新任教師『次元大介』   作:レイゴン

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#EX4 大人の約束

「せぇ〜〜ん〜〜せェ〜〜いィ!?!?この大量の領収書!どういうことですか!!!説明してください!!!」

 

 朝から怒号がシャーレに響き渡る。

 その音の発生源は、ミレニアムのセミナー会計、早瀬ユウカだ。

 久しぶりのユウカの担当の日だったんだが、まさか昨日買って机に置きっぱなしにしていた酒と煙草の領収書を見られる羽目になるとはな……

 

「あ~……そいつは、なぁ……」

 

「しかも!この発行してる場所、ブラックマーケットじゃないですか!!!先生!お一人であんな場所行くのは駄目だと前に言いましたよね!?」

 

 黙殺されてしまう。

 正論ではあるからな……何も言えねぇ……

 前にアビドスで言ったときもドン引きされた辺り、危ない場所であることには間違いないらしい。

 

「先生の実力を疑ってるわけではないのですが……それでも万が一の時もありますから、せめて誰か同伴して行ってください。まぁ、誰もいないのなら……私が一緒に……」

 

「あー……それならアルとかに頼むか……ん?ユウカどうした?顔赤く──「先生のことなんて知りません!!!!!」」

 

 いきなり怒鳴ったユウカはそのまま席に向かい作業をし始めた。

 女心と秋の空は急に変わるってもんだが……理解できねぇな。

 

 そのあとも仕事を続け、時折ユウカを宥めるためにコーヒーを入れたり茶菓子を渡したりして何とかご機嫌取りをするのだが……そのたびに新しい酒と煙草の領収書を見つけられ、

 

「先生……流石にこの量は体を壊しますよ……」

 

「お前さんは俺の母ちゃんか何かか?」

 

「心配してるだけです!……もう、先生。しばらく買うのは禁止です」

 

「は?おい、お前さんが勝手に決めるんじゃ」

 

 と言いかけたタイミングで口元に人差し指を突き出されて、黙らせられてしまいそのままユウカが話しかける。

 

「先生の体は、今は先生だけのものではないんですから!一週間でいいので少しだけ控えてください」

 

 めんどくせぇと思うが、これも仕事かと、俺は諦めて頷くのだった。

 

 

 そうして、日が暮れ始めたころ。

 

「よし、今日はこんなもんか、ユウカお疲れさん」

 

「あ、もうそんな時間でしたか……先生もお疲れ様です!これからどうなさるのですか?」

 

「あー……あ、そうだ、ちょっと約束を果たしに行くかな」

 

 大将が屋台を出し始めてから俺はまだ足を運んでなかった事を思い出して、今日の晩飯ついでに行くことにした。

 

「約束ですか……?」

 

「おう、アビドスで会った奴とのな、日も落ち始めてる。送って行こうか?」

 

 車のキーを取り、俺はユウカへと話しかける。

 ユウカは少し考えたのちに、口を開いた。

 

「……いえ、大丈夫ですよ。アビドスとミレニアムは離れてますし、ご迷惑になりますから」

 

 気にしなくても良いと思うんだがな、だがそれをいう前にユウカは俺に一礼してからそそくさと帰って行ってしまった。

 

 アビドスまで車を走らせると既に日は沈みきり、街路灯が道を照らしている。

 そんな景色の中にその店は佇んでいた。

 

「よう、大将……まだやってるか?」

 

「お、誰かと思えば先生じゃないか、まだやってるぜ」

 

 久しぶりに見た大将の顔つきは、前と変わらず元気そうだった。

 

「約束を果たしに来た。さっそく一杯もらおうかな」

 

「おう、待ってたぞ。少し待っててくれな」

 

 そういって、手際のいい手つきで肴を作りながら、お酒を取り出して、銘柄を見せてくれる。

 こういう屋台のいいところは、何をやっているのかすぐに見えるところだよな。

 前の店もよかったが、大将の人柄を考えるとこっちの方が俺は向いてるんじゃないかと少しは思ってしまう。

 

「日本酒か」

 

「先生は苦手かい?」

 

「バーボンを好んで飲むが、大将のオススメなら喜んでもらうぜ」

 

