「カヨコ、お前さん。風紀委員会と何か昔繋がりでもあったのか?」
「随分と急だね……先生」
シャーレでの仕事をしながら、俺はふとカヨコに質問をする。
「明日からしばらくの間ゲヘナで演習の手伝いをしなくちゃならなくてな……俺としては一日のつもりだったんだが……向こうのお偉いさんにも頼まれちまってな」
そういって、黒に赤いラインが入った封筒を見せてそのまま渡す。
「あぁ、羽沼マコトから?大変だね……先生も」
「全くだ。とはいえ、依頼だからな……そう、それで思い出したんだが、お前さん前に風紀委員会と戦ったときのアコへの反応が気になってな。風紀委員会と何かあったのか?」
「……まぁ、隠すようなことでもないからいいか……昔、私さ。風紀委員長だったんだよね」
その発言を聞き、思わず表情が固まる。
そうか、ってことはアコとヒナの先輩になるのか?
こいつは一年留年してるらしいが、なるほどな……アコの手口を理解していたのはそういうことだったわけか……
「……ぷっふ……先生もそんな顔できたんだね」
「あ?そんな間抜けな顔してたか?」
驚いてしまうのも仕方がないと俺は思う。
なんせ今は違うが少し前までこいつらは風紀委員会と敵対する立場にあったわけだからだ。
しかも、元風紀委員長がだ。
それなりの騒動があったと推測するもんだろう。
「……そういえば、風の噂に聞いたんだけど、空崎ヒナと一対一で戦うってホントなの?」
しばらく、作業を続けていると、次はカヨコが質問をしてくる。
「あぁ、どこで聴いたか分からねぇがその通りだ」
「ご愁傷様だね」
「勝手に殺すな」
まぁ、概ねどういうつもりで仕掛けたのかは理解できる。
最強だからこそ。抑止の化身だからこそ。
ヒナがいないとなるだけで暴動が起きてしまうこの現状を打開したいのだろうな。
「まぁ、そんなわけだから、カヨコ。アル達も含めてしばらくシャーレを任せる」
「ん、分かったよ」
そうして、その日は仕事をし続けて、翌日俺はゲヘナ学園にある巨大な議会『万魔殿』へと足を運んでいた。
なんでも演習前に挨拶をしておきたいからだそうだ。
一応ノックするのが礼儀ってもんか。
そう思い、扉をノックしようとするとドアが開かれる。
「いらっしゃいませ……シャーレの先生」
開けられた扉の前には、身長の小さい黒みがかった紅色……臙脂色だったか?そんな色の髪をもこもこと擬音が付きそうなほどに長く伸ばしたダウナーな雰囲気の少女が立っていた。
「シャーレから来た。次元大介だ、よろしく」
「あ、はい……どうも、万魔殿所属戦車長の棗イロハです」
差し出した手を握り返し、軽く握手をしたのちに、中を案内される。
案内された先はそれまた重厚な扉で、看板には議長室と書かれていた。
「こちらで、マコト先輩がお待ちです……マコト先輩、連れてきましたよ」
さて、あのヒナの上に立つ、キヴォトス三大学園の一つ、ゲヘナ学園……
そこのトップか。どんなやつなんだか。
「キキキキッ!ようやく来たな!ご苦労!イロハ」
その議長席と呼ぶべきであろう玉座に座っていたのは、すらりとした体形に、長い銀髪をたなびかせながら、鋭い目つきでこちらを睨みつけながら鋭い歯を出して笑う……小さな子供を肩車している軍服姿の女性だった。
この学校は子育てでもしてるのか?
あれはツッコミ待ちなのか?それとも何も言わない方がいいのか?
