新任教師『次元大介』   作:レイゴン

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2-7 逆転劇

「嘘、何でっ……どうしてっ!!!!!??」

 

 早朝の校舎にアヤネの声が響き渡る。

 

 

 

『アビドス対策委員会のみんなへ

 

 

 まずは、こうやって手紙でお別れの挨拶をすることになったこと、許してほしい。おじさんにはこういう、古いやり方が性に合っててさ。

 

 みんなには、ずっと話してなかったことがあって。

 

 実は私、昔からずっとスカウトを受けてたんだ。

 

 カイザーPMCの傭兵として働く、その代わりにアビドスが背負っている借金の大半を肩代わりする、そういう話でね。

 

 ……うへ、中々良い条件だと思わないかな?

 おじさんこう見えて、実は結構能力を買われててさ。

 

 借金のことは、私がどうにかする。すぐに全部を解決はできないけど、まずはこれでそれなりに負担が減ると思う。

 

 ブラックマーケットでは先生の前で偉そうに言ったくせに、あの言葉を守れなくてごめんね。

 

 これで、対策委員会も、少しは楽になるはず。

 

 アビドス高校からも、キヴォトスからも離れることになったけど、私のことは気にしないで。

 

 勝手なことをしてごめんね。

 

 でもこれは全部、私が責任を取るべきこと。

 

 私は、アビドスの最後の生徒会だから。

 

 だから、ここでお別れ。

 

 シロコちゃん、ノノミちゃん、セリカちゃん、アヤネちゃん。

 

 最後にこんな先輩から最後のお願い、私たちの学校を守ってほしいの。

 

 砂だらけで寂れちゃったこんな場所だけど……私にとって、唯一意味のある場所だから。

 

 それから、もしこの先どこかで万が一、敵として相対することになったら。

 

 その時は、私のヘイローを……壊して。

 

 最後まで頼りない先輩でごめんね。

 

 じゃあね。

 

 次元先生へ

 

 言いたいことは、もういつかの夜に言ったからさ。

 

 だから、そんな書くこともないやって思ってさ。

 

 だから、私からのお願い、私の後輩たちをよろしくお願いします。

 

 特にシロコちゃんは良い子だけど、誰かがそばにいないと、どうなっちゃうか分からない子だから、……だからあの時みたいに先生が叱ってあげてほしいな。

 

 シロコちゃん、先生の言うことは素直に聞いてたからさ。

 

 あ、でもあんまり拳骨落とすのは止めてあげてね?

 

 シロコちゃんあんな感じだけど、意外と痛がりだからさ。

 

 私、信じてるからね。』

 

 独白に近い内容だった。

 

 ご丁寧に俺への手紙も書いて、あの時引き止めなければそのまま、一人で戦うつもりだったんだろうな。

 

「何なの!? あれだけ偉そうに話しておいて! 切羽詰まったら何でもしちゃうって、自分で分かってたくせにっ! こんなの、受け入れられるわけないじゃない!」

 

「……早く助けないと。私が行く。対策委員会に迷惑がかかるし、私一人で──」

 

「落ち着いてください、今はまず足並みをそろえないと……」

 

 けたたましい爆発音が、アビドス校舎を襲う。

 ホシノの行方を案じる、そんな暇すらもなく。

 子供がどう思うと知ったことではないと言わんばかりに、大人の都合と悪意でそれは進行する。

 

 侵略が、街を襲う。

 

「爆発……!?」

 

「近いです、場所は……っ!?……そ、そんな、市内……!?」

 

 アビドス市街地が火の海に包まれる。

 ホシノがいなくなったことを知ったカイザーPMCが動き出し、自らの手でアビドスが所有していた最後の土地を奪いに来たのだろう。

 

 予想通りの展開だ。

 

 アロナに市街地のカメラをハッキングしてもらい、それをプロジェクターに映し出す。

 

『行け、行け!』

 

『進め!』

 

『うわあぁぁぁっ!?』

 

 数少ない民間人の悲鳴も聞こえてくる、土地や建物、そこに住む人も何もかも無差別に攻撃を行っているようだった。

 

