持って移動開始」」
近くで休憩していた生徒の肩に手を置いたコノカは、部下を引きずりながら先頭を歩き始める。
そのパワハラぶりに苦笑しながら銭形も彼女たちの後をついていく。
そうして移動したのはヴァルキューレが保有している運動場だった。
真砂土製の地面は硬く、日差しを反射して立っているだけで少し汗ばんでくるほどだ。
「今日から訓練にはこの警部さんも一緒にやることになったから、お前ら気を引き締めろよ」
「はいっ!」
「じゃ、まずは準備運動で、装備を付けたままランニング50周! 先頭を走るあたしに追いつかれたら、あとでバービーを追いつかれた回数×5回やってもらうから」
「は……はい……」
「随分とスパルタだな」
コノカが淡々と課した準備運動と表したスパルタな訓練に、元気に返事を返していたヴァルキューレの生徒達の声が気だるそうになる。
この運動場は一周が200mある。
それを50周、つまりは10㎞走ることになるが……それを準備運動などというのだから、それを聞いていた銭形も思わず言葉を零してしまう。
それを聞いたコノカが、目を細めながら銭形に対して話しかける。
「足を鍛えといて損はないんで、警部さんもやるっすよね?」
その目を見た銭形は、少し考え込んだ後大きく頷く。
その眼差しが、自分を試している推し量っているのだと気が付いたのだろう。
尤も、それに気が付いたのはこの場で彼くらいなものだろうが。
「あぁ、もちろんだ。しかし折角だ、俺が先頭を走ろう」
「いいんすか? じゃあお願いするっす」
集団の先頭に立った銭形の隣にコノカも並ぶ。
さっき自分が先頭を走るといったばかりなのに、態々隣に来たコノカを見るが特に何も言わずにいつものスーツ姿で走り始める合図を待つ。
「じゃ、よーいスタート!」
コノカが空に向かって号砲のピストル音を鳴らすと同時に、一斉に走り始める。
コノカは銃を投げ捨てながら、ランニングのペースで走るが、前を見るとほぼ短距離走のペースで走り続ける銭形を目にして、思わず苦笑する。
あの速度で走り続ければ50周するよりも前に、体力が尽きるのが定石だ。
あくまでも自分のペースで走りながら、様子を見ていると、5周時点であっという間に最後尾を走っていた生徒を抜かし、今や中位の位置を走りながら変わらないペースで走り続けている。
「……マジっすか」
そう呟くと、コノカも速度を上げ始めて、銭形の後ろまで再び距離を詰めていく。
それでもそのペースを維持するのが難しいのか、少し距離を離される。
残り35周。
「うぉぉぉぉ!! 根性ぉ!!」
「っ! がっはっはっはっは! いいぞ志真!その調子だ!」
自分の後ろを勢いよく走りながら、食らいついてくるコノカの声を聴いて少し後ろを見たのちに大声で笑い始めながら、速度を変えずに走って行く。
残り25周。
「あの二人……化け物すぎ……」
「ねぇ……何回抜かれた……?」
「23……だと思う、間違ってたら殴られるから合ってるはず……」
二人が爆走している姿を遠い目で眺めながら盾とショットガンを担いで走っている生徒たちは、恐らく過去最高のバービー数に怯えながらこれ以上増やさないように必死に走って行く。
残り15周。
「追い……つかねぇ……!!」
「どうしたどうした! それじゃあ、犯罪者は捕まえられないぞ!」
汗を垂らしながら銭形の後ろを走っていくコノカは、その縮まらない距離と前を走る男の異常な体力に驚きを感じている。
話自体は事前にカンナから聞かされていた、自分よりも圧倒的に強いカンナを殴り飛ばせるほどの力の持ち主だと。
局長の事は信頼してるし尊敬している、それでもつい最近までのカンナの不調には気が付いていた。
幾ら局長とは言え、不調の状態なら殴り飛ばされるものだとそう思っていたが……。