「イブキ、先生が困惑してますから、一回マコト先輩から降りましょう?」
「はーい!」
元気に返事をしたイブキと呼ばれた黄色い髪の少女はマコトから降りて、とてとてと歩きながらイロハの隣に立つ。
「仕切りなおして、こちらが万魔殿の議長の羽沼マコト、この子は一年生の丹花イブキです」
「キキキキッ!待っていたぞ!シャーレの先生よ!」
「イブキだよ!よろしくね!」
俺が席に着いた辺りでイロハに紹介された二人がそれぞれ挨拶をする。
イブキだったか、紹介が一年生ってこたぁ、この学園の生徒なわけか……
声と立ち振る舞い的に、11歳ぐらいか?キヴォトスには飛び級の制度があるとはな。
んで、こいつが、羽沼マコト……さしずめ、魔王ってところか。
「シャーレの次元大介だ、挨拶どうも」
「キキキキッ、貴様の活躍ぶりはこのマコト様の耳にも届いているぞ!なんでもあのカイザーのトップを殺したそうじゃないか!」
SNSに上げたカイザーの独白。あれはゴリアテを呼び出したところまでで、その先のカイザーが撃ち抜かれるところはあの場にいるメンバーしか知らねぇはず。
ホシノ奪還のときも、カイザーからの討伐報酬も具体的な死は書かれてなかったうえに機密文書として送られていた。
まぁ要するにだ、その事実は、少なくとも事件に関わってないやつらが知るはずのない情報だ。
「お前さん、それをどこで知った」
「キャハハハハ!そう怖い顔をするな、シャーレの先生よ。このマコト様の情報網を甘く見てもらっては困る」
「……。」
こいつ、こんなバカみてぇな喋り方をしてるが……なるほどな、演技か。
「んで、ゲヘナのトップが俺のような悪党に何の用事だ?風紀委員会の演習の件はあくまでもヒナからの頼みだったが」
「貴様の射撃の腕を私はかなり高く評価していてなぁ……最近の風紀委員会のたるみっぷりには目が余る。貴様は聞く所によると、勇猛にして紳士、冷酷さをもちながらも仲間思いだと聞いている」
「ね、先生。お膝乗ってもい~い?」
マコトと話している最中に、イブキが俺の膝の上に乗ってくる。
会話中だから声は出せないため、頷くことで了承し、そのままマコトの会話を聞いている。
「言っとくが俺はそんなつもりはねぇぞ」
「キキッ、そう謙遜するな、貴様が仕事人であるのはこちらも……」
マコトの目線が下に下がり、俺の膝に乗っているイブキに目線が行く。
気づいてなかったのか?
「貴様ぁ!!!何をイブキを手籠めにしているこのド畜生がぁ!!!!!」
瞬間に響き渡る怒号。
下手な銃声よりもデカいんじゃないかと思うその怒号に耳鳴りがする。
イブキの耳を防ぐために耳元に手を当てたが、首を傾げこちらを見たイブキに思わず微笑むと何故か抱き着かれ、それを見たマコトの罵声が加速する。
「だぁ!うるせぇ!俺はガキに興味はねぇよ!」
マコトの息が止まったタイミングで、言い返すと、それならばいいかとすんなりとその罵声が止まる。
長年銃声を聞いてたからデカい音には慣れているつもりだったが、まさかそれでも耳が痛くなるとはな。
「それで、なんでてめぇがわざわざ依頼として俺に頼む。そんなことせずとも演習の教官なら手を抜かねぇよ」
「あぁ、そうだったな。貴様なんでもあのヒナとやり合うらしいじゃないか」
カヨコといいこいつといい、どこから聞いたんだ?
