「はぁ……」
暗い部屋の中、私は溜息を吐く。
眉間に寄る皺を指先で押し伸ばしながら、温くなったインスタントコーヒーを啜り、再びプログラムを進める。
ミレニアム自治区の全域に行き渡らせたAMASの様子を確認しながら、破壊されれば自動化工場で作られた次のAMASで補填を行う。
その作業と同時並行しながら、守護者に向けた作戦を練り……そして再び込み上げてきた溜息を吐き出す。
「会長……」
「ユウカ……ごめんなさい、少し五月蠅かったわね」
「いえ、そんなことは……あの、私に出来ることがあれば」
「…………」
私は人を頼ることが苦手。
それが合理的な解であるのなら、その手段を使うことに躊躇いは無い。
しかし……こうやって、頼ることを求められるこのシチュエーションは、未だに苦手だ。
感情への理解は次元先生のお陰で、昔の私に比べれば幾分か出来るようになった。
それでも、後輩へのアプローチの仕方はもっと練習するべきね。
「そうね……ユウカ、貴女の意見を頂戴」
「私のですか?!」
「そんなに驚くことかしら……?」
私一人でこのまま考えていても仕方ないから聞こうと思っただけなのだけど……。
ユウカの反応を分析するのは置いておくとして、私は大きいモニターに区画図やインフラ網図を足した3Dマップを映す。
「これはエリドゥの設計図を起こしたものよ」
「エリドゥ……第五サンクトゥムがある場所ですね」
「えぇ……他の攻略が進んでる中、私達が遅れてる理由もここにあるの」
エリドゥの中心部地下に赤い点を表示させて、説明を進める。
「この赤い点がタワーのある場所よ。でも今それを囲むように防壁が展開されているの。これはエリドゥ自身が備えている私が設計した防衛装置の一つね」
「会長の作ったものを利用していると……しかし、会長が作ったのなら主導権を取り戻すことも出来るのではないでしょうか?」
「えぇ、私もそう思ったわ。でもそう簡単な話でもなくて……ここの守護者となったのはホドなのよ」
「ホド……確かヒマリ先輩が調べているデカグラマトンの預言者でしたよね」
「そう、ミレニアムの叡智の結晶である通信ユニットAI『hub』が堕ちた姿……ホドは私の作ったエリドゥを運用するための通信ユニット『インベイドピラー 』をハッキング。エリドゥのセキュリティを完全に掌握したわ。 その上裏口もしっかり封鎖、パスワードは私の時よりも速いバッヂ処理が入っていて、一秒間隔でリクエストを飛ばしたタイミングのパスワードを打ち込まなければハッキングすら出来ない……」
「それは想像以上に……」
「えぇ、厄介な相手よ。ユウカ、思いつく手はあるかしら?」
ユウカの顔を見ながら問いかける。
真剣な表情で、彼女は顎に手を当てながら、思考を巡らせて、何か閃いたかのような顔をしたのち、すぐに顔を渋々といった表情に変えて、ゆっくりと口を開く。
「そのハッキングさえ出来ればいいんですよね?」
「えぇ……そうだけれど……まさか」
「はい、恐らく一人だけこの状況をどうにか出来る子がいます。ただ……物凄く頼りにしたくないと言いますか……」
ユウカが頬を掻きながらそう話す対象は……恐らく彼女のことでしょう。
あの子を使うのは、確かにリスクがある行動だけれど……。
「ごめんなさいユウカ、もし財政崩壊したら立て直しを頼むわね」
「はい……はい!?」
「ふふっ、冗談よ。でも彼女を使うのはいいアイデアね。私も賛成よ」
問題は彼女が協力に応じてくれるのか。
そして何を対価として求めてくるか……ね。
「あの、コユキの説得なら私とノアでやる方が合理的ではないでしょうか?」
「ノアにはサンクトゥム間の作戦参謀の仕事がある。そっちに注力して欲しいのよ。それに……」
「それに……?」
「いえ、気にしないで頂戴」
ユウカと話しているとあっという間に懲罰房へと辿り着く。
通称『お仕置き部屋』と呼ばれる懲罰房の中には無線で繋がったマイクとスピーカーがつけられている。
部屋の外からまずは彼女と話をするべく、マイクに近づいて喋りかけた。
「コードネーム『白兎』……いえ、黒崎コユキ。聞こえてるかしら」
