新任教師『次元大介』   作:レイゴン

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1-9 汝、ゲームを愛せよ

「は?んだ?この狐のぬいぐるみは」

 

 ネルの鎖の中には俺の姿はなく、その代わりにデフォルメされた狐の人形が拘束されていた。

 

「主の危機とあらば、例え火の中水の中!キヴォトス最強の忍者!イズナ参上です!」

 

 ネルに拘束された時はここで終いかと思ったが、手が叩ける位置で拘束できたのは助かったな。

 イズナの使う忍法空蝉の術。

 馴染みがある言い方にするなら変わり身の術ってところか?

 任意の対象とあの人形を入れ替えるって技なんだが……俺の早撃ちを見切ったあのイズナが使うと、攻撃が当たったと誤認させちまうレベルでの入れ替えが可能になる。

 厄介なもんだ。

 戦闘のプロと呼ばれるレベルになればなるほど、当たった時の感覚で次の行動を考える。

 それを騙しに来る以上、あの技は、想像以上に効力を発揮する。

 

 俺は、イズナの隣に立ち、ネルと向かい合わせになって次の一手を考えあぐねている。

 これ以上の戦闘は、正直不毛だ。

 イズナっていう手札を切った以上早めに終わらせたい。

 

 俺にはこれ以上の手段がないからな。

 さらにギアでも上げられちまったら厄介だ。

 

「主殿主殿。どういたしましょうか……」

 

「俺との戦い見てたろ?どうだ?算段はあるか?」

 

 逃げるが勝ちではあるこの状況……あれ相手にどう逃げる?

 背中見せて逃げる、爆発で追いつかれるし何より、この閉鎖空間でそれは悪手だろ?

 煙幕を使う、まだマシだが……ネルとの距離は目測で10m……アイツなら文字通り瞬く間に距離を詰められて、イズナ共々捕まっちまう。

 投げる隙さえあればか……アレ相手に隙を作れるか?

 

「……少々賭けになりますが──「乗った」はい!では5秒だけお時間いただきます!」

 

「おい、何こそこそ話してんだぁ?アタシも混ぜろよ!」

 

 ここから脱出するためだとは言え、ネル相手に五秒は長すぎるな。

 銃弾が、イズナに当たらないように配慮しながら、目ではもう追えない速度のネルを対処する必要がある。

 

 イズナの秘策発動まで残り五秒。

 鎖の擦れる音、ほんの一瞬聞こえる革ジャンの音を聞き取りながら、攻撃を捨てて防御に徹する。

 振り下ろされる踵落としをマグナムでいなし、着地と同時に来るサマーソルトキックを半身後ろに避ける。

 

 残り四秒。

 ネルが両手を俺の方にかざし、爆発が起きる。

 風圧で目をやられ、視界が一時的に使えなくなる。

 元々動きは見えてないようなもんだ。大して変わらない。

 

 残り三秒。

 体に掠るような痛みが増えていくが、モロに喰らうよりかはマシだ。

 空気のほんの少しの揺れと音で動きを予測する。

 多少のしくれば、そこで終いだ。意識を研ぎ澄ませ。

 

 残り二秒。

 金属がこすれる音、さっきの拘束か?

 靴の音と空気の揺れから察するに、狙いは胴。

 空中に飛び出す。

 

 残り一秒。

 視界が戻り、目を開けると、俺がさっきまでいたであろう場所を横切るチェーン。

 その先に居るネルと目が合う。

 獰猛な笑みだ。

 

 残り零秒。

 空中で爆発が起こり、ネルが俺の方へカッとんでくる。

 これ以上の時間稼ぎは無理だぞ、イズナ。

 

「お待たせいたしました!イズナ流忍法奥義!『百八式・影分身の術』!」

 

 両手の人差し指と中指を立て、それを十字に構える手印を組んだイズナが宣言すると、煙と共に大量のイズナが増えていく。

 ざっと数えただけでも三桁以上、人の津波がそのままネルを襲う。

 アリの大群に襲われる飴玉。

 まさにあんな感じだ。

 

「ささ、主殿!今のうちに」

 

「む、惨いな……」

 

 多くのイズナの上に着地した俺は、そのまま流されて、本物のイズナの前に辿り着く。

 流石の俺も少しドン引きだが……まぁ、いくら最強とは言え、数の暴力には手を焼くだろう。

 この調子なら少しゆっくり目に帰ったって平気か?

