新任教師『次元大介』   作:レイゴン

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1-8 シャーレ奪還作戦

「先生とカヨコちゃん、それとRABBIT小隊の隊長ちゃんの三人で建てた作戦に文句はないんだけどさぁ、やっぱり私達の負担デカくない?」

 

「珍しいなムツキ、怖気づいたか?」

 

「むっ、先生煽ってるの?」

 

「ケツを叩いてやってるんだよ」

 

 

 シャーレ奪還作戦、その始まりの合図は俺たちシャーレ組の正面からの戦闘から始まる。

 馬鹿正直にあのカイザーと戦うのは気乗りしないが……目的が分かっている以上こうするのが一番可能性があるってのが、俺とカヨコ、ミヤコの結論だ。

 

 と言えど、ムツキの批判もよく分かる。

 遠目からも見えるが、兵士だけじゃねぇ、対地攻撃ヘリに戦車……待て、クルセイダー巡航戦車か? しかも連装砲塔型じゃねぇか。Mk.1の実物はねぇと聞いていたんだがな。

 カイザーの技術力は中々のもんだ。

 しかし、興奮することでもねぇな……こっちは俺を含めて五人、この後の事も考えれば、余力は残しておきたいもんなんだが……。

 

 

「ん? あ、居たぞ!!こっちだ!!」

 

「今の声……それに凄い足音の数……」

 

 

 アルが首を傾げると同時に、曲がり角から大勢のヴァルキューレの奴らが現れる。

 なんだ?キリノとフブキ達が呼んだのか?

 

 こちらに駆け寄って来るヴァルキューレの生徒達を見ながら、俺はフブキ達に連絡を入れる。

 遠距離通信自体は駄目だったが、こっちの暗号通信は封鎖されてなかったのは助かったな。

 アロナとモエの手を借りて、傍受されねぇ対策もしてある。

 

 

「おい、フブキ、キリノ。お前さんらが呼んだ増援か?」

 

『え?増援?呼んでないけど……あれ、この信号……公安局!? 命令がなくちゃ動かない公安局がどうして?』

 

「連絡を受けて参りました、次元先生! 私達も力になります!!」

 

「お前さんらこれから何をしに行くのか分かってるのか?」

 

 

 ヴァルキューレの生徒達に俺は問う。

 何せこれから相手するのは、カイザーグループだ。

 自分たちを裏から賄賂を贈っていた奴らに牙を剥こうってんだ。

 懲戒免職処分を喰らうかもしれねぇし、それに命令なく動いてるんならカンナと同じように罰則を喰らうかもしれねぇ。

 失敗しても成功してもその行動の始末を喰らうことは間違いない。

 

 俺がそう問いかけるとヴァルキューレの人混みの中から一人の少女が前に出てくる。

 黒いコートを羽織り、茶色の長髪を一つ結びにして、折れ曲がることのない真っ直ぐな目で俺を見つめながら、口を開いた。

 

 

「私たちは確かに、命令が出なければ動けませんし、その動きすら遅い役に立たない警察官です。 ですが……罰則を恐れて、悪を恐れて、動けませんでしたなんて……。

 何がヴァルキューレ、何が公安局ですか。 正義が今我々にあるのであれば……天下御免で動きましょう」

 

「くっくっくっ……いい影響を受けたんじゃねぇか? レイミ」

 

「銭形教官には大変お世話になりました。ですので……ここからは私達が皆さんの背中を御守りします」

 

 

 その言葉にヴァルキューレの生徒達が頷く。

 どうやら意思の統一が出来ているみてぇだ……折角のパーティーだからな、盛大にやるとしようか。

 

 

「そういや、肝心の銭形はどうした?」

 

「教官なら、昨日、防衛室に向かうと言ってからまだ帰ってきていません……そのあとカンナ局長が置手紙だけ残して消えて……先生は何かご存知ですか?」

 

