新任教師『次元大介』   作:レイゴン

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2-4 第一サンクトゥム『暁のホルスと砂漠の大蛇』

 乾いた風が吹く。

 都市部から離れ、砂漠化の進むここアビドスの風は、砂を纏いながら私の体に吹き付けてくる。

 

 

「まさかまた殺り合う羽目になるなんてね、それもこんな直ぐ」

 

 

 独りごちる私の髪を冷えた風が靡かせる。

 先生は今シャーレの地下で、黒服さんと仕事をしていてここにはいない。

 

 幾つかあの大蛇に効きそうな玩具を持ってきたとはいえ……先生無しで……。

 

 

「って、何弱気になってるのよ私! あんな見栄を切ったのだからしっかりなさい!」

 

 

 頬を両手で叩き、気合いを入れる。

 ジンジンとひりつく手と頬の熱が夜風が冷やしていく。

 

 捨て置かれた貨物列車の屋根に座った私は空を見上げる。

 そこに暗い空はなく、どこか脈動しているように見える赤い空が広がっていた。

 

 これが世界の終末。

 

 先生はこんな危機を何度も乗り越えてきたのでしょうね。

 

 あと人の隣に並ぼうっていう女が負けてちゃいられないわ。

 

 月も見えない何処までも赤い紅い空を眺めていると、下の方から声をかけられる。

 

 

「あ、居た。社長!」

 

「カヨコ。時間かしら」

 

「うん、作戦のミーティングを始めるから……ここから通話で参加する?」

 

「しっかり顔を見せるに決まってるじゃない。……ありがとう、カヨコ」

 

「どういたしまして……社長」

 

 

 カヨコに呼ばれた私は、列車から飛び降りて歩き出す。

 

 既に全員集まっているようで、私のことを探していたらしい。

 申し訳ないわね……。

 

 ミレニアムの生塩ノアさんが、会議の輪に入ってきた私のことを見つめる。

 

 

「アルさんも来て、これで全員揃いましたね」

 

「遅れてごめんなさい、作戦会議始めましょう」

 

「大丈夫ですよ。ある程度バッファを取っていますから、以前便利屋の皆さんと先生がビナーと戦った際のお話によるデータと、エンジニア部のウタハ部長から提供のあった行動パターンのデータを元に、黒服さんからの情報提供で纏めた資料になります。 マキさんお願いします」

 

 

 ノアさんがそう言うと、隣に立っていた赤髪の少女のマキさんに合図を出す。

 円になった私達の中央にホログラムが表示される。

 内容は予想されたビナーの全長と体重、行動パターンの分析が数値としてデータ化されたものといったところかしらね。

 

 

「こうして見るとよく勝てたよね~」

 

「今回も勝つのは私達なんだから、こんなデータは大した意味はないわ」

 

「まぁまぁ、そう言わずにアルちゃん。折角、ミレニアムの子達が用意してくれたんだからさ~」

 

 

 ホシノさんに窘められる。

 別にデータを軽んじてる訳じゃないわ、ただこれで怖気づいてしまうのなんて笑えないだけよ……声に出すわけじゃないけどもね。

 みんなの顔を見れば、そのデータで怖気づいている子がいないのなんて分かってるもの。

 

 

「それで作戦は?」

 

「それに関しては私とアヤネさんに任せて」

 

「はい、カヨコさんが作戦指揮になる関係上、後方に回ってしまうのですが……アルさんたちはそれで大丈夫ですか?」

 

「えぇ、分かったわ。戦場が違くても目的は同じだもの」

 

 

 カヨコが欠けてしまうのは、少し寂しいけれど……でもそう言ってる場合でもないわよね。

 

 互いの戦場で結果を出すことに集中するとしましょう。

 

 作戦が書かれたデータが渡されて、それに目を通す。

 

 

「私たちは先方で囮ってわけね……この列車、ってあれ動くのね? 一応アビドスの資源だけどいいのかしら? 壊されてしまう可能性もあるけれど」

 

「はい……使うこともないですし……何よりアビドス衰退の拍車をかけた原因こそがあの列車なので、そんな疫病神が世界を救う手助けになるのなら、これ以上嬉しいことはありません」

 

「……そっか、あの列車がネフティスの──「カヨコ、それ以上は野暮よ。 分かったわノノミさん。最大限、疫病神を有効活用させてもらうわ」」

 

 

 カヨコの発言とノノミさんの悲しい目つき、経営をする中で、一度は目にしたネフティスグループのご令嬢が家出したという噂。

 大方アビドスに何があったのか理解できるけども、作戦前に士気を下げるのなんて愚かしいわ。

 

 

「そうだね~、昔話しても仕方ないしね~。 じゃ私達が撃破役ってことでいいのかな?」

 

「はい、囮役の第二部隊が列車を使ってランデブーポイントまで誘導、その後皆さんで総攻撃と言う形になります!」

 

「その時にあのビナーに正面から有効打を与えられるのは、社長の神秘である『べリアル』とホシノさんの神秘である『暁のホルス』くらいのはず。 だから他の全員で二人のサポートをする形を取る感じになるかな」

 

 

 最後のカヨコの発言で私の口角が上がる感覚がしたのを感じる。

 

 ふふっ、トドメ役だなんて、最高にアウトローな役回りね。

 あの時は先生がトドメを刺したのだから、今度は私の番ってこと。

 その為にも、作戦を上手くやらないとよね。

 

