新任教師『次元大介』   作:レイゴン

16 / 136
1-8 大泥棒参上

「お待たせいたしました、お客様」

 

「なにが『お待たせしました』よ!本当に待ったわよ!6時間も!ここで!!融資の審査になんで半日もかかるの!?別にうちより先に人もいなさそうだったのに!……私の連れは待ちくたびれて、そこのソファーで寝ちゃってるし!!」

 

「私どもの内々の事情でして、ご了承ください」

 

 私は今、この先の依頼を受けるための資金の調達のために、ブラックマーケットの中の闇銀行に融資の審査を受けに来ている。

 

「……ところで、アル様。あなたはそのような態度を取れる状況ではないと思うのですが?」

 

「あ、うぅ……」

 

 この機械の言う通り、私の本来の口座は風紀委員会の行政官によって、凍結。

 依頼も、この前の先生との決闘の結果失敗……いや、あれは名誉ある失敗だわ。

 それは、私の腰のホルスターにあるリボルバーが証明してくれてるもの。

 

 そう思ってる感にグチグチと目の前の機械からお説教のような小言を言われる。

 やれ、会社ごっこをしているつもりなのかだの。

 やれ、事務所の賃貸料が必要以上に高いだの。

 何より許せないのは、私の社員を浮浪者呼ばわりしたこと。

 

 あぁ、ムカつく。もういっそのこと大暴れして、銀行のお金を持ち出しちゃおうかしら?

 いや、それは駄目ね。ここから持ち出せても、ブラックマーケットから抜け出すのは至難の業。あちこちにマーケットガードがいるし……でも、大したことないかも、いや、やっぱ無理。ブラックマーケットを敵に回すなんて、そんな勇気ないわ……。

 

 くそっ、何よ私。情けない……キヴォトス一のアウトローになるって心に決めたのに。私は……融資だなんだの……こんなつまらないことばかりに悩まされて……私が望んでいるのはこれじゃない。

 

 何事にも恐れず、何事にも縛られない、ハードボイルドなアウトロー……。

 

 ──どうする、アル!乗るか、乗らないか!お前がなりたいものは何だ!

 

 ねぇ、先生……どうやったら、貴方のような人になれるの?

 

 

「アル様! 融資の承認は下りませんでした。お力になれず申し訳ありません」

 

「え、ちょ、ちょっと待ってよ!」

 

 その時だった、銀行の電気が落ち、部屋が真っ暗な闇に包まれる。

 

「な、何事ですか?停電!?い、一体だれが!?パソコンの電源も落ちているじゃないか!」

 

 その時闇の中で、銃声が鳴り響き、マーケットガードたちの悲鳴が聞こえる。

 

 部屋のライトが付き、それが一点に集中する。

 

「やぁ、やぁ、闇銀行の諸君。俺の名前はルパン三世、かの有名なアルセーヌ・ルパンの孫だ。欲しいものがあってな?悪いが、邪魔させてもらうぜ」

 

 赤いジャケットに包んだ長身の男性がそこに立っていて、その男性が手を叩くと会場全体の灯りが付き、そこには覆面姿の少女たちがいた。

 

「言っとくけどな、俺様は優しい泥棒なんだ、動かなければ誰も撃ちやしない……だから全員その場に伏せろ!武器はさっさと捨てな!」

 

 あ、あまりにもカッコいい。スタイリッシュな登場に、その所作、堂々と侵入し、場を支配した。誰なのかしら、あのハードボイルドでアウトローな人は!

 あの立ち方、声も姿も違うのに、何故か先生の面影が重なる。

 

「緊急事態!きんきゅっ……!?」

 

 警備システムを入れようと、叫んだ審査官の顔のすぐ横に銃弾が着弾する。

 

「警備システムの電源は落ちてる。それに言ったよな?動かなきゃ撃ちはしないって、二度目はねぇぞ」

 

 その男の手には黒いリボルバーが。

 その銃は、見間違うわけがない。年季が入り、たとえ同じモデルの銃だとしても決して出せない味のある色み。

 それは、先生のマグナム。

 なんであの男が、もしかして……私の考えは気のせいじゃなかった……?

 

 姿声は違うけども、あれは先生なんだわ!

 それじゃあ、他の子たちは?

