新任教師『次元大介』   作:レイゴン

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Vol.2.5 百鬼夜行より愛を込めて
前編 百鬼夜行より愛を込めて


 アリスをモモイ達に預けた翌日からのお話だ。

 なんだか久しぶりにシャーレに帰って、便利屋たちに任せていた仕事に手を付けていた。

 便利屋たちがシャーレの秘密部隊に入ってから随分と経つ。

 俺の名前とシャーレの名前が効いたのか、前よりも依頼が多く入り、口座も無事に作れて業務も軌道に乗っているようだった。

 まぁ、依頼がなくとも俺からの当番って名目の依頼が入るからな。

 少なくとも食い扶持に関しちゃ、もう困ることは無いだろう。

 そんなことを考えながら仕事を取り組んでいると、シャーレに備え付けている電話が鳴る。

 

「こちらシャーレ。先生の次元大介だ」

 

『あっ、本当に出ちゃった!ど、どうしよう!?』

 

『落ち着いて深呼吸デス委員長!スー!ハー!』

 

 間違い電話かいたずら電話か?随分と騒々しいが……

 だが、どうやら違うようだった。

 

『えっと、もしもし!その、こちらは……シャーレの次元大介先生のお電話番号で、お間違いないでしょうか?』

 

「……いや。人違いだな」

 

 さっき挨拶したろ……特に深い意味があるわけではないが……少しいたずらをしてやろう。

 

『え!?ま、間違ってましたか!?あぁもう。頭の片隅で何となくこうなるんじゃないかと思ってたけど!なんか「渋々教えてあげる」みたいな感じだし、やっぱり騙された!』

 

「初対面の割には失礼だなお前さん?まぁ、冗談を言ったのは俺の方か。シャーレに次元大介って男は俺だけのはずだが」

 

『!? な、何だかちょっと意地悪というか、お茶目な……じゃなくて!』

 

 元気がいいなこいつ……

 知らない何某ではあるが、俺はこいつに好感を感じていた。

 こういうツッコミ気質なやつは助かるもんだ、普段は俺がツッコミばっかりだからな。

 

「要件を聞こうか」

 

『え、っと……んん!あらためて……初めまして!次元大介先生!私、シズコって言います!シズコ実は、百鬼夜行連合学院に所属している「お祭り運営委員会」の委員長で、なんと!同時に、百夜堂(ももよどう)の看板娘だったりします☆』

 

 咳ばらいをしたシズコと名乗った少女は随分と特徴的な声で喋り出してきたが……

 さて、何と返したものかね……

 百鬼夜行連合学院……確か、柴大将が昔修行に行ってたとかいう、東の方にある学院だったよな?

 桜が有名だとは聞いていたが、だが、そのお祭り運営委員会と、百夜堂っては記憶がねぇんだよなぁ……

 ただ、この特徴的な声からして、看板娘ってのは事実そうだな。

 その店の顔になる以上、どんなものでもいいから覚えてもらわないといけないもんだ。

 その中で、一番忘れやすい声がこんなに特徴的なら、余程腕利きだと見える。

 

『そ、それで、今回お電話させていただいたのは……私たち百鬼夜行連合学院で開かれる春のお祭り、「百夜ノ春ノ桜花祭(ももよのはるのおうかさい)」に、先生をご招待するためです!』

 

「ほぉ、祭りか!」

 

『はい!お忙しいと思うのですが……良ければお越しいただけませんか?』

 

 こう見えて、俺は祭りってもんが好きでね。

 昔はよく縁日とかに繰り出したもんだ。

 ガキの頃の話だがな……砂利銭ポッケに突っ込んで……懐かしいな。

 とは言え、ここは日本じゃねぇからな、いくらそれっぽいとは言え、俺の想像する祭りとは違うかもしれねぇ。

 

『今回の「百夜ノ春ノ桜花祭」……通称「桜花祭」では、以前にはなかった新しい試みも行う予定なんです!それからちょーっとだけ、大したことではないのですが、先生にご相談したいこともありまして。来てくれると、シズコとっても嬉しいです!ではでは!』

 