 作戦準備に取り掛かろうとしたタイミングで、マキさんが思い出したかのように急いで声を出した。

 

 

「あっ、そうだ!あの蛇さんの出すビームは絶対に避けてね! 少なくとも1700℃以上の熱エネルギーが含まれた熱線だから、岩なんかも簡単に溶けちゃうの、だから絶っっ対に触れちゃ駄目だからね!」

 

「うへ、フォンダンホシノになっちゃうよ~」

 

「ホシノ先輩、ふざけてないで準備するわよ」

 

 

 うへへい、なんて緩い返事をしながらホシノさんはセリカさんに連れられて、準備しにいった。

 あんな緩そうな雰囲気で大丈夫かなんて思うけれど、一度戦ったことがあるから分かっているわ。

 あの人は、やるときにはやる人だって。

 

 尤も、あの時ホシノさんと直接戦ってたのはハルカだったかしらね?

 

 先生とのダンス中に少し見てたけれど、ハルカとまともに……いや余裕そうに戦うのなんて相当な実力よ。

 

 今のハルカならいい勝負をするでしょうけどもね。

 

 

「さて、私達も行くとしましょうか」

 

 

 アビドスの生徒達を見送った後、ムツキとハルカに声をかける。

 

 

「はいはーい、そういえばハルカちゃん着替えなくていいの?」

 

「へ? あ、あぁいえ、それはあの……ただのおまじないですから……」

 

「え~、久しぶりにガチのハルカちゃん見たいのになぁ~」

 

「あら、それなら少し待つわよ? 私も見たいわ」

 

「は、はい!お二人が言うのであれば、すぐさま着替えてきます!!」

 

 

 二人で話していたところに交じって、ハルカの背中を押す。

 暫く待っていると、着替え終えたハルカが列車の影から姿を現した。

 

 

「久しぶりに見たわその姿、やっぱり似合うわね」

 

「くふふふ、普段のハルカちゃんは可愛いけど、このハルカちゃんはカッコいいよねぇ」

 

 

 私たちの視線の先に居たのは、黒いスーツ姿に身を包んだハルカの姿だった。

 

 

「きょ、恐縮です……先生がスーツは戦うための鎧だって言っていたのを思い出して……」

 

「ふふっ、良いわね。 さて……便利屋68行くわよ!」

 

 

 号令と同時に、列車の屋根に飛び乗り、そして動き出す。

 

 ノノミさんが言うには、この列車たちがキヴォトス終焉の引き金を引くきっかけになった。

 そんなろくでもない乗り物も、これで乗り潰されるのなら本望でしょうね。

 

 

『通信聞こえる?』

 

「えぇ、聞こえるわよ。このままビナーの近くにまで行って挑発してから、離脱。 アビドス組と途中でスイッチして挟撃……で合ってるかしら」

 

『そう、それで……敵性反応! 二時の方角』

 

 

 カヨコの指示に合わせて、ワインレッド・アドマイヤーを構えて狙い撃つ。

 放たれた弾丸は丁度、飛び乗ってきた何かを撃ち抜く。

 

 地面に転がって後方へといくその機械は、球体の胴体に垂れ下がったケーブルが特徴的なフォルムをしていた。

 

 

「な、何かしら今の?」

 

『見つけた、共有データにあった「Divi:Sion」って機械の兵団だね。光球と捉えてくるケーブルに気を付けて!』

 

「アルちゃん、いっぱい来てる!」

 

「近づかせないってことね。列車を防衛しながら迎え撃つわよ!」

 

 

 私がそういうと同時に背後から殺気を感じる。

 振り返ると、一斉にDivi:Sionたちが私に向かって飛び掛かってきていた。

 唖然とした声が出る間もない。

 

 さっき仲間を撃ち抜いたから優先的に狙ってきたってところかしら。

 

 飛び掛かってきたDivi:Sionたちは合計で5体。

 二体までなら撃ち落とせるけれども……。

 飛んで回避?

 いや、足場が不安定でかつ、列車から降りてしまったらそれこそ危険。

 

 私一人じゃ……無理ね。

 それなら……。

 

 

「ハルカ!」

 

「アル様に触れるな!!!」

 

 

 五体のDivi:Sionが横から飛んできた仲間によって薙ぎ倒され、地面に叩きつけられていく。

 

 既に交戦していたハルカの腕にはケーブルが絡まり、まるでチェーンハンマーのようにDivi:Sionを振り回して戦っていた。

 

 

「ひゅ〜、さっすがハルカちゃん!カッコいい~!」

 

「助かったわ、頼りになるわね」

 

「ひゃ、い、いえ……と、当然のことをしただけですので……っ!」

 

 

 飛びかかってくる機械たちを叩き落としているハルカを横目に、私もアドマイアーを構えて撃ち落としていく。

 ムツキも手榴弾を投げて殲滅しているみたいね。

 一瞬危なかったけれど、この程度の防衛戦なんて余裕よ。

 

 もう油断はしないわ。

 

 

「アルちゃん、リロード!」

 

 

 ムツキのリロードをリボルバーでカバーしながら、状況を把握する。

 ある程度数も減ってきたころ、空の光が強くなってきたことに気が付く。

 

 

「そろそろってことかしら」

 

「夜なのに、昼間みたいに明るいねぇ」

 

「い、命散らす覚悟で頑張ります!」

 

