「外が騒がしいですね」
「言ってる暇があるなら手を動かせ」
「クックッ……心外です」
資料室に籠もり始めて今日で何日が経った?
空は常に赤く明るいせいで、昼何だか夜何だかも分からねぇ。
ただ度々部屋に舞い込んでくる作戦完了の知らせが、時報の代わりになっている。
「つい先ほど、第五サンクトゥムの攻略が完了したようで……『星追い』と『sudo』が手を組んだのだとか」
「お前さんのその人を渾名で呼ぶ話し方、いい加減止めたらどうだ? 誰と、誰だって?」
「テクスチャに興味はないのですが……まぁ、いいでしょう。調月リオと黒崎コユキですよ」
「あいつらが……はっ、その二人が組んだのなら当然だな。俺たちも成果出さねぇとガキ共に笑われちまうぜ」
色彩の侵略が続く、つまりはこの世界の何処かに色彩とそれの手先をしているプレナパテスって奴がいるはずだ。
そのはずなんだが……何処にも居ねぇ。
町中の監視システムのログを漁っているがまるで変化がない。
余程、闇の中を歩くのに慣れてやがるな。
監視カメラは分かりやすいが……それ以外もほぼ全てに引っかかりもしねぇ辺り……この街の何処かにいるって推測自体が外れてそうだ。
となれば何処だ?
地下か?
空か?
海の中か?
探る範囲を増やすのと同時に、プレナパテスに関する文献、色彩に関する情報を調べまとめる。
かなりの時間を費やしたがそれでも足りねぇ。
まるで分からないってことが分かっただけでも少しはマシか?
「ククッ、これだけ探してもいないということは、我々の認知する次元とは別の次元にいる可能性も浮上してきましたね」
「二次元とかそういう話か?」
「どちらかといえばタイムラインとでも呼びましょうか……しかし干渉している以上何処かに中継点があると思っているのですが……まさか、『箱舟』?」
黒服がそう口にした瞬間、部屋全体が大きく揺れる。
響く爆発音、正解の効果音にしては随分と派手だ。
遮音かつ常にアロナの逆ハッキングをしているこの部屋をどう盗聴したのかは知らねぇが、タイミングが良すぎる。
部屋に備えてあった緊急連絡システムからホログラムが表示される。
『先生!シャーレに大量の兵士達が』
「モモカか、あぁ今軽く爆撃された。泳がされてたと見るべきだな」
『今そっちにヴァルキューレ達が向かってる。到着まで耐えれる?』
「そろそろ座り仕事で腰が痛くなる頃だったから助かるぜ」
席を立ち、身体を伸ばしてから扉に手をかける。
振り向いた俺は黒服に話しかけた。
「お前さんはどうする、今はここがてめぇの拠点だが」
「クックック、生憎私は戦闘向きの性能はしていないのですが……しかしそうですね、あなたと同じ戦場に立てる機会など早々巡ってくるものではありませんので」
「回りくどいな……先に出るぜ」
シャーレの外に出ると、遠くに見える機械の兵団たち。
Divi:Sion……か。
名もなき神の力も扱うとは聞いていたが、またアイツらと戦う羽目になるとはな。
マグナムの弾薬は十分。
鈍った身体を戻すには丁度いい。
シリンダーを開き、入っている弾を確認。
手首のスナップで戻し、構えると真横から足音が聞こえる。
スーツのポケットに手を入れた状態で黒服は素手のままで戦地に降りてきた。
「お前さん素手でやる気か?」
「クックック、銃は先日の襲撃で破壊されてしまいましてね」
「戦えるならそれでいい、援護は期待するな」
リミットは到着までの数十分間。
別れる前、戦地から離れるミラージュが言っていたな。
誰かを守る為の戦いなら、人は実力以上の力を出せるってな。
「やるぞ」
「ククッ、畏まりました」
本当に素手のままDivi:Sionの軍団の方へ向かった黒服は、放たれた光弾を手で払い除けると、僅かに白炎が混じった黒炎を足に纏う。
インテリぶってはいるが、随分と豪快な戦いをするやつがいたもんだ。
光弾を発射する出鼻に合わせて、マグナムを命中させる。
集めていたエネルギーが暴発し、周りを巻き込みながら、爆発を引き起こす。
事務仕事ばかりだったが……俺の居場所はこういう戦火の中だと思い知らされるな。
「黒服、そっちは……」
黒服の方を向くと、サッカーのように球体のロボットを蹴り飛ばし、他の機械共を巻き込んでスクラップに帰している。
……向こうを心配するだけ損だな、あれは。
しかしゴルコンダは、前に戦闘には自信がないとか言っていたが、あれはあくまで怪物に成ったりすることは出来ねぇってことか?