『……この自治区にはもう、退去命令が下った』

 

『ふふふっ、ふふふふふふふ…………! ついに、条件は全てクリアした。最後の生徒会がアビドスを退学……これで実質的に、アビドス高等学校は消えた!!』

 

 当然、あいつの声も聞こえてきた。

 勝利の味しか知らないまま大きくなった小僧の声だ。

 

 自分の勝ちを確信した何よりもの証拠だろう。

 

「お、応戦しないとです! 何はともあれ、アビドスが攻撃されているのを見過ごすわけには……!」

 

「考えてる時間が惜しい、すぐに行こう!」

 

「で、ですが、私たちで撃退するにはあまりにも数が……いえ、だとしても、とにかくまずは、市民の皆さんを避難させましょう!……こんな大規模な攻撃……一体どうして、急に……」

 

 ホシノがいない中でも、彼女らは動き始める。

 例えいなかったとしても、どうすべきなのかは、自分達の先輩の背中を見てきたから分かるのだろう。

 

 受け継がれるべきものってのは確かにあると俺はそう思う。

 

「対策委員会を発──がッ……」

 

 ドアを開け、対策委員会の教室に入り込もうとした兵士の眉間をマグナムで撃ち抜き、沈黙させる。

 連絡される前に黙らせられてよかった。

「こんなところまで、斥候が……」

 

「アビドス高校周辺に、カイザーPMCの兵を多数確認! すでに校内にもかなり侵入されています!」

 

「とりあえず、学校に侵入したやつからやっつけよう! アヤネちゃん、先生、お願い!」

 

「はい!これより、学校に侵入した敵を撃退します! 校内の安全を確保した後は、市民の皆さんの避難を!」

 

 俺は、アヤネの護衛に回り、校舎内の敵を排除していく。

 

 一つ気になったことがあるとすれば、俺の弾丸はこいつらの装甲を貫通し、頭に空洞が空いているにも関わらず、シロコやノノミが発射する弾丸は、貫通するのではなく、あくまでも昏倒程度で収まっていることだ。

 

 火薬の量かとも思ったが、ノノミの使うM134に使われているNATO弾は俺の.357マグナム弾よりも強いはずなんだが……

 

 校舎内の敵の排除が済めば、次はその周りだ。

 前にシャーレに戻った時に色々玩具をアビドスに、運んできていた。

 

 だから、便利屋たちが来た時とは違い、今回は本気でこいつらを殺しにいけるってもんだ。

 校舎の屋上から構えたそれは、前に使ったKar98kよりもデカく重い奴だ。

 

 対戦車ライフル、シモノフPTRS1941。

 丁度戦車も近づいてきていたからな。Kar98kと合わせて、他のメンバーの援護を行う。

 戦車やヘリを落とせるのは俺と、ノノミぐらいだからな。

 

 そうして、俺たちは校舎周りの敵を全滅させ、集合したのち、市街地の方へと突き進む。

 

 カイザーPMCの兵士たちは数こそ多いが、一機ずつ見れば見た目ほどの脅威は感じさせない。

 何よりも、この2年間でヘルメット団を相手にひたすら実戦訓練を積み続けた四人の前には、並大抵の軍では相手にすらならないだろう。

 

 そうして、俺たちは市街地へとたどり着く。

 

 まるで自分がこの場の王であるかのように、多くの兵士たちを控えさせて、カイザーPMC理事が出迎える。

 機械である奴に目なんてものはないが、敢えて説明するなら、薄汚いネズミを見るかのように見下した視線で、俺たちのことを見ている。

 

「ふむ。学校まで出向こうと思ったのだが、お出迎えとは感心するな」

 

 一歩一歩、この時を待ち焦がれていたかのように。

 一歩一歩、前へと踏みしめながら。

 理事は、ゆっくりと近づき、話しかけてくる。

 パーティの主役は出迎えるものだろ?とでも言ってみようかと思ったんだが、変に喋って朝から黙って、演技をしているこの状況を崩しでもすれば、昨日送り出したホシノに顔が立たないってもんだ。

