心構えが著しく悪いだけで、こいつら自身の動きはそこらの兵士では比べ物にならないくらい強い。
企業の兵士であるカイザーPMCに比べても風紀委員会の方が強い。
それが両方と戦った俺が下した評価だ。
そもそも教科書通りの100点を出せてる時点で凄いってもんだ。
つまり、こいつらは今よりもさらに強くなれるってわけだ。
「おい。お前さん、もっとストックに体近づけた方が当たるぞ」
「ひゃっ……あ、ほんとだ当たった」
「この隊の中だとお前さんの銃が一番丁寧に整備されてんだ。だからあとはお前さんの腕次第、頑張れよ」
風紀委員会との最初の演習を終えた次の日、俺は部隊それぞれの射撃を見ながら、アドバイスをして回っている。
おかっぱ頭の目元の隠れた生徒の肩に触れて、射撃の姿勢を少し変える。
一見部員のやつらはどいつもこいつも似た見た目をしているが、射撃の姿勢や武器の手入れの具合、隠れた目を見ればどいつがどいつなんだかは意外と分かる。
「イオリ、お前さん指示を出す役割を任されてんだ、だから迷うな。その遅さで何人の命が失われるか考えろ」
「っ……分かった!」
「戦闘力ならヒナの次くらいにはあるんだ。あとは経験を積め、指示のミスを恐れて遅れるのはベテランになってからだ」
イオリのような現場で指示を出す奴らに求められるのは瞬発力。
細かい指示は指揮を執るやつらに任せりゃいい。だからこそ、一瞬の迷いもなく右か左か、撃つか撃たないかの判断をしなきゃならない。たったそれだけで救われる命はあるんだからな。
「チナツ、お前さんはもう少し鍛えろ。負傷者にとって最後の砦になるのはお前さんだぞ?」
「生き残るため……ですよね」
「分かってんのならいい。最低限同時に三人くらいは捌けるようにな、お前さんの射撃の腕は悪くはない。怪我しない程度にやれよ」
チナツのような救護係のやつらにとって一番大事なことは、生き残ることだ。
治す生かすは、その仕事に就いた以上の大前提。それは省くとして、生き残るためにも負傷者を生かすためにもなおのことこいつらには戦闘力が必要になる。
救護班でタッグを組んでの組み手に近間での射撃訓練を念入りに教え込んどけばよくはなるだろう。
「アコ、お前さん。さては賭け事弱いだろ」
「はっ、はぁああ!?急に何を言うかと思えば──「そうやって、図星を突かれたらすぐに取り乱すじゃねぇか」……くぅ……!」
「イオリが指示を出す役割ならお前さんは指揮だろ。そいつがすぐに慌てるような奴じゃどんなに強い部隊でも意味がねぇ。ポーカーフェイスを学べ、内心と表情を合わせるな。要するにカッコつけろってことだ」
アコは、とことん声に感情が出やすいタイプだ。
人の上に立つ奴がそれじゃいけねぇ、焦りってのはすぐに部隊中に伝播するもの。
最強も使い方次第じゃ腐っちまう。
「んで、最後にヒナ。お前さんはもっと周りを見ろ。一人で先に出て突っ走って死ぬ気か?」
「うっ……ごめんなさい」
「お前さんは誰よりも強い、だからこそ、周りの仲間の位置と足の速さを頭に叩き込め。背中を見せて語るのはそのあとだ」
ヒナには基本の連携からやらせた、格闘、救出、保護、射撃、障害物通過……どれをやらせても一番出来がいい。
だからこそ他の風紀委員が腑抜けちまう訳なんだが……
とは言え、集団組織としてそれは駄目だ。
やれるからやるじゃ、先に潰れて救えるもんも救えなくなる。
ヒナには、人一倍出来るからこそ厳しく連携ってものを叩きこむ。
「俺は厳しいが、怪我を押し通してやれなんざ言ってねぇぞ」
こういう厳しい演習を行ってるとたまに怪我をしても無理するバカが現れるが、そういう時は叱って止めるべきものだと俺は思う。
怪我の悪化で離脱されるほうが、こいつらにとっても嫌なものになるしな。
「休憩するときは、しっかり休めよ。動き足りないなら俺に言え。喧嘩相手くらいにはなってやる」
「……先生、私もいい?」
「ヒナ、お前は駄目だ。死人が出るぞ」
「それは……誰がかしら」
「俺だ」
休憩時間はしっかりとらせ、そこでも動きたいバカの戦闘訓練に付き合ったりする。
俺自身の練習にもなるしな。こういう戦闘の場から離れると鈍っちまう。
ただし、ヒナ……悪いがお前は駄目だ。
片手間でやれるほどの相手でもねぇし、この後の演習に付き合う体力がなくなる。
だから、そう悲しそうな顔をされるとだな……
「……今日の演習終わってそのあと時間があればな」
「!……ありがとう、先生」
年頃の子供らしいじゃれ合いたい欲求の延長線みたいなものか?