「うぉぉぉぉおおおお!!!!」
脳裏を過った嫌な予感を雄叫びと、大地を踏みしめる足に全集中して吹き飛ばす。
残り一周。
「凄、あの二人途中からずっとダッシュで……あ、副局長が追いつきそう」
「残り100m……! 副局長ぉ!いっけぇ!!!」
後ろを走るヴァルキューレの生徒たちが、先頭を走る二人をみて思わず叫ぶ。
その白熱した走りに感化されて応援し始める。
走りながらではあるが……その歩みも遅くなっている。
決して既に50×5のバービーが確定したからというわけではない。
追い上げていたコノカが銭形に肉薄していく。
コノカの駆けていく足がどんどん速くなり銭形の横に並ぶ。
残り50m。
「「根性ォ!!!」」
叫びながら二人がゴールラインを踏みしめる。
「ゴール!! 二人共すご! 誰かどっちが先にゴールしたか見た?」
「見てたけど……あれ、同時だったよね」
ゴールの勢いのまま地面を転がるコノカに対して、少し肩で息をしていた銭形が近付き、手を差し伸べる。
「やるな、まさか追いつかれるとは思わなかったぞ」
「ぜーッ、ぜーッ……教官、体力どうなってんすか……」
「がーはっはっはっは! ルパン逮捕には知恵もだが、ここ一番の体力が一番必要だからな!」
「はぁ、はぁっ……そうっすか……」
座り込むコノカに冷たい水の入ったペットボトルを差し出しながら、走っている生徒達を眺める。
そうして、二人で座りながら水を飲んでいると沈黙に耐えかねたのかコノカが銭形に質問をする。
「教官のその体力はルパンって人を逮捕するために鍛えたものなんすか?」
「あぁ、そうだな。俺の警察人生は全てアイツの逮捕に捧げていると言っても過言じゃない」
「……どうしてそこまで?」
「それが正しいことだと信じているからだ。間違いなくアイツの盗みの技術は世界一だ。 そんな才能ある人間を日陰者で終わらせるわけにはいかない。 俺はな、キチンと刑に服して出所したアイツと綺麗な酒を酌み交わしたいんだ」
そういって銭形は水を飲む。
その横顔を見つめていたコノカも同じように水を飲み、考え込む。
「凄いっすね……まるで恋してるみたいっす」
「なっ、こ、恋だと!?」
「だってそうじゃないっすか、犯罪者をそこまで想えるなんて……あたしには無い発想っすよ」
「違うっ!! 俺があんな犯罪者の女ったらしの嘘吐きを──「あはは、冗談っすよ……半分は」半分じゃなくて全部にしろ!!」
銭形の反応をみて、大笑いをしながらコノカは零れた涙を指でぬぐい取って、少しだけ真面目な顔で走る部下たちを見る。
「うちの後輩に一人、教官みたいな奴がいるんすよ」
「俺みたいな奴?」
「『慈愛の怪盗』……まぁ、そういう二つ名が付いた泥棒をずっと追い続けて、バカみたいにド直球な奴っすよ。多分気が合うんじゃないんすかね?」
「へぇ! そいつは楽しみだな」
「何なら呼びましょうか? 巡回中だと思うんで」
「巡回してるのなら勤務中だろう──「いいんすよ、どうせヒマしてる奴も多いんで」」
そう言うとコノカは懐からスマホを取り出し、電話をし始める。
その緩さに銭形は少し眉を細めつつも、青い顔でバービーをし始めた生徒達を見守っている。
「あ、レイミちゃん? 良かった今ヒマ? 前に先生が言ってたこと覚えてるっすか? そうそう、いるんすよ運動場に、この後実戦訓練するから……はーい、じゃあ待ってるっすよ」
「随分と早かったな」
「丁度休憩中だったみたいだったんで、急いでくるって言ってましたっすね」
コノカが笑いかけながら、立ち上がると部下たちの前に歩き出す。
「バービー終わった奴から休憩! その後は実戦訓練を行うからしっかり休めよ!」
「はー……い」
これが準備運動だったことを思い出した銭形は、既に意気消沈しているヴァルキューレの生徒達を見て、苦笑しながら戻ってきたコノカに話しかける。
