頭痛によって目が覚める。
状況把握を優先。
辺りを見回すと、見覚えのある鉄格子に簡易的な椅子。
快適性ではなく機能性のみを重視した硬いベッドの上に私は寝かされていた。
それを設計したのが自分であるだけに見覚えのあるものばかり……
「ようやくお目覚めですか」
一方的とは言え、よく聞いていた幼い少女の声が聞こえる。
私のよく知るその声は、もっと明るく澄んだ声色をしていたが、今自分に投げかけられているその声色は、酷く無機質で無感情的な声色をしている。
「天童アリス……いえ、『AL-1S』と呼ぶべきかしら」
「否定。私の個体名は<key>。王女を助けるため、無名の司祭たちが残した修行者であり、彼女が戴冠する王座を継ぐ『鍵』です」
最悪の展開だ。
ここで目覚めるまでの私の最後の記憶は、自宅に雪崩れ込んできたDivi:Sion達によって、為術なく気絶させられるシーン。
先生との仕事の間でもAMASで破壊し回っていたというのに、一体いつの間にあれほどの数を残していたのか……
そしてここは、恐らくエリドゥの監禁室。
元のプランでは、アリスを破壊する際に邪魔となる人間を閉じ込めておくつもりだった。
まさか、自分が入る羽目になるとは……先生に笑われてしまうわね。
「……どうやってここまで、エリドゥには私が手掛けた防護プログラムを仕掛けていたはずよ」
「ハッキングと私の神秘によって、このエリドゥは既に私の掌中です」
何故、生かされたのか。
そこは分からない。
ただ、生きている以上、ここに来るであろう誰かに情報を少しでも渡すために、目の前の兵器から聞き出さなくては。
「神秘……貴方も自分の神秘を自在に操れるのね」
「肯定。内容を教えるつもりはないので、無駄口は叩かないように」
悟られた?
誘導尋問なんてしたことないから、下手な手は打てない。
会話というのはこういう時の為に必要になるのだと過去の自分を恨みたくなる。
「調月リオ、一つ語るとすると、貴方を生かしたのは、王女の心を折るための道具にするためです」
王女、先ほどからこの<key>は、アリスのことをそう呼んでいる。
かつてヒマリと二人で出した結論は、正解だったようだ。
でも今は、正解の喜びを噛み締めている暇はない。
恐らく<key>の目的はアリスを元の王女に戻す事。
私を目の前で殺すのが、心を折る事に繋がるのだろうか。
私とアリスには面識がない。アリスが如何に優しい心を持っていたとしても、私の命を奪ったところで……どちらにせよ、迅速な脱出を行わなければならない。
もし仮に、アリスが元の『AL-1S』に戻れば……私は彼女のヘイローを壊さないといけなくなる。
だから、私だけで、ここから……私だけ……そういえば、あの時私の自室にはトキがいたはず……トキはどうしたのかしら……
「今貴女の考えていることを一つ当てましょう。貴方のボディーガードのことを考えていますね?」
「……」
「沈黙は肯定と見なします。彼女ならエリドゥ内にいますよ」
であれば、彼女をここに呼べれば、脱出の手立ては立てられる。
「そして、彼女も既に私の掌中です、貴方も同じように」
あぁ、そうか。
そのために私を生かしたのか。
ごめんなさい、先生。
私は、選択を間違えてしまった。
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「よし、想定通り『物流輸送用無人列車』で現場に来れたね」
「流石ヴェリタスです!まさか列車システムごとハッキングしてくださるとは!」
俺たちは当初の作戦通り、貨物列車を使い、エリドゥの地下へと到達していた。
まさか列車が動かないというアクシデントがあったが、ヒマリを始めとしたヴェリタスのハッキングによって、列車を動かすことに成功した。
普段は尊大な態度を取っているが、その肩書に相応しい実力を有している。
『当然です、IT技術のあらゆる面に精通するこの全知にして最高の美少女ハッカーとそして優秀で可愛い後輩ちゃん達が付いているのですから』
ウタハやコトリの褒めに気を良くしたのか、上機嫌な態度でヒマリが通信を入れる。
当然、盗聴対策は入れてるのだろうが、無駄な通信は控えてほしいんだがな。
「この通路抜けた先が、エリドゥだ。お前ら言わなくても大丈夫だろうが……気を抜くなよ」
全員が一頻り反応を見せたのを確認してから、前に進んでいく。
『一応、モニタリングもしてるから安心してね♪』
『それに加え、タワー近辺以外の監視カメラなどのネットワークは既に部長と副部長によってハッキングを済ませてますので、ただ、あの敵性ロボットの主導権は奪えませんでした』
「だから、そいつらの目だけは気ぃ付けろってことだな?」
ヒマリは普段は、別の部活での仕事で忙しいために滅多にヴェリタスには顔を出さなくなったようだが、元々は、ヴェリタスに所属していたんだ。
しばらくぶりとは言え、その共闘に衰えのようなものは感じさせられない。