『うぇっ!? この声は……もしかしてリオ会長!? 珍しいですね、ユウカ先輩とノア先輩はどうしたんですか? あ、もしかしてもしかして……お話し相手がいないとか?』
「コユキ、私はいるわよ。あまりリオ会長を誑かさないで」
「…………」
私そんなに騙されそうなのかしら。
少し心外なのだけれど、その気持ちをそっと伏せて再びマイクに向かう。
人の説得……苦手分野だけれど、でも私以外にこの仕事を任せられる人はいない。
彼なら何て言うのかしら。
「黒崎コユキ、率直に言うわね。貴女の力が必要なの、その技術と才能を貸してはくれないかしら」
『私の? 私に出来て、リオ会長に出来ない事なんてあるわけないでしょう。リオ会長はセミナーの、ミレニアムのトップですよ?』
ミレニアムサイエンススクールは完全に実力主義の学園、知識と技能その全てが物を言う世界。
三大学園の一角として、古くから存在するゲヘナとトリニティと比類するためにその厳しさだけは開校当時から変わらないと聞いているわ。
だからこそ、その頂点であるセミナーの会長である私に課せられる期待値の高さは誰よりも高くシビアなものにしてある。
人に厳しくあろうとする人が自分に甘くしていいはずが無いもの。
だからこそ、私には自分の出来ないことを認めて、人に頭を下げることが立場として、役割として難しくある。
昔の私なら今回の件もきっと独りでどうにかしようとしたのでしょうね。
でも……今の私にとっては失敗を恐れることよりも、人の手を取れないことの方がもっと怖いの。
少し息を整えて、私はコユキからの言葉に答える。
「あるわ。私はユウカのように狂いのない高速の暗算は出来ないし、ノアのような見たものを瞬時に記憶する超記憶を持っているわけではない。
そして、貴女のような感覚で全てを解く天才的なハッキング能力も、それに対抗する技術も持っていない。
私には出来ない事ばかり、だから貴女の力が必要なのよ、黒崎コユキ」
「会長……」
『……先生の言ってた通りなんだ。分かりました、リオ会長。私は何をすればいいんですか?』
コユキが真面目な声色で、そう言った。
応えてくれるのね、貴方は。
「部屋の外に制服を用意したわ、着替えてミーティングルームに来てくれるかしら、説明はそこで行うから」
『えー、着替えるんですか?この服、結構気に入ってたんですけど』
「仲間なのだから、まずは共通の服装からよ」
そう告げてマイクから離れ、息を整える。
私も……少しだけ成長したのかしら。
まだまだ学ぶことばかり、人生は死ぬまで勉強とはよく言ったものね。
「リオ会長……さっきの言葉は」
「嘘もお世辞もないわ。だから、その……頼りにしてるわね」
「……っ! はい!」
気持ち嬉しそうに見えるユウカが駆け足で次の仕事現場に向かっていく。
私の言葉でそこまで喜んでもらえるものなのね。
ユウカの態度に私の頬が僅かに紅潮する。
「はーっはっはっはっ!」
「なんでこんなことに……」
ミーティングルームに着くなり、飛び込んでくるのは大きな笑い声。
この声……ミレニアムの生徒じゃないわね。
赤いシャツに明らかにオーバーサイズの白衣、そして目立つ黒い角と先が真紅に染まった黒い尻尾。
これはゲヘナの領土に多くいる悪魔の系譜。
そしてその胸に付けられているワッペンに描かれているのは……キヴォトスでも有数の犯罪集団『温泉開発部』のロゴ。
「鬼怒川カスミ。貴女が何故ここに」
「おやおや……ミレニアムのビッグシスターに名前を憶えられているとは光栄だね」
「この子呼んだのはリオなの? なんで温泉開発部の部長が……」
「はーっはっはっはっ!そう釣れないことを言わないでくれよ、各務チヒロくん」
鬼怒川カスミに背中を叩かれながらしんどそうな顔をしたチヒロが、私に助けを求めるような顔を向ける。
「えぇ、その人を呼んだのは私よ」
「何でこんな人を……」
「それは、この人がキヴォトスにおいて最も穴を掘ることが得意な生徒だからよ」
そういって私はミーティングルームのモニターを着ける。
地下の反応を示すエリドゥを横から見た断面図が映し出される。