 

 それにこれからやろうとしてることを思えば、こいつには話させていた方が都合がいい。

 俺は、ズボンのポケットに入れた端末を触り、アロナに合図を送る。

 

「……これは何の真似ですか? 企業が街を攻撃するなんて……いくらあなたたちが土地の所有者だったとしても、そんな権利は無いはずです!」

 

『それに、学校はまだ私たちアビドスのものです!進攻は明白な不法行為!連邦生徒会に通報しますよ!』

 

「スカウトなんて、最初から嘘だったってこと?……いや、それよりもホシノ先輩はどこ?」

 

「この悪党め……ホシノ先輩を返して!」

 

 ノノミ、アヤネ、シロコ、セリカが矢継ぎ早に理事を責め立てるが、肝心の言われている本人はどこ吹く風で、それを聞き流し、

 

「……くくくっ、何を言ってるのやら」

 

 そう、嘲笑した。

 とぼけたような様相だったが、あれはただ単純に彼女らの言葉を聞いて、芸人のくだらない発言を聞いているのと同じように笑っているだけだ。

 

 ホシノが取引をしているのは、黒服だ。

 つまりは、こいつ自身はホシノがどこに行ったのかは知らないのだろう。

 俺自身も知らないのが、何よりもの問題なのだが……

 今朝の時点までは追えていたが、ホシノの端末から送られてくる位置情報が途絶えてしまっていた。

 アイツは、誰よりも強い。だからこそ信頼して送り出したわけだが……正直に言えば、俺は少しだけ焦っている。

 だが、今この瞬間だけは、目の前のクソ野郎に意識を向けなきゃいけない。

 

 その理事は、当然のように対策委員会メンバーの言葉を無視して、

 

「連邦生徒会に通報だと?面白いことを言うじゃないか、今すぐにでもやってみたらどうだ?」

 

 などと言ってその手を大きく広げる。

 自分が世界の頂点だとでも言わんばかりの傲慢さ。

 自分が無敵だとでも思っているかのような蒙昧さ。

 

 自分がどこに向けてその言葉を話しているのか、まだ気づいていないみたいだな。

 

「だが、君たちはこの状況について、今まで何度も何度も連邦生徒会に嘆願してきたのだろう?くくっ……それで?一度でも動いてくれたことがあったのか?」

 

「…………」

 

 誰からの返事もないことに満足し、言葉を続ける。

 

「そうだ、無かったはずだ。何せ連邦生徒会の猿たちは、今動けないからな。いや、連邦生徒会共でなくてもいい。今までどこか他の学園が、一度でも君達のことを助けてくれたことはあったのか?」

 

 アビドスは今まで誰にも救われてこなかったと俺は聞いている。

 見て見ぬふりをされ、気づかれもせず、昔所属していた生徒にすら、見放された。

 それが、このアビドスだ。

 

「……そろそろ馬鹿でも分かっただろう? 誰一人として、君たちに手を差し伸べる者はいない。そして、アビドスの最後の生徒会メンバー、副委員長の小鳥遊ホシノが退学した。アビドスの生徒会は、もう存在しない。君たちはもう、何者でもないのだよ」

 

「…………!」

 

「公的な部活も、委員会も、生徒会も、自治区すらも無いアビドスは、学園都市の学校として自立・存続が不可能だと判断するしかあるまい?

 ──やれやれ、仕方がないな、この自治区の主人である我がカイザーコーポレーションが、あの学校を引き受けるとしよう。そうだな、新しい学校の名前は『カイザー職業訓練学校』にでもしようか」

 

 アビドスの現状を見て、さぞ愉快なのだろう。

 声色でハッキリと分かる。

 悦に浸かり、愉悦極まりないと、世界は俺中心に回っているとでも言いたげな、そんな声だった。

 好き勝手言いやがる。

 アイツはもう、救えねぇ外道だってことがハッキリと分かった。

 

「え……? な、何を言ってるの……!? 生徒会が無くても、アビドスには対策委員会がある! 私たちがまだいるのに、そんな言い分が通じるはずないでしょ!」

 