『ハルカ、そんなことしたら私達がダメになるからしちゃ駄目だよ。 社長、もうそろそろで社長の狙撃範囲に塔が入るから、あれを破壊するつもりで狙撃して』

 

 

 カヨコの無線を聞きながら、私は構える。

 風向きは東の風1m、距離は目測で3kmってところかしら。

 動く列車の上から狙うのは少し難しいけれど……。

 

 あの人なら難なくこなせる条件なんでしょうね。

 

 

「カヨコ、カウントをお願い。ムツキ、ハルカは私の背中を預けるわね」

 

『分かった。 10秒前』

 

「くふふ、いつも守られてるしもちろんだよ」

 

「はい! アル様には指一本ケーブル一本たりとも触れさせません!!」

 

 

 頼れる社員を持って、私は幸せ者ね。

 

 なら、しっかりと狙うとしましょう。

 

 下手に反れた弾丸じゃ、あの蛇は釣られてくれない。

 

 

『5……4……』

 

 

 装填した弾の中に神秘を込めていく。

 流れる神秘の脈動と共に銃と私の身体が一体化していく感覚。

 

 

『3……2……1……今!』

 

 

 カヨコの声に合わせて引き金を引く。

 マズルブレーキから火花が噴き出て、弾丸が発射される。

 私色の真紅の神秘を纏ったそれは、真っ直ぐに塔へと飛来し、それと同時に地面が脈動し始めた。

 

 

「かかったわね」

 

『作戦開始だよ』

 

 

 砂が盛り上がり、離れた位置に居ても分かるほどの巨体が姿を現す。

 あの白い装甲は、夜空のような暗い青と星のような白光に彩られている。

 

 私の弾丸を飲み込み、そして大爆発を起こす。

 

 

「色彩に汚染されたビナーってところかしら?」

 

「汚染ってよりかは模倣じゃない?」

 

『社長、ムツキ。そんなのはいいから、逃げつつ惹きつけるよ』

 

 

 激怒したビナーが咆哮し、こちらに向かって、潜航を繰り返しながら近付いてくる。

 一先ずはこれでどうにかなったわね。

 

 あとは……あのビームを撃たせなければいい。

 あの時と違って電車な以上は避けることが出来ない。

 

 

「あの口が開いた瞬間、閉じさせるしかないわね」

 

「付かず離れずの距離を維持しながらだよねぇ……」

 

「あの顎にまたぶん殴ればいいですか!?」

 

『前みたいな自爆だと回収が難しいし、それにまだ序盤戦だからあの方法は使えないよ』

 

 

 ハルカが悩んでいる最中でも、向こうは待ってはくれない。

 ビナーの咆哮と共にミサイルが飛んでくる。

 前よりも数が多いような気がするのは、色彩の影響なのかしら。

 

 アドマイアーを構えて、迫って来るミサイルの隙間を狙って弾丸を放ち……爆破!

 

 ミサイルの誘爆を引き起こし、一射でミサイルの雨を防ぎきる事が出来た。

 

 

「ミサイルは私に任せて頂戴」

 

「では……私がビームの処理をします」

 

「雑魚達はムツキちゃんに任せて!」

 

『集合地点まで残り10分、何とか耐えて』

 

 

 砂を巻き上げると同時に、ビナーが咆哮する。

 その音圧によって全身がビリビリと震える。

 

 さっさと仕留めるってとこかしら?

 

 ふふっ、いいわね。

 気分が高揚してるのを感じている。

 

 

「さて、面白くなってきたわね。やるわよ、便利屋68!」

 

 

 ビナーが咆哮したかと思えば、ミサイルを放ち、それと同時に、熱線を構える。

 

 同時攻撃なんて、前のビナーの時にはしなかった行動ね?

 色彩の影響なのでしょうけれども、信じてるわよ、ハルカ。

 

 左右から挟むように飛んでくるミサイル。

 さっきの馬鹿正直な正面だけのミサイルじゃ駄目って気付いた訳ね。

 

 二方向なら片方は届くかもってことかしら?

 

 

「舐められたものね」

 

 

 ワインレッド・アドマイアーを宙に放り投げ、コートを翻し、腰からリボルバーをクイックドロウ、そしてファニング。

 

 一音の間に二発。

 音よりも速い高速の技。

 先生の早業にはまだまだ及ばないけれどね。

 

 落ちてきたワインレッド・アドマイアーをキャッチすると同時に私の背中から何かが飛び出す。

 

 

「道は作ったわよ」

 

「あぁぁぁああ!!」

 

 

 Divi:Sionを振り回しながら、跳んだハルカがビナーの顎にDivi:Sionを命中させた。

 顎を強制的に閉じさせられたビナーの口で大爆発が起こり、その余波でハルカが列車に向かって飛んでくる。

 急いでその位置まで来た私とムツキの腕の中でハルカを受け止める。

 

 

「えへへ……ご命令通り、傷一つなくビームを防ぎきりました」

 

「よくやったわ、ついでに大ダメージも与えて……でもまだこんなのじゃ、やられないのでしょうね」

 

「そろそろ近づいてきたし……あともうひと踏ん張りってところかな?」

 

 

 再び感じる殺気。

 

 爆煙の中から私達に喰らいつこうとするその巨口が飛び出す。

 前に戦った時とは違う行動をしていたのだから、当然そこも考慮するべきだった。

 

 一瞬でも気を緩めたのが間違いだった。

 

 アドマイアーを構える。

 

