新任教師『次元大介』   作:レイゴン

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2-10 暁のホルスは誰の手に

『よし、全員通話は繋いだな?これから作戦内容の伝達を行う』

 

 通信回線を着けて、今回の作戦に関わる全員に最後の作戦連絡を行う。

 

『はーい、先生聞こえてるよ~!』

 

『こちらも聞こえているわ』

 

 無線からムツキとヒナの声が聞こえてくる。

 

『よし、今回の作戦は風紀委員会、便利屋68、アビドス廃校対策委員会の三部隊での合同作戦だ。とは言え、それぞれの部隊が干渉することはほぼないと思ってもらって構わない。先陣は俺たち対策委員会が引き受ける。突入後、ヒナ率いる風紀委員会の部隊が基地内の殲滅を担ってもらう。便利屋68はそのアシストに回れ』

 

『えぇ分かったわ、先生!任せて頂戴!』

 

『相手の主力戦車や武装ヘリ含む戦略兵器のデータと弱点はそれぞれ配布しておく、必要ねぇかもしれねぇが一応目を通しておけ。

 仮にホシノ奪還に失敗した場合は、信号を送る。それを確認次第即座に便利屋並びに風紀委員会は撤退を開始しろ、いいな?』

 

 万が一に備えて作戦は考えるべきだ、当然失敗する気は微塵もないが……犠牲は最小限にしたいからな。

 通信を切り、準備に取り掛かる。

 

「アヤネ、お前さんはどうする」

 

「……私はヘリに乗って援護に回ります、ドローンはそちらに乗せてもらっても大丈夫ですか?」

 

「分かった、よしじゃあお前ら、行くぞ」

 

 そうして、俺は校舎裏に実際に基地に向かうシロコ、ノノミ、セリカとアヤネから受け取ったドローンを連れていく。

 

「先生この車は?」

 

「前にブラックマーケットに行っただろ?あそこで買ったんだよ」

 

「黄色のフィアット500ですか☆先生意外と可愛い趣味してるんですね!」

 

 俺が車種を言う前にノノミが答えちまった。

 なんだかんだで俺はこいつを運転する機会が多かったからな。

 だから、まさか同じ色のこいつを見かけた時は思わず運命って奴を感じちまった。

 

「しかし、ノノミ。お嬢様のお前さんがまさかこいつを知ってるとはな」

 

「はい!ちょっとだけ家のお仕事で、昔お勉強しまして☆」

 

「先生これに乗っていくの?」

 

 俺は運転席に乗り込み、エンジンをかける。

 

「おう、ちょっと運転は荒くなるがな。早く乗れ」

 

「ん。分かったみんな乗ろう」

 

 そういって我先にとシロコが助手席に乗り込み、後ろにセリカとノノミが乗って、ドローンを持たせる。

 

「しっかり掴まってろ!」

 

 急発進した車はそのまま校庭を駆け抜けて砂漠の方へ向かう。

 作戦開始だ。

 

 

 

 砂漠を走行する一つの車両。

 砂煙を巻き上げながらそれは、目的地へと突き進んでいく。

 

『先生!座標位置まで残り4kmです!ドローンの展開をお願いします!』

 

「セリカ、頼む!」

 

「うっぷ……分かったわ……」

 

 車酔いをしてるらしいセリカが、ドローンを外へと出す。

 窓から外に出ていったドローンはそのまま上空に浮かびあがり、基地の様子を伝える。

 

『っ!……前方基地の門が閉鎖されています!それに、凄い数の砲門も確認できます!』

 

 ドローンを展開したことにより、敵基地の情報が伝えられる。

 しかし、門が閉まってるか……RPGは持ってきてねぇし、シロコのドローンでの爆撃じゃ少し心もとない……正面突入が望ましかったが、止めたのちに侵入する作戦に切り替えるか?

