「ハスミ、だったか」
ここまでの道中の自己紹介で、彼女らの名前は何となくだが覚えたが、間違っちゃ失礼だからな。
「は、はい。先生どうしましたか?」
俺に呼ばれたハスミは、少し驚いたように肩を震わせた後に返事をする。
「あのデカブツに対してマシなダメージを与えられるのはお前の得物だけだからな。だから俺が先頭でカバーする、いいな?」
「はい……!承知しました」
「緊張しなくてもいい、目を見りゃ、分かる。お前は出来るさ」
強張ったハスミの肩を見て、そう話し、次の生徒のもとに行く。
「スズミであってたな?得物は?」
「えっと……サブマシンガンと閃光手榴弾です」
銀髪の少女──スズミがMCXとM84スタングレネードを見せてくる。
「スタングレネードか……俺の指示したタイミングで投げてくれ。自警団の実力期待してるぜ」
そういって腕章をつけた生徒の方へと向かう。
「チナツだな。確か救護が主な仕事だったか」
「はい。私は栄養剤の投擲治療の他にも、後方で他の風紀委員の方々に指示を送ったりなど……後方指揮や支援などを行っています」
「ならお前は一番後ろだ。生命線になる、ユウカと一緒に行動しろ」
「分かりました。ユウカさん、お願いしますね?」
「はい!チナツさんもよろしくお願いします」
話を振られたユウカがぺこりとチナツに対してお辞儀している。
「ユウカは、確かバリアってやつを出せるんだったな。俺はその辺のハイテクってのはよくわかんねぇが、チナツのことをサポートしてやってくれ。」
「分かりました、先生もお気を付けください」
「わーってるよ、よしお前らとっとと片付けちまおう」
建物内に入ると、奥の方からエンジン音と共に足音が聞こえてくる。
「来たぞー!!!やっちまえ!!!!」
不良生徒の声がだんだんと大きくなってくる。
数こそ多いが一塊になってくれてるのは助かるな。
先頭で歩いている俺に視線が集まる。
まだだ。銃を構えるぎりぎりまで、引き付ける。
「スズミ!!」
「今ですね!!」
後方から俺の頭上を通ってスタングレネードが飛来する。
俺の声を聴いて全員の顔が飛んできた物体に集中する。
「やべぇ、グレネー「遅ぇよ」」
視点が固まり、次の行動を行うために硬直が入る。
その瞬間を狙って、スタングレネードをマグナムで撃ち抜き誘爆させる。
目を閉じて銃弾を放った俺も当然少しは閃光に苦しめられるが、直接喰らった不良達よりかはマシで済む。
そして何よりもそんな無防備な彼女たちを、後方から来る彼女らが一瞬で殲滅したのは言うまでもないだろう。
「先生!バカなんですか!?自分ごと閃光弾当てるとか!」
「この程度なら前の仕事で経験済みでね」
「先生本当に前に何していたんですか!」
「いいから、見えてきたぞ」
ユウカが噛みついてくるがそれを一蹴しながら姿が見えてきた戦車に相対する。
「射線には出るなよ」
戦車の砲撃が放たれる。
左右に避けた俺たちの後方で爆風が広がる。
HE弾か。となれば次の発射までかかる時間を考えると……
「ハスミ、5秒後、砲身の真ん中にお前の弾をくれてやれ」
5秒前。
──マグナムを戦車のキャタピラパーツに向かって3発、ホイールの奥に弾丸を噛ませて動きを阻害させる。
4秒前。
──砲身がハスミに向く。
3秒前。
──砲塔の関節に向かって二発、同じ個所に命中し砲身の動きが鈍る。
2秒前。
──ハスミが構え、その後ろに俺が立ち、二つの銃口と一つの砲口が向き合う。
1秒前。
──二人の息がぴったりと止まり、集中は極限状態になる。
0秒。
──スナイパーライフルの弾が放たれ、わずかコンマの差で俺のマグナムが火を噴く。
ライフル弾を後ろから押すように放ったマグナム弾は、その役目を全うし、加速したライフル弾が、戦車を貫く。
直前まで砲撃の用意をしていたためか、内部で誘爆し、一瞬の間が開いた後、轟音を鳴らしながら炎上した。
蜘蛛の子散らすように逃げる不良生徒を眺めながら、一息つく。
あれで死なねぇのは人としてどうなんだと思いながら、リンに連絡をする。
「これで全部か?」
『はい、今の戦闘でほぼ壊滅。残りも逃げ出しています』
「んで、ワカモって生徒はどうした?」
『恐らくですが、不良共を囮にして逃げ出したものかと』
なるほどな、あくまで煽っただけで一匹狼ってわけか。
