新任教師『次元大介』   作:レイゴン

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Vol.2-2 鍵と王女とガンマンと
2-1 洛陽


 ミレニアムの敷地内にある射撃訓練施設にて、俺は相棒の内に宿った神秘を制御するための訓練を朝から行う予定だった。

 

「リオがいなくなっただぁ!?」

 

 ミレニアムプライスの翌日、太陽は既に頂点を過ぎている。

 そんな時刻の頃、俺はヒマリからそう話を聞いた。

 いつもならいるはずのミレニアムタワーの一室に居らず、連絡も付かないという状況だった。

 だいぶマシにはなったが、それでも独断専行の多い生真面目なリオの事だ。

 いなくなることはあれど、連絡がつかないのは確かに違和感がある。

 

「……嫌な予感がするな……おい、そういやネルはどうした?」

 

「そういえば確かに……でもあの子はよく道すがら人助けなどをよく行っていますし……今回もそうなのではないでしょうか?」

 

「……そうか……」

 

 どうにも胸騒ぎが止まらない。

 なんだ?何を見落としている?

 朝からだぞ?協力してもらう側なのは分かっているが、ネルとてそこまで不真面目な方ではない。

 にも関わらず未だに来てないのは……どうにも引っかかる。

 

 そんな時、施設内からでも分かるほどの振動と爆発音が聞こえる。

 施設の外、それもヴェリタスの部室などがある建物の方角だ。

 

「アロナ、状況把握」

 

『はい!近辺の掃除ドローンハッキング開始、完了。ヴェリタスの拠点が爆発しました!被害は建物の全壊。内部にいる人間の安否不明。監視カメラのログを確認します』

 

「ヒマリ、襲撃だ!ヴェリタスがやられた!悪いが先に行ってる。お前さんは体弱いからここで待機してろ!」

 

 ヒマリの返事も聞く間もなく、俺は施設から跳び出し、その方角へと向かう。

 あの建物自体はここからそう遠くない。走って向かえるだろう。

 しかし、なんでこのタイミングで?

 何故、ヴェリタスを?

 

『監視カメラのログが出ました。爆発の三十分前にゲーム開発部のメンバーが建物内に入り、そのままヴェリタスの部室内に入っています』

 

 ゲーム開発部?

 ヴェリタスとは確かに前のミソ作戦とかその前の時点からも繋がりもあったみたいだが……何のつもりでだ?

 

 そうこう考えているうちに爆煙が立ち上る場所へと向かうとそこには、

 

「おい、チビ。てめぇ何のつもりだ?」

 

「プロトコルの失敗を確認しました。再実行」

 

 目を紫色に染めたアリスとその周りに群がる五体の球状の全長4、5mほどの機械。

 そして、それに相対するネルがいる。

 

 明らかに様子がおかしいのはアリスの方だ。

 

「発射シークエン──「おせぇ」……」

 

 光の剣を構えたアリスが、無機質な声でカウントダウンを行おうとする。

 しかし、それを言い終わることはなかった。

 背面を爆破させ、その勢いで急接近したネルがアリスの顎を殴り飛ばし、気絶させたからだ。

 そして、その体が地面に倒れるよりも前に、球状の機械の内の一機が、その体から出たコードをアリスに巻き付け、どこかへと運んでいこうとする。

 

「させるわけねぇだろう」

 

 マグナムを構え、アリスに当たらないように、コードを狙って弾丸を放つ。

 撃鉄が落ち、銃弾が放たれる。

 しかしそれは、瓦礫の中から出てきた、別の機械に直撃し止められる。

 まるで、アリスを絶対に死守するかのような動きだ。

 

「先生、おせぇじゃねぇか」

 

「お前より速い奴がキヴォトスにいるなら教えてほしいもんだな」

 

 その銃声で俺に気づいたようで、ネルが俺に悪態をつく。

 遅刻したことに色々言いたくはあるが、今はそういう状況でもない。

 

「ネル状況は?」

 