『…………それは』

 

 セリカの主張は正しいと思う、一点を除けばな。

 この侵略行為は紛れもなく違法そのものだ。

 もし仮にあの連邦生徒会にアイツのスパイがいたとしても、この行為はどうやったって犯罪になるだろうな。

 さっきも言ったが、一点だけ。

 もし、アビドス廃校対策委員会が、本当に認めてられていたらな。

 

「…………アヤネちゃん?」

 

『対策委員会は、公式に許可を受けている委員会じゃない……』

 

「…………えっ?」

 

『対策委員会が出来た時には、もうアビドスには生徒会が無かったから……』

 

「え、えっ……!?」

 

 この反応を見るに、どうやら、アヤネしか気づいていなかったようだ。

 しかも、そのアヤネですら、この問答の中でな。

 まさかだと思うが、ホシノ……話していなかったのか?

 取り戻したら、また個人面談だな。

 

「そうだ。所詮非公認の委員会モドキ、正式な書類の承認も下りていない。つまり、君たちの存在を示すものは何も無いのだよ」

 

 俺は、このキヴォトスでの学園の在り方を国と政府で例えたりするが、今の状況で言えば、政府のいない空っぽの国。そこに誰が住んでいようと知ったことではない。

 と、カイザーは思っているのだろうな。

 

「だが、喜べ諸君。アビドス高等学校が無くなれば、晴れて君たちはあの借金地獄から解放されるのだからな」

 

 自分で貸したくせに良くもまぁ借金地獄だと言えるもんだ。

 今までの二人での散歩と、今朝の手紙が対策委員会にとっての、俺たちにとっての答えだ。

 ホシノは、学校が無くなることを望んじゃいない。

 借金地獄だとしても楽な道ではなく、茨の道を歩むことをあいつは選び、後ろを歩く四人もそれについていくことを選んだ。

 なら、先生としての俺が選ぶべき選択は一つだけだ。

 

 ホシノ、俺たちの作戦は上手くいったようだぜ?

 

 この作戦は、今朝の手紙も含めて成功の条件の一つだった。

 アイツの主張は、ホシノが退学したことで、アビドス高等学校に認可された正式な委員会が無くなり、空っぽの浮いた土地を合法的にカイザーのものにできる、というものだ。

 その程度の条件で向こうは勝ちを確信したのだから。

 

 やるなら、完全勝利だ。あいつは絶望の顔をしたこいつらを目の前にして、確実に余計な口を滑らせると思っていた。

 なんせ、誰も見ていないと思い込んでいるのだからな。

 

「そんな、そんなことになったら、今までの私たちの努力が……」

 

「…………ほう、まさか本気だったのか?本気で何百年もかけて、借金を返済するつもりだったと?」

 

 理事は目の前の叩いたら鳴る玩具に夢中なようだ。

 俺の生徒をコケにしたんだ、その代金は高く付くぞ。

 

 俺は、ポケットの中の端末から彼女たちに合図を送る。

 

 ホログラムで俺にしか見えないアロナとアイコンタクトをし、周りの敵の位置を情報として検索を入れる。

 

 つくづくアロナには助けられてばかりだ。

 こういうハイテクなものは嫌いだったんだがな。

 俺はあの頼られている時のアロナの表情に弱いようだ。

 

 だが、まぁ俺が少し恥を掻けば、アイツの顔を変えられるのだからな。

 安い買い物だ。

 

「これは驚きだなぁ。てっきり、最後に諦める時『でも私たちは頑張ったから』とでも言って、自分を慰める言い訳をするために、ほどほどに最低限頑張っているのだと思っていたが……くくくっ、一体君たちは、どうしてあんなに無価値な努力をしていたんだ?何のために?」

 

「……っ!あんた、それ以上言ったら……!」

 

「撃つよ」

 

 今までの戦いのやり方、総復習だ。

 風紀委員会との戦いでもやった盗聴に加えて、それの応用。

 ダミーと本物を疎らに流し、指揮系統を動けなくさせる。

 