 あの熱線の自爆を受けて、尚かすり傷程度で済む装甲に効かせれる程の力はないかもしれない。

 それでもやるしかない。

 

 牙が、底無しの闇が迫る。

 

 

「ドンピシャだ」

 

 

 ビナーの顔が揺れ、横に吹き飛び、砂を巻き上げながら倒れ伏す。

 空中に見えるのは、さっきまでビナーがいた位置に振り抜かれた拳と共に宙を舞う桃色の長髪。

 

 アビドスの盾……小鳥遊ホシノ。

 

 彼女が電車の上に着地し、こちらを向く。

 

 

「アルちゃん達、スイッチするよ」

 

「……ありがとう、助かったわ」

 

「いいのいいの〜、それよりも挟撃の準備しちゃって〜。 おじさんだけじゃちょっと厳しいからさぁ」

 

「よく言うわ……えぇ、恩は必ず返すから」

 

 

 その言葉を聞いたホシノは、私に向かって確かに微笑み、そして列車から飛び降りてビナーへと向かっていった。

 

 あの瞬間、ビナーに食べられそうになった瞬間、一瞬でも私は自分の死を予想した。

 そしてホシノさんに助けられて……私は確かに安堵してしまっている。

 

 自分よりも強い人に助けられた安堵の甘みと、甘えてしまった自分に対しての辛さ。

 その両方が私の心の中で渦巻く。

 

 歯を強く噛み締める。

 

 

「まだまだね、私も……」

 

「アル様……?」

 

「大丈夫、アルちゃんが負けてないのは分かってるよ」

 

 

 ふと呟いた一言に、ハルカが心配し、ムツキは慰めの声をかけてくれた。

 

 社員に慰められてちゃ世話ないわね……。

 

 

『社長……』

 

「分かってるわよ、カヨコ。次の行動を指示して」

 

『分かった。じゃあ自爆の準備しよっか』

 

「へ?」

 

 

 ────────────────────   

 

 ────────────   

 

 ──────

 

 

 時は少し巻き戻る。

 

 

「あの量のミサイルをたった一射で……」

 

「んーん、ノノミちゃん。二射だね」

 

 

 大蛇が蛇行しながら近づいてくる。

 追っているのはたった一車両の列車、アリの群れのように追いかけていたロボット大群も、巨大な蛇すらも、何故かあれを堕とせない。

 

 放ったミサイルがすぐさま空中で花火へと変わる様子、その直後あの巨体がカチ上げられて口元で大爆発が起こる。

 

 その様子を見ていたノノミちゃんと私は、会話をしていた。

 

 

「いやぁ、あの子達前よりも強くなってるよねぇ」

 

「ふん、別に強くなったのはあの子達だけじゃないでしょ」

 

「んまぁね〜……ごめんちょっと先行するね」

 

 

 そして、その直後煙の中から飛び出るように巨大な牙が列車へと向かう。

 気配を察知した私は、足に力を込めて駆け出す。

 

 速く、迅く、疾く。

 

 風になった私は飛び出し、右手を大きく振りかぶる。

 

 

「ドンピシャだ」

 

 

 腕に、筋肉に、血管に、骨に神秘を流し込み、頑強な鎧を着込んだような、火薬に火をつけたようなイメージでその腕を振り抜く。

 

 鋼鉄の感触と共に鋭い痛みが腕を走るが、厭わず蛇の横面を打ち抜いた。

 

 下に見える列車に狙いをつけて、着地する。

 

 

「アルちゃん達、スイッチするよ〜」

 

 

 横目にアル達便利屋を見る。

 

 いい顔してるね、本気で悔しがる顔。

 おじさんにはもう出来ないんだろうなぁ、あんな顔は。

 

 そんなことを思いながら、少し会話をした後に、私は殴り飛ばしたビナーの方へと向かう。

 

 腕に残る亀裂が走るような痛みが私の脳へと警告を出し続けている。

 

 結構堅めたつもりだったんだけどなぁ〜。

 

 

「こりゃ、本気でやらなきゃ駄目かな?」

 

 

 そう呟き、私は腕を治す。

 

 骨折程度ならすぐに治せるし、少しだけ無茶しないとね。

 

 ビナーは既にダウンから回復して、私の方を見てきている。

 

 結構強く殴ったはずなんだけどなぁ?

 

 ビナーの咆哮が私の身体に強く響く。

 その直後、ビナーに無数の弾丸が直撃した。

 

 

「何あれ堅すぎじゃない!?」

 

「ホシノ先輩!大丈夫ですか!」

 

「セリカちゃん、ノノミちゃん……うん、大丈夫だよ〜!」

 

 

 弾道を追いかけて、後ろを振り返ると走ってくる後輩2人の姿が見えた。

 私もそっちに走り寄り、盾を展開する。

 

 それと同時に、インカムから無線が走り、声が聞こえる。

 

 

『便利屋の皆さんの挟撃まであと15分あります!

 それまでの間、ビナーをここに留めてください!』

 

「アヤネちゃん、留めてって言ってもどれくらい?誤差まで聞いてもいい?」

 

「ホシノ先輩、いつもよりも真面目だ……」

 

「シロコちゃんの為ですもんね」

 

『通信変わって、マキだよ。 ノア先輩は別の案件に向かったのと、通信接続に注力してるせいであまり出てこないけど代わりに答えるね。

 この後、一周電車を回して、ビナーの側面に列車を当てるよ。

 だから、誤差は大体10m!

