新任教師『次元大介』   作:レイゴン

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1-4 アリス

「あの子……眠ってるのかな?」

 

「……お前ら周りを警戒。モモイとミドリも近づくんじゃないぞ」

 

 便利屋達に素早く指示を飛ばし、興味津々に近づこうとするモモイを諌める。

 この目の前の遺物を前にして、俺とリオだけじゃ判断しずらいものがあるからな。

 渋々しょうがなくではあるが、俺はアロナに頼んでヒマリの通信を繋ぎなおす。

 

『や、やっと繋がりましたね……先生、この数十分間、ミレニアムの誇る天才美少女ハッカーに対して行った仕打ち、必ずお返し致し───『ヒマリ、今はそれどころじゃないから後にして頂戴』……リオ、私のセリフに被せるのは些か……うん?あれが……件のものですか』

 

 俺に対して何か恐ろしいことを言おうとしたが、リオにそれは止められ、すぐさま今置かれている状況と自分がどうすべきかの思考に移る。

 こういった切り替えの早さは流石天才と言ったところか。

 長々しい口上さえ無くなれば完璧だというのに。

 

「先生、周りに怪しい機械はなかったわ」

 

「うん、爆弾どころか銃火器らしきものも何一つなかったよ~」

 

 アルとムツキが連絡をする。

 余程ここの封印に自信があったのか、それともそれすらいらない程に目の前の遺物の戦力は凄まじいのか……

 

「ねぇ、起きてますか……?」

 

「おーい!ねぇってば!」

 

 ミドリとモモイが少し離れた場所から声をかけているが、それに反応する様子はない。

 一見眠ってるように見えるが……よく見ると体が一切一ミリとて動く様子がない……

 まさか……呼吸してないのか?

 その黒く床に広がるように伸びている髪は、昔どこかで見たおとぎ話の中の姫の様にも見える。

 審美眼はそれなりにあるつもりだが、国立博物館に展示しているような崇高な美術品にもみえる。

 

「なんだっけ、こういうの……返事がない。ただの屍の様だ……だっけ?」

 

「お姉ちゃん不謹慎だよ。でも死体ってよりかは……まるで電源が入ってないみたいな感じじゃない?」

 

「せ、先生……万が一がありますから……わ、私が行きましょうか?」

 

 モモイとミドリが少しふざけている中でハルカが俺に対して提案してくる。

 そういうところで我先にと動くところはハルカのいいところでもあるんだが……

 

「モモイ、ミドリ。まだ近づくなよ、俺が行く」

 

「先生、大丈夫?ヘイローないんだし、私たちの方がいいと思うんだけど」

 

 不用意に好奇心に駆られて近づこうとする才羽姉妹を手で制しながら近付こうとすると、カヨコに呼び止められる。

 まぁご尤もではある、事実ヘイローのない俺が一番死にやすいんだが……

 

「俺には『こいつ』があるんでな。ゲヘナの迫撃砲の直撃程度なら無傷に出来る。何回もは無理だが、そんなに食らうほどのアマチュアでもねぇよ」

 

『ふふん!いざとなった時の先生の命綱!このアロナちゃんがいる限り先生の身の安全は保障されています!』

 

 この面白珍生物を誰も見れないのが非常に残念だと今でも思うが、こいつには本当に何度も助けられているからな。そろそろ、いちごミルクをL単位で支払うべきか……

 俺がシッテムの箱を見せると、カヨコも覚えがあったのかそれ以上は何も言わずに身を引いてくれる。

 

『先生、どうかしら……それは一体……』

 

「先生~どう~?」

 

 リオとモモイが聞いてくるが、どういったものか……

 近づいただけでは起きる様子もなく、まるで人間かのような質感のある肌をしている……

 

「近づいただけじゃ、反応はしないみたいだな……近くの端末も反応なし」

 

 説明しながら、近くに隠れていた端末に触れるが、反応を返すことはない。

 この遺物とは関係ないものなのか?

 

「はぁ、仕方ねぇ……触れてみるぞ」

 

「わわ……そこはかとなく香る大人な──「お姉ちゃん真面目にやって」」

 

 その精巧に出来た顔にかかった髪を掻き分けながら、俺は遺物の頬に触れる。

 手に吸い付くような質感……これじゃまるで本当の人間じゃないか?

