新任教師『次元大介』   作:レイゴン

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Vol.Ⅲ-Ⅲ 憐れみの賛歌と共に響けよ、銃声のネタバレを含みます。
ご注意くださいませ。


#EXEX2 白い八咫烏と黒いガンマン

 ブラックマーケット。

 

 ただでさえ治安悪いキヴォトスにおいて『闇市』の名を冠する地域。

 

 この場所では、暴動、恐喝、窃盗なんざ息をするのと同じように行われている。

 

 つまり何が言いたいかといえば、俺のような悪党には、お似合いの場所だってことだ。

 

 そんなブラックマーケットには、キヴォトスでも数少ないBARを営んでいる店がある。

 

『Bar’Dimhide』

 

 店主の高い実力により、長年このブラックマーケットにBARを構えている変わった隠れ家だ。

 

 度々世話になるその店で、マダム・ベアトリーチェとの戦いを終えた俺にちょっとした褒美を与えることにした。

 

 12年物のI・W・ハーパーを開けた俺は、グラスに入った黄金色の液体を、口へと流し込む。

 

「……格別の味だ」

 

 この酒、買っても良かったが、ユウカになんて言われるか分かったもんじゃねぇからな。

 

 煙草に火をつけ、肺へと熱煙を充満させ、煙を味わい、天井へと煙を吐き出す。

 

 そうして、酒と煙草を味わっていると、足音が聞こえてくる。

 足取りからして、身長はそこまで高くない。

 

 そして、俺の背後に止まったその人物は、このBARには似合わねぇ程の若い声で、俺へと声をかける。

 

「あなたが次元大介かしら」

 

「……その綺麗な肺を汚したいのか?」

 

「質問に質問を返すのはマナー違反じゃないかしら」

 

「違いねぇ。 俺が次元大介だ」

 

 煙草を灰皿に押し付けて、火を消し、後ろを振り向く。

 

 俺に声をかけてきた女は、ブラックマーケットには似合わねぇ程の上等な白いドレスに、黒いリボン。

 

 そして雪よりも白い長髪を靡かせた赤い瞳の少女だった。

 

 少女は俺の答えに満足したように頷き、口を開く。

 

「そう、良かった。あなたのようなファッションセンスの男が、何人も居たらどうしようかと思ったわ」

 

「はっ、随分生意気な口を言うじゃねぇか……あー……」

 

「ふふっ、そうね。折角だし……私が、誰か当てて見てくれない?」

 

 その少女の太腿につけられたホルスターには、よく手入れされたコルト・パイソンが入っている。

 

 この特徴に、あのコルト・パイソン……アリウスの奴らが話してた噂の懐刀か?

 

「……マダムの白い八咫烏ってのは、お前さんのことかい?」

 

「御明答。流石は大泥棒の右腕ね、次元大介さん」

 

 白い八咫烏。

 アリウス生の中で脈々と語り継がれている都市伝説に近い存在。

 アリウスへの反逆、マダムへの革命、我が家からの脱走をする裏切り者に対して制裁を行うナニカ。

 

 俺も、スクワッドから聞いた程度の情報しかないが……まさかこんな幼い子供とはな。

 襲名制って奴なのかもしれねぇな。

 

 そんな噂の彼女は、そう答えると、俺の隣に座る。

 

「マスター、私にも先生と同じ──「アイスコーヒーを一つ」」

 

 少女が、店主に酒を注文しようとしたところで、俺が割り込み、コーヒーを注文する。

 

「何のつもりかしら」

 

「お嬢ちゃんには、まだバーボンは早ぇよ」

 

「レイナ……西条レイナよ」

 

 レイナ。そう名乗った少女は、俺の対応にご不満なのか、出されたアイスコーヒーを口に含む。

 そして確かに顔を歪ませる、舌はまだまだお子ちゃまらしい。

 

「っっ……それとお嬢ちゃん呼ばわりはやめてもらえる?」

 