 

「てっめぇ!!ぶっ殺す!!」

 

 イズナの波が大きく弾け飛び、ネルの姿が見える。

 まだ多く残っているとはいえ、あの様子じゃ一分も持たねぇな。

 

「さっさと逃げるぞ!」

 

 煙幕を使って、行先を分かりにくくしたうえで、ミレニアムタワーから脱出することに成功した。

 

 美甘ネル……叶うことなら二度と相手したくねぇな。

 あれでもかなり手を抜いてただろうからな。

 ……最後のイズナの影分身に対して見せた爆発は明らかに俺に対してやった攻撃のどれよりも強力だった。

 

 ヘイローのない俺じゃ、確かにここの奴らの攻撃はそのどれもが致命傷になりかねない。

 銃はもちろんだが、格闘を含めてもだ。

 アロナのバリアを常に低出力で出し続けてもらってるお陰で、弾いたり逸らしたり、普通の徒手での戦闘を行えている。

 それが今の俺の現状だ。

 

 仮に生徒同士の争いを仲介するとなったら、今のままじゃ駄目だ。

 まだまだ課題は多いと感じる。

 

「主殿主殿っ!イズナの初任務!上手く出来てましたか?」

 

「ん?あぁ、よく出来てたぞ、流石だな」

 

 シャーレへの帰り道、イズナがとてとてと歩きながら、俺に話しかけてくる。

 イズナの忍法がネルレベルにも効果があると分かったのは大きな収穫だ。

 しかし、あの奥義だったか……あれはちょっと禁止だな。

 余程のことがない限りは、使わせるもんじゃねぇ。

 

「えへへ……主殿っ!そのもしよろしければご褒美に頭を撫でて頂きたいのですが……」

 

「仕方ねぇな……」

 

 尻尾をぶんぶん振りながら頭を差し出すイズナを撫でる。

 この距離の近さはどうにもなれねぇんだよな……

 イズナはパーソナルスペースって言葉を知らねぇのか?

 

 とは言え、こいつが望んだ報酬だからな。

 これやるとハルカとかアルが羨ましそうな顔して、しばらく拘束されるんだよな……

 だから、外にいる今のうちにだな。

 

「では!何かあればまたお呼びください!」

 

 そういって、イズナは姿を消す。

 やけに長い一日だった気がする。

 疲れもあるだろうがな……

 

『次元先生、リオさんからすごい数のメッセージが来てますよ』

 

 あぁ、そういや、ネルと戦うときに無線切っておいてきたんだっけな。

 内容を確認すると、そのほとんどが謝罪だった。

 あいつこんなメンヘラチックなやつだったか?

 世話が焼ける奴だ。

 とりあえず明日話は聞くから寝させろと返事をして、俺は床についた。

 

 

 そして翌日。

 

「先生、申し訳なかったと思っているわ」

 

「どうせあれだろ?ネルにやらないでいいと言うのが遅れてそのまま始めちゃったとかその辺りだろ?」

 

 今回の作戦はギリギリまでリオの独断行動があったんだ。

 情報伝達の遅れってのは人間である以上起こり得るもの。

 それはそれとして、俺にあんな化け物の相手をさせたことは許してないが……

 あからさまに落ち込んだリオの顔を見てると不思議と許せてしまうもんだ。

 

「えぇ……とは言え、先生を試すようなことをしてしまったのは事実……」

 

「ったく、もういいつってんだろうが、昨晩からずっとそれで辛気臭ぇ。そんなに罰してほしいなら、そうだな……今後はもう二度と一人で動くような真似はしないと俺に誓え。それでいいな?」

 

「それは……その、今すでにやっているプロジェクトに関してもかしら」

 

 こいつまだ隠し事あるのかよ……

 ってか、懲りてないな?本当は。

 

「言いたくないならいいが、それでテメェが怒られても俺は肩を持ってやれねぇからな?」

 

 無理に聞くこともないと思っている。

 今思えば、無理してでも聞いておくべきだったと、後悔してるがな。

 

 

 

 

 リオの謝罪からの謝罪を終えて、俺はゲーム開発部へと足を運んでいた。

 あの襲撃は、リオの口からシャーレへ依頼した、緊急時におけるセミナーの訓練ってことになったらしい。

 ユウカがそう説明してくれたが、悔しそうな顔をしていた。

 予めヒマリからのリークがあったにも関わらずこのざまだったわけだ。

 まぁ、俺やアルとイズナの例外はあれど、エンジニア部とヴェリタスを敵に回したら、セミナーのセキュリティが酷く脆くなるっていう泣き所が見つかったんだ。

 俺としちゃ、練習で良かったんじゃないかと思っているがな。

 

 んでもって本当の目的だったアリスの観察だが……

 

 ──主人公たちは……決して、仲間のことを諦めたりしませんでした。

 

 色々悩んでいたみたいだが、在学することを認めたようだった。

 とは言え、あの膂力は本物、カリキュラムを一部見直すだなんだと言っていた。

 

 これで、俺がここに来た仕事は一時的にだが完遂したと言っていいだろう。

 ゲーム開発部への種明かしも考えたが、俺は今回のリオ達の依頼があろうとなかろうと、この仕事は受けていたと思う。

 