この先、もし仮にヒナと同レベルの敵と戦うとなった時に勝てないから生徒を見捨てますじゃ先生は成り立たねぇ。
そうなるとヒナとの練習試合ってのも俺にとってのいい練習になるのか?
そうして、休憩を終えて、また演習に戻り、時には一対一での戦闘で個々の実力を付け、演習が終わり、同じ釜の飯を食って、解散する。
普段は、家が遠い奴は建物内の宿泊施設を使うらしいが、今回は全員で同じ建物で寝ることにするらしい。
まぁ、そういうもんで芽生える団結ってのもあるもんか。
俺たちもよくそういうことをしたもんだ。
「先生って、撃つしか能がないとかいう割には教えるの上手いよね」
「ほんと、かなり親身に教えてくれるのに否定してくるしさ」
「お前ら、消灯時間だぞ、早く寝ろ」
「はーい」
まさか俺がこんな修学旅行の先生みたいなことをするなんざな。
生きてりゃ色んなことをするもんだ。
注意した生徒は返事だけしたのちに静かになり、息しか聞こえなくなる。
そうして、軽い見回りだけしたのちに俺は、建物の屋上で煙草を吹かしている。
最近は随分と吸う量が減っている。
日中は中々吸う機会もねぇし、子供は多いしで、こうやってガキ共が寝た夜にしか、今となっては吸えないのだからな。
「いい夜ね、先生……」
背中から声をかけられる。
「いい子は寝る時間だぞ、ヒナ」
静かで落ち着いた声色、気性が荒いと評判のゲヘナでこんなに落ち着いた声を出せるのはこいつぐらいなものだろう。
「普段は、もう少し遅くまで事務作業に追われてて……だからか、寝付けないの」
「なら今度からは、もう少し早く寝れるな」
「え?」
「真面目なお前さんのことだ。大方、自分がやらなくてもいい仕事を抱え込んでたんだろ?なら、今のお前さんなら人に頼るって選択肢があるんだからな」
「……えぇそうね……ねぇ、先生こそ寝なくて平気かしら……?その、ほら個人演習で……」
「お前さんが手加減してくれたおかげで、擦り傷程度で済んでるよ」
今日の演習が終わったあと、ヒナとサシでの戦闘訓練をやったが……まぁ何があったかは詳しくは言わねぇが……ボロ負けしたとだけ言っておく。
同じ手は使えないとは思ってたが、想像以上に対策されて、酷い目にあった。
「ふふっ……負けっぱなしじゃいられないもの」
「おっさん虐めて楽しいか?こいつめ……」
悔しくはない……と言ってしまえば噓になるが、子供と張り合う気はない。
いつの間にか隣に来ていたヒナが意地悪そうに微笑みかけてくる。
「おい、煙草吸ってんだ。離れろ」
「ごめんなさい……でも、少しだけ、こうしてていいかしら……」
溜息をつきながら俺は、ヒナの頭を少し撫でながら、煙草を踏み消す。
「先生……風紀委員として、それは見逃せない」
「……」
踏み消した吸い殻を、携帯灰皿に入れて仕舞い込む。
「これでいいかい?風紀委員長サマ?」
「えぇ、満足よ……その、一人の時間を邪魔しちゃってごめんなさい」
「気にすんな。子供は大人に甘えてな」
つくづく思うがこのキヴォトスのガキ共は随分と大人びてるというか、気にしなくてもいいものを気にするやつが多い。
良い子と言えばそれまでなんだが……ホシノもそうだったが、こいつも色々抱え込んでんだろうな。
「ほら、普段寝れてねぇならさっさと寝ちまいな」
「えぇ……先生、ありがとう」
背中越しに軽く手を振ってから、また一本俺は煙草に火をつけた。
そうして迎えた最終日。