「で、ですが……」

 

『──今ここで戦って、何かが変わるんでしょうか?』

 

「アヤネちゃん!?」

 

『今も、すごい数の兵力がこちらに向かって来ています……。たとえ、戦って勝てたとしても……その後はどうすれば……? 学校が無くなったら、もう戦う意味がありません。学校をどうにか取り戻せたとしても、私たちにはまだ、大きな借金が残ったまま……』

 

 指揮の本部急襲は、アイツに任せればいい。

 お得意の技で、一瞬で『恐怖』に落とせるだろう。

 事前に立てた作戦を再度連絡。

 

 悪いが、カイザーお前さんがここで待ち構えることまで、既に作戦通りだ。

 

『取引された土地だって戻ってきません。何より、ホシノ先輩もいない、生徒会も無い、こんな状態で……私たちみたいな非公認の委員会なんかに、これ以上、一体何が……』

 

 ここに来た最初の日、ユウカが言っていたことを思い出す。

 

 ──先生の活躍はキヴォトス全域に広がるでしょう。すぐにSNSで話題になってしまうかもしれませんね?

 

 昔、ヒトログって名前のAIだか何だかに苦しめられたことがあったが、まさかこういう形でその経験を生かすことになるとは思わなかったがな。

 アロナに合図を送った最初から今まで、ずっとこの監視カメラの映像と録音をSNSとリンへ送り続けている。

 

『どうして、どうして私たちだけ、こんな……ホシノ先輩……私たち、どうすれば……』

 

 爆発音が、アヤネの声を掻き消して、俺がキヴォトスに来てから一番派手な爆発を見届ける。

 北の方からだった。あのあたりに爆弾を仕掛けた人物を思い出し、俺は顔に手を当てる。

 俺は、まだ始めていいとは言っちゃいないんだがな。

 どうやら、アヤネの泣き声が、彼女たちの……俺がこの街で出会った最初のパートナーたちの逆鱗に触れたようだった。

 

 幾分か予定は早倒しだが、あのカイザーの顔を見ればもう奴にジョーカーはなさそうだ。

 

「なっ!? き、北の方で大きな爆発を確認!」

 

「合流予定のブラボー小隊が巻き込まれて──!」

 

「何!?」

 

 小気味良く爆発は連鎖し、その爆発で誘爆した爆弾がまた別の爆弾へ。

 あの夜遅い時間に連絡をしたにも関わらず、随分と景気よく爆弾を仕掛けたようだ。

 

 宵越しの銭は持たないなんて言葉があるが、まさかあいつらこの前の報酬分も含めてシャーレにあった爆薬全部使ったんじゃねぇだろうな……

 

「東の方でも確認!指揮連絡本部に通信取れません!!!合流予定だったマイク小隊ベータ小隊諸共、地雷により壊滅状態です!!!」

 

「何が起きている!? アビドスの連中は、ここにいるので全員のはず──ぐぁっ!?」

 

 爆発で飛んできた瓦礫が理事に直撃し、近くの壁へと吹き飛ばされる。

 

 こりゃ傑作だ、あぁ、お前さんは最高にアウトローだぜ。

 

「全く……大人しく聞いていれば、何を泣き言ばっかり言ってるのかしら?」

 

 高いハイヒールの音を立てながら、その後ろに三人の人影を従えて、爆煙の中を歩み進める一人の人影が見える。

 堂々と。

 自分のあるがままに。

 己が歩む道に迷いがないと姿で見せるように。

 ゆっくりと、こちらに向かってくる。

 

「目には目を、歯には歯を。無慈悲に、孤高に、我が道の如く魔境を行く……それが、大泥棒ルパン三世率いる、あなたたち覆面水着団のモットーじゃなかったの?」

 

『……あ、あなたは!?』

 

 便利屋68の社長、そしてシャーレ秘密部隊のリーダー。

 陸八魔アルが煙を晴らしながら現れる。

 

