新任教師『次元大介』   作:レイゴン

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中編 天気雨

「百夜堂っていえば、あの有名な喫茶店だね」

 

「百夜堂のイチゴ餡蜜が最高でねえ」

 

「色々美味しいものがあるんだけど、何より最高なのは……」

 

「「「シズコたんの可愛い笑顔!」」」

 

 これは俺たちが百夜堂に向かう際に、通行人の奴らが声を揃えて言ったセリフだ。

 シズコたん……あの電話をかけてきた看板娘と同じ名前だが、人心掌握とも洗脳とも違うが……あの峰不二子の面影を何処か感じさせてしまうような……あぁ、ハニートラップだったか。

 女の笑顔にあそこまで現を抜かす奴の気がしれねぇ……

 まぁ、シズコって奴が、あの峰不二子並みの悪女と決まったわけではないんだがな。

 

「先生……凄い複雑な表情してるけど……」

 

「……悪い、昔馴染みの女のことを思い出しててな……」

 

「それって、峰不二子さん?」

 

 カヨコが不意に放った一言。

 ドキンと俺の心臓が、けたたましく鼓動する。

 立ち止まった俺に気づいたカヨコが近寄る。

 

「……その名前、何処で聞いた、俺は此処に来てから、そいつの名前を出した覚えはねぇぞ」

 

「あっ……えっと……」

 

 カヨコが、しまったとばかりに言いずらそうな表情をする。

 こいつらに知られて困るようなもんでもないが……態々語るほど面白い話でもねぇし、あの血生臭い世界を見せるのは、どうにも俺は気が引けた。

 だから、俺はこいつらに俺の過去の話をすることは滅多にしなかった。

 

「その、帰ったら見せるけど……前にムツキが、先生の過去が映ったDVDを持ってきて……それでみんなで見たんだ」

 

 詳しく話を聞くと、たまたまムツキが拾ってきたDVDに俺の過去が映っていて、それを便利屋たちで鑑賞会をしたんだとか……俺は俳優になった記憶はねぇぞ?

 しかし……俺達の過去が映ったDVD……あの黒い影が脳裏をちらつくが……まさか……な。

 

「先生、過去を盗み見るようなことしてごめん……」

 

「何を見たかは知らねぇが、あんま気分のいいもんでもなかったろ」

 

「……それは大丈夫だよ、先生は私たちのこと心配しすぎ。社長もムツキもハルカも、私も、先生の昔を知れて良かったって思ってる」

 

 俺の心配を聞いてか、カヨコは俺の目を見つめてそう話す。

 こいつらの意思の強さってのを俺はまだ測りかねているのかもしれねぇ。

 少なくともカヨコの目からはそういう弱さを俺は感じ取れなかった。

 

「……一応聞いとくが、他に誰が見てんだそれ」

 

「えっと……ミレニアムのユウカ、アビドスのみんな……今はそれくらい?私たちと先生の共通の友人しか知らないよ」

 

 それでも多いじゃねぇかよ……しかし、驚いたのはユウカ、お前さんいつの間にそこまで仲良くなってたんだ?

 最近は何かと来るたびにアルと話していた記憶があったが、まぁ、子供同士友人が増えるってのはいいことだな。

 

「カヨコー、先生!何話してるのかしら?早く来なさーい!」

 

 前を歩いていたアルが気づき、振り返って俺たちの方へ声をかける。

 

「ごめん社長、先生にDVDのこと話してた」

 

「DVD……? ……な、なななっ、なんですってー!!??」

 

 いつものようにキヴォトスの青空にアルの驚声が響く。

 

 

 そのあと、白目を剥いたアルを宥めながら、俺たちは当初の目的地である百夜堂へと到着する。

 

 百夜堂の店内は、他の百鬼夜行自治区の建物とは違い、モダンで洋風な純喫茶店を思わせるそんな家具が揃えられていて、和風ばかりのこの自治区を考えると物珍しさを感じさせる。

 

 そして、店内に入ると、店の奥から金髪に赤いラインの入った長いポニーテールを揺らしながら、随分と派手な……なんだ胸元が少しどころではないほど心許ない気崩した着物のような服を着た少女がこちらに駆け寄ってくる。

 ……まさか店員か!?

 

「お頭ァァ!!ようこそいらっしゃいマシタッ!!」

 

「!?」

 

 !?

 なんだこいつ、お、お頭?

 俺のことを指してるつもりか?

 笑いよりも先に驚きが勝った。

 

「わざわざシャーレ組からいらっしゃると聞いて、このフィーナ!心よりお待ちしておりマシタァッッッ!!!組の方々も遠路はるばるありがとうございヤス!!!」

 

 情報量で圧殺されそうな挨拶はこれが初めてだぞ……

 ヒマリの長々しい口上とはまた別の角度からのキャラの濃さ……

 フィーナと名乗ったそいつがいう言葉は、いわゆるヤクザもんの言葉だ。

 百夜堂は、てっきりメイド喫茶って呼ばれるやつだとばかり思ってたんだが……

 

「少し待て……あーっと?お頭ってのは俺か……?」

 

 何とか、俺が言葉を捻りだそうとしていると店の奥からさらに別の少女がやってくる。

 ホワイトブリムをつけて、着物とメイド服を掛け合わせたような黒髪の少女のその声に俺は聞きなじみがあった。

 

「ちょっとフィーナ!先生が困ってるでしょ!」

 