 頭に当てれたら最高、胴体でもいいけど、外すのだけはダメだからね!』

 

 

 マキちゃんの通信を聴きながら、リロードをしてビナーを見上げる。

 あの巨体をここに留めて……かぁ。

 

 

「うへ〜、老骨に鞭打つのは勘弁して欲しいなぁ〜」

 

「先輩そんなに私たちと歳変わらないでしょ!」

 

「便利屋の皆さんが戻ってくる間、頑張りましょう!」

 

 

 ノノミちゃんの掛け声と同時に、セリカちゃんが砂地を駈ける。

 

 セリカちゃんのトップスピードは、中々速くてね。

 

 ビナーの周りを回りながら、装甲全体にダメージを与えていく。

 

 あぁやって、射撃しながら走る癖をつけさせたのは私だったけな?

 

 

「ホシノ先輩!尻尾っ!」

 

 

 セリカちゃんのことを考えていると、彼女から声をかけられる。

 ふと頭上を見上げると、ビナーの尻尾が私に向かって迫ってきていた。

 

 さっき殴り飛ばされたお返しってことかな?

 

 迫り来る巨大な尻尾を見ながら、盾を展開させて両手で構える。

 あれくらいなら使わなくてもいいかな?

 

 

 眼に神秘を集中させながら、集中力を高めていく。

 徐々にビナーの動きがパノラマのようにゆっくりと動いて見え始める。

 近づいてくるビナーの尻尾が私の盾を捉えるその一瞬。

 

 

「今」

 

 

 盾を斜めにして、勢いを逃がしながらかかる圧力を上方向に流して……カチ上げる!

 

 ビナーの巨大な尻尾が宙を舞い、その質量は見た目以上のエネルギーとなって自身に帰ってくる。

 結果、振るわれた装甲にエネルギーの逃げ場として選ばれ、自壊……亀裂が走った。

 

 

「ノノミちゃん!」

 

「はい!全弾掃射!」

 

 

 ひび割れた装甲に目掛けて、的確にノノミちゃんのミニガンから放たれた弾丸が次々に命中していく。

 

 ノノミちゃんも、ほんと強くなったよね。

 暴れん坊なあのミニガンの制御を完璧に行えるのは、私にだって難しい事なんだもの。

 

 懐かしいね。

 

 ここに来たばかりで、一番荒んでいた私に寄り添おうとしてくれたのはノノミちゃんだったよね。

 

 

『ホシノ先輩、補給です!お怪我はありませんか?』

 

「うへ〜、いやぁさっきのは腰に来たよ〜。湿布ある?」

 

『あはは、一応止血剤と包帯、それと弾丸お渡ししておきますね』

 

「うん、ありがとうね。アヤネちゃん」

 

 

 アヤネちゃんもほんと視野が広くなったよね。

 

 入ってきて、ずっと後方支援をし続けて……今じゃ私やノノミちゃんよりも立派な子に成長したこと、先輩は誇らしいよ。

 

 みんなみんな私の大切な宝物。

 

 そして、今はここにいない大切な後輩。

 

 シロコちゃん、あの子は何が何でも取り戻さなくちゃいけない。

 

 もう二度とあんなことを起こしちゃいけない。

 例えどんな犠牲を払ったとしても……絶対に。

 

 

 ビナーが再び吠える。

 この行動パターンは、熱線だ。

 確か砂が硝子になっちゃうほどの高熱だったっけ。

 

 

『熱線です!皆さん避ける準備をしてください!!』

 

 

 アヤネちゃんの声が聞こえる。

 

 予想通り、ビナーの口に光球が形成されていく。

 

 私も回避の準備を……いや待って、あれは誰を狙っているの?

 

 思考が加速していく。

 

 セリカちゃん……は、ずっと動き回っていて当てるのなんて不可能のはず。

 

 ビナーの視線は、私のことを見ているように見えるけれど……感じる違和感。

 

 ふと後ろを振り返るとそこには、走って逃げているノノミちゃんの姿が。

 

 私が回避すること前提でノノミちゃんを狙っている?

 

 いくらノノミちゃんでも武器を持ちながら、あれを回避するのは難しい。

 

 そう判断すると同時に私の足は駆け出していた。

 

 

 走る刹那、思い出す。

 

 

 会議が終わった直後、黒服が私を呼び出した。

 

 アイツはいつもと変わらない……いや、身体に怪我を負いながら、それでもやはり変わらないニヤケ面で私のことを見下ろしている。

 

 

「黒服、手を組むとは言ったけどさ。お前を許した訳じゃないから、あくまでも執行猶予付きなだけ」

 

「クックックッ……変わらずの鋭さと凶暴な目付き。流石ですね、『暁のホルス』」

 

「……やりづらい。それで何の用。お前とは一分一秒でも早く会話を終えたいんだけど」

 

 

 私は自分でもこんな声が出せるんだとびっくりする程、冷たい声色で黒服に返す。

 事実、先生の言葉と状況を加味してないのなら、今すぐにでもこいつを射殺してやりたい。

 

 

「戦いに行く前に、私から貴女に伝えたいことがありましてね」

 

「何?謝罪? そんなことをする柄じゃないと思ってたけど」

 

「クックックッ……一つ言っておくと、私は私の成した行動に誤りがあったとは思っておりません。ただ互いの目的が違っただけです。 さて話が逸れましたが……貴女の神秘についてです」

 

 

 そう口にすると、黒服の白炎が激しく揺らめく。

 私の神秘について?

