「……起きて……起きてください……
私の声が聞こえていますか……
そこに、いますか……世界を救う……勇者よ。
今、私たちの世界『ミレニアムランド』は──「モモイ、それこの前ボツにしたやつじゃ……」
いいって、どうせバレないからさ。
コホン。
今、私たちの世界『ミレニアムランド』は、存亡の危機に立っています。
この世界を救えるのは、かつて勇者たちを率いた貴方しか居ないのです。
そう、かつて『先生』と呼ばれた貴方なら……」
耳元で聞こえる声によって、俺はゆっくりと目を開く。
目の前に広がるのは草原でも、青空でもない。
無機質なコンクリート製の灰色の天井だ。
確か……こういう時は……
「知らない天井だ……」
「んぶふっ!?」
何時ぞやモモイが言ってた言葉を思い出して、そう言葉を零すと、吹き出すような笑い声が聞こえる。
その方に顔を向けると、口を押えてベッドを叩きながら笑いを堪えようとしているモモイを筆頭としたゲーム開発部の面々がいる。
「お前ら、ここは?」
「先生おはようございます」
「ぐふふっ、やっぱり先生も言うんだ……ぐっ、あはははっ! あいだぁっ!?」
一向に笑いを止めないモモイの頭にミドリがゲンコツを落とす。
「ここは、シャーレの病室です。あの戦いから2日が経ちました」
「そうか、ありがとうな。ミドリ、あれから何があった?」
ミドリを筆頭としたゲーム開発部の話によると、あの後、傷口が開くように、横腹に穴を空けた俺は、気絶し、リオに担がれて、下層の医療ロボに応急手当を施してもらいながら、シャーレに連れてこられたそうだ。
気絶の原因は、弾丸による傷もあるが、緊張の糸が解けたことに加え、神秘を持たない人間が神秘が含まれた銃弾を喰らったことによる一種の中毒現象だそうだ。
命に別状がないと分かったが故に、そこまでの大事にはならなかったそうだ。
「そうか……まさか、この歳になって弾丸で気絶することになるなんてな」
「ちょっ、ちょっとまだ安静にして」
とりあえずいつもの服装に着替える為に、点滴を引き抜いて、ベッドから出ようとするとユズに止められる。
体に痛みはねぇし、大袈裟だろ。
「もう治ったし平気だろ」
「だ、だとしても……」
「くふふ、先生〜?生徒が困ってるんだし、素直に言うこと聞こう?」
ユズを説得しようとしていると、ドアが開き、聞き慣れた笑い声と共に4人分の新しい足音が聞こえる。
「ムツキさん!それに、便利屋の皆さんも」
「やっほ、久しぶり〜」
便利屋の奴らだ。
花束なんざ持って、俺ァ病人じゃねぇっての。
「あのなぁ……俺ァ、そこまで大怪我は負っちゃ──「えいっ♡」いっっでぇ!!!」
話してる最中にムツキが、俺の怪我した部分を指で突っつくと、鋭い激痛が走り、思わず声を上げる。
「ムツキ、止めな」
「全く、またかっこつけてるのでしょう?先生。素直に安静にしていなさい……ハルカありがとう」
ムツキの頭に軽くチョップを落とすカヨコと、俺を見てため息をつきながら、リンゴを剝き始めるアルに、その光景を見ながら、そそくさとアルから渡された花束を花瓶に生けるハルカ。
思わず声を出しちまったが、ここまで世話を焼かれるほど俺は、弱くはねぇってのに。
心配性な奴らだよ本当に……
それを嫌がってねぇ俺がいることに目を逸らしつつ、口を開く。
「あのなぁ……そりゃ出来たばっかの傷口触れられりゃぁ、誰だって痛むもんだ。とは言えこの程度、今まで何度もやってきたし、慣れっこだっての」
「アリス」
「モモイ、さっき話していたあれですね!分かりました!」
俺が、呆れた目で見られながらも、言い訳……いや、説得をしようとすると、モモイが短くアリスの名前を呼ぶ。
何で急にアリスの名前を?と、疑問に思っているとアリスが俺のベッドの上に乗っかり、長い袖をまくって拳を見せる。
「アリス、先生を殴ります!」
「安静にしてます」
アリスの馬鹿力で殴られるのは、話が違うだろ。
アルによって剥かれたリンゴを食べながら、ふと視線を横に向けると、ベッドの脇にある机の上に、いくつかのメモが置いてあった。