随分と短く感じるもんだ。
「今日で最終日だ。元々腕はよかったからな、大して俺が教えるようなこともなかったんだが……最後にてめぇらがどれだけ強くなったかの試験を行う。俺は森のどこかに潜んでおく、お前らの勝利条件は俺にペイント弾を当てること。逆に俺の射撃を喰らったらそこでアウト、そいつは離脱しろ。全滅した時点で負けだ」
全員の前に立ち、俺は最後のミーティングを行う。
「俺の武装は、FR F2とこのマグナム、あとは煙幕グレネードくらいだな。開始のタイミングは……そうだな、俺がアコにでも連絡を入れよう」
そういって俺は、森の中を進んでいく。
この辺の木を使うとするか。
この森は、広葉樹が全体的に多く、湿気とぬかるんだ粘土質の土が足元からじっくりと体力を奪っていく。
そのうえ、樹林と化したここじゃ、ドローンみてぇなモダンなもんは使えない。
つまりだ、これはアコが視界の確保がしづらい環境下でどれだけ的確な指示を出せるかのテストなわけだ。
アコに開始の連絡を入れてから10分ほど経った頃か、距離にして50mほど離れた木の葉の影が揺れる。
隠密はまだまだらしいな。
一瞬だが、見えた白い髪色……ヒナか。
今までのヒナであればそのまま突撃してくるだろうが……件のヒナはそのまま引いて森の中へと消えていく。
指示を受け取るために一度退散したか……それでいいんだ。
──────
────────────
────────────────────
「アコ、先生を見つけたわ。地点D4の一番大きな檜に構えてた。こっちも見つかったから現在少し引いてD2で待機中。指示を頂戴」
『ありがとうございます、30秒後、同じ個所を確認して……いた場合は連絡を再度お願いします。』
「了解」
アコもこの演習で随分と成長した。
前なら後手の対応ばっかりだったのに、今は先を読んで可能性の取捨選択での指示を出せている。
演習前のミーティングでも情報共有をやりやすくするためにマップを分割、英数字で振り分けて簡略化する案を即座に出してたしNo.2に相応しい貫禄がついたと素直に思う。
「アコ、いなかったわ。地面に足跡がついてC4の方面に続いている」
『なるほど……罠の可能性がありますが……アルファ、ブラボー隊と合流したのちに足跡の追跡をお願いします。チナツはチャーリー隊と共に音を立てながら、B4からC3へ、イオリはデルタ、フォックス隊と共にそのまま前進してください。エコー隊はA1からC4へと移動を開始してください』
────────────────────
────────────
──────
しばらく移動するとB方面から物音が聞こえてくる……恐らく誘いだろう。
俺の意識をそっちに向かわせて、他の部隊を動かす。
概ねそんな所だろうな。
足跡を追ってくる部隊もいると考えるなら……ここらで撒いとくべきか。
バックトラック。
自分の付けた足跡を踏んで戻り、木に飛び移って、足跡の痕跡を消す手法だ。
古典的な手だが……こういうのが案外引っかかるときもある。
木を渡りながら、離れた位置で狙撃銃を構える。
しばらく待つと、イオリの率いる隊が見える。
さっき足跡を消したところからは随分と離れた場所だ。
恐らく後を追ってくるであろうヒナの部隊はまだ来ないはず……
息を止めて……ペイント弾を放つ。
部隊の一人の頭に命中したことをスコープ越しに確認した。
さて、突然の襲撃……どう対応する?