どちらにせよ、蹴り殺されるのは勘弁してぇもんだな。
「クーデターって訳でもねぇのに、街中の真ん中で銃を撃つのもなんだかな」
「おや、らしくないセリフですね」
「絆されてるのかもな」
そういった途端、黒服の足の炎が更に強く燃え上がる。
そこもテメェの感情に対応してるのかよ。
分かりやすい奴だ。
「ファンボーイ精神ってとこか」
「厄介な体ですね、全く」
「てめえの身体の事情はどうでもいいがな。ほら、まだまだ来るぜ」
マグナムを向けた先には、まだまだ大量に機械の軍団が見える。
やれやれ、どうやら余程シャーレを潰したいらしい。
「ペース上げれるか?」
「クックッ、上等です」
走り出す黒服に合わせて、引き金を引く。
弾丸が黒服の顔の横を横切り、先頭のDivi:Sionに命中。
隙を潰すように、黒服が飛び込み、次々と蹴り壊していく。
さっきの会話で溜まったストレスを発散するかの如く、スクラップにされていく機械たち。
鉄の塊を蹴って、よくもまぁ壊れねぇもんだ。
ここまでの量なら、グレネードランチャーでも持ち出せばよかったが……ムツキとハルカの奴、爆薬のほとんどを持ち出しやがったからな。
ったく、気合が入るのは良いが……後先考えねぇ癖は直さねぇとな。
にしても、何が戦闘向きの性能はしていないだ?
野郎、バカスカ蹴り壊すじゃねぇか。
弾の消費が減る分、家計に優しいがな。
そう思った矢先、黒服が俺の方へと吹き飛ばされてくる。
宙を舞って、着地するがその足から白い炎が吹き出す。
金属の塊を蹴り壊す足が傷つくレベルの膂力か。
「ククッ、面倒な奴が現れましたね」
その視線の先にいたのは、6本の脚とハサミのねぇサソリのような巨大なロボット。
あの装甲の厚そうな尻尾をぶち当てられたらしいな。
「Type.B……無名の守護者達の中でも特に厄介な相手です」
マグナムの引き金を引き、弾丸を放つが……分厚い装甲に弾かれ、僅かな傷を残す結果で終わる。
傷がつくだけマシだが、.357マグナム弾が効かねぇとなるとKaiser弾を使うしかないな。
Type.Bの顔面に光が集まって来る。
弾込めの時間もやらねぇってか、せっかちな奴は嫌われるが……機械に言ったって仕方ねぇな。
回避に集中するために、光弾の発射を見極めようと視界を狭め、集中したその時、視界の上の方から弾丸が飛び、Type.Bの真下の地面に着弾したと思えば、そこから離れていても感じるほどの熱気と共に紅蓮の炎が柱となって吹き出す。
この炎は……弾丸の飛んできたであろう方向を見ると、ビルの屋上に確かに彼女がいた。
黒い和装の制服と狐の面。
手に持った九九式短小銃と短刀で拵えた銃剣。
そんな得物を使うやつはこの世界に一人しかいねぇ。
「先生♡ この狐坂ワカモ、先生の窮地に参上いたしました♡」
災厄の狐、狐坂ワカモ。
炎に包まれた彼女が瞬間移動のように、前へ現れるとカーテシーをし、取り付けられた銃剣を引き抜く。
爆炎の中から飛び出してきたType.Bが背を向けたワカモに襲い掛かる。
「ワカモ!」
「はいっ、貴女のワカモです!」
振り向きながら短刀による一閃、貯まっている光弾をマグナムで撃ち抜き、誘爆を引き起こす。
マグナムすら効かねぇ装甲を一刀両断かよ。
「助かったぜ、ワカモ」
「いえ、こちらこそ……それよりもこの危機、私も御力添えを致します」
「なら裏手を頼む。そろそろヴァルキューレの奴らが来る。この緊急時だ、喧嘩するほどの余力は無いだろうが……面倒ごとは避けたいだろ?」
「お気遣いありがとうございます、では……そのアドバイスに従って、背中はお任せください」
立ち去ろうとするワカモが、俺の耳元に顔を寄せる。
随分と素直に言う事を聞くと思ったが、何か交換条件でも出すつもりか?
