空が青く晴れていくと同時に、空へと登っていく光の粒が見えた。
「銭形……」
元々あいつは勝手にこっちに来てた身だ。
その癖して俺が呼んだルパンや五ェ門とは違って長くいたが……。
親玉を探すのに頭を使いすぎて、考察脳になってやがるな。
その時、懐に入れた携帯に着信が入る。
着信主を確認した俺は電話に出た。
「リン、聞こえるか」
『はい、先生。空模様を確認したかと思いますが……』
「あぁ、無事にやりきった様だな。ったく、よくやったぜ」
『ありがとうございます。それよりも、そちらの進捗をお聞きしてもよろしいでしょうか?』
仕事熱心だと言うべきか、少しくらいは喜んだっていいと思うんだがな?
しかし事実、あの虚妄のサンクトゥムとやらが放った神秘は依然キヴォトスに滞留し続けている。
まるでまだ何か役目を残しているかのように。
「具体的な位置はてんで分からねぇ。少なくともこのキヴォトスには居ねぇってことは間違いないだろう」
『先生ほどの人物でもそうですか』
「あと探してねぇのは……地の底か、それとも宙の上か。エネルギーが多すぎるせいで機械が狂っちまってたが今は違う。
お前らは休んでろ、次は俺たちの番だ」
『……分かりました。では、敵の本陣の攻略に向けた会議を開く準備を進めます』
休んでろって言ったんだがな。
アロナに黒服、シャーレの機械を総動員してイカれた機械の舵を取りながら進めてたが、その全部を探知に回せる。
この星全土は無理だろうが、半分くらいなら行けるだろう。
耳に残る警報音を叩き出しながら、黒服に対して話しかける。
「黒服、計器の調子はどうなってる」
「ククッ、水を得た魚のようですよ。あのサンクトゥムから放たれていた神秘、どうやら機器に対しての特攻があったようで……」
「そうか、興奮するのはいいが仕事をしてくれ」
アロナありきではあるが、シャーレの中にあるコンピュータ達の検索と計測の速度はハイテクに疎い俺ですら分かるほどの速さをしている。
アロナに休んでもらっている間、黒服には検索を進めてもらうとしよう。
そんなことを思いながら、空になったコーヒーマグカップにインスタントコーヒーを入れようと席を立った時、それを目の当たりにした。
空気、大気……いや、あえて言うのなら虚空か。
音もなく黒服の背後に開いた穴から、黒いドレスを身に纏い、俺の記憶にあるよりもずっと大人びた姿になったシロコがアサルトライフルを黒服に向ける。
残党狩りか、徹底してるな。
引き金に指をかけたタイミングで、 マグナムを抜き、シロコの手の甲を撃ち抜く。
その音で振り向いた黒服が大きくシロコから離れる為、飛び退いた。
「ククッ、直接攻め入りに来るとは、向こうも本気という訳ですね」
「らしいな。よりによってシロコを使ってくるとは、色彩ってのは意思がねぇんだよな?」
「……次元、大介」
それよりも、.357マグナム弾が当たって、身動ぎは疎か無反応かよ……。
これが砂狼シロコの潜在能力って奴か。
シロコの背面にはまだ穴が開いている。
来てもらって悪いが、早々にお帰り願おう。
機械的にアサルトライフルを構えたシロコに肉薄し、引き金を引くよりも前に銃身を蹴りあげる。
シロコを拘束するために飛び掛ろうと腕を伸ばしたタイミングで、シロコが回し蹴りを放つ。
間一髪、腕で防げたが、蹴りの勢いのまま資料室の壁に叩きつけられる。
「っく、相変わらずの足癖の悪さだな」
「…………」
「返事はなし、か」
洗脳……って様子でもねぇが、まるで俺のことを知らねぇ様な視線を感じる。
それに気になるのはシロコの出てきた穴の方だ。
あの穴に僅かに引き寄せられる様な感覚を覚えている。
重力……いや、これはまるで空気がそっちに吸い込まれているかのような……。
「シロコ、いつまで色彩に操られてやがる」
「…………」
「アビドスの奴らが待ってるぞ、帰ってこい」
「アビ、ドス……」
「あぁ、そうだ。ホシノだけじゃねぇ、ノノミもアヤネもセリカもみんなお前のことを──「っ、その名前を呼ばないで!」」
激昂したかのような声色と共に彼女を中心に突風が吹き荒れる。
凄まじい神秘の奔流。
確かにシロコは仲間想いの女だが……この反応はまるで違う。
このまま銃をぶっぱなされちゃ、この階層丸ごと吹き飛ばされかねねぇ。
あいつのアサルトライフルをお釈迦にするのは申し訳ねぇが……壊させてもらう。
意識を瞬間的に集中させ、いつも通りの呼吸で、いつもと同じ動作を繰り返す。
銃を引き抜き、構え、引き金を撃とうとした……瞬間、銃声が身体を走る。
手に走る衝撃。
銃が叩き落とされ、帽子が空を舞う。
今の銃声は……俺の弾と同じ.357マグナム弾?