「あ、おい。それが本題だ……ろって切りやがった……」

 

 俺が何か確認するよりも前に、向こうは元気な挨拶をかまして、通話を切ってきた。

 まぁ、シャーレとして電話を掛ける以上は、まぁそりゃただの観光気分ではいられねぇよなぁ……

 とはいえ、最後のあれが本題なのは間違いなさそうだ。

 リオとヒマリからはまだ連絡もないし、二日三日程度、時間が欲しいとのことだったし、丁度いいか。

 

『便利屋、ちょっと話あるから来い』

 

 と俺は、アル達の入っているシャーレ秘密部隊のモモトークのグループに連絡を送る。

 すると、すぐさま、アルがドタドタと焦った様子で部屋に駆け込み、そのあとを追うように他のメンバーも来る。

 

「せ、先生……話って何かしら?」

 

「速ぇな。祭りがあるから来ないかって誘われてな。お前さんら興味あるか?」

 

「祭り?……あぁ、そういうことだったのね」

 

「くふふ、良かったねぇアルちゃん。追い出されるんじゃないかって焦ってたもんねぇ~」

 

 俺からの誘いを聞いて、カヨコとムツキがアルに話しかけている。

 ぜぇぜぇと息をついているのはそういうことだったのか。

 俺を何だと思ってるんだ?

 

「俺を何だと思ってんだお前ら……」

 

「で、でも……私はよ、よく先生にご迷惑をおかけしているので……そ、その……私だけなら追い出されちゃうかも……なんて」

 

「……ハルカ、お前さんな……少なくともお前ら全員、腕は立つって認めてんだ。だからこうして誘ったんだしな?もうちょい自信持てよ……」

 

 ハルカのこの他の追随を許さないネガティブさにも慣れたもんだ。

 とは言え、もう少し自信を持ってくれねぇかなとは思うがな。

 まぁ、こいつのアイデンティティでもあるか……?

 

「で?返事を待ってるんだが?」

 

「しばらく依頼もないし、良いんじゃない?アルちゃん。出来る社長は社員を労うもんだよ?」

 

「……そうね、折角のお誘い。私たちも着いていっちゃおうかしら」

 

 ムツキとアルの会話を聞いていると、タイミングよく、パソコンにメールが届く。

 さっきのシズコからだ。

 

『会場までの案内図も兼ねているので、桜花祭のポスターをお送りします』

 

 画像が添付されていて、それを開くと桜花の名に相応しい桜の花を全面的にアピールしたポスターが表示される。

 

 桜が有名な百鬼夜行だ。

 花見酒……なんて洒落込むのも乙なもんだな。

 仕事が終われば、眺めのいいところで飲むとしよう。

 

『では、シズコは先生が来てくれるのをすっごく、す~っごく楽しみにしてますね!では、百夜堂でお待ちしておりますので!にゃんにゃん♪』

 

 ……割と好意的な印象を抱いていたが……俺はこういうのは苦手だな……うん。

 まぁ、要するに待ち合わせ場所の指定ってことだろう?

 

 ミレニアムでの仕事もある。

 そんな大きくない仕事だと助かるんだがな……

 この時点の俺はそう気楽に考えていた。

 まさか、あんな狐に化かされることになるとはな……

 

 改めて、話しておこう。

 このお話は、ミレニアムでの出来事の間に起きた幕間であり、そして、狐の少女が一人の忍びとして主君に出会う。そんな物語だ。

 

 

 

 百鬼夜行連合学院、それぞれ独自のルールを定めた部活や委員会が連合を組むことで学院として成り立っている、まさに『百鬼夜行』の名に相応しい成り立ちの学院だ。

 温泉や、それこそ桜花祭のようなお祭り……そしてグルメなどの観光業が盛んで、柴大将が修行の場所に選ぶだけあり、通りの出店で買える食べ物のどれもレベルが高い。

 

「ねぇねぇ!アルちゃんこれ食べた!?もっちもちしててふんわりしょっぱくて、私これ好き!!」

 

 出店で買った『サクラ大福』だったか、桜の花を模した砂糖細工とほんのり塩気のある桜を混ぜ込んだ生地に甘いこしあんの入った菓子を食べながらムツキは大興奮している。

 元々貧乏だったからかこういう嗜好品ってのは起業してからは食べてなかったのか?