「お隣の大人、信用ならない風貌をしていますが……」
「それも込みで共同している」
「そうでしたか、出過ぎた真似をしました」
「いや、忠告助かったぜ」
「っっ〜! はいっ、では御武運を!」
やけに気を良くしたワカモが再び炎に包まれて、飛んでいく。
何が琴線に触れたのか分からねぇが……あっちもあっちで感情が炎に出るのか?
「ククッ、まさかキヴォトスにおける大犯罪者からも嫌われてしまうとは」
「妥当だ」
黒服の発言をあしらいながら、リロードを行うと激しい足音が聞こえてくる。
この喧しい足音を出すのは……まぁあいつくらいなものだろう。
「次元!」
「遅かったな、銭形」
「お前なら持ち堪えられるだろうからな」
「けっ、そうかよ」
銭形の後を追って、ヴァルキューレの連中が続々とやってくる。
煤汚れは見られるが、全員怪我をしているようには見えない。
バレンタインの時はチンピラの集団にも怖気付いていた奴らが、この前のシャーレの奪還の時といい随分と成長したものだ。
「なんだ次元、俺の顔に何か付いているのか?」
「相変わらず後輩への面倒見がいいな」
「当然だ、今の俺は教官だからな!」
銭形の面倒見の良さなら納得だな。
シャーレで匿ってる奴の多くは、ヴァルキューレに助けられたヤツらだ。
その中で銭形に関する話も度々されていたことを思い出す。
曰く声は大きいが、いつも親切にしてくれるし、仕事が終わったあとなら、手を振ったり敬礼をしたら必ず返してくれるとか。
こういう所は何時になっても変わらねぇな。
「銭形、任せていいか?」
「あぁ、構わん。それよりもそっちの進捗はどうなんだ」
「何とも、どうやら奴さん相当姿を隠すのが上手いらしい」
「…………次元、もしこの戦いが終われば話がある」
「分かった、なら死ぬんじゃねぇぞ」
「誰に物を言っている。ルパン逮捕まで俺は死なん」
その言葉を聞いた俺は背を向けて、シャーレへと戻る。
銭形がそういうのであれば、信じるしかない。
少なくとも、銭形が啖呵を切った銭形なら任せられるだろう。
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「銭形教官!南地区から南東地区まで住民の避難と保護を完了しました!」
「よし、そのまま防衛戦を行っている第七部隊に合流、物資の補給と戦力の拡充を行え」
「はい!」
シャーレ前に建てられた簡易の作戦本部には三人の人陰があった。
別世界から現れたヴァルキューレの特別教官である銭形幸一。
ヴァルキューレの公安局、局長である尾刃カンナ。
その右腕である同じく公安局、副局長の志真コノカ。
その三人が作戦本部の中央に位置する机の上に広げられている地図を囲んで、部下からの報告を捌きながらシャーレの防衛を行っている。
「敵もシャーレを狙い始めた。これも恐らく各地の塔が破壊され、後がないからだろう」
「いや、皆さん流石っすねぇ〜。ゲヘナもトリニティもミレニアムも百鬼夜行も、全員が揃うとここまで事が進むとは、普段からこうあって欲しいもんすけど」
「あぁ、ブラックマーケットの住民もそれぞれの特殊な火器を持って、防衛を行ってくれている。そのどれも先生と関わりのあった縁のある人ばかり。だからこそここを落された時、どれほどの士気が堕ちるかは目に見えている」
広げられた地図にカンナが次々と赤いバツ印を書き込んでいく。
気味が悪いほど等間隔に並べられたそれは、次第にシャーレを取り囲んでいった。
「現在のDivi:Sionと呼ばれる機械の軍団が配置している個所。C&Cと正義実現委員会による第二サンクトゥムの攻略により、これ以上の増援は無いとのことです」
「敵も総力戦と言う訳か。戦線の維持はどうなっている」