 砲撃に関しちゃ避ければどうということはねぇが……

 

 基地の姿が徐々に見えてくる。

 この距離からも見えるが、正面に配備された兵士や大砲の照準がこちらに向く。

 どう切り抜けたものかと頭を悩ませているとアロナから俺へと連絡が入る。

 ハンドルを切りながらそれに目を通した俺は、少し笑い、ロープを引きスーパーチャージャーを作動させて、アクセルを踏み込む。

 車が爆発的に加速していく。

 

「えっ!?先生!!何で速度上げてんの!?」

 

 セリカが後部座席から身を乗り出して抗議してくるが、それを無視して速度を上げる。

 基地までの距離が残り2kmを超えた瞬間、目の前に爆発が広がる。

 

「お前ら!射撃準備しとけ!突っ込むぞ!」

 

「今のって、支援射撃?」

 

『はい、今のはL118……トリニティの牽引式榴弾砲です……一体どうして』

 

 アヤネのその疑問に答えるかのように、無線に一人の人物の声が入る。

 

『あ、あう……わ、私です……』

 

「あっ!その声、ヒフ──」

 

『っち、違います!私はヒフミではなく、ファウストです!』

 

 さっき俺に来たのはヒフ……いや覆面水着団の幹部ファウストからの連絡だった。

 

『その、このL118は、トリニティの牽引式榴弾砲ですが……と、トリニティ総合学園とは一切関係ありません! 射撃を担当している皆さんにも、そう伝えておきましたので』

 

 あくまでも、この支援はトリニティからの恩売りではなく、彼女個人からのものだと言うことだった。

 前にヒフ……ファウストに対してアビドスの校舎で語った政治の面倒なところをしっかりと覚えていた様だった。

 ちゃんと成長してるみたいで、先生は嬉しいぞ。

 しかし、気になるのはこれが誰の指示かってところだ。

 あの規模の支援射撃を命令できるのは、それこそティーパーティーのメンバーくらいだろう。ファウストの善性からして、恐らくティーパーティーに直談判をしたのだろうが、誰がそれを聞き入れたのか。

 まぁ、もう一つの可能性として、ファウスト自身がティーパーティーのメンバーと言うのがあるが……グッズのためにブラックマーケットに行き、銀行強盗に協力するような奴が政治のトップに居たら、大問題だろ。

 

『……す、すみません、これくらいしかお役に立てず……』

 

「ヒフミ!最高の一手だ!ありがとう」

 

『はい!……あ、いっ、いえ!私はファウストですので!』

 

 そのまま車を加速させ、崩れた瓦礫を台替わりにして基地内に飛び込んでいく。

 

「邪魔するぜ」

 

 基地内に居た兵士を踏み倒し、車で中を走り抜けていく。

 

「ノノミ!天井が開くからそこから射撃!シロコ、セリカは窓から!」

 

 俺の合図と同時に窓を開き、身を乗り出した三人はそれぞれ弾丸を放つ。

 俺も、時折身を出して、マグナムを当てていくが、敵から放たれるRPGやグレネード、それらの回避で手忙しい。

 

「ちょっと!先生運転荒い!!」

 

「喋ってると舌噛むぞセリカ!」

 

「ん。吐きそう」

 

 ドリフトやギアチェンジによる変速での回避に文句を言ってくるが当たるよりかはうんとマシだ。

 基地を突破していくと、砂漠の真ん中に校舎のようなものが見えてくる。

 

 速度を落とし、隠すように近くの建物の中で車から降りて、目標の座標地点へと足を運ぶ。

 

「砂に埋もれちゃいるが、こりゃ都市の一部か?」

 

「……いや、あれ見て」

 

 シロコが指さすその先に見える建物にはアビドス高等学校の校章が書かれていた。

 

「ってことは、ここは……「あぁ。ここは、本来のアビドス高等学校本館だ」」

 

 俺が推察を話そうとすると、それに被せる様に声が聞こえる。

 分かっていたことだが、この声をまた聞く羽目になるとはな。

 

「ほんとしぶといわね……あんたは!!」

 

「おや、思ったよりも驚いていないようだな。それよりも、よくぞここまで来たものだ、アビドス対策委員会」

 

 わざとらしい拍手をしながら、何人かの部下を引き連れてカイザーPMC理事が校舎の方から現れる。

 

『敵の増援多数……!この数字、おそらく敵側の動ける全兵力が……!カイザーPMCはきっと、ここで総力戦に持ち込むつもりです!』

 