「カンナならちょっと休憩してるぜ、大仕事を終えた後だからもう少し休ませてやれ」

 

「無事ならいいんです。みんなそこだけ心配だったので……」

 

「じゃ、姉御の分も頑張らないとっすね」

 

 

 副局長であるコノカも居たようで、俺とレイミの会話に混ざって来る。

 口調はいつも通り軽いが、その目は本気だ。

 俺たちがここにいることとカンナが休んでいるという事で大まかなことを察したらしい。

 

 それにしても銭形が防衛室にか……。

 仕事前に他の事を考えるのは止したいとこなんだがな。

 あの男の事だ、上手くやってるだろう。

 

 

「お前さんらの覚悟は分かった。ならその力存分に貸してもらうぜ」

 

「えぇ、それで何をすればよろしいので?」

 

「簡単な話さ。正面で思いっきり暴れてやれ」

 

「それは簡単っすね。ずっとこういう仕事ならいいんすけど」

 

 

 コノカが口角を上げながらそう答える。

 こいつの雰囲気から何となく感じ取っていたが、副局長の割には俺たちより……そうどちらかと言えば、アウトロー側な気がするのは俺だけか?

 

 といっても選んだ道が警察だってのなら、俺がとやかく言うのは野暮ってもんだ。

 

 

「さて、始めるぞお前ら!」

 

 

 そう声上げると同時にアルがワインレッド・アドマイアーを構えて、ヘリを撃ち落とし、派手な爆発を起こす。

 いい開戦の狼煙だ。

 

 その爆発と同時に俺たちは走り出す。

 

 向こうも気付いていたのか、部隊を逐次投入している……が。

 戦力の逐次投入は愚策だって習わなかったのか?

 

 

「くそっ、何故ヴァルキューレがいる!?」

 

「さぁ?何でっすかねぇ」

 

「簡単な話だろう、正義の為だ!!」

 

 

 ショットガンを放ちながら、蹴りや殴りを入れた戦闘で正面を張って、一騎当千の活躍を魅せるコノカに対して、レイミは、堅実にコルトガバメントによる射撃による牽制と近づいてきた兵士に当て身を当て、よろめかせたと思えばその腕を掴み、見事な背負い投げを行う。

 あの一連の技……まさか銭形のやつ……やりやがったな?

 

 

「あの背負い投げ痛そ~。ムツキちゃんみたいな可愛い子もぶん投げる気?」

 

「貴様が犯罪を犯さなければな」

 

「くふふっ、じゃあ今から対策しとかないとだね~」

 

 

 ムツキはそう言いながら、手榴弾を投げ込み、部隊を一掃させ笑う。

 暗に止める気はないと言ってるわけだが……。

 何があってもこいつらが変わることは無いだろうな、と俺もここまでの付き合いでそう感じちまっている。

 

 

「にしても……凄い数だな」

 

 

 カイザーの部隊に向かっていくヴァルキューレの生徒達を見ながら、俺は呟く。

 RABBIT小隊はたった四人で、この数をしのぎ切ったと聞いているが、今のヴァルキューレを相手にするのは少し厳しそうだ……なんてこいつらの戦いぶりを見ると思っちまう。

 

 

 俺たちの仕事は正面で派手に暴れることだ。

 戦力をこっちに集めることで……本拠地が、がら空きになる。

 

 RABBIT小隊には、一度シャーレに潜入した経験のある忍術研究部の二人をつけている。

 イズナは、分身して両部隊の橋渡しだ。

 

 修行して分身同士の思考を繋げれるようになったとか何とか言ってたが……どういう理屈だ?