「やっぱりヴェリタスってすごいね!」
「あぁ、彼女たちだからこそできた事だ。ここまでは悪くない走り出しだ」
出口へと向かう道中で、モモイとウタハが会話している。
相変わらずマイペースなやつだ。
一回気を引き締めさせるべきか。
「お前ら、作戦開始だ」
作戦通り、正面でC&Cの奴らが戦闘を行い、そして地下からその裏手に出た俺たちが、タワーの背後から潜入を行う。
『C&C、戦闘を開始しました』
「お前ら行くぞ」
ヒマリからの合図で地上へと出た俺たちは急いでタワーへと向かう。
「よーーし!外に出れた!」
「ここからどう向かえばいいの?」
『ルートを算出しました。左手にある大通りを真っすぐ北に進めば辿り着けます』
ミドリの質問に答えるようにコタマの声が聞こえる。
それと同時に俺たちは走り出す。
いくらC&Cがミレニアム最高峰の戦闘集団とは言え、その継戦能力には限りがある。
ミレニアムタワーでいくら時間を使うか分からない以上は移動は速く行うべきだ。
『嘘……ネルがやられた』
「はぁ!?おい、ヒマリ、お前今なんつった!?」
走り始めて、数分後、作戦開始からまだ30分も経ってないにも関わらず、ヒマリから唖然とした声が漏れ、その内容に足が止まる。
ネルがやられた?
エイプリルフールはとっくに終わってるだろ。
その嘘は笑えない。
『正体不明の人型機体によってネルが一撃でビルまで飛ばされました。バイタルは問題ありませんが……』
「……想像以上に時間はねぇな……お前ら急ぐぞ」
「先生、でもネル先輩が」
「アイツが一撃でくたばるタマかよ、ヴェリタスはそいつらの解析。俺らのことよりもC&Cのサポートに力を入れろ。ネルが復帰するまでの時間稼ぎをしろ!」
指示を飛ばして、また走りだす。
向こうで何が起きたんだ?
それを考える暇もなく、中央へのタワーへ俺たちは向かう。
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頭が痛ぇ……
意識が混濁する。
何が起きた?
目を閉じたままあたしは、数十分前に記憶を遡る。
「やっほ~!」
軽い挨拶を飛ばしながらアスナが、巡回していた蜘蛛みてぇな四本足のロボットの群れを射撃して破壊する。
「お、向こうからいっぱい来る気がする!」
「アスナ先輩の言う通り、西の方角からロボットの群れが押し寄せてきてる……おおよそ30機」
アスナの予感に合わせて、カリンが狙撃銃で確認を行い、数を報告する。
予想はしていたけど、相当な数が集まってやがるな。
こういう危険分子は、リオが勝手に破壊してるし、今回もそうだろうが……それでもこの数。
一体一体の数はそうでもねぇが……数が多いのが厄介だ。
前に先生と戦ったときに途中から来たキツネ女……イズナだったか?
アイツの分身での圧殺も結構厄介だったからな。
「その方角なら……」
「えぇ、既に私の爆弾を仕掛けておりますので……」
あたしが疑問を口にする前に、アカネが答え、そして大爆発が見える。
あの様子じゃ全部逝ったな。
「クリア、東と南の方角からまた30機ずつ来る!」
「よし、今度こそあたしの出番だな。南はあたしがやる。東は任せた……テメェら派手にぶっ壊しに行くぞ!」
そういって駆け出すと正面からロボットの軍勢が見えてくる。
衝突まで残り10秒。
あいつらの主な攻撃手段は、距離減衰する光弾。
撃つにしてもタメが要るっぽいからな。
だからこうやって、速度を上げてやりゃあ、動きを止めてタメに入る。
止まった的をハズすような馬鹿はC&Cに居ねぇからな。
足に神秘を貯めて、踏み出すと同時に爆破。
空中に飛び出し、宙返りをしながら、神秘を込めて射撃を開始する。
やっぱアイツらそこまで硬くねぇみてぇだな。
弾だけじゃそれなりに当てねぇところだが、爆破も含めりゃ一瞬で殲滅できる。
まだ動いているロボットの上に着地し、同時に爆破しながら踏み、また空中に飛び出す。
流石に空中に跳んだあたしを狙いに、同じように跳んでくるロボットに対して、マグチェンジで空いたマガジンをブン投げてぶっ壊す。
着地し、飛び掛かってきたロボットを速い順に殴り、蹴り壊し、包囲するように同時に襲い掛かれば、即座に弾をばら撒いて対処する。
あたしの戦い方に、すぐに対応してきた辺り知能自体は悪くなさそうだな。
とは言え、弾も遅ぇし、あんなのに当たるやつがいるわけねぇしな。
そうなりゃただの的だ。
「けっ、この調子なら余裕で一日は耐えれるな」
『リーダー!そっちに何か向かってる!凄く嫌な予感がする』
無線からアスナの声が聞こえる。
アスナが凄く嫌な予感がするっていうまでの脅威か……
再度気を引き締め、回りながら弾を乱射し、ロボットの軍勢を全滅させる。
「あれか……おい、ヴェリタス。あんなのあったか?」
マグチェンジを終えると奥から紫の装甲に身を包んだ人型の機械が見える。
……いや、何かが乗り込んでるな?