 まぁ、興奮してるのはムツキだけではないんだが……

 

「えぇ、あとで一個貰うわね!このタヌキ印のお好み焼きだったかしら……食べ歩きサイズなのにキャベツはシャキシャキしていて……ソースとマヨネーズのバランスも丁度いい……中々のプロね……」

 

「ホントだね……さっき買った焼きそばも、『焼きそば研究会』って、態々一つの食べ物に学会があるくらいこだわってるし……ちゃんと美味しい……」

 

 アルは、手持ちで食べやすいサイズの『タヌキ印のお好み焼き』を。

 カヨコは、鰻巻のようにソース焼きそばを卵焼きで包んで、棒に刺して食べ歩きやすくした『オム焼きそば改備(あらためぞなえ)』を。

 ハルカは何も欲しがらなかったが、俺と他のメンバーからの押しもあって自分で選んでくれた『キツネせんべい』を黙々と食べている。

 余りに静かなもんだからな、口に合わなかったんじゃないかと思ってたが、若干スキップしながらどういう原理かは知らないが頭の左右に飛び出た髪の毛がご機嫌そうにぴょこぴょこ動いていることから口に合ったようだ。

 

 しかし、こいつらそれはそれは旨そうに喰うもんだからな、奢り甲斐があるってもんだ。

 

 ちなみに俺は、『キツネせんべい』にたこ焼きを挟んだ『キツネのタコ狩り』っていうもんを喰っている。

 腹ごしらえにはちょうどいい。

 

 そんな風に、百鬼夜行の食文化を自分たちの舌と胃袋で堪能しながら歩いていると、唐突に声が聞こえてくる。

 

「あっ、あっ!危ないですーーっっっ!?」

 

「っ!先生!!」

 

 物凄い勢いでこちらにとびだしてくる少女の叫びが、木霊する中で誰よりも早く俺の前に身を出した人物によって、俺は衝突を免れる。

 

「先生……ご、ご無事でしょうか?」

 

 それは、ハルカだった。

 元々、便利屋の中では一番前に出て被弾の多い……つまり打たれ強い彼女は、正しく肉壁……いや肉盾として機能し、俺への被害を一切出さなかった。

 

「あ、あぁ……ハルカこそ平気か?」

 

「も、もちろんです……その、私のような人間が先生のお役に立てて嬉しいです……!」

 

 いつかこいつにはちゃんとそのネガティブ思考を矯正する必要があるな……

 自分以外の親しい人の為ならどこまでもやれるこいつの思考は危うさを感じさせる。

 

 ハルカに気を取られていたが、ぶつかった少女の方は大丈夫なのか……?

 

「いたた……はっ!あぁっ、すみません!えっと、大丈夫ですか?お怪我はありませんか!?」

 

 見事にひっくり返るような転び方をしていた少女は、体幹だけで跳ね上がり、ぶつかったハルカをあわあわしながら見回っている。

 

 しかし、狐か?

 黒髪のショートカットの少女の頭には、シロコのような獣耳が付いていたが、シロコとは違い、こっちには狐の尻尾が生えていた。

 前にあったイブキとかあとイオリには悪魔の尻尾が生えていたが、あれはゲヘナに通うような悪魔の奴らの特徴だけではないらしいな。

 

「わ、私は大丈夫です……その、貴方のほうこそ……大丈夫ですか?その頭を打ってたりなど……」

 

「イズナは大丈夫です!」

 

 最初は、俺に怪我を負わせかけた少女に対して冷たい目線を送っていたが、開口一番の謝罪と自分を心配してきたこともあってか、元の調子に戻っていた。

 あのまま発砲しかねなかった辺り、この少女は運がいいというべきか。

 

 イズナ……だったか。

 俺の反応速度よりも速い速度でかけてきた健脚からして、相当鍛えているな。

 しかも、体幹だけで跳ね上がった運動神経に、その時に垣間見えた跳躍力……こいつ只者ではないな。

 