 気にするだけ無駄か、出来る事だけ分かればいい。

 

 

「イズナ、そっちはどんな感じだ?」

 

「向こうも潜入開始しました!」

 

「そうか……となれば、もう少し暴れたいところだな」

 

 

 イズナからの報告を受けつつ、臨機応変に変わっていく戦場を見ながら判断を下していかなくちゃならねぇ。

 

 こういう戦術的な戦いは傭兵時代以来だが……久しぶりな感覚だ。

 

 

「アル、クルセイダーの位置は?」

 

『クルセイダー……あぁあの戦車ね? それならまだ玄関を守ってるっぽいわ』

 

「もう少し減らさなくちゃならなさそうだな……動いたら連絡を寄越してくれ」

 

 

 建物の屋上で狙撃をしているアルに、そう言いながら頭を巡らせる。

 アルの狙撃で壊しに行ったっていいが、そうなるとシャーレの守りに専念し始める可能性が上がる。

 かと言って、こっちで暴れ過ぎたって問題だしな……。

 シンプルな戦いは得意だが、どうにもこういうのは苦手なんだ。

 

 

「次元大介だ!」

 

「ちっ、狙われるか」

 

 

 振り向きざまに照準を合わせ、素早く六連射を行う。

 マガジンを落としながら、リロードを行い、後ろから殴り掛かってきた兵士の胸に蹴りを入れつつ、額に風穴を空ける。

 

 持ち主に似て素直な銃だ……グロック17、カスタム名を確か『第17号ヴァルキューレ制式拳銃』だったか。

 ルパンのワルサーと違って、誰の下でも最低限の力を貸してくれるのは、仕事にまじめなカンナらしい銃だな。

 

 

「先生がオートマチック使ってるのなんか違和感感じるね?」

 

「俺はリボルバー派だからな、借りてる手前あんま言えねぇけどな」

 

「リボルバーはRABBIT小隊達も持ってなかったもんね」

 

「古臭い銃はお好みじゃないらしい、若者らしいぜ」

 

「……私は好きだけどね」

 

「何か言ったか?」

 

 

 カヨコが小さな声で何かを話したが、砲声のせいで良く聞こえなかった。

 背中合わせだったせいで唇も見れなかったしな。

 何か大事なことだった気がしたが……今は仕事に集中するとしようか。

 

 

『先生、クルセイダーが動き出したわ!』

 

「大ボスってところだな」

 

 

 時折こうしてゲームの用語で話しちまうのは、ゲーム開発部のチビ共のせいか?

 アイツらに頼まれてゲームの試遊をしているせいだ。

 頭を軽く叩き、余計な思考を除きながら、迫りくるエンジン音の発生源を見つめる。

 街中のせいでやけに目立つ茶色の迷彩と360度旋回する砲塔、角度をつけて弾丸を弾くようにした装甲。

 カンナの銃じゃ、ちと小さすぎるな。

 

 

「ハルカ、アル、ムツキ。あの戦車の相手行けるか?」

 

「わ、私ですか?」

 

「あぁ、お前さんなら出来るだろう。信じてるぜ」

 

「っ! はい!頑張ります!!」

 

 

 ショットガンを抱きかかえながら、ハルカが口角を大きく上げて頷く。

 その様子をムツキが何とも言えねぇ目つきで見てきたが……俺の言葉一つでやる気が出るならいいだろうが。

 

 

「先生ってば、悪い人なんだ~♪」

 

「当然だろ」

 

「むー……まぁいいや、じゃ行ってくるね」

 

 

 バッグを持ちながら、ムツキが頬を膨らませて歩いていく。

 

 戦車を相手にするにしては随分と気楽な様子だ……と言っても、アイツらにとっちゃ慣れた修羅場だな。

 

 夏の風紀委員会との演習に比べりゃ、ずっと楽な仕事だろうからな。

 

 

「は? 我らカイザーの対FOX兵器にたった三人で?」

 

「流石に舐めてるだろ……やっちまえ!!」

 

 

 見世物か何かのようにクルセイダーに向かっていく二人と、建物の屋上から飛び降りたアルをカイザーの兵士たちが見ている。

 

 対FOX……ワカモかそれともFOX小隊のことなのか。

 どちらにせよ、ただの生徒が敵う相手でもないと思ってるらしい。

 