 この特徴的な猫撫で声、あの電話で話していたシズコってのは彼女のことだろう。

 しかし、フィーナと違ってこいつは随分と安心できる服装をしている。

 

「エ、でも……先生が来たらビックリするくらい盛大にお出迎えの挨拶をって、さっき委員長が……」

 

 まぁ確かに、ビックリはしたぞ、アルとハルカなんかまだ固まってやがる。

 

「いやいやいや、それはあくまでも百夜堂の従業員としての、第一印象的な話だから!そう、第一印象!第一印象をとびっきり可愛くしておくことで、最初から先生の好感度MAXで行こうというこの──「そういうのは、俺らが居ねぇところでやるべきだと思うぜ?」……はっ!?」

 

 この計算された可愛さってやつは、種類は違えど、ハニートラップの系列だ。

 俺が嫌いなタイプの罠だ。

 とは言え、あの峰不二子みたいな女とは違い、この慌てふためきようから察するに、こいつはあの女ほどの悪どさはねぇようだ。

 

「え、えっと、今のはその、つまり……て、てへぺろ……っ!」

 

 前言撤回してやろうかな。

 

「じゃなくて……こほんっ!……いらっしゃいませ、先生!そして便利屋の皆さん!百夜堂へようこそ!にゃんにゃん!では、中へご案内いたします!」

 

 俺たちからの冷たい目線の中、一度息を吸いなおし、キラキラと輝くような笑顔での接客をし直す……この店が満員御礼なのも納得できる。

 こいつは、プロだ。

 苦手なタイプの女だが、仕事に真摯な姿は素直に好感できる。

 まぁ、そのにゃんにゃんのせいで猫好きであるカヨコの表情が凄いことになっているんだが……

 

 未だに固まっているアルとハルカを引っ張って、シズコの後ろをついていく。

 

 

 

「それにしても先生、本当に来てくださったんですね!」

 

「俺の友達がな。昔、百鬼夜行で修行してたっていうんで気になってたからな。ちょうどいい機会だった」

 

「なるほど、先生のご友人様が、良いご縁に恵まれました!えへへっ、では改めて自己紹介を……私は河和シズコ。百鬼夜行連合学院所属、お祭り運営委員会の委員長であり、この百鬼夜行自慢の伝統的な喫茶店『百夜堂』のオーナー!それと同時に百夜堂の看板娘でもあって、つまりはみんなのアイドルみたいなものです!」

 

 随分と肩書が多いみたいだ。

 その分その肩に乗る責務も多そうなもんで、その中でもこの接客と笑顔を維持するのは中々な精神力があると感じる。

 アイドルか……俺はそういう媚びたもんが嫌いだが、ここに来るまでの道中で出会った客の笑顔は本物だった。

 相容れねぇが、こいつの仕事ぶりは尊敬できると思う。

 

 席に通された俺たちは、改めて、シズコ達と自己紹介を交わしていた。

 まぁ、尤も俺と便利屋の名前はある程度知られているようで、主に向こうの自己紹介がメインだったが。

 

「コホン!そしてワタシは百夜堂の従業員!任侠の道を究めんとする、フィーナと申しマス!お頭に組の皆さんよろしくお願いしマス!!」

 

「フィーナちゃんだっけ?なんで先生のことお頭っていうの?」

 

 ムツキがフィーナに質問する。

 確かに任侠に憧れるってのはよくわかるが、少なくとも俺は頭なんて呼ばれるようなタマじゃねぇ。

 あぁ、いうまどろっこしいのは苦手なんだ。

 極力対等もしくは一匹狼が俺の性分だからな。

 

「はい!お頭の風貌は、正しく海外のヤクザのボスにそっくり!フィーナ感激で、それにこんなカッコイイ子分さんを引き連れて、だからお頭って呼んでマス!」

 

「……あー、悪い。フィーナ、一個だけいいか?」

 

 要するにマフィアのボスみたいな成りをしてるからってことなのは分かったが、最後のそれは頂けねぇ。

 

「こいつらは俺のパートナーであって、子分じゃねぇ、俺らはあくまで対等だ。先生と生徒ではあるけどな?」

 

 少なくとも、指示は出せど俺はこいつらを手駒だと思ったことは一度たりともない。

 ギブアンドテイクの協力関係、ビジネスパートナー。

 俺らはそういうもんだろ。

 

「これは……大変失礼いたしやシタ!!腹ァ切ってお詫びしマス!!」

 

「ちょっ、ちょっと……そこまでしなくてもいいわよ、それに貴方の勘違いのお陰で良いこと聞けたし……気にしないで頂戴?」

 

 はっ、と気づかされたような表情をしたフィーナが土下座しようとし、それを止めたアルがそう声をかける。

 まぁ、本人らが気にしてねぇのなら俺から何か言うことはないが……

 

「話を止めて、悪かったな。それで、俺らへの依頼ってのを聞かせてもらおうか」

 

「はい、まずは私たちの所属する委員会の説明からですね……私たち『お祭り運営委員会』は、百鬼夜行の観光業の中でも最大級の規模を誇る『お祭り』を担当しています。『運営委員会』という名前ですが、企画から運営、そして全般的な管理まで、そのほとんどを担当してる部活なんです!」

 

「そしてここ百夜堂は、私たち『お祭り運営委員会』のCoooolなアジトデス!」

 

