新任教師『次元大介』   作:レイゴン

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2-3 後始末

 風紀委員会との大激闘があった夜。

 俺は、アビドスの街を散歩していた。

 時刻は、午前2時を指している。

 

「ふー、寒ぃな……」

 

 わざわざ、出かけたのは、ホシノの動向を確認するためだった。

 あいつはいつも昼間眠そうな雰囲気で過ごしている。

 俺の予想があってりゃぁ……やっぱな。

 

 俺の目線の先にはショットガンと盾を背負ったホシノの姿がある。

 いつもの目つきとは違う。まるで人殺しの目だ。

 建物の影から覗き見ているが、昼間の様子が嘘のようだな。

 

 こうやって毎晩、街をパトロールしてるってわけか。

 

「……そこにいるのは誰」

 

 っと、どうやらこっちに気づいたみたいだ。

 にしても、さすがの眼光だな。身震いしちまったよ、大人しく出たほうが安全だな。

 

「……先生?」

 

「こんばんは、ていうにはちと時間が遅すぎるか」

 

「うへ……もしかしてストーカーしてたの?こんな時間まで、趣味悪いねぇ?」

 

「たまたまだっての、俺はガキと恋愛する気はねぇよ」

 

 たまたま、ってのは嘘だけどな。

 

「パトロールか?毎晩。精が出るな」

 

「……もしかして気づいてたの?」

 

「伊達に長生きしてない」

 

「先生……少し話をしない?」

 

 いいぜと答えて、俺たちは並んで歩く。

 目的地もなく、ただブラブラと。

 

「先生、タバコ吸ってもいいよ」

 

「あ?お前らの前で吸ってるとこなんて見せたか?」

 

「ほら、アルちゃんとの決闘の時に吸ってたじゃん。普段私たちのために我慢してたんでしょ?」

 

「けっ、ありがとな」

 

 ガキに気を使われちまうとはな。

 俺は煙草を取り出し、咥えて火をつける。

 その様子を見ながらホシノは喋りだした。

 

「先生のことだから多分気が付いてると思うんだけど、私は大人が嫌いでさ。いつも騙して、信じられない。シロコちゃんが、先生を連れてきた時も、悪い大人だって思ってた。実際、勝手に先輩や、みんなで守ってきたものを賭けに使うし……普段だらしないし……泥棒だって言うし……でも、今日の先生を見てはっきりしたことがあるの」

 

 それは、ホシノの本心ってやつだった。

 こうして、後輩も、誰もいない夜だから。

 そうでないと、この子は仮面を外せない。

 

「先生は、本気で私たちのことを護ろうとしてくれてるってこと。私、正直ホッとしたんだ。先生は少なくとも、嘘をつくような人じゃないって。だから、ごめんなさい」

 

「謝ることでもねぇよ、お前さんの様子は来た時から分かってた。小鳥遊ホシノ。お前さんが昔何があったのか詳しくまでは知らねぇが、ある程度は調べてたんだ。だからお前さんの警戒は何も間違っちゃいない。そうでもしなきゃ守れなかったんだろ?ホシノ、お前は誰よりも頑張ってる。仕事人として俺が保証する」

 

 相手が腹の内見せたんだ、なら俺も同じような態度でいなきゃな。

 空に向かって吐く煙はすぐに溶けるように消えていく。

 

「そっか、先生全部わかってて、それでも接してくれてたの?」

 

「今の俺は、先生だからな」

 

「……そっか、ねぇ、先生」

 

「どうした」

 

 前に出たホシノは俺の正面に立ち、俺の顔を見る。

 その顔は年相応な少女の顔立ちで、その顔を不安な様相に染めている。

 

「私たちはさ、アビドスを守れるのかな……そんなこと出来るのかな……」

 

「……」

 

 それは、きっと彼女がずっと考えて、それでも見ないふりをし続け走り続けた不安そのものなのだろう。振りかえさせたのは俺だ。

 

「あ、あははは……ごめんね先生おじさん変なこと──「出来るかどうかで悩むやつはみんな棺の中に消えていった」……」

 

「俺たちの世界じゃいつだって選択肢は二つだ。やるか、やらないか」

 

 そういって、俺は煙草を吸い、また空に向かって吐き出す。

 

「……やっぱり先生は優しいよ、そんな傷だらけでさ」

 

「ロクな生き方をしてこなかっただけだ」

 

「あはは……私と一緒だね。ね、先生。もしも……そうもしもさ、私に何かあった時はさ。後輩たちを任せてもいい?」

 