 何時だったかは忘れたがマモーとかいうイカれた神を自称する科学者は世界中の偉人をクローンとして甦らせてたが、目の前のこの遺物もそういった誰かのクローン的な何かなのか?

 しばらくそうして触れてみるが反応を示す様子もない。

 

 仮死状態って奴なのか、それとも特定のワードを言うことで起動するのか。

 なんにせよ、こいつは長い間誰かに見つけられることを目的としてここに保管されていたんだ。

 何のために、誰が、どうやって。

 そういう推理ごっこは俺の専門じゃねぇからな。

 謎ばかりが、残るもんだ。

 

「特に問題はなさそうだな。ミドリ、さっきからソワソワしてるがどうかしたか?」

 

「あ、その……そのままじゃ可哀そうなので、服を着せてあげたいなって」

 

「先生~!もう近づいてもいい?」

 

 そういえば、全裸だったな。推定人間ではないとしても人型。

 もう我慢の出来なさそうなやつもいることだし、姉妹のやりたいことをやらせるべきか。

 

「いいぞ、ただ不用意に触るなよ?何がきっかけで起きるか分からねぇからな」

 

「はーい!ミドリ、行こう!」

 

 モモイに連れられて、ミドリが遺物に服を着せていく。

 服を着させると、一気に少女の様に見えてくる。

 

「先生、ここに何か書いてあるわ」

 

 アルが何か見つけたようで、俺もそこに向かうと、椅子に何か文字が刻まれている。

 

「……『AL-1S』こいつの名前か?」

 

「なら、アリスって読むのかな?」

 

 いつの間にか隣に来ていたモモイがそう聞いてくるが、何とも言えない。

 この名付け方は、俺としては何か兵器の型番のような印象を感じるが……兵器ならこんな可憐な見た目にするものなのか……

 

「いったいこの子は……それにこの場所、ミレニアムの雰囲気とまるで違う……一体何なんだろう」

 

「この子に聞いた方が早いんじゃない?」

 

「起きて話してくれるのなら良いんだけど。もちろん、それができれば一番──」

 

 ミドリが、遺物の方を見て話している。そんな最中だった。

 警告音と僅かな起動音。

 二種類の音が響く。

 

「二人とも下がれ!」

 

「はいはーい、こっちに来ようね!」

 

 俺が警告を出すとほぼ同時に、ムツキとカヨコが二人を掴んで距離を離させる。

 アルやモモイ達が興味にそそられて探っている中でこの二人は警戒を緩めずに待機していてくれたようだ。

 ハルカは部屋の出入口らしきものを見張ってくれている。

 

「アル!何か触れたか!?」

 

「何も触ってないわよ!」

 

「何!?今の音?」

 

「警告音みたいだけど……もしかくて近くにロボットが?」

 

「違う、ようやく目覚めたみたいだぞ」

 

 アルじゃねぇってことは、こいつの起動条件は時間経過か?

 いや、今はそこに集中するべきじゃねぇな。

 警告音の中に僅かに聞こえた起動音、それは目の前の遺物から聞こえた。

 そして、今まで何も反応を示さずに沈黙を返し続けた王女が、ゆっくりとその目を開く。

 

「状態の変化、および接触許可対象を感知。休眠状態を解除します」

 

「お、起きた……!?」

 

「……さて、どうしたものか」

 

 まるで生きているかのように、落ち着いた様子で辺りを見回し、そして玉座から立ち上がり、ゆっくりと先頭に立つ俺に歩み寄る。

 

「状況把握、難航……会話を試みます。説明をお願いできますか」

 

 意思疎通が出来る、しかも初手の行動が攻撃ではなく対話。

 こいつを作った奴は、争いを目的として生み出したわけではないのか?

 争いが目的なら即座に攻撃に移ってもいいものだが……言葉には気を付けなきゃならねぇな。

 まだ、敵対してくる可能性はある。

 

「そうだな。色々説明したいところなんだが、まずはお前さんが何者なのか聞いてもいいか?」

 

「本機の自我、記憶、目的は消失状態であることを確認。データがありません」

 

「記憶喪失ってところか……」

 

「い、いきなり攻撃とかしてこないよね?」

 

「肯定。接触許可対象への遭遇時、本機の敵対意思は発動しません」

 

「要するに何もしてこなきゃ、何もしねぇよってところか?」

 

「肯定」

 

