新任教師『次元大介』   作:レイゴン

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1-9 シャーレ新しい部活作るってよ

 大波乱のブラックマーケットの事件の翌日。

 俺がヒフミから、無事にトリニティに着けたとの連絡を見ながらアビドスの教室に足を運んでいた。

 今日は珍しく暇な日であり、しいて言うならお昼ごろに便利屋達からの相談があるくらいで、それ以外には目立った仕事がない。

 張りつめすぎた糸ほど切れやすいもんはない。今日みたいなのんびり出来る日があるってのはあいつらにとってもいいだろう。

 そんなことを考えながら、対策委員会の教室を開けると、ノノミがホシノに膝枕をして寝かせていた。

 扉の音で起きたのか、姿勢は微動だにせず、そのまま手を挙げる。

 

「おはよー、先生」

 

「先生、おはようございます。今日は早いですね?」

 

「おう、おはよう。起こして悪かった、早めに済ませたいことがあってな」

 

「いんや〜、寝付いてはなかったし平気だよ〜。うへ〜、ノノミちゃんの膝枕は柔らかくてサイコーなんだよー。私だけの特等席だもんねー」

 

 ノノミに頭を撫でられながらホシノがそう話す。

 そういえば、こいついつも眠そうだが、ちゃんと寝てるのか……?

 

「先生もいかがです?はい、どうぞ~☆」

 

「いや、俺は、遠慮する……」

 

「そうだよ~。ここは私の場所なんだから、先生はあっちの座り心地の悪そうな椅子にでも座ってねー」

 

「私の膝は先輩専用じゃないですよう……」

 

 おっさんが女子高校生の膝枕を受けるだなんて恥ずかしいわ、だからノノミ残念そうな顔をするな。俺は、ガキには興味がねぇんだ。

 しかし、ホシノにもそういう独占欲らしきものがあるとはな、年相応なところが見れるのは嬉しいもんだ。

 

 うつらうつらと心地よさそうにノノミに甘えているホシノを見ると、なおのこと思うが……

 恐らくだがこいつは、強迫性かそれに近しい睡眠障害の類なのではないかと、昔戦地で似たような兵士を見かけたことがある。

 こいつの過去は粗方調べ尽くしたが、先代生徒会長と何かあったのか、それとも……

 

「よいしょっと。ふあぁ~、みんな朝早くから元気だなぁ」

 

 大きく伸びをして、ホシノはノノミから離れる。

 もう少し眠っていてもよかったと思うが、やはり俺の存在が大きいようだな。

 早めに離れるか?

 

 

 

「のんびりできるのは久しぶりですから……今はみんな、やりたいことをやってるんでしょうね。んー、シロコちゃんはきっとトレーニングでしょうし、アヤネちゃんは多分勉強しに図書館でしょうか……」

 

「ノノミちゃんは学校の掃除と教室の整頓をしてくれたよねー。うへ、みんな真面目だなー」

 

 みんな真面目だと、ホシノは言う。

 なぁ、ホシノお前は、本当は一人で何かしてるんじゃないか?

 夜、たった一人で、アビドスの為に、寝付けないお前がベッドの上でじっとしているそんなタマには見えやしない。

 だがその言葉を口にすることはできなかった。

 

「ん? どしたの、先生? うへ~、私は当然ここでダラダラしてただけだよー」

 

 その顔には覚えがあるぞ。

 嘘をついているときの顔だ。

 気づいているのか?お前は嘘をつくときに青の方の瞳を隠す癖がある。

 ただ、そうやって隠してでも何かを守りたいのなら、俺は黙って見てるさ。

 

「先輩も何か始めてみてはどうでしょう? アルバイトとか、筋トレとか」

 

「無理無理ー、おじさんは年齢的に無理がきかない体になっちゃったもんでねー」

 

「歳は私とほぼ変わらないですよ?」

 

「そうだぞ、ホシノ。俺の顔を見ながら言ってもらいたいもんだな?」

 

 うへ~、といつものように笑いながら、頭を掻いている。

 

「うへ~。とにかく先生も来たし、他のみんなもそろそろじゃない? そんじゃ、私ゃこの辺でドロン」

 

「あら先輩、どちらへ?」

 

「うへ、今日おじさんはオフなんでね。てきとうにサボってるから、何かあったら連絡ちょーだい、ノノミちゃん」

 

 そういって、ホシノは、さっきまで横になっていたとは思えないほど身軽な動きで、俺の横を通り、扉から出ていく。

 また嘘ついてらぁ……。

 