 加勢しなかったこと、すぐに後悔するぜ。

 

 

「行くわよ」

 

「はい……!」

 

 

 真っ直ぐ肉薄するハルカにクルセイダー巡航戦車の砲塔が向けられ、40mmの榴弾が放たれ……後方のビルの側面が爆破される。

 

 

「は?何があった!?」

 

 

 兵士達が驚くのも無理はねぇ。

 何が起きたのか、見ていたが……俺も自分の目を疑っちまった。

 

 ハルカは自分の銃の側面を榴弾に当てて、爆破させずに見事に受け流すことに成功した。

 

 銃弾を当てて逸らすならともかく、生身でそんなことを成功させちまうのは……誰よりも弾丸を受け止めて、ビナーの顔面に自爆覚悟の一撃を喰らわせれる程の精神力のあるハルカぐらいなもんだ。

 

 

「ふふっ、流石ハルカね!」

 

 

 連装砲塔らしく次弾が素早く装填され、再びハルカに照準が向く。

 しかしそんな一瞬でも、ハルカを信じてずっと構えていたアルからすれば充分大きな隙になる。

 

 ハルカの顔の横を掠めながら飛んだ弾が、戦車の真下の地面に着弾し……大爆発を起こす。

 

 映画村の経験を活かしたって訳か。

 

 宙を飛んだ戦車は、大きく仰向けに回転しながらアルたちの方へと飛んでくる。

 

 

「ムツキ!」

 

「さっすがアルちゃんとハルカちゃん! 位置完璧!」

 

 

 黒いバックを砲丸投げのように回転しながら投げたムツキは、そう叫ぶと手にスイッチを持って凶悪な笑みを浮かべる。

 

 

「じゃ、思いっきり楽しんでね、バ・ク・ハ・ツ♡」

 

 

 スイッチを押し込むと同時にバックが戦車に命中。

 対FOXと謳われた戦車がたった数秒で鉄クズへと堕ちる。

 

 

 まぁ見えていた勝負だな。

 

 その轟音と共にヤケになった兵士達が一斉に襲いかかってくる。

 

 だから言ったろ……。

 あぁいや、口に出すのはこれで初めてか。

 

 

「戦力の逐次投入は愚策だってよ」

 

 

 俺の呟きは、あっという間に戦場の騒音に揉まれて掻き消された。

 

 要が無くなったとは言え、軍は軍。

 最低限のレベルの高さは流石の一言だが……相手が悪かったな。

 

 

「全員殲滅完了。生きてる人はヴァルキューレ達が捕まえたみたい」

 

「これで終わりか、全軍だと思ってたんだが……後続で、今度は奪還しに来るやつらが来るか。その前に済ませてぇところだが、イズナそっちはどうだ?」

 

「ううん……通路で立ち往生してます……シャーレの屋内にもいっぱい人が居るせいで上手く身動きが取れず……」

 

 

 シャーレの入口でイズナに向こうの様子を聞くと、歯痒そうな顔で話し始める。

 そもそもリンがどこにいるかも分からねぇし、そっちを助けに行きたいところだが……。

 

 

「とりあえず、屋上を抑えろ。出入口はこっちで封鎖する。逃げ場を無くすしかねぇな。その後……まずはリンか」

 

「シャーレ結構いるけれど、収容に使えそうな部屋って意外とあるわよね」

 

「しらみ潰ししたっていいんだが……カイザーのことを考えれば、この建物を爆破しに来たっておかしくねぇしな」

 

『リン先輩の場所なら分かってるよ』

 

 

 唐突に俺たちの会話にホログラムが入り込む。

 そのホログラムには桃色の髪を二つ結びにした少女が映し出されていた。

 この声……はるか昔に聞いたことがあるような……。

 

 

 ──あっ、先輩、お昼ごはんのデリバリー来たから、また連絡するね!