「これが今回攻略する第五サンクトゥムの守護者がいるエリドゥの地下部分よ。ここに到達する方法は二つ。地下の貨物列車の線路経由で忍び込む……もしくは──「地上から穴を空けて飛び降りるという事だな!」」
「え、私飛び降りるんですか!?」
声が聞こえた方を見ると、制服に着替えたコユキがノアと共に入ってくる。
ノアは何も言ってなかったようね、とはいえ言えば立ち止まってしまうでしょうから……仕方ないと言うやつね。
「仕方ないですよ、コユキちゃん。地下の通路は逃げ場がないですし、ホドの能力を考えると、貨物列車自体も安全とは言えません」
「そういうことよ、だから地上に穴を開けてそこから直接ホドの近くに侵入。そうしたらコユキ、貴方の出番よ」
「た、確かに合理的ですけど、私紐なしバンジーは嫌ですよ?!」
ここまで言う事は想定済み。
ある程度の落下に対する備えはあるけれど、それでも不安がるでしょうね。
追い詰めてこそ輝く力もあるけれど……この子の場合は追い詰めすぎるとボロが出る。
「落下の衝撃に備える装備はエンジニア部に作ってもらっているわ」
「ウタハ先輩達の技術力は信じてますけど……配線とかに引っ掛かったら終わりじゃないですか……」
「そういうと思って、これを貴方に」
そういって私は、彼女にカジノで使われるメダルを手渡す。
銀色に輝くそれは、怪しく閃きながらも圧倒的な神秘を放っていた。
「おや、そのメダル只ものではないね」
「C&C コールサイン・01 一之瀬アスナの神秘『確率変動』が注ぎ込まれたものよ。持ち主に一時的な幸運を齎す効果がある。アスナのバックアップ付きなら行けるかしら?」
「アスナ先輩の……はぁ、ここまで御膳立てされちゃったら、引くに引けないじゃないですか……!」
メダルを握りしめたコユキが決意の固まった顔で私の事を見つめる。
その顔にどこか先生の面影を感じる。
思っているよりも彼がこの世界に与えた影響は広く深いのね。
まぁ、私もそのうちの一人なのだけれど……。
「とりあえずバックアップは私達ヴェリタスに任せて」
「発破と小兵の掃討は私達温泉開発部が担おう!」
「私達はホドの攻略に回るわ。ノア、ユウカ、コユキ、現地出の攻略は任せたわね。私はAMASとアバンギャルド君Mk.2で乗り込むわ」
他の攻略部隊からの完了報告が次々と流れてくる。
これ以上の遅れは許されない。
「第五サンクトゥム攻略戦、作戦名『団子作戦』開始よ」
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「ねぇ、ユウカ先輩」
「どうしたの?コユキ」
「リオ会長、なんでゲヘナの人なんか呼べたんですかね?」
エリドゥへと向かう道の中でコユキが聞いてくる。
どうして呼んだ、のではなく呼べたのか……ね。
確かに温泉開発部の部員数とその採掘力は、キヴォトスでもトップクラス。
とは言え、その性格と素行は問題児の域を越えている。
特に鬼怒川カスミ……ミーティングルームで一目見て理解できる、あの人は何か私たちとは違う。
生き様、今まで歩んできた道が私の知っている生徒達とは違う。
先生とよく似たその陰、あの笑い顔の裏に潜む何かが彼女から発せられる神秘に滲み出ている。
「そうね、あれは少なからずとも善意で協力するようなタイプじゃないわ……お金、で動くようなタイプでもない」
「リオ会長、また取引でもしたんですかね?」
「はぁ、そうね。全て終わったら聞きに行きましょう」
「リオ会長の全てが終わるまで不必要な情報は、徹底的に伏せる癖は相変わらずですからね」
また面倒なことを飲み込んでなければいいのだけれど……先生も会長も、世話の焼ける人達なんだから、もう。
そんなことを思っていると、コユキが何かニヤニヤした顔で私のことを見つめている。
「何、何かあるなら言ってコユキ」
「いいえ〜? 世話焼きさんなところは変わらないんですね先輩は」
「それがユウカちゃんのいい所ですからね」
「バカ言ってないで二人とも早く行くわよ」
ニマニマと笑うコユキとノアを置いて、先に歩き始める。
コユキはともかくとしてノアまで何を言ってるのかしら……!