まぁあれだけ盛大に暴れて返り討ちにされたんだ。しばらくは大丈夫だろう。
『「シャーレ」部室の奪還完了。私も、もうすぐ到着予定です。建物の地下で会いましょう』
なにやら後ろで生徒らが何かごちゃごちゃ話しているが、聞こえては来ない。
まぁ気にすることでもないだろう。
「よし、お前ら一先ずお疲れさんだったな。俺はこれから地下に向かう、お前らはここでリンが来るまでの間、護衛していてくれ」
「先生、それは危険では?万が一ワカモが侵入していたら危険ではないでしょうか?」
「安心しろ、俺はプロだからな、何かあればお前らに頼るさ」
彼女らを背に頼んだぜと手を振りながら地下室に向かっていく。
──今、この騒ぎを巻き起こした生徒の正体が判明しました。
──ワカモ。百鬼夜行連合学院で停学になった後、矯正局を脱走した生徒です。
──似たような前科がいくつもある生徒なので、気を付けてください。
作戦行動中にリンから入った情報を脳内で反芻する。
和装に、黒髪。特徴的な狐面で顔を隠し、その素顔は不明か。
「うーん……これが一体なんなのか、まったくわかりませんね。これでは壊そうにも……」
そんな少女が、目の前にいる。
「悪いがそいつから手を放してもらおうか」
「っ!?」
即座に振り向いた狐面の眉間に、マグナムの銃口を突き付ける。
悪くない反射速度だな。俺の腹にむけて九九式短小銃とその先についた銃剣が向けられている。
「貴方……一体いつから……音もなく私に近付くなんて、普通の大人とは、明らかに違う……ここまでどうやって……」
「表の連中ならみんなしっぽ巻いて逃げちまったぜ、さてどうする?」
帽子の鍔と仮面の隙間越しに目線が合い、暫く間が空く。
「…………」
「…………」
相手の先の先を取り合うような、静寂が続く。
「……あら?」
「……?」
ワカモが声を出す、明らかに間の抜けた声だ。
「あら、あららら……」
彼女の声が震える。
「し、し……失礼いたしましたー!!」
「あっ!おい!待て!!!」
まるで生娘みたいな悲鳴を上げながらタブレットのような何かを放り投げて、一目散に天井裏に逃げ出していった。
「何だったんだ……今のは……」
というか、逃げ先が天井裏かよ、五右衛門じゃあるまいし。
忍者、いやアイツはどちらかと言えば武士ってやつか。
「お待たせしました」
入れ替わるようにリンが地下室へと入ってくる。
「お、おう」
「……? 何かありましたか?」
「いや、何でもねぇよ、それでここは?」
「……そうですか。ここには、連邦生徒会長が残したものが保管されています。……幸い、傷一つなく無事ですね」
そういって先ほど放り投げられたタブレットを取りに行く。
奇跡的に机の上に着地してくれたおかげで、ぶん投げられていたことには気が付いていないようだった。
恐らく投げられ、机の上を雑巾がけした拍子についたであろう埃を手で払い、その物体を俺に差し出してきた。
「……受け取ってください」
「……タブレットか?俺ぁこういうのあんまわかんねぇんだが」
「はい。これが連邦生徒会長が先生に残したもの。『シッテムの箱』です」
初めて見て名称を聞いたはずなのにどこかで俺はその名前を聞いた気がしてならない。
夢か、昔の仕事か、俺の心は知らないという俺を否定している。
「普通のタブレット端末に見えますが、実は正体の分からない物です。製造会社も、OSも、システム構造も、動く仕組みのすべてが不明」
「…………」
「連邦生徒会長は、この『シッテムの箱』は先生の物で、先生がこれでタワーの制御権を回復させられるはずだと言っていました。私たちでは起動すらできなかった物ですが、先生ならこれを起動させられるのでしょうか、それとも……」
そこまで言って口を閉じる。
まぁ、知らねぇ大人に、対してだ、そらぁ不安にもなるもんだ。
「リン」
「はい」
「お前はその生徒会長を信頼しているんだな」
「もちろんです」
「もし、その生徒会長の選択が間違っていたらどうする」
少し目線が下がる。
意地悪な物言いをしたのは承知の上だ。
だけど、俺は自分の選択を他人に任せるようなことはさせたくない。
「もし、仮に違ったとしても、次元先生は既に私たちを導きました。なら、きっとそれが答えです」
「……そうか、悪かったな、試すような真似をして」
この子は既に選んでる。俺を信じようとする道を進むことを、自らの意思で。
