『ふふっ、なるほど。……あぁ、便利屋にカヨコさんがいることをすっかり忘れてました。のんきに雑談なんてしている場合ではありませんでしたか……』
目的を当てられた割には、随分な余裕をもってそう話すアコ、言葉から察するにどうやら真実のようだが、そうか。
この都市にルパンの悪名がなかったように、俺自身を標的にされる感覚をすっかり忘れていた。
道理で気づけねぇわけだが、今となってはもうどうだっていい話だ。
大事なのは、この状況をどう打破するかってことだ。
俺たちが全部だと思っていた部隊はどうやら全体の一部だったようで、俺たちの周りを包囲するように陣を作り上げる。
まさか自分の身内すら囮にするとは、どうやら俺はこの女を過小評価していたらしい。それともそういう演技をしていたのか?
「これで全部か?」
『まさか、シャーレを相手にするのですから、これくらいあっても困らないでしょうし……まぁ、少々やりすぎかとは思いましたが、大は小を兼ねると言いますからね☆』
演技じゃねぇな。素でこれか。
イラつかせるのが大層上手いみたいだな……
「……そうか、でだ……なんで俺を狙った」
タブレットを一瞥し、そのままホログラムのアコを睨む。
『そんな、怖い顔をしないでください?次元大介先生……事の始まりは、ティーパーティーでした』
ホログラム越しだからか、軽く鼻で笑うような仕草をし、その後に話始める。
本当は、柴大将の店を爆破したことについて問い詰めたかったが、カイザーの息がかかったデータを信用している以上話は平行線な上に、そうなればカイザーとの裁判ないし政治関連のお話になっちまう。
アビドスにそのようなことができるほどの余力はないうえに、そんなことに時間を使うわけにはいかない。
だからこそ話題を変えたのだが、あっさりと引いてくれたのには驚きだな?
しかし、ティーパーティーか。確かこの前会ったヒフミが話題に出していたな。
『もちろんご存知ですよね、ゲヘナ学園と長きにわたって敵対関係にある、トリニティ総合学園の生徒会のことです』
敵対関係とは、随分と踏み切った言い方をする。
三大学園。ミレニアム、ゲヘナ、そしてトリニティ。
場所や、それぞれのリーダー、勢力図は把握してるつもりだったが、こういうのはやはりその場に住む人間に聞くのが一番だなと改めて思わされる。
特にトリニティとゲヘナの仲の悪さは、俺も気にかけていたが。
まさか、敵だとはっきり言ってしまうほどだとは。
まぁ、学園が国家であると考えるならそれもあり得るだろうな。
具体的に俺の知ってる国だとこことここみたいな野暮なことは言わねぇが……
『そのティーパーティーが、シャーレに関する報告書を手にしている……と。そんな話が、うちの情報部から上がってきまして』
──戻ったら、この事実をティーパーティーに報告します!
やはり、あの子は真面目なようだな。
すでに知ってるかもしれないと分かっていても伝えずにはいられなかったというところか。
しかし、そんないい子なのになんであの意味の分からないペロペロ様とやらにお熱なんだ?
まぁ人の趣味に口を出すってのも違うか……
『当初は私も「シャーレ」とは一体何なのか、全く知りませんでしたが……ティーパーティーが知っている情報となれば、私たちも知る必要があります。それで、チナツさんが書いた報告書を確認しました』
「確認するのが遅くないです……?」
比較的真面目なチナツのことだ、一か月前には書いていたのだろうな。
「上司が使えねぇと部下は苦労するな」
何故か知らないが、アルの肩が少し跳ねた。
お前に言ったつもりはなかったんだがな。
『連邦生徒会長が残した正体不明の組織……大人の先生が担当している、超法規的な部活。どう考えても怪しい匂いがしませんか?』
どうやら俺とチナツの言葉が聞こえたのかは知らないがホログラム越しでも分かるくらいに青筋を立てながら、少し煽るようにそう説明する。
リンの言葉を借りると『キヴォトスのどんな学園の自治区にも自由に出入りでき、所属に関係なく、先生が希望する生徒たちを部員として加入させることも可能。
また、戦闘行為を含め、連邦生徒会長によって付与された権限のもとに、あらゆる規約や法律による規制や罰則を免れる』だったか。
確かに胡散臭いことこの上ない。
俺もそんな組織があると知れば真っ先に探りを入れる。
この都市にいきなりそんなものができたとすれば、過剰権力を持った危険因子だと思ってしまうものだろう。
先生という役職を任されてる俺ですらそう思うのだからな。
『シャーレという組織は、とても危険な不確定要素に見えます。これからのトリニティとの条約にも、どんな影響を及ぼすのか分かったものではありません』
口に出さないように努めたが、今こいつが口にした条約とやら、恐らくだが機密事項なのではないか?敵対関係で組む条約なんざ決まるまでの間ろくでもねぇのは、間違いないんだがこいつ行政官なんだよな?
