新任教師『次元大介』   作:レイゴン

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1-5 二文の銭

 青空の下、体育座りで並ぶヴァルキューレの生徒達の前に彼は立っていた。

 彼の名前は銭形幸一、ICPOの敏腕刑事であり、そして日々ルパン三世を追いかけ続ける世界唯一のルパン選任捜索官だ。

 

 そんな彼は、その看板を少しの間下し、次の正義の芽であるヴァルキューレの生徒達の為の教官をやっている。

 

 

「準備運動も終わったことなんで、早速実戦訓練を行うっす。普段なら射撃訓練もするんすけど……折角教官もいる事なので、教官流でやってもらうっす」

 

「俺のところだと、道着に着替えて柔道を中心にした武術の練習を行っていた……が、ここの教育プログラムは随分と実戦的なようだ。だから、ここは俺流でやることにするぞ。 今からやるのは逮捕術の一つ、柔道だ。こいつは、銃が手元にない場合、どうしても発砲出来ない場合、そういう時、殺傷せずに犯罪者を捕まえる際に有用なものだ」

 

「教官! 柔道ってなんですか?」

 

 

 ヴァルキューレの生徒の一人が手を上げて質問をする。

 コノカの言い分では、百鬼夜行連合学院にて伝わる文化の一つ程度の物らしく銃社会であり、そもそも銭形達のいた世界とは違うこのキヴォトスにも存在している時点で凄いものだが、知らないのも無理はない。

 

 

「そうだな、口で言うよりもまずは見せた方が早いだろう。 この中で一番力があるやつは誰だ?」

 

「多分あたしっすね」

 

 

 隣に立っているコノカが頬を掻きながら、そう話す。

 

 

「そうか、なら好きなタイミングでいい。思いっきり殴ってこい」

 

「え、そんなことしたら教官大変なんじゃ」

 

「俺は思いっきり殴れと言ったんだ。気にせず来い」

 

 

 いきなり手加減無しで殴り掛かれと言われたコノカは、少し焦りながらも距離を取る。

 カンナから散々キヴォトスの外から来た大人の脆さは話されている。

 特に先生は、銃弾一発で死にかけたと聞かされていた。

 

 目の前に立つ銭形の底知れない体力は分かっているが……それを加味しても大丈夫なのかと少し心配してしまう。

 

 思いっきり殴れと言われたが、少しだけ手加減をして、コノカは飛び込みながら、銭形に対して右ストレートを放つ。

 

 半身になりながら、縦拳によるコンパクトな打撃は、相応の喧嘩馴れしたが故の合理性を持って、銭形の顔に向けられて放たれる。

 

 その瞬間、コノカは味わう。

 もっと強い力の流れに巻き込まれ、宙に浮く感覚。

 先ほどまで視界に捉えていたはずの銭形の姿が消えて、同時に足が地面を離れ、体が回転する。

 

 視界が回り、青空が見えた。

 

 その刹那、背中に伝わる強い衝撃。

 肺から空気が排出され、酸欠に似た感覚に陥る。

 

 

「コハッ……!?」

 

「これが柔道だ。 相手の力を用いて、相手を制す。 こういうのを試合じゃ『一本』なんていうがな、実戦においても致命的な隙を生み出せる」

 

「副局長が一瞬で……」

 

 

 手を離されると、そのまま大の字で伸びたコノカはしばらくしたのち、ゆっくりと立ち上がる。

 

 

「きょ、強烈な一撃だったっすね……」

 

「志真、手加減しただろう。お陰で変に打ち付けてしまったな」

 

「自己責任ってことっすか……それでこれを教えてもらえるってことっすかね」

 

「今のが背負い投げだが、これは少々リスクが高い。何故か分かるやつはいるか?」

 

「…………」

 

 

 銭形がそう聞くと、ひそひそ声が響く。

 自分たちの副局長をその一投でしばらくの間ノックダウンさせたのだ。

 そんな技をリスクが高い程度で済ませた。

 

 

「副局長のパンチを受け止めて、リスクが高いってどういうこと?」

 

「うーん……はい! 相手の拳を受け止めないといけないとか?」

 

「違うな、そもそもさっきは拳を掴んじゃいない。 あの技は、相手の腕を掴んで投げる技だ」

 

「えっ、違うの?」

 

 

 勇気ある生徒の一人が答えたが、バッサリと切られたため、再びうんうんと唸り始める。

 そうして、いい加減正解を言うかと銭形が諦めかけたころ、一人の声が響く。

 