──────
────────────
────────────────────
「すみません……やられました……」
頭をペイント弾で汚れた仲間を木陰に移しながら私は指示を出す。
「C5から射撃!デルタ隊はその方面に制圧射撃!フォックス隊は広く展開したのちに標的の捕捉を開始!!」
「イオリ隊長!標的捕捉しました!西の方角300m先の樹上です!」
「よくやった!デルタ隊は射撃の継続、フォックス隊と私が接近するまでの間奴に撃たせるな!」
ほんと、先生との演習では嫌になるくらい罠にかけられたけど、そのおかげで……色んな指揮のやり方を教えてもらった。
先生曰く、私は相手の弱点を見つけるのが上手いらしい。だからそれですぐに突っ込んじゃうんだとか……だから、相手の弱点じゃなく味方の弱点を見つけてそれのカバーに入れるようになれって言われた時は目からうろこだった。
そういうやり方もあったんだ。なんで思いつかなかったんだって……だから、今日はその成果を直接見せてやりたい。
────────────────────
────────────
──────
俺の位置を把握してからの絶え間ない射撃で顔が出せずにいた俺は、相手の接近を許してしまった。
数が多いとこういう戦法が取れるから相手にするとキツい。
接近してくるイオリを見ると、左右に展開している部隊のやつらにハンドサインで指示を出している。
聞こえてくる範囲を予測して、切り替えてるわけか。
しっかり学べてるみたいでよかったと思うが、まだ終わらせるわけにはいかないんでな。
いつの間にか出来上がっているこの包囲網を突破しなきゃならねぇみたいだ。
「降参するか?先生」
「その勝ちを確信する癖は……直さねぇとな」
煙幕が木全体を隠すほどに立ち上る。
最初の演習が効いてるからこそ、一斉射撃が始まる。
こいつらの射撃の腕はいい。それはつまり、弾が一点に集まってしまうってことだ。
さっきまで俺がいた位置に一斉に銃弾が襲うが、既にそこに俺はいない。
「っ!木全体に射撃し──「次からはそうしな」へぶっ!?」
煙幕から出た先にイオリがいたのは誤算だった。
その体を蹴り飛ばしながら俺は脱出する。
偶然とはいえ女を蹴るのはやっぱ気分悪いな。
脱出した先に居たのはチナツの居る部隊だった。
アイツには徹底的に、至近距離での戦闘訓練と、暗殺しに来る俺から逃げる後の先を取る訓練、俺自身を相手に暗殺を仕掛ける相手の裏を掻く訓練をやりこませた。
そのせいで随分とこいつは感知能力に長けるようになった。
俺よりもその点では早いんじゃねぇか?
