「…………」
俺はその少女の佇まいを見ていることしかできなかった。
アルに聞いた話によれば、頭にライフル弾を当てたところで微動だにしなかっただとか
『ゲヘナの風紀委員長……空崎ヒナ。外見情報も一致します、間違いなく本人の様です。ですが、ゲヘナ風紀委員長ということは……ゲヘナにおいてトップクラスの戦闘力……この状況でそんな人物まで……』
あれで影武者だったりすんのならそいつの演技力を褒めてやりたいくらいだ。
体の重心、手にもつ機関銃……ありゃ、MG42か?自分の身長と大差ない大きさの銃を難なく持っている辺り力も十二分にあるみたいだな。
そのうえで、映像で見たあの高速機動。
正面からやり合って……10分持てばいいところか、こいつらならその時間さえあれば逃げれるとは思うが……
「…………」
『そ、その……これは、素行の悪い生徒たちを捕まえようと……』
「便利屋68のこと?今はシャーレ直属なんでしょう?ここに来る途中で読んだけど、アコは?」
『……』
「それなら、シャーレとアビドス、その二つに対峙してることになるんだけど」
ホログラムのアコの方を向いているせいでヒナの顔は見えないが、後ろ姿だけでも分かるほどの重圧。
たまったもんじゃないな。まぁざまぁみろとしか思わねぇが。
ヒナに詰問されしどろもどろになるアコの顔は明らかに血の気が失せている。
『え、えっと……委員長、全て説明いたします』
「…………」
まるで叱られた犬のようにシナシナになったアコは、明らかに縮こまった態度でヒナに弁明しようとする。
ガキがする必死な言い訳って感じだな。
ただ、肝心のヒナはアコを無言で一瞥し、部下である風紀委員たちを見回し、その後にアビドスと便利屋を見て、最後に俺に視線を向けた。
まさか、あんな子供相手に戦慄することになるとはな、世界ってのは広いもんだ。
「いや、もういい。大体把握した。」
そう言い放ち、続けて話始める。
「察するに、ゲヘナにとっての不安要素の確認及び排除。そういう政治的な活動の一環ってところね」
この戦況を見て、良くもまぁ当てれるもんだ。
腕っぷしだけじゃなく頭もキレるのかよ。
なら、罠は通じなさそうだな……さてどうしたもんか、俺の.357マグナム弾じゃ火力が足りない……
あぁいう相手は敵に回したくねぇもんだな。
下手したら銭形よりも厄介なんじゃねぇのか?
いや、銭形は不死身だったな……
「でも、アコ。私たちは風紀委員会であって、生徒会じゃない。
シャーレ、ティーパーティー、それに連邦生徒会長。そういうのは『万魔殿』のタヌキたちにでも任せておけばいい」
ずっと違和感だったことがこの発言でようやく合点がいった。
こいつら風紀委員がなんで政治のことに顔を出してんだって話だ。
『万魔殿』……確かゲヘナの生徒会だったか、大層な名前をしてるが……そいつらが動いてくるならまぁまだ分かる。
ただ、風紀委員会を動かしてまでやることか?
そうまでして、なんでトリニティへの牽制を?
だけど、これで情報が出そろった。まさかだとは思うが……
こいつ私情でやりやがったな?
「詳しい話は帰ってから。通信を切って校舎で謹慎していなさい、アコ」
『……はい』
あんなにしつこかったアコが、すんなりと大人しく今までの中で最も素直に返事をして通信を切った。
ホログラムが消え、残すは現場の人間のみとなった。
「……。」
「……。」
現場に耐え難い沈黙が流れる。
「じゃ、あらためてやろう゛っッ──「実力差がわかんねぇのかシロコ」……先生私にばっか拳骨落とす……」
俺はシロコの頭に拳骨を落とし、止めさせる。
こいつの好戦的なところは嫌いじゃないが状況を考える力を身につけなきゃいけねぇな。
『先生の言う通りですよ!ゲヘナの風紀委員長と言ったら、キヴォトスでも匹敵する人物を見つけるのが難しいほどの、強者の中の強者ですよ! ここは下手に動かず、一旦交渉するのが吉です! どうしてそんなに戦うのが好きなんですかっ!』
「……ご、ごめん」
どうやら、俺よりも遥かに怒っているアヤネが言葉を続け、あろうことか中々謝んないことで定評のあるシロコから謝罪を引き出しやがった。
戦闘態勢を取ってたシロコをこうも収めるとは中々な剣幕だったぜ……
『こちらアビドスの対策委員会です。ゲヘナの風紀委員長ですね、初めまして。この状況については理解されてますでしょうか?』
「…………もちろん」
目を閉じ……端的にアヤネの問いに答え始める。
「事前通達無しでの他校自治区における無断兵力運用、及び他校生徒たちとの衝突。……けれど、この書類改竄したでしょ。だから、そちらが風紀委員会の公務を妨害したのも事実。違う?」
『それは……!』
「な、な、ななな、なっ、何ですってぇーー!!!????」
「……」
便利屋を庇うための書類改竄の唯一の失敗する可能性。
それは、その発表を実際に見てた場合、改竄する瞬間も、効力がないことに気づいちまうってことだ。
事実、アコにはハッタリが効いたおかげで戦闘に持ち込めたが……さっきは何で話を合わせてくれたんだ?