「なんも分かんねぇ、爆発が聞こえてここに来たらここらが焼け野原だった、あの機械が原因なのは間違いねぇ。目に見える範囲の怪我人の救助は、03と02が、埋もれた奴は01がやってる」

 

 ネルの隣まで駆け寄り、マグナムを構えながら話を聞くが、伊達に任務成功率100%なだけはある。

 周りの指示をしっかり出したうえで足止めを行ってたわけか。

 アリスの姿はもう見えない。

 完全に奪われたみたいだ……やらかしたな。

 

「弾薬はまだあるな?」

 

「はっ、無くてもあんな木偶の坊。拳で十分だよ!」

 

 機械は、アリスを連れて行ったやつを除いて5体……そのうち一体は俺の銃弾を喰らって半壊。

 これ以上はなさそうか?

 

「後方援護は俺がやる、前衛任せたぞ」

 

「おう!」

 

 ネルが、再び爆発の勢いを使って前に出る。

 機械たちはその球体の中央部から紫色の光弾を発射する。

 弾幕のように展開するが、射程はそこまでなのか、俺の方にまでは飛んでこない。

 

 ネルの神秘『ニトログリセリン』

 爆発による近接での超高速移動と転回も驚異的だが、それ以上に強力だと俺が思うのは、その効果によって、運動の負担軽減や視神経の強化が行えることにある。

 あの強烈な加速についていける身体性能とそれを長時間維持することが出来る。

 鍛えなきゃいけないもんもあるだろうが、自前でそれができるんだから恐ろしいものだ

 

 あの爆発での加速移動の最中でもアイツは、自身に向かってくる光弾を的確に避けて射撃や打撃を行っている。

 これも自分の中にある神秘と呼ばれるそれを息をするように扱えるからだ。

 

 肝心の俺はというと、その自分にはない感覚を理解するのに手間取っていた。

 普段ならそれこそ呼吸と同じように行える射撃もぎこちなく感じる。

 

 銃を構える。

 照準を定めて、息を止める。

 狙いを澄ませて、引き金を引く。

 

 放たれた銃弾は、機械に命中し、その機体を大きく凹ませるが、それでもまだ動く。

 

 一つ一つの動作に違和感を覚える。

 こうなると、動きが緩慢になっちまう。

 一度感じた違和感が足を引っ張って、もたつく。

 

 若い頃の様で苛立ちを覚える。

 たらればなんざしたくなかったが、さっきのアリスの救出だってそうだ。

 俺の判断が遅いせいで、俺の射撃が遅いせいで連れてかれちまった。

 ガキ一人すら守れやしねぇ。

 

「…………」

 

 銃を構える。

 息を止めながら狙いと照準を纏めて済ませる。

 引き金を引く。

 

 放たれた銃弾が、機械を貫き、停止させる。

 

 銃を構え、狙いと照準を向ける。

 息を止めて、引き金を引く。

 

 放たれた銃弾がネルに向かう光弾を弾け散らして機械に命中。

 機体の中央に穴が空き、停止する。

 

 ネルが素早く、二体に銃弾を浴びせて破壊する。

 

 残るは一体。

 

 機械の頭上に跳んだネルが、チェーンを絡ませ、動きを封じる。

 

 銃を構えて、引き金を引く。

 

 放たれた銃弾が、機械の半分を抉り取るように削り、そのままガラクタへと変貌させる。

 

「全滅……だな」

 

「先生……せんせい!!」

 

 一息ついたところに恐らくC&Cに救助されたであろうミドリが駆け寄ってくる。

 土埃を被っているが、怪我をした様子はない。

 が、声色がおかしい。

 というか、いつも一緒にいるはずのアイツはどうしたんだ?

