ご注意くださいませ。
ブラックマーケット。
ただでさえ治安悪いキヴォトスにおいて『闇市』の名を冠する地域。
この場所では、暴動、恐喝、窃盗なんざ息をするのと同じように行われている。
つまり何が言いたいかといえば、俺のような悪党には、お似合いの場所だってことだ。
そんなブラックマーケットには、キヴォトスでも数少ないBARを営んでいる店がある。
『Bar’Dimhide』
店主の高い実力により、長年このブラックマーケットにBARを構えている変わった隠れ家だ。
度々世話になるその店で、マダム・ベアトリーチェとの戦いを終えた俺にちょっとした褒美を与えることにした。
12年物のI・W・ハーパーを開けた俺は、グラスに入った黄金色の液体を、口へと流し込む。
「……格別の味だ」
この酒、買っても良かったが、ユウカになんて言われるか分かったもんじゃねぇからな。
煙草に火をつけ、肺へと熱煙を充満させ、煙を味わい、天井へと煙を吐き出す。
そうして、酒と煙草を味わっていると、足音が聞こえてくる。
足取りからして、身長はそこまで高くない。
そして、俺の背後に止まったその人物は、このBARには似合わねぇ程の若い声で、俺へと声をかける。
「あなたが次元大介かしら」
「……その綺麗な肺を汚したいのか?」
「質問に質問を返すのはマナー違反じゃないかしら」
「違いねぇ。 俺が次元大介だ」
煙草を灰皿に押し付けて、火を消し、後ろを振り向く。
俺に声をかけてきた女は、ブラックマーケットには似合わねぇ程の上等な白いドレスに、黒いリボン。
そして雪よりも白い長髪を靡かせた赤い瞳の少女だった。
少女は俺の答えに満足したように頷き、口を開く。
「そう、良かった。あなたのようなファッションセンスの男が、何人も居たらどうしようかと思ったわ」
「はっ、随分生意気な口を言うじゃねぇか……あー……」
「ふふっ、そうね。折角だし……私が、誰か当てて見てくれない?」
その少女の太腿につけられたホルスターには、よく手入れされたコルト・パイソンが入っている。
この特徴に、あのコルト・パイソン……アリウスの奴らが話してた噂の懐刀か?
「……マダムの白い八咫烏ってのは、お前さんのことかい?」
「御明答。流石は大泥棒の右腕ね、次元大介さん」
白い八咫烏。
アリウス生の中で脈々と語り継がれている都市伝説に近い存在。
アリウスへの反逆、マダムへの革命、我が家からの脱走をする裏切り者に対して制裁を行うナニカ。
俺も、スクワッドから聞いた程度の情報しかないが……まさかこんな幼い子供とはな。
襲名制って奴なのかもしれねぇな。
そんな噂の彼女は、そう答えると、俺の隣に座る。
「マスター、私にも先生と同じ──「アイスコーヒーを一つ」」
少女が、店主に酒を注文しようとしたところで、俺が割り込み、コーヒーを注文する。
「何のつもりかしら」
「お嬢ちゃんには、まだバーボンは早ぇよ」
「レイナ……西条レイナよ」
レイナ。そう名乗った少女は、俺の対応にご不満なのか、出されたアイスコーヒーを口に含む。
そして確かに顔を歪ませる、舌はまだまだお子ちゃまらしい。
「っっ……それとお嬢ちゃん呼ばわりはやめてもらえる?」
「砂糖とミルク、頼んでやろうか?お嬢ちゃん」
「だからお嬢ちゃん呼ばわりはやめてって!それに、ミルクはいらないわ……!」
「好き嫌いすると、背は伸びねぇぞ」
「うるさいっっ!!」
机を大きく叩き、彼女は感情的に机へと当たり散らす。
噂に名高い白い八咫烏は、まだ雛鳥のようだ。
「いいわ、そんなに乗り気じゃなかったけど。貴方を殺す理由ができた」
「随分と物騒なことを言うな? ベアトリーチェの仇討ちか?」
あのベアトリーチェに、そんな人望があるとは思ってなかったが……さっきの口ぶりからして、命令されただけってところだろう。
「仇なんて言うほどあの人に恩はないわ。マナーは色々教わったけれどね」
「へぇ、そうかい……ってことは、お前さんゲマトリアのメンバーか」
マダムの懐刀と称される割には、あの女に対して薄情。
しかし、ベアトリーチェの事を知ってる素振りを見せるってことは……あの女が所属していたゲマトリアのメンバーとするのが……自然な考えだろう。
「あら、流石と言っておこうかしら」
「まさかあいつらに、ロリコンの趣味があるとは思ってなかったがな」
俺の言葉を聞いたレイナは、席を立ちあがり、ホルスターに手を伸ばす。
反応が面白いもんだから、ついつい煽っちまったな。
「それで、お嬢ちゃん。お前さんまさかこんなところでぶっ放す気じゃねぇよな?」
「先に煽ったのは貴方じゃないかしら?次元大介先生」
「やれやれ、躾のなってる犬だと思ってたが、とんだ狂犬じゃねぇか」
とは言えだ。
この店に迷惑をかけるのは、マスターに下げる顔がねぇ。
駄賃の硬貨を置いて、俺は店の外へと歩み出す。
「堅気は巻き込みたくないって事かしら?」