 俺がそんなことを考えていると、イズナがかけてきた方角から、声が聞こえてくる。

 

「待てー!逃がさないんだから!」

 

「か、カエデちゃん、ちょっと待ってください……はぁ、はぁ……は、速すぎます……」

 

「はっ、もうこんなところにまで!えっと、ええっと!ど、どうすれば!?」

 

 どうやら、この少女は追われているみたいだな。

 何をしでかしたのかは知らねぇが……

 

「おい、アル。どっちに付く?」

 

「そんなの、追われている側に決まってるじゃない」

 

「そうだと思ったぜ」

 

「見つけた!ミモリ先輩、あっち!」

 

 便利屋たちと軽く目配せをして、ハンドサインを行う。

 便利屋の中でも比較的力持ちのアルとハルカがイズナを抱え、イズナをアルのコートの中に隠して移動し、弁の立つカヨコとムツキが追っ手を引き受ける。

 俺は、アルとハルカの先導役として、人混みに紛れながら人の少ない場所へと進んでいく。

 

 

 しばらく待っていると、カヨコとムツキも合流し、話が出来るような状況になる。

 

「ここまでくれば、大丈夫だろ」

 

「えっと……イズナを助けてくれて、ありがとうございました!……ところで、あなた達は……百鬼夜行の生徒ではなさそうですし、大人の方も……?」

 

「私たちは、便利屋68。で、こっちのダンディな髭の生やしたおじさんがシャーレの先生。次元大介先生」

 

「ムツキ、おじさんっていうんじゃねぇ」

 

 ぺこりと頭の頂点が見えるほどに深くお辞儀したイズナは、そのまま俺たちへ質問を投げかけてくる。

 まぁ、挨拶するような暇もなかったしな。

 

「シャーレ……先生……便利屋68……あ、もしかして!イズナ、聞いたことあります!シャーレには、キヴォトスの色々な事件をバババンと解決してくれる、凄い大人の人がいるって!便利屋68さんは、その人に仕える超一流の右腕ですよね!」

 

 俺に仕えるってのは語弊があるが、まぁ本人らはまんざらでもなさそうだから、突っ込まないでおくか……

 しかし、色々だと言われると俺がまるで各地を渡り歩いているかのようだが……

 まさか、便利屋の業務で得られる名声の一部がシャーレのもんになってたりするのか?

 それは冗談じゃねぇぞ……

 

「えへへ……私たちが広めた甲斐があるわね」

 

 テメェらの仕業かよ。まぁそれなら文句は言えねぇけどよ……

 

「どこにでも現れて、即座に解決……まるで主と忍者みたいです!」

 

 まるで憧れの的かのように目を輝かせながらイズナは俺たちを見つめている。

 

「こんなところで、まさか噂の先生と便利屋さんにお会いできるなんて……!イズナ、夢でも見ているのでしょうか……!!しかし、何故シャーレの先生たちがこんなところに?」

 

 わぁわぁと感嘆の声を出しながら、イズナはぐるぐると興味津々に便利屋や俺のことを観察している。

 ハルカの顔が赤くなっているし……お前さん狐じゃなくてポメラニアンか何かなのか?

 

「イズナちゃんだっけ?うちのハルカが恥ずかしそうにしてるからさ、それくらいにして……桜花祭ってものに誘われて、それで私たちは来たんだよ!」

 

「あやや!これは失礼しました……なるほど!でしたら、百夜ノ春ノ桜花祭名物『御神木』はもう見られましたか?」

 

「御神木……あれのことか?」

 

 ムツキに窘められたイズナは、ぺこりと謝りながら、質問を出す。

 この百鬼夜行の自治区には他の地区にはない珍しいものがある。

 

 このキヴォトスの空には巨大なヘイローが浮かんでいるのだが、それを塗りつぶすかのように咲き誇るものがある。

 

 直径数キロに渡るほどの途方もない樹齢の桜の巨木。恐らく『御神木』なんて大層な名前が付くのはあれくらいだろう。

 

 この百鬼夜行連合学院は、ヘイローではなくあの御神木の庇護の元にある……と言ったところか?