 

 

「思い出した。お前さん確かキヴォトスに来た時にリンに向かって職務放棄の連絡をしてた……」

 

『酷い覚え方されてるね。まぁ否定はしないけど……私は連邦生徒会交通室所属の由良木モモカ。それと……』

 

『連邦生徒会調停室長の岩櫃アユムです……わ、私たちは今、サンクトゥムタワーの地下通信センターに居ます』

 

 

 モモカの紹介のあと、ホログラムに映し出されたのは金髪と黒い翼を腰から生やした少女……こっちは確かたまにリンと仕事をするときに、書類を持ってきてたりしていた奴だったな。

 まさか、調停室の長だったとは……人は見かけによらねぇもんだ。

 

 

「連邦生徒会は確かカイザーに抑えられたって聞いてたが……」

 

『うん、それはそうだね。いやぁ監視の目を盗むのは大変だったよ~。まさかサボる時に使ってた、通風孔がここで役に立つとはね!あっはっはっは!』

 

「どこにも似たようなサボり魔はいるわけだな……ともかく、リンの居場所が分かったってのは本当か?」

 

『うん、シャーレの居住区の北部、先生たちが普段物置に使っている三番の部屋の中に先輩はいる。 それと……なんか他の人もいるみたい』

 

「他の人……? まぁ、分かった。リンには普段から世話になってるからな。任せろ」

 

 

 俺がそういうと二人は頷いた後、ホログラムを消して通信から居なくなる。

 元々リスクを承知で繋げたのだろう。

 あまり長く繋げ続けるとバレる危険性がある。

 

 

「イズナ、子兎共はどうだ?」

 

「無事屋上をおさえました!この後はどうしますか?」

 

「俺たちはこのままシャーレの中に入って、リンを迎えに行く。 クラフトチャンバーは……あとでいいだろう。 公安局! 助かったぜ」

 

「姉御が立場破ってまで手伝ったんすから、いいんすよ。 このままあたし達は周囲を包囲しつつ、取り返しに来るカイザー達を迎え撃つんで、背中は任せてください」

 

 

 イズナに連絡をお願いしてから、ヴァルキューレ達の方を見ると副局長であるコノカがサムズアップして笑顔を見せる。

 どいつもこいつもいい意味で変わったな。

 前見た時よりも顔つきが随分と良くなりやがった、こいつは相手にするのが大変そうだ。

 

 

「じゃあ、行くか」

 

 

 俺は声を掛け、屋内に入っていく。

 

 エンジェル24は既にヴァルキューレ達が制圧済み、ソラが保護されてるのを横目で確認できた。

 にしても……なんだ?どっかから見てる奴がいるな。

 

 

「イズナ、RABBIT4に連絡。こっちを見てる奴がいる。スナイパーだろう、こっちで釣るからカウンターは任せた」

 

 

 イズナに短く話して、向こうに連絡を通す。

 生活安全局の二人のように通信を使ったっていいんだが、屋内の場合盗聴されている可能性もあるからな、だからイズナに話しかける風に小声で話せるこの状態が一番望ましい。

 

 

 曲がり角を曲がった先に誰かいるな?

 手を上げて、ハンドシグナルで指示を出す。

 

 

『足音、全員止まれ。俺がやる、アル。カバー頼んだ』

 

『足音消してってことね? 分かったわ』

 

 

 足音を消しながら、今まで見たことないタイプのカイザーPMCの兵士へと近づいていく。

 

 残り1mの距離まで近づくと、振り返った兵士と目が合う。

 ここで折り返しだったか。

 

 

「なっ、既にここま──「先に地獄に行ってもらうぜ」」

 

 

 懐に飛び込み、防弾ベストのない脇から胴体に向かって銃口を押し当てながら、その引き金を引く。

 金属製のこいつらに9㎜パラベラム弾は効果がそこまでないだろうが……装甲の薄そうなところを狙って撃ったからな。

 