 これは私が一番分かっている事なのに、何を言うつもりなのか。

 

 

「貴女の固有名である『暁のホルス』。 あらゆる身体機能を際限なく向上させるものですが、その使い方は本来そういうものではありません」

 

「何を偉そうに……」

 

「クックックッ……その力の正しい使い方は、本来別の身体機能の強化に宛てがわれる分の強化達を、一機能に集約させることにあります。

 

 尤も貴女はそれを既に無意識下で行っているはずですが?」

 

「それは……」

 

 

 自分が今まで戦ってきた記憶を探る。

 確かに速く走ろうと思ったり、力一杯戦おうとする時はあったけれども……。

 

 

「無意識下で行えているのなら何でわざわざ?」

 

「クックックッ……良いですか、小鳥遊ホシノ。

 無意識下で行っていたことを意識的に行えるようになり、それを再び無意識下で行えるように染みつかせる。

 そうやって身体に脳髄に、記憶と知恵を染み付かせる。

 それこそ、教育というのですよ」

 

 

 そう言い放った目の前の大人は、憎たらしい程、大人っぽい立ち振る舞いだった。

 私の宝物を奪おうとした、最低な大人の癖に。

 

 

「ついでに、その力に名を付けて、差し上げましょう」

 

「要らない」

 

「『暁のホルス』に似合う……そうですね、もう一つの神性の名を差し上げましょう」

 

「聞こえてる?要らないって」

 

 

 私の言葉を無視して名付けられたその名を、私は渋々、それでも今は全てに変えても護りたい宝物の為に叫ぶ。

 

 盾を展開し、全ての神秘を防御することに集中させる。

 

「ノノミちゃん、私の傍にいて!」

 

「先ぱ──はいっ!」

 

「『ホルアクティ』!!」

 

 

 ありったけの神秘を込めた盾は、堅牢な城壁の硬さへと跳ね上がり、展開される電磁性バリアにも私の神秘が染み渡っていく。

 

 放たれる熱線が迫り来る。

 

 視界が白く染まり、腕に衝撃が走った。

 

 

『──輩っ!ホシノ先輩!!』

 

 

 アヤネちゃんの声が聞こえる。

 酸欠にも似た息苦しさは、あの熱線が周りの酸素を一時的に奪ったからだろう。

 

 痛みはどこにもない、足元は相変わらず砂地のまま。

 

 

「はいはーい、可愛い可愛いアヤネちゃん。ママは元気でちゅよ〜」

 

「私も大丈夫ですよ、アヤネちゃん!」

 

『ホシノ先輩!ノノミ先輩! もう、ふざけている場合ですか!』

 

 

 私の体にしがみついていたノノミちゃんが離れて、心配そうな声を上げていたアヤネちゃんに声をかける。

 

 

『あの一撃を防ぎ切ったの……』

 

「うへへ、流石に腰が逝きそうだったけどね〜。いやぁやっぱり湿布買っておくべきだったよ〜。おじさんももう歳だねぇ〜」

 

「ホシノ先輩、私達とそんなに歳変わらないでしょ!」

 

『……アビドスの人たちってみんな強いんだね』

 

 

 マキちゃんが、そんなことを呟いたのが聞こえる。

 

 だいぶ時間も稼いだ。

 極力、場所も動かないようにした。

 あとはアルちゃんたちが来れば……。

 

 そういえばビナーは何処に?

 

 熱線による煙が晴れていく中で、ビナーの姿が見えない。

 まさか逃がした?

 いや、そんなはずはない。

 

 

「アヤネちゃん、マキちゃん!ビナーが見えない!」

 

『え、マップ上に映るエネルギーとしては先ほどと同じ位置に……』

 

 

 アヤネちゃんの言葉と共に、強風が吹き始める。

 今日のような天候で、強風が吹き始める事に違和感を感じる。

 

 ビナーが姿を消したことにも違和感を感じる。

 

 風が砂を巻き上げ、竜巻のように渦を成していく。

 

 突然現れるなんて、どう考えてもおかしい。

 

 

「ビナーは地面の下だ……この後どうするつもりなの?」

 

「ホシノ先輩、今日嵐の予報じゃなかったよね」

 

「うん、今日はそよ風しか吹かないはずだったよ。つまりこれは……っ」

 

 

 セリカちゃんまで私の傍に近寄って来た、そのタイミングで地面が大きく揺れて、砂中からビナーが空へと飛び出す。

 

 それと同時に隆起した砂の波が私達に迫り来る。

 

 これを狙ってたんだ。

 

 私とノノミちゃん、セリカちゃんが一纏めになる瞬間を。

 

 もう一度『ホルアクティ』で受ける?