「ホシノ先輩……またお昼寝しに行くみたいですね。うーん、まあいいんじゃないでしょうか。会議はアヤネちゃんがしっかり進めてくれますから」

 

「また、ちゃぶ台返ししても知らねぇぞ?」

 あの見事なちゃぶ台返しを思い出す、昔から、あぁ言うタイプの女はキレさせちゃだめだってのはお約束なんだ。

 もう少し後輩をいたわってやれと思うがな。

 

「あはは……。それにしてもホシノ先輩は、以前に比べてだいぶ変わりました」

「変わったのか?」

 

「はい、今はいつも寝ぼけているような感じですが……初めて出会った頃のホシノ先輩は、常に何かに追われているようでした」

 

 そうして、ノノミが語り始めるのは、文章では読み取れなかった、過去のアビドスの姿の断片だった。

 

「何に追われていたかというと……んと、ありとあらゆることに、と言いましょうか」

 

 ありとあらゆることか……

 

「聞いた話ですが、以前とある先輩がいたそうで……アビドス最後の生徒会長だったらしいんですがとても頼りない人で、その人がここを去ってからはすべてをホシノ先輩が引き受けることになった、と……」

 

 やはり、先代と何かがあったんだな。

 ここを去って、か。確かに戸籍情報では行方不明だと書かれていたが……

 時折見せる悔恨の表情は、その先代との間に起きた何かが原因なのだろうな。

 

「ホシノ先輩は当時一年生だったとか……詳しくは、私も知らないのですが」

 

「…………」

 

 二年以上前の事件、それからずっとあいつは、たった一人でアビドスを守り続けてきた。

 

 ──うへ、私は他人の好意を素直に受け取れない、汚れたおじさんになっちゃってねー。

 

 ──『万が一』ってことをスルーしたから、アビドスはこの有様になっちゃったんだよー。

 

 自己犠牲、睡眠障害、自罰的な思考回路。

 それが今のホシノだ、尤も、後輩たちには気づかれないように仮面をかぶり続けているようだが。

 

「でも今は、先生もいますし、他の学園の生徒たちとも交流できますし……。以前だったら、他の学園と関わること自体嫌がっていたはずが……かなり丸くなりましたね。うん、きっと先生のおかげですね☆」

 

 ホシノ、お前は何に追われているんだ。

 その背に誰を乗せている。

 あんな、悲しい笑みを張り付けた少女が、今にも壊れそうな彼女でさえ、まだ良くなっただと?

 俺は、ホシノが出ていった扉をただ見つめることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 お昼すぎ、俺は少し早めに柴関ラーメンへと出向いていた。

 

「よう、大将」

 

「お、先生じゃねぇか、ちょうどよかった、試食していってくれねぇか?」

 

 便利屋はまだついていないようだった、お客もまだいないようだし、試食とやらを頼まれることにした。

 

「いいけどよ?俺でいいのか?そんなに舌に自信はねぇぞ?」

 

「いいんだよ、前の借りもあるしな」

 

 そうして出されたのは、味玉に醤油麹が乗せられたものだ。

 

「これは……つまみか?」

 

「あぁ、今度夜メニューで出そうと思ってな?ほかにもあるんだ、ちょっと待ってな?」

 

 そうして、貝ひもに辛味噌を合わせたものと、叩いたきゅうりに特製みそとラー油が添えられたものが出される。

 

「なぁ、大将」

 

「どうした?」

 

「酒はあるか?」

 

「昼間だぞ、先生」

 

 生殺しだろ、意地悪にもほどがある。

 どれも味が良く、程よい濃さのそれは酒で流し込みたくなる。

 

「あんた、いい性格してるぜ……」

 

「はは、夜来てくれたらその分サービスするからよ」

 

「分かったよ……はぁ、そうだ、それで最近、セリカはどうだ?」

 

 そうして大将と小一時間、セリカとの会話で花を咲かせた。

 そして大切な約束を交わした。

 そうしていくうちに、新しい客が入店してきた。

 

「いらっしゃい!アビドスさんとこのお友だちか、好きに座ってくれ」

 

「お、来たか、便利屋の悪ガキども」

 

「どもども~。先生来たよー」

 

 ムツキが元気よく話しかけてくる。

 他のメンバーもちゃんといるようだ、大将に言ってテーブル席の方に移動する。

 

「それで、何だったか、相談だったか?」

 

「そうなの、話すと長くなるんだけどね」

 

 そういって、カヨコが話し始めた会話を要約すると、カイザーPMCを怒らせた結果、何かしらの報復が来てしまうこと、他の依頼を受けようにも準備資金がなく、銀行の融資も受けられないことと言った内容だった。