 

「はい!ここから見るのもいいのですが……とっておきの場所がありまして……良ければ、イズナに案内させてください!」

 

「俺は、構わねぇが……お前さんらはどうだ」

 

「せ、折角ですし……やっぱりその土地の人に案内してもらうのが一番じゃないですかね……?あの、お仕事に差し支えなければ……なんですけど、その……差し出がましい真似を……」

 

「ハルカも、こう言ってることだしいいんじゃない?」

 

 カヨコの後押しもあってか、全員の意見は一致したみたいだった。

 まぁ、百夜堂も近くはあるし……それに、あのハルカが自分から意見を出したんだ。

 イズナの好意を無下にするのも気分悪いしな。

 

 そんな感じで、イズナと便利屋たちが楽し気に会話しているところを見ながら、展望台と書いてあった場所に案内される。

 

「綺麗……」

 

「壮観だね……」

 

 ハルカとカヨコの呟き通り、その光景に俺たちは圧倒される。

 百鬼夜行の古風な街並みと、各地に点在する塔たち、そして何よりも……

 そのどの建物よりも巨大で天高く聳え立つ一本の桜……

 世界中の色んな不思議なもんも綺麗なものも偉大なものも見てきたが……あれほど神秘的なものを俺は見たことがない。

 

 俺は、神だのなんだのそういうもんは嫌いだが……神が宿るってのはあぁいうものを指すためにある言葉なのかもしれない。

 

 ずっしりと根を張って聳え立つその自然の雄大さに畏敬の念を感じてしまうほどだ……

 

「言葉にならないってのはこういうもんなんだな」

 

「皆さん喜んでいただけたようで、イズナも嬉しいです……ちょうどこの時期に一番綺麗に咲く、百鬼夜行の自慢です!イズナは、ご神木と百鬼夜行の街並みとが同時に見渡せるこの場所が、大好きなんです!」

 

 あぁ、俺はさっき皮肉交じりに、この百鬼夜行連合学院はあの御神木の庇護の下にあるって言ったが、案外冗談でもねぇかもしれない。

 

「ここでこうしていると、イズナも夢のためにまだまだ頑張らなきゃって気持ちになります」

 

「夢……?」

 

「はい!イズナには夢があるんです!」

 

 イズナは、御神木の方を見ながら語る。

 自分に言い聞かせるように、御神木へその夢を願うように。

 

「キヴォトスで、一番の忍者になるという夢が!そして今日も今日とて、そのために日々……!」

 

「忍者?」

 

 彼女の語る宣言……なるほどな。

 あの忍者みたいだってのは彼女なりの褒め言葉、それも最上級のものだったわけだ。

 忍者ねぇ……まぁ物語の中の忍者ってのは確かにいいもんかもしれないな。

 忍者への憧れをもつ彼女に対して特段言うことでもあるまい。

 

 とは言え、忍者ってのは、このキヴォトスではあまり普及していないのか。

 アルが首を傾げながら疑問を浮かべている。

 

「……はっ!?す、すみません、その、こんな夢を持ってる人なんて今時いないことは知っているのですが……で、でも……」

 

 そのイズナの反応は、俺にとっては見覚えのあるものだ。

 それは、夢をバカにされたやつがする反応だ。

 大方、いい年して何子供みたいな夢を抱いてるんだって、そんなことを言われたのだろう。

 だから、俺たちにも同じ反応をされるんじゃないかと、居心地悪そうに身を縮こませて……

 

「あら、いい夢じゃない!」

 

「そうそう!このアルちゃんの夢なんて、キヴォトス一のアウトローなんだから!」

 

「そうです……アル様の夢を笑う人は……生かしておけません……!」

 

「まぁ……要するに、貴女の夢をバカにするような人はここにはいないよ」

 

 アルたちにとって、その夢は他人事じゃない。

 自分たちと、目指すものは違えど、その夢は誰よりも分かっている。

 

