廃墟で起きたモモイのゲームデータの喪失という小さな犠牲の元、件の『G.Bible』を持ち帰った翌日。
ゲーム開発部は、ヴェリタスにそのゲーム端末を持ち込み、俺たちの作戦通りヴェリタス経由で、鏡争奪作戦の話を聞いたようだった。
「相手は、生徒会とメイド部。勝算はあるのか?」
「うっ……それは分かんない。でもハレ先輩が言うには……今のC&Cには最強のネル先輩とアスナ先輩がいないって……それに正面衝突するようなことはしないし……」
俺は今、ゲーム開発部の部室でどんな話をされたのかを聞いている。
なるほどな、ヴェリタスの部員には知らせたわけではないのか。
ネルとアスナ……00と01だったな。
そいつらが参戦するのも昨日知らされたことだしこのまま騙しておくのが行動しやすいもんか。
「そうか……もう一つ聞くけどな、モモイ。お前さんがやろうとしてるのは犯罪だぜ?」
「うん……それは分かってるつもり、でも……部活動を守る為に、みんなで一緒にいるための居場所を守る為にどうしても必要なの。だから先生お願い、力を貸して!」
どうやら、既にエンジニア部にも協力要請をしているようで……最後は俺だけのようだった。
用意周到というべきか……
しかしなんだ、いつも通りと言えばいつも通りだが、キヴォトスに来ても俺は差し伸べられた手を振り払えねぇもんだ。
あのバカの提案なら容赦なく降りれるんだけどな。
「はぁ……分かった。お前さんが犯罪だって分かった上で、それでもどうしようもねぇんだろ」
どちらにせよ、この作戦はリオの疑念を晴らす為にも行わなきゃいけねぇもんだからな。
とことんこいつらを巻き込んでしまうのが申し訳なく思う。
今回の仕事は何が起こるか分かったもんじゃねぇからな。
俺も俺に出来ることを準備しておこう。
作戦決行の前日。
『先生……今いいかしら?』
リオからメッセージが届く。
『実は、ゲーム開発部への報酬の件で悩んでいて、私としてはこれで良いと思うのだけれど……先生はどう思うかしら』
俺がリオに会話の練習に俺を使えと言ってから、そんなに時間は経っていないが、何かとアイツから相談のメールが届くようになった。
まぁ、アイツなりに変わろうとしてるんだろうから無下には出来ねぇよな。
メールを読み進めると、アイツはどうやらゲーム開発部の作品がどんなものであれ入賞させようとしているようだった。
……俺に一声かけてくれてよかったと思う。
アイツらも、本気でゲームを作って本気でゲームを愛している。
その行為はあいつらの意思を踏み躙るようなもんだ。
だから、やるなら別のもんにした方がいい。
少なくとも直接関与するんじゃなくあくまでも努力をさせてやれる方法を探せ。
とまぁ、そんな内容のことを俺は送った。
変わろうとしてるその意思が大事だからな……とは言えアイツの立場を考えれば失敗一つするのも大変なもんだ。
だから、こうやって行動する前に相談してくれるのは助かるもんだ。
とは言え、答えを与えるだけじゃ学びにならねぇ。
あくまで俺が教えるのはヒントだけに抑えておくべきだろう。
メールを返したところで俺は、また映像を見始める。
流れているのはエンジニア部の部長ウタハから貰った警備ドローン相手に行った美甘ネルの射撃訓練の動画だ。
使ってる機材の限界なのかは分からねぇが時折ネル自身がブレて何をやってるか分からない時がある。
ミレニアムのカメラでも捉えきれないほどの速度。
25機の大小含めた警備ドローンを僅か2分半で破壊する戦闘力。
そして、原理は不明だが……初撃に行われた大爆発、見返して気づいたが、着弾と同時に爆撃が発生していた。誘爆したかと思ったが……どうにもそうは思えない。
ウタハには若干疑われたがそれでも無理言ってもらってきて正解だった。
ヒナとの戦闘訓練でそれなりに強くなったつもりでいたが、至近距離に持ち込まれたら確実に負ける。
武装はMPXの二丁持ち……映像でその二つを繋ぐ鎖で拘束と切断をやってた辺り、相当な力だな……
狙撃銃の距離でならやりようはあるが……近接戦に持ち込まれてしまえば……
いや、ナイーヴな思考になっちまってた。
無理だからこそ、俺がやるべきだろう。
ただ、念には念をだ……最近シャーレの秘密部隊に入った新入りにも連絡を入れておこう。
そうして、作戦決行日を迎える。
リオやヒマリ、そして俺からの視点で見ると、そこまで切羽詰まったものでもないのだが……ゲーム開発部の視点からすればこれほど困難な作戦は中々ないだろう。