「それに関しては問題なしっすね。どういう訳か、災厄の狐もシャーレの防衛に回ってるみたいで、まぁ連携は取れないっすけど」
「七囚人の一人……だったか。この事態だ、悪党の手を借りるのも一つの戦略だろう。しかしこのままでは埒が明かないな」
机の上を指で叩きながら、銭形は呟く。
増援はないが、それでも未だに抱えている爆弾はいくつもある。
突然伝播する色彩の影響が強くなったら、もしシャーレを直接破壊する術を持っているとしたら、幾つものもしもが脳裏を過る。
「よし」
「よ、よしとは?銭形教官」
「あ、なんかすごい嫌な予感がする」
「カンナ、コノカ、使える人員を用意しろ」
そう言った銭形が本部の外へと出ていく。
その背中にカンナが声をかける。
「あの、銭形教官、一体何を?」
「これから第六サンクトゥムを破壊する」
「我々で、ですか!?」
「あぁ、このままここで待っているのは、俺の性分に合わんからな」
「姉御、銭形教官ガチっす」
そう耳元でコノカに囁かれたカンナは、眉間に手を置いてから少し溜息を吐き、そして物資を確認し始める。
「銭形教官が行くのであれば、私達も出ましょう」
「カンナ、お前はまだこの前の傷が癒え切ってないだろう」
「私も警官の端くれ、この無駄に頑丈な体であれば……最低限お役に立つはずです」
その言葉を聞いた銭形はコノカに目線をやると、彼女は言っても聞かないと言いたげに首を振る。
その様子を見た銭形もまた、再びカンナに視線をやると彼女mに向かって頷き、歯を見せながら笑った。
「分かった、お前がそこまで言うのなら俺も止めやしない。行くぞ、カンナ」
「はい!」
二人が出ていくその背中を見ながら、コノカは少しだけ胸にチクりとした感情を覚える。
とっくに彼の事は認めている、仕事ぶりも信念も尊敬できるものなのに。
「なんか、姉御が盗られたみたい……なんて」
そう一人で呟き、自分の頬を思いっきり叩いて、そして二人の後を追いかける。
並ぶ背中を見ながら、雑念を無視して、今出来ることを二人の様に全力で行うために。
空がうねる。
刻一刻と迫っていく世界の終わりを感じさせる異様な空模様が広がっている。
「第六サンクトゥム……サンクトゥムの中でも最も強力なエネルギー反応を示していた塔。この距離からでも感じる嫌な神秘」
「どうした、レイミ。怖いか?」
遠くに赤く光る塔を見ながら、攻略部隊として呼ばれたレイミが呟く。
そんな彼女の言葉を聞いた銭形が、彼女の背後から話しかける。
その言葉にムッとした表情を浮かべた彼女は、少しだけ頬を膨らませ、銭形に問いかけた。
「そういう教官はどうなんですか」
「俺か」
「教官のような怖いもの知らずに──「俺にだって怖いものはある」そうなんですか?」
「あぁ、不気味なもの、極悪非道な悪党、死……。人である以上、怖くないとは言えない。それでもだ、俺はデカだからな。正義を背負っている限り、恐怖に屈することはない。だが、怖さを忘れては、強くはなれない。だから、お前のその怖いと思う感情を恥じるな。その怖いという思いが足を振るい立たせる時がある」
銭形のその言葉にレイミはただ頷き、塔を見つめ、拳を固く握りしめる。
その姿に銭形は笑い、背中を叩いて先に進み始めた。
空がうねる。
水面に石を投げ入れた時のように、サンクトゥムタワーを中心としてうねりが集まり、そして拡散していく。
「まるで何かを吸い上げているような……話に聞く神秘と言うやつか」
「仮にそうだとすれば、あれ程の膨大なエネルギーを纏っている理由が理解できます」
「これ以上近付くのは危ないっすね。迫撃砲にロケットランチャー、 足りるっすかね?」
「足りなくとも打つしかないだろう、コノカ」