「……なるほどな。ただ、そうするなら少し話は変わるな。順番としては、風紀委員会がアビドス自治区で民間人の建物ごと便利屋を襲い、お気に入りの店を壊されたことに怒った便利屋が抵抗。
その後、戦闘を収めるためにアビドスが、仕方なく参戦したってところだ。」
バレてしまったもんは仕方ない。
それなら、元のプランで行けばいい話だ。
相手が、ゲヘナ生だと主張したいのなら、それに合わせて、今回の件は全てゲヘナ内のいざこざが原因であり、アビドス自治区で暴れた風紀委員会とゲヘナ生に問題があるって風にしちまえばいい。
これは事実そのものだからな。
もし便利屋とアビドスがヤケに仲良さそうに見えたとしてもそれはたまたまだってことにできるしな。
「そう……改竄は認めるんだ」
「さっきお前も話合わせただろうが、共犯だぜ俺らは」
「……」
概ね、アコをこの場からいなくさせるためなんだろうがな。
とは言えだ、改竄した事実を利用したのはそっちも同じ。
自分で自分の首を絞めたかないだろう?
しかし厄介だな。アコを引かせて、自分が指揮と責任を受け継ぐように仕向けるとはな。
子供、いや組織の長として出来すぎてるんだよな。お前さん。
化粧で隠れちゃいるが、その目の下の隈は、そういった責任感によるものか?
ったく、組織や国に忠誠誓って何が面白いんだか、人生楽しめよと思う。
「うへ、こいつはまた何があったんだか。すごいことになってるじゃーん」
「重役出勤じゃねぇか、ホシノ」
ショットガンと盾を装備した、いつもの様子のホシノが、土煙の中から現れる。
しかし俺の視点を引き付けたのは、唐突に現れたホシノでもなく、そのホシノの登場に誰よりも驚いていたヒナの顔だった。
いや、ホシノの登場に驚くってのは俺の見間違いだったみたいだな。
その存在そのものか?
過去に何かあったのか、ゲヘナとアビドス……なにかしらの交流があったのだろうか。
『ほ、ホシノ先輩!?』
「ごめんごめん。ちょっと昼寝しててね〜、少し遅れちゃった」
嘘つけ、また癖が出てるぞ。
お前は、後輩や学校に危機があった時に絶対に手を抜いたりしない、セリカを護った時もそうだった。
なんなら今回みたいなことがあれば真っ先に駆けつけるようなそんな人間だろう?
なら、そんなお前でさえ断れない優先すべき何かがあったってことなんだろうな。
「昼寝ぇ!? こっちは色々大変だったのに! ゲヘナのやつらが……」
「でも、もう全員撃退した」
「まだ全員ではないですが……まあ大体は」
「ゲヘナの風紀委員会かあ……便利屋を追ってここまで来たの?」
「…………」
まじまじと観察している。
まるで過去の記憶と照らし合わせているかのような。
明らかな困惑と混乱がヒナの表情に浮かぶ。
「うーん、事情はよく分からないけど、対策委員会はこれで勢揃いだよ。ということで、あらためてやり合ってみる? 風紀委員長ちゃん?」
笑顔を浮かべてはいるが、どこか機嫌の悪そうなホシノはショットガンをすぐに撃てるように構えつつ、挑発的に言う。
あの様子から察するに余程嫌なことが起きたのだろうな。
ショットガンの握る手に明らかに力がこもっている。
それともまさか、自分が間に合わなかったとでも思ってるのか?