 お前さん、そんな顔が出来たんだな。

 怒りやほんの少しの失望を混ぜたその表情は、彼女の目指すハードボイルドなアウトローとやらに相応しいものだった。

 尤も、俺は似合わないとは思ってるんだが、言わぬが花だろう。

 

 その堂々とした立ち振る舞いに、対策委員会たちは見つめた状態で動きを止める。

 

「何をすればいいのか分からない、どうすればいいのかも分からない。やる事なす事、全部失敗に終わる。ここを潜り抜けたところで、この先にも逆境と苦難しかない……」

 

 そこで、アルは大きく息を吸い込み、怒りを込めて、言い放つ。

 

「だから何なのよっっ!!!!!!」

 

『え、えっ……?』

 

「仲間が……友達が危機に瀕してるんでしょう!!それなのに、くっだらないことばっかり考えて!!このまま全部何もかも奪われて!それで貴女達、納得できるわけ!?

 

 私が好きだった覆面水着団は、そんな情けない集団だったの!?」

 

 なるほどな。これがアルのカリスマか。

 戦いにおいて、銃や作戦、それらと同程度大事だと思っている要素。

 それが士気ってやつだ。

 アルの厳しい叱咤には、それと同じくらい、いやそれ以上に奮い立たせ立ち向かわせる力があった。

 

 あのハルカ、ムツキ、カヨコのようなメンバーを束ねていられるのも、ヒナのいない風紀委員会と互角以上に戦えるのもこのカリスマの影響がデカいのだろうな。

 

 ……お前ら、持ち場違うよな?

 狙撃スポットの制圧予定のハルカに、後方支援のはずのアルに、部隊かく乱予定のムツキに、司令塔奪取……いや壊滅させてから来たのかカヨコ……

 

 まぁ、居ても立っても居られなかったってところか。

 こいつららしいし、そのらしさは消しちゃならねぇもんだからな。

 

「いやいや、アルちゃんその辺で勘弁してあげなよ。メガネっ娘ちゃんは繊細なんだから、こういう時もあるって」

 

 まぁまぁと息巻くアルを宥めながら、ムツキがアヤネに手を振っている。

 

『ど、どうしてあなたたちが……!?』

 

「あ、やっぱり〜。先生言ってないんだ?悪い人なんだ~?」

 

 ムツキが揶揄うように口に手を当てながら笑う。

 何かを察したらしく、対策委員会たちの視線が集まる。

 覚悟はしていたが……痛いな。

 

「……作戦のためだからな。それにやる気も出るだろ?」

 

「あはっ……まぁそれはそうだね〜。殺る気は出たねっ。ほんと……私の可愛いメガネっ娘ちゃんを泣かせた罪は重いよ?だからさ、こうなったらもう……ぶっ殺すしかないよねっ!!!」

 

「ふふっ、ふふふふふ……準備はできています、アル様、次元先生。仕込んだ爆弾もまだまだたくさんありますので……」

 

「はぁ、ごめん。先生、私も聞いてたら少しイラついちゃって、そのままGOサインだしちゃった」

 

「お前さんが出したのかよ。まぁ、ある程度予想はしていた、問題はない」

 

 ここまで話した辺りで、瓦礫に埋もれていた理事が目を覚ましたようで、瓦礫をどかしながら怒りの声を上げた。

 頭にぶつかったように見えたんだがな、まぁあれで死なれても困るからよかったと感謝しておこう。

 

「巫山戯るのも大概にしろ!!シャーレ!!!貴様ぁ……こんなことしてタダで済むと思っているのか!!!??貴様のやった行いは、いくら超法規的機関と言えど越権行為も甚だしいぞ!!」

 

 化けの皮がはがれたようで、随分と頭に血が……機械だからオイルなのか?まぁ、どちらにせよ、余程お怒りのようだな。

 

「どの口が言ってるのやら。だが、言ってることは正しいな、確かお前さんの主張は、アビドス生徒会がいなくなったことで、誰も管理する奴らがいないこの自治区をカイザーが代わりに管理するってことだったな?」

 