カンナからの言葉を聞いたコノカはカンナにRPG-7を渡し、受け取ったカンナが離れた位置で塔に向かって構える。
引き金を引くと共に生じるバックブラストが噴煙を撒き散らし、弾頭が直線に塔へと飛んでいく。
飛来していくそれが塔よりも遥か手前で爆発を起こす。
まるで見えない壁が貼られているかのような挙動をしたと同時に、空が更に蠢く。
「な、なんだ?」
「何かが、居る?」
その時、それは現れた。
半透明から徐々に実体を帯びて、銀河のような煌めく黒を纏い……まろび出た舌と焦点の合わない瞳、鳥のような嘴と爬虫類のようなしっぽと恐竜のような骨板。
「あ、あれは……!」
「なんだ、知ってるのかコノカ?」
「知ってるというか最近知ったというか……」
「副局長のいつものですね」
「いつもって言うな、占いで出たんすよ。映画を観るといいって、だから最近公開されたモモフレの映画を見ようと思ってたんですが……そっくりなんすよね」
そう言って、コノカは自身のスマホを見せる。
そこには映画のポスターが貼られており、その前でポーズを決めるコノカが写っている。
「お前いつの間に……」
「有給をどう使おうと自由じゃないっすか! ってそこじゃなくて……ポスターの方!」
カンナの目線に抗議しながら、コノカはスマホの画面を拡大する。
そこには『シン・ペロロジラ -1.0 FINAL WARS』というタイトルとその背景に映る巨大な奇っ怪な鳥のような怪獣が描かれていた。
「ほら、これそっくりじゃないっすか」
「ということは、あれはペロロジラとかいうやつだと言うのか? 映画の中の怪獣が現実にとは考え難いが……」
「あれの正体がなんであれ、あれがこの第六サンクトゥムの守護者なのは間違いないでしょう」
焦点の合わないペロロジラの目が銭形達を捉える。
巨大な瞳が真っ直ぐこちらを捉え、瞳に光が集まっていった。
それはまるで、アニメで起こるようなビームを放つ前の貯めていく行動のように見え……。
「これは一旦……逃げるぞ!!」
銭形が叫ぶと同時に白熱した雷が放たれる。
逃げる彼らを追いかけるように足元から放たれたその雷撃は、徐々に彼らに追いつき始める。
「不味いな……一か八か、集まれ!」
近くの瓦礫を持ち上げながら、銭形は声をあげる。
この場に来ていたコノカ、カンナ、レイミが集まったことを確認した銭形は、瓦礫を地面に立たせ、踏ん張る。
直後、走る衝撃と雷鳴。
耳を劈くほどの轟音と共に、真夏になったのかと錯覚するほどの熱気が襲う。
「っ!」
「教官!」
「バカもん!俺を心配する暇があるなら凌いだ後の反撃の準備をしろ!」
心配の声を上げたレイミに対して、銭形がそう怒鳴ると同時に、瓦礫に大きな亀裂が走る。
伸し掛かる重い衝撃に、銭形の足がふらつき、膝をつきそうになる。
「安心しろ、この程度では……へこたれん!!」
視界が真っ白に染まると同時に、雷鳴が止み、瓦礫が崩れていく音が耳を打つ。
「撃て!」
カンナの号令と共に、カンナ、コノカ、レイミの3人がRPGを構え、引き金を引く。
ペロロジラの顔へと飛んでいくそれは見事直撃し、奇天烈な顔が爆煙に包まれた。
「ビクともしないとか、イカれてるっすね……」
「コノカ次弾装填を急げ、レイミ、防衛部隊の方からも一部こちらに戦力を回すように伝えろ」
黒煙に包まれたままのペロロジラに注目しながら、カンナが手早く二人に指示を出した後、銭形の方に歩み寄り彼の手を取る。
「教官、手当を」
「この程度どうってことはない」
「この程度って、私は鼻が利くんですよ」
顔を顰めたカンナが手に取った銭形の手を、上へと持ち上げた。
皮膚が焼け爛れ、焦げ、白く変色してしまっている掌が目に入る。