女特有の情報網の広さって奴は怖くて仕方ねぇよ。
「そこでだ、我々万魔殿から貴様への依頼だ」
その後、万魔殿を出た俺は、迎えに来ていたヒナに連れられて演習場へと向かっていた。
「先生、大丈夫だった?」
大丈夫というのは、あのマコトのことだろう。
「あぁ、耳がイカレかけたが、それ以外はな……ヒナ、アイツはずっとあんな風にピエロを演じてるのか?」
「……そうね、前に聞いてみたけど、やめる気はないみたい」
羽沼マコト、俺がそいつに下した評価は、愚者を演じる知恵者。
頭がいい癖にそれを隠して相手に隙を作らせようとする。俺が苦手なタイプの相手だ。
苦手ってのは敵対するならって意味だ。
ゲヘナならその方がいいのかもしれねぇがな……あ、でもあのイブキが絡んだ時の反応は素だろうな。
だからその分見極めづらく面倒さに拍車をかけている。
「そろそろつくよ、あの建物。私たち風紀委員の管轄内のもので、全面の運動場で射撃訓練を。建物のうしろにはプールがあって学校の授業もだけど、演習の時は素潜りの練習。その奥にある森も学園の所有地だから、たまに戦闘訓練もしてる。建物内は倉庫とか休憩所、医療室、車両点検の施設になってる」
指を指しながら説明をしてもらったが、流石三大学園と言ったところか……ここまで大規模な施設を1委員会が保有しているとはな。
「んで、まず何をすればいい」
「そうね、それじゃあ、挨拶してからまずは集団演習を見てもらってもいいかしら?」
そうして、建物内に入ると、ホールのようなものがあり、そこで簡易的な自己紹介と隊分けが行われて、イオリとチナツに連れられて、風紀委員たちは外へと出ていった。
「アルファ隊は右翼へ展開!ブラボー!チャーリーは左翼へ!全員射撃用意!!撃て!!」
勇ましく声を上げ、指示を飛ばすイオリと後方からチナツがそのサポートに回り風紀委員たちは仮想目標へと射撃を行っている。
その様子を俺とアコ、そしてヒナが屋内から見ている。
「先生、率直な感想として、私たちの練度はどう見えるかしら」
ヒナが俺へと質問をする。
A~Fまでそれぞれ10人の小隊で構成されていて、しっかりと指示通りの動きが出来ている。
「そうだな……教科書として言えば百点だな」
「あら、意外ですね。前に戦ったときは随分と低い点数をつけてそうでしたよ?」
アコが俺の意見に意外そうに声を上げる。
「言ったろ、教科書通りで言えばだって、武器の扱いと射撃は前に見たときよりかは悪くねぇ、なら悪かった理由があるはずだ」
「その理由とは?」
「イレギュラー……まぁ想定してないことが起きた際に対応が出来ねぇ。それがお前らの弱点だ」
最初の便利屋たちと組んだ時もそのあとのアビドスが混ざったときも、どちらも最初は奇襲を行ってから戦闘を始めた。
後手からの戦闘はどうしても不利になりやすいが、こいつらはそれが特に顕著だ。
「例えば、左翼に展開したチャーリー隊。あいつらリロードも出来てねぇ、指示がなくてもやるもんだろうが」
「流石、先生ね……それは私たちも問題視しているところなの。このゲヘナ学園において統率が取れている時点で奇跡ではあるのだけれどね……」
「行き過ぎたもんも良くねぇからな。なるほどな……つまり、お前さんが俺を呼んだのは、この統率が取れた状態で個人判断で臨機応変に対応できるように……そうできるようにしてほしいってところか……」
「その通りよ……どうかしら……?」
「やるだけやってみるが……期待はすんなよ」
俺は、そうヒナたちに言って俺は、イオリたちの方へ向かった。
「この中には前に俺と戦ったやつがいるだろうが……俺は弾丸が当たれば死んじまうんでな、悪いがお互いにペイント弾での訓練にさせてもらう。まぁあの時のリベンジだとでも思ってくれ」
運動場の砂地、遮蔽物は軽く疎らに置かれた箱があるだけか……
「さて、最初の演習だ。殺す気で制圧しに来い。ルーキー」
そういって俺は、足元へ煙幕を投げる。
爆発と共に俺の周りが見えなくなる。
さて、まずは、見えない相手にはどう対処する?