しかし、肝心のヒナは挑発に乗るような様子はない、それどころか牙が抜かれたようなそんな雰囲気すら感じる。
さっきまでの重圧はどこに行ったのかと問いたくなるような、そんな様子だ。
「……一年生の時とは随分と変わった、人違いじゃないかと思うくらいに」
「……ん?私のこと知ってるの?」
「情報部にいた頃、各自治区の要注意生徒たちをある程度把握してたから。特に小鳥遊ホシノ……あなたのことを忘れるはずがない。あの事件の後、アビドスを去ったと思ってたけど」
何かしら二つの学校で交流があったと思っていたのだがどうやら、ヒナが一方的に知っているだけの様だった。
思考が追いつき、纏まった様子で語る中に気になった言葉があった。
あの事件、か。中途半端にぼかしたが、続くアビドスを去ったという言葉、あのホシノがアビドスを去るほどの何かがあったのは間違いないのだろうが。
「……そうか、そういうことか……だからシャーレが……」
そんな情報を落としたヒナは納得した表情で呟く。
「まあいい、私も、戦うためにここに来たわけじゃないから。……イオリ、チナツ。撤収準備、帰るよ」
「えっ!?」
『帰るんですか!?』
あまりにもあっさりとそう言い放ったため、イオリやアヤネが聞き返してしまう始末である。
イオリに限っては、戦うのだと思って銃を構えかけていたというのに。
そうして、お互いの陣営に困惑が広がる中、ヒナは、銃を置き、堂々とした足取りで、俺たちに近づき、姿勢を正し、上半身を深く倒し、頭を下げた。
最敬礼での謝罪である。
「えっ?」
「頭を下げました……!?」
「事前通達無しでの無断兵力運用、そして他校の自治区で騒ぎを起こしたこと。このことについては私、空崎ヒナより、ゲヘナの風紀委員会の委員長として、アビドス廃校対策委員会に対して公式に謝罪する」
やられたと正直思ったさ。
これ以上こいつらを責めれば野暮なのは俺らだ。
自分の部下の後始末を一身に背負う、長として見るならこれ以上のない対応。
頭がキレるうえに実力があり、礼儀正しく、責任感も十分ある。
ここまで人間が出来たやつはそうはいないだろう。
特に俺が身を置いていたような裏社会であればなおのこと。
これで、学園のトップではないということは、ゲヘナ学園の生徒会長は余程の腕利きなんだろうな。出なきゃこいつが生徒会長をやっていてもおかしくないだろう。
「今後、ゲヘナの風紀委員会がここに無断で侵入することは無いと約束する。建造物や治療費についても、こちらで補償する。どうか許してほしい」
「委員長⋯⋯」
「ま、待って委員長!改竄してるならあの校則違反者たち……便利屋はどうするんだ!?」
時間を少しずらしただけで、発表自体はされている。
だから、あいつらはもうシャーレの一員なんだ。
と、説明しようとしたんだが、その前にヒナがイオリのことを睨み黙らせてしまった。
あえて訳するなら、これ以上面倒ごとを増やすな……ってところか?
「あ、う……」
「ほら、帰るよ」
そういって、ヒナは手を叩いて風紀委員会の大部隊を帰投させていく。
あれほどの軍勢を統率できるのは正しく彼女のカリスマあってのものだろう。
確か三年生だったか。来年からはどうするんだ?
色々疑問に思うことはあるが、あいつには言わなきゃならないことがある。
たとえ藪蛇だったとしてもな。
「?……シャーレの先生何か用?」
「あぁ、伝言を頼みたくてな」
「アコに対して?分かった聞くわ。」
「俺のことがそんなに欲しかったのなら、タイマンで勝負を仕掛けに来るんだな。それで俺が負けたのなら、好きにして構わねぇよ。って言っといてくれ、あと野暮かもしれねぇが……飼い主なら躾はしっかりしとけ」
少なくとも周りを巻き込むようなことはすんじゃねぇと釘を刺したかったんでな。
「……えぇ伝言承ったわ。ごめんなさい、うちのアコが……」
「気にすんな、少なくともお前さんは悪くない。リーダーとしてよくやってる」
「ありがとう……それで、私からも用があるんだけどいいかしら」
「なんだ?カイザーのことか?」
「えぇ、これはまだ、『万魔殿』も、ティーパーティーも知らない情報だけど。あなたには知らせておいた方が良いかもしれない。アビドスの捨てられた砂漠……あそこで、カイザーコーポレーションが何かを企んでる」
「アビドスの捨てられた……郊外の砂漠か」
「そう。本当なら、廃校予定のアビドスに教える義理はないのだけど……一応、ね」
そういってヒナの顔が綻ぶように微笑む。
「あの……次元先生……顔をじっと見られるのはそんなに……」
「あぁ、悪かったな。お前さん寝れてねぇな、化粧で隠してるみたいだが隈が取れちゃいない。仕事がきついなら連絡よこしな、手伝いに行く」
ついお節介をかけてしまった。
「そ、そう見えるかしら」
「昔から目が良くてな」
とは言えだ、こんな小さい子供がそんなになるまで頑張ることはねぇだろ。
子供の経験は大人になったら味わえないんだから。
「でも、いいのかしら、今度こそ捕まえてしまうかも」
「お前さんそういうこと出来ないタチだろ?それなら問題ねぇよ」
「そう、なら、一つだけいいかしら。今度私たちが民間の被害者に謝罪をする際に立ち会ってほしいのだけど」
自分の利益にしたり、今回の件を有耶無耶にするようなことをせずに、部下のフォローに使おうとするのは流石としかいえねぇな。
「はぁ……」
「どうしたの?先生」
「いや、お前さんを敵には回したくねぇなってつくづく思っただけだよ」
「そう、私も同感ね……それじゃ、また。次元先生」
キヴォトスにきて最も長い1日が終わった。
シャーレの一室に飾られる一日一惡の掛け軸。
長い遊びが終わればお片付けもね
次回 後始末
いつも拙作を楽しんでいただきありがとうございます!
UAが70000を超え、お気に入り件数も2000を超えました。
ほんの思い付きから始まったこの物語がここまで伸びるとは、この李白の目をもってしても見抜けなんだ……
最後に、感想、ここすき、評価等々お待ちしております。作者でした
今の話のタイトルが分かりにくいとの意見を得て変更するか否か
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例:殺し屋の矜持
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例:1-10
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例:1-10 殺し屋の矜持