 いや、あの分厚さ、波なんてものじゃない。

 津波レベルだ。

 下手したら生き埋めになる……そうしたらお終いだ。

 

 

 脳裏に過ぎる『全滅』の二文字。

 

 

 迫り来る死を前に私は……。

 

 動けなかった。

 

 

「ドンピシャね」

 

 

 目の前の砂の海が弾け飛ぶ。

 

 頭上を駆けていく鉄の龍が、飛び出したビナーの顔面を捉え、今まで見てきた中で一番綺麗な爆発を起こした。

 

 

「待たせたわね、主役の登場よ!」

 

 

 ──────

 

 ────────────

 

 ───────────────────

 

 

「カヨコ、自爆の準備って」

 

『列車の先頭車両に、ありったけの爆薬を詰め込むってこと。 この列車は今から最短経路を通って一周。またあの蛇に近づいていく。 一番近づいた瞬間、飛び降りてもらいながら、ムツキの爆弾で車両を打ち上げて、この列車ごとビナーを爆破するっていう流れだよ』

 

「え、ちょっとそんなの私聞いてないわよ」

 

「まぁだってねぇ? アルちゃん顔に出やすいじゃん?」

 

 

 いつも通りいたずらっぽく笑う幼馴染に拳をグリグリと押し付けながら、私は立ち上がる。

 

 本命を黙っていられたのは正直ショックだけど……まぁいいわ。

 やることをやるだけよ。

 

 

「その間はアビドスが引き受けるのね、分かったわ。やるだけやってやるわよ」

 

 

 最短経路での一周にかかる時間は10分。

 

 それまでに、ムツキがいつの間にか車両に積み込んでいた爆弾を、先頭車両に運んでいく。

 

 そうして作業をしていると、空に登る一筋の光が遠くから見える。

 

 間違いない……ビナーの熱線だ。

 

 

『やばい! ホシノさんとノノミさんに直撃した!!』

 

 

 マキさんの声が無線で聴こえる。

 

 ホシノさんに直撃……。

 

 その連絡を聴きながらも、私達は特に手を止めることはなかった。

 

 

「なら問題ないわね、作戦は続行よ」

 

「ホシノちゃんに当たったんでしょ?まぁなら平気でしょ〜」

 

『え、本当に言ってるの?それ』

 

『うん、あの人の強さは戦ったことのある私たちが、よく分かってるよ。あの人、本気出したら多分キヴォトスで一番強いだろうからさ』

 

「……撃たれた時の痛みを思い出しますね」

 

 

 それぞれ言葉を口にしながら、準備をする。

 突撃までもう間もなく。

 

 そして近づいて来たその直後、前方に巨大な砂の壁と空へと伸びるビナーの姿が見える。

 

 いくら速度が乗ってるとはいえ、あんな質量の塊にぶつかったらビナーに辿り着くよりも前に、爆発してしまうわ。

 

 ならどうする?

 

 あれを突き破れる程の突破力、爆発力が求められる。

 

 今の私の手札にあるのは……あれしかないわ。

 

 

「全員飛び降りる準備をしなさい、ムツキは予定通り列車を浮かせて?」

 

「分かったけど……あれは不味くない?」

 

「砂の壁は私がどうにかするわ。 信じてくれる?」

 

「くふふ、私がアルちゃんを信じなかったことなんてある?」

 

「んー、作戦を教えてくれなかった時くらいかしら?」

 

「もー、ごめんって!」

 

「さぁ準備なさい、社長としての実力魅せてあげる!」

 

 

 列車が接近していく。

 列車に乗せていた先生から預けられたそれを、私は持ち出し担ぐ。

 

 アドマイアーは背中に背負っている分少し体制はブレるけれど……今の私なら行けるはずよ。

 

 タイミングを見計らって……今。

 

 直後、車両の下で爆発が起こり、 車体が浮かび上がる。

 

 飛び降りながら、私はそれを構えた。

 

 黒鉄の塊で形成されたそのスナイパーライフルは、銃身が特殊な機構で構成されており、装填された弾丸のノックバックを最低限にまで収めるようにしている。

 

 装填された弾の名前は『.586Kaiser弾』。

 

 銃の名前はシモノフPTRS1941。

 

 先生の秘密兵器であり、とっておきの玩具。

 

 空中で構えたその銃身に弾丸に神秘を込める。

 

 流れる血液のように淀みなく、燃える炎のようにとびっきり熱い神秘を込めて……。

 

 狙う先は、宙を飛ぶ車両のその先。

 

 

「ドンピシャね」

 

 

 引き金を弾く。

 

 全身に強くかかる衝撃によって、後ろへ浮かび上がりながら、飛んでいく弾丸を見つめる。

 

 車両よりも速い弾丸はその砂の壁へと当たり……大爆発を起こす。

 海が割れていくように、砂の壁が真っ二つに裂けながら、その切れ目を列車が飛んでいく。

 

 アビドスに迷惑をかけた列車さん。

 せめてその命を散らして、糧となりなさい。

 

 打ち上がり、再び地面へと降りてきたビナーの顔面に列車が叩きつけられ、盛大な爆発を引き起こす。

 

 その様子を眺めながら、私は地面へと着地する。

 

 

「待たせたわね、主役の登場よ!」

 

 

 私の後ろに、ムツキとハルカが着地した音が聞こえる。

 ビナーの顔にかかる爆煙が晴れていく。

 

 ビナーの右半分の装甲が剥がれた姿、その下の配線が剥き出しになった疵面で私たちの事を見下ろしている。

 

 

「随分と男前な面になったじゃない?」

 

 

 私の言葉に返すように、赤い空に向けてビナーが吠える。

 よっぽど顏に傷をつけられたのが嫌だったのかしら?

 

 

「ホシノさん、借りは返せたかしら?」

 

「……うん、おじさんもまだまだ負けてられないね」

 

「ふふっ、私達で、最速で、一番に攻略してやりましょう?」

 

「そうだね。まぁそれじゃあ……」

 

「「ここからが、本当のクライマックスだよ()!!」」

 

 

 ビナーの背中から大量のミサイルを放ち始める。

 今まで見てきた中でも特に量が多い、向こうもようやく本気って訳ね。

 前の時なら逃げてたでしょうけど、色彩が作った存在だからかしら?