 後ろからミドリが怯えながら質問を飛ばすがそれに対して簡潔に淀みなく応答を返す。

 攻撃が不可能ってわけではないが、少なくとも攻撃しない限りはこいつは無害だ。

 

『先生、今すぐに逃げて。何も分からないけども、敵対意思がないのなら撤退可能なはずよ。C&Cを向かわせるからすぐに逃げて』

 

『リオ、冷静になってください。私たちの依頼はこの「何か」を持ち帰ることでしょう?』

 

『ヒマリこそ何を考えてるの、今はそんな状況じゃないでしょう!』

 

「このまま対話を続けるぞ」

 

『先生!?』

 

 俺がそう伝えると、リオが珍しく感情の籠った声で俺を呼ぶ。

 やっぱりアイツ、自分の感情を押し殺してるタイプだったか。

 色々言いたいことが見つかったが……今はいい。

 

「うわ、すごい。ロボットの市民ならキヴォトスによくいるけど、こんなに私たちに似てるロボットなんて初めて」

 

 すっかり調子を取り戻したモモイは俺の傍に駆け寄って、目の前の少女のことをロボットだと称した。

 ロボットに囲まれた工場と、さっき聞こえた起動音での判断か。

 まぁ俺も概ね同じ意見ではあるのだが……

 

「質問の続きだ、接触許可対象って言ってたな。それは俺たちってことでいいんだな?」

 

「……回答不可。本機の深層意識における第一反応が発生したものと推測されます」

 

「要するに何かがその回答を拒否したってわけか」

 

 鍵がかかってるって感じか?

 この感じ、意図的に記憶が消えてるってところか。

 シッテムの箱が資格になっていると考えれば、恐らくこいつも連邦生徒会長が残したものだと考えるべきか。

 つまり、その消された記憶はここに来るであろう人物にとって不都合だったわけか。

 

「どうしたものかね……」

 

 近くにモモイがいる以上直接呼びかけるわけにもいかない。

 だから、呟くように言って裏の傍観者二人に問いかける。

 何かを持ち帰るという計画上、これじゃそういうわけにもいかないだろう。

 

『持ち帰りましょう』

 

『この場で破壊してください』

 

 予想通りではあったが、その意見は真っ二つに分かれた。

 何というか、ここまでわかりやすいと笑えてくるもんだ。

 

『ヒマリ?何の冗談?あれをミレニアムに持ち帰るですって?』

 

『あら、元々の計画ではその予定だったでしょう。持ち帰ったところでどうやって破壊するつもりなんですか』

 

『……C&Cに一任するわ』

 

『では、仮にC&Cに任せたとして、その後破壊できる保証は?それどころか返り討ちに会い、本当に敵対するかもしれません。それなら今のうちにこちらに引き込むべきです』

 

『あり得ないわ、味方である保証もないのに、それだけの理由で、ミレニアムの生徒全てを危険に晒すとでもいうの?』

 

『では、危険だという理由を。あり得ないと思う訳を示してください。貴方はあれの何を知ってるんですか』

 

『……それは貴方もでしょう……』

 

 平行線の議論ほど聞くに堪えねぇもんはない。

 リオは生徒会長としての責務を果たそうとしてるが些か臆病すぎ。

 ヒマリは現状ある情報での最善を示しているが、根拠もその情報も乏しすぎる。

 疑いたくはないが、目の前の少女の言う全てが嘘の可能性があるからな。

 

 とは言えだ……俺としてもこいつを破壊されるのは困る。

 俺をここに呼んだ連邦生徒会長が残したものであるのなら、きっと何か目的があるはず。

 壊すために残すとは考えられない。

 そして、なによりも……

 

「うーん……工場の地下、ほぼ全裸の女の子、おまけに記憶喪失。……ふふっ、良いこと思いついちゃった」

 

 俺の隣にいる勇者の表情を俺は奪いたくない。

 

「いや……今の言葉の羅列からは、嫌なことしか思い当たらないんだけど……」

 

「???」

 

「いいぜ、言ってみろ」

 

「この子連れ帰ってもいい?」

 

 予想通りではあったが、迷子犬を連れ帰るかのようなノリで言うとは思わなかったな。

 

「連れ帰って、自分たちの部員にしたいってところだろ?」

 

「正解!流石先生!」

 

『あら、素晴らしい良い案ではないですか、先生も同意してあげては如何ですか?』

 