 

「背中を見せるから……ですよね」

 

「正解だ。あの技は失敗した際に、無防備な背中を晒すことになる。 よく分かったな」

 

 

 このタイミングで正解が来るとは思っていなかったのか、驚いた銭形は越えの聞こえた来た方を見る。

 黒いコートを着込んだ茶色の長髪をポニーテールにした少女が、こちらに歩み寄っていた。

 

 

「あ、レイミちゃんようやく来たんすね」

 

「家にいましたので」

 

「志真、こいつは?」

 

「尾銭レイミ、休憩中話してた公安局と警備局を兼任してるあたしの後輩っす」

 

「お話は伺っております、尾銭レイミです! 本日はよろしくお願いします」

 

 

 敬礼をしたレイミの顔を見ながら銭形は、その首を傾げる。

 何処かであったことがあるような、当然そんなわけがないのだが、えも言われぬ親近感を彼女に覚える。

 

 

「そうか、よろしく頼むぞ。尾銭」

 

「はい!」

 

 

 威勢の良い挨拶を返した彼女は、そのまま他の生徒達と一緒に混ざって体育座りをして聞き手に回る。

 

 

「それで、今尾銭が言ったようにこいつは便利だが、一概に万能という訳でもない」

 

「じゃあ何を教えてくれるんすか?」

 

「全員には受け身と拘束に使える固技だな。 投げは俺が見込んだ奴にだけ教える」

 

「えー、ずるーい!!」

 

「ズルいとはなんだ、投技は下手すれば人の命に手が届く。 それに盾を持ちながらの投げ技を俺は知らんからな」

 

 

 文句を言うヴァルキューレの生徒達を一喝したのち、比較的体格のしっかりした生徒を一人、銭形は前に呼び出す。

 

 

「固技の講義を行う。痛くはしないようにするが……」

 

「うっす、力を込めればいいんですか?」

 

「あぁ、基本的に柔道は力の流れを制する技術だ。 例えば犯罪者が自分に向かって突撃してきたとしよう」

 

 

 目配せをすると、それを合図と受け取った生徒は銭形に向かって突進する。

 

 ラガーマンさながらの勢いと共に少女は、銭形の腰に向かって突っ込んでいく。

 それを確認した銭形は、ギリギリまで引き付けながら手が触れる直前に、真横へとステップを踏んで移動。

 走るその足を引っかけて、簡単に転ばせる。

 

 地面にうつぶせに倒れ込むと同時に銭形は、その背中に素早く両手を置いて自身の膝で押さえつけてしまう。

 

 

「逮捕術の基本は最小の打撃で相手を拘束することだ。 柔道を含めた幾つかの武道を混ぜたものを俺たち警察は習っていてな。 派手な投げ技が全てじゃない。 こうして力点をしっかり押さえてやれば……どうだ動けるか?」

 

「う、動けません……」

 

「こうして逮捕することが出来る……さて、二人組を作って交互に技をかける役、それから逃げる役を順番に行ってもらう」

 

 

 生徒の拘束を解いて、土汚れが付いている個所を叩いて落としてから、銭形は協力してくれた生徒を返す。

 

 二人組になったことを確認してから、生徒達に固技と受け身を軽く教えて、その練習を始めさせた。

 それぞれのペアを見回りながらアドバイスをしていく。

 

 

「あれ、抜けれた」

 

「腕の回しが甘いな、もう少し奥までしっかり持っていけ。犯罪者に遠慮はするな」

 

「は、はい!」

 

 

 体格の小さい者が大きい者を拘束するときのコツや、怪我を負わない打撃の受け方まで、銭形は親身に教える。

 そして、話されるアドバイスを直ぐに吸い取る彼女たちに、銭形も教えるのが楽しくなったのか、さらにアドバイスを送るという良い循環が行われている。

 

 

「尾銭は志真とペアだったか」

 

「バカ力同士のペアっすねぇ」

 

「他の子達だと体力とか筋力の関係で持ちませんもんね」

 

「志真はそうだな。さっきので分かっていたが、尾銭もなのか」

 

 

 副局長と彼女の推薦を受けた生徒である尾銭のペアのところに来た銭形は、尾銭の言葉に首を傾げた。

 確かにコノカの力は先ほど体験したばかりだったから理解しているが、目の前にいる妙に親近感の湧く少女がそこまでの物なのか、銭形は測りかねている。

 