「重傷です、教官。一度下がり、手当を受けてください」
「悪いがそれは出来ん」
「何故ですか」
「俺が警察で、大人だからだ」
「またその言葉を……。それでもあの巨体。生身の私達ではどうしようも──「手ならある」」
懐から取り出したのは彼の掌に収まるサイズの黄色と黒のストライプが描かれた箱。
その上にはどこか懐かしさを感じる赤いプッシュボタンが取り付けられている。
「教官、それは……?」
「ここで使うことになるとは思わなかったがな……。ルパン逮捕の秘密兵器だ」
「は、はぁ……」
そんなボタンが?と言いたげなカンナを見て、笑った銭形は拳を握りしめて、ボタンを叩き押す。
それと同時に、地面が激しく振動し、地響きのような音が聞こえる。
ボタンを押した影響かと周りを見たカンナは気づく。
黒煙に包まれていたペロロジラが、煙を振り払い、咆哮を上げた影響だと。
再度、更に大きく咆哮をあげるペロロジラ、吹き飛ばされそうな程の風圧に仁王立ちのままペロロジラを睨みつける銭形の背中をカンナは見る。
再び、ペロロジラの瞳に白い光が集まっていく。
銭形の両手を犠牲に何とか防げたが、今度は瓦礫もない。
「カンナ、俺の傍から離れるな」
「は、はい!?」
白い光が集まっていき、その収束が止まる。
あの雷撃が放たれると予感したその瞬間、轟音と共にペロロジラの頬を鋼の巨腕が捉える。
放ちかけた雷撃がその一撃により、空を割きながら暴発を引き起こす。
「これが……秘密兵器……!?」
カンナたちの前に降り立ったのは、鋼鉄色の身体と搭乗者の服装を良く模した茶色の鋼鉄で出来たペロロジラに負けず劣らずの巨躯のロボット。
振り向くその顔にカンナは目の前の大人の面影を覚える。
「カンナ、貴官は後方から支援を頼む」
「は、はい!教官は一体」
「あれに乗り込む。そっちは任せたぞ!」
「乗り込……あれにですか!?」
歯を見せ、笑う銭形はロボットの背中に向かって投げ手錠を飛ばし、引っ掛けると一気に飛んでいく。
「行くぞ!ゼニロボォ!」
銭形の掛け声と共にゼニロボの眼が光る。
エンジン音を鳴らしながら、ゼニロボの巨体が走り出す。
何処からともなく取り出したバットを振り被り、殴った衝撃から復帰したペロロジラの顔を撃ち抜く。
ボールのように吹き飛んだペロロジラは近くのビルへと叩きつけられ、土煙の中へと消え、撃ち抜いた衝撃が空気を揺らし、倒れる巨体が地面を揺らす。
「油断はしない」
立ち上がると共に、ペロロジラの瞳に白い光が集まっていく。
三度あの雷撃を繰り出そうとしたペロロジラの顔面に二つの鉄球が当たり、転倒させる。
ゼニロボが懐から取り出した鉄球を、トスバッティングしペロロジラに打ち当てたのだった。
ペロロジラの行動を予測し、完璧に対処し続ける。
「言っただろう、油断はしないと」
油断はしないと言った銭形の言葉の通りに、対応を続ける。
ペロロジラは転がるボールのように回転し、ゼニロボへと突進を繰り出す。
巨大質量による物理的な攻撃方法。
ペロロジラを殴り飛ばせるほどの膂力のあるゼニロボとはいえど、喰らえばひとたまりもない。
しかし、彼はひとりではない。
「教官を援護しろ!」
カンナの声が響いたと同時に、ヴァルキューレが保有している戦闘用ヘリがゼニロボの背後からペロロジラへと無数のロケットを発射した。
直撃による爆破により、ペロロジラの回転が緩まり、球状ではなくなったペロロジラの尻尾が見える。
ゼニロボが肉薄し、尻尾を掴み、緩くなった回転に合わせて、背負い投げる。
「カンナ、ミサイルを俺に向かって撃て!」
「教官に向かって? 分かりました、信じます!」
銭形の命令に合わせて、ゼニロボに向かってミサイルが打ち込まれていく。