弾丸が飛んできた方を見れば、そこにはもうひとつの穴が開いて、その奥に見えるのはデスマスクの着いた棺桶のような服装の男。
その手に持った銃口から紫煙が上がる。
俺の持つコンバットマグナムよりも重厚でより重いNフレーム。
「……
痺れる手を抑え、銃口を向けた奴を見ながらも意識は別の方に向いている。
これだけ隙を晒してまだ襲ってこないシロコの方を見ると、彼女はあの男に視線が釘付けになっている。
襲ってこねぇのは助かるが……仲間じゃないのか?
次の手を考えていると、シロコの口がゆっくりと開く。
「先、生……」
「……は?」
今、なんて言いやがった?
あの男が……先生?
つまり……あれが、俺だと?
呆気に取られるよりも前に、シロコが穴の中へと戻る。
「シロコ、待て!」
「……さよなら、次元大介」
閉じていく穴から最後に見えたのは、氷のように冷ややかなシロコの視線だった。
部屋の中に満ちた沈黙を最初に破った黒服は、笑いながらその炎を激しく燃え上がらせる。
「ククッ、なるほど。そう来ましたか色彩」
「どうした、黒服」
「先生、先程の男。あれが『プレナパテス』です」
面倒なことになってきやがった。
あれが親玉だ?
自分殺しってのは、いい気分がしねぇな。
「流石の次元大介といえど、先生と戦うのは引き金が重くなるものですか?」
「軽はずみに引き金を引いたことはねぇし、仮にあれが本当に俺だとしても鈍ることはねぇさ」
「クックックッ、そうですか……では、あの本丸に乗り込む準備をしませんとね」
「概ね予想は着いたがな」
そう言いながら、俺はアロナに向かって指示を出す。
「アロナ、検索範囲を上空に。可能な限り高く広げてエネルギーを探せ。
そろそろ大気中のエネルギーも落ち着いて、逆探知ができるようになるだろ。頼んだぜ」
「上空ですか……」
「あぁ、あの時のシロコ達が出てきた穴に空気と体が吸い込まれていく感覚があった。余程の気圧差が生まれねぇとあの現象は起こらない。海中もあったが……潜水艦には何度も乗ってきた時にあった空気が圧縮される感覚がなかった」
これで違えば、お笑いものだが……俺の体験が間違いなくそう言っている。
『先生、見つけました!』
今までってのは裏切らねぇもんだ。
「俺達も会議の準備だ」
そこからはトントン拍子で進み、最初の会議と同じメンバーが、再び会議室に集まった。
全員、少しばかり疲れが見えているのは全員が各学園を代表する戦力で、攻略戦が終えてからも防衛に回っていたからだろう。
「休まる暇もなく来てもらって悪いな」
「キキッ、善は急げと言うだろう。それに貴様が呼び出したことだ……本丸くらいは見つけたのだろう」
「まぁ待て、話は全員揃ってからだ」
「ほう?まぁいいだろう。マコト様の時間をあまり取らせるなよ」
手を二度叩く。
盃を交わしたあの時からこの合図は変わらない。
会議室に乾いた叩いた音が響き、そして俺の頭上に白い煙幕が噴き出す。
「主殿ー!!」
頭上に湧いた時に嫌な予感はしてたんだがな。
そこから落ちてきた3つの人影が俺へと降り注ぎ、その下敷きになる。
「あれ?先生殿は?」
「あの、地面が柔らかいような」
「おい、下を見ろ」
「なんと、主殿のお背中に!?」
忍術研究部の3人が俺の背中から素早く退く。
服に着いた埃を払いながら、3人を見ると叱られてる子犬のような表情をしている。
「まだまだ修行が足りません……申し訳ないです主殿……」
「いや、そこまで怒ってはねぇよ。それで、目的は達成したのか?」
「もちろんだよ先生殿!」
続けて何かを言おうとしたミチルが視線を横にずらして、誰かを見た後、再び口を開く。
今の視線……ゲヘナ組の方を向いてたが……?