「そういうこった。背中撃ったっていいんだぜ」
「随分と余裕ね?」
ホルスターに携えたパイソンを指で叩く音が聞こえる。
随分とイラついてるらしいのが理解できる。
「そう焦るなよ、みっともねぇぜ?」
「……ふん、それで何処まで歩くのかしら」
しばらく歩いて、暗い路地へと辿り着く。
路地の出口は、レイナが抑えている。
「ここならいいだろ」
「随分と長い散歩だったけど、辞世の句でも考えてたのかしら」
「俺の事を知ったうえで、セリフを吐くとはな。いい度胸をしてるぜ、お嬢さん」
口に煙草を咥える。
やれやれ、怒らせちまったのは仕方ねぇ。
危機は、テメェの手で振り払わねぇとな。
「……先に抜きな。それくらいは待ってやる」
「……舐められたものね、それは」
そういうと、ほぼ同時にレイナはホルスターから銃を抜き、銃弾を放つ。
放たれた弾丸は口の端に加えた煙草を掠め、俺の頬を切り裂く。
それを見届けたレイナは、満足そうに微笑み、ホルスターに銃を仕舞いこむ。
火の付いた煙草を吸い込み、空へと吐き出す。
「次は、当てるわ」
「そいつはお優しいこった」
「そうでしょう?」
ジャケットの裾を捲り、マグナムの持ち手を露わにする。
そして、互いの目を見つめる。
相手の動きの起こりを探る……早撃ちってのは、それを先に見つける戦いだ。
「…………」
「…………」
鳥の囀りが響き渡る。
白い雲が空を渡り、陽光を隠す。
緊張が最大限に達したその時……電話の着信音が、鳴り響く。
その着信音の出所は、目の前の彼女からだ。
「……くっくっくっ、出ないのか?」
「目の前の獲物から目を逸らすハンターがいるかしら?」
「違いねぇ」
着信音が鳴り響き、10秒、20秒と時間が流れていく。
そして……30秒目……通知音が切れる。
再び生まれる静寂を掻き消すように、体が動き出す。
充分に緊張を張り直した腕は、淀むことなく腰のマグナムへと伸び、そして腰から抜かれたと同時に、引き金が引かれる。
落ちる撃鉄と迸る火花。
放たれた弾丸は、白き少女へと向かい……その前に、突如として現れた黒によって握り潰される。
「クックッ……レイナ、私からの着信はワンコール以内にと、教えませんでしたか?」
吸い込まれるような黒に、白い焔が顔のように浮かび上がる長身のスーツを着込んだ男。
ゲマトリアの『黒服』が、そこに立っていた。
「黒服……」
「レイナ、先生と戦うのは避けなさいと……まさか、マダムの命令ですか?」
「えぇ……乗り気じゃなかったけども、命令だから」
レイナが、彼にそう伝えると、黒服は困ったように顔に手を当てる。
「なるほど……なら、その任務は現時点をもって終了です。帰投しますよ」
「でも、私はまだ──「レイナ」……分かったわ、運が良かったわね、次元大介先生?」
拍子抜けしたが……俺はまだ警戒を緩めちゃいない。
まさか俺のマグナムを素手で受け止めるとはな。
ゲマトリアってのは、化け物の集まりか?
「次元先生……失礼しました。こうして会うのは、本来のシナリオにはなかったのですが……変数が現れたようです」
「小難しい話は、テメェらでやってな。 しかし、お前にも娘がいるとはな」
「娘……クックッ、なるほど。貴方にはそう見えるのですか」
黒服の白い焔が、大きく揺らぐ。
まるで、俺の発言を否定したいようにも見えるが……まぁ、今は良いだろう。
「私に比べれば、『パパ』が似合うのは貴方ではないでしょうか?」
「おい、パパって呼ぶんじゃねぇよ。お前さんみたいな大人から言われるのが、一番気分が悪ぃ」
向こうさんはこれ以上俺と戦う気はないらしい。
それを感じ取った俺は、腰にマグナムを仕舞いこむ。
「では、あまり長居するものでもないでしょう、私たちは先に失礼します。帰りますよ、レイナ」
「また会おうな、お嬢ちゃん」
「っ!……いいわ、次あったらその帽子に風穴開けてあげるから」
顔を真っ赤にしたレイナは、俺の顔に指を指し、そう宣言すると黒服の後ろをついて、路地から出ていく。
頬に残る掠れた弾丸の痛みが、やけに響く。
あのまま成長すれば、間違いなくこのキヴォトスでも有数のガンマンになるな。
吸い殻になった煙草を吐き捨て、俺は外へと出る。
西条レイナか……覚えておこう。
面倒な付き合いが増えたもんだと、俺はまだ青い空を見ながらそう思うのだった。
という事で、ガガミラノ先生の作品『ゲマトリア所属生徒「西条レイナ」』より、西条レイナちゃんとのコラボでございました。
ガガミラノ先生の作品はこちらから → (https://syosetu.org/novel/386119/)
この場をお借りして感謝を述べさせていただきます
コラボありがとうございました、ガガミラノ様!
レイナちゃん、ものすごくいいキャラしてますので……是非とも皆様読んでいただきたいですな。
拙作を気に入っていただけている方なら、気にいるかと思いますのでほんと
ではでは……