 

 

 

 

 

 ────────────────────

 

 ────────────

 

 ──────

 

 

『封鎖地点を突破!この先は安全です』

 

 俺たちは、闇銀行から抜け出し、ブラックマーケットの外に出ていた。

 

 シロコのマニュアルに加えて、アロナのハッキングにより、電源の自在な作動と停止ができたのが勝因と言ったところか。

 

「よくやったお前ら」

 

「はひー、息苦しい。もう脱いでもいいよね?」

 

 そういってセリカが覆面を脱ぎ、それに合わせて俺も含め、他のメンバーも覆面を脱いでいく。

 

「のんびりしてられないよー、急げ急げ。追手がすぐに来るだろうからさー」

 

「おう、だがその前に一ついいか?」

 

「ん、どうしたの先生」

 

 こいつらは、いい子だと思う。

 バカで、アホ抜かすときはあるが、それでもその善性に俺は何の疑いも持っちゃいない。

 でも、心配なんでな、お節介を焼くことにする。

 

「今日、お前らは手を汚した。それは間違いなく事実だ。だから……それに慣れるんじゃねぇぞ。俺のような汚れ切った大人にはなるな。この行いはこれで最初で最後にしろ。お前らならきっとわかってるだろうがな、先生との約束だ」

 

 その言葉を聞いた、他のやつら全員が真剣な顔で頷く。

 こんな心配症になるとはな、甘くなっちまったもんだ。

 

「うへ、先生、色々言ってくれてありがと」

 

 そのホシノの言葉に俺はただ、黙って撫でることで返した。

 

「それで?シロコ、目的のブツは?」

 

「あ、あの。先生、その……」

 

 シロコが、申し訳なさそうな顔で、バッグの中を見せると、そこには集金記録の紙があった。

 ただし、大量の札束と一緒にだ。

 

「……へ?なんじゃこりゃ!?カバンの中に……札束が……!?」

 

「うえええええっ!?シロコ先輩、現金を盗んじゃったの!?」

 

「ち、違う……目当ての書類はちゃんとある。このお金は、銀行の人が勝手に勘違いして入れただけで……」

 

「どれどれ……うへ、軽く1億はあるね。本当に5分で1億稼いじゃったよー」

 

 シロコの顔が涙目になる。

 まさか本当にという顔だな。

 

「わざとではないんだろ?」

 

「うん。先生があぁ言ってくれたのに、止めれなかった」

 

「まぁ、俺も明確に言わなかったからな、俺のせいだ。だから、自分を責めるんじゃねぇぞ」

 

 そうして、集金の紙だけ抜き取り、バッグを道に捨てる。

 

「こいつは置いていく、異論はねぇな?」

 

「うん。こんな方法で借金を返すなら、最初からノノミちゃんが持っている燦然と輝くゴールドカードに頼ってたはず。私たちの手で守りたいのはホント。でも、これは違うのは先生も教えてくれたもんね」

 

 ホシノが笑いながらそう話しかけてくる。

 その顔はしっかりと、長である委員長の面構えだった。

 

『──皆さん!何者かがそちらに接近しています!』

 

「追手のマーケットガード!?」

 

『……い、いえ。敵意はない様子です。調べますね……』

 

「全員念のため、覆面を被っておけ」

 

「そういえばさ、先生その顔って誰なの?」

 

 おいおい、聞いたかルパン?

 お前の悪名もここには届いてないみたいだぞ、まぁ今日俺が代わりに広めてやったがな。

 

「自己紹介はさっきしたろ?稀代の大泥棒 アルセーヌ・ルパンの孫……そして俺の相棒さ」

 

『結果が出ました!あれは……べ、便利屋のアルさん!?』

 

「はあ、ふう……ま、待って!!」

 

「おいおい、お嬢ちゃん?俺のファ──「先生!!」……は?」

 

 俺のセリフに被せるようにアルが発したその言葉で、俺は思わず固まってしまう。

 ルパンほどじゃねぇが、それでも銭形のとっつぁん以外にはバレたことのない俺の変装が、バレた?い、いや、偶然かもしれねぇしな。

 

「おい、先生?誰の事を言ってるんだ?」

 

「先生!ごまかさないで頂戴、姿形声が違っても、分かるわよ。あのマグナム。それに所作。私の目はごまかせないわよ!」

 

「はぁ……よくわかったな」

 

 そういって俺は、顎の下に手を入れて、変装を解く。

 まさか、こんな小娘にバレるなんてな。

 俺もまだまだなのかもしれねぇ。

 

「えへへ、それで。先生?後ろの方達は誰なのかしら?」

 

「……!?」

 

 う、そだろ、まさか、俺の変装よりもこいつらのニット帽の方がばれてないのか!?