 その後ろからさらに多くの兵士たちが見える。

 

 車を後ろにおいてきて正解だったな。

 あれは、帰りにホシノを乗せて帰るためにも、壊すわけにはいかなかったからな。

 

「砂漠化が進行し、捨て去られたアビドスの廃墟……ここが、元々はアビドスの中心だった。かつてキヴォトスで一番大きく、そして強大だった学校の残骸が、この砂の下に埋もれている」

 

 風紀委員会は既に基地を制圧したようで、今は便利屋68がこっちに向かってるのか。

 流石はヒナだな……アイツへの報酬である演習の内容を聞いたんだが、全員の前でタイマンでやれって……いや、今は作戦だな。

 

「ゲマトリアは、ここに実験室を立てることを要求した」

 

『実験室……!?』

 

 黒服が言ってた、神秘の裏側、恐怖を観測するってやつだったか……

 何で神秘の裏側が恐怖なんだ?

 分からねぇな、こればっかしはよ。

 

「そんなことよりも、ホシノ先輩はどこですか!」

 

「あの副生徒会長なら、向こうの建物にいる。もしかしたら、すでに実験が始まっているかもしれないが……」

 

「──っ!」

 

 さて、大事なのはタイミングだ……アイツの気が逸れたタイミングを見計らう必要がある。

 理事が目の前にいて、俺から目を離しちゃくれねぇ以上、俺からの合図が出せない。

 だから、あいつらに任せるしかないんだが……

 

「彼女の下に行きたいのであれば、私たちのことを振り切って行けば良い。君たちにそれができるなら、の話だが」

 

『この兵力、容易に通してくれそうにはありませんね……』

 

「……ん、じゃあここは私に──」

 

 任せて、そう言おうとしながらシロコが銃を構えた瞬間、兵士たちの集団から爆発が起こる。

 

「アル、やっぱりお前は最高だよ」

 

「当然でしょ?先生の一番弟子なんだから。それよりもシロコ?その先のセリフは貴女が言うべきじゃないわよ」

 

『今の爆発は、便利屋の皆さんの……作戦は大丈夫なんですか!?』

 

「もちろん!大丈夫だよ、メガネっ娘ちゃん。しっかり終わらせて、やーっと追いついたんだから!」

 

「アル、それどういうこと」

 

 ムツキとアヤネが会話している中で、アルがシロコに近づき、二人は睨み合っている。

 

「大切な先輩を迎えに行くのでしょう?それなら全員で行った方がいいに決まってるじゃない。だからここは……」

 

 シロコから目線を外したアルは、コートをたなびかせながら、俺たちの前に立ち、顔を見せずに叫ぶ。

 

「私たち便利屋68に任せて、先に行きなさい!」

 

「……ん!ありがとうアル」

 

 俺たちはそのまま、アルの言葉に従って、校舎へと走り抜ける。

 その前に俺は、アルの方を向き、言葉をかける。

 

「死ぬんじゃねぇぞ?」

 

「ふっ、お互いにでしょう?」

 

 アウトローな笑みでそう返され、俺は再び校舎の中へ向かっていく。

 ったく、あの野郎、すっかりカッコのつけ方って奴を理解してやがる。

 

 

 

 

「アヤネ、場所は探れたか!」

 

『はい!ホシノ先輩の位置、確認できました! あそこです!あのバンカーの地下に!』

 

 理事の遺体からのデータ解析で、肝心の記憶系は手に入らなかったが、その代わりに向こうさんのネットワーク系のバックドアの作成が成功している。

 

 アヤネにそれを送ったんだが、無事にホシノの位置を特定できたらしい。

 ただ、肝心のホシノのいる部屋が電子制御じゃねぇから、扉は物理的に破壊しなくちゃいけないのが玉に瑕か。

 

 ま、今更だな。

 

 そうして、バンカーの方に向かうと、一人の人影が見える。

 

「しつこい……」

 

 シロコがうんざりしたような声を出すが、それもそのはずだ。

 さっき便利屋たちが足止めしたはずのカイザーPMC理事がいるのだから。

 

「カイザーの理事……!?どうして、まだ向こうで便利屋と戦っているはずでは……!?」

 