第六感なんていう迷信を俺は信じちゃいねぇが、それに近しいものをアイツは手に入れた。
「来ます……皆さん、用意を!」
まだ後ろからイオリが追ってきてるかもしれねぇからな。
このまま近間でやらせてもらおう。
俺とチナツの距離が近づいたタイミングで俺は停止する。
うっすらとだが、俺の目の前……いや基地の入り口にピアノ線が張り巡らされている。
チナツが手をあげると物陰から、部隊のメンバーが飛び出し突貫してくる。
ここで足止め、もしくは俺の動きを縛り上げてから袋叩き。
それが作戦だったわけか。
罠の配置からして、恐らく即興。
感知から対策までの速さは流石としかいねぇな。
「やるじゃねぇか、チナツ」
「……速攻で部員全員を叩きのめしたあなたに言われても」
ハンドガンが比較的得意な部隊で固めたらしいが、動きが素直すぎるのが弱点だ。
これに関しては、経験値が物言うもんだ。
チナツにマグナムを向ける。
引き金を引こうとしたタイミングで……後ろの方から物音が聞こえてくる。
恐らく、追ってきたイオリらだろう。
分が悪すぎるな。
──────
────────────
────────────────────
「チナツ!先生は!」
「先ほど、逃げてしまいました……アコちゃんに報告しないと」
『聞こえてますよ、どの方に逃げましたか?』
「C4の方面に……恐らく、先生は私たちの成長の確認をしてるのでは……?」
『なるほど……分かりました、では残存する全部隊をC4へ……委員長、存分に、成果を披露してください』
『……ふふ、了解。みんなも早く来て』
短い通信の後、最後に聞こえてきたのはヒナ委員長のクスリと笑う笑い声だった。
普段、仏頂面で、滅多に微笑むことすらしないヒナ委員長がこんなに楽しそうなのは委員会に入ってから初めてだ。
同期の子達曰く、夜の歓談にも積極的に参加したり、仕事中は少し怖くて真面目な人だけど根は私たちと同じなんだってことを認識させられたりと……今回の演習では本当に色んなことを学ばせてもらった。
先生がキヴォトスに来てから、普段と違う風が吹き始めている。
そんな予感が私の中で感じていた。
────────────────────
────────────
──────
この演習期間、ほぼ毎日のように俺はヒナの個人演習に付き合うことが多かった。
それだけ普段は、自分と渡り合える人間に飢えていたのかもしれねぇが……
そのおかげか、俺自身も随分とヒナの速さに慣れてきた。
あいつ自身がなまじ強すぎるのが問題で、単独行動が大きく目立ってしまった。
しかし、無理に組織での行動をしようとすると、今度はヒナ自身が周りを気遣って能力に制限を掛けてしまう。
そこで、取った行動は、幹部を除いた有志……まぁ風紀委員全員だったが、その中でも特に運動能力に優れたメンバーを集めて、ヒナのサポートを取らせる部隊を作ることにした。
アルファとブラボーはヒナの右腕となる戦闘部隊として、ヒナの速度と戦闘の考え方についてこれるように訓練を重ねた部隊だ。
ヒナ曰く、自分の神秘である重圧をかけ続けて、それに耐え残った子を選んだと言っていた。
そのメンバーは文字通りの血反吐を吐くような訓練を耐え抜き、ヒナの全力の戦闘をサポートできるほどの戦闘力を保持できるようになった。
なんせ、高速で動くヒナについていきながら周りを常に警戒、思考を止めることなく、補助に徹するのだからな。
俺の知る限りでこいつらよりもサポート能力のある奴らは然う然うはいねぇと思う。
「先生……私の番ってことかしら」
「なんだ、もう気づいて──」
銃弾が頬を掠める。
射撃はヒナの後ろからだ。
後ろに飛びながら徐々に増えていく弾丸を何とか避けていく。
その弾丸の雨の中をヒナは気にも留めずに最高速で飛んでくる。
背中の方から撃たれているにも関わらず気にも留めずに飛べるのは、それほどまでに部下を信頼しているからだろう。
ヒナには当てず、俺を狙うその銃撃。
並みの努力じゃできやしない。
「全力ってわけか」
「それでなきゃ意味がないでしょう?」
「確かにな!」