「志真。実戦訓練は何をするんだ?」
「そうっすね、盾持ちの子はそれ使いながらの格闘訓練とか射撃訓練とかっす。教官のところは何をしてたんすか?」
「ICPOに上がってからは現場仕事ばっかだったが……警察の頃は柔道とか剣道をしていたな」
「柔道……百鬼夜行の文化でそんなのがあったような……随分と古典的なことしてるんすね」
「逮捕なら使い物になるからな。俺のところじゃ、弾丸一つで死ぬケースもある。気になるなら教えてやろうか?」
「銃ばかりじゃ駄目ですし、後でぜひお願いするっす」
こんな硬い土で大丈夫かと思ったが、記憶の中にある知識がキヴォトスの人の頑丈さを思い出させる。
何故こんな知識が記憶にあるのか、それに困惑すら覚えていない自分がいる事、概ねこの世界で先生をやっている彼に原因があるのだろうと思いながら、厳しくフォームの訂正を行っているコノカを見ながら、休憩をしていると終わったのであろうヴァルキューレの生徒達が、銭形の周りに集まって来る。
「ん?なんだお前ら」
「教官って彼女とかいないんですか?」
「な、何だお前ら急に……恋人か。俺にはそう言うのはいないな。興味がないわけではないが、それ以上にやらなくちゃならないことがあるからな」
「仕事熱心なんですね」
「デカだからな、お前らもそうだろ?」
「あははは……そ、それよりもあんなにコノカ先輩とあっという間に仲良くなるなんてすごいですね」
その言葉に銭形は首を傾げる。
確かに彼女の目線には人を試すようなものと少しでも自分の人となりを知ろうとする観察眼が含まれていたのには気が付いていたが、それでも態々言われるほどのものかと思ってしまう。
「コノカ先輩ってあんな感じですけど、すっごい用心深く人を見るんで……あんなにほとんど初対面で楽しそうな先輩初めて見ました」
「へぇ、そうなのか……まぁよく分からんが」
「そうですよ、だって──「だって? まだ走り足りなかった感じかなぁ?」い、いえ充分です失礼します!!」
いつの間にか生徒達の背後に来ていたコノカが、脅しながら声をかけると蜘蛛の子を散らすように離れていく。
そこまでする必要はなかっただろうと思いながらも、隣に座りこんできたコノカを見ると、コノカは頬を少し掻きながら恥ずかしそうに笑う。
「すみません、うちの馬鹿共が」
「構わん、好かれてるんだな」
「あはは、まぁそうっすね。仕事振って来るからこうして扱いてやってるだけっすよ」
「そうか……まぁ仲良くやってるのならそれでいいだろう。 俺にも部下がいるが……苦労するだろう」
「ま、あたしはカンナの姉御を苦労させてるんで、どっこいどっこいっすよ」
「それは俺もだな」
自分の部下である八咫の事を思い出しながら、銭形は束の間の平穏を噛み締めるのだった。
銭形だ。
俺の勘が囁き続けるルパンの気配
それを無視するわけじゃないが、俺もこの世界に興味を持ってしまった
折角だ、鍛え上げたヴァルキューレの生徒達と一緒に追い詰めてやる!
次回 二文の銭
待っていろルパン!
切りが良いので今回はここまで
とっつあんの体力は幾ら盛ってもいいってばっちゃんが言ってましたので
次回は、タイトルの通りですな
随分と前の事にはなりますが、拙作をスレなどで薦めてくれた方がいらっしゃるようで、捜索の方も勿論の事ですが、大変ありがたい話でございます……この場を借りてお礼申し上げます
最後に、評価・感想・ここすきお待ちしております
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例:殺し屋の矜持
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