 この銃にあまりオイルを馴染ませるのは、心痛むが……ケースバイケースって奴だ。

 

 ぐったりと倒れた、カイザーPMC兵士の懐から無線機器とドックタグを取る。

 なるほどな、特殊部隊の隊員だったか、どうりで見た目が違う訳だ。

 使っている金属も良い奴だ。

 

 

「ここから上にあがるとしよう」

 

 

 非常階段を駆け上がりながら、道中特殊部隊の兵士たちを倒しつつ、一気にリンのいるという部屋に辿り着く。

 

 合鍵を使って、ドアを開錠して開くと報告通りリンの姿がそこに……それとついでに……。

 

 

「よう、リン。迎えに……何でここにいる?」

 

「先生……」

 

「次元……?」

 

 

 何故か銭形もここに捕らえられていた。

 しかもリンは縛り付けられている様子もないのに、銭形に対しては縄と鎖で雁字搦めにされた上に、錠前が五個も取り付けられてる。

 

 銭形を捕えておくのなら、これ以上ないほど充分な方法だが……。

 

 

『リン先輩……無事でよかったです……本当に良かった』

 

『先輩、怪我はない!?』

 

「モモカ、アユム……」

 

 

 ホログラムが映し出され、モモカとアユムがリンに話しかけに行く。

 俺よりもずっと心配だったろうからな、リンは向こうに任せるとして……俺は銭形の方に向かう。

 

 

「銭形、お前、確か防衛室に行ったって聞いていたが……どうしてこんなところに」

 

「あぁ、俺もここがシャーレだとは知らなかったぞ……お前の言う通り、俺は確かに防衛室に行ったんだが……」

 

 

 ──────

 

 ────────────

 

 ───────────────────

 

 

 時間は次元大介達が目覚める一日前へと戻る。

 カイザー達が行政権を握る少し前、彼は防衛室の扉をノックしていた。

 

 

「どうぞお入りください」

 

「アポ無しの訪問失礼します」

 

「おや……貴方は……銭形警部。一体何のようで」

 

 

 コーヒーの入ったマグカップを一口傾けながら、部屋の主であるカヤは冷ややかな目で目の前に立つ男を……銭形幸一を見つめる。

 

 

「不知火カヤ、貴様を職権濫用、及び脅迫の罪で逮捕する」

 

「私を……逮捕……ですか。 それはまた急ですね」

 

 

 カヤの取ったその態度に銭形は片眉を上げる。

 動揺が微塵も感じられない。

 大抵の犯罪者は、逮捕されることに怯えるものだ。

 

 

「貴様がカンナに送っていた書類を見させてもらった。防衛室長という立場を利用した上での違法リベートを行わせ、カイザーの陰謀に協力させようとしていたな」

 

「……ふふっ、それで逮捕すると」

 

「充分な理由だ。大人しくお縄につくんだな」

 

 

 くすくすと指を口元に当てて、笑みを零しながらカヤはその悪魔のような緑の瞳を開いて、銭形を見つめる。

 

 

「その汚れた手でですか? 貴方は、私がカンナに与えた命令を代わりに行ったじゃないですか……その点で言えば、私と貴方は共犯者ですよ」

 

「…………」

 

「言い逃れするつもりはないようですね? 貴方の今の立場は、所詮ヴァルキューレの特別講師。 連邦生徒会の防衛室長である私に意見を言えるほどの立場でしょうか?」

 

 

 カヤの右手が毒々しい瞳と同じ緑色の神秘で包まれ、金属の擦れる音が聞こえたと思えば、そこから鎖が伸び、銭形の首に巻き付く。

 

 首輪が形成され、銭形の全身が緑色の神秘で包まれる。

 

 

「……なるほど、これが貴様の神秘か」

 

「えぇ、一度発動してしまえば、貴方の命と魂は私のものです」

 

「発動すれば……か」

 

 

 そう銭形が呟くと、懐から何かを取り出そうとする。

 