 百夜堂は、この自治区内でも伝統のある喫茶店だと、シズコはさっき話してたが、確かに人の憩いの場となるように細やかなところまでゴミが掃除されていたり、整理整頓されている。

 計算された愛嬌ってのも、売り上げとかもあるだろうが、この場を存続させるための知恵と武器ってところか。

 

「そして今まさに、私たちが準備してきた『百夜ノ春ノ桜花祭』が開催中!色んな方の努力や協力があって、こうして盛り上がってはいるのですが……最近、邪魔してくる奴らが現れまして……今朝もいきなりあちこち荒らされたし、ほんっとに……」

 

「そいつらを何とかしてほしい。そういう依頼で合ってるか?」

 

「はい、先生を純粋に『百夜ノ春ノ桜花祭』へご招待したかったのも本当なのですが……」

 

 シズコは、そういってギュッと音がなるほどに拳を握りしめる。

 このお祭りを開催するまでに、文字通り心血を注いで準備をしてきたのだろう。

 少ししか見て回れてないが、それでもこの祭りの規模も活気も相当なものだ。

 だからこそ、それを邪魔されるのは許せないものがあるのだろう。

 

「委員長!カチコミデス!」

 

「あぁ!!!もうっ、言ってるそばからあいつら!ほんっとやってらんない!!……あっ」

 

「俺はそっちの方が好感持てるから無理すんな。頑張ってたもん台無しにされるのは嫌なもんだろ」

 

「ありがとうございます……で、でも私もプロなので!とにかく、現場で詳しくはお話しします!!」

 

 現場にたどり着くと、挨拶代わりの爆炎が出迎えてくる。

 

「随分と派手なお出迎えじゃねぇか。花火するにはまだ早いんじゃねぇか?」

 

「全くその通りね。打ちあがらない花火にしては派手すぎるわ」

 

「アルさんに先生も!!ふざけてる場合じゃないですよ!!」

 

 アルと軽く軽口を叩き合っているとシズコに怒られてしまった。

 すまんと軽く謝っていると爆煙の中から、この騒動の元凶たる奴らが姿を見せる。

 

 黄色い着物姿の天狗の仮面をつけた少女達だった。

 ヘルメット団といい、団体で群れるやつらは共通の被りもんをするのがこの世界の文化なのか?

 

「ふはははっ!!あたしらは百鬼夜行の路上に屯する魑魅魍魎!その名も魑魅(すだま)一座、路上流っす!」

 

「さぁ!みんな、ご要望通りに荒らして荒らして荒らしまくりな!」

 

 ……ご要望通り、か。

 ヘルメット団の時しかり、裏に誰かいると思うべきか。

 色々考えたいことはあるが、今はまずあいつらを止めるべきだな。

 

「お前ら、一仕事始めるぞ」

 

 そう言うと同時にハルカが突貫し、銃弾を物ともせず接近し、至近距離でショットガンを発砲、着弾した相手が吹き飛んだのを確認してから、隣に立つ別の標的の顎をストックで素早く打ち抜く。

 数が少ないのもあるが……俺らの出番は少なそうだ。

 いつも一生懸命だが、今日は特にやる気があるように見える。

 ハルカなりに楽しんでいたこの祭りを台無しにされている風景を見て、キレたか。

 ムツキとカヨコも、それぞれ別の個所を抑えながら、アルがそれのサポートをしている。

 

 いつもの便利屋のフォーメーションだが、ヒナや、アビドスのような強者でない限りあいつらは一騎当千に近い実力を個々で持っている。

 せめて俺にも少し分けといてほしいもんなんだが……などと心の中でぼやいていると、何か桃色の残像のようなものが戦場を駆け抜けているのが見える。

 便利屋ではないし、シズコやフィーナも見える……

 ってことは敵か。

 

 速度は速いが……目で追えない程じゃねぇ。

 

 マグナムを取り出し、動きを予測し……撃ち抜く。

 

「きゃんっ!!??」

 

 弾が命中し、速度を伴ったままド派手に転倒したそれは、俺の目の前まで転がってくる。

 今の声、ついさっき聞いた記憶があるような……

 

「イズナ、お前さん何してんだ」

 

「あ、あぇ!?先生!?」

 

 土煙が晴れるとそこにいたのは、忍びを目指す狐の少女、イズナだった。

 戦場を駆け巡るあの脚力に跳躍力、キヴォトス全土を見てもそう多くはない。

 

「何してんだって。そ、それはイズナの台詞です!?どうして先生が私たちの邪魔を!?」

 

 はぁ、最悪のパターンだ。

 イズナは、向こう側のようだった。

 こんな世界だ、いずれ起こると思っちゃいたが……

 しかし、何故だ?

 あんなにこの祭りと百鬼夜行のことが好きなイズナが何故?

 

 忍びになるための実績作りってとこか?

 イズナの感性からして、こういう悪どいことはしねぇとばかり思ってたんだがな?

 

「はっ! もしかして先生は、最初からイズナを誘い出すために近づいてきたのですか!?まさか、すべては仕組まれていた……!?イズナの夢を応援してくれたのに……!本当は悪い大人だったんですか!?」

 

「……あぁ、そうだ。俺らは悪党だ。」

 

「や、やっぱり!!……うぅ……」

 

「そういうお前さんこそ、あの破落戸に付く意味分かってんのか?」

 

「い、イズナは忍びとして命令に従っているだけです!!」

 

 目じりに涙を浮かべながら、イズナは激昂している。

 しかし、答えになっちゃいねぇな……

 俺には教えてくれねぇと、そういったところか?