木を足場に直角での蹴りを放つヒナを避けながら、後ろの射撃を行う部隊の一人を狙撃する。
ヒナよりも先に向こうのやつらをどうにかしねぇと俺の勝ち筋はない。
だが、そんな暇を与えてくれるほど甘い奴でもない。
「弁償は後でする」
手に持っていた狙撃銃の銃身が真っ二つに切り裂かれる。
弾丸は命中こそすれど、銃はもう使えない。
鉄で出来た銃身を切り裂いたのは薄く延ばされたヒナの羽だ。
それを薙いで俺の銃を破壊した。
「おいおい、殺す気か?」
「最初戦ったときの貴方はそうだったでしょう?」
逃げる俺に向かってくる弾丸の中にヒナの銃から放たれる弾が混じる。
後ろから放たれる銃が面での制圧を目的としているのなら、ヒナの銃撃は仕留めるために放たれるものだ。
他の銃弾よりも俺の行動を読んで撃ってくる分、避けるのは至難の業。
なんとか、息も絶え絶えになりながらも逃げ続けると、銃撃が止む。
「はぁ……なんだ?リロードか?」
「先生、最後にお願いがあるの」
「あ?戦闘中だぞ、それは後にしろ」
いつの間にか、他の全部隊が集まっている。
「ヒナ委員長、包囲完了しました」
「先生、これで追い詰めた。逃げ場はないわ」
だからと、彼女は言葉を続ける。
「本気で、私たちのことを殺しに来てくれないかしら」
まさか、子供の口からそれが出るとはな。
彼女たちの職務上、死とは隣り合わせだと俺は思っていた。
だが、ヘイロー……その存在は良くも悪くも彼女たちの危機管理の能力を落とした。
銃撃じゃ死なない世界で生きてきた。
「嫌だと言ったら」
「悲しいけど、それも仕方のな──」
銃撃が鳴り響き、ヒナの隣に立っていた子の顔がペイント弾で汚れ、そのまま仰向けに倒れる。
その瞬間、全員が俺から距離を取る。
そりゃそうだ、いきなり会話中に部下が一人やられたんだからな。
──────
────────────
────────────────────
殺意。
あの時の先生から感じられたその威圧の名前。
あの夜の先生の温かい手と言葉が嘘だったんじゃないかと思ってしまうほどの濃密なそれは、いったい何人の人間をその手で殺めてきたら出せるのだろうか。
いつの間にか手に握られていた黒鉄の拳銃とどんな人生を歩めば、こんなものを。
「子供が、あんまそういうことを言うもんじゃねぇよ」
先生が口を開く。
「言っとくが、俺は殺し屋でもねぇ、ただ……言葉には気を付けろ。そっちも本気で殺しに来い」
私は、マコトに見せてもらった、あのカイザーを撃ったときの先生に興味を持ってしまった。
好奇心は猫を殺すだなんて、そんな言葉をどこかで聞いたけど……こういうことを言うのかしら。
あの状態の先生を倒す……いや、殺すには……この作戦しかない。
「みんな、集合して……作戦を伝達する」
────────────────────
────────────
──────
俺のマグナムは少しだけ改造をしてある。
それはダブルアクションでもとある技術を使えるようにする改造だ。
名前はファニング。
トリガーを引いた状態で撃鉄を起こすことで、連射を可能にする……本来はシングルアクションでやる技術。
バカスカ撃つのは趣味じゃねぇが、多対一でなら、これも有用な技だ。
残りの装弾5発をすばやく撃ちきり、煙幕を使って撤退を行う。
とはいえ、包囲されてることには違いない……どうしたもんか……
向こうの動きは、まだ見えない。
まさか引いたのか?
木陰に隠れていると左右の物陰から二名の人影が飛び出してくる。
「先生!」
「悪いけど、ダンスの練習に付き合ってもらうよ」
チナツとイオリが、迫って来る。
イオリの槍の突きのように突き出した銃を、体を逸らして避け、そのまま脇に銃を挟み込み、チナツは俺の顔目掛けて放たれた回し蹴りを上半身を逸らして避け、その背中に銃弾を撃ち込む。
イオリは、脇に挟まれた銃を振り回し、俺の体を木陰から追い出し、そのまま眉間に銃弾を食らう。
「二人とも、ありがとう」
すぐさま来るであろう銃撃を警戒すると、頭上から声が聞こえ、上を向いたそこには誰もいなく、背後から声が聞こえる。
「総員!!射撃開始!!」
羽交い絞めにされる。