 のであれば、言う必要もないだろう。

 仮にリオ達の為だけに受けたのであれば、説明がいるだろうがな。

 

 

 

「ふふっ、ふへへへへへ、全部終わった!おしまいだぁ!!!」

 

 ゲーム開発部の部室に入って聞こえてきた第一声がこれだ。

 モモイの発狂したような笑い声。

 

「ゲーム開発部、どうした」

 

「先生、ごめん……今は何も話したくない気分なの……」

 

「怒り、破滅、腐食、絶望、虚脱……世界は今、破滅に向かって……」

 

 ミドリまで両手を地面について項垂れている。

 部長のユズに関しては部屋の隅っこで体育座りで壁を向きながら、ぶつくさ独り言を唱えている。

 

「アリス、こいつらどうしたんだ?」

 

「せ、先生……それが……」

 

 事の発端は、ヴェリタスのマキによって解析された『G.Bible』が、ゲーム開発部の手に渡った二時間前。

 あのデバイスの中には、『G.Bible』と書かれたファイルと一緒に<key>と命名されたフォルダがあった。

 恐らく、アイツだろうな。

 あの廃墟の中で出会ったあのAIのことだろう。

 ……となれば、あれをアリスに触れさせるのは不味いな。

 

 その後、『G.Bible』を起動したらしいのだが……

 

「それがこれか」

 

『G.Bible』を借りて、それを起動する。

 

 

 

 G.Bibleの世界へようこそ。

 

 最高のゲームとは何か……この質問に対して、世界中で様々な答えが模索され続けてきました。

 作品性、人気、売上、素晴らしいストーリーや爽快感、鳥肌の立つ演出など。

 そういったものが最高のゲームの「条件」として挙げられることは多いですが、それらは全て、あくまで「真理」の枝葉に過ぎません。

 

 

 

 最高のゲームを作る秘訣、それはたった一つです。

 そしてこのG.Bibleには、その真理が秘められています。

 最高のゲームを作るたった一つの真理、秘密の方法……それを今こそお教えしましょう。

 

 

 

 …… ゲームを愛しなさい

 

 ゲームを愛しなさい

 ゲームを愛しなさい

 

 

 

 あなたがこのボタンを押したということは、ファイルが壊れた、もしくは何か問題があったのでは、何らかのエラーが生じたのでは……と疑っている状況なのでしょう。

 

 しかし、エラーではありません。

 

 残念ですが、これが結論です。

 

 

 

 ゲームを愛しなさい!

 

 

 

 

「それでこのザマと……」

 

 思わず頭に手を当てて呆れてしまう。

 

『G.Bible』に対してでもあるが、それ以上にこいつらにだ。

 

「おい、モモイ、ミドリ、ユズ。お前らいい加減にしな」

 

「うぅ……だってぇ……こんなに苦労して手に入れたものが、序盤に手に入る薬草以下のアイテムだなんて思わないじゃん……!」

 

 モモイが涙をこぼしながらそう話す。

 まぁ……余程それに縋り付く思いだったんだろう。

 地獄に垂れる蜘蛛の糸のようなもの。

 

「はぁ………ごめんね、アリスちゃん、先生。私たちは……G.Bible無しじゃ、良いゲームは作れない」

 

 そう、こいつらは肝心なことに気が付いていない。

 

「おい、嘘をつくんじゃねぇよ」

 

「はい、先生の言う通りです。否定します」

 

 良いゲームってのは何なんだ?

 評価、感想、人からの意見、そりゃ大事だろう。

 ただ、それよりも大事なのは……

 

「お前ら、出会ったばかりの頃のアリスを覚えてるか?」

 

「え?そりゃ……うん」

 

 ──本機の自我、記憶、目的は消失状態であることを確認。データがありません。

 

「あの、機械そのものみたいな喋り方だったアリスが、今のアリスになったのはお前らのゲームのお陰だ。間違いなくな。会った最初の頃言ったよな俺は。お前らの作るゲームは人の心を盗む術が出来てるって」

 

 それよりも大事なのは、遊んだ奴らの心をいかに盗めたかだろう?