後ろから二人の静かな笑い声が聞こえるけど、それを無視して前に進んでいくと、街の灯が見えてくる。
「そろそろ無線つけるわよ」
「はい、会長たちのお話はまた今度しましょうね」
『……聞こえてるかしら、無線が入ったということはエリドゥに着いたのね』
リオ会長の声が聞こえる。
こうして本物を見るのは初めてだけれど、エリドゥがここまで広い都市だったなんてね。
情報で見るのと実物で見るのとではやはり別物ね。
「ところでノアはこっち来てよかったの?」
「久しぶりにセミナーが全員揃ってのお仕事ですよ?私だけ除け者なんて悲しいこと言わないでください」
「にはは、寂しがり屋さんが多いのはセミナーの特徴ですねっ」
「誰が寂しがり屋ですって!」
『3人ともそろそろエリドゥの軽微システムの検知範囲に入るわ、集中しなさい』
会長の冷静な声と共に気を張り直す。
マガジンは充分、銃の整備もバッチリ、睡眠もしっかり取った。
やれることは完璧に行ったのだから、あとは実践するだけね。
『突入を始めたら止まることはできない、総員配置に着いたわね。団子作戦を始めるわ』
「そのネーミングセンスは相変わらずですね!」
真剣な声色で気の抜けた作戦名を言う姿は、いつも通りの会長そのもの。
いつも通りの自分で居続けることの強さは、先生から学んだことだけれど……何だか気が削がれるわね。
『私のAMASとアバンギャルド君はホドとの相性が悪いからハッキングのできない雑兵を掃討させるわ。今から3分後指定位置で大爆発が起こるはず、ホドが対応する前に現着と降下を完了して』
「ここからノンストップで走り続けるんですか!?」
「あら、コユキちゃんなら大丈夫ですよね?」
「そうね、何せネル先輩といつも追いかけっこしてるんだもの」
「別に好きでしてるわけじゃないんですよ!!」
手を抜かれてるとはいえ、あのネル先輩と駆けっこが成立している時点で凄いのを知らないのかしら、この子は……。
エリドゥの街を走っていると向かっている先の方で、大爆発が起こり、その爆煙が空高く登る。
分かりやすい目印ね。
温泉開発部が上げた旗印のところに着くと、交差点を飲み込むほどの巨大な穴が空けられていた。
底が見えないほどに暗く、深い。
流石に怖いわね……。
「ユウカ先輩」
「何、コユキ」
「手、握ってあげましょうか?」
「要らないわよ。ほら……時間もないから」
話しかけてきたコユキの顔を見ずに、私は穴を見つめて……飛び降りた。
身体に掛かる重力と吹き上げてくる風が髪を靡かせる。
隣を見ればノアとコユキも追いついてきた。
ウタハ先輩から頂いた装備を起動する。
足首に付けたリングは、地面を感知して完全に衝撃を吸収するクッションを展開する。
確か何て名前だったかしら……?