 

「な、なんだアイツ……弾当ててもちっとも怯みやしない……!!」

 

「あ、あいつだ!あそこにいる大人が連れてきた奴らのせいで、他のお祭り運営委員会の奴らの動きも良くなってやがる!」

 

 んなアホな事あるか。

 テメェらが弱いだけだろうが、しかし……あの魑魅一座だったか。

 使ってる武器はどれも新しいものではなく中古品ばかり。

 カイザーのように金のある奴がバックにいるってわけでもないのか?

 

「ちっ、イズナ殿!一旦戦略的撤退だ!」

 

「せ、戦略的撤退……?ですがイズナは……」

 

「立派な忍者は引き際を弁えてるものだよ!何かの本で読んだ気がする!」

 

「なるほど!そういうことであれば!」

 

 今のやり取りで、イズナと魑魅一座の雇い主は同じ奴だってのが分かった。

 んでもって……イズナのことを利用してやがるってこともな。

 イズナの盲目なまでの夢へ目指す心は確かに付け入る隙が大きい……

 とは言えだ。ガキの夢を利用するのは、気に入らねぇ。

 

「先生……まさかイズナの夢を応援してくれた先生が、敵になるだなんて……何という運命の悪戯……!ですがイズナは知っています!忍びの道を行くからには、こういったことも起こり得るのだと!ドラマで見ましたので!」

 

「……まぁ、そうだな」

 

「望まぬ戦いに巻き込まれてしまうのもまた、忍者の宿命!先生、イズナは諦めません!次に相まみえる時はイズナ、今の三倍くらい強くなっているはずですので!!では!

 イズナ流忍法!!瞬身の術!!」

 

 左手の人差し指と中指だけを突き立てた状態の手印を組んだイズナの体が消え、次の瞬間には遠くの平屋の屋根を伝って渡っている。

 少なくともヒナの高速移動までは見切れる俺ですら、見えない速度……体術、って奴なのかもしれねぇが……本物の忍術に俺には見えた。

 確かにそう、見えたんだ。

 

「先生……今のって……」

 

「アルか……お前さんの考え通り……イズナだ」

 

 恐らく主戦力であるイズナが撤退したからか、他の破落戸共も撤退していく。

 尋問するのも考えたが……祭事の時にそんなことをするもんでもねぇな。

 

 そして、俺たちは再び百夜堂へと戻った。

 

 

「んで、今のが、その邪魔してくる奴らか」

 

「はい、桜花祭が始まってからというものの、魑魅一座のやつらがあちこちで悪さをするんです!」

 

「魑魅一座・路上流。昔から百鬼夜行で、しょっちゅう問題を起こしているやつらデス!」

 

「なるほどな……アル、お前らはあんな破落戸共とは違ぇだろうが」

 

 あの破落戸共の説明を聞いているアルが申し訳なさそうな表情をしているためフォローを入れる。

 少なくとも、アビドスで敵として戦った時も、仕事する時とそこらの破落戸と同じ扱いをした記憶はねぇな。

 

 まぁ先生としてはどうなんだと言われればその通りではあるんだが……

 

「そうデスヨ!お頭と兄妹盃を交わした皆さんの実力と心根はしっかり見てマシタ!噂通りのカッコイイOUTLAWデス!」

 

 こいつらと盃を交わした記憶なんざないんだが……まぁフィーナの趣味での例えってことだろう。

 

「……それでだ、あの一座は昔からあんなにハチャメチャやってんのか?」

 

「……いえ、こんなに組織的に動くようになったのは最近になってからな気が……まるで、組織立って『百夜ノ春ノ桜花祭』を台無しにさせようとしてるっていうか……」

 

「組織なのはそうだろう、誰かからの命令なのは間違いない」

 

「そんなこと、言ってましたか……?」

 

「ご要望通り、ってな。別の学園でもあぁやって、組織を雇って襲われるって手口があったが……今回も同じだろう」

 

 きゅぅ、と声を上げながらハルカとアルが身を縮こませてしまう。

 そういや、お前らとの出会いも雇われ兵だったな。

 

「何にせよ、任侠を志す者として放ってはおけマセン!」

 

「あぁもうっ!本当に何なのよっ!今までは何とか私たちだけで止められたけど……なんか頻度も数も増えてる気がするし……このまま桜花祭がダメになったら、私たちがあちこちから責められるじゃない!たまったもんじゃないわよ!」

 

 頭を搔き乱し、シズコは机を拳で叩く。

 委員長としての責任とストレス……俺の想像以上のものが彼女の肩にはかかっているらしい。

 机を叩いた時に出た音と振動でビクリと体を大きく跳ねさせたハルカが口を開く。

 

「そ、その……シズコさん……お疲れ様……です……」

 

「あ、えっと……ごめんなさい、ハルカさん……」

 

「い、いえ……その、私なんかが言うのもおこがましいですが……桜花祭、凄く楽しくて、この祭りをやるのにどれだけ努力したのか、みんなの笑顔で伝わってきます。だから、シズコさんが、邪魔されて怒るのも……分かります……あのすみません!私なんかがわかったような口きいて……」

 