 恐らくだが、あのあと即座に意識を別の体に飛ばして、疑似的なすり替えを行ったんだろうな。

 向こうの体は、自動制御でもなんでもすりゃ兵士としては使えるだろうしな。

 全く厄介極まりない。

 

「あぁもう、どこまで邪魔すれば気が済むのよ!」

 

「どいてください! さもないと……!」

 

 対策委員会たちはうんざりした声で警告を出すが、それを聞いた理事が、睨むようにこちらを向いた。

 

「さもないと、なんだというのだ」

 

 明らかに怒りを感じさせる声で話し始める。

 

「対策委員会……ずっとお前たちが目障りだった」

 

 砂を踏み躙り、怒りで体を軋ませながら、喉から恨みを吐き散らす。

 敵意ではない、これは殺意だ。

 

「これまで、ありとあらゆる手段を講じてきた……! それでも貴様たちは、滅びかけのボロい学校に最後まで残り、しつこくしつこく粘って、どうにか借金を返済しようとして!! あれほど懲らしめたのに、徹底的に苦しめたのに、毎日毎日阿呆のように楽しそうに!!」

 

 そして、俺を指差し、強いどす黒い殺意を向けて、機械のくせに随分と感情豊かな声色で。

 

「極めつけはシャーレ……いや、次元大介!!!貴様が来てから何もかも全てが狂った!!!貴様のような屑のドブネズミ風情の老い耄れのせいで、計画が!!!私の崇高な計画があぁあっ!!!!!!!!」

 

 異様な位の取り乱し。

 確かに相当な年月をかけた計画だったんだろう。

 事実、崩すのはかなり難しかった。

 だからこそだろうな、そんな規模の失敗をしてこなかったんだろう。

 この発狂はそのせいだろう。

 

 惨めすぎて言葉もかけられねぇよ。

 

「ふん、あんたみたいな下劣で浅はかなやつが何をしようと、私たちの心は折れたりしないわよ!」

 

「はい! あなたみたいな情けない大人に、私たちは負けません!絶対に!」

 

「ホシノ先輩を、返してもらうよ」

 

 前回は俺が殺しちまったが、本来理事に怒りをぶつけるべきは彼女たちだろう。

 だからこそ、俺は今回は、サポートに回る。

 特に、アイツのデータ転送は封じねぇといけない。

 

「──いいだろう……ここで貴様らを処理すれば、どうにでもなるのだからな……!」

 

 気づいてないんだろうな。お前さんが晒した失態のせいで、社会的に死んでるのによ。

 追い詰められた奴ってのは怖いもんだ。

 

 同情はしねぇがな。

 

「舐めるなよ、次元大介!!この前のように行くと、思うな!!」

 

 そういって、理事はゴリアテに乗らずに銃を発砲する。

 ありゃ、P90か。

 

「ゴリアテに乗らないとか舐めてる」

 

 シロコがそう言って、銃弾を避けて、理事に向かって弾丸を放つ。

 

「そのような弾が効くか!!」

 

 命中……したはずが弾丸が当たると同時に弾け、痕すらついていない。

 

「このボディは特殊合金製で作ってある!この前のような恥を晒すわけないだろうが!!」

 

「お前ら、一回退避だ!」

 

 それぞれ、弾を避けながら近くの教室へと逃げ込む。

 

「通信は聞こえるな?あいつは、自分の意識を別のところに飛ばすことができる。だから仮に今殺せたところであとで戻ってくる可能性が高い」

 

『え、じゃあどうするのよ!?』

 

「シロコ、弾を当てた感触としてどうだった」

 

『ん。傷つかないけど衝撃は入ってた』

 

 衝撃吸収ってわけでもねぇのなら、ただ硬いだけの可能性が高いな。それならやりようはある。

 

「アロナ、今朝話したこと、やるための条件は?」

 

 理事の死体を解析した時に判明したネット経由での意識の転送。

 これがある限りあいつは不死身だ。

 だから、考えた。

 

 アイツをネットから追い出しちまえばいい。

 

『はい先生、少し危険を犯すことになるのですが……』

 

「構わねぇよ、命を懸けるなんざ、数えきれないくらいやってる」

 