 プ、プライドに傷が入りそうなんだが……

 

「正直、すごく衝撃的だったというか、このご時世にあんな大胆なことができるなんて……感動的というか」

 

 なんで、俺の変装は見破れるのにこいつらの変装が見破れないのか甚だ疑問だ。

 

「わ、私も頑張るわ! 法律や規律に縛られない、本当の意味での自由な魂! そんなアウトローになりたいから!そ、そういうことだから……な、名前を教えて!」

 

「一体……何の話?」

 

 そういう、シロコに俺は耳打ちをする。

 

「こいつ、お前らの正体が分かってないらしい。そのまま隠し通してやれ」

 

「……はいっ! おっしゃることは、よーくわかりましたっ!」

 

「のっ、ノノミ先輩!?」

 

 多分何を名乗るのか、予測のついた俺は、謎の疲労感を感じながら、ただ行く末を見守ることしかできなかった。

 

「私たちは、人呼んで……覆面水着団!」

 

「……覆面水着団!? や、ヤバい……!! 超クール!! カッコ良すぎるわ!」

 

 あのペロペロ様といい、若者の感性は分からん。

 俺のカッコよさは分かるのに、何故これをダサいと思わないんだ?

「うへ〜本来スクール水着に覆面が正装なんだけどね、ちょっと緊急だったもんで、今日は覆面だけなんだー」

 

 それは、もはや別の犯罪者集団だろ、ホシノ。

 ただ、ここで口を挟めば絶対に巻き込まれる気がするので俺は黙っていることにした。

 

「そうなんです! 普段はアイドルとして活動してて、夜になると悪人を倒す正義の怪盗に変身するんです!」

 

 ノノミ。設定盛りすぎだ、まだアイドルを諦めてなかったのか。

 ルパン三世率いる一味がどんどん狂気的になっていっているが、日頃の恨みということで俺は黙ることにした。

 

「そして私はクリスティーナだお♧」

 

「『だ、だお♧』……!? きゃ、キャラも立ってる……!?」

 

「うへ、目には目を、歯には歯を。無慈悲に、孤高に、我が道の如く魔境を行く。これが私らのモットーだよ!」

 

「な、なんですってー!!」

 

「…………まだ盛るのか」

 

 なんというか、アルお前は。

 幼児のような純粋無垢というか、お前の歳を知りたくなったな。

 

「何してるの、あの子たち……」

 

「わー、アルちゃんドはまりしちゃってるじゃん。特撮モノのイベントに連れてってもらった子供みたいな顔してる!」

 

 後ろから他の便利屋三名も追いついてくる。

 どうやら、あの場にも他の便利屋もいたようだな。

 カヨコとムツキは、アビドスの面々だと、分かっているようだし、これ以上は混乱を引き起こすだろうから、退散することにしよう。

 

「アル、カヨコから連絡が来ていた。今日は遅いからな、今度柴関に来い。そこで話をしよう。お前ら帰るぞ」

 

「はーいボス!」

 

「俺をお前らのリーダーにするんじゃねぇ!!」

 

「それじゃあ、アルちゃん!アディオス〜☆」

 

「行こう、夕陽に向かって!」

 

「夕日、まだなんですけど……」

 

 

 

 

 

 

「みなさん、色々とありがとうございました」

 

「いや、こっちこそ悪かったな。主に銀行でのこと……」

 

「あ、あはは……まだ詳しいことは明らかになっていませんが……これはカイザーコーポレーションが犯罪者や反社会勢力と繋がりがあるという、事実上の証拠にもなります」

 

 

 時は少し戻る。

 

 

「なっ、何これ!?一体どういうことなの!?」

 

「現金輸送車の集金記録にはアビドスで788万円集金したと記されている。私たちの学校に来たあのトラックで間違いない……でも、その後すぐにカタカタヘルメット団に対して「任務補助金500万円提供」って記録がある……」

 

 予測していた通り、その紙に書かれているのは、カイザーローンが背後で、カタカタヘルメット団に資金援助していた証拠だった。

 

「セリカ、それは分かっていたことだろ?」

 

「で、でも、やっぱり証拠って形で見ると、つい」

 

 気持ちは分からんでもないがな。

 ただ、大事なのはそこではない。

 

「こうなると、カイザーローン……いや、カイザーコーポレーションそのもののメリットがない、つまり金の回収が目的じゃないのは明らかだぜ」

 

 

 狙いは何だ?

 この校舎なのか?ここには何か大事なものがあるのか?