「当たり前だ。生徒を守るのが先生らしいからな」

 

「そっか、ありがとう、先生」

 

 そういって、ホシノは駆け出していく。

 その背中を見ながら、俺は後悔していた。

 お前も、生徒の一人だからなと、そう言えなかったことを。

 

 

 

 

 

 午前9時、シャーレの前に一台のトラックが着いていた。

 そこから荷物が運ばれている。

 

「せ、先生……本当にいいのかしら?」

 

「リンに許可はとったんだ。今更ダメと言われても困るな」

 

 シャーレの空いているフロア、空いてはいたが整備はされてるようで、綺麗に保たれていた。

 そのフロアに次々と荷物が運ばれていく。

 運ばれてきた荷物はすべて便利屋68のものだった。

 あの戦いのあと、俺は、この都市一番の荷造り業者に頼んで引っ越しの手続きを済ませていた。ちと金はかかったが、金は使うためにあるんだからな。

 経費に落としておいた。

 そんなこんなで、今は新品のフロアで荷ほどきをしてるんだが。

 

「アル、ハルカ!てめぇらいい加減手伝え」

 

 アルは、窓からの景色で、ハルカは高級さ加減で固まっていた。

 

 かくいう俺も、シャーレに来たときは窓からの景色になれなさ過ぎて固まることがあったからな。

 とは言え、ここに来てから30分固まるにしては長すぎやしないか?

 

「アルちゃーん!この書道の残骸、燃えるゴミにしてもいいー?」

 

「……はっ!だ、だめよ!それはきっと、10年後くらいには、10億円の価値が付くんだから……!」

 

 そういって動き出した、アルがムツキから取り上げたそれは、どうやらアルが書いたもののようだ。一日一善の対義語ってつもりで書いたであろうそれは、随分な達筆で書かれている。

 

「アルが書いたのかそれ?」

 

「昔、書道の授業の宿題で書いたやつだよね~」

 

「そういうやつは紙とか使った墨も大事だったりするんだ、だからこれじゃあ精々数万ってとこだろうな。だが中々悪くねぇな、今度俺にも一筆書いてくれよアル先生?」

 

 軽く笑いながらそう話すと、照れたような仕草しながら仕方ないわねぇなどとつぶやいている。

 

「いやぁ~先生も罪な人だよね~ほんと、ってか、先生美術品とか興味あるの?」

 

 ニヤニヤした顔のムツキが俺の方を向きながら話しかけてくる。

 

「俺の相棒が泥棒でな、その関係で色々知ってるだけだ」

 

「あ、この前銀行強盗した時に変装した顔の人?」

 

「そういやあの場にいたんだったな、そいつだよ」

 

「へぇ、先生の相棒か、どんな人なの?」

 

 珍しくカヨコが俺に対して聞いてくる。まさかあぁ言う顔が好みなのか?

 

「女好き。そのうえよく騙される」

 

「うわ~、ロクでもないね?」

 

「全くだ、だけどな。誰よりも度胸のある漢だよあいつは」

 

 ムツキの返答に俺はそう返す。

 言ってる俺がこっぱずかしくなる。

 絶対にアイツの前じゃ言わねぇが、少なくとも俺はそう思っている。

 こればっかりは事実だ。

 そうして、ルパンとの出来事を話していると、スマホにメールが届く。

 アロナから、柴大将の入院した病院が分かったとの連絡と、今日謝罪しに行きたいと風紀委員会からの連絡だった。

 

「悪いが、俺は少し用が出来た。あとはてめぇらでやれるな?」

 

「えぇ、出来るけども、どこに行くのかしら?」

 

「大将の見舞いだ、入院先が分かったんでな」

 

「そう、なら、これ。大将さんに渡してくれないかしら?」

 

 そういって渡されたのはどこか見覚えのあるバックだった。

 

「おい、まさかこれ……」

 

「前に拾ったのよ、先生のおかげでお金の心配は減ったわ。だからこれを渡してくれないかしら?名前は言わないで頂戴、ただ……また食べに行くわ。貴方のラーメン、本当に美味しかったから。って」

 

 そういって押し付けられたそのバッグの中には1億の金が入っている。

 あの時捨てた金が、まさか……こいつらが拾ってたとはな。

 返すってのも、まぁこのカッコつけましたよって顔のアルを見てりゃ無理だしな。

 仕方ねぇ……

 

 

 