『……あの体に直接三秒間触れ続けてください』

 

 三秒も……なるほどな。

 作戦は思いついた、あとはやるだけだ。

 

「よし、作戦をこれから伝える、いいな?」

 

 

 

 

「どうした!!アビドス!次元大介!!!怖気づいたかぁ!?」

 

「うるせぇよ、デカブツ」

 

 俺は物影から歩き出し、煽っている理事の前に姿を現す。

 理事はすぐさま銃を構える。

 

「サブマシンガンの命中精度は低い、神にでも祈るんだな!」

 

「抜かせ!ドブネズミが!!」

 

 奴が引き金を引く瞬間に合わせて、マグナムを放つ。

 放たれた弾丸は、P90の銃口内に入り、暴発を引き起こさせる。

 

 それが、作戦の最初の合図だ。

 

 暴発と同時に、物陰からノノミとセリカ、シロコが理事を囲むように体を出し、弾を連射し続け、抑え込んでいく。

 金属疲労には期待できないが、それでも理事をその場に留めさせるには充分だ。

 

「尤も、お前さんは神を信じちゃいないだろうがな」

 

 衝撃によって、その場で何もできずに立ちすくまる理事。

 俺は、弾丸を変えて、理事の膝関節に向けて発砲する。

 

 弾のスケールは.357マグナム弾だが、弾頭を変えた代物だ。

 時間がなさ過ぎて、二発しか作れなかったのが残念だがな。

 

 放たれた弾は、理事の膝関節を貫き、体勢を崩させる。

 

 手を挙げて、射撃を収めさせる。

 

「はぁ、はぁ……貴様、その弾は……」

 

「お前さんが残した体から作った奴だ。普通の.357マグナム弾より強力だな」

 

 俺は跪いている理事の頭に手を置く。

 

 当然、抵抗するだろう。

 腕を上げようとした瞬間、シロコが発砲し腕を下げさせる。

 

 さっきよりも威力が高くなっている気がする。

 

「2、3……これで、テメェはもうネット経由で逃げられない。社会的にもテメェは死んだ。誓え、もう二度とこんなくだらねぇ真似をしねぇって」

 

 手を離し、理事の眉間に銃口を突き付ける。

 

「く、そ……わか、った誓うとも」

 

「次はねぇぞ、大人しく余生を生きろ。そして二度とその面を見せるんじゃねぇ」

 

 銃口を離し、膝を撃ち抜かれた理事をその場に捨て置く。

 

「いいの、先生」

 

「シロコこそ、仇だろ?俺は一度手を下した。やりてぇのならお前さんがやってもいいんだぜ」

 

「んーん、先生がそう言うならやらない」

 

 隣を歩くシロコがそう話しかけてくるが、彼女は手を下さないことにしたようだ。

 その目には少しだけ、同情と憐憫が込められていた。

 

「……あぁ、お互いにな!!!!」

 

 後ろから叫び声と同時に銃声が鳴り響く。

 やけに静かにしてると思えば、このざまか。

 堕ちるとこまで堕ちたな。

 

 シロコを抱き寄せて一緒に物陰へと飛び込む。

 セリカとノノミも同じようにして、別の物陰に飛び込んだようだ。

 

「先生っ、腕に傷」

 

 シロコに言われて腕を見るとそこには腕を切り裂くように付いた赤い線が。

 熱と共に鋭い痛みが襲うが……今はそれよりもだ。

 

「かすり傷だ。それよりも……三人とも、向こうの弾が切れたらありったけの弾を食らわしてやれ」

 

 近くにバンカーの入り口がある以上は生き埋めみたいな手段はとれない。

 向こうが玉切れを起こしリロードに入る。

 その瞬間を待っていた三人が再び物陰から出て銃を撃ち放つ。

 

 あの金属は確かに硬い。

 だが、この世に絶対なんてものはない。

 

 どんな金属も絶え間なく衝撃を与え続ければ、熱を帯びそして……

 

「おい、次はねぇって言ったろ」

 

 マグナムが火を噴き、そして放たれた弾は、理事の胴体に巨大な穴を空ける。

 

 遺言を残さず、長年アビドスを蝕み続けたネズミはこの世を去った。

 