 それとも土地か?

 こんな砂漠化し、砂嵐が止まない枯れた大地に何の用があるんだ?

 

 証拠は手に入ったが、狙いが分からず、謎は深まっていくばかりだった。

 

 

 そして、時間は現在に戻る。

 

 そういった、情報の整理や、確認などを済ませると日が暮れ始めていたので、ヒフミを見送ることにしたのだ。

 

「戻ったら、この事実をティーパーティーに報告します!それと、アビドスさんの現状についても……」

 

「……まー、ティーパーティーはもう知ってると思うけどねー」

 

「は、はいっ⁉︎」

 

「あれほどの規模を持つ学園の首脳部なら、それぐらいはとっくに把握してると思うんだよー。みんな、遊んでばかりじゃないだろうしさ」

 

「そ、そんな……知っているのに、みなさんのことを……」

 

「それが、世の中、クソ面倒な政治の世界ってわけだ」

 

 信じられないといった顔のヒフミの頭をホシノが撫でながら答える。

 

「先生の言う通りだよ、ヒフミちゃんはいい子だねー。でも世の中、そんなに甘くないからさ」

 

 そのまま話を続ける。

 

「ヒフミちゃんの気持ちはありがたいけど、そっちに知らせたところで、これといった打開策が出るわけじゃないし、かえって私たちがパニくることになりそうなんだよねー」

 

「そ、そうですか……?」

 

「ほら、今のアビドスって廃校寸前じゃん?トリニティやゲヘナみたいなマンモス校からのアクションをコントロールできる力がないんだよー。言ってる意味、分かる?」

 

「……サポートをするという名目で悪さをされても、それを阻止できない……ってことですよね。そうですね……その可能性もなくはありません。あうぅ……政治って難しいです」

 

「でも……ホシノ先輩、悲観的に考えすぎなのではないでしょうか?本当に助けてくれるかもしれませんし……」

 

「うへへ〜、私は人の好意を素直に受け取れない、汚れたおじさんになっちゃってねー。『万が一』ってことをスルーしたから、アビドスはこの有様になっちゃったんだよ」

 

 ホシノの顔が、ほんの少しだけ、無理をして笑っているように見えた。

 それが、お前の仮面なんだな。

 俺は、無理にお前に聞くことはできない。

 だが、その仮面、いつか脱いでもらうぜ。

「えっと……今日は本当に……色々なことがありましたね」

 

「そうだね、すごく楽しかった」

 

「……楽しかったのはシロコ先輩だけじゃないの?」

 

「あ、あはは……私も楽しかったです」

 

 色んな事があった、それでもそれを楽しい思い出に変えられるのはシロコの強みだと俺は思う。

 

「いやぁー、ファウストちゃん。お世話になったね」

 

「そ、その呼び方はやめてください!」

 

 俺の知らないうちにコードネームでも出来ていたらしいな。

 ホシノの茶化しにヒフミが首を何度も横に振った。

 

「ホシノ先輩、ヒフミさんが困っているじゃないですか」

 

「と、とにかく……これからも大変だと思いますが、頑張ってくださいね。応援してます」

 

 笑顔で激励を入れてくれた彼女は、ペコリとお辞儀をしながら、

 

「それでは……みなさん、またお会いしましょう」

 

 と、言って近場の駅の方へ駆け出して行った。

 

「よし、今日は俺たちも解散だな。ゆっくり休めよ」

 

「うへへ、それじゃあ解散〜」

 

 そういうホシノの顔を見た。

 俺は、その笑顔に先ほどの一瞬だけ見えた悲し気な顔の面影を重ねるのだった。

 






アルちゃんが見破れたのは偏に愛だからです。
愛ってすげぇなぁ……他のメンバーはアルに言われて次元だと気づき
アルも覆面水着団の正体を知り、白目になる。

次回 シャーレ新しい部活作るってよ

毎度のことながら、感想、ここすき、評価、誤字修正ありがとうございます!
活動報告やメッセージでのシチュ提供本当に感謝しています、どれも天才の所業でありがたい限り……
この暁のホルスは誰の手にはとあるルパンのタイトルのオマージュなのですが、Vol.2が全然思いつかない……果たして書き初めまでに思いつくのか

最後に、感想、ここすき、評価等々お待ちしております。

今の話のタイトルが分かりにくいとの意見を得て変更するか否か

  • 例:殺し屋の矜持
  • 例:1-10
  • 例:1-10 殺し屋の矜持
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。