それらは、ここに居ない奴らからのメッセージだ。
俺は、それに手を伸ばして掴み、読み始める。
エンジニア部は、あの巨大ロボ……アバンギャルド君だったか、あれを回収して改造、新たな宇宙戦艦に向けての発明品にするべく、今も奮闘しているようだ。
それに、あの戦いで手に入ったあの『Divi:sion』達のロボットを分解、分析して新しいものを開発してるとのことだ。
ヴェリタスは、いつもと変わらずネットの海を渡り、仕事を続けているそうだ。
さっきのエンジニア部の解析にも協力をしているそうで、過去のキヴォトスをしれるかもしれないと浮足立っていた。
そして、前よりもヒマリが足を運ぶ頻度が増えたそうで、賑わっているとの事だった。
C&Cの奴らは、俺よりも早く退院したネルの復帰祝いのパーティを行ったそうで、写真付きでメッセージが書かれている。
その写真には、笑いながらネルに抱きつくアスナの姿と、顔を真っ赤にしながら、いつものように声を荒らげているネル。
エナジードリンクを片手に、難しそうな表情で顔を顰めているカリン。
そして……アカネによって口にエナジードリンクを流し込まれているトキの姿があった。
パワハラか?
どうやらトキは、会長の専属から、正式にC&Cのメンバーになったようで、今後は一緒に任務を行うことになったらしい……
そして、その件の会長だが……
セミナーからのメッセージには、二枚の写真が付けられていた。
写っているのは、ユウカとリオだ。
画角的に、恐らくノアがこっそり撮ったんだろうな。
そしてその写真の内容と言うと、一枚目が、会長室の床に、正座させられた涙目のリオに対して、ユウカがガミガミと説教している姿だった。
念の為言っておくが、リオが会長だ。会長相手でも、しっかりと駄目なものは駄目だと言えるユウカは、流石と言ったところだな。
リオも責任から逃げずに、しっかりと罰を受けに行ったんだ。本当に成長したと思う。
会った時点のアイツなら、そのまま置手紙でも残して、雲隠れしてたんじゃねぇか?
自分は相応しくないだのなんだのってな。
そんなリオは、話によると、スーツによる影響で、全身筋肉痛で動けない状態が、一日続いたらしい。
かなり無茶な動きをしてると思っていたが、一日で治る辺りは、流石キヴォトスの人間と言ったところだ。
そして二枚目には、正座しているリオに抱きついて泣いているユウカの写真だ。
最悪、リオと死別する未来があり得たからな。
元々の〈key〉の想定では、リオはあの場所で死ぬはずだったらしいし、それを加味すれば、ユウカの対応は、納得いくものだろう。
リオの奴、人望がないとか言ってたが……しっかり慕われてるじゃねぇか。
案外、人ってのは、自分が持ってるものに気付かないもんだ。
ただ、それを失う前に気づけるかどうか。
リオはその点で言えば、幸運だったな。
メッセージの最後の方には、ユウカから、退院したら説教しに行きますからね、自傷なんて二度としないでくださいと書いてあった。
俺も、リオと同じ目に遭いそうだ。
リオと言えば、ミレニアムの誇るもう一人の天才、ヒマリからもメッセージが届いていた。
あいつ個人ってよりかは、今所属してる特異現象捜査部として、ではあるが……
あの事件の後、エリドゥの保有権は、リオからヒマリへと没収され、現在は彼女の権限の下、閉鎖することになったそうだ。
プロトコル・ATRAHASIS……あれの影響下に曝されたあの都市が、現在安全だとは言い切れないそうで、その調査も含めて、破壊されたロボットなどを除いてそのままにしているそうだ。
今回の事件は、あくまでも『防ぐことが出来た』であって、『解決した』とはいえないからな。
『アトラ・ハシースの箱舟』……だったか。
謎が謎を呼ぶ、とか三文映画みてぇなことは、言いたかなかったが……
解決しきれていないことばっかだ。
俺の相棒に宿った神秘……あれもまだ、制御出来ちゃいねぇしな。
──貴方がそれを口にしますか!次元大介!その『紛争』に身を焦がされた貴方が……!