 

「そうっすよ、レイミちゃんの腕力は私の次くらいにはあるっすからねぇ」

 

「まだまだ修行が足りませんけど……ありがとうございます」

 

「そうか、力があるのは良い事だ。 この仕事は腕っ節が決めてになるからな!」

 

 

 そう言って銭形は、少し彼女の事を見る。

 黒いコートの胸部分に妙な膨らみ、銃が仕込まれているのだろう。

 しかしそれ以上に目を引くものが彼女にはあった。

 

 

「尾銭、その腰のものは……」

 

「あぁ、これですか。特注の手投げ錠です。絶対に切れない縄で作ってもらったものでこれを投げて捕まえるんです」

 

「なんだと!?」

 

「まぁ確かに珍しい得物っすよね、ヴァルキューレ以外にも治安維持組織はいるっすけど……こんな変わったもの使うのなんて……あれ?」

 

 

 そう言ったコノカの口が止まった。

 その視線の先には、銭形が取り出したあるものが映っている。

 世界広しといえど、この手錠と投げ縄を組み合わせたものを扱う人間はそういないと言おうとしたばかりだったのに……。

 

 

「ジャッキーン、驚いたな尾銭。俺も同じ得物なんだ」

 

「世界って意外と狭いんすねぇ……」

 

「なんと……教官も同じだったんですね!」

 

「こいつの利便性に気づいてくれるとはなぁ……お前見る眼があるなぁ!」

 

 

 がっはっはと大口を開けて笑いながら、銭形は尾銭の背中を叩く。

 ついぞ後輩たちも使う事のなかった手錠の進化系、それをこんな場所で見るとは思わなかったのだろう。

 

 

「今日の訓練は終わり!装備を点検して、服の汚れも落としてから元の仕事に戻るように!」

 

「「「お疲れ様でした!」」」

 

 

 そんなことがありながら、実戦訓練は幕を閉じた……。

 

 

「銭形教官、少々よろしいでしょうか」

 

「尾銭か、どうした?」

 

 

 訓練が終わり、それぞれ休憩や事務作業に戻る中、尾銭が銭形の元に走って来る。

 

 真剣な顔つきで自身の元にやってきた彼女の顔を見て、昼飯をどこにするか悩んでいた銭形は思考を切り替えて、彼女の顔を見つめる。

 

 

「その、私と勝負してもらえませんか!」

 

「勝負だ?」

 

「はい、銃は使わず……どちらが先に相手を逮捕できるかという内容で……」

 

「俺は構わないが……休憩はいらんのか?」

 

「はい!」

 

 

 こうして急遽始まった勝負を観戦するものが2人。

 先に後輩達と施設内に戻っていたコノカ、そしてその横で珈琲の入ったマグカップ片手に見守るカンナだった。

 

 

「おーおー、なんか始まったっすね姉御」

 

「お前の予想通りだろう」

 

「あ、バレてたっすか? 絶対あぁなると思ったんすよね〜」

 

「レイミにはいい薬だろうが……全く」

 

「まぁまぁそう言わずに、姉御はどっちが勝つと思うっすか?」

 

「…………銭形警部だろうな」

 

 

 そう言って、カンナは少し温くなった珈琲を口に含んだ。

 

 公安局のトップ2人に見られているとも知らずに2人は再び運動場の真ん中まで歩く。

 

 

「尾銭、ルールは」

 

「銃の使用は禁止、先に相手を逮捕した方の勝ちでいかがでしょうか!」

 

「分かった。いつでも掛かってこい」

 

 

 腕を組んだ銭形がそう言うと、尾銭がステップを踏んで一気に肉薄していく。

 

 練習に参加する直前に見た副局長が宙を舞う姿。

 あの背負い投げという技は、腕を使った攻撃から派生するものだろうと推測した彼女は、銭形の軸足を刈り取るように体勢を低くして足払いを行う。

 

 当然それに対応して、銭形はその場で飛んだ。

 そしてその足を振り上げ、踵落としをレイミに向かって放つ。

 

 レイミが両腕を組んでそれを受け止めた。

 その姿を見て、銭形の口角が上がる。

 

 

「受け止めるか!」

 

「副局長に扱かれてるので!」

 

「それなら遠慮は無しで行こう! 言っておくが俺は古い人間だからな!」

 

「望むところです!」

 

 