そう考えていると、地面が近付いてきて、足首に付けたリングから風船のようにクッションが膨らみ、ベッドの上に身を投げ出した時のような感覚で身を包んで、柔らかく地面に着地を果たした。
「ウタハ先輩の『改良式誰でも紐無しバンジーちゃん二号』ですね」
「これそんな名前だったのね。ウタハ先輩のネーミングセンスもよく分からないわ……」
『そうかしら……。 ……そこから南の方角に行ったところにホドはいるわ、ノア。例の物は持ってるわね』
「ふふっ、えぇ持ってますよ」
少し寂しそうな声を出した会長がノアに指示を出すと、ノアが服の内側から球状の機械を取り出す。
セミナーのロゴが描かれたその機械のスイッチを押すと静かな駆動音と共に青く光り出した。
『私が開発したインベイドピラーを小型化した遠隔の通信機よ。内部にはキーボードが格納されているわ。コユキ、貴方にはそれを使ってホドに対してハッキングを仕掛けて貰う。範囲はおおよそ200m、ホドを目視できる距離で充分効力を発揮する』
「これを持ちながらハッキングですか、妨害をしてきたら躱せる気がしないですよ」
『そのためのコインよ。ホド自身に攻撃能力はほぼない、防衛装置の射撃システムをハッキングして攻撃してくるでしょうけれども……そのコインがある限り貴女に弾が当たることはないわ』
「チートじゃないですか!! そんなに凄かったんですねこのコイン!」
歩きながら、手に持ったアスナ先輩のコインを掲げて小躍りするコユキを見て、内心冷や汗が出る。
会長……コユキにあんなものを渡してよかったのかしら……。
先生に確保を頼んでから、確かに変わったところがあるとは言っても、お調子者なのは変わらないのに……心配ね。
でも今は、この子がホド攻略の要、ホドに潰されるわけにはいかないものね。
「そろそろね……はぁ、コユキ頼んだわよ」
「にはははっ、会長に期待された分、ちゃんと働きますよ」
「ふふっ、会長もコユキちゃんも。皆変わりましたね」
ホドの姿が見えてきた。
巨大な体躯に触手のようにうねるアーム、モノアイのカメラが白く発光し、私たちの事を捉える。
「ホドに補足されたわ」
『了解、全員ここからが本番よ』
『ハーッハッハッハ! 了解だ、ピラーの破壊は既に80%完了している。このまま仕事を仕上げるとしよう!』
「コユキ──「にはははっ!もう始めてますよ!」」
ホドが吠えるかのように衝撃波と電磁パルスを発射、体が僅かに痺れる。
何度も食らえる代物じゃないわね……。
そして、それと同時に銃口がこちらに向けられる。
会長の言っていた射撃システムね。
「ノアこっちに!」
「はい!」
ノアを抱き寄せながら電磁バリアを展開する。
私の神秘を吸い取って、それを元にバリアを生成する装置……長く使ってきたけれど、この子はホド相手でも起動してくれて助かった。
無数の弾丸がバリアに当たり、金属音がバリア内に響く。
想像以上に射撃が長い……コユキの方を見ると、弾丸が彼女を避けるかのように型抜きをするように弾が避けている。
分かっているけど、本当に全て避けるのね。
「コユキ!この銃止めれるかしら!」
「はいはい、今やりまし……た!」
コユキの言葉と共に完全に銃声が止む。
あの一瞬で制御を奪った……のね。
つくづく天才ね、この子は!
「ノア!」
「はい、反撃開始です!」
私達が与えられる攻撃は微々たるものだけれど、それでもアームの根元である関節部やモノアイを狙って弾丸を当てていく。
そのほとんどが弾かれてしまうけれど、今はそれで充分。
コユキに意識を向かせずに私達にヘイトを向けさせる。
「弱点解析……ユウカちゃん、同じ個所に火力をお願いします」
「分かったわ!」
ノアが弾倉を変える、あの弾倉には弾が一発しか入っていない。
それは使いすぎると環境に悪影響を齎す上に、ある一定の神秘を銃に込めないとまともに効力を発揮しない銃弾。
劣化ウラン弾。
神秘を取り込んで活性化したその弾頭は、着弾地点の装甲を柔らかくする。
ノアの放った劣化ウラン弾はアームの根元に着弾した。
そこが狙い目。
すぐさま通常のマガジンに切り替えたノアと私の全弾をその一点に集中する。