 そうして俺は、病院へと足を運んだ。

 アロナのバリアのおかげで致命的な傷は負ってないが、念の為検査入院をしてもらっていた。

 ちなみにだが、この際の費用は全額風紀委員会持ちだ。当然の罰だな。

 柴大将のいる病室の前に着くと、先に来ていたらしいセリカとアヤネの声が聞こえてくる。

 

「……!! そんな……でも、そういうことなら……。セリカちゃん、先に学校へ戻っていてください。私は確認したいことがあるので、ちょっと別のところに寄ってから行きます」

 

「ん、何のこと? よく分からないけど……私も一緒に行く!」

 

「分かりました。それでは大将、また来ます! お大事に!」

 

「大将、まだ引退とか考えないでよ! 分かった!?」

 

「お、おお……」

 

 なにやら、騒がしいが……恐らく、カイザーの土地だったということを明かしたんだろうな。だからこそ、アヤネはその範囲を調べに行こうとした……ってところだろう。

 昨日帰る前に言うべきだったな、ごたごたしてるうちに忘れちまっていた。

 しかし、セリカの熱量は流石だな。1アルバイトだとしてもあそこまでの熱量で働いて、応援してもらったんだ。大将も幸せ者だろうさ。

 

「行こう、セリカちゃん!」

 

「うん! どこに行くのか分かってないけど……って危なっ!?」

 

「前は見て歩けよ、セリカ」

 

 扉を開けた先にいた俺にぶつかりそうになったセリカは踏ん張って止まろうとし、後ろに倒れそうになる。

 尻もちを搗く前に、俺とアヤネに支えられて転ぶことはなかったが、焦りすぎってもんだろう。

 

「ごめん!先生!急いでるからまた後で!!」

 

 さっきコケかけたばっかなのに、また走って行きやがった。

 それよりも、調査の方を優先したか。正しい判断だとは思う。

 アビドスの自治区関係は基本ネットじゃなく紙などでの管理が基本らしいからな。

 特にカイザーはそうだった。だから、アロナにも頼めない。

 それなら、アヤネの方が適任だろうな。

 

「よぉ、大将怪我の具合は?」

 

「あぁ、先生。来てくれたのか、大丈夫だよ傷一つないしね」

 

「そうか……色々言いたいことはあるんだが……」

 

 アロナがホログラム上でぴょんぴょん胸を張りながらアピールしてくる。

 度々、俺がアロナと呼んでいたりしたときに周りの視線がヤケに刺さるから気になっていたのだが、どうやら、アロナの声を含めて何も見えも聞こえもしないようだ。

 つまり、この面白生物は誰にも見えていないらしい、どういう仕組みなのかは気になるが、今はいい。

 

「昨日の件で、風紀委員会が直接謝罪をしたいらしい。構わないか?」

 

「……そうかい……まぁどの道、店を畳む予定だったんだし、そこまで気にしなくてもいいんだけどな」

 

「嫌ってんなら、俺から断りをいれとくが……実際大将にはそうする権利はある」

 

「いや、それこそ失礼ってもんだ。それで、先生、いつ来るんだ?」

 

「今からだな」

 

 柴大将の口が開いた状態で固まる。

 謝る場合はやらかした翌日にするのが筋ってもんだが、あぁいう大組織でそういうことができるのは素直に感心する。

 

「そいつは……また、随分と急なもんだな」

 

「同感だな。まぁ謝るのは早い方がいいもんだろうさ」

 

 しかし、ここまで急なのは、ヒナが忙しいというせいもあるだろう。

 カヨコ曰く、ゲヘナの風紀委員会は完全にヒナのワンマンチームらしい。

 ヒナ以外は大したことない……か。

 ヒナ以外とは確かに戦ったが同感だな。

 ヒナに勝っているのは精々数が多い程度か……

 軍として、確かに悪くはないが、近接格闘、射撃……何より自己判断能力が酷すぎる。

 あれじゃ、数も形無しってもんだ。

 

『先生、風紀委員会の皆さんが待合室に到着したみたいです』

 

「来たみたいだ、ちょいと出迎えてくる」

 

 そういって俺はエレベーターに乗り込む。

 ゲヘナ最強……か。最強ってのは厄介な言葉だ、なまじ取り消せないうえに仕事まで押し付けられちまう。

 ホシノしかり、ヒナしかり……強すぎるのも考えものだな。

 

 待合室に着くと居たのは、ヒナとアコとイオリの三名だった。

 

「大将は謝罪を受け入れてくれるみたいだったぜ?」

 