「砂糖とミルク、頼んでやろうか?お嬢ちゃん」

 

「だからお嬢ちゃん呼ばわりはやめてって!それに、ミルクはいらないわ……!」

 

「好き嫌いすると、背は伸びねぇぞ」

 

「うるさいっっ!!」

 

 机を大きく叩き、彼女は感情的に机へと当たり散らす。

 噂に名高い白い八咫烏は、まだ雛鳥のようだ。

 

「いいわ、そんなに乗り気じゃなかったけど。貴方を殺す理由ができた」

 

「随分と物騒なことを言うな? ベアトリーチェの仇討ちか?」

 

 あのベアトリーチェに、そんな人望があるとは思ってなかったが……さっきの口ぶりからして、命令されただけってところだろう。

 

「仇なんて言うほどあの人に恩はないわ。マナーは色々教わったけれどね」

 

「へぇ、そうかい……ってことは、お前さんゲマトリアのメンバーか」

 

 マダムの懐刀と称される割には、あの女に対して薄情。

 しかし、ベアトリーチェの事を知ってる素振りを見せるってことは……あの女が所属していたゲマトリアのメンバーとするのが……自然な考えだろう。

 

「あら、流石と言っておこうかしら」

 

「まさかあいつらに、ロリコンの趣味があるとは思ってなかったがな」

 

 俺の言葉を聞いたレイナは、席を立ちあがり、ホルスターに手を伸ばす。

 反応が面白いもんだから、ついつい煽っちまったな。

 

「それで、お嬢ちゃん。お前さんまさかこんなところでぶっ放す気じゃねぇよな?」

 

「先に煽ったのは貴方じゃないかしら?次元大介先生」

 

「やれやれ、躾のなってる犬だと思ってたが、とんだ狂犬じゃねぇか」

 

 とは言えだ。

 この店に迷惑をかけるのは、マスターに下げる顔がねぇ。

 

 駄賃の硬貨を置いて、俺は店の外へと歩み出す。

 

「堅気は巻き込みたくないって事かしら?」

 

「そういうこった。背中撃ったっていいんだぜ」

 

「随分と余裕ね?」

 

 ホルスターに携えたパイソンを指で叩く音が聞こえる。

 随分とイラついてるらしいのが理解できる。

 

「そう焦るなよ、みっともねぇぜ?」

 

「……ふん、それで何処まで歩くのかしら」

 

 しばらく歩いて、暗い路地へと辿り着く。

 路地の出口は、レイナが抑えている。

 

「ここならいいだろ」

 

「随分と長い散歩だったけど、辞世の句でも考えてたのかしら」

 

「俺の事を知ったうえで、セリフを吐くとはな。いい度胸をしてるぜ、お嬢さん」

 

 口に煙草を咥える。

 やれやれ、怒らせちまったのは仕方ねぇ。

 

 危機は、テメェの手で振り払わねぇとな。

 

「……先に抜きな。それくらいは待ってやる」

 

「……舐められたものね、それは」

 

 そういうと、ほぼ同時にレイナはホルスターから銃を抜き、銃弾を放つ。

 

 放たれた弾丸は口の端に加えた煙草を掠め、俺の頬を切り裂く。

 

 それを見届けたレイナは、満足そうに微笑み、ホルスターに銃を仕舞いこむ。

 

 火の付いた煙草を吸い込み、空へと吐き出す。

 

「次は、当てるわ」

 

「そいつはお優しいこった」

 

「そうでしょう?」

 

 ジャケットの裾を捲り、マグナムの持ち手を露わにする。

 

 そして、互いの目を見つめる。

 

 相手の動きの起こりを探る……早撃ちってのは、それを先に見つける戦いだ。

 

「…………」

 

「…………」

 

 鳥の囀りが響き渡る。

 白い雲が空を渡り、陽光を隠す。

 