『ですから、せめて条約が無事締結されるまでは、私たち風紀委員会の庇護下に先生をお迎えさせていただきたいのです。ついでに、居合わせた不良生徒たちも処理した上で……といった形で』
「なるほど、テメェの言いたいことは良くわかった。つまりはだ。俺っていう存在が怖くて仕方ねぇから便利屋の捕縛を口実にして、お前の独断で風紀委員会の兵士を無断で動かし、アビドス自治区内で戦闘を行って、怖かったから許してほしいと、無実を主張したいわけだ」
子供相手に随分とムキな言い方をして恥ずかしいと思うのは間違いないが……
俺がずっと怒ってるのは、俺が標的にされてるからじゃない。
その程度、もう何年もやってきてるんだからな。
『……随分と悪意のある言い回しですね。
現状、私たちを罪に問えるのはカイザーコーポレーションだけです。アビドスに風紀委員会の行動を咎める権利はありません』
「土地か、確かにそうかもしれないが、お前ずっと名詞をすり替えてるよな?いつ土地の話になった?俺が話してるのはここが──アビドスの自治区内だって話だよ。ここがアビドスの自治区内な以上、お前のやった行いは違反そのものだぜ?」
わりぃな、大将……本当ならお前さん個人に謝罪させたいんだが……分からねぇことが多すぎる。
アビドス高等学校、あの建造物とそこに所属する生徒がいる限り、ここの自治をしているのはアビドスであることに変わりはない。
『シャーレの次元大介先生?貴方が何をしようとしているのか理解されているのですか?貴方は今テロリストを庇い立てているんですよ?』
「なんだ?分が悪くなったら話を変えたいわけか、だが悪いが後ろにいる奴らはテロリストじゃねぇぞ、お前さん本当に情報が遅いんだな?行政官としてそれは、致命的だぜ」
『何を言いたいんですか?』
さっき俺が見たタブレットに書かれていたアロナからのメッセージの一つは、前々から準備させていたとある案件の書類の発表時刻の改竄成功についてだった。
カイザーはどうやら書類の改竄を行って、今回のことを引き起こしたみたいだからな。
なら、俺も同じ手を使わせてもらう。
「昨日付けで、シャーレからブラックマーケット等に向けて、生活に困っている人物の雇用を行うって内容の連絡なんだが……
部下の書類ですら一か月たたなきゃ見ないようなお前が見るわけがないな。
こいつら便利屋68は俺のパートナーなんだ」
『ちっ……』
アロナ、今度好きなお菓子いくらでも買ってやるからな。
『これは困りましたね……うーん……こうなったら仕方ありません』
一度舌打ちをし、イラついた雰囲気をホログラム越しに感じたが、それもすぐに収まり、どこかすっきりしたかのような、清々したとでも言いたげな笑みでアコが話す。
どうやら、実力行使に出たいらしい。
『本当は穏便に済ませたかったのですが……ふふ、やっぱりこういう展開になりますか。
えぇ、仕方ありませんね、次元大介先生?』
彼女の号令と共に包囲している風紀委員が銃口を向ける。
脅しではなく、今度こそ彼女の本気とやらなんだろうな。
『ゲヘナの風紀委員会は、必要でしたら戦力を行使することもあります。私たちは一度その判断を下せば、一切の遠慮をしません』
やたらと困れば爆破するような学校だ、その言葉に嘘はないんだろう。
『いくら便利屋を味方につけているとは言え、この兵力と真っ向から戦うのはオススメしません。仮にアビドス廃校対策委員会がいたとしても、勝ち目はありませんよ?』
「お前みたいなタイプは一々言葉が長くて眠たくなる。もっと簡潔に言えよ」
帽子を深く被りなおす。
目を見られたくないからな。
「貴方には真っ向からでは勝てないから降伏を選択してくださいってな」
『貴方って人は本当に!!』
「人の話は最後まで聞くもんだ、俺は言ったよな。『これで全部か?』って言葉が足らなくてすまなかった。たったこれで全部なのか?だったな。──悪かったよ」
『あぁ!もう沢山です!!総員!!』
そうアコが声を荒げた瞬間だった。
俺に送られてきたメッセージは二つだ。
一つは、便利屋の雇用届。
もう一つ、委員長を除いた彼女らがすでに待機していることを伝えるもの。
そして、無線で聴いているであろう彼女らに合図を送った。
アロナ、いちごミルクも好きなだけいいぞ。
風紀委員の包囲を喰い破るように爆発が起こる。
それの発生源は空中を縦横無尽に駆け巡るドローン。そしてそこから撒き散らされるミサイルだ。