「いや、よく言ったと思うぜ?俺らも同意見だ。ま、お前さんがキャラを守ろうとするのも分かるがな?」

 

 ハルカの言葉を聞いたシズコの今にも泣きそうな顔が何よりもの答えだろう。

 

「……でも、フィーナ、理解できマセン。どうして桜花祭を邪魔しようとするんデショウ?」

 

「知ったこっちゃあないが、色々と気に食わないんじゃないかい」

 

 フィーナの問いに男の声が答える。

 その方を見ると、そこにいたのは二足歩行した紺色の和服を着た虎猫がいた。

 ……犬だけじゃなく猫もいるのかよ……

 

「どうも、百鬼夜行の商店街の会長『ニャン天丸』だよ」

 

 柴犬の柴大将、猫だからニャン天丸……か。

 言いたくはねぇな。

 

「あの、会長……いったい桜花祭の何が気に食わないんでしょうか……?」

 

「さあね……ただ強いて言えば、今回はひとつ大きく変わったことがあるだろう。昔からこの『百夜ノ春ノ桜花祭』の最後には、伝統的に花火が打ち上げられていた。でも今回はちょっと違うんだろう? 新たな試みだとかなんとか」

 

「はい……今回の桜花祭のために、特別に準備したものが」

 

 シズコの目線の先にはテーブルに乗った機械群が見える。

 投影機の一種か?

 

「今回のお祭りのフィナーレのために、ミレニアムにお願いした特別な装置です」

 

「ホログラムで花火を再現する、天気も煙も関係ない、specialでniceな機械だと聞きマシタ!」

 

「お金のかかってそうな機械だな……まあ何にせよ、何かが変わるということを、誰しもが簡単に受け入れられるわけじゃない」

 

「それはそうですけど……それが理由で、桜花祭を邪魔するなんて……私はただ『百夜ノ春ノ桜花祭』を、今まで以上に素敵なものにしたくって……」

 

 その言葉を聞いたニャン天丸は、何もわかってないなと言わんばかりにため息をつく。

 大きく、深いそれを……ハルカは見ている。

 何も言わず、じっと……焼き付けるように。

 

「あくまで推測だ。それに儂だって今さら、このことを蒸し返したいわけじゃあない。ただ、気に食わんと思うやつらもいるだろうなって話だよ。学生がこんなに金を使って……ってな」

 

「はい……ですが、私たちも趣味や道楽だけでやってるわけじゃありません!全てはお祭り運営委員会の委員長として、桜花祭を素敵なものにするために!それだけは自信を持って言えます!」

 

「ハイ!お祭りというのは、毎年どんどん楽しくなっていくべきデス!」

 

 いつだって若者と年老いた奴は対立するもんだが……あのニャン天丸とかいう男から嫌な気配を俺は感じ取っていた。

 ぶっきらぼうなだけなら、俺は気にしねぇが……あれは、そういうもんじゃねぇ。

 シズコとフィーナはまだそれに気づいちゃいねぇみたいだが……

 

「……ふん、そうかい。じゃあそうなるように頑張りな」

 

「そうやってぶっきらぼうですが、会長はいつも手伝ってくれますし。今回の桜花祭でも、色々と心配してくれてますもんね」

 

「フィーナ知ってます! 『ツンデレ』ってやつデスね!」

 

「違うわい!……それで、実際どうするつもりなんだい?そろそろあいつらを止めないと、このままじゃ桜花祭がめちゃくちゃになっちまう」

 

 ……まるで、お前らのせいでとでも言いたげだな。

 普段からそうなのか、どうかは知らねぇが、部外者だからこそ気が付くもんだ。

 

「俺たちもいるが、敵の全体像が分からないからな。協力者とかいねぇのか?」

 

「確かに皆さんの腕を疑ってるわけではないのですが……うーん、背に腹は代えられないですし……心当たりがある人たちがいますので、一度行ってみましょう。ただ……先生の力が必要です。協力してくれますよね?」

 

 

 今向かっているのは、百鬼夜行連合学院において実質的な生徒会を担っている『陰陽部』のところだ。

 百鬼夜行を束ねる陰陽師……なんとも古風なもんだ。

 

 フィーナは留守番を任されて、シズコが先導する形で進んでいる。

 その道すがら、俺はハルカに話しかける。

 

「ハルカ、お前さんあの猫の旦那のことどう思う」

 

「……会長さんのことですか……その……正直に言うと嫌い、です。あのため息……あれは悪意しか感じませんでした」

 

 ハルカは、人一倍悪意に敏感だ。

 暴走しやすいところはあるが、咄嗟に敵かどうかを見極めて、排除する。

 その悪意のセンサーが狂うことは滅多にない。

 

 だからこそ、俺はあの時一番誰よりも殺意に満ちた目をしていたハルカに聞きたかった。

 

「全部が嘘では、なくても……あの人から祭りへの愛を感じられませんでした……自分のことしか考えれない……そんなエゴの悪意。嫌い大っ嫌いです」

 

「お前さんの感覚は信用してる、でもまだ撃つなよ。あれのしっぽを出してねぇ。掴んでからだ」

 

 その言葉を聞いたハルカは、自分のショットガンを抱きしめながらコクリとうなづいた。

 

 

 

「部長は下校しました」

 

「はぁああああ!!!???」

 

 水色の長髪を三つ編みにした鬼の角を生やした少女、陰陽部の和楽チセがそう話す。

 今日だけでシズコの化けの皮は何回はがれることになるんだろうな。

 