「俺も、アル達と同意見だ。てめぇのなりたいもんをしっかり見えてるお前さんはカッコいいぜ。俺も、世界一のガンマンになりたいって夢があったしな。だから応援してるぜ?イズナ」

 

「ちなみに~。先生はその夢叶ったの?」

 

「俺が今ここで生きているのが何よりもの証明だろ?」

 

 俺にとっても、他人事とは思えねぇんだ。

 夢がデカくて何が悪いってんだ。

 ガキのくせに大人ぶる方が嫌なもんだ。

 

「皆……さん……イズナの夢を、応援……」

 

 ただ、俺たちがそこまで言っても彼女の心に付いた傷は……まだ色濃いようだ。

 

「…………それがその、たとえ、忍者になりたいという……そんな、あまり普通の学生は言わないような夢でも、ですか?」

 

 過去を探る気はないが……まぁ、この一言はキヴォトス一のアウトローさんに譲ってやろう。

 

「もう一度、言ってあげる!いい夢じゃない!貴女に倣って私の口から言うわ。

 私の夢はキヴォトス一の超一流のアウトローになること!!」

 

「あ、良いね!私たちもやろ!

 私の夢はアルちゃんをキヴォトス一のアウトローにすること!」

 

「……まぁ、そうだね。

 私の夢は、社長たちと一緒にキヴォトス一のアウトローになること!」

 

「え、えっと……その……

 わ、私の夢は……アル様たちをキヴォトス一のアウトローになるまで御守りすること……!」

 

「ふふっ、流石我が社員たちね!だから、イズナ?『私達(便利屋68)』は貴女の夢を応援してるわ。同じ壮大な野望をもつ生徒としてね」

 

 ビシッと、イズナに人差し指を指しながら、アルは、イズナと同じように御神木に向かって叫び、それを見た他のメンバーもアルの隣に立って次々と叫ぶ。

 その姿を見たイズナは、安心したような表情で笑った。

 

「そ、そう言っていただけたのは、皆さんが初めてです!え、えへへへっ、そ、そうですか……!イズナの夢を応援してくれるなんて……!まだ色々と失敗も多い身ではありますが、あらためて、イズナは立派な忍者になってみせます!」

 

 こういう、青春の瞬きを見れるのは、ある意味役得なのかもしれねぇな。

 俺には少し、眩しすぎるくらいだ。

 星は遠くから見るから丁度いいんだからな。

 

「……あっ!雇い主の依頼を終えてないのを思い出しました……!不味いです!!」

 

 突如思い出したかのように、イズナは大声を上げて慌てふためく。

 そして、何か言葉をかける間もなく、イズナは展望台のデッキに足をかける。

 

 ……まさか飛び降りる気か!?

 

「すみません、イズナはお先に失礼します!では先生、便利屋の皆さん、また!依頼が終わった後、また一緒に桜花祭を楽しめたら嬉しいです!!」

 

 そういって、デッキから跳び出し、そのまま屋根伝いに遠くへと走り去っていってしまった。

 なんというか、嵐が似合う女だったな。

 

 展望台から降りて、目的の百夜堂に向かう最中、アルが隣にまで来たから、話しかける。

 

「面白いやつだったな、あのイズナってやつ」

 

「えぇ……ねぇ先生?あの子うちに誘ってみない?」

 

「……まぁ考えとく」

 




狐の嵐に見舞われて
ようやくたどり着いた百夜の堂
怒る看板娘と相対し
あれよあれよ請け負った悪漢対峙
そして……再び出会う狐の少女


次回 天気雨


イズナ回と見せかけたハルカ回。
俺のエミュが下手すぎてあまり出せてなかったので……
ほぼプロローグで前編終わりましたね……三部作でどうにかなるかな……?
なってほしい……

初めてのイベントシナリオ。
それなりにオリチャー挟んで、やっていくつもりです。
楽しんでいただければ幸いです。

最後に、ここすき、感想、評価いただけるとモチベーションアップになるので良ければ……

今の話のタイトルが分かりにくいとの意見を得て変更するか否か

  • 例:殺し屋の矜持
  • 例:1-10
  • 例:1-10 殺し屋の矜持
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