 受け止められた状態で会話を交わすと、そのまま後ろに下がり銭形の方から近づく。

 手を伸ばし、レイミの腕を掴もうとする。

 

 掴まれたらどうなるのか分かっているレイミは近づく手を弾き、同じように銭形の服の襟を掴もうと腕を伸ばし、それを銭形が弾く。

 

 互いに相手の襟元を掴もうとする攻防が続き、今日見せたばかりの投げ技を目の前の少女が試そうとしていることに驚愕する。

 

 一度互いに距離を取り、横にステップを踏みながら互いの間合いを測る時間が続く。

 

 

「やるじゃないか、尾銭。今日始めたばかりとは思えないな!」

 

「ありがとうございます……!」

 

 

 そうレイミは返すが、冷や汗を浮かべる。

 格上との勝負なのは理解していたが、ここまで隙が無いとは思っていなかったのか。

 無暗に飛び込むのは愚策であり、隙を伺って伸ばした腕は悉く弾かれる。

 

 

「攻めの気配がないな? では俺からいくとしよう!」

 

 

 銭形の言葉が聞こえると同時に、彼が肉薄し、何度も手を伸ばしてくる。

 それを避け、自身の回避先を読んで掴もうとしてきた手の側面を裏拳で弾き、バックステップをしながら避けていく。

 

 

「そこ!」

 

 

 攻撃の一瞬の隙をついて放ったレイミの回し蹴りを、銭形はバク転しながら回避する。

 

 

「あれを避けるんですか……!」

 

「鍛えてるからな!」

 

 

 渾身の一撃のつもりだったが、それを軽く避けられてしまう。

 しかし意気消沈する間もなく、銭形が肉薄して、レイミの側頭部を狙って回し蹴りを放つ。

 腕による防御を行うが、その重さによろめき、背後を通って完全に襟を掴まれる。

 

 

「チェスト!」

 

 

 完全に体をぶっこ抜かれて、背中から地面に向かって投げ下ろされる。

 しかし、一度見ていたからこその対応だったのだろう。

 

 地面に背中が向かうよりも先に、レイミが両足を地面に向かって伸ばし着地する。

 

 そして、その勢いをバネに変えて銭形の首に絡みつき、彼の右腕を掴んで腕挫十字固へと移行しようとする……が。

 

 

「何っ!?」

 

「まさか背負い投げを返されるとは思わなかったぞ!」

 

 

 地面に押し倒すことが出来なかったのだ。

 完全に彼女の体重をその腕一本で支え、あろうことか彼女を遠くへと投げ飛ばす。

 

 受け身を取り、この日一番の返しを行った体力を戻しながらレイミは再び立ち上がる。

 

 

「完全に決まったと思ったんですがね……」

 

「俺の背負い投げを返されたのは初めてだ。 ルパン以外にはだがな! がっはっはっはっは!」

 

「は、はぁ……どうもです」

 

 

 自分の渾身がここまで聞かないとなると少し自信が無くなってしまうが、それでも勝負は勝負、本気でぶつかろうと気合を入れ直した彼女は腰から手投げ錠を取り出し、鎖鎌の分銅のようにそれを回し始める。

 

 

「そうか、それを使うか。なら俺も使うとしよう」

 

 

 土煙を舞い上げながら、振り抜いた錠は真っ直ぐ銭形へと向かう。

 しかし、それを銭形は半歩逸らすことで避けてみせる。

 

 その瞬間、手首を内側にフリックして曲げると縄の軌道を曲げて彼の足を絡ませようとした。

 

 

「尾銭! そいつの使い方を見せてやる!」

 

 

 そう彼が言った瞬間、足に縄が触れるよりも前に彼が宙へ飛び出す。

 全身を小さく縮こまらせて、交差させたその両手に三つずつ錠が握られているのが見える。

 逆光に遮られたその姿を捉えることは難しく、思わず手で光を遮ろうとしてしまう。

 

 

「尾銭レイミ……逮捕だ!!」

 

 

 その瞬間、振り抜かれた六本の錠が校舎や地面、木などにぶつかり反射して、彼女を囲み、その全てが命中する。

 手足に繋がれた六本の錠と縄が彼女の身体を縛り上げ、一瞬で捕まってしまう。

 

 

「その錠……物理の法則に反してませんか……?」

 

「理解を超えるものだってあるのさ」

 

 