なら、これ以上の詮索は野暮ってもんだろう。
「…………では、私はここまでです。ここから先は、全て先生にかかっています」
そういって真摯な眼差しと共に部屋の隅へと移動する。
さて、どうしたものか。こういうハイテクは俺じゃなく相棒の領分なんだがな。
画面に触れると、拍子抜けするほどあっさりと画面が点灯し、パスワードを入力する画面へと移行する。
「……合言葉か……」
誰の言葉かは知らない。
何の言葉かも知らない。
ただ、これが正しいという確信の中で俺は言葉を紡ぐ。
──我々は望む、七つの嘆きを。
──我々は覚えている、ジェリコの古則を。
『「シッテムの箱」へようこそ、次元先生』
声が響く。
『生体認証及び認証書作成のため、メインオペレートシステムのA.R.O.N.Aに変換します』
そして、画面が真っ白になり、その眩しさで俺は目を閉じ、そして再び開けた際に映った光景に漠然とした。
床は浸水し、まるで水面のように揺れており、崩落した天井や壁からは空を透き通る青に染める海が──眩しいまでの広がる青が、見える。
『くううぅぅ……』
そして、今までこの都市で見てきたなかで一番幼いであろう子供が、寝息を立てて崩落した教室の机にうつ伏せで眠っていた。
今更だが、この都市は、女しかいないのか?
相棒ならガキのようにはしゃぎ回りそうな現実に俺は辟易していた。
女は大抵裏切ってくるから嫌いだ。
が、あのリンといい、一緒にここまで来た彼女らを見るに、あの峰不二子のようなやつはいないのかもしれない。まだ信用はしてないがな。
あのリンの目に絆されたのかと考えていると、目の前の少女が寝言を言い始めた
『むにゃ……カステラにはぁ……いちごミルクより……バナナミルクのほうが……』
ガキだな、起こすのに少し罪悪感を感じるが、生憎仕事なもんでね。
肩を持って、軽く揺さぶって起こそうとする。
『えへっ……まだたくさんありますよぉ……』
「起きろ」
そういって今度は少し強めに揺さぶる。
『うへ……うへ……ひへ!?』
そうして、今度は意識を覚醒させたようだ。
『むにゃ……んもう……ありゃ? ありゃ、ありゃりゃ……!? え? あれ? あれれ?』
いや、まだ眠気が残っているようだな。
『じ、次元先生!?』
そういって、水色髪のショートヘアの少女が俺に気が付いた。
『この空間に入ってきたっていうことは、ま、ま、まさか、本当に次元先生……!?』
「なんだ、お前は俺のことを知っているのか?」
『う、うわああ!? もうこんな時間!?』
疑問を投げかけたつもりだったんだが、聞こえなかったのか大声をあげて、椅子を弾き飛ばすように立ち上がる。
今までの生徒の中では一番見た目相応というか子供らしい子供だなと思う。
『うわ、わああぁ? 落ち着いて、落ち着いて……えっと……その……あっ、そうだ! まず自己紹介から!』
見た目通りの子供らしい溌剌とした声で、彼女は俺に向き直った。
『私はアロナ! この『シッテムの箱』に常駐しているシステム管理者であり、メインOS、そしてこれから次元先生をアシストする秘書です!』
メイン、OS。つまりAIってやつなのか。
そして、察するに、ここはシッテムの箱。
『やっと会うことができました! 私はここで次元先生をずっと、ずーっと待っていました!』
最近の世間ってやつには着いていけねぇと思っていたが、まさかここまで出来てるとはな。
「さっきまでぐっすりしてたみたいだが、それくらい待ってたのか」
『あ、あうう……も、もちろんたまに居眠りしたこともあるけど……』
「気にすんな、俺も昼寝は好きだからな。別に責めちゃいねぇよ」
『はい! よろしくお願いします!』
本当の子供のようにコロコロと表情を変えながら会話をするアロナに少し微笑みながら、会話を続ける。
『まだ身体のバージョンが低い状態でして、特に声帯周りの調整が必要なのですが……これから先、頑張って色々な面で次元先生のことをサポートしていきますね!』
これがコミックならふんす、とでも擬音が出そうなくらい全身で気合を入れる動作を行う。
『あ、そうだ! ではまず、形式的ではありますが、生体認証を行います!』
「網膜認証とかそういうのか?」
『いえいえ、そういうのではありません!少しこちらに来てください』
『あ、もう少しです。うん、その辺りで。さあ、この私の指に、次元先生の指を当ててください』