背後から迫るミサイルをゼニロボの手が掴み、回転しながらペロロジラへと迫っていく。
「これが、男の焔!!」
立ち上がろうとしたペロロジラの顔へと拳とミサイルが突き刺さり、爆発を引き起こす。
煙の中から、ふらつくペロロジラが顔を出す。
「これでもまだ倒れんか。ならばこいつも食らっていけ」
ゼニロボの口が開き、銭形の顔が象られたミサイルが発射準備に入る。
「こいつで、トドメだ!」
星を飛ばしながら、目を渦巻かせているペロロジラに向けて、ゼニロボの口から発射されたミサイルが突き刺さる。
空を焦がし、地を震えさせる程の大爆発と共に、ペロロジラの消滅が確認された。
「これで、塔の破壊に移れるな。ヴァルキューレ、準備を開始しろ」
空がうねる。
大気に満ちた神秘が、第六サンクトゥムと共に収束、発散していく。
その事にいち早く気付いたのは銭形ではなく、カンナでもなく、レイミだった。
カンナと共にヘリに乗り込んでいた彼女は見た。
爆炎と共に消滅したペロロジラが大気中の神秘を吸い込み、再び象られていく姿を。
「教官!後ろ!!」
「何っ!?」
ゼニロボがペロロジラの突進を諸に喰らい、ビルへと叩きつけられる。
ペロロジラの体格は更に大きくなり、ゼニロボと同等程だったが、今やその2倍程の大きさへと変化している。
さらに立ち上がらせまいと、再び目にエネルギーが集まっていく。
その速度も、量も先程の比ではない。
「二度も撃たせてなるものか!」
カンナの指示により、ペロロジラへとミサイルが放たれ、見事直撃するが、まるで効いていない。
それどころか、その光る瞳がカンナ達の乗り込むヘリへと向けられる。
瞬間、視界が白く染まる。
死を覚悟し、瞳を瞑る。
しかし、熱も痛みも来ない。
ゆっくりと瞳を開くと、そこには自身を庇うゼニロボの姿が。
ゼニロボの腕が赤熱し、彼の帽子を象った頭部が融解を始める。
「全く、っ……世話の焼ける後輩だ」
「急げ、退避だ!」
銭形が身を挺して護ってくれたその時間を少しでも短くするために、素早く退避を行う。
光が収まると共に、ゼニロボの膝が崩れ落ちる。
「教官……!」
「クソ、私達の判断が遅れたせいで……」
仇討ちをしようにも、一度はペロロジラを圧倒したゼニロボを容易く追い詰めた今のペロロジラ。
ヴァルキューレだけでは手に余るその存在を前に、カンナ達はただ拳を握り締めることしか出来なかった。
「勝手に殺してくれるなよ」
声が聞こえた。
それは倒れつつあるゼニロボから聞こえ、それと共にゼニロボが立ち上がった。
上半身は既に半壊し、右腕1本となったその姿で、カンナ達に背中を見せてペロロジラの前へと立ち塞がる。
「教官、あの熱線を受けて、中にいる貴方も無事じゃ……早く手当を!」
「レイミ、貴様のその判断は間違っちゃいない。だがな、漢には決して引いてはならない時がある」
レイミの声に対して、銭形は答える。
「それは、人が魂を賭けて、世界を守る時だ!」
その背中に、ゼニロボに黄金の神秘が集まっていく。
「刑事の魂とは、俺の背中で語ってやる。
見ておけ、俺の生き様……『
真紅に染まった世界が黄金に染まる。
「この俺から逃げ切れると思うな」
ゼニロボの鋼色の体が黄金色へと染まっていく。
融解した身体も傷もそのままに、それでも乗り込んだ漢と同じく力強くその存在を世界へと指し示す。
「地獄の果てまで追ってやる。
それが俺の……」
彼の言葉が、生き様が……。
彼の叫びが世界を揺らす。
「観念しろっ!」
黄金に染まったゼニロボが歩み出す。
半壊した顔に向かってペロロジラが、体当たりを繰り出す。
衝撃がゼニロボの背中へと突き抜けるが、仁王立ちのまま完全にペロロジラを受け止める。