そして、正面から飛んでくる無数の弾丸。
反省点はあれど……合格だな。
ヒナの作戦はこうだ。
一度態勢を立て直すであろう俺を予測し、張られた煙幕を用いて、奇襲。
そして、上空に移動したヒナと俺の位置を合わせ、ヒナ自身も上空から奇襲、気づかれる前に背後に移動し、自分ごと狙撃させる。
自己犠牲の精神はまだ根強そうだが、作戦を成功させるには移動するチナツとイオリを引き付ける時間稼ぎ。
ヒナ自身に託すための連携、そして何より全体の意識が一つになってなきゃできやしない。
だから、その点に関して、当初の目的を俺は果たせていると思う。
まぁ自分ごと撃たせるのは止めろと注意はしたがな。
「こんなとこでどうだ?マコト」
「キキキッ、ご苦労だったな先生。ヒナの高慢ちきなとこも直せたようでなによりだ」
「いや、実力はあるだろあいつは」
俺は今、すべての演習を終えて万魔殿で、マコトに報告をしている。
俺の言葉を聞いたマコトが少し真面目な表情を取り、話し出す。
「私が言ってるのはそこではない、アイツのメンタル面の問題の方だ」
「そっちも……隈ももう見えねぇししばらくは大丈夫じゃねぇか?」
「……キキキッ!そうでなければな!名実共にこのマコト様がトップになるためにも奴の死に場所がこんなところでは困る!」
邪悪そうに笑うマコトを見て、めんどくせぇ生き方をしているなと素直にそう思う。
ヒナにはそうなだけで他のことには違うのかもしれねぇがな。
「さて、先生よ。報酬がまだだったな」
「ヒナからの願いだからいらねぇと、言いたかったが……てめぇのあの依頼のせいでたっぷり5年は寿命が縮んだからな」
「キャハハハ!それは悪いことをしたなぁ。ではどうだ?このマコト様の情報網で何か一つ先生の知りたいことを調べてやろう」
マコトから提供されたそれは、一見価値のなさそうなものに見えるが……マコトはどういう訳か、俺がカイザーを殺したことを知っていたように、情報網自体は目を見張る物がある。
「知りたいことか……」
気になることか……
今後も増えていくこともあるだろうが、当面残っている謎は……
俺のマグナムにいつの間にか宿った神秘。
アビドスとゲヘナの過去の繋がり。
神秘と恐怖。
ってところか……
「今は多すぎて決めらんねぇから、今度でもいいか?」
「構わんぞ、このマコト様の力を借りれる貴重な機会だからな!大いに悩むと良い!キキキッ」
そんなことがあり、俺とマコトの対談は終わった。
万魔殿から出ると、初日の時のように、ヒナが待っていた。
「先生、もう帰るのよね?」
「まぁな、これ以上シャーレを空けたら……アルが何かしでかしてそうで不安だからな」
「……そうよね」
「暇でなくてもいつでもシャーレに会いに来な」
しょんぼりと下を向くヒナの頭を撫でながら声をかける。
「い、良いの?」
「お前さんも俺の生徒だからな。あ、もう相手はしねぇぞ。お前さんとの戦いは寿命がいくつあっても足りねぇ」
「……わかったわ、でも……そうね、今度は先生が何か困ったことがあったら力になるわ」
少しだけ残念そうにしたヒナが提案する。
「それは心強いな。頼りにする」
「えぇ……だから、その、たまに甘えても……」
「その答えは前に言ったろ?」
顔を少し輝かせたヒナを見て、俺はそのままゲヘナ学園を後にする。
永遠の別れでもあるまいし、振り返ることもなく俺は、シャーレへと向かう。
また、次の仕事に取り掛かるために。
うちのヒナちゃんと先生の在り方は割と好敵手(一方的)なイメージで出力されてます
初の毎日投稿途切れが発生。
バイト後に全部は書ききれなんだ……
活動報告の方に少しだけ、皆様へのご協力願いを出しております。
もしよろしければお力添えいただけると有難いです。
次回からは、メインストーリーに移ろうかなと考えています。
まだ消化できてないリクエストやシチュは、今後の休憩の箸休めとして残しておこうかなと……
それでは、Vol.2『鍵と王女とガンマンと』でまた再開いたしましょう。
今の話のタイトルが分かりにくいとの意見を得て変更するか否か
-
例:殺し屋の矜持
-
例:1-10
-
例:1-10 殺し屋の矜持