 

「あ、あぁ、モ、モモイ……」

 

「お姉ちゃんが……お姉ちゃんが……!」

 

 まさか……

 

 急いで、ミドリの向かってきた方へ走ると、アスナが頭から血を流しているモモイの応急手当を行っていた。

 

「アスナ、モモイの容態は」

 

「あ、先生。意識を完全に失ってる。足と腕の骨が折れてそうだし、血も結構出てる。止血と添え木はやった。これ以上はここだと無理」

 

「俺の車が、近くに止めてある。シャーレの医療室を使う。アスナはモモイを連れて、他の奴らは重体の奴がいないならミレニアムの保健室に連れて見てもらえ」

 

 軽く指示を出し、アスナと一緒に車に乗り込んで、シャーレへと向かった。

 道中に、シャーレに連絡を飛ばし、着いたと同時にモモイは医療室へと運び込まれた。

 

 程なくして、あのアリスの事件の時にいた奴らから話を聞いた。

 モモイは、あの大爆発のすぐそばにいたらしい。

 いくらヘイローによる頑丈な体が有ったとしても建物が全壊するほどの爆発。

 むしろ、ミドリやヴェリタスの奴らが無傷で済んだのが奇跡なくらいだ。

 ハレは、あの機械はミレニアムの郊外で発見されたもので、アリスが触れる前には何の動きもなく、恐らくあれに『接触した』ことで起きたのだろうと。

 そして、ミドリが言うには、アリスがあの機械に触れたときに、モモイが持っていた『ゲーム機』が急に起動し、今は何も反応しなくなったと。

 

「アイツだ……」

 

 一人シャーレの執務室で、俺は呟く。

 あの廃墟にいた<key>とやら、それが今回の犯人だ。

 あの時、俺はあいつの存在に気が付いていた。

 にも関わらずだ、俺はアリスたちに伝えそびれていた。

 

 その結果がこれだ。

 あいつらの日常を壊した。

 それは、俺の責任だ。

 

 だからこそ、俺が責任を取らなきゃならねぇ。

 ……まずは、アリスを奪い返す。

 それが無理だとしたら……その時こそ、リオ達に言った言葉を実践するときだ。

 

「アロナ、リオの居場所を探るのと同時にアリスのことも頼む」

 

『はい!……次元先生、おつらそうな顔をしていますよ』

 

「いや、何……こういうのはお前さんに頼ってばかりだなってな」

 

『ふふん、構いませんよ。アロナちゃんにお任せください!先生には先生にしか出来ないことがありますから!』

 

 俺にしか出来ないことか……今の俺じゃ任せらんねぇ。

 今のままじゃ駄目だ。だから、もっと強くならねぇと。

 何だか、若い頃に戻っちまったみたいだな。

 自分をそう皮肉りながら俺は再び、ミレニアムに足を運んだ。

 当初の目的を果たすために。

 

 

 

「結局、こんな時間になっちまったな」

 

「モモイちゃんは無事でしょうか……」

 

「今のところ命に別状はないってよ」

 

 今朝以来の集合で、今度はヒマリ以外に、ネルとウタハが来ていた。

 少なくとも何時、リオとアリスの居場所が判明するか分からない以上、感覚を掴む時間は短いものだと考えた方がいい。

 

「お前ら、明日も授業あるだろ?あんま無理はするなよ」

 

 時計の短針は既に5時を示していた。

 流石に高校生を夜遅くになるまで拘束しておくのは気分が悪い。

 

「気にすんな、それに弔い合戦してぇんだろ?」

 

 ネルが歯を見せ、笑いながら話しかける。

 バレてるか。

 別に死んだわけじゃないが……俺の生徒を傷つけたんだ。

 相応の対価は支払ってもらわなきゃな。

 

「さて、それじゃあ、訓練といこうか」

 

 ウタハがそう声を出すと、訓練施設の地面が開き、そこからいくつかのドローンが飛びだす。

 ただの的よりかはマシか。

 ウタハとヒマリでデータの集積を、ネルが俺のコーチを行う。

 これじゃどっちが先生何だか分かったもんじゃない。

 

 俺の相棒の中に宿った神秘。

 意識的に扱う必要がある以上は、その仕組みを理解しねぇとだな。

 

「まず、俺はその神秘ってのがまだ理解出来てねぇんだが……どういう感覚で使ってるんだ?」

 

「あー……そっからか」

 

 ネルが頭を掻きながら考えている。

 ヒマリ曰く、普遍的なエネルギーだったか。

 こいつらにとっては、生まれつきあるもんだからこそ説明が難しいのかもしれない。

 

「こう、頭の中にある撃鉄を下すみてぇなそんな感じか?」

 

「また抽象的だなぁ……」

 

「あぁ!?」

 

 何となく察してはいたが、こいつ……さては感覚派だな?