 逃走本能ってものを消されてしまったようね。

 

 

「はいはーい!今度は私達に任せてね!」

 

「ホシノ先輩とアルさんはビナーへのトドメの準備をしてください!」

 

 

 ノノミさんとムツキが私たちの前に立って、放たれたミサイルを次々と撃ち落としていく。

 その二人の言葉を聞いた私とホシノさんは互いに顔を見合わせて、歯を見せながら笑う。

 きっと先生だったらこうやって笑うと思ったから。

 

 それならみんなを信じて、私たちは構えさせてもらうとしましょう。

 

 先生から託された対物ライフルを構えて、そこに神秘を流していく。

 さっきよりもより多くより強く……。

 普段無意識でしていることを意識的にするのは疲れるのよね……。

 それでも、こうして戦地の真っただ中で集中できるのは、みんなのお陰ね。

 

 雨のように降り注ぐミサイルをノノミさんとムツキが次々と撃ち落とし、手榴弾を使って誘爆させて、被害を起こさせない。

 

 ビナーが尻尾を振り上げて、私達に向けて振り下ろしてくる。

 

 あの大質量……回避行動を取るべきなんでしょうけど……信じてるもの。

 

 

「アル様の邪魔をするな!!」

 

「合わせるわよ!!」

 

 

 セリカさんが走りながら、右足を横に浮かせるとそこにハルカが跳び乗る。

 あの子達そんなに仲良かったのかしら、なんて思ったけど……アビドスの子達と初めて邂逅したのは、ハルカとセリカさんだったわね。

 

 

「バイト戦士舐めるんじゃないわよ!!」

 

 

 セリカさんがハルカを尻尾に向けて、蹴り飛ばす。

 

 勢いの付いたハルカは、あっという間に尻尾に近づき、ショットガンを構える。

 

 

「アル様と先生の為に……死んでください」

 

 

 そして銃声が砂漠に響くと同時にあの巨体が止まる。

 尻尾の勢いを完全に殺しきったその瞬間を狙っていたハルカは、懐から取り出した閃く鋼線を尻尾に巻き付けて、地面に結び付け、固定させてしまう。

 

 これでもう、尻尾を使った攻撃は出来ない。

 

 

 あの巨体、当然すぐに振りほどこうなんて思ったら、出来るのでしょう。

 

 でも……私とホシノさんが銃口を向けてるのよ。

 

 余所見なんてさせるわけがないわ。

 

 ビナーの口元に光が集まる。

 

 

「ホシノさん、あれ突破できるかしら」

 

「そのあとトドメ刺せるってことだよね」

 

「えぇ、散々あれには苦戦させられたのだもの。 正面から突破してこその完全勝利でしょう?」

 

「いいね……乗ったよアウトローさん!」

 

 

 息を吐き、照準をビナーの口元に集まる光球に向ける。

 ホシノさんもショットガンを構える。

 

 光球がみるみる大きくなり……向こうも準備万端って訳ね。

 

 その様子を見て、ホシノさんが小さく呟く。

 その声は今まで聞いた声とは違って、凶暴な獣のような鋭い声をしていた。

 

 

「来なよ、火力勝負と行こうか」

 

 

 その言葉と共にビナーが熱線を放つ。

 迫る巨大な熱と光を前にしても、怖さは微塵も感じない。

 

 

「『ホルアクティ』」

 

 

 その言葉と共に引き金を引いたホシノさんの銃口から放たれたスラッグ弾は、桃色の光を纏いながら熱線と衝突する。

 

 スコープ越しに覗く光が、私の眼を焼いていく。

 

 質量は熱線の方が遥か上、それでも光量は劣るどころか、むしろホシノさんの方が段違いに強い。

 熱線を弾き飛ばしながら、弾丸は突き進み、あの熱線を相殺し切る。

 

 眼を直しながら、相殺し切ったホシノさんの弾丸の背中を押すように……弾丸を放つ。

 完全に重なった二つの弾丸は、ビナーの口元へと吸い込まれ……貫く。

 

 あれだけ吠えていたビナーの声が聞こえない。

 

 それもそうでしょうね。

 

 もうその命は私が貰ったのだからね。

 

 ビナーの全身にヒビが入り、ガラスのように崩れ、風と共に砂漠へと消えていく。

 

 

「こちら便利屋68」

 

「それにアビドス対策委員会」

 

「「守護者攻略完了だよ()」」

 

 

 

 

 




次元大介だ
アビドス砂漠での勝利を皮切りに
各地からの報告が耳に届く
流石、俺の生徒達だ

次回 第二サンクトゥム『玉座と黒翼とダブルオー』

はぁ……なんでてめぇらは喧嘩してるんだ?




一話一サンクトゥム。
ここから六話、次回予告にしか出てこないタイトルになってる主人公がいるらしいですよ?まじ?

真面目に話すなら、ここからは彼が生徒達に与えてきた影響を見るターンなのですな。

そういえば、総合UA70万ありがとうございます!!
目指せミリオンで頑張っていきます!

では最後に、感想、評価、ここすきよろしくお願いいたします!

あらすじの文章を変えるか悩んでるのでご意見頂戴

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