「貴様が映画のキャラだかコマーシャルのマスコットだかは知らないがな、世界に仇なす悪党であればワッパをかける。それが俺の主義なんだよ!」
片腕でペロロジラを捕まえたと思えば、そのまま空へと投げ飛ばす。
上空へと飛んでいくペロロジラを見て、拳を握り締めたゼニロボは背中のロケットを点火し、同じ空へと飛んでいく。
決着をつけようとする銭形に対して、声がかけられる。
『よう、銭形。酷い火傷だな』
「ん?次元か?貴様、どうやってここに」
『今はどうでもいいことだろう、それよりもうちの生徒からお前へのプレゼントだ。一度限りだが、その腕を特大にしてやる。扱えるだろう』
「任せておけ、その生徒にはよろしく頼んだ……それと、次元!貴様との話し合いは難しくなった。だからメッセージを残しておく。終わったら見ておけ!」
『はっ、とっつぁんからのメッセージとは気色悪いな。……噛ましてやれ』
次元からの通信が終わった後、ゼニロボの腕に何かが当たった
地面の方を見ると、シャーレの屋上から狙撃銃を構えた次元の姿が見える。
その直後、ゼニロボの右腕が巨大化していく。
空へ飛ばされたペロロジラが落下し、迫り来る。
それと共にゼニロボからサイレンが鳴り響き、黄金の拳が握り締められ、その背中に『正義』の二文字が炎となって浮き立つ。
ペロロジラの腹へと拳が突き刺さると同時に、その全身が光り輝き、炸裂する。
光へと還ったペロロジラを見届けたのち、銭形は地上へと向かい、その足で第六サンクトゥムタワーを蹴り壊す。
壊されたことにより、赤い空が変化していく。
それは青い空と太陽が再びキヴォトスの元に戻り、終末が停止したことを意味する。
地面へ着地した、ゼニロボの元へとヴァルキューレの生徒たちが集まっていく。
「教官、お見事でした」
「がっははは!当然だ。正義は必ず勝つのだからな!」
カンナと銭形が会話した、そのタイミングでゼニロボの身体から光の粒が沸き立つ。
「やはりか……」
「教官、まさか」
「あぁ、俺がこの世界に居られるのはここまでのようだ」
「そんな……」
その言葉を聞いた生徒たちの目頭が赤くなり、俯く。
しかし、彼だけは違った。
「がははっ!そう悲しそうな顔をするなお前たち!」
「しかし、教官には何も恩を返せていない」
「間違えるな、カンナ。お前たち『刑事』が恩を返すとするなら、それは俺にではない。この世界の市民の皆さんと正義に返すんだ」
そう言いながら白く淡い光に包まれていく銭形に対して、カンナは返事の代わりに敬礼をする。
その後ろ姿を見たその場にいた全員が、同じように敬礼を銭形へと送った。
「ヴァルキューレ公安局並びに警備局! 虚妄のサンクトゥムに対する市民の救助並びに保護の任務、これにて終了とする。撤収のち、次の任務に備えろ!
この世界は任せたぞ、お前たち」
光に包まれ、銭形の姿は消えた。
最後に笑みと、少女たちの心に背中姿を残して。
次元大介だ
サンクトゥムの全てが折れ、これで一旦は終末への進行は収まった
……だが、これで終わりって訳じゃねぇ、まだ親玉の元に行かなくちゃなんねぇからな
次回 世界解剖
お前さんは……まさか。
おこぼれ話
銭形の固有名は『不撓不屈』。
胸に決めたことを達成するその日まで決して死なず、壊れず、諦めない。
彼の生き様を表す四文字。
キヴォトス世界における『不死身』と『不沈』の二つの神秘が折り重なったもの。
各月になり、評価者も少し減って悲しみありますが……それでも折れずに最後まで走るつもりです。
第二部はやる予定ないですけど、仮にやるとすれば……世界から忘れられて、悪党として終われる次元ちゃんを見ることになるのかなと。
さて、最後に感想、ここすき、評価、もしよろしければお願いします!