『名手』と達筆な筆文字で書かれたその瓶を傾けて、大将は酒を注いでいく。

 透き通った清酒のそれは、店頭の赤い提灯の明かりを反射し、綺羅やかに輝いている。

 

「大将、この後はどうするんだい?」

 

「ん?まぁ、今夜はもう客足もないからな。先生の貸しきりだぜ?」

 

 それを聞いた俺は、ん、と声をかけてグラスを持ち上げて、乾杯を誘う。

 仕事中ではあるが、俺との約束は酒を酌み交わすことだからな。

 

「先生も悪い人だな?ちょっと待ってくれ」

 

 手を拭いて、前に試食した酒の肴を台の上に出すと、もう一個グラスを取り出し、同じ量の酒を注いで、持ち上げる。

 

「「乾杯」」

 

 グラス同士がぶつかり、心地よい音が鳴り、酒を口の中へと流し込む。

 乾杯ってのは、元々この酒には毒が入ってないと互いに見せるためにその酒を飲み干すことから来てる。だから乾いた杯で、乾杯なわけだ。

 俺と大将は互いにグラスを下に傾けて、飲み干したぞと見せてからまた、次の分の酒を入れていく。

 

 スッキリとした爽やかさのある口当たりと鼻の奥を駆け抜ける米の芳醇な香り、醸造アルコールの鋭い辛さは感じられず、ゆっくりと体の中へと消えていく感覚。

 

「……純米大吟醸か、また良いもんを置いてんだな」

 

「お、言ってないのに分かるのか先生」

 

「好んでないだけで嫌いじゃねぇからな。しかし高かったろこれ」

 

「いいんだよ、アビドスの子達にしてくれたことへの感謝みたいなもんさ」

 

 ほんと、いい男だよこいつは。

 言葉に甘えて、そのまま酒を飲みながら話に花を咲かせる。

 セリカの最近の様子や、新人のアコはどうだみたいな、そんな話だ。

 

「で?どうだ、あのゲヘナの風紀委員会のNo.2は」

 

「まぁ、ちょっと小言は多いけどよ、でもいい子だよ。仕事も真面目にやってくれるしな」

 

「口うるさいとは思うが、大将のとこなら安心だよ」

 

 頬を掻きながら制服を仕立て直されたのは驚いたなと、大将はぽつりとつぶやく。

 

「あっはっはっは!あれか、セリカから送られた写真を見たが、俺もあれは驚いたなぁ」

 

「綺麗に出来てるから、俺は強くはつっこめないが……まぁな」

 

 どうやら大将もあのファッションセンスには手を焼いているらしい。

 

「あの服。昔百鬼夜行で修行してた時にもあんな服装をしている子を見かけたから、まぁそういう伝統なのかもしれないな」

 

「いや、あれはそういうのじゃねぇだろ」

 

 大将が思い出したかのように話すその言葉、百鬼夜行……確か東の方にある学園だったか。

 名前からして、日本っぽいが……どんな場所なんだろうな。

 写真だけ前に見たがやけにデケェ桜の木が生えてたのは覚えてるがな。

 日本人の俺としては一度足を運びたいものだ。

 

「大将、修行ってことは、色んなところに行ってんのか?」

 

「まぁな、と言っても、俺はやっぱりここが一番好きだよ」

 

 長くここで店を構えている辺り、それは真実なのだろうな。

 俺がそれを言うにはまだこのキヴォトスを理解出来ちゃいない。

 

 しかしだ、シャーレの性質上多くの生徒と関わることになる以上、このままじゃ駄目なのも事実。

 余暇を見つけたら、軽くキヴォトスを旅するのもありかもしれねぇな。

 まぁそうでなくとも仕事で行くことも多そうだが……

 

 そんな他愛もない話をしながら夜は更けていく。

 一杯の酒と、気の合う友人、これ以上のもんがあるか?

 少なくとも、今の俺には考えられねぇな。

 




名手なんて銘柄は探した限りはないのでセーフなはず……
もしあっても、ほんとたまたまなので……

作者はジンが好きです。

百鬼夜行……イズナ初登場のイベどうしましょうかねぇ……個人的には初参加のイベントで思い出深いのですが……

今の話のタイトルが分かりにくいとの意見を得て変更するか否か

  • 例:殺し屋の矜持
  • 例:1-10
  • 例:1-10 殺し屋の矜持
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