 顔を真っ赤にしながら地団駄を踏んでいるネルを、余所目に自分の中の感覚を研ぎ澄ませる。

 

 撃鉄を下すイメージか……

 頭の中でイメージを作り、銃口を的に向けて射撃を行う。

 

 全て命中するが、いつも通り変わった様子はない。

 

「……どうだった、ウタハ、ヒマリ!」

 

「何にも変化なし、そのまま続けてくれ」

 

 向こうから見ても変わりはないようだな。

 

 射撃を続ける。的を狙って撃ってリロードし、再度撃つ。

 こういう単純な作業を続けるとどうにも別の考え事をしてしまう。

 

 あの機械のことを思い出す。

 コタマがいうには郊外にまだ20機以上あれと同じ機械があることが判明している。

 恐らくそれ以外にもいるだろう。

 あの<key>がいた廃墟は工場のような役割をしていた。

 アリスがあそこに来て<key>と接触する機会をずっと待ち望んでいたのだろう。

 

 何故?アリスは、連邦生徒会長によって記憶を封じられた可能性が高い。

 鍵になるのは、アリスが元々なんだったのかだ。

 あの機械群を操っているように見えたところからして、あの軍隊を指揮する役割を持つのは間違いないだろう。

 

 何のために?

 ……推測でしかないが、アリスを用いてキヴォトスを侵略するためか。

 

 アリスに、人殺しを行わせるのが目的か?

 アリスは今、心優しい性格だ。

 そのアリスに友達を殺させ、思考を沈めて、<key>が乗っ取る……

 

 それは発想が飛躍しすぎているか。

 

「……せい……先生!」

 

 ウタハの声で思考を浮上させていく。

 

 的が大きく大破し、壁に大きな穴が空いている。

 明らかに.357マグナム弾で出せる火力を超えている。

 

「何か表情が険しくなっていたが、その時に発射した弾の威力が大きく上がっていた。何を考えていたんだい?」

 

「ちょっと昼間のアリスのことをな」

 

「ふむ……恐らくだが、先生のその神秘は、感情がトリガーになっているようだね」

 

 ヒマリと一緒にキーボードを叩きながら、ウタハは冷静にそう結論付ける。

 感情……さっき俺が抱いたものは怒りだ。

 

 まだ分からねぇことだらけだが、一歩前進……と思うべきか。

 ただ感情に支配されるのは俺の感性に合わねぇ。

 

 こいつらには迷惑を掛けちまうが、俺はこいつを制御しなくちゃならねぇ。

 壁に空いた大穴を見ながら思う。

 

 そして、二日後、モモイが目を覚ました。

 




連れていかれたアリスと未だ行方不明のリオ
二人の行く先を探す一行は一つの座標に辿り着く

次回 要塞都市エリドゥ




見事にスランプに陥りました……エタらないように気を付けながら更新しますが……ちょっと息抜きで寄り道するかも?

リオがいないせいで、原作よりもDivi:Sionが多く入り込んでいます。
瓦礫の中から出てきた機械もそのうちの一体。
何だかんだで、彼女も立派にミレニアムの防衛に力をかけていたのは事実だったりするんですよね。

ちなみに、イズナとネル、二人ともキヴォトス最速みたいな言い方をしていますが、フルマラソンならイズナ、50m走ならネルの方が速いみたいなそんなイメージです。

感想でたまに私が返信する「あなたは少し知りすぎた」は、考察とか予測がかなり近いところまで行ってる方に対して使ってたりします。

さてさて、最後にもしよろしければ感想、ここすき、評価お願いいたします

今の話のタイトルが分かりにくいとの意見を得て変更するか否か

  • 例:殺し屋の矜持
  • 例:1-10
  • 例:1-10 殺し屋の矜持
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