さっきまでろくに効かなかった攻撃が急に効力を発揮することに、対応する間もなく……ホドの腕が落ち、黒い装甲の内側から配線と白い装甲の破片が見られる。
そのことに思考を巡らせるよりも前に、。ホドが再び電磁パルスを放ち、地上へ上がっていく。
そしてその直後、通信が入る。
『そのまま地上に向かわせて、地上は掃討済み。一気に畳みかけるわ』
「分かりました!」
「折角、降りたのにまた上がるんですか!?」
「文句言わない!コユキが作戦の要なんだから、来なくてどうするの!」
ホドが地上に向かうと同時に、瓦礫が落ちてくる。
これを辿るのが最短なのでしょうけれど……いや、今はやるしかないわね。
「コユキ、先頭行って。貴方なら道を作れるでしょう?」
「え、多分行けると思いますけど……まさか瓦礫を登るんですか!?」
「なるほど、確かに今の豪運なコユキちゃんなら行けますね。ほら走ってください」
「分かりました!分かりましたよ!走ります!!」
コユキが瓦礫の上に飛び乗ると同時に、進む先に新たな瓦礫が落ちて道を作る。
正直自分でも自信のない指示だったけれど、本当になんでもアリね。
でも、これなら追いつくわ。
「頼んだわよ、コユキ!」
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宇宙を思わせる煌めく黒色の装甲を纏ったホドの周りを三人の少女が走る。
積み上がっていく瓦礫の山と共に、地上へ這い出たホドは紅い空と共に観測した光景に演算回路が1clock停止する。
まるでここに来ることを分かっていたかのように組まれた鉄骨で出来た足場とその上に並ぶ大量の銃口。
そして、無数の弾丸がホドの装甲へと襲い掛かる。
『ここに来ることは読んでいたわ。だから待ち構えていたの、よくやったわね三人とも』
無数の弾丸を喰らうホドの装甲に僅かに亀裂が走る。
それを感知したホドが咆哮を放つと、弾丸が弾かれ始める。
その現象を見たユウカが声を漏らした。
「それ……私の電磁バリア。まさかラーニングしたの?!」
「流石、ミレニアムの叡智の結晶から生まれた存在なだけはありますね」
『でも、それも予想通りよ』
調月リオは神秘を扱えない。
学園の頂点に立つ生徒はその多くが固有名を発言した強者が揃っている。
その中で彼女は、唯一固有名を扱えない。
それでもミレニアムという実力主義の
『予測と備え』。
それを徹底して行い、全てに備えてきた。
ホドが取るであろう行動の全ての可能性を予測し、徹底して対応策を編み出した。
だからこそ、ラーニングに対して彼女は冷静に合理的に対応を下す。
『コユキ、バリアの解除……貴方なら出来るわね』
「後輩扱いが荒いですよ!!リオ会長!!──「出来ないんですか?」出来ますし!やります!やりますから!!」
再び球体に手を入れると同時にタイピングをし始めるコユキ、その速度は少しでも機械に触ったものであれば、一瞬の程で理解できる異常な解析の速度。
知らない技術、理解の出来ない技術に人は恐怖を覚える。
しかし、黒崎コユキは止まらない。
その未知という暗闇に彼女は何の躊躇いもなく足を踏み入れる。
知らずとも進む先が答えであることを分かっているかのように、彼女は止まることなく答えへと辿り着く。
「バリア解除です!」
『ご苦労!私達からもサービスだ!』
その瞬間、遠くの方で爆発音が空を叩く。
倒壊していくビルが、隣のビルを倒し、その重さによって倒壊するビルが次のビルを倒し、そしてかけられる重さによってビルが倒壊し、また次のビルへ、そしてまた次のビルへ……。
ビルAがビルBを倒し、ビルBがビルCを倒し、その連鎖がホドへと延び……ホドに向かって巨大な質量が伸し掛かる。
『いいぞぉ!メグ完璧だ!』
「ふふん、破壊は温泉開発部の専門だからね!」
倒れてきたビルは、足場がない箇所へと倒れたことにより、味方陣営に一切の被害を出していない。
埋もれたホドは瓦礫を退かす、来る攻撃に備えるために。
『その攻撃は想定外だったわね……でも、充分にダメージを与えられた。 コユキ、相手の挙動を止めることはできるかしら』
「挙動ですか? うーん、多分1分なら?すぐに奪い返されると思うので、私攻撃できないですよ」