「アルファ!ブラボー!チャーリーは前方から射撃!標的の足止めをしろ!」
「デルタは右側面へ!エコーは左側面!フォックスは後方に展開してください!」
イオリ、チナツの声が煙幕の中からでも容易に聞こえる。
近くに敵がいるのに馬鹿正直に指示を出す奴がいるかってんだ。
「減点だな」
今回の演習を始めるうえで俺はさっきの煙幕を含めていくつかの道具を懐に忍ばせている。
本来なら銃だけでやりたいところだが、相手の対応をどうするかを知りたいのと、こいつらの実情を知りたいからだ。
イオリの声がした方に向けて、マグナムを放つ。
「痛っ!!??煙幕の中から!?」
「おい、撃たれたんなら場所を把握、そのあとの指示までセットだろうが」
再び煙幕を張り、今度はイオリの方へと駆け出す。
弾道と声で位置は……分かっている。
「あ、せんせ」
驚いて固まっているイオリの武器を掴んで、引き寄せながら、お腹に膝蹴りを入れ、そのまま背中に肘を落とす。
呻く間もなく、武装解除をさせたイオリを地面へと倒し、インカムを奪い、足で踏みつけて抑える。
煙幕が晴れると、周りを囲む風紀委員たちの姿が見える。
イオリの声を聴いたアコが指示を出したのだろう。
前の風紀委員との戦いでもアコがいたことから、恐らく普段もこのようにアコが指示をだすこともあったのだろう。
『各隊、円を形成し、逃げ場を無くしてください。その後に距離を詰めて先生を拘束してください。いいですね?』
風紀委員たちの視線が一瞬だが、信頼のおけるアコの方を向き、頷き返す。
「減点、そういうのは見るもんじゃねぇよ」
『っ!?』
その目線の先に居るであろうアコに向けて俺はイオリから奪った銃を放つ。
距離はそれなりに離れてるが充分だろう。
窓にはペイントが血のように広がっている。
「アコ、お前さん一度俺と戦って負けただろ。前の経験を生かせ、これはリベンジだぞ」
『……はっ!?総員退避!!爆発します!』
対応は70点、指示としては0点だな。
前に何をやられたのか覚えているのは高評価だが、それじゃあ動けねぇ奴らも出る。
咄嗟の対応に遅れた一部分が、突如として爆破した地面に襲われ、倒れる。
煙幕の中で置いておいた地雷だ。
近づいてくれたおかげで爆破することができた。
こうなれば、あとは容易い……破れた個所から脱出し、あとは各々隊を電撃戦の要領で倒していくだけだ。
結局マグナムも大して使ってねぇしな。
「しかしまぁなんだ……前の時の方が強かったな」
何でこうも弱くなっている?
こいつらも人間で、成長するもんだ。
何が違う……?
そう考えたとき、俺は、マコトからの依頼を思い出した。
──キキッ、先生。貴様には空崎ヒナを完膚なきまでに負かしてもらいたい。
あぁ、こいつらが弱くなったのは精神的に舐めてるからだ。
誰をかって?自分をだ。
自分がやらなくとも、あの人がやってくれると。
今回はあの人がいるから大丈夫だと。
あの人なら勝ってくれると信じてしまってるからだ。
「全く、最強ってのは苦労するみたいだな。ヒナ」
俺は振り向いて、地面へと翼を広げて降り立つ魔王の姿を見る。
「先生、お手合わせ願えるかしら」
空崎ヒナが、銃を地面へ突き刺し俺へカーテシーをする。
「分かった。そういうことなら……その仕事受けてやるよ」
カヨコは私のキヴォトスだとこうなだけです……原作でもし違う解釈が出たら変わるかもですね……
マコト様のエミュ難しくないですかね??
そんなマコト様は意図的に神秘を用いることができる人です。
ある意味自分の中ではリーダーの素質とも言えて、ヒナちゃんの絶対防御を抜ける者の一人です。
ヒナマコ、マコヒナを作者は応援しています。あとカヨアコも
今の話のタイトルが分かりにくいとの意見を得て変更するか否か
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例:殺し屋の矜持
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例:1-10
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例:1-10 殺し屋の矜持