『まさか、……そんな、アビドス!?』
「お前、勝ったと思って油断してただろ?仕事はスマートにやらなきゃなぁ!」
しっかし慣れねぇ煽りなんかするもんじゃねぇな。
あのミサイルによる爆撃、それを当てるために、周りのやつらの視線を含めてアコの視線を俺に釘付けにする必要があった。
怒りってのは時に思考を鈍らせる。
『っ……!風紀委員会、攻撃を開始します。対策委員会と便利屋を制圧して、先生を確保してください!』
吠え面かかせてやって少し気分の晴れた俺は、アルの方を向きながら無線に声を入れる
「どうやらここまで来ても顔を見せない辺り、ヒナはここには来ないようだ。お前ら仕事は最後までキッチリやるぞ」
「えぇ、私たちの初仕事だもの!便利屋68行くわよ!!」
俺は、シロコが破った包囲の穴から飛び出し、風紀委員会から距離を開ける。
遠目で見るとイオリはチナツの手当を受けて動けるようになったようだ。
「シロコ、もう一仕事頼む。銀髪褐色の隣にいる奴、あいつが救護班だ。思いっきり吹き飛ばしてやれ」
『ん。分かった、柴大将の敵討ちだね』
指示を飛ばしながら後ろから迫る風紀委員の眉間に銃弾を喰らわせる。
この程度なら見ずとも当てられる。
「セリカ、お前はノノミのカバーに入れ。ノノミ、的が多いからな、大量にぶちまけろ!」
『分かったわ!ノノミ先輩!』
『は~い!全弾発射~!』
飛びかかってくる風紀委員に一瞬反応が遅れてしまうが、ハルカの連続で放たれるショットガンが風紀委員を吹き飛ばし、助けられた。
「助かったぜ、ハルカ。やるじゃねぇか」
「い、いえ……先生のお役に立てて嬉しいです!」
そのままハルカと離れ、アヤネと通信をつなげる。
「上空から見て今どんな感じだ?」
『はい、傍受されている通信を含めて、現在は第一第二中隊が壊滅。第三は補給中の様です!』
「そのままシロコとムツキを突っ込ませろ、補給品ごと爆破だ」
アヤネには、ドローンを使った作戦指揮の補佐と、他メンバーとの連携の補助をしてもらっている。
「キリがないわね……」
「なんだ?もう泣き言か?」
「バカ言ってんじゃないわよ。パートナーとして情けないとこ見せたくないもの」
そういって、背中越しにアルと言葉を交わしながら二丁のリボルバーが火を噴く。
「流石だなカヨコ。お前さんのそれどうやってんだ?」
「あぁ、これ?私の神秘を使ってるだけだよ」
既に一人で一つの中隊を壊滅させていたカヨコに話しかける。
神秘か、まるでエネルギーみたいな扱いで話すが。俺の知っている概念とは違うのか?
『……っなるほど、だいたい把握できました。シャーレの力、必要となるであろう兵力……予想を遥かに上回っています。……悔しいですが、素晴らしいですね』
さっきまでのクソ生意気な態度が打って変わり、真面目な態度でアコが賞賛の言葉を並べ始める。
『決して甘く見ていたわけではないのですが、もっと慎重に進めるべきだったかもしれませんね。それでも、決して無敵というわけではありません。弱点も見えましたし……おおよその戦況は読めました』
どうやら、向こうさんも攻撃を止める気はないようだ。
数の暴力ってのは、どんな戦場でも等しく優位なもんだ。
せめて、グレネードランチャーとか、ほかの玩具を持ってこれれば話は変わるんだがな。
アロナの援護や、奇襲が功を奏しただけで、依然不利なのは変わらない。
俺を含めて九人でよくやってる方だと思うんだがな。
しかし、ホシノあいつはどこに行きやがった。眠ってるだなんて嘘つきやがって。
いまだに連絡がついていないのが気がかりだ。
『この辺りをもう少し押していけば……折れるのは、時間の問題ですね。第八中隊。後方待機をやめて、突入してください』
『風紀委員会、第三陣を展開してきました!』
『はぁ……はあ……まだいるの!』
セリカの愚痴も分からんでもない。
いくらの俺とは言え、年波ってのがあるんだ。
「この状況でさらに投入……!?」
「た、大したことないわよ! まだまだ戦えるんだから!」
「それはそうだとしても……これはもう、アコの権限で動かせる兵力を超えてる。ということはこの襲撃、アコの独断じゃなくて、まさか……」
カヨコが導き出そうとした結論をムツキが代わりに口に出す。
「……風紀委員長が?」
「えっ、ヒナが来るの!?……でも、だとしても、今は逃げれないじゃない!!!」
「……ふっ、成長したね、社長」