 

「動いていいなんて言ってません……よ!」

 

 

 それを見ていたカヤが、手に繋がった鎖を引っ張る。

 瞬間、鎖が砕かれ、神秘が霧散してしまう。

 

 呆気にとられたカヤは、少し呆けたあと分析を行う。

 

 

「え……。 なるほど……そもそも発動していなかったと……!」

 

「貴様のような悪党の指図を聞くほど、俺の正義は安くない」

 

「では、なぜカンナを庇ったのですか」

 

 

 カヤが銭形に問いかける。

 自分の正義とやらを汚す真似をどうしてしたのかと。

 

 その問いに、銭形は即座に返す。

 

 

「簡単な話だ。

 

 子供が泣いているのを見過ごす大人がどこにいる

 

 

 そう言うと銭形は取り出した手錠を手に持って、一歩カヤの方へ踏み出す。

 一歩、また一歩近づく。

 

 

「貴様はカンナのことを舐めているようだが……アイツは俺よりも強いデカになるぞ」

 

「ふっ、私の隷属が発動している彼女が?」

 

「あり得ないことはあり得ないのが人生だ。 貴様はしばらく牢の中で反省してもらうがな」

 

 

 カヤの手を掴み、その腕に手錠をかけようとした瞬間、銭形は自身の背後から鋭い殺意を感じる。

 

 部屋には先ほどまで誰の気配も感じなかった。

 そう考えると同時に、後ろに向かって拳を振り抜くが背後には誰もいない。

 

 そして振り返った背後から声が聞こえる。

 

 

「驚いた。まさか先手を打たれるとは……しかし、既に二手遅れていたな」

 

 

 銭形の首筋に鋭い痛みと衝撃が走り、一撃で地面に倒される。

 

 霞む視界の中で、己の影から浮き出ている黒い狐の姿を捕え、その意識は落ちた。

 

 

 ────────────────────   

 

 ────────────   

 

 ──────

 

 

「そうだ、思い出した……次元、黒い狐の生徒を知らんか?」

 

「黒い狐……防衛室……まさか、FOX小隊か?」

 

 

 銭形が不覚を取るレベルの生徒なら、それくらいなもんだろう。

 いや……あり得るのか?

 

 考えたいことは多くあるが……。

 

 

「仕方ねぇ、今はそれよりも……俺たちの家を取り返さねぇとな」

 

 

 立ち上がり、次の場所へと行こうとすると、俺の背中に銭形が声をかける。

 

 

「ところで、次元。こいつを外してくれんか?」

 

「よし、行くか」

 

「おい、次元。次元?」

 

 

 何か銭形が言ってる気がするが……気のせいだろう。

 

 

「次元!!!」

 

 

 普段から銭形は忙しいんだからな、たまには休んでもらわなくちゃな。

 縛られている銭形の珍しい姿をもう一度視界に収めてから、俺は笑いつつ、銭形の怒号を浴びつつ、部屋を出ていく。

 

 

「あの、先生よかったのかしら?銭形さんあのままで」

 

「何、銭形なら大丈夫だろうし、どうにか出来るさ。あいつなら」

 

 

 心配そうなアルにそう声かけて、俺たちは階段へと戻る。

 さて……俺たちの居場所を取り戻しに行くぞ。

 




帰宅にしては随分と派手にやっちまったが……
まぁ、こういう日があったっていいだろう
それよりも、この騒めく胸の感情。嫌な気配がする

次回 愛しの世界の記憶

ここからが本番……ってことか。




ブルアカ、第二部始まりましたねぇ……。
まさかデカグラマトン含めて第一部だとは思わなんだですし、あのテレビ頭が癖に刺さって困る……。
それに新設定やら色々と……FOX編後回しにしといてよかったとここまで強く思う事も中々ないのですが……果たしてこの作品が第二部に行くのかどうか……。

ではでは、最後に、評価・感想・ここすき等お待ちしております!

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