『ちょっと待って、今解析する』
副部長のチヒロの声が聞こえるが……向こうは待ってくれなさそうだ。
「なんか、人が乗ってるな……ありゃ……ヘッドドレスか?」
バイザーをかけた少女の両手と両足を包み込むように機械の装甲が付いていて、腕から伸びるように生えたアームには三門のガトリングと、肩から砲台のようなものが生えている。
「コールサイン・00。戦闘に入る」
あんだけデケェんだ、こちらに向かってきてるが、かなりノロい。
武装と装甲のせいで、重いだろうし、速さであたしに勝てる奴はキヴォトスにはいねぇからな。
『待って!ネル!』
チヒロの声を振り切って、速度を上げていく。
駆け出す足に神秘と爆破を乗せて、加速に加速を掛け合わせる。
風よりも音すら置き去りに。
一撃で仕留める。
正面に拳が見える。
「は?」
瞬間、衝撃。
『……ル……ネル!』
「……あ、……何が、起き……た?」
目を開くと、壊れた照明と暗い天井が見える。
ヒマリの声で目を覚ます。
『起きましたね。簡潔に説明します。今貴女は謎の機体にカウンターで殴り飛ばされて戦闘地域から1km離れたビルの中にいます』
あたしの全速力に合わせやがったのか。
クッソ、乙女の顔を思いっきり殴りやがって……
『今は、他のC&Cが対処してる状況です。私たちは今あの機体の情報を全力で調べてます……リオの個人ファイルも含めて。まだ立てますよね』
「……ったりめぇ、だ。あたしはコールサイン・00だぞ、チヒロには詫び入れといてくれ……」
『それはご自分で。情報が出揃い次第、貴女を再度ぶつけます。今のうちに回復に努めてください』
そう言うと通信が切れる。
冷静になれ、あたし。
速度自体はあたしの方が圧倒的に速い。これは確実だ。
それなら、あのカウンターにはカラクリがあるはず。
武器に破損はねぇ、戦うには問題ねぇ。
あたしの名前に傷をつけたんだ。
その汚名返上しなきゃな……
思考しながら、体の傷に神秘を込めて治療に充てる。
鼻を押さえて血を噴きだし、そのまま手で押さえる。
こうしてりゃ鼻の骨折は、数分で治る。
……骨は折れてねぇな。
そのまま血管の一本一本に集中する。
戦ってる最中には治療が出来ねぇからな……
「ふー……」
左腕の筋線維が切れてるな。
息を吐きながら、力を抜き、傷を治していく。
まるで、分かってたかのように攻撃を当ててきやがった。
……演算か?あたしの攻撃軌道の全部を予測して、その起りが出る前に攻撃を置いておけば……
「ヒマリ、多分だが、あいつは高速演算ができる可能性が高い。それっぽいのリオは作ってねぇか?」
『演算ですか……なるほど』
「あれに女が乗ってた。何となくだが、他のロボット共とは作りが違ぇ……」
『分かりました……情報ありがとうございます』
……体の傷は治ったな......細けぇ傷は、今はいい。
関節をほぐしながら、軽く準備運動を行う。
『C&C全員に連絡です。敵の正体が判明しました』
ヒマリの声が、無線から入る。
そして、敵機の正体を語る。
『敵機は、リオの発明品「アビ・エシュフ」。搭乗者は、C&Cコールサイン04。飛鳥馬トキです』
ネルの敗北を聞きながら
次元一行は足を進める。その先に大いなる敵がいるとも知らず。
次回 アヴァンギャルド
語るかどうか分からないのでここで吐き出しておく設定
<key>の神秘の名は『鍵』。己の神秘量以下の無機物有機物の心の鍵を意図的に開き、支配する能力。分かりやすく言えば洗脳。なお、トキと<key>だとトキの方が通常時は神秘量は多いです。
さて、先日からあらすじの方で出ているのですが、なんとこの作品の表紙が出来ました!
りんご様(https://x.com/ering0__ )に拙作の表紙を書いていただきました!
ありがとうございます!
【挿絵表示】
この物語ももう間もなく50の節目を迎えようとしております、良ければ末永く共にこの概念を見守っていただければ幸いです。
さてさて、最後に、評価、感想、ここすき、お願いいたします!
今の話のタイトルが分かりにくいとの意見を得て変更するか否か
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例:殺し屋の矜持
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例:1-10
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例:1-10 殺し屋の矜持