 しかし、部長の天地ニヤ……だったか。

 随分と余裕な対応をしてくれる。今回は無理だが、その顔いつか拝んでみたいものだ。

 

「部長から、伝言を預かってる。助けてあげることはできないけど代わりに、修行部に行けば何とかなるはず、って。」

 

「……修行部?」

 

 ゆったりとした話し方をするチセの話を纏めると、向こうも一座の騒ぎで迷惑してるから協力を呼びかけやすいだろうとのことだった。

 まさか、タライ回しに会うとは思わなかった。

 

 陰陽部の部室からの帰り道、シズコは見るからにうなだれていた。

 

「はぁ……にしても修行部、修行部かぁ……修行部の生徒たちって、結構変わり者でして……」

 

「へぇ「シズコ(ちゃん)よりもか?」」

 

 ムツキと俺のセリフが被る。

 ムツキも、シズコの人間臭い所を見て気を許し始めているのか。まぁいいことだな。

 

「え、はぁ!?……あっ、じゃなくて、嫌ですね☆先生にムツキさんったら~、何を言ってるんですかぁ?☆シズコは変わり者じゃなくて、百夜堂の可愛い可愛い看板娘ですよっ☆」

 

 俺たちにさんざん化けの皮がはがれた素顔を見られているのにそれをキープしようとするのは、もはや流石の一言だ。

 

「……とにかく! 修行部は、毎回修行のためと言いながら、色々とよく分からない活動をしてる部活です。例えば、修行の一環として寝ながらジグソーパズルをやる人とか、素敵なレディーになるためと言いながら、何故か街のチンピラたちを退治してる人とか、大和撫子としての嗜みとか言って、読心術を使える部員もいるとか……」

 

「……俺はそういうオカルトチックなのは信じねぇって決めてるんだ」

 

「なんか、凄いわね……百鬼夜行って……」

 

 アルの言葉には同意見だ。

 なんというか、ここの奴らは濃い。

 何がかといえば、キャラがだ。

 悪いことではないんだが、とにかく印象に残るやつばっかで困る。

 

 とはいえ、アルの母校であるゲヘナも大概だってのは言わぬが花か?

 

「まあ私も噂でしか聞いたことないので、実際のところは直接確認してみないと分からないんですけど。そんな変わり者たちに協力してもらえるのかどうか……」

 

 振り向きながらシズコが話した瞬間、シズコの背後に爆炎が広がる。

 

「はぁ……また来たか」

 

 おちおち話す暇すらくれねぇらしい。

 犯人は言わずもがなだろう。

 

 しかしだ、あの一座の目的は何なんだ?

 祭りを壊すためだけに、爆薬やら銃弾を使うにしては、採算が取れない。

 俺の予想が当たっていれば……ハルカの発言と合わねぇ。

 つまり……目的は祭りの中止じゃない……?

 

 ……そんなバカな話があるか?大の大人が?

 

 俺が思考に耽っている中で、戦いを止めるための声が轟く。

 

「そこまでだよ! 魑魅一座!」

 

「派手に!」

 

「可憐に……」

 

「う、美しく……! で、合ってます……?」

 

「ばっちり!」

 

「街の平和を守るため、美少女三人組の修行部……ここに参上!!」

 

「参上ー……」

 

「えと、参上、です……」

 

「ふふーん! 完璧な登場演出! ね、ツバキ先輩!」

 

「ふぁ……そう?」

 

「えっと……カエデちゃん、何だかすごい見られてる気が……」

 

 アルが目を輝かせながら、修行部のやつらを見ている。

 が、俺は全く別のことを考えていた

 

 もしかして、アコの服装ってのはもしかしてマシな方なのか?

 

 いや、巫女の衣装っていうのと制服だから……あの改造制服を着ている青いアホ……間違えた、アコの方が酷いか?

 

「か、かっこいい!!!」

 

「アルさん、正気……?」

 

「社長はいつもこうだから、シズコさん」

 

 そんな三人の少女を加えて戦闘を始める。

 さっきよりも戦力は多いんだ。

 態々何か言うことはないだろう。

 

「クッソ……あのバ……忍者モドキはまだか!!」

 

 ロクな整備のされてない貧乏な状態で勝てたら余程の腕利きだと思うが、こいつらは残念ながらそうではなかった。

 ただそれだけだ。

 てめぇの手足になるやつに金を使えない貧乏性……ため息が漏れる。

 

「えっと、確かそろそろ……」

 

「イズナ流忍法!!四方八方もくもくの術!!」

 

 一座の一人がリーダー格の奴にそう答えると、同時に空からイズナの声が響き、それと同時に地面から煙が噴き出す。

 

 煙幕らしきものが地面にぶつかった気配はなく、どういう原理かわからないが、戦場はあっという間に煙幕に包まれた。

 

「イズナ、予告通りに再び参上しました!」

 

「暗殺しなくてよかったのか?」

 

 煙の中で、俺の視界内にイズナが現れる。

 こいつの速度なら背後から心臓を一突きなんざ簡単だったろうに。

 まぁ、こいつの善性を考えれば、そういうことをするようなタマではねぇか。

 

「先生がどんな悪党でも、イズナにはできません!!イズナ、気が付いたんです!

 たとえ先生が私の夢を認めてくれたかっこいい大人……いえ、かっこよくて悪い大人だとしても!