『上出来ね、火力なら砲門の数も銃口も私が賄えるわ。ノア、まだ腐食弾は残っているかしら』
「はい、撃てますよ」
『分かったわ……総員に通達、今から一分間で全火力をホドの頂点部位に集中させる。ここが正念場よ』
ホドが瓦礫から脱出する。
その瞬間、動きが停止する。
動かそうとするアームが痙攣し、制御を司る回路に命令を送るが、命令を受け付けない。
そして、迫りくる弾丸がホドの頂点部に当たる。
「集中砲火開始です!」
無数の弾丸が、直前に弾丸が当たった箇所に襲い掛かる。
無数に散る火花と共に金属が砕かれるような音が響き始め……音の起点から徐々に黒い装甲が剥がれ始め、白い装甲が見え始める。
『やはり、そうだったのね。なら尚の事……ここで仕留めさせてもらうわ』
リオの言葉と同時に、足場の上にキャタピラ音を鳴らしながら、現れるのは……小学生の工作の授業で作るような何とも言えない頭部と、デカくミレニアムの校章が貼られた胴体部にそして四本の腕がつけられたハッキリ言って、ダサい見た目のロボット。
調月リオのスペシャリテであるアバンギャルド君だ。
四本の腕に付けられた計四門の砲がホドを捉える。
キャタピラのメインギアから展開されたかぎ爪が足場を掴み、固定する。
砲身に光が集まっていく。
『勇者である彼女になぞらえて、私もこう言わせてもらうわね……光よ』
四門のレールガンから放たれる極光が、ホドを貫き飲み込んでいく。
砕かれる金属音と共に、頂点部分からホドの身体が崩壊を迎えた。
『守護者ホドの消滅を確認……私たちの勝利よ』
「え、ホントですか? ここから第二形態よ……とかないんですか?」
『ホドにそんな機能はないよ。こっちでも確認してたけど、ホドの機体は完全に崩壊した……まぁ、呆気なさはあるけど、ホドは元々ハッキングがメインの相手。コユキとリオじゃ相手が悪いよ』
無線に入るのは、リオのアシストを行っていたチヒロの声だ。
リオは、先ほどホドの分析に入っている。
「そうなんですね、じゃあこれで私はお役御免ってことですね!」
「そうはいかないわよ、折角外に出たんだもの。セミナーの仕事手伝ってもらうから」
「嫌ですよ~!にはははっ、だって今の私にはアスナ先輩の加護がありますもん。先輩達埃塗れですけど、ほら私は傷一つどころか埃一つない。この豪運試さないわけにはいかないじゃないですか!」
そそくさと帰り道の方へと向かうコユキに対して、ノアが口元に手を当てて、目の笑っていない笑顔で口を開く。
「コユキちゃん? そんなことをして、先生が何て言うんでしょうね?」
「うっ……弱いところを……でもでも、ちょっとくらいゴールデンフリース号で試したって──『それは無理よ』へ?」
分析が終わったリオがコユキに話しかける。
『それは元々一日しか持たない代物よ。そして何より……埃レベルでの確立を操作していたのなら……』
リオの発言と同時にコユキが手にしていたメダルが真っ二つに割れる。
やはり、という言葉が出るかのようなリオの溜息と共にコハルが悲鳴を上げた。
「え、え、な、何でですか!!」
『そうね……あえて言うのなら、パワーアップと言うのは限定的なものだからよ』
「そ、そんなぁ……!」
コユキの悲し気な声が空に響く中で、その光景を見ていたユウカとノアが互いの顔を見合せて微笑む。
手に余ると思っていた後輩とずっと孤独であり続けた先輩が親し気に会話をしている。
その光景が、見られるとは思わなかった光景を目の当たりに出来たからだ。
終末が近付くキヴォトスで、過去ではなく今のその先を見れたこの幸運をただ噛み締めるのだった。
銭形だ
空が赤くなったと思えば、ニュースで流れるのは世界の終末だと!?
そんな中でもカンナやレイミ、皆それぞれの正義を見せてくれた
教官として鼻が高い、だからこそ、ここは俺が見せる番だろう
次回 第六サンクトゥム『警部と局長の絆』
漢、銭形 一世一代の大勝負
月2投稿になっちまうよ……。
次回はちょっと前々からやりたかったとあるネタをやる予定なので、お楽しみになんですね。えぇ、銭形回ですので。
モチベは皆様からの感想と評価が一番繋がるので、少しだけ乞食ばさせてくださいな!
では最後に、もしよろしければ、ここすき、評価、感想よろしくお願いいたします!