「おいどうした?」
「あ、ごめんごめん! そこのマコトさんに──「キキッ、私がどうしたって?」」
何かを言おうとしたミチルをマコトが止める。
その視線は、余計なことを言ったらタダじゃおかないと命令しているかのような目つきだ。
とは言え……それで粗方バレてんだがな。
「それは後でいいだろう。ミチル、どうだった」
「あ、うん。えっとね、会えなかったんだけど……伝言を預かってる」
懐から取り出したのは古びた巻物。
その中に伝言?
それしか紙がなかったのか。それともまるで俺の考えてることを分かってた上で残していた予言か。
ミチルから受け取った巻物を開き、そこに書かれている文章を読む。
「先生、どうされましたか?表情が……」
司会役のリンが俺に対して聞いてくる。
この情報は、今のこいつら……特にアビドス組にとっては毒過ぎるな。
「よくやった、忍術研究部。休んでいてくれ」
「主殿……。では、私達も会議に参加します!」
休んでいろって言ったんだが……ここの奴は真面目なやつが多いな。
リンに目配せをして、会議を始めさせる。
会議室の電灯が消え、薄暗い中でデータが無数に展開されていく。
俺と黒服、アロナで調べあげた色彩とキヴォトスの伝承について、そしてプレナパテス達の本拠地についてのデータだ。
「まず結論から行きましょう。
敵の本拠地を発見しました……が、現在のままでは乗り込む術がありません」
「乗り込む術、ですか?」
「資格や、条件。そういったものかい?」
黒服の話に対し、ナギサとセイアが疑問をあげる。
それに対して、今度は俺が口を開く。
「物理的に、だな。
まず敵の本拠地は、サンクトゥムタワー跡地の遥か上空。
高度75,000m。中間圏にあるその場所に行く手段がねぇ。
それと……恐らく行けたところで触れられねぇな」
「触れられない……超高度のエネルギー、もしくは多次元構造でも有してると言いたいのかしら」
リオの回答に黒服が頷く。
1を聞いて10を導き出す。
つくづく天才って奴は……。
「その両方ですよ。星追い、会議の直前に撮った超高精度カメラによる写真です……この黒い球体がその本拠地……『アトラ・ハシースの箱舟』」
リオが唇を噛む。
ここに来てその名前を聞くことになるとは……な。
俺としても予想外だったが……あれに対抗する手段は俺たちの手元にはない。
「正確に言うならば、その周りには多次元バリアが貼られており、干渉が不可能になっています」
「なるほど、つまり突破するにはそれと同レベルのバリアを展開する必要があると」
「……ご名答です。ベツレヘム」
残党狩りと救助を行っているネルに変わって、会議に参加したヒマリの回答に再び黒服が頷く。
「しかし、仮に多次元バリアを展開するとしても、それを行うには量子コンピュータが必要になりますね……」
「あの、あまりついていけてないのだけれど……多次元バリアってなんなのかしら……?」
「アルさん。そうですね……思考実験として有名な『エルヴィンの猫』はご存知でしょうか? 箱の中に1匹の猫を閉じ込め、そこには1時間以内に50%の確率で毒ガスを吹き出す装置を入れたとし、1時間経過した時、箱が開くまで箱の中の猫は生きている状態と死んだ状態が同時に存在する……というものです」
ヒマリの説明を聞いたアルが首を傾げる。
シュレディンガーの猫、この世界じゃエルヴィンの方で通っているのか。
そもそも、同一人物ではないんだろうが、どの世界でも同じ思考をする人間はいるってことだな。
「つまり、あのアトラ・ハシースの箱舟はあらゆる可能性が同時に存在している状態を保っているのです。観測という手段を取ってもなお、非実在性を担保し続けれるほどの複数の世界を同時に展開しているのです」