 こうやって敵として出会ってしまった以上、先生を倒して説得しなければなりません!それこそが、イズナの歩む忍びの道!忍者としての宿命だと!」

 

 イズナはそう言い切った。

 少し妄想癖があるが……その覚悟と信念は……強固で真っ直ぐなもんだ。

 

 こういうやつに俺は弱い。

 このキヴォトスに来て、特に顕著になったと感じる。

 

「さあ、お覚悟を!先生!イズナは、先生のことを打ち倒してみせます!やぁっ!……きゃん!!」

 

 俺がマグナムを取り出すよりも速く、飛んできた弾丸がイズナの眉間を撃ち抜く。

 地面へと倒れたイズナは痛そうに額を擦りながら、体をあげるが、まだ痺れているようだ。

 

 そして、耳に入ってくるだろう。

 煙の中でもよく聞こえるカツカツと地面を鳴らすヒールの音が。

 

「いったた……あ、アル殿」

 

「……イズナ」

 

 久しぶりにその表情を見たな。

 アルが本気で怒ってる時の顔だ。

 

「……イズナ、貴女何をしてるのか分かってるのかしら」

 

 その手には俺が渡したリボルバーがあり、それをイズナに向ける。

 

「はい!忍者になるために依頼をこなして…邪魔者を倒して、任務を全うしなければなりません!それがどんな任務だったとしても……命令とあらば完璧に行うのが忍びです!」

 

「……そう……見損なったわ、イズナ。今の貴女ちっともアウトローじゃないわ」

 

 その言葉を聞いたイズナの眼に涙が浮かぶ。

 あの展望台に向かう時にアルと話していたが、その時にアルから聞いていたのかもしれない。

 それとも、夢を宣言しあったあの時間を思い出したのか。

 

 どちらにせよ、イズナには伝わったのだろう。

 アルの言った言葉の真意がどんなものなのか。

 ちっともアウトローじゃない(・・・・・・・・・・・・・)、それがどんな評価なのか。

 

 言い過ぎだとも思うが、それはきっとイズナの為にならない。

 それはアルが1番分かっているはずだ。

 

 煙が晴れていく。

 

「……イズナ、アルがなんでこんなことを言ったのか、よく考えてこい。俺からの宿題だ」

 

 涙を零しながら、イズナは煙に紛れて姿を消す。

 

「……先生、何も言わないでちょうだい」

 

「……まだなんにも言ってねぇよ」

 

 肩を震わせて目元を隠しているアルに、俺は自分の帽子を被せて、他の奴らの方に向かって歩いていく。

 

「あれ?先生、帽子は?」

 

「少し天気雨(・・・)に降られてな、貸してるんだ」

 

 シズコに聞かれたが俺はそう返す。

 

「……なんだ?俺の顔になにかついてるか?」

 

 修行部の部員であろうピンク髪の少女が俺の事を見つめている。

 

「………失礼しました、私副部長の水羽ミモリと申します」

 

 そう言ってぺこりと頭を下げた彼女の目は俺を見つめ続けている。

 

「……ミモリって言ったか、何が見える。俺に」

 

 さっきシズコの言っていた、読心の出来るやつは、このミモリのことだろう。

 なんとなくの勘だが……こういう時の俺の勘は当たるもんだ。

 

「……私の読心は、相手の思考や欲求を把握できるものです……それ以上のことは──「なら、なんでそんなに俺の瞳の奥を見つめる」……なるほど、それが貴方なんですね……」

 

 自分の読心術は、超能力のようなものでは無いと言うが……俺にはどうにもそうは見えない。

 

「……優しい瞳と、そして『紛争』が見えます。貴方は一体……過去に何を…?」

 

「それは答えれねぇ、だが、一つ言えるとすれば俺は生徒の味方だ。先生の仕事ってのはそういうものなんだろ?」

 

 俺の答えに満足したかは分からないが、それを言ったあとミモリが俺を見透かすように見ることは無かった。

 

「……せんせい、ありがとう」

 

「アル、まだ声震えてんぞ」

 

「言わなくていいわよ……野暮ったいわね……」

 

 アルが帽子を返してくれたが、その目元はまだ赤い。

 まぁ、それをわざわざ指摘する方が野暮だろ。

 

「……アル様……」

 

 

 

 

 

 全員が集合したところで、全体での情報共有を行う。

 俺の考えと推測も話したが……それでボロを出すような女じゃないだろう。

 百夜堂のオーナーは。

 

 

「なるほどなるほど、そいつはよっぽど悪いやつに違いない!みんなが楽しそうに笑ってるのが気に食わないとか、そんな理由で暴れさせてるのかも!うん、絶対そう!絶対悪いやつ!」

 

 俺たちの話を聞いた修行部の明るく活発な少女、勇美カエデがその相手を断定する。

 嫉妬。

 意外にもそれは俺が導き出した動機と一致していた。

 まぁ、嫉妬するから悪いやつなのか悪いやつだから嫉妬するのか……下らねぇ疑問だが、子供の感性からすりゃ、大事なものなのかもしれねぇ。

 

 俺の犯人像はこうだ。

 そいつの標的は、祭りではなくお祭り運営委員会だ。

 

 何をするのか……祭りを中止させその責任の全てを彼女たちに被せることで、自分が実権を握るため。

 

 どうやって……イズナと破落戸共を各地に高頻度で暴れさせる。

 