 ヒマリの言う通り、荒唐無稽もいいとこだが、確かに破壊するに比べればいい案ではあるんだが、恐らくモモイはまだわかり切ってない。

 何も教えずに同意するほど、俺は甘くはない。

 

「モモイ、多分お前さんはまだ理解しきってねぇだろうから一応忠告するが……まだ彼女のことは何も分かってない。もしかしたらいつかお前のことを殺してくるかもしれねぇ。

 そういう危険性があることを理解したうえで、お前さんはどうしたい。

 もう一度同じことを言えるのか?」

 

「うーん……でもさ、先生。友達になれるかもしれないじゃん」

 

 つぶらな瞳で、モモイは俺にそう話す。

 打算も合理性も、理論もない。

 ただ、そう信じていると。

 

「何も知らないってことはさ、仲間になってくれるかもしれないし。それにこんなところに放っておけないよ」

 

 その無垢な言葉と視線。

 俺のような汚い大人が忘れちまった大事なものだと俺は思う。

 

「ね!そうでしょ?アリス!」

 

「──……?」

 

 その純粋で真っ白な笑顔でモモイは、少女……アリスへと呼びかける。

 当の本人は、首を傾げたままだが。

 

「あなたの名前だよ!アリス!よろしくね!」

 

「名称変更……本機の名称は『アリス』。確認をお願いします」

 

「ちょ、ちょっと待って!それお姉ちゃんが勝手に読んだ奴でしょ?今名称変更とか言ってたし……本当なら『AL-1S』ちゃんなんじゃないの?」

 

「そんなに長かったら、呼びにくいじゃん?どう、アリス。気に入った?」

 

「…………」

 

 遺物である少女は目を閉じて深く考え込む。

 そして、しばらくたったあと、その顔をにっこりとした笑顔に染めて、

 

「……肯定。本機、アリス」

 

 と宣言した。

 驚いた、まさか感情まであるのか?

 あの笑顔からは作り物や嘘のようなものは感じなかった。

 適切なタイミングで笑顔をするといっても、あぁも上手くいくものかね。

 

「あはは! ほら、見たか私のネーミングセンス!」

 

「うーん、いいのかな……」

 

「本人が気に入ってるしいいんじゃないかなぁ~?」

 

「ムツキさんまで……」

 

 名前を付けるってのは大事なもんだ。

 そのものに愛着が湧くからな。

 

「よし、ならお前ら帰るぞ。モモイ、ミドリ。アリスの世話は任せた」

 

「うん!任せて!」

 

 自信満々にそう話すモモイたちを見送りながら、無線の方に耳を傾ける。

 

「で、リオ。お前さんはアイツをモモイたちから回収する気か?」

 

『……できるわけがないわ。カバーストーリーも作成できない……少し考えさせて頂戴』

 

 リオには少し悪いことをしたが、俺はこの選択を後悔する気はない。

 何より、あのアリスのことはモモイたちに任せればうまくいく。

 そんな気がしてるからだ。

 

 

 

 

 

 数日後、俺は少しミレニアムから離れ、別の学校に足を運んでいた。

 そこでもひと悶着あったわけだが、そこは今はいい。

 

 なんだか久しぶりにゲーム開発部に足を運んだ俺を待ち受けていたのは……

 

「パンパカパーン!アリスは先生とエンカウントしました!」

 

 変わり果てたアリスの姿だった。

 

 俺は、選択を間違えたのか?

 




ミレニアムに帰ってきた先生を待ち受けていたのは変わり果てた王女の姿
再び、再会する先生とリオ。そして、王女は剣を手に取る。

次回 それは銃と呼ぶには余りにもデカすぎた


何とか、更新できましたね……
先生がミレニアムを離れていた期間何をしていたかは、鏡争奪戦前に書こうかなと考えておりますニンニン。

現在、投票者数200人突破記念イベントしております、もしよろしければ活動報告の方除いていただければなと存じます!

ここから、更新ペースが落ちてしまいますが何卒ご容赦頂ければ幸いです。
ワイルズが面白すぎるのが半分悪いんだ……

最後に、ここすき、感想、評価していただけると励みになりますもしよろしければお願いします!

今の話のタイトルが分かりにくいとの意見を得て変更するか否か

  • 例:殺し屋の矜持
  • 例:1-10
  • 例:1-10 殺し屋の矜持
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