<key>の言葉を思い出す。
紛争に身を焦がされた……か。
俺の何を見て、そう口にしたのか。
心にしこりが残る。
しかし、そんな大事件があったというのに、普通の毎日は続いていく。
今思い返すと今回は、俺がやったことってのは少なかったと思う。
ただ、それでいいんだ。
俺のような大人は、あくまでも次の世代であるこいつらの背中を押す程度、その程度で良い。
俺はあくまでも選択肢を出したに過ぎねぇ、それを考え抜いて選んだこいつらが、掴み取った未来だ。
我ながら、『先生』ってのが板についてきたな?
「そういやお前らはどうしてたんだ?俺が居ない間の2日間は」
「えっとね、今は次回作……の勉強をしてるところかな」
「あの時言ってた、魔王が勇者になる物語のゲームか」
俺がそう言うとモモイ達は罰が悪そうな顔をして、モジモジし始める。
上手くいってねぇのか?
そんなのいつものことじゃねぇか。
と、思っていたがどうやら違うようだった。
「いやぁ……それなんだけどさ」
「一度みんなで一日中考えてたんですけど、発想が行き詰まってしまったので……ちゃぶ台をひっくり返して……お姉ちゃんが、新しいジャンルに挑戦したいと……」
「……モモイ、お前一度王道を作ってみろって言ったよな?」
「ま、前作ったんだからいいじゃん!」
一度で、覚えられるほどの天才だったらそもそも俺を呼ぶこともなかっただろと、思ったが、こいつらがこんな奴らだからこそ、今回の大冒険があったんだと、そう思う。
何というか、変わらねぇな、と呆れるというか安心するというべきか。
「はぁ……それで?今度はどんなゲームを作る気なんだ?」
「そうそう、未来の話をしていこうよ!次のゲームはね!────」
これから先、こいつらは、多くの壁にぶつかって、何度も挫折して、喧嘩して傷ついて、そんな長い旅路には、休憩だって必要だろう。
そうやって、彼女らは自分の生きている世界の広さを知っていく。
未来はいつだって、不確定。
いつか来る終わりの時まで、色褪せない青を残すために、今日というストーリーを紡いでいく。
でも、こいつらなら、きっとそんな目まぐるしい毎日を、楽しんで、先へ先へと歩みを進めていくだろう。
何故なら、こいつらには、最高の仲間であり、最強の友達がいつも隣に居るから。
こういう時に相応しい〆の言葉。
なんだか知ってるか?
こいつらの冒険は、まだまだ始まったばかり。
でも、ここから先は、また別のお話。
めでたしめでたし…………ってな。
人生は苦難の連続
様々な感情が重ねて極彩色を成す。
貴方はどんな未来を見せるのか、どうか背を向けず、目を背けず……
最後まで見ていてほしい。
次章 Vol.3-1 撃手はエデンの夢を見る
これにて、約12万7千文字の旅路であったミレニアム編完結でございます。
エピローグ伸ばそうと思ったのですが、これ以上は蛇足になりそうなので、短めに……
ミレニアム編における勇者は、アリスではなく、モモイなのかな、なんて思いながら書き続けて、色々寄り道しながら、ここまでたどり着けました。
皆様の暖かな応援のお陰でございます、この場をお借りして感謝申し上げます。
また、累計UAが30万を突破いたしました、ここまで見られる作品になるとは思わなんだ……
さて、色々我慢して温めていた日常回や、寄り道をしたのち……ブルアカ屈指の長丁場であるあの章に参るといたしましょう。
作者、実は、vol.3手を付けてないんですよね……書き初め何時になる事やら……
さて、長くなりましたが、最後に、ここすき、評価、感想お待ちしております。
第二回みんなで選ぶ好きな一文選手権も開催しておりますので、ご参加いただければなと思います!
今の話のタイトルが分かりにくいとの意見を得て変更するか否か
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例:殺し屋の矜持
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例:1-10
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例:1-10 殺し屋の矜持