 何故……子供への醜い嫉妬。

 

 

 

 俺たちは営業を終えた百夜堂で、話し合いを行っている。

 当然、芝居のな。

 

「ところで元凶のお話、具体的にはどうします?」

 

「一番確実な方法があるわ。まず街に出て、どこかで悪さをしてる魑魅一座を見つけたら、一気に包囲するの。お祭り運営委員会だけでは成し得なかった大掛かりな作戦だけど、修行部もいる今なら可能なはず!」

 

「包囲して〜、その後はどうする……?」

 

「もちろん全員で一気に撃退!拘束!それで、そいつらから元凶を吐かせれば終わり!必要なら多少過激な方法もやむなし!」

 

「サスガ委員長!悪党たちには小指ザクリの刑デスね!」

 

「うわっ……」

 

「ひゅ〜♡」

 

 フィーナは、確か任侠に憧れてるんだよな……?

 それは、小指のケジメは、ヤクザのやり方なんだが……ムツキ以外の全員がドン引きしてるぞ……

 

 まぁ、これくらい言った方がある意味の牽制と焦りに繋がるか。

 

「えっと……よく考えると、フィーナもそれはちょっとやり過ぎだと思いマスよ、委員長……」

 

「ほんとほんと!シズコちゃんったら過激〜♪」

 

「ちょっと!なんで私が言ったみたいになってんの!」

 

 とんでもねぇ濡れ衣の被せ方したなぁ。

 俺でもやらねぇぞ……あのフィーナ、ありゃ大物になるぞ。

 あとムツキも乗るなそれに。

 

「とにかく、魑魅一座を捕まえて元凶について吐かせる!もう時間が無いの。百夜ノ春ノ桜花祭のクライマックスは明日!」

 

「あっ、聞いたことある!花火でしょ、ホログラムの!パンパンパーンって!」

 

「ええ、盛り上がりも最高潮。桜花祭のラストを飾るのに相応しい新たな花火を用意したわ」

 

 ミレニアムには確かエンジニア部ってのがあったな。

 そこのやつが作ったのだろう。

 頑強なのかもしれないが、その装置には傷一つ付いていない。

 

 あくまでも狙いは運営委員会。

 そいつらの責任にできるミスしか起こさない姑息なやり方だ。

 虫唾が走る。

 

「もしその時に魑魅一座が暴れたら、騒ぎじゃ済まなそうだね……」

 

「もしそんなことになったら、責任を問われて私たちお祭り運営委員会は……」

 

 今のシズコの発言で、タイムリミットもわかった。

 完全に運営委員会を潰すにはそれが1番手っ取り早い。

 シズコは、純粋にこの桜花祭と百鬼夜行の文化を愛している。

 それは彼女が動いて、ここまで作り上げた桜花祭その物が何よりもの証拠。

 彼女が、あの笑顔を振りまくのも、人が喜ぶ姿が見られるからだ。

 

「……委員長」

 

「……ううん。大丈夫、フィーナ。もしものことはその時また考える」

 

 

 つまりこの子の行動原理は、どこまで行っても『人を喜ばせたい』、『人の笑顔を見たい』これに尽きる。

 俺は、人に媚びたヤツらは苦手だ。

 でも、これは違う。

 人のために、この場所にまた来たいと、この学院にまた訪れたいと思ってくれるように、心からそう願っているからこそ、彼女は看板娘の名を背負っているんだろう。

 最初は苦手だと思ったが、撤回しよう。

 かっこいいぜ、シズコ。

 

「まずは早いところ元凶を探す!それで私がこれまで受けてきたストレスをそっくりそのまま叩き込んでやらないと、腹の虫が収まんない!絶対ボコボコにしてやるんだからっ!!」

 

 この宣言は、ただのやる気を出す為の宣言じゃない。

 正真正銘、今からお前を倒しに行くという意味を込めた宣戦布告だ。

 

 

 

 

 

 そうして迎えた祭りの最終日。

 俺たちからすると2日目だが、それでも昨日よりも観光客の量は倍に増え、賑わいは最高潮を更新し続けている。

 

 俺は作戦通りに単独で行動している。

 何故なのか……それは、きっとアイツは1人で来ると信じていたから。

 

 人の賑わいから離れた路地裏に入ると、その気配も後ろを着いてくる。

 

「……イズナか」

 

「……先生」

 

 振り向くとそこには、初めて会った時とは似ても似つかないほど目元を赤く腫らした狐の少女が、立っていた。

 

 




涙雨
狐の少女の頬濡らし
赤く染め行く夢模様
祭り囃子が鳴り響き
桜舞い散る月下の夜

次回 夢と誓い


過去最大文字数を更新してしまいました……
寄り道しすぎなんじゃ……でも書きたかったから仕方ない……
お気に入り件数3000突破ありがとうございます!!感謝カンゲキ雨嵐でございます……


それを記念して少しだけここだけの話をば、ミレニアム編に入ってから、次回予告って実はその章をイメージした文の作りになってたりします。

あと、アルのマグナムを食らったイズナがあの程度で済んだのは、イズナの耐久値が高いからではないです。

最後に、もしよろしければここすき、評価、感想等々お待ちしております。

今の話のタイトルが分かりにくいとの意見を得て変更するか否か

  • 例:殺し屋の矜持
  • 例:1-10
  • 例:1-10 殺し屋の矜持
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