「む、難しいわね……要するに、見えはするけど当たらないってことね?」
「理論や理屈を抜きにしたらその通りです……しかしそんな多次元を分析する程の計算能力は今のキヴォトスには……」
「あぁ、だから『今』乗り込む術がねぇって訳だ」
どの道、このままじゃ詰みだ。
「先生、『今』ってことは、まだ策はあるんだよね」
そう聞いてきたのはホシノだ。
こいつらとの約束もある。
シロコを取り戻さなくちゃならねぇ。
例え、戻ることが出来なかったとしても。
「あぁ、俺が以前、アビドス砂漠の奥地で探していた箱舟に対を成すもう1つの兵器『ウトナピシュティムの本船』。箱舟と戦うことを想定して作られた本船なら突破する術があるはずだ」
「えぇ、カイザーが狙っていた超古代兵器である『ウトナピシュティムの本船』は、現在カイザーが掘り出した状態で放置されています」
「放置?何故ですか、そのような兵器を放っておく様な企業ではなかったはずですが……」
リンの言うことは尤もだ。
あのカイザーがそんな兵器を手放すとは考えられないが……黒服曰く訳があるらしい。
「理由は簡単です。彼らには扱う資格がないのです。 本船を動かすには同じ超古代技術による操作が必要です。例えば……『サンクトゥムタワー』のようなものが、しかしあれは色彩の降臨と共に破壊されてしまいました。よって、放棄されたのです」
「しかし、それでは我々も扱えないではないか」
「えぇ、その通りですサタン。しかし、例外というのは何事にも存在するのです……例えば、サンクトゥムタワーに匹敵するオーパーツ。『シッテムの箱』などです」
全員の視線が俺に向く。
俺もまさかとは思ったがな。
帽子を深く被り直し、口を開く。
「色彩による攻撃は未だに止まない……虚妄のサンクトゥムが別の場所に現れつつある。だからここからは電撃戦だ」
「なるほど、つまりは……その本船に乗り、箱舟へ向かう部隊と、地上で防衛をし続ける部隊に分かれるわけだな」
軍略となれば、話が早いか。マコトが話を纏めてしまった。
司会役は、リンだが……こういう時間も今となっては惜しい。
「なら私達便利屋68と」
「それと忍術研究部は先生について行くよ」
「それならアビドスの私達も一緒に行かせてもらおうかな? シロコちゃんもそこにいるんでしょ」
便利屋68と忍術研究部、アビドス組が名乗りを上げた。
この3グループに関しては、俺も文句はない。
全員、背中を預けられるメンバーだ。
「ミレニアムからは、私とユウカが行くわ。ヒマリ、バックアップを頼めるかしら」
「全く……分かりました。この非常時です地上は任せてください」
「トリニティは……そうですね、浦和ハナコさんを。現在も古書堂で情報整理と収集を行ってくれています。充分力になるかと」
「キキッ、ゲヘナからは陸八魔アルらが出るのだろう? であれば……風紀委員会、貴様らから出せ」
「そうね……乗務員次第だけれど、アコと私が行くわ」
「連邦生徒会からは、私が行きましょうは」
リンがそう言い、これでこの場にいる全ての学園の結論が出た。
話には出なかったが……エンジニア部に頼んで、調整を行ってもらわねぇとだな。
メカニックはリオもいるが……それだけじゃ手が足りないはずだ。
何せ完全な未知の技術だからな。
「方針は決まったな。明日アビドス砂漠に向かい、箱舟を確保しに行く」
「分かりました。では皆さん、解散し、各自準備をしてください」
リンがそう言い、会議が閉められる。
世界の終わりに対して、学園が1つに纏まっていく。
シャーレで多くの学園と触れてきた成果か?
連邦生徒会長……お前さんはここまで見越してたのか?