ぴっ、と突き出すように構えられたアロナの指目掛けて、俺も人差し指を当てる。
『うふふ。まるで指切りして約束するみたいでしょう?』
「指切りってよりかは、昔の映画のワンシーンってところだな?」
『そうでしょう!実はですね、これで生体情報の指紋を確認することで、認証を確り行なっているんです!』
こんなんで俺の生き物としての情報をとれるんだから最近のテクノロジーってのはすごいもんだなと、感心していた。
『どれどれ……うう……うーん……よく見えないかも…………まあ、これでいいですかね?』
前言撤回、やっぱりすごくはないのかもしれない。
『……はい! 確認終わりました!』
晴れやかな笑顔で宣言したアロナに対して、少し苦笑いを浮かべた俺は軽く頷いた。
わざわざ言うのは野暮ってもんだな。
『なるほど……次元先生の事情は大体分かりました。連邦生徒会長が行方不明になって、そのせいでキヴォトスのタワーを制御する手段がなくなった……』
「アロナだったか、お前さんは連邦生徒会長について何か知ってるか?」
『私はキヴォトスの情報の多くを知ってはいますが……連邦生徒会長についてはほとんど知りません。彼女がどうしていなくなったのかも……。お役に立てず、すみません』
なるほど、ここまでわからないとなると、隠蔽か、何かしらの目的があって自分の足跡を消したんだな、と推測することができた。
「いや、それでも少しわかったことがある、気にするな」
『ですが、サンクトゥムタワーの問題は何とか解決できそうです』
さらりと、さも当然かのような口調で、いった。
「今できるのか?」
『勿論です!次元先生が指示して頂ければいつでも!』
どうやら、ただのポンコツではないらしいな。
『先生?今何か失礼なこと考えてませんでした?』
「気のせいだろう、それで、頼めるか?」
『はい! 分かりました。それではサンクトゥムタワーのアクセス権を修復します! 少々お待ちください……サンクトゥムタワーのadmin権限を取得完了……』
それから、十数秒たったかそれよりも早く、淡々と目を瞑っていたアロナが目を開き、宣言する。
『次元先生。サンクトゥムタワーの制御権を無事に回収できました。今サンクトゥムタワーは、私アロナの統制下にあります』
散々言ってるが、俺はこういうハイテクには疎い。
だが、それでも、この子の行ったハッキングの技術がとんでもないことは理解できる。
『今のキヴォトスは、次元先生の支配下にあるも同然です!』
にこやかに。
ざっくばらんに。
目の前のガキは恐ろしいセリフを吐き出した。
巨大都市を自分の手中に収めようとして失敗し、命を落とした奴らを何人も俺は見てきている。
それをこんな十何秒かでやり遂げたこいつはヤバい代物だということが理解できる。
『次元先生が承認さえしてくだされば、サンクトゥムタワーの制御権を連邦生徒会に移管できます。でも……大丈夫ですか? 連邦生徒会に制御権を渡しても……』
心配したような声で俺に聞いてくる。
俺は、そういうデカい権力ってのには興味がないし、何よりも身の丈に合わない。
「……あぁ、構わねぇよ、承認する」
『分かりました。これよりサンクトゥムタワーの制御権を連邦生徒会に移管します!』
そういうと、視界がフェードアウトし、明かりの付いたシャーレの地下室へと戻っていた。
電話をかけ終えたリンが、こちらに歩いてくる。
「サンクトゥムタワーの制御権の確保が確認できました。これからは連邦生徒会長がいた頃と同じように、行政管理を進められますね」
「そうか、そいつは何よりだ。お疲れ様だったな、リン」
「いえ、先生こそ、ありがとうございます。キヴォトスの混乱を防いでくれたことに、連邦生徒会を代表して深く感謝いたします。
ここを攻撃した不良たちと停学中の生徒たちについては、これから追跡して討伐いたしますので、ご心配なく」
「あんま、やりすぎるなよ」
ガキ同士の討伐戦は見たくはないもんだからな。
「それでは『シッテムの箱』は渡しましたし、私の役目は終わったようで……あ、もう一つありました」
「?」
「ついてきてください。連邦捜査部『シャーレ』をご紹介いたします」
そういってリンが先導しながら、地下室を出て、エレベーターに乗り込む。