 地面に倒されたレイミの横に座り込んだ銭形は、そういうと大口を開けて笑い始める。

 一頻り笑うと、銭形は少し真剣な表情をして彼女に話しかける。

 

 

「それで、どうして勝負なんて挑んできたんだ?」

 

「それは……」

 

「言いづらいのなら構わないが、俺はお前たちの教官だからな」

 

「以前、次元先生と戦ったことがあるのですが……」

 

 

 銭形に錠を外してもらいながら、レイミは話し出す。

 以前ヴァルキューレに潜入していた次元を捕まえようと戦ったが、逮捕どころか一撃も入れることが出来ず、その上無傷で返されるという手加減された状態で逃げられてしまったということがあったのだと。

 それが、堪らなく悔しく、勝負の土俵にすら上がれなかった自分が本当に『慈愛の怪盗』を捕まえられるのか。

 その自信を無くしてしまった。

 

 だから、教官であり、次元先生とも親交の深い銭形に勝負を挑み、自分を鍛えなおそうとしたのだと。

 

 

「なるほどな……アイツが……」

 

「教官に当たるような真似をしてしまい申し訳ありません……」

 

「まさか、気にしてなんかいないぞ。 しかしそうだな、俺から言えるのはそんなに多くないが……」

 

「それは……?」

 

「日々精進しろ。 諦めなければいつか必ず辿り着く。 諦めない心が一番肝心だからな」

 

 

 そう言うと銭形は、レイミの頭を軽く撫で、その場を離れる。

 一人佇む彼女は、撫でられた頭を自分で撫で、その手を握りしめて、銭形の後を追って建物の中に戻る。

 こうして、この日の訓練は今度こそ終わった。

 

 こんな事があったとしても、日々は続く。

 

 例えば……。

 

 

「全員突撃!! 俺の後に続けぇ! 天下御免! 御用だぁ!!!」

 

「うぉぉぉぉおおお!!! 教官に続けぇ!!!」

 

「あーあ、こりゃ姉御が怒りそー……」

 

 

 ヘルメット団の基地に突撃をかける際、先頭に立った銭形の号令と共に一気に雪崩れ込んだ生徒達によって、大きな爆発と施設の崩壊を伴いながら一斉検挙を行ったり……。

 

 

「銭形教官! 何度言えば分かるんですか……あまり被害を出さないようにと……」

 

「いや、悪かった。しかしこれは俺の指示の問題だ、他の生徒には責任を追及しないでやってくれ」

 

「はぁ……分かりました。その分始末書はよろしくお願いします」

 

 

 必ず犯人を捕まえるが、そのたびに施設を壊してしまう銭形たちにカンナは叱りつけるが、銭形が彼女たちを庇う姿を見て、自分も始末書を最終的に手伝うこともあれば……。

 

 

「そこ受け身が甘い! しっかり地面に分散させないと怪我するぞ!」

 

「教官の扱きさ……下手したら副局長よりもきつくない?」

 

「分かるー……青あざひどいもん……副局長って優しかったんだね」

 

「ふぅん……なら今度から走る量倍にするっすかねぇ」

 

 

 銭形の指導の中、ひそひそ話をする生徒達を盗み聞きしたコノカが、準備運動という名の体力作りのメニューをさらに増やしたりするなど……。

 

 銭形が来てからのヴァルキューレは良くも悪くも活気にあふれた日々を過ごすことになった。

 

 

 そうした日々を過ごしてく内に、銭形もまたシャーレの先生としての次元大介という男がこの世界でやってきた行いを耳にし、また資料を読む中でそれを理解する。

 あのぶっきらぼうで不器用な男が、まさかここまでこの世界に馴染んでいるとはと、その活躍に何とも言えない感情を覚える。

 まるで子供が育っていく様子を見守るようなそんな感覚だ。

 

 そして、物語は終わりへと向かっていく。

 

 ある晩、仕事が終わり、ヴァルキューレの生徒達に頼まれてカンナを夜ご飯に誘おうと彼女がいる局長室へと向っていると、僅かに開いた部屋から大きな音が鳴る。

 まるで硬いもの同士がぶつかったかのようなそんな音だ。

 

 それを聞いた銭形は急いで彼女の部屋に走り、そのドアを開くと、カンナが自身の机に向かって拳を振り下ろしていた姿を発見する。

 

 

「教官……こんな時間に、申し訳ありませんが、まだ仕事が立て込んでいて……」

 