目的物である『鏡』は、セミナーの差押品保管所に置いてあり、んでもって、その差押品保管所はミレニアムタワーの最上階の西側に位置している。
そのうえ、そのミレニアムタワーの最上階に行くには442個の監視カメラと52体ほどの巡回する警備ロボット、それにブラック企業から押収した戦闘ロボット40体を突破しないといけねぇ。
何よりも、その保管所に行くには必ず『エレベーター』を使わなくちゃいけないうえに、生徒会役員共とかの資格を持った奴しか通れない指紋認証システムがある。
エレベーターをどうにか出来たところで最上階はセクションで分けられていて、シャッターを用いて分断が出来ちまう。
そして、そのシャッターも同じく生徒会メンバーの指紋でしか解除できない。
さらに、登録されてない指紋もしくは、強い衝撃が加わると、次はもっと強力なチタン製の第二シャッターが下りる。こっちは生徒会メンバーの指紋に加えて虹彩の二重認証が必要になる。
泥棒の仕事じゃあ、そういうのも相手にしたことがあるからな。
指紋に関してはシャーレに置いてあるユウカ用のマグカップから取ればいいし、虹彩はアロナがいれば突破も容易なんだが……
流石にリオとヒマリに止められたからな……俺はその辺は手出し無用で行かないといけない。
だから、ヴェリタスのやつらに何かないかと言われた時は、俺はそういうのがからっきしだと伝えたが……そこで奴らが考えたのが、エンジニア部協力の元作られた小型のEMPだ。
さっきのシステムは外部電力の供給が途絶えると、外のネットに繋げてシステムを維持する仕組みのようだ。
その外に繋がれた6秒間。
その隙をついてハッキングを行うんだとか。
俺ぁ……そういうのはからっきしだからな。
ただ、アロナに普段丸投げしてる仕事ってのはすごいんだなと改めて思わされる。
この作戦は夜間に行われる。
理由は色々あるが……
『光よ!!!!』
「まずはアリスに、エレベーターの指紋認証システムを扉ごとぶち壊してもらいます!」
それなりに離れた位置で待機しているはずなんだが……それでもモモイの言葉の直後に響く衝撃に頭が揺れる。
理由の一つとして、あの砲撃の被害が出る可能性があったからだ。
下手な爆薬や爆弾よりも破壊力のあるアリスの砲撃は、振動だけでも二次被害が出てもおかしくない。
今ので最上階のシャッターは確実に降りただろうが、侵入するときには問題ないだろう。
侵入自体は少し時間を空けて行うからな。
しっかし……まぁなんだ。あの破壊力……本当に何度見ても恐ろしいな。
ただ、攻撃力と戦闘力は別だからな。
『くっ!?や、やられてしまいました……!ふ、復活の呪文……を……』
無線から聞こえるアリスの声とそして倒れる音から、アリスが気絶したことが確認できる。
あの力を使い熟せるようになった時を考えると中々恐ろしいもんだが、そうはならねぇようにしなきゃだな。
アイツは少なくとも喜んで人を撃つような奴ではねぇからな。
「うぅっ! アリスが連れていかれちゃった!」
「落ち着いてモモイ、計画通りだよ」
「アリスちゃん待ってて……すぐに助けてあげるから」
アリスなら自力で反省室をぶち破れる可能性が高いからな。
だから、アリスを囮にして扉をハッキングする準備をしたわけだ。
あいつらが考えた作戦にしては随分と頭がいいと俺は思う。
「とりあえず……一つ目の仕掛けは、上手く行った感じかな。そうだよね、先生?」
「エンジニア部のやつらの準備が済んでるのなら大丈夫だろ」
「ちょうどそのエンジニア部から連絡が来てたよ、『こちらエンジニア部、トロイの木馬を侵入させることに成功した』……ってね」
ヴェリタスのメンバー、小鈎ハレへ返答をしたタイミングで同じくヴェリタスの小塗マキが伝言を伝えてくれる。
作戦の続きだが、アリスの無線から少しだけ聞こえてきたが、あのエレベーターのセキュリティを修理するのではなく取り替える選択を取ったらしい。
だから、その取り替える先のセキュリティに罠を張った訳だ。
「ひゅーっ、それは一安心。もし失敗してたら、アリスが意味もなく監禁されただけ……ってことになるところだった」
「じゃあ、次のステップに移ろうか」
「はあ、緊張する……。こんな気持ち、古代史研究会の建物を襲撃した時以来」
仕事の山場前ってのはどうしようもなく緊張するもんだ。
未だに俺もこの緊張に慣れることはねぇ。
しかし、比較的治安のいいはずのミレニアムで、団体への襲撃をしたことがあるってのはどうなんだ?