 

「はい!アリスは『テイルズ・サガ・クロニクル』をやるたびに思います。あのゲームは面白いです。」

 

 その言葉を聞いた項垂れている三人がアリスと俺を見つめる。

 何を言ってるんだ?って顔をしてる。

 

「感じられるのです。モモイが、ミドリが、ユズが……このゲームを、どれだけ愛しているのかを。そんな、沢山の思いが込められたあの世界で旅をすると……胸が高鳴るのです、先生の言葉を借りるなら……アリスの心はあのゲームに盗まれてしまいました!」

 

 俺の言葉を借りて、アリスは楽しそうな表情で思い出を語る。

 本当に、あの時と今とでは別人だ。

 

「はい!仲間と一緒に新しい世界を旅する、あの感覚は……夢を見るというのがどういうことなのか……その感覚を、アリスに教えてくれました。だから、待望のエンディングに近づくほどに、あんなに苦しんだのに、思ってしまうのです」

 

 昔、俺が思っていた以上にアリスにとって、あのゲームが与えた影響は大きかったようだ。

 時折アリスは、自分が勇者となって、仲間と共に冒険する夢を話す。

 夢、あの機械の王女が、人の夢を見るようになった。

 これがどれだけ凄いことなのか。

 こいつらは分かっちゃいないのかもしれない。

 

 大人になって夢を諦めたり見ることをやめる奴だっている。

 そんな中で、夢を与える側になったあのゲームは間違いなく。

 

「この夢が覚めなければいいのに……と、アリスはそう思うのです」

 

「それが例えどんな作品であれ、手前の作った我が子なら、愛し抜いてやれよ」

 

 あのゲームは、神ゲーだと俺はそう思っている。

 これだけは未来永劫『YES』だ。

 

「あのG.Bibleを書いた何某の言葉が本当だとするなら、お前ら以上に神ゲーを作れる奴はいねぇよ。そう、断言してやる」

 

「……作ろう」

 

 部長であるユズが立ち上がって、そう話す。

 あの臆病で、いつも怯えているユズの目には、その陰りは見えない。

 

「わたしの夢は……わたしが作ったゲームを、みんなに面白いって言ってもらうこと。

 でも、わたしが初めて作った『テイルズ・サガ・クロニクル』のプロトタイプは……四桁以上の低評価コメントと、冷やかしだけで終わっちゃって。

 それが辛くて、ゲーム開発部に引きこもってた時……二人が、訪ねてきてくれた。二人が私のゲームのファンだって言ってくれた時は、本当に嬉しくて」

 

 モモイもミドリも、とっくの昔に、ユズを救っていたようだ。

 例えそれが、無自覚だとしても……

 0と1はまるで違う。

 何時だったか、リオ達にも言ったけな。

 

「それで一緒に『テイルズ・サガ・クロニクル』を完成させて……結局今年のクソゲーランキング一位になっちゃったけど……」

 

「うっ……」

 

「その後、アリスちゃんが訪ねてきてくれて。面白いって、言ってくれた。それで、わたしの夢は叶ったの。心の通じ合う大事な仲間たちと、一緒にゲームを作って、それを面白いって言ってもらう。ずっと一人で思い描いてるだけだった、その夢が……」

 

 ユズの言葉を聞くモモイとミドリの目には、さっきまでの絶望は見えない。

 こんなのが部長で平気かと思うこともあったが、なるほどな。

 こいつだからこそこのゲーム開発部があるんだ。

 

「これ以上は、欲張りかもだけど。叶うなら、わたしはこの夢が……この先も、終わらないでほしい」

 

 その最初の一歩から前に踏み出したユズの夢がこいつらを引っ張ってきたんだ。

 そしてそれが、アリスの夢になった。

 

「ユズちゃん……」

 

「……うん、よし!」

 

 ビシャンと大きく音を鳴らして自分の頬を叩いたモモイが立ち上がる。

 部長がここまでお膳立てをしたんだ。

 ここで立ち上がらなきゃカッコ悪いもんな。

 

 

「ねぇ、今からミレニアムプライスまで、時間どれぐらい残ってる?」

 

「……! 6日と4時間38分です!」

 

「それだけあれば充分!」

 

 最後のひと押しを押す役目はいつだってモモイだ。

 冷静なミドリも、部長のユズも、ムードメーカーのモモイも、そして新人であるアリスも。

 誰一人として欠けてはならない、こいつらを見てるとそう思う。

 

「さあ、ゲーム開発部一同!『テイルズ・サガ・クロニクル2』の開発、始めよう!!」

 

「うん!!」

 

 ここからは子供たちの時間だ。

 俺のような大人はいないほうがいい。

 

 なんせこいつらは、もう自分の歩く道を知っているからな。

 




王女の運命が定まる重大なイベントの最中
先生は、工学部との対談が始まる……
……そろそろ、ここの模倣をするのも飽きてきましたね

「次回、プロローグ」




風邪にかかった作者です。
皆様はご自愛くださいませ……

次回は、とある設定を再び開示する予定です。
設定を開示するのが一番好きなんですから私。

最後に、評価、感想、ここすきよろしくお願いいたします!

今の話のタイトルが分かりにくいとの意見を得て変更するか否か

  • 例:殺し屋の矜持
  • 例:1-10
  • 例:1-10 殺し屋の矜持
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