「そんなことはどうでもいい。 何があった、顔色が悪いぞ」

 

 

 部屋に入って来る銭形を目にしてカンナは手に持った書類を他の書類の山に忍び込ませようと腕を動かす。

 その瞬間軽い音と共に腕が凄まじい力で引っ張られ、手に持った書類を目の前に出す形になってしまう。

 

 気が付いたカンナは自身の腕を見ると、そこに錠がつけられており、銭形が一瞬で隠す行為を防いだことを理解する。

 

 

「……強引な人ですね」

 

「俺はデカだからな。それが必要なことなら嫌われ役だろうとしてやる」

 

「……そうですか」

 

 

 カンナの手から取ったその資料には、防衛室からのメッセージが書き込まれていた。

 具体的な内容は下記の通りだ。

 

 一つ、シャーレの先生である次元大介を常に監視し、その動きを全てカイザーコーポレーションに伝える事。

 

 二つ、カイザーコーポレーションが彼を逮捕する際、それに同行し次元大介及びシャーレ関係者を収容施設へと連行すること。

 

 三つ、カイザーコーポレーションから次元大介に対して、殺人と死体損壊疑いが掛けられている。これらを罪として立証し、確実に逮捕すること。

 

 これらを実行できなかった場合、ヴァルキューレを閉校とする。

 

 そのあまりにも理不尽な要望に銭形の手に力が入り、紙に大きな皺が寄る。

 

 

「これはどういうことだ……尾刃」

 

「見ての通り……上司からの命令です。 先生ならご存知でしょう……」

 

「そうか……お前はあいつらを人質に取られていたんだな」

 

「…………」

 

 

 俯くカンナを見て、資料を机の上に戻した銭形はそのこめかみに青筋を浮かべる。

 

 カンナの立場を考慮したうえで、絶対に引けない条件を付けて命令を下してきた防衛室に、かつてカリオストロ公国の贋金問題を、国際問題だとしてそのことを闇に葬ろうとした無能な上司たちを重ねた銭形は、ゆっくりと口を開く。

 

 

「尾刃カンナ、よく今まで一人で耐えてきた」

 

「……教官?」

 

「今、お前の上司は教官である俺になっているはずだ。ならこの任務俺が引き受けよう」

 

「し、しかしそれでは……!」

 

「かつてお前に言ったな。自分の魂を汚すなと、同じことだ。  これ以上お前が汚れる必要はない」

 

「それでも──「尾刃、それでも悩むなら、俺が事を成した後自分の信念を貫け」」

 

 

 銭形はその資料を懐に入れたのち、両手をコートの中に入れて静かに立ち去った。

 

 カンナはその背中をただ見ている事しか出来なかった…………。

 

 

 

 ────────────────────   

 

 ────────────   

 

 ──────

 

 

 

「これが事の顛末だ。これから貴様らはカイザーコーポレーションが買い取ったヴァルキューレの第三分校へと連行する。武器も全て預かった、大人しくしてるんだな」

 

 

 銭形がそう語ると、アイツはマスクを被る。

 似合わねぇななんて語る暇もなく、車内にガスが蔓延していく。

 

 

「毒じゃない、睡眠ガスだ。ルートを特定させないための対策のつもりらしいな」

 

「銭形……お前……」

 

「次元、お前が先生だというのなら、生徒を信じてみろ」

 

 

 アイツの言葉を最後に俺の意識が途切れていく。

 

 信じてみろ……か。

 

 話を聞いて思うが……随分と信頼してるんだな?

 

 お前が信じてるのなら、俺も賭けてみようじゃねぇか。

 




次元大介だ。
目が覚めるとそこは暗い独房だった……。
三文小説にも程があるだろう、銭形。
お前が育てたっている奴らは何処まで成長してるのか、見ものだな!

次回 傷だらけの狼

お前の正義、見させてもらおうか。





次回からようやく次元サイド……と思いきやまた別の視点から始まりそうなそんなところでございますが……。
ここで私事にはなるのですが、実は作者今年から新社会人を迎えることになり、しばらくの間更新ぺースが著しく落ちることになります……。
それを予期して今月は更新多めにしたのですが……ままならぬものですな。
必ず書き切ることを約束して、しばしの間のお別れと致しましょう。
目指せ週一投稿です! まぁ恐らく月一になるかもですが……。

では、評価・感想・ここすき、更新の活力になりますのでよろしくお願いいたします!

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