いつもなら逃げを絶対に選ぶアルが、涙をこらえながらもその選択を捨てた姿にカヨコの顔がまるで愛娘を見るような顔になる。
とは言えだ、必死に強がってはいるが、全員に言えることだが。
その顔には疲労を隠しきれていない。
『さぁ、では……三度目の正直と行きましょうか。風紀委員会、攻撃を──『アコ』』
その声が通信上に響いた。
たった一言でこの場の空気の全てを掌握する。
気怠そうな、しかしその内側に一本太い芯をもった声。
聴いたこともない声だが……それでも分かる。
こいつだ。
『……え? ひ、ひ、ヒナ委員長!?』
『委員長?』
『今の通話相手が……? 委員長ってことは、風紀委員会のトップ……?』
長の登場に、戦場は一時休戦に入る。
だがこの状況は都合がいい。
「全員集まれ、何かは分からんが嫌な予感がする。せめて俺の目の届く範囲に居ろ」
アイツらの目的は俺であることに変わりはない。
なら、最悪俺が囮になれば、こいつらは逃がせる。
『い、い、委員長がどうしてこんな時間に……?』
『アコ、今どこ?』
『わ、私ですか? 私は……そ、その……えっと……、ゲヘナ近郊の市内の辺りです! 風紀委員のメンバーとパトロールを……』
「思いっきり嘘じゃん!」
「やっぱり、行政官の独断行動だったみたいですね……」
「くだらねぇ……」
どうやらまだ電波状況の問題か、ホログラムに姿が映らねぇようだが。
俺とカヨコの予想通り、アコの独断行動だったわけだ。
そしてこのうろたえようと、よりによって自分の上司に嘘を吐いてなんとか誤魔化そうとする辺り、ヒナはこういう作戦の実行を許可するような人間性ではないようだ。
ってか、仮に上手くいってたらどうするつもりだったんだ?
後先顧みないというか、No.2が聞いてあきれるな。
『そ、それより委員長はどうしてこんな時間に……出張中だったのでは?』
『さっき帰ってきた』
淡々と話すその声にわずかに歩く音が混じったように聞こえた。
まるでアスファルトの上を歩くような……
『そ、そうでしたか……! その、私、今すぐ迅速に処理しなくてはいけない用事がありまして……後ほどまたご連絡いたします! い、今はちょっと立て込んでいまして……!』
『立て込んでる……? パトロール中なのに珍しい、何かあったの?』
『え? そ、それは……その……』
あぁ、終わったなアイツ。
いまだに見苦しく言い訳を続けようとするアコに、鋭く切り裂くような追及を言い放つヒナ。
そして、とどめと言わんばかりに、ヒナは、言い放った。
「『他の学園の自治区で、委員会のメンバーを独断で運用しないといけないようなことが?』」
革靴がアスファルトを踏みしめる音が鳴る。
瓦礫の上で、見下すように立つ少女。
色彩を感じさせない白い髪をたなびかせ、紫を基調とした軍服を着こみ、毅然としたたたずまいで立つその少女こそ……
「……空崎ヒナ」
この都市における最強。
その筆頭であり、自由と混沌の学園内で抑止の化身として君臨する魔王。
それが俺が、彼女を調べて出した結論だった。
この俺をもってして、あいつの射程圏内での勝ち筋を見つけることができなかった存在だ。
「い、い、い、委員長!? い、一体いつから!?」
「!!」
『……え、ええええっ!?』
「……アコ。この状況、きちんと説明してもらう」
ついに登場した、ゲヘナ白モップ
瞬時に凍り付くゲヘナヨコチチ
この場の行方はどうなるのか
次回 ペットの躾は飼い主の役目
作者はアコのこと好きだよ。面白いからね
えー、なんと日付を超える前に書きあがってしまいました……
読者の皆様のおかげでこの物語もいつの間にか14話目、一週間で80000文字を書いたのはこれが初めてです……これもモチベとなる皆さんの感想や、ここすきのおかげです。
ありがとうございます。
最後に、ここすき、感想、評価等々お待ちしております。
今の話のタイトルが分かりにくいとの意見を得て変更するか否か
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例:殺し屋の矜持
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例:1-10
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例:1-10 殺し屋の矜持