「あぁ!貴様分かっていてやったのか!?学生でもあるまい!!この罪、正式に連邦生徒会に抗議をさせて「対策委員会が本当に非公認だったらの話だろ?」……何を言っている?」

 

「いや、悪いな。アビドス廃校対策委員会は全員の署名の元、昨日付けで連邦生徒会に認められたんだ。必要なら連邦生徒会長代行でも呼んでやろうか?」

 

『……え……えええっ!?』

 

「な、なにを出鱈目なことを……!!そ、そのようなミス私がするわけが!?」

 

「全くだよな。学生でもあるまいし。ほんと、お前さん致命的だぜ?……あぁ余談だが、昨晩から今朝にかけてキヴォトス全土にネットワークの障害が起きたらしいな。お陰様で、更新が数時間ほど遅れてるらしいが……まぁ、それ以外のことにお熱だったお前さんにとっちゃぁ、大した問題でもねぇな?」

 

「きさ、ま……!」

 

「あと、ついでにもう一つ」

 

「まだ何かあるのか!!」

 

「最初から今までのお前さんの言動全て、SNSに配信させてもらった。ただなぁ、数時間の遅れがあるからな。今はまだ、問題にはならねぇよ。よかったな?」

 

 そこまで言ったタイミングで、理事は俯き震えている。

 怒りでだろうな。

 慣れない煽りではあるが、アイツには口で言い負かされたんでな。

 散々やられた返しと同時に、お前は社会的にあと数時間後に死ぬってことを知らせる。

 

「……ちょっと待って!先生!申請書は!?私そんなの書いた覚えないんだけど!?」

 

 セリカが、俺のスーツを引っ張って揺らしながら話す。

 

「いや、書いただろ?昨日の朝に、おじさん寝ぼけて別の紙をかぶせてたかもな?」

 

「……あ、もしかしてあれのこと!?」

 

「……なんでそんなことを……」

 

 ノノミからの視線が痛いが……そればっかりはまだ言えない。

 完全な俺の恨みもあるからだ。

 

 破壊された大将の店の件もホシノがあそこまで抱え込んだのも、元を正せばアイツの仕業だからだ。

 だから、俺は俺がやれる最大限の手を尽くした、暗殺が手っ取り早かったが……先生という職業な以上、俺は手を必要以上に汚すわけにもいかない。

 

 何よりそれはシロコにやめてほしいと言われてしまっていたからな。

 

 みみっちい真似ではあるが、それでしか倒せないほどにこいつは用意周到に準備をし続けていた。

 

「私が……この私がそんな……あり得ん……そんな古典的な使い古された陳腐な作戦の見落としなど……認められるはずが」

 

「お前さんは事実、その古典的な手でやられたんだよ。仕事ってのはな。最後まで集中するんじゃねぇ……最後こそ集中するんだ。分かったか?小僧」

 

「老いぼれた……コソ泥風情が!!!来い!ゴリアテ!!!」

 

 そう叫んだ理事は巨大な兵器を呼び寄せ、それに乗り込んだ。

 本来なら絶体絶命ってものなんだろうが……そういったデカブツとやりあうのは初めてじゃないんでな。

 

「便利屋68、やるぞ」

 

 全員が銃口を向ける。

 

「えぇ!仕事はスマートに最後まできっちりとやり遂げるわ!」

 




反撃の狼煙はあげられた
依然として通信の途絶えたホシノ。
彼女の居場所はどこに。

次回 黒服問答


今日(03/22)に気が付いたことなのですが……この作品、二次のランキング週間と月間で12位と13位を取ってたんですね……びっくりしましたよ……ほんと皆様のおかげでございます。びっくりすぎて語彙力なくなりましたからね……

ほんの思い付きから始まったこの物語も、第一章の終盤まで来ました!
大人のカードでお買い物したのは何なのか。なぜやたら先生の移動が速いのか……実はここ繋がっていたり?

最後に、評価、感想、ここすきよろしくお願いいたします!

今の話のタイトルが分かりにくいとの意見を得て変更するか否か

  • 例:殺し屋の矜持
  • 例:1-10
  • 例:1-10 殺し屋の矜持
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