「ここが、シャーレのメインロビーです。長い間空っぽでしたけど、ようやく主人を迎えることになりましたね」
感慨深い様子で、リンが言う。
ロビーの扉には『空室。近々始業予定』と書かれた紙が貼られていた。
リンの言葉の割には綺麗に掃除されていたその部屋は、大きな長机にモニターが並び、ホワイトボードにはキヴォトスの地図と見られるものが貼られている。壁に銃火器が並んでおり、どれも整備されているようだった。
「思ってたよりかは、綺麗にされてんだな」
「……ええ。業務の一環として管理していましたので」
「ここで、先生の仕事を始めると良いでしょう」
「仕事か、何をやればいいんだ?」
「……シャーレは、権限だけはありますが目標のない組織なので、特に何かをやらなきゃいけない……という強制力は存在しません」
目標がない、というがどうやら違いそうだな。
「キヴォトスのどんな学園の自治区にも自由に出入りでき、所属に関係なく、先生が希望する生徒たちを部員として加入させることも可能です。……面白いですよね。捜査部とは呼んでいますが、その部分に関しては、連邦生徒会長も特には触れていませんでした」
なるほど、具体的にここに属しているとするよりかは、あくまで中立でいさせたいわけだ。
しかし困ったな、こういうヤマは中々してこなかったな。
「連邦生徒会長は相変わらず行方不明のまま。私たちは彼女を探すのに全力を尽くしているため、キヴォトスのあちこちで起きる問題に対応できるほどの余力がありません」
俺の返事がないことをどうとらえたのかは知らんが、リンが話し始める。
「今も連邦生徒会に寄せられる様々な苦情……。支援物資の要請、環境改善、落第生への特別授業、部の支援要請などなど……」
指を折りながら、やけに具体的な要望を上げると、さも今思いつきましたよと言わんばかりに目を光らせ、今まで聞いてきた中で一番明るい声でこう言った。
「もしかしたら、時間が有り余っている『シャーレ』なら、この面倒な苦情の数々を解決できるかもしれませんね」
「……てめぇ」
ニコニコと笑みを向けるリンとは対照的に俺は、笑みと少しの怒りが混ざった顔を浮かべる。
やっぱりこいつ、あの女と別のタイプの悪い女だな?
「いい性格してるぜ、あんた」
「それほどでもありません」
俺の皮肉を、受け流し肩をすくめて言う。
やっぱ、いい性格してるぜ。
「その辺りに関する書類は、先生の机の上にたくさん置いておきました。気が向いたらお読みください。すべては、先生の自由ですので」
気が向いたらじゃなくて必ず読めってことだろ?
そう言ってリンは身を翻して扉に向かい……最後にこちらを振り返った。
「それではごゆっくり。必要な時には、またご連絡いたします」
リンの背中を見送ったのちに、俺は下にいるであろう生徒たちのもとへ向かった。
「ええ。サンクトゥムタワーの制御権を連邦生徒会が取り戻したことを確認したわ」
「ワカモは自治区に逃げてしまったのですけど……すぐ捕まるでしょう。私たちはここまで。あとは担当者に任せます」
「お疲れさまでした、先生。先生の活躍はキヴォトス全域に広がるでしょう。すぐにSNSで話題になってしまうかもしれませんね?」
「けっ、そういうのは柄じゃねぇ」
しばらくして、軽くではあるがシャーレ前でユウカたちを労っていた。
今回の件で頑張ったのはあいつらだからな。
「これでお別れですが、近いうちにぜひ、トリニティ総合学園に立ち寄ってください、先生」
「私も、風紀委員長に今日のことを報告しに戻ります。ゲヘナ学園にいらっしゃった時は、ぜひ訪ねてください」
「ミレニアムサイエンススクールに来てくだされば、またお会いできるかも?」
各々が、感謝をいう中、ユウカが俺の顔を見ながら話しかける。
「ところで結局、先生ってここに来る前は何をしていたんですか?」
言いづらいからはぐらかしてたんだが、どうしたものか。
──殺し屋、物騒だな。
──傭兵、悪くはないがピンと来ない。
──泥棒、風紀的に良くないな。
あぁ、そうだな。ひとつピッタリなのがあった。
「俺は、ガンマンだ」
まず初めに、多数のお気に入り登録ありがとうございます!
このようなところに投稿するのは何分初めてなので、1評価していただけるだけでも大変励みになります。
まだ、エミュが甘かったりする拙作ではありますが、何卒ご容赦いただければなと思います。