「……よかった……」

 

「しかし、アコはともかくとして、ヒナ。お前さん忙しいだろうに良く空けれたな」

 

「昨日先生が言ってたでしょ、飼い主の責任を果たしに来たの。」

 

「真面目だな、お前さんは」

 

 そういって、ヒナは少し息をつく。

 大前提として受け入れられない、そういうこともあったのだろうな。

 そうして、四人で部屋の前に着く。

 

 アコの様子を見るにこってりとヒナに説教をされた後なのだろうな。

 顔を下に向けながらしんみりとしていた。

 

「アコ、お前さんは今回の件のケジメを付けに来たんだ。だから情けない姿は見せるなよ」

 

 そういって、三人を、病室の中に入れる。

 あくまでも俺は立会人だ。だから余計な話はしないし、する必要もない。

 賠償金の話などを含めて色々と話はまとまったようだが、その中でも一際大きな反応があったのは、その賠償金の話だろう。

 なんせ、柴大将がそれを断ったんだからな。

 

「いずれ起きたことなんだ。だからこんなに貰っちまってもな。こっちが悪いってもんだ」

 

「で、でも。それがあれば再建できるんですよ!?……お店を閉めなくても……」

 

「まぁ、アビドスには、色々とあんのさ。だからお嬢さんたちも気にすんなよ?な」

 

 その慰めるような言葉を聞いたアコとイオリの顔が悲痛な表情になる。

 事の意味をようやく、本当の意味で実感できたのかもしれない。

 それは、人として正しいものだ。その感情があるだけ彼女らは真っ当な人間なわけだからな。

 あの子たちもまた、生徒でまだまだ学ぶ途中の人間なんだと、俺も再認識させられたよ。

 

 ただ、大将、それじゃ困るんだ。きっと大将のことだ、必要以上は受け取れないって思ってるんだろうがな。

 

「柴大将」

 

「どうした?先生。姿勢正して」

 

 彼女らには反省の意思がある。

 しでかしてしまったことを悔やんでいるのなら、それの支えになってやるのが大人ってもんだ。

 それに、約束を果たせてないしな。

 

「これは、預かりもんだ。伝言と一緒にな」

 

 そういって俺はバッグを渡し、メッセージを流し始める。

 念のため、アロナに録音させといて正解だったぜ。

 

『また食べに行くわ。貴方のラーメン、本当に美味しかったから。』

 

「大将、俺ぁまだ、約束覚えてるからな? そん時になったら一緒に同じ酒を飲もうぜ」

 

「……」

 

 大将からの返事はない。

 そして、待つ必要もない。

 やり方は見せた、あとはお前らがどうするか決めな。

 

 俺のやり方は乱暴だからな。

 

 俺は席を立って、扉に向かう。

 これ以上は俺がいる必要もねぇだろう。

 

 なにやら、アコとイオリが必死に目配せをしてくる。

 あぁ、気まずいからここにいてほしいってところか?

 ヒナがいるとは言え、やらかした自分たちを置いていくのは流石にしんどいものがあるって感じか。

 柴大将はそんな怖い人じゃないんだがな……

 

「……アコ」

 

 俺がそう呼ぶと、アコは助けをくれるのかと俺の方を見つめる。

 

「お前さんには前々から言いたかったんだが、レディなら肌を出すべき場所は考えるべきだぜ?そういう趣味だとしたら悪かったな」

 

「くっ……ふふふ」

 

「え、は、なっ!?!?!?」

 

 アコが何か言い返す前に、病室をあとにする。

 背中の方から何やら大きな声が聞こえるが……まぁ気のせいだろうな。

 

 そうして俺は、煙草に火をつけ、アビドスの方へと足を運んだ。

 




アビドスで待ち受けていたのは、なにやらギスギスした雰囲気のホシノ達。
何があったかは分からないが、総じてろくでもなさそうなのは間違いない。
そして明かされる先代生徒会長のお話。

次回 砂漠へ行こう

いつもいつも、感想と評価誠にありがとうございます。
最近は少しペースが落ちつつあるので、一日一本投稿出来たらなぁと考えております。
もしくは気分転換に日常回でも書きましょうかね?
悩むこの頃です。

最後に、評価、感想、ここすき、良ければよろしくお願いいたします!

今の話のタイトルが分かりにくいとの意見を得て変更するか否か

  • 例:殺し屋の矜持
  • 例:1-10
  • 例:1-10 殺し屋の矜持
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