夜中のシャーレの屋上。
久しぶりの黒い夜空を見上げながら、俺はタバコを吸っている。
再び赤い空に戻る前に、勝負を決めきらなくちゃならねぇ。
疑問はいくつもある。
シロコのセリフ。
先生と呼ばれたプレナパテス。
そして何より……この巻物だ。
『次元先生。色彩によって反転した者を元に戻す方法など、存在しない。
それは──死者が生き返らないのと同様に。この世界の絶対的なルールである』
クズノハからのこの伝言だ。
つまりシロコは元には戻らねぇってことだ。
失った命は永遠に戻らない。それはどの世界でも同じだ。
受け入れるしかねぇが、だがシロコは生きている。
変化したとしても、生きているのなら……アイツらの元に帰してやらなくちゃならねぇ。
それが約束だからな。
白い煙が上がっていく。
タールの香りと共に、上がっていく煙。
そんな中で、階段に続くドアが開かれる音が聞こえた。
誰だ?こんな時間に。
「先生……」
「アルか」
赤い髪を風に靡かせながら、アルが煙草を吸う俺の隣にやってくる。
屋上の柵に背中を預けながら、煙草の煙を吸わせないように風下に立つ。
「……先生、いよいよ決戦なのね」
「まだやることはあるがな」
「……そう、ね」
「怖いか?」
「……」
アルは頷く。
そら、そうだ。
どれだけ銃を使っても、こいつらはまだガキだ。
「死ぬかもしれない、そのことがこれだけ怖いのね」
「そうだな、それが戦いだ」
「……先生はこれを乗り越えて、これを背負って、ここまで歩いて来たのよね」
いや、違う。
こいつは怯えてるんじゃない。
今まさに……それを乗り越えようとしてる。
「あぁ、そうだな」
「……先生、私貴方に出会えて良かったわ」
「どうした、急に」
「何となく、口にしなくちゃと思って……」
煙草を吸い、火種が赤く燃える。
口にしなくちゃ……か。
「アル」
「何かしら、先生」
「前に言ったこと覚えてるか?」
「前に……もしかして」
前、今となっては随分と前に感じるが……ビナーと戦う前に俺はアルに聞かれた。
────「私は貴方の何?」
ってな。
あの時は、俺は答えられなかった。
ビナーと戦っている最中、アルに対して俺はいずれ答えを出すって言って、そこから随分と忙しくしちまってた。
だから、今だからこそ、こうして口に出せる。
言葉にしなくちゃ伝わんないものもある……か。
こういうのは好みじゃねぇんだがな。
「お前さんに言われて、改めて考えてみたが……分からなかった」
「……そう──「だから」」
「分からねぇなりに、俺なりの答えを持ってきた」
俺はタバコを一本抜き取り、アルに差し出す。
「ガキに勧めるのは教育に悪いが……一本どうだ? 『相棒』」
「……え」
唖然とした顔したアルは、感情を噛み締めるような表情を取りながら、差し出された煙草を見つめる。
「……『相棒』」
呟いたアルは、ゆっくりと俺の手から煙草を受け取り、口に咥える。
ライターで火を灯そうとしたが……火がつかねぇ。
その様子を見て、アルが微笑む。
「締まらねぇな」
「私たちらしいじゃない?」
「だな」
仕方ねぇから、俺はアルの咥えた煙草の先に俺の火種を押し付ける。
「ゆっくり吸いな、無理に肺には入れるな」
「えぇ……」
火種が赤く燃える。
1つの火種から、二筋の煙が空へと上がっていく。
「すぅ……けほっ、けほっ!」
「言わんこっちゃねぇ」
「しばらく吸わないのだから試したかったのよ!」
頑固でテメェの意志を曲げないところ、自分の美学を信じ続けるところ。
ルパンと同じほど俺はこいつに背中を預けれるように感じてしまっている。
だから、この関係を言葉にするなら。
俺にとって陸八魔アルって女は……『相棒』と呼ぶに相応しく感じた。
「もっと歳食ったらこれも美味く感じるさ」
「ぬぐぐっ、でもこの1本は貰うわよ。前に吸おうとした時はシガレット菓子にすり替えられたんだもの」
「おう好きにしな」
空に昇る月を見上げながら、同じ煙草を吸う。
煙草に吸い慣れたアイツじゃなく、吸っては咳をするコイツが今は隣にいる。
まさか女に向かって、相棒と呼ぶ日が来るとはな。
「先生、その言葉。私必ず応えてみせるわ」
煙草を咥えながら、笑うアルの顔が俺の記憶に刻み込まれた。
決戦の地は遥か上空高度75,000m。
終末まで刹那の時間
俺たちは再び巡り合う、遍く奇跡の始発点で
次章 Vol.final-Ⅲ さらば愛しき相棒よ
煙草とお酒は二十歳から、お兄さんとの約束だぜ
──前に吸おうとした時
短編集 『紫煙を燻らせて』(https://syosetu.org/novel/378614/5.html)