キヴォトス全体の治安の悪さはどうにもなれねぇな。
「ヒビキとウタハ先輩は?」
「もう『お客さん』を出迎える準備は出来てるって」
「良いね、さすが」
「やってるのは決して良いことじゃないけどね……」
「マキとコトリの方は?」
『こっちも準備OK、待機中だよ~』
「それじゃ、第二段階、だね」
「それでは……先生!」
「ケツ持ちはしてやる。手早く済ませるぞ」
作戦の第二段階。
さっきの罠で書き換えることに成功したエレベーターのセキュリティにより、作戦メンバーは最上階へと侵入した。
EMPによって作成されたバックドアを用いて、監視カメラをハッキング。
ヴェリタスとエンジニア部が囮になって、C&Cコールサイン03室笠アカネを隔離。
んでもって、別のビルの屋上から狙撃をしようとしていたコールサイン02角楯カリンを、ウタハとヒビキが対処している。
そのどれも成功し、俺とモモイ、ミドリは差押品保管所に向かっている。
これで、残るは01と00の二名。
こいつらに関してはリオが場所を教えてくれなかったため、作戦に組み込むことが出来なかった。
リオに問い詰めたが、なんでも手綱を握れた試しがなく、どこかにフラフラ行っちゃうとのことだった。
野生の動物かなんかなのか?と思ったが……
「さっきの停電、ウタハ先輩とヒビキの策が成功したってことだよね?」
「うん、そのはず。あ、先生。足元暗いので、気をつけてくださいね。ここさえ抜ければ……」
「うん、もう生徒会の差押品保管所のはず。ようやくこれで───「お、やっと来たね!」」
あれは、獣の類だ。
その少女はまるで、この道を通ると分かっていたかのように、待っていた。
アッシュグレーの長髪を地面に届くほどに伸ばしたその少女は、随分と人懐っこい笑みを見せながら話しかけてくる。
「遅かったねー、だいぶ待ってたよ〜。ようこそ、ゲーム開発部! それに、えっと……先輩、だっけ?」
その笑顔に騙されそうになるが……あの笑みの裏に見える牙を俺は幻視する。
「あ、違う違う、思い出した!『先生』だ!ずっと会えるのを楽しみにしてたんだよ~?」
「あ、アスナ先輩!? どうしてここに!?」
「どうしてって言われても~……何となく?」
一之瀬アスナ……C&Cにおいて、ネルの次の実力者。
コールサイン01を拝命した強者。
何となくだと言ったが……まさか勘が鋭いとでもいうのか?
「獣か何かか?」
「えへへー、犬っぽいとはよく言われるかな~?予感とか直感とか、そういうのってあるでしょ?ここで待ってたら先生にも、あなたたちにも会えるんじゃないかなー、って、そんな予感がしてたから!」
「難しい言葉じゃないのに、全然何言ってるか分からない……」
獣の嗅覚、第六感。
確かにそう呼ばれるものはある。
確実に当てられる予感、この攻撃は避けられないっていう予感。
ただ、それは俺にとっちゃ経験則から出されるもんだ。
こいつは……もっと本能的な何かで、先回りを行ったってわけか。
「先生もさ〜。獣みたいだとか言われたことない?」
眩しいキラキラとした笑顔のまま彼女は俺を見つめる。
まるで心の底を見透かされるようなそんな感覚がする。
「先生からすっごい血と鉄の臭いするんだもん。実は人食い狼だったりして?」
「一匹狼ってのなら言えてるかもな」
あはっ、と声を出して笑いながらもその目は俺を見続けている。
俺がどういう風に見えてるのかわかったもんじゃねぇし……こいつに色々見透かされるのは気分が悪い。
「じゃあ、獣同士……始めよっか」
いや、もしかしてさっき俺が獣だなんだと言ったからか?
ただどうにもあの言いぶりからして、意趣返しのようなものは感じない。
「えっと、念のために聞くのですが、何を……?」
「戦闘を!私、戦うのが大好きなの!」
そういって、彼女は手に持つFA-MASを構える。
やっぱお前さんの方が獣じゃねぇかよ。
「あ、そうだ。まだ自己紹介してなかったね」
そういって、彼女の顔つきががらりと変わる。
獰猛な牙を剥いた狩りを行う獣の顔だ。
「C&Cコールサイン・01、アスナ!行くよっ!」
獣の直感と嗅覚。
不利になっていく場面、打開の策は勇者の一振り。
次回 勇者の資格
今回短いですが、切りがいいので……すみません。
書きたいところまでの道のりが長い……オリチャーの下準備してはいるんですけどね……
あと……1~2話で辿り着くかな……どうかな……頑張ります……
記念イベントの質問コーナーも書き上げますのでしばしお待ちいただけると幸いです。
最後に、もしよろしければ、ここすき、評価、感想入れて頂ければ励みになります。
今の話のタイトルが分かりにくいとの意見を得て変更するか否か
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例:殺し屋の矜持
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例:1-10
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例:1-10 殺し屋の矜持