 緊張が最大限に達したその時……電話の着信音が、鳴り響く。

 

 その着信音の出所は、目の前の彼女からだ。

 

「……くっくっくっ、出ないのか?」

 

「目の前の獲物から目を逸らすハンターがいるかしら?」

 

「違いねぇ」

 

 着信音が鳴り響き、10秒、20秒と時間が流れていく。

 

 そして……30秒目……通知音が切れる。

 

 再び生まれる静寂を掻き消すように、体が動き出す。

 

 充分に緊張を張り直した腕は、淀むことなく腰のマグナムへと伸び、そして腰から抜かれたと同時に、引き金が引かれる。

 

 落ちる撃鉄と迸る火花。

 

 放たれた弾丸は、白き少女へと向かい……その前に、突如として現れた黒によって握り潰される。

 

「クックッ……レイナ、私からの着信はワンコール以内にと、教えませんでしたか?」

 

 吸い込まれるような黒に、白い焔が顔のように浮かび上がる長身のスーツを着込んだ男。

 

 ゲマトリアの『黒服』が、そこに立っていた。

 

「黒服……」

 

「レイナ、先生と戦うのは避けなさいと……まさか、マダムの命令ですか?」

 

「えぇ……乗り気じゃなかったけども、命令だから」

 

 レイナが、彼にそう伝えると、黒服は困ったように顔に手を当てる。

 

「なるほど……なら、その任務は現時点をもって終了です。帰投しますよ」

 

「でも、私はまだ──「レイナ」……分かったわ、運が良かったわね、次元大介先生?」

 

 拍子抜けしたが……俺はまだ警戒を緩めちゃいない。

 まさか俺のマグナムを素手で受け止めるとはな。

 

 ゲマトリアってのは、化け物の集まりか?

 

「次元先生……失礼しました。こうして会うのは、本来のシナリオにはなかったのですが……変数が現れたようです」

 

「小難しい話は、テメェらでやってな。 しかし、お前にも娘がいるとはな」

 

「娘……クックッ、なるほど。貴方にはそう見えるのですか」

 

 黒服の白い焔が、大きく揺らぐ。

 まるで、俺の発言を否定したいようにも見えるが……まぁ、今は良いだろう。

 

「私に比べれば、『パパ』が似合うのは貴方ではないでしょうか?」

 

「おい、パパって呼ぶんじゃねぇよ。お前さんみたいな大人から言われるのが、一番気分が悪ぃ」

 

 向こうさんはこれ以上俺と戦う気はないらしい。

 それを感じ取った俺は、腰にマグナムを仕舞いこむ。

 

「では、あまり長居するものでもないでしょう、私たちは先に失礼します。帰りますよ、レイナ」

 

「また会おうな、お嬢ちゃん」

 

「っ!……いいわ、次あったらその帽子に風穴開けてあげるから」

 

 顔を真っ赤にしたレイナは、俺の顔に指を指し、そう宣言すると黒服の後ろをついて、路地から出ていく。

 

 頬に残る掠れた弾丸の痛みが、やけに響く。

 

 あのまま成長すれば、間違いなくこのキヴォトスでも有数のガンマンになるな。

 

 吸い殻になった煙草を吐き捨て、俺は外へと出る。

 

 西条レイナか……覚えておこう。

 

 面倒な付き合いが増えたもんだと、俺はまだ青い空を見ながらそう思うのだった。

 






という事で、ガガミラノ先生の作品『ゲマトリア所属生徒「西条レイナ」』より、西条レイナちゃんとのコラボでございました。

ガガミラノ先生の作品はこちらから → (https://syosetu.org/novel/386119/)

この場をお借りして感謝を述べさせていただきます
コラボありがとうございました、ガガミラノ様!

レイナちゃん、ものすごくいいキャラしてますので……是非とも皆様読んでいただきたいですな。
拙作を気に入っていただけている方なら、気にいるかと思いますのでほんと

ではでは……
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