 

 アヤネがヘリから降りてこちらにやってくる。

 

 黒服がカイザーに作らせた実験室の扉は相当頑丈なようで、破壊は難しかった。

 まさか、俺の知らねぇ作り方で出来ているのかは知らないが、それでも、シロコ達の弾丸は効くらしく、地道ではあるが一枚一枚銃撃で穴を空けながら前へ突き進む。

 

 黒服。

 ゲマトリア……神秘と恐怖。

 この世界には俺の知らない常識が蔓延っている。

 知らないままでは駄目だが……どうしたものかね。

 

 考え事をしながら、最後の一枚にまで行く。

 

「こんのっ!!!!!」

 

 最後のドアを壊したのは力任せなシロコの突進だった。

 ひしゃげたそれは、壁から外れて地面へと落ちる。

 

 そして、彼女が見える。

 

 俺が送り出した今回の最大の功労者の姿が。

 

「ホシノ先輩っ!」

 

 対策委員会の声に、ホシノは体を跳ねさせて、こちらを見る。

 まるで、さっきまで夢を見ていたかのようなおぼろげな顔だ。

 光の通さない暗い部屋の中で、彼女は耐え続けてくれた。

 

「あ、み、みんな……それに……先生も……よかった、きてくれたんだね」

 

 力が抜けるように前のめりに倒れるホシノを俺たちは抱える。

 

「悪い、遅くなった。約束を果たしに来たぞ」

 

「ほんと……おそいよ、先生。でも、よかった……」

 

 力なく彼女は笑う。

 それでも少しだけ、俺に対して軽口をつく位の気力はあるようだった。

 

「信じて……よかった」

 

 この子が一人でいたときに、黒服に何を言われたのかは分からない。

 あの暗い実験室の中で、何を一人思い続けたのかは分からない。

 ただ、その言葉には、諦めかけていたものを救われたような、そんな感情が籠っていた。

 

「ホシノ先輩、外に出ましょう?」

 

「え、あ、うん……そうだね」

 

 ノノミの声をきっかけに、全員でホシノを支えながら外へと連れ出す。

 あの膝立ちの姿勢で拘束されていたのだから、今は関節が痛いだろう。

 

「じゃあ、先生?」

 

「え、ノノミちゃん?どうしたの?……うへ、先生まで」

 

 外に出たホシノをノノミは俺の前にまで引っ張って来る。

 

 そしてノノミたちは一歩だけ離れてしまう。

 ホシノの顔は困惑で染まり切っている。

 さて、こうも改めてられると何と言いだせばいいか分からねぇな。

 

「ん、かっこ悪い」

 

 シロコが俺の脇腹に肘を入れる。

 前に拳骨を落とした仕返しか?

 

 とは言え、かっこ悪いと言われてしまえばこれ以上は待たせることは出来ないな。

 

 もう一度だけ思考を整えて、俺はホシノを見つめる。

 

 俺を信頼して、俺の最低な作戦に乗ってくれたこの学校の防人を見つめる。

 

「よくやったな、ホシノ」

 

 俺は口下手だからな。

 多くの言葉は出せない。

 それでも今この時だけはできる限りの言葉を。

 お前が今までやってきた努力も、決意も、意志も。

 全て無意味ではなかったと、お前は護り切れたと。

 

「お前さんが、成し遂げたんだ。この結果をこの景色を。

 お前の先代から引き継ぎ、護り、後輩へと紡いだ。

 だからホシノ、お前は誇れ。俺だけじゃ無理だった、お前さんがいなきゃ、この結果には辿り着かなかった」

 

 俺は後輩なんてものは学生の頃にしかいなかったが、こういう絆ってやつには経験がない。

 だから、ホシノ。俺はお前さんが羨ましい。俺たちのような奴らが持っていない宝をお前は持っている。

 

「これがお前さんが、アビドスを……お前らにとっての宝物を守り抜いた証だ」

 

 だから、この先の言葉はこいつにとって大事なもののはずだ。

 それを俺が言っていいのかは分からねぇが……

 託されたと、今は思うことにする。

 