 

「そうか、俺との決闘のせいか」

 

「そ、それはいいの!先生は悪くないし、それも覚悟の上よ!ただ、私の口座は凍結していて……本来なら、私たちの手だけでどうにかするべきことなのに、ごめんなさい先生」

 

 そういって、謝ろうとするアルの頭を撫でる。

 

「今の俺は先生だからな、気にすんな、先生として何かできることを考えてみるか」

 

 そうして、しばらく便利屋たちとあーでもないこうでもないと悩んでいた。

 

「そういえば、シャーレには空いてる階層があったな……なぁ、お前ら」

 

「?……何かしら?」

 

「俺の専属……いや、厳密にはシャーレっていう機関に属する部隊に入らねぇか?」

 

「というと、どういうこと?」

 

 ムツキが首を傾げながら疑問を飛ばしてくる。

 

「お前らの主な金欠の理由は、そもそも高すぎる賃貸料と、口座がなく、依頼料しか受け取らないがゆえに金がねぇってのが問題だ。だから、シャーレが立てた部隊に入ってるてことにすれば、シャーレのビルに拠点も構えれるし、口座もシャーレ名義で作れる」

 

「……なるほど、それなら確かに大抵の問題は解決できる」

 

「それって、ハードボイルドなアウトローなのかしら……」

 

 そうだった、アルにとってはそれが何よりも大事だものな。

 

「政府の抱える私設の極秘部隊だぞ?仕事も今までのように受けてもいいし、俺からの依頼をシャーレ経由で優先的に受けてもらうだけだしな。」

 

 この案は元々、ブラックマーケットの行き場のねぇ奴らの為に俺が一人で進めてた案件だったが、ちょうどよかった。

 流石にアビドスのような学校単位でやると肩入れだなんだの言われるが、はぐれ者をどうしようが、勝手だろ?

 何よりもこいつらは、腕が立つ。仮にも大企業の軍事部門から声がかけられるほどの腕だからな。

 

 

「確かに、それってかっこいいじゃん!ね?アルちゃん!」

 

「……確かにそうね!分かったわ!」

 

「なら、これからは、パートナーだな?」

 

「えぇ、お願いするわね!」

 

 ムツキに乗せられたのもあるが、それでも俺の目をしっかりと見て、差し出された俺の手を握り返してくる。

 

 そんなところに柴大将がやってきて、彼女たちにラーメンを提供していく。

 いつもよりもチャーシューが一枚位多く気持ち分厚く切られている。

 

「何かは分かんねぇがめでたいことが決まったんだろ?うちからのサービスさ」

 

「大将いい人~!」

 

「い、いいんですか?……あ、ありがとうございます!」

 

「やっぱり、アンタいい人だな」

 

「先生ほどじゃないさ」

 

「今度、酒でも一緒に飲むか?」

 

「そいつはいいな、良い酒を用意しておくよ」

 

 柴大将と笑いながら、話している様子を目を輝かせながら、アルが見つめている。

 なんだか、羨ましそうなそんな風に見えた。

 

「お前は、酒が飲めるようになったらな?」

 

「へっ、そ、そうね、分かってるわよ!」

 

 顔を真っ赤にして、俺から目を逸らしラーメンを食べ進め始めた。

 

「あ~あ、先生ワルいんだ~?」

 

「あ?なんだムツキ、変なこと言ったか?」

 

「いいや~?苦労しそうだなぁ~ってだけ~」

 

 ニマニマとした顔で俺を見ているムツキに何故かからかわれる。

 この光景を見ながら、俺は少しだけ心に温かいものを感じる。

 大将と便利屋たちと酒を酌み交わす。そんなもしもを思い描く。

 

 風切り音が俺の耳に入る。

 

 いつかのもしもを吹き飛ばす。

 

「──アロナ!大将を守れ!」

 

「え、どうしたの、先せ」

 

 視界が真っ白に染まる。

 何もかも全てを吹き飛ばす迫撃砲が、柴関ラーメンへと降り注ぎ、耳をつんざく爆音と共に。

 今、店は瓦礫と化した。

 






爆発に飲まれた先生たち
吹き飛ばされた未来の跡地で先生は何を思うか

次回 殺し屋の矜持


切りが良すぎたので、今回はここまで、早めに次のお話書き上げますね……
今日も二話投稿出来るかな?
最後に、感想、ここすき、評価等々お待ちしております。

今の話のタイトルが分かりにくいとの意見を得て変更するか否か

  • 例:殺し屋の矜持
  • 例:1-10
  • 例:1-10 殺し屋の矜持
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