「そして守り抜いた彼女たちこそが、お前の居場所だ、お前さんはもう独りじゃねぇんだ」

 

 俺は、ホシノの頭を撫でる。

 よくやったと、少しでも声色じゃ伝えれない評価を伝えるために。

 

「おかえり、ホシノ」

 

「……う、あぁ。……へ……なん、急だよ……そんなこと……」

 

 流さないように目じりに貯めているそれは、彼女の先輩としての意地なのか、それでも感情の入り混じったその声は、言葉にもなっていない音を伝える。

 尤も、後ろで控えている彼女たちは、その意地を張らせる気はないらしい。

 畳みかけるように、セリカを先頭に、ホシノへと抱きつき始める。

 

「……お、おかえりっ!先輩!遅かったから迎えに来たわよ!」

 

「ああっ!セリカちゃんにも先越されてしまいました!恥ずかしいから言わないって言ってたのに!ズルいです!」

 

「う、うるさいうるさいっ! 順番なんてどうでも良いでしょ!」

 

「……無事で良かった」

 

「ホシノ先輩、おかえりなさい!」

 

「おかえりなさい、です!」

 

 いつもの日常のような風景と、温かい言葉の後に少しだけ一拍置いてから。

 シロコは、微笑みながら言った。

 

「……おかえり、ホシノ先輩」

 

 慈愛に溢れていたその言葉を聞いた、ホシノは逆に安心してしまったようで、一度だけ目をつぶって、零れ落ちかけていた涙を振り払ってから、笑った。

 今まで追われてきた何かから解放されたような笑顔だった。

 

「……ふ、あはは。……何だかみんな、期待に満ちた表情だけど……求められてるのは、あの台詞?」

 

「ああ、もうっ! 分かってるなら焦らさないでよ!」

 

「そうだぞホシノ、お前さん行ってきますって言ったんだから。言うべきだろう?」

 

「……うへ、ま、それもそうだね」

 

 少し照れ恥ずかしそうに頬を掻いて、彼女は再び笑う。

 今まで見てきた中で一番綺麗で美しい笑顔だった。

 そこにはもう、弱さも、脆さも。

 悲しい笑みを張り付けた、今にも壊れそうな少女は何処にもいない。

 

「まったく、先生に可愛い後輩たちのお願いだし、仕方ないなぁ……」

 

 ホシノは言う。

 自分の居場所だと、そう信じて、自ら守り抜いた居場所と仲間に向けて。

 何気ない言葉でも当たり前のものなんかは一つとしてない。

 彼女は、自分の手でつかみ取った。

 当たり前という奇跡を。

 

「──ただいま!」

 

 この話は、良い話ってやつだろうさ。

 

 帰り道、車の中でひたすら説教され続けたそれも、大事な思い出って奴になる。

 

 ハッピーエンドってのを選択できたと俺は思う。

 

 選択をするには経験がいる。

 今日の、今日までの経験が。

 

 この先彼女たちの良き選択に繋がることを俺は信じている。

 




お話の後には、こいつが必要なものだろう?
これは、まだ彼女たちがマイナスからゼロに踏み出した物語なのだから

次回 エピローグ




次回真最終話。
エピローグまで入れる余裕はなかったです……ちからつきました……
思った五倍ドラテクシーン難しくて入れれなかったのでどこかでリベンジしたいところ。

アビドス編が終了しましたら、少し休憩頂いて、前にもらったリクエストたちを順次書いていきたいなと思っております!
全然締め切りとか考えてはないんですけども、キャラによってはメインストーリーに登場してからにしようかなとか思ってたりします。そこだけご注意いただければなと。

ついに投票者数が180人に行き、月間のランキングブルアカだけなら実質1位に……ありがてぇ話です……まぁそこはあんまり意識したくはないのですが……
このまま気ままに更新させていただきます。

最後にここまで至れたのは沢山応援してくださる皆様方のおかげです。
この場をお借りして厚く御礼申し上げます!
最後に、もしよろしければ、ここすき、評価、感想よろしくお願いいたします!

今の話のタイトルが分かりにくいとの意見を得て変更するか否か

  • 例:殺し屋の矜持
  • 例:1-10
  • 例:1-10 殺し屋の矜持
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